【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第113話。武陵を攻略せんと西に進む劉備軍。率いるのは関羽。従うは張飛・陳到、軍師に龐統。兵数は一万五千を越えており、ようやっとそれなりの力を得られたというべきだろう。ただし、兵糧集積所を作成する必要があり、その兵糧を守る兵が必要なので、城攻めで使用できる兵は一万二千ほどだ。対する武陵太守、金旋。率いる兵は同じ一万五千ほどで目立った武将は居ないものの、城が背にあるので兵糧の事は考えずに済む。「あのような流賊に好き放題言われて、黙ってはおれんわ!」と戦意は高いが、龐統の根回しで自軍の武将である鞏志(きょうし)が寝返っているとは知らない。そうとも知らず、金旋は兵を率いて武陵より出撃。奇襲や伏兵の類などは考えず、戦力を集中して迎撃する策に出た。劉備軍にとってはここで鞏志の出番となるが、鞏志が寝返るべき状況は金旋が城内に撤退しようとしたらそれを遮る・・・つまり、劉備軍が有利な状況にならないと意味が無い。主君を裏切ることなど何とも思っていない鞏志だが、それでも金旋に比べれば現状は認識している。劉備軍の将兵の能力と自分達の能力を天秤にかけて、向こうのほうが数段勝っている。だから・・・と、合理的に思考してこその寝返りだ。当然、金旋には死んでもらうしその後の武陵は自分が太守になるわけだが、寝返りの報酬としてならそれなりだ。それは置いておくとして、両軍は対峙したものの、2週間ほど小競り合いが続いた。劉備軍は戦力の喪失を抑えようとし、金旋は劉備軍の兵糧が少なくなってきたところで全戦力を投入するべきだ、と考えていたので長期戦になる。金旋の狙いは的外れではなく、実際に劉備軍は兵糧が(呂布のおかげで)乏しかった。この膠着状態に、このままではジリ貧どころではないな、と判断した関羽は龐統と相談して多少の被害は已む無し、と全軍を持って攻撃をすることに決定。守りを固めて劉備軍の出方を窺っていた金旋も「ついに来るか」と、迎撃態勢に出る。ついでに鞏志は自分に従う兵士を率いて金旋軍に矢を射掛ける用意を整えている。城の東でにらみ合いを続けていた両軍、先鋒部隊に「かかれ!」と号令がかかり共に突撃を開始。これは意外にも金旋軍のほうが奮闘。戦闘開始から半刻と発たず劉備軍の先鋒部隊が崩され始めた。様子を見ていた関羽は舌打ちし、陳到の部隊を前面に押し出して金旋先鋒に充てることにした。しかし崩れすぎた自軍の先鋒部隊の壊乱に巻き込まれて、陳到部隊も思うように前進することが出来ない。この先鋒部隊、関羽らが制圧した零陵や長沙の兵士が混じっている。あまり質が良くない・・・というか質の良い兵士は大抵が制圧戦の時に討たれてしまって、残ったのが弱兵であった、という事になる。油断をしたつもりは無かったが、ここまであっさりと崩されるとは関羽ですら思わなかった。抑えに万事そつが無い陳到を配していたが、それでも持て余し気味だ。私自身が最初に行くべきだったか? と関羽は早くも後悔したが、奮闘を続ける金旋を「やるものだ」と素直に評価し、騎馬の馬腹を蹴り前線へと向かう。先鋒同士の衝突は金旋に有利に運んでいたが、陳到に続いて張飛・関羽の主力部隊が加わってからは一転、劣勢に陥っていた。金旋も中衛あたりまでを投入して渡り合おうとしたが、兵士の質が同等であっても率いる武将の能力が違う。関羽も張飛も陳到も、武将としての才覚は金旋を上回る。金旋の軍の中に、関羽らと同等に戦う武将がいるわけでもなく、先鋒の奮戦が嘘のように追い立てられていく。戦闘が開始されたのは朝、既に昼ごろだったが、これなら勝てると判断した龐統は内応の合図となる行動・・・簡単なもので、ほんの少しだけ軍勢を退かせて白旗を3回振る。城の中にいる鞏志はこれを見て完全に城門を閉ざすというシナリオだ。退かせる意味は、こうする事で鞏志の意思を明確にさせて発奮させようと言う事と、ここまで崩されると思わなかった部隊を後方に配置し、余力のある部隊で再度攻撃を仕掛けるというもの。このまま押し切って壊滅させても良い流れで鞏志もそのつもりだが、面倒なことこの上ない手段であっても、これから自軍に編成する金旋の将兵をなるだけ減らさないようにしたい。ごく短時間だが一度退いて、安心して下がろうとした金旋が城の中に入れず挟撃、という流れに持ち込めば金旋の兵の士気は確実に下がる。勝負どころなど疾うに過ぎ去った感じもするが、とにかく全軍に指示を、と思ったところで龐統の動きがはたと止まった。龐統だけではなく、関羽らも、金旋も、兵士も。皆が北を見てその動きが止まっていた。「あれ、は・・・そんな。斥候を出して周囲を警戒していたのに」全て消されたか、報告が来ていないだけなのか・・・いや、それどころではない。龐統が思考している最中、ゆっくり、ゆっくりと砂塵を上げることもなく近づいてくる軍団。劉備軍でもなければ、金旋軍でもない。当然、曹操や孫策の兵でもない。1万はいるだろう兵の装備はバラバラで、姿を見ても武陵各地に点在する少数民族、異民族としか思えない。暫く静観していた異民族の軍団の先頭にいる騎兵が、馬を駆けさせ全速力で金旋・劉備軍の真ん中へと突撃を開始。それが合図であったのか、後続の兵士も続き一斉に両軍へ向かって行く。軍勢の只中にいた関羽は、異民族部隊に対して兵を展開しようとしたが、これは間に合わなかった。既に両軍が入り乱れている中では、兵の再配置は難しい。一所に固まっていたら関羽ならば可能だっただろうが、混戦状態では流石につらいものがある。(奴らの目標はどちらだ!? 我々か金旋か、それとも・・・両方か!)関羽の予感は半ば外れ、半ば当たりである。殺到してきた異民族軍団は劉備軍の方を攻め始めた。この状況に、関羽は舌打ちして、即時「撤退! 殿軍は私と張飛が務めるっ! 皆、後方に退けーーー!!!」と号令を下し、兵を纏めようと動き始めた。金旋軍に攻撃を仕掛けている部隊もいたが、異民族部隊は劉備軍を目標としているようで積極的に打ちかかって来る。後方にいた龐統、そして金旋もこのままでは不味いことになる、とすぐに兵を纏めて軍勢そのものを下げて撤退を開始する。撤退、というのは、龐統(劉備軍)は東に敷いた陣、金旋は城へと下がるという意味合いだ。3つの軍勢が入り混じっての大混戦。関羽や張飛がいる劉備軍であれば互角以上に戦えただろうが、兵士のほうが保たない。何せ朝から全力で戦闘を続けていたのだ、両軍疲労が残っており、全力での戦闘継続は不可能な状態。そこに疲労が何も無い、しかも第3勢力が横合いから攻撃をしてきたのだ。今まで交戦していた軍の横腹を突いた異民族軍は易々と進んで行く。兵士が少ない劉備軍では善戦は出来ても支えきれず、次々に兵が討たれていく。殿として残った関羽・張飛が奮闘して何とか追撃を諦めさせたが、それでも被害が大きかった。金旋は自軍は積極的に狙われているわけではないと感づき、好機とばかりに殆どの兵を収容して城内へと撤退することに成功。(鞏志も動転してあっさりと城門を開いた)異民族軍勢は城攻めをするつもりは無いらしく、金旋そっちのけで劉備軍を追い続けるが深追いは厳禁と思ったか、ある程度の所で追撃を止めてさっと退いていった。この日はそれだけで終わり、損害を受けた劉備軍は東へと後退。金旋も異民族の動きを読めず篭城の動きに入った異民族が来るとは思っていなかった龐統だが、少し時間を置いて攻めれば大丈夫・・・と、密偵を放ち去って行った異民族の動向を探らせた。何日か経過して帰還してきた密偵の報告では「異民族軍勢は武陵の北数理にて野営を行っている」というのだ。(おかしい・・・何かを得るためだというのなら金旋を狙えばいいはず。私たちが邪魔だから追い払った、のなら・・・でも、武陵を攻撃しないのは一体・・・)うーん、と幕舎で物思いに耽る龐統。食料・物資を狙うのなら自分達より金旋を襲ったほうが効率は良い。しかし、異民族は金旋を攻めない。城攻めを不得手としているから? それを理解しているなら野営をする必要なんて無く、すぐに帰還するだろう。金旋を攻めるつもりが無いのに、すぐ北に布陣して撤退もしない。もしかして、本当に自分達だけを狙っているのだろうか。それなら積極的に攻撃を仕掛けてきても可笑しくない。けれど、追撃もそこそこに引き上げて・・・。じぃっと考えて一つの考えが頭の中に残り、龐統は顔を上げる。もしかして、彼らは武陵を攻める勢力、現状では私達を目標とみなして攻撃しているのか、と。しかし、異民族が何故我々だけを攻撃するのかが解らない。劉備軍を攻めることで何かを得られるわけでもないのに。またしても彼女は考え込み、暫くして「明日、もう一度攻めよう」と思った。小規模の兵を出して、その小規模にまで反応してきたのなら・・・これは誰かの差し金だ。関羽に事情を話して了解を得た後、龐統は本当に数百程度の兵を武陵へと繰り出した。勿論、本気で攻めさせるつもりは無く相手の出方・反応を伺って見たのである。これに対して金旋は防御を固めて討って出ることはせず、異民族部隊も特に反応は見せなかった。繰り出された兵も特に何を為す事なくすっと退き、この日は特に何も起こらずに終了した。幕舎にて兵の報告を聞いた龐統、「この程度の数では釣られないのでしゅね」と言葉を噛みつつ、さて困った・・・と頭を抱えた。兵を下がらせ、同じ幕舎で今後どうするかの協議をしていた関羽と(役には立たないが)張飛に向き合い「どうします?」と対応を尋ねた。「どうするってそんなの決まってるのだ! ガーって攻めてワーって蹴散らしてそれで勝利なのだ!」「そんなに簡単にいけば良いのだがな。」義妹の直進上等な思考に苦笑いしつつ、関羽は腕組みをする。「異民族と金旋が共闘をすることは・・・。根拠は無いが可能性としては少ないと思う。が、武陵を攻めて挟み撃ちにあう可能性は高い、か。」「それに加えて食料の備蓄が心許ない、です。」「そうだな。速攻戦で攻め落として内政重視に、という方針の足元を掬われた。軍師殿の読みが最後に外れたかな?」「あ、あわわ・・・」「冗談だ。しかし困った状況に変わりは無い。どうしたらいいだろうか」「えー? 鈴々がドワーっと突撃してアビバァってやっつけたらそれで解決なのだ」「お前がいけても兵士達がついていけないだろう? あまり被害が大きいと「これから」が辛くなる」出来る限り損害を抑えないといけないんだ、と関羽は張飛を諭すように言った。「兵糧は少なく、一方を攻めれば一方から攻撃される。」「なら鈴々が異民族に突撃するのだ!」「それは無理だな。金旋が篭城を決め込んで、攻めている間に異民族から攻撃をされるとなれば、どうやっても戦力不足だ。」「はい・・・こうなると、鞏志さんの内応も意味が無いですからね」「撤退も止むなしか。防衛部隊として残してきた華雄や、食料事情も厳しいが呂布の投入も考え・・・」言いかけたところで、伝令兵が幕舎の中に「報告!」と飛び込んできた。「何事だ?」「は、武陵の南二十里(9km弱)に、孫家の軍勢が!」「何・・・? 解った、ご苦労。」関羽は伝令兵に労いの言葉をかけて下がらせる。「二十里の距離を、伝令兵がすぐに移動できるわけがない。何人もの伝令を伝ってここまで届いたのだから、今はもっと近づいているな。」「あわわ、たい、大変なことになりましたぁ・・・」「でも、異民族が北にいるのだ! ・・・あ、孫家に手伝わせるのは?」「無理だ。率いておられるのは恐らく馬騰殿。あの御仁は、お 前 の せいで我々を嫌っておられるからな」「? なんで鈴々のせいなのだ?」こいつ、やはり理解していなかったか。と関羽をどっと疲れた表情を見せて傍らの龐統へと視線を移す。「どうする、雛里?」「うぅん・・・孫家の方々に異民族を抑えてもらう、のは駄目ですね。同盟と言っても殆ど敵対に近い感じです。」「その間に鈴々達が攻めちゃ駄目なのかー?」「駄目ですよ・・・」「協力して落としましょう、も不可能だ。向こうの物になる。金旋が孫家・異民族と同時に渡り合うことが出来るとも思えん」「異民族が孫家に仕掛ける、というのも有り得ますし・・・我々は傍観に徹しましょう。孫家の方々が協力を要請してきても「我々は異民族の軍勢に襲われ被害が大きい。手助けが出来そうにない」と」これは嘘ではなく、自分達のこれからの軍事行動を考えれば被害を出したくない、少なくしたいのは本音だ。「そうだな」「むしろ、彼らが異民族と共倒れになってくれるくらいが望ましいです」「逸れは流石に言いすぎだろうに・・・ともかく、数日ほど様子を見よう」「はぁ・・・」気のない返事をする龐統だったが、彼女の共倒れして欲しいという願いが届くことは無く、孫家というか馬騰軍勢は・・・「報告いたします! 孫家の軍勢、武陵へと入城! 城壁に「孫」旗が立てられています!」『・・・え?』関羽らが思わぬほどにあっさり、馬騰は平和的に武陵へと入城。が、何故馬騰らがあっさりと入城できたのか。「ここまで上手く進むと、後が怖い気がする」「むしろ、してやったり・・・ではありませんか、高順さんにとっては。」「そりゃ、俺はね。けど、騙された金旋殿が可哀想っちゃ可哀想だ」「入城をする為に騙しはしましたが、その後は隊長としても約束は守るのでしょう。ならばそれで良いではありませんか。」「そんなもんかなぁ」「そんなもんだぜ、大将。あんま深く考えなさんな。ほれ、しゃきっとしてなよ」「周倉の言う通り、背筋を伸ばせ。お前の鎧姿は周りを威圧するのに一役買っているんだ。体の調子が思わしくないのは解るが、もう少しだけ我慢するんだな」「へーい・・・」周りに愚痴られている高順。彼は虹黒に乗り、先頭を行く馬騰に続いて武陵市街を進む。その周りは、蹋頓・楽進・周倉・沙摩柯。趙雲と李典は高順隊の、馬岱は馬騰軍の指揮の為に武陵城外で待機して「劉備軍」が近づいてこないように警戒している。自分達はあくまで馬騰の護衛と言う名目で城に入ったわけだが、実際の目的はそこではない。交渉などは馬騰が行い、高順達は後始末をしなければならない。この後始末も、交渉の一つの材料となるのだ。交渉が破綻するか成功するかどうかは自分達にかかっているので油断は出来ないが、それでも自分が表立って動くわけではないから・・・と、高順は幾分気楽であった。馬騰は金旋に対し「会談を望みたい。こちらから出向くので、入城を許可していただきたい」と使者を送った。金旋は「漢王朝に逆らいつつも、義臣として名高い馬騰殿が何故孫家に?」と思いつつも入城を許可。馬騰はほんの数十人ほどの護衛・・・そこには高順らも含まれる・・・を伴い、入場して行ったのだ。少なくとも劉備よりは信頼できる、という事実が許可という形になったのだと思われる。これについて、鞏志が反対して「あのような奴らを入れるのは災いとなりましょう。奴らを入城させるくらいなら大義の御旗を立てる劉公叔(皇帝の血縁である劉備の事)の軍を入れるべきです」と主張。金旋はこの意見に「劉備は漢王朝と陛下を見捨てた流賊。それに何の大義があるか!」と一喝して黙らせてから、自分から馬騰を迎えに行く。彼は馬騰に敬意を表わしたのか、馬騰と同じく僅かな護衛を連れて歩いて行く。しかし、不安もある。彼の祖先の金日磾(きんじつてい)は馬騰の祖先である馬何羅(ばから)を捕らえ、最終的に馬何羅は処刑されている。先祖の因縁を晴らすつもりかも、と思ってしまったが、その懸念は不要のものであった。会談の場にて金旋と馬騰及び高順達も全員下馬。拱手しあってから席に着く。他の者は立ったまま会談に臨むが・・・・高順だけが異様な雰囲気で、何も知らない金旋の兵士達が少々怯えている。まあ、当然だな。と趙雲はこみ上げてくる笑いを無理やりかみ殺して、金旋の兵と高順とを順に見た。こんな面妖な鎧兜に、巨大な槍と鉄棒を持って無言でじっと立っているのだ。気の弱い者や子供なら卒倒しそうな外見である。中身というかこれを纏っている人間を知ったらあまりの落差に呆然とするだろうか、と思うと可笑しくて仕方が無い。そんな事を思いながらも、馬騰と金旋の話は続いている。ここで先ほどの先祖の話が出たが、馬騰は先祖の事は別に気にしておらず、そんな事で遠慮をしないで欲しい、と笑っていた。「む。しかし、それでは孫家に屈する形になるのでは・・・」「同盟のようなものとお考えください。」「同盟ですと?」「はい。ここは異民族からも攻められ、劉備からも攻められ・・・ここでの流れ如何では孫家まで敵に回します。貴方はそれで良くとも民はそう思わないでしょう。どこかの陣営に属する、という何らかの意思を表明しなければ常に敵に囲まれたままです」「む・・・ですが」「漢王朝の事を気にしていらっしゃるのですね? 私にとっても判断の難しい話ではありますが・・・曹操は積極的に簒奪を望みはしないでしょう。禅譲、という形ならばともかく。孫策も同様。忠義の心があるかどうかは別として、漢王朝を潰すような事はしないでしょう」馬騰の言葉に、金旋は「むぅ」と唸った。曹操は漢王朝の政を専断しているし、王朝内でも自分に敵対する者は排除する。しかし、漢王朝をどうでも良いとは思っていても潰す気は無い。孫策も(思惑はどうあれ)朝廷に貢物を幾度も献上して、その忠心を認めるとして呉公を任じられているのだ。「ここで劉備に屈した、よりも孫家と戦って防戦の末に民の為に降伏した・・・であれば、多少の面目は立ちましょう。」「ですが、先ほどの話では孫家と劉備が同盟をしていると・・・?」「ええ。いずれ壊れる同盟ですね。それともう2つ。私は劉備が嫌いなのです。そして、劉備は帝位を狙っています」「何と!?」帝位、と聞いて金旋は思わず立ち上がった。「孫家を頼る途中で劉備の領地に入りましてね。会いたいと言うので行ってみれば・・・あれの部下の張飛、と言いましたか。それが「劉備が皇帝になって統一すればよい」と言いましてね。」「へ、陛下の信頼を裏切るばかりか、て、て、帝位まで欲するとは・・・!」「(にやり)ここを獲った後、劉備は益州を狙って動くでしょう。我々も同じく益州に進みますが、劉備の帝位僭称は避けたいのですよ。そこで、金旋殿にご協力を、と。それが此度の会談の内容です」「話は解り申した。しかし、孫家に曹操と劉備を相手に出来るだけの力があるかどうか・・・」「ふふ。劉備はともかくも、異民族のほうが問題と仰りたいのですね」金旋にとって孫家と同盟、というのは悪くない話である。曹操に派遣されて武陵の太守となった金旋だが、曹操に忠誠を心底から誓っているわけでもない。自分の民と漢王朝が守られさえすればそれで・・・くらいは思っているが。なので、劉備の行いは認められない。それに、孫家や劉備に攻められても曹操は援兵を送ってはくれない。赤壁で戦闘をしているから、とまでは知らない金旋だがここを守ってくれるのなら孫家でも構わない、くらいの柔軟な思考はできる。問題は、その力量があるかどうか。それを見せて欲しいと言うことなのだ。これは馬騰(というか高順)には、やりやすい条件であった。「ならばあの異民族を撤退させてご覧に入れましょう」「撤退? 打ち破るのではなく?」「ええ。打ち破るまでもありません。その前に・・・高順くん」馬騰は後ろに控えていた高順を呼びつけ、高順は一歩前に出て拱手する。頑強かつ重厚な鎧兜に身を固め、顔の露出もないので性別が解りづらかったらしい金旋は「・・・彼? で良いのですかな?」と確認をする。「ええ。れっきとした男性ですよ。私の娘婿でして。名声はありませんが実力はあります。彼は精強な異民族を自身の将兵として使っています。愛人にも異民族の女性がおりますし・・・何より、高順くんが異民族の人々に好かれやすい性質でしてね」愛人のことまで話す必要は無いのでは? とその場に居た人々誰もが考えたが、口には出さない。(口答えすると怖いしここで金旋、何かを思い出そうと目を閉じており、暫くしてから「おお」と手を打った。「どこかで聞いた名と思っていたら・・・反董卓連合に属していた孫策・曹操を退かせた高順では?」高順のみならず、その時に高順の元で働いていた全員が反応を示す。その名を出されると呂布や、今はここにいない干禁、張遼の事を思い出すからだ。高順は更に華雄や、華雄配下で戦死した3人(胡軫・樊稠・李粛)の事を思い出し、やるせない気持ちになる。「あら、ご存知でしたか?」「ええ。奇襲とは言え、あの2人の軍勢を退かせた活躍。なるほど、それならば安心して任せられそうですな」「では、高順くんに任せて頂けますね?」「勿論ですとも。それと、その時には我が兵も同行させていただいて成功するかどうかを拝見させていただきたいのですが・・・」「良いでしょう。ああ、他に・・・」馬騰・金旋両者の相談は続き結果的に、先の条件は確定。馬騰率いる孫家軍は城外にて待機。これは金旋の負担を出来るだけ無くし、かつ「借りは作らない」という意思表示。加えて劉備軍が攻めてきても自分達が矢面に立って戦うから安心して良いよ・・・という事でもあった。翌日、高順は沙摩柯・蹋頓・周倉に李典と1000ほどの兵。それと監視役として付けられた数人ほどの金旋の部下と共に北へ向かっていた。李典は今回に限って闞沢の代わりに物資輸送を主とした輜重任務に就いている。高順隊が結成された当初は彼女や干禁が担当していたので手馴れたものである。同行している輜重隊の所持している物資は大量の食料であり、これを餌に交渉するのだろうな・・・と派遣された金旋の部下は考えていたのだが・・・彼ら、高順の傍でずっと怯えている。周りを異民族の将兵で固められている事を怖がっており、なにより高順の親衛隊が周倉以下500ほどの(元)山賊兵士だ。装備は整っていても柄が悪いというか外見的に怖いというか。裴元紹などスキンヘッドのひげ面で目つきも悪い。異民族も体のあちこちに刺青があって、下手すると犯罪者集団にしか見えないのである。ぶっちゃけると、異民族の兵も含め滅茶苦茶怖い連中である。高順に「大丈夫なんですか!?」と幾度も泣きついていたが、それも無理は無いと言えた。「大丈夫ですよ。確かに外見は怖いですし言葉遣いも悪いですが、中々に気の良い連中ですよ」「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね・・・」「何かあったら責任取りますよ。むしろ、何も起こらないと思いますが」「ならば良いのですけど・・・」高順自身が例の鎧兜なので、最初は高順本人も怖がられていたものだ。実際に話してみると礼儀作法はともかくも優しい青年であると理解してくれたのか、高順に対して怖がるということは無かった。高順は彼らを安堵させるが、彼自身は安堵していない。劉備軍の横槍の可能性があるからだ。(劉備ならやりかねんが、関羽なら問題ないだろう)とは思っていたが、安心はしていない。とはいえ結局妨害などは無かったので、危惧しすぎだったとも言う。よくよく考えればこの世界の関羽は、そういうことが出来ないだろうなぁ、とすぐに気付く事だ。そして、結果だけを言えば、高順と異民族の交渉はあっさりすぎるほどあっさりと終わった。到着してからすぐに宴会に突入→金旋軍から派遣された人々が「え? え? 何事!?」と慌てている間に酒を呑まされ続けて轟沈→以下略。実を言うと、高順と異民族の間には最初からある約束事があった。簡単に要約すると「食料あげるから、金旋軍と戦い始めたら劉備軍襲ってー。」「うん、やるやるー」だ。この異民族、というより少数民族と言いなおすべきだが、武陵一帯に存在する武陵蛮・・・つまり、沙摩柯の出身部族だ。小勢力として乱立していた少数民族が集まったので規模が大きくなったのだが、規模が大きくなったせいで食料の供給が追いつかずに、村々を襲って食料の略奪を繰り返してもいる。そんな中で、沙摩柯を通じて接触を図ったのが交州に入った頃の高順である。その縁で沙摩柯が再度接触を図り、色々な条件と引き換えに劉備軍の襲撃を行ってもらった、のが真相というわけだ。沙摩柯は武陵蛮の高位の一族で、だからこそ接触も上手く行きその上で「報酬の後出し」でも動いてくれたのだから高順としてはありがたい話だ。金旋の監視役が轟沈させられたのも、話を聞かれない為である。彼らが酔い潰れ眠ったのを確認してから高順は部族の首長に「動いてくださって感謝しますよ」と拱手した。「いやいや。ところで、約束は・・・」「既に用意しておりますよ。こちらが提示した条件の食料、お受け取りください。李典、頼む」ほいなー、と李典は何千樽という夥しい食料を輜重隊に運ばせる。それを見ながら「益州で李典と麗羽さんに買い付けてもらった食料がこういう役の立ち方をするなんてなー」と高順は考えている。当初の狙いは別にあったが、こんなにあっても食べきれないし、腐らせるよりはよほどマシかなぁ・・・ということで、沙摩柯の策に乗っかったのである。「・・・多くありませぬか?」「ええ。そちらは劉備軍と矛を交えて少なからず被害が出た筈。それで色を付けさせて頂きました。迷惑でしたかね?」「そのような事はありません。ありがたく受け取らせていただきます。・・・それと、もう1つの約束のほうは・・・?」「そちらもご心配なく。何かあれば交趾までお越しください」「おお、感謝致します」もう1つの約束と言うのは、武陵蛮の受け入れ先が欲しいというものだった。戦闘員に比べて非戦闘員が多いのは普通だが、武陵蛮はその比率が崩れつつある。老人や戦傷で戦えない若者、子供ばかりが増えてきており、どこかの土地に定住と言うこともしにくい立場上、自分達を受け入れてくれそうな土地を探していた所で、高順からの依頼が来た。そこで、依頼と引き換えに食料と受け入れ先を高順に求めて「OK!」と割とあっさり条件を飲んでもらっている。高順にしても、自勢力の労働力・生産力が増えるのは悪い話ではないし、異民族と言う理由で行き場所が無いのも不憫な事だという思考がある。略奪云々が許されることはないが、その分働いてもらって農民に返還してもらうとしよう。翌日、武陵蛮は本当に南へと去って行き、何が起こったのか判らない金旋の兵は「ぽかーん」としていた。「あの・・・何があったんです?」「何って。彼ら、武陵から去って他の土地に移るって。昨日、そういう話で纏まったじゃないですか?」「え? そ、そうなんですか!? 我々は呑まされ過ぎて潰されてしまいまして・・・」「そうなんですよ。ほら、ここに誓約書が」高順はそう言って誓約書? を見せる。「し、信用できるのでしょうか?」「交州へ向かうって言ってましたからねえ。向こうの人には迷惑かかるかもしれませんけどね。武陵を通り過ぎるでしょうから急いで帰還しないと」実際彼らが交州に辿り着いた時、書簡で事前に知らされていた劉巴も「・・・まったく、あのポコ○ン太守・・・!」と、無理やり怒りを押し殺しつつ額に青筋を立てていたとか。無理も無い。非戦闘員を含めれば数万の異民族が交州へ来たのだ。食料・資金の支出。住居などの割り振り等、ただでさえ忙しいのにさらに上乗せ。劉巴でなくても怒るだろう。劉巴は「次帰ってきたら何日仕事漬けにしてやろうかぁぁぁぁ」と怨念を噴出させながら政務をこなす羽目になる。そんなこんなで、僅か1日にして(出来レースで)異民族の脅威を無くしてしまった高順。報告を受けた金旋は「そんな馬鹿な!?」と半信半疑であったが、城の直ぐ近くを武陵蛮が通り過ぎて行き、南へと向かっていくのを自分の目で見ることになる。劉備軍も馬騰が入城、城外を固めている状態で攻めることは出来ずに、諦めて撤退するより無かった。その後も鞏志が幾度も劉備軍への降伏を口にしたせいで疑われ、謀反の事実が発覚する前に・・・と劉備の元へと出奔したようだが、どうでも良い話なので割愛。何にせよ、金旋は孫家ならば武陵の民を守ってくれるだろうと判断して降伏するも、そのまま金旋が太守の任を続ける事になる。馬騰と馬岱は、劉備が同盟を破棄して攻め込んできても直ぐに救援が出来るように、と武陵と桂陽の中間点あたりの砦に駐在し狼煙台の建設などを行い始める。劉備との同盟は切れるだろう、その時に何があっても派兵できるように。馬騰は孫策や周瑜同様、劉備は絶対に牙を剥いてくると見越していた。~~~同時期、赤壁~~~曹操軍と孫策軍。両軍の前線同士は近く、こちらもこちらで睨み合いが続いていた。曹操に続いて孫策も到着し、ついに決着が、と誰もが思ったが両者思惑、あるいは事情の違いから対陣が僅かに長引くこととなった。曹操のほうは、軍中に疫病が流行っている為。孫策は東南の風が吹くのを待った為。曹操は自身が出向いた後は短期決戦を、と考えていたが疫病の為に動くに動けない。なお、夏侯淵も具合を悪くしたが、夏侯惇のほうはピンピンしていたりする。これを見た曹操、「馬鹿は風邪を引かないと言うけど。あの子、風邪を引いたこと自体気がついてないのかしらね・・・」と疑問顔。そんな事を思う曹操本人の調子が思わしくなく、仕方無しに自身の艦を後方へ下げている。孫家に対しての前衛は元気な者達で固めてあるが、中衛辺りも既に疫病に罹患した兵士が多くこれではまともな戦いにならない。曹操が考えるべきは、いつ退くかだ。出てきた以上は孫家に対して打撃を与えておきたいが、そうも言っていられないほど状態が悪化している。兵を満載しているはずの船舶が、病人を満載にしている、というのは笑い話にすらならないこれだけの「おおいくさ」を仕掛けておいて、戦うまでも無く疫病に負けてしまったのが腹立たしいが疫病はどうしようもない。何とか退く口実が欲しいのだけど・・・と甲板に出てきた曹操は自身の船団を見つつ悩む。この時、東南の風が吹き始めている事に、彼女は気付いていなかった。気付いていたのはただ一人、従軍していた郭嘉のみ。彼女は曹操と同じ艦に乗っていたが「頃合か」と甲板へと向かった。撤退を決断させる為に、だ。同じ頃、孫策側では。「雪蓮、そろそろだぞ」「解ってるわよ。」周瑜の言葉に頷く孫策。孫策が着陣、艦に乗ってからは周瑜も指揮艦に同乗していた。こちらも曹操と同じく、甲板で敵船団を見ている。ただし、場所は曹操と違って中衛。後方に下がっておらず、場合によっては自艦を進めて前線そのものを押し上げる心積りだ。「しかしな、雪蓮」「んー?」「戦のことはともかくも、劉備・・・私は放って置いても良いと思っていたが」「あによぅ、肉の欠片が歯に挟まったようなものの言い方ねー」「肉・・・いや、良い。では率直に言おうか。奴らはこの戦の勝利という一番の旨味・・・もっと言えば自分が勝利者だ、という名声を狙っている。そこを放置するのは良いのか?」「良いんじゃない?」「・・・何? お前は構わないと言うのか?」「あんたが言ってたじゃない、あいつらがどう動こうとさして問題じゃないって。名声とか、今の私達と曹操には関係ないし?それにさぁ、戦うまでも無く撤退したいと思ってるんじゃないかしら、曹操の奴」「ほう、根拠は?」「向こうから攻めてきたのに静かなもんじゃない。疫病流行って攻めたくても攻められない。退こうにも、何も戦果挙げてない。和睦しようにも、和睦できる条件も揃ってない」一当てして軍を返す、くらい出来ないとカッコ悪いだろうしねぇ、と孫策は面白くなさそうだ。「ふむ。つまり、両者気が乗らない戦で劉備が動いても構わない、か?」「そこまでは言わないわよ、曹操も私も気合入れて軍を動かしたんだからやる気が無いわけじゃない。だけど、何かこう・・・ここが一番の決戦場だ、みたいな感じがしないのよね」「他に勝敗をつけるべき場所がある、と?」「んー・・・何だか釈然としない感覚だけど私の勘がそう言ってるのよね。あ、ここで死ぬなら曹操もそこまでって事だから、そこいらはめーりんの好きにしていいのよー♪」「・・・まあ、一時的とはいえ指揮権を預けられたのだ。それこそ、戦果を上げなくては立つ瀬が無いさ。それに」風が、吹く。と周瑜は腰に右手をあて曹操船団を見据えた。彼女らの座乗艦の脇を、曹操水軍の軍船・・・黄蓋達が拿捕した全隻が通り抜け、曹操水軍へと向かっていく。縦一列であったこの軍船は鎖で繋がれ、最前線に出ると同時に鎖の限界まで横列に展開を始めた。更に、この船には動かす為だけの必要最低限の人員しか乗っていない。積載されているのは油や、油をしみ込ませた藁(わら)。同じように「燃えやすく」細工された船は多数あり、曹操船団の前線部へと向かう。そして、鎖で繋がれた船の後方に孫策軍の多数の先登(せんとう、突撃用の艇)、艨衝(もうしょう)が続き、武将を乗せた艦も突撃の合図を待ちわびている。その先には突撃の機を見ている劉備軍の軍船が見えるが、どうでも良い。邪魔立てするのであれば、曹操船団と共に藻屑となってもらうだけだ、と気にも留めない。孫策の意向が決まった以上は劉備の扱いなどそれで良い、と周瑜も本気になった。~~~楽屋裏~~~今気付いたが・・・張承って張昭の長男じゃね? あいつです(挨拶これが働き口探してるって書いたことに今気付いたが時既に遅し。父親に推挙してもらえなかったと思ってくださいごめんなさい;;蛇足ですが、武陵蛮はこのまま南中の民のように漢人化すると思いますよー。さて、gdgdな南荊州争奪戦は終了。中身もですが気にしたら負け。史実や演義とは違ってイーブンです多分。次回は赤壁終了のお知らせと、高順達が交州行って南中入って成都周辺地域に対して攻撃開始。でもって征西軍到着、劉備が来る・・・な感じかなぁ。あともう1つ、これはお詫びですが・・・今年中に終われるかどうか解らなくなってきました(あ、これTUGUNAIコールされそうだな・・・そんな事を思うあいつは多分M(ぁ*誤字修正。内容を無いようとか恥ずかしすぎる・・・