【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第83話丹陽郡。街の外に陣があり、その陣には孫旗と、そして「陸」と書かれた旗がある。それが示すのは、山越討伐の為に派遣された主将が陸遜という事である。周喩の命により追加で派遣されてきた高順は、4千の兵と共に着陣。陸遜のいる陣幕へと向かった。「お邪魔しますよ」「あ~。お待ちしてましたよぅ~」陣幕の中にいたのは数人の兵と、床机に座った陸遜がいるのみであった。その陸遜は待っていたとばかりに立ち上がり、高順を出迎える。「孫策殿と周喩殿の命令で来ました。これが書簡です」高順は、懐から書簡を取り出して陸遜に手渡す。この書簡には、高順を派遣する事と、孫策の命令やら何やらが書かれている。「あらあら~。」と言いつつ、陸遜はその書簡に目を通した。書簡によれば高順を山越討伐に参加させ、先に派遣されていた自分や賀斉が検分役も務めるように、と書いてあった。そろそろ高順に箔をつけてやりたい、という事は周喩から何度か聞かされていたし、陸遜からしても高順が文官に全く評価されないのが不思議でしょうがなかった。高順が凄まじい怒りを見せたあの宴席にも陸遜は同席していて、やっぱりしっくりしてないですねえ、と嘆息した事はある。外様は外様かもしれないが・・・高順は、孫策や孫権が自ら乞うて招いたという人だ。皆、というか高順自身その事実を忘れているのかもしれない。あらかた読み終えた陸遜は「なるほどなるほど~」と言って高順へと視線を戻した。「それじゃ、簡単に経緯を説明しますね~。あ、座ってくださいね」「あ、どうも。それじゃ、お願いします。」高順が立ちっぱなしであったことに気付いて、席を勧めてから陸遜は事情の説明を始めた。「ええとですねぇ、事の発端は・・・ずっと遡って行くと袁術さんの統治下の頃の話になってしまうのですよ~」「はぁ。」陸遜は独特の間延びした話しかたで説明をする。ここだけ、というわけではないのだが、この地には山越と言う異民族が居住する土地柄であった。江南の地に跋扈する彼らは自分達を抑圧した漢王朝に逆らっている。袁術は孫策が自分の配下であったときに、その山越討伐を命じているが戦力が上手く集まらなかった事もあって結果は芳しくなかった。その上に袁術の政治に不満を持った人々が合流したりして、威勢を増していたのだから手のうちようがない。異民族というよりは不服住民と言うほうが正しいのかもしれない。袁術の政治に不満がある、ということは豪族ではなく搾取される側の一般市民だ。その数は数万とも十数万とも言われ、正確な数は把握できていない。丹陽だけではなく会稽(かいけい)郡や交州にも多いと言うし、武凌という場所では武凌蛮という蛮族がいる。高順の仲間である沙摩柯が武凌蛮の出で、その王の一族に連なるようだがこれは仲間の誰も知らない話だ。話を戻すが、ここ丹陽に根を張る山越の長の名は尤突(ゆうとつ)と言った。「その尤突さん、此処のところ大人しかったのですけどぉ。最近になってまた暴れ始めて~。」「袁術のときは大人しかったけど、孫策殿の代になって暴れだした?」「そうですねぇ。そうなります~。」高順は「んー・・・」と少し考えた。「袁術の支配に抵抗してたんですよね? 孫策殿に代わったのを知らないのでしょうかね」「知ってると思いますよぉ。」「そりゃ、あれだけ反袁術を声高に宣言して攻め入ってるんですからねぇ・・・そうなると。」「知っていて反抗をすると言うのは治世に期待していないか、孫策様に恨みがあるのか。それとも誰かに焚き付けられたか」「可能性としては2番目か3番目っぽいですかね。1番目の線は・・・どうなのかな。」「あ、あと向こうの兵数自体は少ないですよぅ? こちらは1万と、高順さんの率いてきた4千。山越は2万いるかいないか」「今は街の外に陣を張っていますが、街の守備隊を合わせれば・・・ふむ、勝ち目は無いですねぇ。こっちは耐えてるだけで良いのですから」「それにぃ、2万と言うのは総合計じゃないかな~という結論も出てまして。攻めて来たのはどう見ても5千程度なんですよぉ。捕虜の方々に聞いても教えてもらえませんでしたけどぉ。」「5千? て事は残りの1万5千は・・・?」「後続として使うのか、どこかへの奇襲に使うのか。その辺りは読めないのですよね~。」「それでも攻めてくるというのは、恨みでしょうかねぇ。或いは攻めないといけない理由でもあるのか。」「ほえ?」「いえね、俺の部下に潘臨(はんりん)っていうのがいましてね。その人、山越出身なんですが・・・今回の騒動でどう思う?って聞いたら、もしかして食料じゃないか? って」「食料・・・ああ、なるほどぉ。」いつもはホンワカしている陸遜だが、全て言う前に気づく辺りやはり頭が良いなぁ、と高順は感心する。このぽわぽわの喋り方はもう少しどうして欲しいけれど・・・。「山越がどこに定住しているかは知りませんが、住んでいた場所だって瘦せた土地だったはずです。」「そこに袁術さんの課した重税に耐え切れずに行き場所を失った人々が行き着いて、養わないといけない人が急に増えた。そのせいで武力行使して食料を強奪せざるを得なくなった、ですねぇ?」「こちらの見立てではそうなります。袁術にではなく、それ以上に手ごわい孫策殿にも敵対する・・・追い詰められている、って事ですか」「ふむぅ・・・となると、捕虜に情報を聞き出してぇ・・・」「捕虜がいるなら話は早いですね。相手の本拠地を割り出せるかな?」「そこで割り出せたとして・・・高順さんはどうなさるんですかぁ?」この時ばかりは、陸遜の目が鋭くなる。相手の真意を探り出すかのような、そんな目だ。ある程度好きにさせてやるように、と書簡に書かれていたが、いきなり虐殺をするようであれば止めなくてはいけないだろう。彼の性格を考えれば無い、と思いたいところだが何らかの拍子でタガが外れる事だってある。あの宴席のように・・・。「どうって。降伏してくださいね、と交渉をしたいですけど。」「交渉ですか~?」「ええ。その為に準備だってしてきましたからねぇ。」陸遜は高順と、その部下の一人である潘臨を伴って捕虜を纏めてある多数の陣幕へと向かった。自分達の話は中々聞かないが、同じ山越出身の潘臨なら、と思ったし、もしかしたら潘臨の知り合いがいるかも知れない。そう思って1つ目の陣幕を覗いた所・・・「いた。」『えっ』・・・あっさり見つかったのである。その知り合いの名は黄乱という。「よう、黄乱。久々だなー。」「・・・お前、潘臨? 潘臨なのか?」陸遜の計らいで、黄乱は戒めを一時的に解かれている。この黄乱、女性なのだが半裸で、しかも顔や体にペイントが施してある。異民族だから、というよりは呪い(まじない)師のような、そんな風情だ。その黄乱は久々に出会った友人を信じられないものを見るような目で見ていた。「・・・山越の元首領の1人たるお前が、官軍とは。最低限の誇りも失ったか?」「耳に痛い言葉だなオイ。でも、官軍になった覚えは無いね。」「何?」「ある人の・・・なんつーの、私設軍? その古参なだけさぁ。仕えたのも金に釣られてだけどなぁ。」「ほぅ・・・」ならばまだマシか、と黄乱は頷く。「して? 何故にお前が孫家の軍勢に身を置く。」「さっき言った人が孫家に仕えてるからだよ。けっこーいい人だぜ? そうだなぁ・・・お馬鹿がそのまんま鎧着てるような感じ?」「よく解らん例えだ・・・」ま、会えば解るさぁ。と潘臨はケタケタと笑う。「して? なぜ虜囚となった私と話しをする?」「そだなぁ。さっき言った人・・・うちらの大将なんだが、お前んとこの大将と話がしたいんだとさ。」「話すことなど無ければ、居場所を教える謂われも無い」黄乱はあっさりと拒否した。そらそうだわなぁ、と潘臨も思う。「ま、攻めてきたらとっ捕まえる、でもいいんだけどな。お前ら、飯を得る手段がなくなってるんだろ? なんだよそのガリガリの体。」「むっ・・・」潘臨の指摘の通り、黄乱はかなり瘦せていた。黄乱だけではない。山越の男も女も体格は良いはずだが、他の捕虜も潘臨が見たところではかなり瘦せて飢えている。「思った通りかよ。住んでた土地を袁術に奪われて、瘦せた土地で頑張ってたけどそれも限界になったとかそんなだろう。」「・・・ふん」図星だったようで、黄乱は不愉快そうに鼻を鳴らす。潘臨も同じ事情を背負った事はあるのでここらには理解があった。「流民とかも受け入れたから食料が足りなくなった・・・解りやすいな。そんなに苦しいなら意地を張るのやめたらいいじゃんよ。」「黙れ。誰が漢王朝に頭を下げるか」「・・・お前さぁ、何も知らないんだな。孫策は漢王朝の臣かもしれねーけど、その漢王朝が衰退してんだぞ?」いつまでも従うわけねーだろ? と潘臨は身を乗り出す。「大将の受け売りだけどな、孫策は江南の地で独立して、漢王朝・・・今は曹操ってのが牛耳ってるらしーが、それに対抗するんだとさ、これがどういう意味か解るか?」「意味?」「おうさ。山越に限らず、江南は・・・中原、つまり漢王朝から略奪され続けた。富を、食料を、人を。何もかもだ。孫策はその江南を纏め上げて曹操に挑むんだとさ。」「そして、天下へ向かうというのか。漢王朝を滅ぼすと。」「さて? それまでに漢王朝が滅んでるかもなぁ。けど、搾り取っていただけの袁術なんぞよりよっぽど期待できると思うぜ? 意地を張るなとは言わねーよ。でも、話を聞くくらいはいいんじゃねぇの?」「・・・。」黄乱は迷った。潘臨の言う事全てを信じる訳ではないが、自分たちが限界に来ていることは確かだ。尤突も、勝ち目が殆ど無いことは解っていながらも行動に出たのだから。2万を号していても、実質戦力は6千ほど。残りは全て戦う能力の無い人々ばかりだ。身重の女もいれば、病で動けない老人もいる。腹を空かせた子供たちも多い。孫策を信用できず、受け入れてくれる場所も無い。ならば奪うしかないのだが、それをやれば結局は民に跳ね返って、自分たちが受け入れてきた流民を生み出す原因となることもまた理解していた。どちらにせよジリ貧・・・それを解っていながら、そうする以外の道が見えなかったのである。孫策が自分達を迫害し、搾取をしないとは限らないが・・・。悩んだ末、黄乱は高順と陸遜に話を着けることにした。その結果、尤突率いる山越の民衆が集結している場所の割り出しに成功。尤突の統率する軍勢が攻めてきた場合の守りは陸遜が担当、お互いがぶつかっている状況で集結地を叩く役は高順隊と賀斉の隊が担当である。本来の目的は「孫家に従ったほうがお徳ですよマヂで」と山越を説き伏せるもので、武力行使は最後の手段だ。交渉と言うのは、人を騙しても嘘をつかないこと、だと思うのだが高順自身それが苦手な事は知っている。それでもやらなくては、と心に決めているが検分役の・・・賀斉という青年だが、彼に少し不安なものを感じてしまう。「なぁ、賀斉殿」「何でしょうか!」集結地に向かう間、高順は賀斉と幾ばくか話をしていた。賀斉は高順を武将として認めている側の人で、むしろ多くの戦役を潜り抜けてきた高順に尊敬の念を持っているようだ。だからかどうか知らないが、話をするだけでえらく力が篭っているように見える。「高順様、山越には気をつけてください!」「ん、なんで? 俺の部下にも山越出身者がいるけど。」「部下の方々は大丈夫だと思いますが、中にはおかしな呪いを使う奴がいるそうです!」「呪い・・・って?」「刃物が効かなくなるらしいのです! あと、矢とかも!」これに、高順は「へぇ?」と興味を見せた。本当かどうかは知らないが、こういった迷信に近いものを信じる風習は何処にでもある。とくに、こういう時代ではソレが顕著だ。「てことで、はい、これをどうぞ!」そういって賀斉が渡してきた物。それは木で作られた棍棒だった。「・・・。なにこれ?」「棍棒でっす!」「いや、それは見た目から理解したけど・・・なんで棍棒?」「刃物じゃなければ大丈夫らしいです! なので木で出来た棍棒などのほうがよいと思ったのです!」この髑髏龍の鎧に、木で出来た棍棒。袁術攻略戦の自分の格好が、錆びかけた斧と鎧であった。怖い絵面だ・・・と、高順は心なしか肩を落とした。「そ、そっか。一応、受け取っておくよ。ところで」「はい!」「賀斉殿は既に山越と交戦したんだよな。その時も棍棒だったの?」「剣でした!」「・・・そうか。」本当に大丈夫なのかなぁ・・・と不安になる主君を見ている高順隊の人々、がやれやれ、と苦笑していた。~~~楽屋裏~~~短い場合は大抵番外編があるんだあいつです(挨拶もう出番が無いと思っていた方、残念。賀斉さん出てきました。これ以降先ず出番はありませんけど(ぁぁ~~~番外編。もし高順が北に行けばどうなった? その3~~~袁紹が高順の宿営地より数十里北に陣取って数日。高順隊が北に動き出したのを察知して、袁紹も動き出していた。一度二度、間者の探りがあったようだが、袁紹は気にもしていない。見られて困るようなものがあるわけでもなし、知られて困るようなものがあるわけでもなし。気配は察しても「こちらに対して害意が無いなら好きにすれば良いですわ」と袁紹はいっそ剛毅であった。ただ、彼女には一つの懸念がある。それは自分が反董卓同盟の盟主であった事実だ。ちょっぴり自分でも調べてみたのだが、高順という男はどうにも主君運に恵まれていない節がある。才覚・実力はありそうなのにどうにも使えた相手が悪いと言うか、運がないと言うか。ほとんどの場合、負け側に組してしまっているのだ。尤も、反董卓連合の時は自分たちが負け組へと押し込んだ形であるが・・・それならば、会いたいと希望しても会ってくれないのではないだろうか? と思うのだ。何らかの手を打つべきかも知れないが、さりとて急に妙案が浮かんでくるわけでもない。どうしたものか・・・と馬上の袁紹は、部隊の先頭を進みながらじっと考え続けていた。そこから南にいる高順も「どうしたものか」と悩んでいた。楊醜(ようしゅう)らを派遣して袁紹が出張っている事は解ったし、武装はしていても数が少ない(1千程度)のでさして脅威でもない。どちらかと言えば、それだけの数で向かってくるほうが不気味だ。もしかして、こちらと接触を持とうとしているのか? とも思うが確証が無いまま接触をするわけにもいかない。相手は袁紹。反董卓連合の事、公孫賛の事。接触しても得るものは無さそうだし、そもそも自分達に敵対して董卓を滅ぼしにかかってきた相手なのだから。趙雲達にも意見を求めたが「まあ、話に聞けば聞くほど頭の悪そうな人だし」と、あまり接触したくないという高順の意見に同調した。それならば、駆け抜けるべし。高順達は速度を上げて北へと向かった。ところが、袁紹は高順隊の通るであろうルートを絞り込んであっさりと先回り。北平は南皮の北東にあるので最短コースの北東に行くであろう事は目に見えていたから簡単なものである。高順達の目の前に、袁紹とその軍勢一千が立ちはだかる。「あれぇ?」と高順らは首を捻った。話に聞いている袁紹はトロイとか、そういう否定的なイメージばかりの存在。全力で北に駆け抜ければ追いつけないだろうと踏んでいたのに、あっさりと先回りしてきたのである。目の前に見える軍勢を見据えて、さぁ、どうするか。と高順は少し悩んだ。一戦交えるか、それとも。(公孫賛殿の事を考えれば、ここで袁紹を攻撃して殺すほうが良い。けど、その俺たちを公孫賛殿が迎えたら・・・)不味い、当主がいないとは言え袁と公孫の血みどろの戦いになる。下手をすれば、公孫賛が自分達を斬るか、受け入れを拒否して「私には関係ないぞ」という態度を取る事だって考えられる。それこそ、行き場所が更に北の烏丸か、西の馬超・・・西涼しかなくなる。趙雲ら、高順一党もそれは察していて「うーむ」と唸っている者も少なくない。どうするべきかな、と再度迷っていると、袁紹軍から一騎、白旗を振った後にこちらへ進んでくる者がいた。一騎、しかも交戦の意思は無いとして近づいてくるものを攻撃する訳にも行かず、高順はじっと待つ。その騎兵は高順と会話が出来る程度の位置で馬を止め、口上を述べた。「貴君、高順殿と見受けるが?」「だとしたらどうする?」「我が主、袁紹が貴君と話をしたいと申しています。応じていただきたい・・・っと、失礼。私は審配。まずはこちらから名乗るべきでしたな。」「審配、ね。・・・ふん」死して袁家の鬼となる、の人か。正史でも演義でも袁家への忠誠心があって、かつ自己主張の激しい人だった・・・だっけか。と高順は審配の記述をぼんやりと思い返していた。この人も女性だが・・・うん、もう慣れたと思いたい。「・・・高順殿?」「うぉぇっ!? な、何ですかね!?」「いえ・・・して、返答や如何に?」「・・・ちょっとだけ、仲間と相談させてもらいたいのですが。」「左様ですか、どうぞ」(相談タイム)「なぁ、皆どうする?」「私は無視したほうが良いと思います。」「うちも趙雲はんと同意見や。袁紹言うたらうちらの敵やんか。」「ですが、ただ話をしたいだけなら良いのでは?」「甘いなぁ、蹋頓はん。どうせ臣従せぇとかそんな話やで? 臣従して何の利益があるっちゅーねん?」「そこは聞いてみないと解らないぞ、李典。」「いや、そら楽進の言う通りなんやけど・・・沙摩柯はんはどう思います?」「相手に交戦の意思は無いのだろう。話は聞くだけならタダだ。」「むー、反対意見が少ないなァ・・・」「どちらにせよ、決断をするのは高順殿ですが。如何なされる?」趙雲に促される高順だが、彼も彼で悩んでいる。もし戦闘になっても負けはしないと思うが、こちらだって被害は免れない。遭遇せずに終われば良かったのだが、あっさり先回りされてしまってもいる。こうなったら、適当にかつ穏便に話を終わらせて公孫賛の元へ急げば良いか・・・と思う。はー・・・と失礼ではあるが、盛大に溜息をついた高順は「一応、話だけはするさ・・・」と諦めたように呟いた。「解りました。「一応」話だけは聞きます。」「おお、感謝いたしまする。・・・では、宴席を設けますので皆様もこちらに。」審配が案内をしようとするが、高順は「いえ、こちらに何人か残させていただきます」とそれを拒否した。「根っから疑う訳ではありませんが、疑う余地はありますので。護衛は何人か連れて行きますがそれだけです。」「・・・む、そちらの意見はご尤も。」高順の言葉に、審配な納得したように何度も頷いて見せた。袁紹側の建てた宴席用の陣幕。そこへ向かう高順が連れて行くのは、楽進と沙摩柯の2人だけで残りは待機である。楽進は素手のほうが強いし、沙摩柯だって武器が無くても強い。流石に護身用の剣くらいは持っているが、それだけだ。趙雲を残しているのは、自分に何かあっても彼女に託せば大丈夫だろうという事だ。彼女と、あと蹋頓の気性なら本当に何かあった場合ここにいる袁紹軍全員血祭りにしそうだが・・・。審配に勧められるまま陣幕へと入っていく高順達だが、その中には兵士はいない。豪華な食事の用意が整っており、給士と楽師・楽団。それと踊り子数名が控えているだけだ。パッと見では解りにくかったがこの陣幕、かなりの大きさである。楽進は警戒をしているが、殺気の類は感じられない。対照的に沙摩柯は平然としている。食事の中に毒が仕掛けられている可能性は否定できないが、殺すつもりなら最初からそれらしき行動に出ているだろう。わざわざ回りくどい事をする必要もない。それよりも、ここに袁紹らしき人がいないことのほうに問題がある。「さあ、一献どうぞ。」「いや、結構。」何故いないのかは解らないが、審配に促された高順は席に着いて、しかし酒は飲まない。「む・・・毒などは入っておりませんぞ?」「そうではなくて・・・下戸なんですよ。」「ふむ」それならば、と審配はお茶を勧め、これは高順も受けて飲み干した。楽進も沙摩柯も給仕に注いでもらった酒を飲み干す。今度は返礼として高順が審配の杯に酒を入れていき、審配は「これはどうも」と笑って酒を口にした。「ところで・・・袁紹殿はどちらに?」高順は審配に問いただす。呼んでおきながら本人が不在とはどういうことだ、という気持ちも篭っていたのか多少強い言い方になる。「はて、おかしいですな。少し支度に時間がかかって居るのでしょう」「支度・・・?」「まあ、そう固くならず。踊りでもご覧になってお待ちくだされ。」審配のその声を合図に楽団が楽器を鳴らして、それに合わせて踊り子たちが舞い始めた。高順は踊りとか楽器とか、そういった事に素養がないので音楽は良くわからないが、踊り子の踊りが優雅なのは何とか理解できた。宮廷舞踊と言うものかもしれないな、くらいに留めておき高順は茶を飲む。しかし、待てども待てども袁紹は来ない。「・・・。来ませんね」「はぁ・・・もしかしたら警戒をしているのかもしれませんね。」「?」「高順殿は、董卓陣営に身を置かれていたとか。ならば、我が主は貴方にとって仇敵となる。」呼んだのは良いが、もしかしたらそこを気にしているのかもしれませんね、と審配は行った。「随分と勝手な事を。呼びつけておいて警戒? 話なら何でも聞いてやると言っただろう。」流石に頭に来たのか、高順は怒気を発し始めた。だが、怒気を充てられた審配は慌てることなく「今の言葉に相違ござらぬか?」と問い返してくる。「相違も何も、きっちり話を聞いてやると約束してここに来たんだ。今更聞く聞かないがあるものか!」「・・・だ、そうでございます、殿。」高順の言葉を聞いた審配は、今まで踊っていた踊り子に向かって「殿」と言った。殿、と呼ばれた女性が「重畳ですわね」と一歩前に出て、踊り続けていたせいで掻いた汗を手の甲で拭った。「は・・・?」「高順さん。貴方が本当に敵意無く話を聞いてくださるかどうかを試させていただきましたわ。」茶番につき合せましたわね、と袁紹は呟く。これには楽進も沙摩柯も目を丸くしていた。まさか一国の主君が踊り子に扮してまで・・・。袁紹は、踊り子の衣装のままだが「さて」と高順の目の前に座りなおした。「改めて自己紹介を。私は反董卓同盟の元盟主にして袁家総領。袁紹、字を本初と申しますわ。」宜しくお見知りおきを、と彼女はとっておきの笑みを浮かべるのであった。~~~楽屋裏~~~高順が(以下略)3話でございます。こんな回りくどい事しなくても高順は話しくらいなら聞いてくれそうですが(笑