【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第82話 孫家的日常。その7。 その日、高順は市街の警邏をしていた。彼は基本的に武官なので、仕事内容も治安任務やら兵と自身の修練、というものばかりだ。他にも商いがあるのだが、そこは麗羽達に任せてあるから金を使うとき(給料を渡したり、高順の認可が必要な場合)以外はそれほど用事があるわけでもない。「影」からの情報を統括、そして輜重の面では闞沢(かんたく)が頑張っている。ここにきて、ようやく高順一党は自分達の仕事をそれぞれに割り当てて・・・いわば、分業作業が終わったことになる。なので、孫家の主要な面々に比べれば彼は暇なのであった。「今日も平和だ・・・」そんなことを心中で呟きつつ、高順は街のあちこちを回る。思えば、寿春にも活気が出てきたものだ。袁術統治の時は酷かったものだが、孫策が支配下に置いてからは少しずつだが活気が出てきている。前は無かった筈の店や、作りかけではあるが居住区域が広がるのを見ると人が増えてきた、と言うことも実感できる。今回は、そんな穏やかな日に起こった騒動のお話。高順が屋台で買った肉まんを「はふはふ・・・」と言いながらもぐもぐと食べている。(ぉ・・・いい味だな。警邏が終わったら皆にお土産に・・・)「・・・ぶるっ!(はむっ」「へぅっ!? 何すんのさ!」「ぶるるっ!」予想外の当たりに高順が嬉しそうにしているところ、虹黒が「自分ばっか良い物食べんな!」とばかりに高順の肩に噛み付いてきた。実は、今回の警邏は虹黒と一緒だった。普段はあまり警邏などに出さないようにしているのだが、それに拗ねたのか、それともへそを曲げたか。「あたしも連れて行けー!」と厩で大暴れをしたのである。確かに此処のところあまり構ってやれなかったし、旅に出た自分を待ち続けて寂しく死んだ海優(上党時代に高順が乗っていた馬)のことも不意に思い出して、仕方がないとばかりに連れて来たのである。「お前、肉まん食えるのか? ・・・いや、甘みのあるやつのほうが良いよな。あとで砂糖とリンゴ買ってあげるからちょっと待ちなさい」「・・・。」砂糖とリンゴ、という言葉を聞いた虹黒はあっさりと落ち着き、「馬なのに現金だよな」と高順は苦笑した。馬と言うものは自分に愛情をもって接し、世話をしてくれる人に信頼を寄せる。どの動物でも大抵は似たようなものだが、虹黒もそういう手合いだ。取っ掛かりをしくじると夏侯惇のように延々と嫌われ続けるが(対照的に夏侯淵は特に嫌われていない)、一度心を許せば普通に懐いてくれる。自分の体を洗ってくれた丘力居の事も覚えているし、乗せるかどうかはともかく楽進らの事も嫌っていない。人ではないが、高順にとっては良い相棒で、またある意味で女房役と言っても良い虹黒なので、自然と高順も態度は甘くなるがそれはともかく。よしよし、と首や頬を撫でられた虹黒が嬉しそうに「ひひんっ」と鳴いた所で、高順を呼ぶ声があった。「おお、高順!」「・・・?」「ぶる?」「こっちじゃ、こっち!」声の主は黄蓋である。辺りを見回して、すぐに彼女の姿は見つけたのだが・・・何故か、多数の子供たちに囲まれていた。「おやまあ・・・随分と人気ですね、黄蓋殿。」適当な軽口を叩きつつ、高順と虹黒は黄蓋の近くへと進んでいく。気付いた子供の何人かが「あ、高順さまだー」と、あ「でっかいお馬さんだー!」と、高順達へと近づいてくる。「こんにちは、高順さま!」「ああ、こんにちは。皆で何をしていたんだい?」高順はわざわざしゃがみ込んで、子供たちと同じ目線で話をする。「んっとね、黄蓋様とおはなしー。」「そっか。じゃあ、心行くまでお話すれば良いよ。」「待たんか!?」高順の言葉に、黄蓋は文句をつける。「何ですか?」「(小声で)頼む、こやつらを追い払ってくれ!」「何でですか。これくらい別に・・・」(やっぱり小声)ワシは子供が苦手なんじゃ! 話と言っても、さっきから「お姉ちゃんが胸が大きくならないと悩んでいる」だの、返答に困るようなものばかり・・・早く散らしてくれ!」あー、子供って邪気なくそういう話するからなぁ、と少しばかり納得した高順は仕方ないと、子供たちに事情を説明しだした。「皆、悪いんだけど黄蓋様はまだお仕事中なんだ。お話したいのは解るんだけど、黄蓋様も困ってるみたいだし・・・また、仕事のない日にお話しようね?」高順の言葉に、子供たちは素直に「はーい!」と返事をして、黄蓋に「また遊んでねー!」とか「色々なお話し聞かせてねー」とか言いつつ、どこかへと走って行った。「ふぅ、助かった・・・」と安堵する黄蓋だが、去っていく子供たちへの視線は優しいものだった。「意外ですねぇ、黄蓋殿が子供に弱いなんて。」「弱いのではない、苦手なだけじゃ!」「それこそ何でですか? 子供の事が嫌いなんですか? その割には随分と懐かれているようでしたけど。」「そんな訳はない。子は国の宝じゃ。嫌っておるわけではない、が・・・」「が、なんです?」更に理由を聞こうとする高順に、黄蓋は恥ずかしそうに「・・・笑うなよ?」と言いつつ話を始めた。「この間、ここいらで暴れていた暴漢を叩きのめしたのだが・・・その時、騒ぎに巻き込まれて泣き出してしまった子がおってな」「はぁ」「共に出てきた警備の者達は事後処理に当たっておって、ワシ以外に相手をしてやれるものがおらなんだ故、なんとか泣き止まそうとしたのだがな」それを見ていた周りの子供たちに妙に懐かれてしもうてなぁ・・・と高順にぼやく。「ワシはどちらかと言えば周りに怖がられておる筈だったのじゃが・・・子供というのは本当に解らん。」「それはアレです。黄蓋殿に親しみを持ったということでしょう。」「はぁ? ワシに親しみ?」「ええ。黄蓋殿が子供に悪戦苦闘してるのを見て・・・って感じじゃないでしょうか。怖がられている筈の将軍が子供に見せた優しさ、というのを理解したんじゃないですかね?」「むぅ・・・よく解らんわ。」好き放題に言われっぱなしの黄蓋は子供のように口を尖らせる。「ははは。ま、さっき仰ってたように、子は国の宝です。そう邪険にするもんじゃないですよ? それに、そんなんじゃご自身に子供ができた時に苦労するじゃないですか。子を産めば解るかもしれないですけど」子供をあやす予行練習と思えばいいんじゃないですか? という高順に、黄蓋が「ふむぅ・・・」と何かを考え込むような素振りを見せた。「のぉ、高順。」「はい?」「子を作ってみぬか?」「・・・はい? 誰と誰が?」「ワシとお主で。」「はぁ。はぁぁあっ!?」「どうした。何を驚くことがある。」そりゃ驚きます。「あのね、何故そういう話になりますかね!?」「何じゃ、子を作ればわかると言うたのはお主ぞ。」「へ? だから何故そこから俺と黄蓋殿の話になるのかがっ」「ほーう。あれだけの愛人を抱えておきながらワシを満足させる事はできぬと。ワシのような年増を相手にすることはできぬと。そー言うのじゃなー」「誰も言ってないよ! だいたい黄蓋殿は年増言うほどじゃないでしょうが! 話が逸れてますからね!」「ほほー。にも拘らずワシの相手はできないと。ワシは高順の好みではないのだなぁ・・・」何だか話が別方向に変えられて、しかも高順はそれにあっさりと乗せられている。「いや好みですって! 黄蓋殿は可愛いし綺麗だし素敵だし! 大体なんですかそのけしからん胸は・・・あ」自分の言った意味を理解した高順は「しまったー!」という表情である。黄蓋も、まさかこんなに簡単に引っかかり、そして自分が思った以上の言葉を聞いて照れ臭かったらしい。「ええい、冗談のつもりで言ったと言うに、本気にしおって!」と、怒りつつも少し嬉しそうである。「・・・」「・・・」「ひひんっ」微妙に、良い雰囲気ながらも気まずくなってしまい、二人は黙り込んでしまった。そんな時である。「あら・・・高順さん?」「隊長に・・・黄蓋様。お疲れ様です。」蹋頓と楽進が現れたのであった。「あ、蹋頓さんに楽進。二人も警邏かい?」「はい、そうですけど・・・ふふ、お話を邪魔してしまいました?」コロコロと喉を鳴らして笑う蹋頓。彼女は何となく察しているらしい。「いや、そんな事はないですよ。ねえ、黄蓋殿?」「ぬ? あ、ああ。別に邪魔などではないぞ、うむ。」表情を繕う黄蓋だが、蹋頓にはお見通しだったようで「なら、そういう事にしておきますね」とにこにこ顔である。「・・・?」楽進は解っていないらしく、ハテナ顔。「ところで・・・蹋頓と楽進が2人連れ、というのは珍しいのぉ。」「そうでしょうか?」黄蓋にとっては珍しいようだが、実際にはそんな事はない。高順一党の人同士で組んで仕事をする、という事は多いし、今回は虹黒だが高順も一党の人々と警邏をする機会は多い。単純に見ている回数が少ないとか、そういうことだ。(しかし・・・好みか、ワシのような年増を。ふふん、儒子め。うれしい事を言ってくれる)蹋頓・楽進と話をしている高順を見やって、黄蓋は高順の言葉を思い返す。内々の話だが、周喩と孫策主導で黄蓋を高順の元へと(性的な意味で)送り込もうという話が出ている。知っているのは先の二人と当事者である黄蓋の3人だけ。馬超の話を聞いて周喩も内心で焦りがあるし、黄蓋と高順は相性が良さそうだから・・・と言うこともある。黄蓋も高順の事は嫌いではないし、先ほどの会話も自分をどう思っているかというカマかけであったが、上手く行き過ぎた。何だかんだ言って、彼女も割りとこの話に乗り気なのである。(だが、愛人は多い高順だから女に不自由はしておらぬだろうし・・・。さて、どうしたものかな。)ふむー、と悩む黄蓋だが、そこに。ドンガラガッシャーン! と、使い古されたような騒音が中央道から聞こえてきた。「何だ?」「行ってみましょう!」また喧嘩かな? と高順達は(考え込んでいる黄蓋を放置して)音が聞こえてきた方向へ向かって行った。行った先は妙に人だかりが出来ており、やれ「行けー」だの「そこだー!」だの景気の良い声が飛び交っている。「うわ・・・何だこの人の数は。」「さぁ。捕り物でしょうか?」「それなら我々の出番だと思いますが・・・って。」高順達は「すみません、通りますよ!」とばかりに前に出る。警邏をしている彼らに遠慮をして、市民もなんとか道を開けてくれるたおかげで、この騒動の大元となっている者がすぐに解った。趙・・じゃなく、華蝶仮面が、10数人ほどのゴロツキ相手に大立ち回りを見せているのである。その華蝶仮面は、人だかりの先頭に出来てきた高順、楽進、蹋頓の姿を認めてニヤリと笑った。彼女の笑みを見た楽進は「あぅ・・・」と口ごもり、蹋頓は「あらあら」と笑っている。「死ねやぁっ!」「はっはっは! 隙を見せてやってもその程度かっ! そらどうした、そんな腕では小娘一人打ち負かす事もできんぞ!」華蝶仮面は、ゴロツキの斬撃をひらりひらりと回避、余裕綽綽である。だが、数が少ないせいか逃げ場を少しずつ失っているような感じには見える。(はて、あれくらいは趙雲さんならあっさり倒せるだろうに?)何かを守りながら、という条件さえなければあの程度のゴロツキならあっさり片付けてしまえるだろう。それをしないというのは・・・?とか思っていたら、華蝶仮面は一足飛びで民家の屋根の上に退避。腕組みをしてゴロツキ集団を見定める。「ふむ、数で押されれば苦戦も致し方なし、か。・・・ならばこちらも数を出させてもらうとしよう!」華蝶仮面が指をパチンッ、と鳴らした瞬間。華蝶仮面と同じく、蝶をあしらった仮面を被った影が2つ、彼女の横に降り立ったのである!華蝶仮面の右に降り立った人物:紐パンかつ筋骨隆々。お下げの髪が悩ましい(?)アレ。華蝶仮面の左に降り立った人物:同じく筋骨隆々。白い胸当ては乙女の恥じらいとか言いそうなアレ(??)。「我が名はぁっ! 華蝶仮面、に~ごぉ~~~!」「同じく! 華蝶仮面、三号っっ!」・・・。どう見ても二号は貂蝉、三号は卑弥呼である。なんかボディビルダーの方々が取るマッシヴポーズをきめつつ、彼・・・女達? と言って良いかどうかわからない人々は華蝶仮面としての名乗りを上げたのである。趙雲さんは何時の間に彼らを引き入れたのだろうか・・・じゃない。呆然としている高順だが、そこに蹋頓が遠慮がちに話しかけてきた。「あの、高順さん。」「はい? どうしました、蹋頓さん。」「すみませんけど、虹黒さんに少し手伝ってもらいたいことがありまして・・・」「へ? はぁ、どうぞ。」「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか♪」「ひひんっ」蹋頓は苦もなく虹黒の背に乗り、群衆を掻き分け(ていうかある意味蹴散らして)どこかへと行ってしまった。それを見送った後、楽進まで「ううっ・・・気乗りしませんが、行ってきます・・・」とか言って姿を消してしまった。「え、ちょ・・・楽進? どこ行くのさ!? ・・・行っちゃったし。」何かあったのかな? と首を傾げる高順だが、華蝶仮面らの活劇はまだ終わっていない。「てめぇっ! 降りてきやがれ!」「そうだそうだ! 気持ち悪いの2人も追加しやがって!」「3人もいるなんて反則だ!」民家の屋根に飛び移ることが出来ないゴロツキ集は口々に華蝶仮面sを罵る。3人もいることが反則なら、10数人の自分達も反則ではあるまいか? という突っ込みも出そうなものだが、文句をつける本人達はそこに気付かない。華蝶仮面(一号)は、そろそろか、と口にする。「はっはっは。我らが3人と誰が決めたっ!」「何っ!?」一号の宣言に、ゴロツキと、高順含む野次馬連中は辺りを見回す。すると、ドカカッ、ドカカッ・・・と、どこからか馬蹄が土を蹴立てる音が聞こえてきた。「・・・この音って・・・まさか?」戦の時に聞くこの聞きなれた音。虹黒の・・・と、高順が思ったその瞬間。蝶の仮面を被った女性が巨大な黒馬を見事に操り、野次馬連中を飛び越してゴロツキの目の前に着地。それと同時に気弾が地面を打ち、抉られた地面が土煙を濛々と上げる。「うべ、げほっ」「ごほっごほっ・・・」暫くして土煙が晴れた時には、屋根の上にいたはずの華蝶達が新たに現れた2人の華蝶仮面同様に地面に立っていた。その2人は、先ほど高順と共にいた彼女達・・・!「天知る! 地知る! 人ぞ知る!」「悪の蓮華の咲く所!」「正義の華蝶の姿あり!」「烏丸華蝶!」←全く隠す気が無いどころかノリノリな蹋頓。「え、ええと・・・え、閻鬼華蝶!?」←隠したいけどモロバレな楽進。「か弱き華を守るため・・・華蝶仮面、5人揃って!」「呉連者!」どどーん! という効果音が聞こえてきたかどうかはともかく、この後に華蝶仮面一号が何故か高順を指差した。「名前の腹案として、義乳特選隊もありますぞ!」「いやそれは色々危ないから辞めておこうか!?」具体的には名前とか名前とか名前とかが危ない。この後の展開は一方的なもので、ゴロツキ連中はあっさりと駆逐されていった。最初から、華蝶仮面は仲間4人のお披露目のようなつもりで戦っていたのである。ただし、ゴロツキを叩きのめしてからが色々と手間取った。野次馬が多すぎて、警備隊+(放置されていた)黄蓋の到着が遅れたのである。ようやくたどり着いた頃にはゴロツキたちは華蝶仮面達に縛り上げられている状況。これを見た黄蓋は「ええ、またしても! 高順、おぬしも手伝わんか!」と挑みかかろうとした。「いやあの・・・あの馬とか人を見て誰かを思い出しません?」卑弥呼とかは知らないだろうから聞いたところで意味がなさそうなので、一番解りやすい虹黒を指し示す。流石にこれなら気付くだろうと思ったからだ。「馬? ・・・大きいな。」しかし、黄蓋はものの見事に気がつかなかった。「え、そんだけ? じゃあ、馬に乗ってる人は!?」「・・・。胸が大きいな。」「・・・・・・・・・どういう事なの。」丁原様。オー人事したいです・・・。華蝶達は「争うつもりはない」とばかりにさっと退散したのだが、「あやつら、何者じゃ・・・!」と呟く黄蓋を見て、高順はちょっと本気で転職を考えるのであった。~~~楽屋裏~~~通報しないでくださいあいつです(挨拶どこに通報かって、それは某龍玉・・・ゲフンゲフンさて、前回に引き続き凄まじくお馬鹿な話です。とーとんさんはともかく、楽進が引き込まれたのは・・・まあ、弱みを握られたのでしょう。ドレスとか。~~~番外編~~~それは、とある日にあったとある出来事。「馬鹿もんっ!」「は?」廊下を歩いていた高順は、不意に響いてきた黄蓋の怒声に足を止めた。「・・・? 黄蓋殿が誰かと言い争いでもしているのかな?」気になった彼は、声の聞こえてきた方へそろそろと歩いていった。「ったく、この石頭は。何度同じ事を言わせれば気が済むのだ!?」「・・・申し訳ありません」そこにいたのは黄蓋と周喩である。「良いか周喩。人生の伴侶とはこれ即ち酒と戦ぞ。智ばかりひけらかす者に、人は着いていかぬ!」「はぁ。」あの周喩が、黄蓋に叱られている。珍しい光景だよなぁ、と高順は見守っていた。まぁ、雲行きが怪しい感じではあるけれど、とりあえず見守ろう。「しかし」「しかしではないわ、この石頭が!」「いえ、その・・・」「か~~~! お前は昔からそうじゃ。良いからワシに酒を飲ませい!」「ですから、それは」・・・やっぱり雲行きが怪しい。どうも、黄蓋が無茶振りをして周喩を困らせている、という感じだ。このままじゃ不味いよなあ、と高順はお節介を承知で「ちょっと待った」と割り込んでいった。「どうなさいました、お二方」「あ・・・高順。」「む、ちょうど良いところに現れた。この分からず屋の石頭に、主らからもバシッと言ってやれ!」「何をバシッと? って痛いちょっと引っ張らないで痛たたたたっ!!!」ここで、高順は自分の嫌いな匂い・・・アルコール臭だが、それを黄蓋の体から嗅ぎ取った。もしかして酔っ払ってる? という疑問を持つ高順の事など気にせず、黄蓋は「さあ言ってやれ!」と何故か偉そうな態度。「いや、言ってやれと言われましても。話の中身も知らないのに何をどう言えば良いやら。」「どうしてじゃ?」「は? ですから、話の内容を知らないって」「何故じゃ?」「何故って・・・ですから」「むっ・・・まさか、主までワシをいぢめよーとしておるのか!?」「何故そうなりますか!?」もしかして、どころか完全に酔っ払いである。周喩も、まったく・・・てな感じで溜息をつくばかり。何とかして話を収めないと・・・でも、酔っ払いだしなぁ・・・と悩みつつも、高順は覚悟をして話を続ける事にした。「とりあえず、何であんなに怒鳴っていたんですか? そのあたりの事情を教えて欲しいのですけど。」「ふ、ふぅむ・・・それは確かに。」「というわけで、理由をかいつまんで、わかりやすく三行で。」「三行!? も、もちっと負からんか!?」「無理。さぁ覚悟を決めてー。」「ま、待て待て・・・ええとだな、うむ!」『ワシが酒を飲んでいた。』『周喩に見つかった。』『叱られた。』(三行)「・・・つまり、全てにおいて黄蓋殿が悪いんじゃないでしょうか?」「なぬっ!? ち、違う! これはその・・・そうじゃ!」もう、完全に駄目駄目な黄蓋であるが、高順はその駄目駄目な言い訳を最後まで聞くつもりである。「やはり三行では無理じゃ! というわけで・・・その。」この状況で、周喩はやはり溜息をつく。普段から仕事が忙しいのに、余計なことまで背負い込んでいる辺り、案外に人が良いと言うか。「ええとじゃなぁ。台所に酒があったのじゃ。で、これが中々に良い器に入っていて、香りを嗅いだだけで良い酒じゃ、ということが解った。「ほう。」「気になるじゃろう、どこの誰がこのような良い酒を台所に放置しておるのか、と。盗まれでもしたら勿体無い」「まぁ・・・そうですね。」なんとなーく、先の展開が読めた。「そこでワシが酒を保護してやろうと思って・・・」「胃の中に収めてしまったと」「ぬ!? なぜ解った!」「いや、何となくそうだろうなぁ、と。良い酒を目にしたら味見したくなって全部飲んだとかそんなオチでしょう?」「・・・むぅ。」反論が来ないという事はそのとおりと言うことだ。本当に解りやすい人である。「ですが、さっきあんなに怒っていたんだから相当きつく叱られたのでしょう? ただ良い酒だった、じゃ説明つかないと思いますけどね」「ぎくっ」黄蓋がヤバイ、という感じで黙り込んだ。「周喩殿がそこまで怒るっていうのは・・・うーむ」「ふぅ、高順よ、よくそこまで読んだな。お前の察したとおり、黄蓋殿は一番大事な部分を話しておられない」「ぎくぎくっ」「・・・はぁ。では、何か他の要因があったんですね?」「ああ。」「ぎくぎくぎくっ」高順は、逃げ腰になる黄蓋の腕をがっちり掴む。逃げちゃ駄目ですよ? と笑顔を繕いつつ。「で?」「うむ。黄蓋殿曰く「良い酒」であるが・・・」帝への献上品だったのだよ。と周喩はあっさりと言った。「・・・周喩殿の勝ち。」黄蓋の腕を掴んでいる高順は、空いている手で周喩の腕を掴み「うぃなー!」とばかりに高く掲げさせた。周喩は困り顔のまま、逆らうことなく腕を挙げる。「洛陽で拾い、そして袁術から奪還した玉璽を帝へお返しする時に共に献上する品だったのだが・・・黄蓋殿は全て飲み干してしまってな・・・」「うん、味方しようにも味方できる理由が1つも見当たらないね? つうわけで、黄蓋殿は甘んじてお叱りを受けるべきだと思います、はい。」「なんじゃと!? 高順だけはワシの味方をしてくれると思っていたのに! この孕ませ屋!」「なんつーことを言いますか!?」「大体、主らのような若造にワシの事が解ってたまるか!」ここで、温厚なはずの高順がちょっぴりイラついた。丁原様も酒にだらしなかったが、ここまで酷くは・・・酷かったか。いやそうじゃない。「・・・はぁ。黄蓋殿、ちょっとそこに正座。」「酒と戦は人生の・・・は?」「せ・い・ざ!」何か気に入らなかったのだろう、高順が妙にどすの利いた感じで指を地面に指し示す。周喩も驚き顔だし、直接そんな事を言われた黄蓋も「え、ぇ~と・・・」と混乱している。「正座!」「う、うむ・・・?」無理やり黄蓋を正座させた高順。ここからは、高順のSEKKYOUターンであった。「いーですか貴方華陀にあれだけ酒控えるように言われたでしょうそれなのに帝への献上品駄目にして人様に文句つけるとか舐めてんですか舐めてるんですよね飲みすぎて人に当たるとか最低ですよ解ってるんですか!?」「お、おぅ・・・」口読点など無いぐらいの勢いというか息継ぎすらしていない高順の畳みかけに、黄蓋は酔っ払い特有の言いがかり&反論も出来ない。「酒は百薬の長ですが飲みすぎは良くないって散々言われたでしょうそれなのに飲みすぎるとか馬鹿なんですか死にたいんですかそんなんじゃ本当に子供ができた時に後悔するかもしれないんですよ!」「そ、そういうものなのか?」「母親の体が悪ければお腹の子に影響あるのは当たり前でしょう今は良くても後々絶対に響きます今は笑い話で済んでますが笑い話ですまない状況になったらどうするんですか貴方の身に何かあったときどれだけの人が悲しむか解ってるんですか」「む・・・お主も悲しむというのか?」「当たり前ですあの子達にまたお話しするって約束したでしょうが! ぷはっ、ぜー・・・はー。げほっ」息切れして、激しく息継ぎをする高順と、それを黙って見ている黄蓋と周喩。「の、飲むなとは言いませんが・・・げほっ。飲みすぎは・・・ぜはー。」「・・・う、うむ。解った。すまなんだな、周喩」「えっ・・・あ、はぁ。」黄蓋があっさり謝り、周喩はそれに素で驚いた。「飲むのは止めれぬが・・・少し量減らすかのぉ?」と呟きながら、黄蓋は立ち上がり去っていった。「・・・高順。お前って凄いな」「はい?」「あの黄蓋殿があそこまで簡単に引き下がるとは・・・いやはや。」周喩は本当に感心しているらしい。帝に献上するお酒はまた調達しなければならないが、それはどうとでもなる。「しかし、子供を産むとかどういうことだ? お前、まさかあの人にまで手を出したのか?」「ぶっ! 出してないですよ!? あれは・・・」*事情説明中・・・終了。「ふ、成程な。あの方が子供たちにそこまで好かれているとは。」だから「前に警邏を一人でするのは嫌だ」と、ごねておられたのだな・・・と周喩は納得したように頷いた。「まあ良いさ。こんな結果になるとは思っていなかったが・・・済まなかったな、高順。」「構いませんよ。で、周喩殿は?」「む?」「黄蓋殿にあー言っておいて、自分は働きすぎなんじゃないでしょうね? もしそうだったら遠慮なく正座していただくことになりますが。」「・・・いや、そんな事は。ははは。」高順のジト目視線を受けつつ、周喩は乾いた笑みを浮かべる。図星だったらしい。「はぁ。無理だけはしないでください。黄蓋殿同様、貴方に何かあっても悲しむ人は多いですからね。」「ああ。そうするよ。」言われなくても解っている事だが、真正面から言われるとけっこう恥ずかしい言葉である。黄蓋を叱った興奮がまだ収まっていないだけなのだろうが・・・。しかし、2人の仲がこうも良いとは。政略でなくても本当にくっつくやもしれんな。もっとも、それはそれで目出度い事だ。と周喩は心中で笑う。高順が何かをせずとも勝手に外堀が埋まっていく・・・というのもおかしいが、流れはそちらへと向かっていくようだ。「ふむ。まあ、何かあったら甘えさせてもらうさ。じゃあな。」「ええ。それでは」そのまま別れようとしたところで、周喩は少し考えた。そろそろ、高順にも大きな仕事を任せてみてはどうだろうか。武官は実際の働きで納得させたようだが、文官は一部、高順への厚遇を妬ましく思っているものも多い。借金帳消しだの、それだけではまだ納得できていないようだし・・・前も孫策に言ったが、あれをやらせてみようか。「・・・いや、少し待て。」「へ?」周喩は、既に歩き始めていた高順を呼び止める。「今言われたからではないが、お前にある仕事を頼みたい。」「はぁ。その仕事とは?」「丹陽郡は知っているよな?」「丹陽ですか? ここ(寿春)より東ですねえ。それが何か・・・?」「今、そこには陸遜が派遣されている。あれの仕事を手伝ってやって欲しい。」「陸遜殿の仕事? 何をしているんです。」高順の疑問の言葉に、周喩はもっともらしく頷いた。「山越の鎮圧だ。」「・・・はい?」~~~楽屋裏~~~あと1話で終わらせるといった以上、本気で終わらせました(何終わらせるためにまたしてもSEKKYOU(笑)ですよ。まぁ、あれだけ言われても懲りない黄蓋さんも悪いんだとかそんな温い感じで許してください(土下座追記で書くようなネタじゃないですが、呂布が中原ではなく・・・えーと、確かモンゴル系ですから北方異民族ですが、そこでとーとんや丘力居のような立場であったらどうだったのかなぁ、とかいう妄想が(何丘力居どころじゃない、ダイナミックな攻撃を仕掛けてきたかなぁ、とか思ってます。まぁ、あまり気にせずに・・・