高順伝 第1話 幼年期すっとばしてもう大人。時は後漢、霊帝の時代。場所は并州、上党。ここに1人の男がいる。歴史に名前を残さないだろう、多くの人に知られるわけではないだろう、しかし確かに存在した男が。彼の名は高順。飛将と呼ばれた、後漢最強の将「呂布」の元で戦い、時代を駆け抜けた猛将――――の、はずだったんだけど・・・・・・。~~~并州・上党~~~政庁のとある一室。椅子に座った1人の男が自分の目の前にある机に山積みにされた竹簡を見てため息をつく。(あれだけこなしたのにまだこんなに残ってるのか・・・・。)黒髪をざんばらに刈り込んでいるものの、前髪が眼を覆ってしまいそうなほどに長い。身長は173か4センチ程度。この時代で言えば7尺5寸程度。この時代の中国であればまあ、高いほうである。体つきは割りと筋肉質で、こういった・・・・書状やら書簡やらの問題を片付ける手合いの文官にはどうも見えない。文官の仕事をしていると言うのに安っぽい兵士の鎧を着たままだ。やはりどう考えても文官には見えない。それは本人も理解しているところだが、主君に「やれ」と言われた以上・・・・・嫌だと言ってもやらなければいけないのであった。「高順ー。兵糧の計算できたー?」「ああ、計算して数出してあるから。あそこに置いてある竹簡持ってってくれ。」部屋に入ってきた女性兵士のほうを向くことなく高順は返事をする。竹簡に眼を通し、数に不備が無いか確かめる。今こなしているのは今期の兵糧の支出と、金銭的な収入、それに付随してくる諸々。兵糧が減ったのならまた買って増やせばいいのだが、どうにも収入が安定しない。というか減っている。(やっぱ、人が少ないんだよな・・・。少ないってことはそれだけ収入が減るし、作物の出来高にも悪影響・・・いや、何で俺みたいな立場の人間がこんな心配を・・・)そこまで考えたところでまた別の、今度は兵士ではなく男の文官が部屋に入ってきた。「高順、武具と馬の数がどうも合わんのだ。一度見てやって欲しいのだが。」「だぁぁあああっ!なんで俺にそーいう仕事持ってくんの!?ほかに算術できる人はいないの!?あと一度に仕事持ってこないでください!!」「ひゃっ!?」いきなり叫んだことに驚いたのか、女性兵士が運んでいた竹簡を取り落とす。「びっくりしたなぁ、もう・・・。いきなり叫ばないでよ、驚くじゃない!」「ご、ごめん・・・。」こんなやり取りを聞いてた文官が苦笑しつつ「すまんな」と言う。「いないわけではないが、忙しい。そしてお前が一番正確に、かつ早く終わらせれる。」「俺だって忙しいですよ!?この机の上に溜まってるものが見えますか!?これから訓練がありますし!他の人にも数え方教えてありますよ!?」「まあそう言うな。時間が無いのですぐに頼む。あと訓練も遅れるなよ。」「無理だろ常識的に考えて!誰か助けてー!」どうも、高順です。一兵士なのになんで兵糧計算とか物資点検とか1人でこなすんでしょうね?普通は訓練一筋でしょう。こーいうのは文官さんの仕事なのに。ただ・・・この時代、普通の兵士は文字の読み書きとか簡単な計算とかできない人が多かったようです。蜀の名将の1人、王平も文字の読み書きできなかったという話もあるくらいです。そして、何故か志願とはいえ兵士になってる俺。なるつもり無かったんですよ?警備兵として働くのが目的だったんですよ?なのに何故なったかって?母上のせいですorzうちの大将・・・・丁原さんって言う人ですが、兵士募集の立て札たてた時にですね、「志願兵のほかに文字の読み書き、簡単な計算ができる者も求む」という項目を追加してたんですよ。立て札立てると言うか、兵士募集するのは刺吏の仕事じゃないですけどね。それ見た俺が父上と母上に「そんな立て札たってたよー」と言ったのです。それが自らの首を絞めることになるとは思わず。「お前は教えたことも無いのに算術を理解してたし、少し教えるだけで文字を覚えた。志願してみてはどうか?」とか言い出しましたよ。 「嫌です、俺は父上と同じように警備兵になるつm」「なりません。このような時のために母はあなたに武を教えたのです。あなたとてこのような田舎で終わるつもりは無いでしょう?」「いえ、望むところdヘブゥッ!?」「終わるつもりは無いでしょう?」「いや、むしろ終わらせtハブゥッ!?」「無・い・で・しょ・う!?」「・・・・息子よ、従うのだ。兵士になる前に死ぬぞ?(小声で」「無いですよね?」「・・・はい」「ま、まあ・・・息子よ、お前の武芸の腕は相当なものだ。よほど無茶をしない限りは大丈夫だろう。」「はぁ。」そんな流れでした。母上にむっさ全力で殴られました。ちなみに警備兵になりたかった理由。簡単なことで「このまま行くと俺死ぬことになるだろ?」と言う事です。丁原さんは義理の息子である呂布に暗殺されます。(史実じゃ親子じゃないよね)そして高順はその後呂布が死ぬまで部下として従い、そして呂布に殉じて処刑された人です。俺がその歴史上の高順と同一人物になるのかどうかは知りませんが・・・このままだとそうなる可能性もあるんですよ。なので自分の死亡フラグべっきぼきに折りたたむために警備兵。他の職業も考えたんですが、商人とかいうのは柄じゃないし。母上に相当鍛えられたんで、そこらの人々よりは強い、ということを鑑みての考えだったのですが・・・。生存フラグを母上に叩き折られました。嫌だ、死にたくない・・・orzで、志願兵として申し込みをしたところあっさりOK。(計算ができるとかは言いませんでした。余計な仕事回されても嫌だし。)人材が足りないという事もあったんでしょうが、そも兵士の数がそれほど多くないみたいです。やっぱ戦乱の時代ですしね。少しでも多く兵士が欲しいのでしょう。え?計算とか文字のこと言ってないのに、何故一番最初の状況になってるのか?だって?・・・少し前の話になるんですが、訓練中に「馬の数が合わないー!」とか叫んでる物資確認役のおじさんがいまして、「早くしないと丁原様ににお仕置きされてしまう!」とか言ってたんです。で、放置すればよかったんですが涙目になってたので少し可哀想だと思ってしまって。数え方聞いたら「1頭ずつ数えてる。」そりゃ時間かかります。なので少しだけ知恵を貸したのですよ。「たとえば10頭ずつ並べて、10頭を1として、それがどれだけ出来るか計算すれば少しは計算速くなるんじゃないですか?」「それだっ!」確認役のおじさん、喜び勇んで確認に向かいました。簡単な掛け算ですよ。こーいうことがまだ解らない時代・・・だったのかなぁ?そこらへんの商人のほうが余程頭が良くなるぞ。ま、あのおじさんの頭の出来がそれほどじゃない、ってことで納得しました。これで話が終わるはずだったのに、その後丁原様に呼び出し食らいました。最初に上官が呼ばれてたんですが、どういうわけか俺自身にも呼び出しがきたんです。何かお知らせがあるのならどんな用件でも上官を通じて来ると思うのですが・・・・わざわざ本人を呼ぶなんてね。で、上官曰く「お前に直接会ってみたいと仰せだ。」と。そして「俺何か悪いことしたかなぁ?」と考えつつ太守の執務室へ向かうことに。~執務室~大して広くも無い部屋に、申し訳程度の調度品が置かれている。それなりに品のいい机に乱雑に置かれた書簡の束。割と高級な絨毯。そしてその机の向こうに丁原・・・・并州の刺吏がいた。窓の方を向き外の景色に眼をやっている。白く、長い髪を腰あたりで綺麗に切り揃えているのだが、政務の真っ最中のはずなのに何故か鎧を着込んでいる。ここから見える風景は、それほど良いという訳ではない。活気はあるが乱雑に建てられた家々。汗を流し、訓練を続ける多くの兵士達。だが、彼女自身はこの風景を気に入っていた。自分が与えられ、守り、大きくしてきた場所だ。他国から見れば裕福でもなく、土地の実りも少ない。あるのは山国に近い故にその方面で鍛えられた山岳騎兵や、賊の横行する中で戦い、実戦で鍛えた兵士ぐらいなものだ。他者に自慢できるようなものなど何も無い。それでも、彼女はこの風景が、そしてこの地が好きだった。そこまで考えたあたりで入り口のほうから声が聞こえてきた。どうやら、先ほど呼びつけた者が来たらしい。「かまわん、入れ。」と返事が返ってきたので俺は入り口を開け、失礼します、と言いつつ入室する。ここで初めて丁原様を間近で見たんですが・・・女性です。歳は30代前半ってところですが、割と美人です。武将っぽくて・・・というか完全に猛将な感じで官吏っぽいところがまったく無いです。この人本当に刺史なのだろうか?いや、ここ政務室なのになんで武装しておられるんだろう、俺何かやった?そんなことを考えてたら、丁原様が「よく来てくれた。すまんな、訓練中に。お前は・・・高順と言ったな。物資確認任せた奴がお前に随分感謝してたぞ。いつもより早く終えることが出来た、と。」「いえ、そんな事は・・・。なんだか、お仕置きされる、とか叫んでおりましたので。」「お仕置き?・・・はは、少し叱る程度なのにな。大袈裟な。」と言って丁原様は苦笑する。あのおじさん、俺の名前出したのかな?とも思ったんですが後で聞いたところ俺の上官に名前と顔を確認してもらって、丁原様に報告したのだそうな。余計なことを。「今、我が軍は人手不足でだな。」「はあ。」「少しでも多く人材が欲しいわけだ。文武に秀でた者がな。」この言葉に俺は少しだけ、違和感を覚える。丁原様は一応、中央。つまり、後漢王朝から正式に并州の刺史に任命されてるからだ。丁原様が刺史になる以前にも他の刺史がいたし、県令と言う・・・俺がもともと生きてた世界で言う市長とか知事とか、そういうものに該当するはず。太守、というものよりもっと上の立場だ。人手がそこまで不足するとも思えない。「あの、身分を弁えずの言葉ですが。宜しいでしょうか?」「うん?構わんぞ。言ってみろ。」「本当に、人材が少ないのですか?」「・・・ふむ?なぜそう思う?」「いえ。立て札に計算や文字云々が書いてありましたので。」「ほう、そこを見ていたのか。ならはっきりと言おう。少ない。中央に近い場所や、栄えている土地であればいざ知らず。このような田舎ではな。」「そんなはずは無いでしょう。刺史といえば太守などより格上の存在。郡を束ね太守を束ねている存在ですよ?小さな郷にだって人がいない訳ではない筈。それなのに」「解っているさ、それくらいはな。」少し苛立ったのか丁原様の声が少し荒々しくなる。だがそれは俺に向けての怒りではないようだった。「・・・いや、すまん。」「いえ、申し訳ありません。一兵士の分際で・・・」「構わぬ。そもそもお前に怒ったわけではないしな。」ふう、とため息をつき丁原は話を続ける。「さて、お前の疑問に答えてやろう。なぜ人手、いや、人材がいないのか?ということだ。簡単さ、人が少なくなってきているだけだ。」「人が少ない、ですか?」「ああ、ここのところ太平道というものが民の間で流行っていてな。知らないか?」「・・・名前だけなら。」きたか、このイベントが。もうそろそろ来るかなぁ、とは思ってたけど。太平道。黄巾の乱。三国志を知ってる人間にとっては「ここから三国志が始まった」と言えるほど時代を動かすきっかけになった争乱だ。「教祖が張角というらしいが。どんな手を使ったかは知らないが民を手懐け、手勢に加えてしまうのだそうだ。自分の住んでいる土地を捨てるわけにも行かないから全部が全部とは言わないが。」全く、忌々しい。と、丁原が悪態をつく。なるほど、そうやって民が離散するってことか。でも史実じゃ病を癒したりとかしてたと思うのだけどな。作物が不作だったり、賊に襲われたりとかいろいろな要因もあるはずだけどね。「中央から回されて来る人間も、全員というわけではないがな。たいしたことの出来ない連中ばかりでな。保身に回るわ収賄を繰り返すわ、その上で仕事をしないわでこっちの苦労が・・・うぐぐっ」胃のあたりを抑えて丁原が呻く。「だ、大丈夫ですか?」「案ずるな。くっ・・・くそ。つ、つまりだ。計算できる奴がいてもそいつは中央から来る人間ばかりで、仕事をまともにしない。人を集めようにも、人がそもそもいない。だから負担が増えていく。きっちり仕事をする奴もいるが・・・どうにもな。」心の中で(ああ、官吏としての才能はなさそうだけど人の上に立ってるんだよな。苦労も多いのだろうな)とか考えながら俺は口を開く。「だから自分で集めれる人間からそれなりの人材が出てくれれば、ということですか?」「そうだ、お前だってわかる筈だろ?たかが馬の数を数えるだけだぞ。実際の数と合うかどうか。それだけの仕事をあれだけ時間がかかって、まともにできん者ばかりなのだ。そこいら辺の商人にすら劣る。」「むう・・・。」「もっとも、拒否することは許さんぞ?文官に似たような仕事だがこれも嫌でもやってもらう。」そりゃそうだろう。この時代に人権というものは正直に言うと無い・・・いや待て。ちょっと待て。「あの、丁原様、もう1つ質問です。」「何だ、質問の多い奴だな。」「今、文官に似た仕事「も」とか仰られました?」「言ったな。」「俺・・・じゃなくて、私は兵士ですよ?訓練とかするんですよ?そこに更に仕事ですか?」「ああ、案ずるな。そこまで難しい仕事はお前の元には行かない。さっき言ってた軍事物資の計算とかその程度だ。給料もその分支払う。」「・・・。えーと、たかが兵士n「うるさい黙れ」申し訳ありません。」「まったく、男の癖にうだうだと。案ずるなと言ったぞ?決済やら住民の嘆願書やらの処理を任せるわけじゃないんだ。さっきも言ったが簡単な計算さ。」簡単なんてさっき一言も言ってねえじゃん!でも、何言っても聞いてくれそうにないよこの人。俺にやらせる気満々だし。「解りました、やらせていただきます・・・・・・。」「うむ、そう言ってくれると思っていたぞ。」「無理やりの癖に(ボソリ」「ん?何だ?」「いいいええええ、何でもありません!・・・あ、そうだ、ついでにもう1つ」「またか・・・。今度は何だ?」「馬の頭数、実数と計算された数と合致したんですか?」「合ってなかった。」「・・・・・・。えーと・・・。」「まあ、誰かがちょろまかしたのかもしれんな。良くある話さ。」いや、駄目だろ。良くあることって・・・そして、結果的に最初の状況になってるわけです。最初はただの計算って言ったくせに。無謀だろ、兵糧の支出計算とか・・・。追伸:父上の言う「お前の武芸の腕は相当な・・・」というものですが、母上にみっちりと仕込まれました。剣。槍。弓。馬術。その他。自分の身は最低限自分で守れるように、という配慮でもありますが、こうでもしないと生きていくのが辛い時代なんです。もう少しすれば住む場所によってはある程度安定してくるんでしょうけどねえ。で、母上。チートすぎます。最初は父上から教わったのですよ。素手での護身術とか棒術。警備兵になるつもりだし、そこまで強くなくてもいいのだろうな。と思って教わってたんですが途中で母上が「あなたも男の子なら剣くらい使えなくてどうします!」とか言い出してそのまま教師が父上から母上にバトンタッチ。マヂスパルタだった・・・。地獄の日々です。あんなに柔和で優しい母上が特訓のときだけはまさかの鬼教官。まずは体力作りの走り込みから始まって筋力トレーニングやらされて剣の素振りとか槍の使い方だとか馬術とか。これが基本の形ですから更にいろいろな要素増やしてくれます。あと父上警備兵で、給料も多いわけじゃないのに母上が馬買って来たのには驚きました。「なんで馬あるの!?高いのに!維持費どうするのさ!?」と叫んだのですが母上曰く「こんな事もあろうかと」ずっと昔からヘソクリしてたみたいです。その影で父上泣いてましたけど。維持費とか購入資金のために小遣い削られてたんだろうな。そして何度か手合わせしたんですよ。でも全戦全敗。剣でも槍でも弓でも。どれ1つとして母上に敵いませんでした。兵士としてお勤めする前日にもう1度だけ手合わせしたんですが、やはり勝てません。服に掠らせるだけで精一杯でしたよ・・・。・・・母上が兵士になってれば良かったのでは?~~~楽屋裏~~~どうも、あいつです。プロローグだけでは駄目かな?と考えて1話も投下します。最初に書いたものは分量が少ないので色々書き足してみたのですが・・・グダグダもいいところです。とりあえず、この場で書きたかったのは丁原さんところの人材不足 です。でも、こんな低レベルな計算ができないような時代ではなかったと思いますけどね・・・wあと、この時代の女性はやっぱチートです(ぁご感想、お待ちしております。