二人の仕合は熾烈を極めた。高町が二本の木刀(通常の木刀より短いので恐らく小太刀というもの)を恐ろしい速さで繰り出し、赤星はその全てを避け、一瞬の隙に恐ろしく鋭い太刀筋でカウンターを叩き込んでいる。まさしく互角だ。
というか、こいつらホントに人間か?どれだけ頑張っても勝てる気がしないんだが……。
やがて、2人は間合いを取り、木刀を構えなおすと、深く腰を落とした。そして―――。
「ふっ!」
「はあぁぁっ!」
一瞬だった。両者同時に前へと踏み込み、赤星が凄まじい速さで繰り出した斬撃を高町は片方の木刀でいなし、もう片方の木刀を赤星の首に突き付けていた。
「ふぅ、やっぱお前には敵わないな。」
「いや、俺も危なかった。動作が一瞬でも遅れていたら負けていたのは俺のほうだった。」
勝敗が決し、二人の剣士は笑いながら握手を交わした。
第五話「怒り」
高町と赤星の仕合が終わり、そろそろ時間も遅くなってきたので俺は家に帰ることにした。
「ホントすごかったよ。いいもの見せてもらった。」
「赤星に聞いたがお前も強いらしいじゃないか。今度手合わせでもするか?」
「よせよ。不良10人とお前とじゃ比べ物にならないよ。」
「そうか、残念だ。」
ったく、こいつはどこまで本気なんだか。
「また明日、翠屋でね。」
「また、遊びにきてね。なのはももっと遊んでもらいたいだろうし。」
「じゃ、学校でなー。」
「ああ、またあした。」
そして俺は家までの道のりを歩き始めた。
「しっかし、あの二人あんなに強かったんだなぁ。」
帰り道、俺は道場で行われた2人の仕合を思い出していた。
赤星の太刀筋は豪剣で1撃が恐ろしく重かったし、それを片手で受け流し、さらにカウンターを仕掛けた高町、勝てる気がまったくしないとはこのことだな。
(あれ?)
気がつけば俺は全く知らない道に立っていた。
(しまった、考え事してて通り過ぎたか。さっさと戻らないとまた迷うな。)
しかし、何か不気味な感じがするなぁ。早く帰ろうと思いUターンしようとした瞬間、後方から何やら数人の男たちの声が聞こえてきた。いやな予感がして俺は咄嗟に近くの草むらへと飛び込んだ。
「いやー。簡単だったな、こんな子供掻っ攫って親に身代金を要求すれば大金が転がり込んでくるんだもんな。」
「でもいいのかよ。警察にばれたら終わりだぜ?」
「ハッ、何言ってやがる。警察に言ったら子供を殺すって言ってやりゃあいいんだよ。」
「そーそ。だいたい、何もしなくても取り立てに来たヤクザに殺されるんだ。ムショのほうがよっぽどマシだろ。」
「それもそーだな。」
何だ、あいつらは何を言っている?子供?身代金?コロス?男たちのうち2人は、大きな袋を担いでいた。
「むー!ムー!」
「いい加減諦めなってお譲ちゃん。こんな時間にこんな場所で誰も助けになんて来やしねーんだからよぉ。」
「むー!ムー!むーー!」
「うるせぇ!糞餓鬼!!犯されてーのか!あぁん?」
「ヒッ!?」
何なんだよこいつら。あいつらの言ってる通りならあいつらの持ってる袋の中身はつまり―――。
俺は男たちが通り過ぎるのを待って、警察に通報しようとした。しかし……。
(ケータイ高町の家に置いたままだ!クソッこんな時に限って。)
そうしている間にも男たちの姿はどんどん小さくなっている。それにこの暗闇だ、見失ったらどこに行ったのか分からなくなる。
(危険だけど後をつけて、場所が分かったら警察に言いに行こう。)
男たちの後を追ってたどり着いたのはもう誰にも使われていない廃ビルだった。
俺は、入口近くの壁に背中を預け奴らの会話に耳を傾けた。
「ほらよ。さぁて話してもらおうか。お前の家の電話番号。」
男の一人が少女の口に噛ませていた布をほどき、威圧的な声色で話しかけた。」
「ふ、ふん。だ、誰がそんなもの教えるもんですか。」
「あぁ?まだこの状況わかってないわけ?お前を生かすも殺すも俺たちしだい何だよ?」
「お、脅したって無駄なんだから。私が死んだらお金が手に入らないもの。だからあなたたちに私は殺せない。」
「聡明だねぇ。でもさぁ、言わないと君の処女貰うって言ったらどうする?」
「な、何よそれ?!そんなのイヤよ。絶対イヤ。」
「なら早いとこ教えてくれる?もたもたしてたらホントにヤっちゃうよ?」
女の子は大分粘ったがついに電話番号を教えてしまったらしい。奴等のリーダーらしき男が携帯から掛けている。
そして……そいつはいきなり携帯を地面に叩きつけ、怒号をあげた。
(少女side)
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!どういうことだ!!!何が家族の電話番号だ。孤児院の番号じゃねえか!えぇ!?」
誘拐されてこんなところに連れてこられた私は今、わたしを攫った男に首を絞められている。
「わ、私の家族は…孤児院の人たち……だもん。私の家は孤児…院なんだからしょうが………ないでしょ。」
私を誘拐した男は怒鳴り声をあげ、さらにきつく首を絞めた。
「うるせぇ!餓鬼が!!犯してやるよ。完璧に壊れるまで犯しつくしてやる!!」
「ゴホッ。は、話が……違う…じゃ…な…い……。」
「決めたぞ!!お前を完璧に壊したあとに、てめぇを殺してやる!!!!」
い…や、だ。誰、か…たす、け、て。
(凌side)
ここまで怒ったのはいつ以来だろう。前世を含めても今ほど怒りに燃えたことはないだろう。少女の首を締めあげている男を含めざっと15人。倒せるかどうかは分からない。でも、ここで彼女を見捨てたら、俺が、俺でなくなりそうな、そんな気がする。だから――――――。
(少女side)
どんどんと意識が朦朧としていく中、男たちが私の服を破っているのが分かった。
なんで…
(なんで私はこんな目に遭わなければならないんだろう。)
なんで私を……
(なんで誰も私を助けてくれないんだろう。)
なんで私を――――。
(なんで、何で、ナンデ)
なんで私を助けてくれないのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
そう強く思った瞬間、私の体はふわりと浮いて、次の瞬間には誰かに抱きしめられていた。
後書き
自分で書いてて思った。なんという超展開。
試験的に勇吾と恭也の戦闘描写を入れてみた。
ここまで書いたらこの少女が誰かモロばれだよね。