迷い込んだ男 番外編 テスタロッサ家の平和な日常
テスタロッサ家の家長プレシア・テスタロッサの朝。
プレシアは、毎朝6時には起床し、寝間着から私服へ着替えて朝食を作り始める。
アリシアを蘇生させるのに躍起になり、研究に没頭していた頃は使い魔であるリニスがいた為…ご飯は全て彼女にやらせていたのだが、その彼女も今はいない。
アリシアが生き返り、フェイトを娘として見る事ができるようになってからは…また、嘗てのように家事をするようになっていた。
「よしっ、こんなものかしら。」
朝食を見て満足気に頷いたプレシアは、朝食をテーブルに並べて…娘たちと、フェイトの使い魔のアルフがやって来るのを待つ。
「おはようございます、母さん。」
「おはよー、ママ!」
「おはよー、プレシア。」
時計の針が丁度7時を回った頃に、彼女らはやって来た。
「えぇ、おはよう。フェイト、アリシア。」
「プレシアー、わたしはー?」
「はいはい、アルフもね。」
「ん。」
朝の挨拶を終え、2人と1匹は自分の席へと座る。
そうして、他愛もない雑談を交えながら朝食を食べる。
「それでねー、そのラスボスがすっごく強くてね……」
「うーん、どのくらい強いの?」
自分が全く分からないゲームの話にも、律儀に相打ちを打つプレシア。正直なところラスボスがどうだとか言われても、ゲームの内容を知らないのだから理解しようがないのだけれど、それでもプレシアは何とかして理解しようとしている。
「え?えっと、えっとねー。」
「たぶん……Sランク魔導師くらい、だと思う。」
「あっ、そうそうそんな感じ。やっぱりフェイトの例えは分かりやすいね。」
「えへへ、そうかな。」
どういう風に例えようか迷っているアリシアに、すかさずフェイトが助け舟を出す。でもってその事をアリシアに褒められ、照れ照れと頬を染めて笑っているフェイトを衝動的に抱き締めたくなったプレシアだったが、何とか自粛する。
「Sランク魔導師…ね、それは確かに強そうね。」
「でしょ?それを私は頑張って倒したんだよ!えっへん!」
自慢げに胸を張るアリシア。しかしそこに、今まで黙々と食べていたアルフから鋭いツッコミが飛ぶ。
「…そのお陰で寝るのが遅くなって危うく寝坊しかけたのは何処の誰だったかねー。」
「う、アルフの意地悪。」
自慢げに胸を張っていた姿から一転、バツの悪そうな表情になるアリシア。プレシアに怒られるかもと思ったのだろう。
「ふふっ、ダメよ。あんまり夜更かししちゃ。」
「うぅ、ごめんなさい。で、でも今日は早く寝るから!」
しかし、怒りはしないで、優しくアリシアを諭すプレシア。怒るべきかとも思ったが、自分が夜更かしの常習犯であるだけに強く出られなかったりするプレシアだった。
「…ふぅ、何回それと同じセリフを言ったことか。」
「うぅぅ、もう!アルフー!!」
「な、何さ!ホントの事じゃないかい!」
怒ったアリシアがアルフを追い掛け回し、フェイトはその様子をオロオロしながら見ていて、プレシアは微笑ましく見守っている。
これが、テスタロッサ家の朝食時の光景である。
朝食が終われば、食器を洗う。
その後は、昼までの時間を通販サイトを見たり世界情勢を知るのに使い、まったりと過ごす。
全く以て、嘗てのプレシアからは想像もできない生活であった。
しかしまぁ―――――
「あら、この服…フェイトに似合いそうね。少し高い気もするけど…買っちゃおうかしら。それと、フェイトだけに買うとアリシアが拗ねるから…………」
――――――何にせよ、幸せそうで何よりである。
長女、アリシア・テスタロッサの昼(12:00~15:00)
アリシアという少女は、天真爛漫で何事にもアクティブな性格だ。室内で遊ぶことも好きだが、それより外で遊ぶのが好きな性格なのである。
母の許可を貰って、その昔に彼女らが住んでいたミッドチルダ南の山あい『アルトセイム』へ転移し、そこにある豊かな自然の中で遊ぶのが、毎日の日課となっている。
勿論、一人で遊ぶのはつまらないのでフェイトやアルフも一緒に。
「さて、今日は何をしよっか。」
「鬼ごっこー!」
「えと、かくれんぼ。」
澄み切った青が空一面に広がり、ギラギラと輝く日輪の照らす草原にて、3人は今日の遊びを考えていた。
「ん~、取り敢えず…かくれんぼは却下!」
「が~ん!」
「だって遮蔽物一つない草原だよ?隠れる場所なんかないし。結局は鬼ごっこになるじゃない。と言うか、実際なったし。」
「へぅ、そうだったね…ごめん、姉さん。」
肩を落としてションボリするフェイト。
「はいはい、落ち込まないの。フェイトの案だって、ここが森だったら採用だったんだから。」
「うん、ありがと姉さん。」
ポンポンと優しく頭を叩き、慰めるアリシア。
「それで、アリシア…結局誰が初めの鬼やるんだい?」
そこに、人間形態(子供)になったアルフが話しかける。会話に参加させてもらえず、若干不機嫌そうにしている。
「そりゃー決まってるでしょ。」
「は?一体だr……」
アルフがそう言った時には、既にアリシアは走り出していた。フェイトの右手を掴んで、フェイトと共に。
「なっ!?」
そうなると必然的に残るのはアルフだけになる。まぁつまりは『鬼』を押し付けられてしまった訳だ。
「ひ、卑怯だぞ!!」
「へへーん!朝の仕返しだもーん!ちゃんと10秒数えてから追い掛けなよー!!」
「ご、ゴメンねー!アルフー!」
未だに、朝の出来事を引き摺っていたのか、あっかんべーをしながら逃げるアリシア。申し訳なさそうにしながらも、持ち前の運動能力の高さで遠くに逃げるフェイト。
「ふ、ふふふふふふ。そうかいそうかい。そういう事なら容赦しないよ!」
アリシアの言動に怒り心頭のアルフ。しかし、それでも言われた事をきっちりと順守し、10秒数えてから2人…というよりもアリシアのみを追い掛け始める。………獣形態で。
「ちょっ!?アルフ、それ反則!反則!!」
「先にルール違反したアンタが言うな!」
「だ、ダメだよアルフー!」
わー!きゃー!と賑やかに叫びながら、彼女らの午後は過ぎていく。
次女、フェイト・テスタロッサの昼(15:00~18:00)
アリシアの妹であるフェイトは、姉とは対照的に物静かな性格をしている。
そんな彼女は、実のところ姉よりも運動ができ、魔法の扱いにも長けている。幼い頃から嘗て共に生活していたリニスから魔法を教わり、そのリニスが居なくなってからも…彼女の残してくれた戦斧『バルディッシュ』や、使い魔のアルフと研鑽を積み重ねてきた。
数カ月前にはアリシアという姉もでき、プレシアから親の愛情を貰えるようになった。確かに、自分がクローンだと知った時は少なからず驚いたし、ショックも受けた。しかし、涙を流して今まで冷たく接してきた事を懺悔したプレシアと、自分のことを妹として接し、可愛がってくれる姉を前にそんな葛藤など些細な事だった。
実際…アリシアのクローンと言っても、フェイトはアリシアと様々な点が異なっていた。性格も違えば利き手も違う、アリシアと違ってプレシアの魔力資質が受け継がれている等々。謂わば双子の姉妹と言った方がシックリくる間柄なのである。
なので、フェイトはアリシアと極めて良好な関係を築いていた。
「ねー、フェイトーあそぼーよー。」
「ダメだよ、姉さん。さっきまで思いっ切り遊んでたんだから勉強もしないと。」
「う、分かってるけど…退屈なんだもん。」
ペラペラと教本を捲りながらそう言うアリシア。頬杖をついてやる気無さげにしている姿は、さっきまで快活に遊んでいた元気が微塵も伺えない。
「泣き言なんか言ってないでさっさと終わらせなよ。アリシアよりフェイトの方がよっぽど大変なんだからさ。」
「あ~、そうだよねー。普通の勉強に加えて魔法の勉強もあるんだもんね。大変だねー。」
「んー、でも…もう慣れちゃったからあんまり大変って気はしないんだー。それに、私に魔法を教えてくれたリニスとの絆だから。」
今はいないリニスの事を思い出し、少し切ない気持ちになるフェイト。
「リニスかぁ…会いたかったなぁ。ねねっ、どんな感じだったの?リニスって。」
「ふぇ?どんな感じ……って?」
「う~ん、優しそうだった…とか、怖そうだったとか。」
アリシアは、使い魔になる前のリニスしか知らない為、使い魔になってからのリニスに興味津々だった。まぁ、勉強をサボれるなら何でも良かったのかも知れないが。
「う~ん、優しくて厳しかった。」
「それと、滅茶苦茶強かった。」
フェイトとアルフが、それぞれそう言う。
フェイトが思い返すのは、リニスに教えてもらった勉強や魔法。そして、訓練。
アルフが思い出すのは、リニスに教わった使い魔の役割と使命。そして、摘まみ食いした際のお仕置き。
「へぇ~、いいなぁ。私も会いたかったなぁ~。」
羨ましそうな声を上げるアリシア。最早勉強をする気は完全に失せていた。
「………………………」
「あれ、フェイトどうしたの?黙っちゃって。」
「あ、うん。母さんが念話で晩家飯できたから来なさいって。」
「ほんとっ!やったぁ!」
「フェイトー、晩ご飯って何?」
「アルフはお肉だって。」
「ぃやったー!にく、ニク、肉ー!!」
ピョンっと椅子から飛び降りるアリシアに、肉を連呼し小躍りするアルフ。
「あ、姉さん…ちょっとだけ待って。」
カリカリとペンを走らせ、文字を書き終えると…フェイトもアリシアに習って
椅子から飛び降りた。
「アリシア、フェイト!早く行こうよ!肉だよっ、肉!!」
アルフは尻尾をブンブン振って、二人を待っている。パタパタではなくブンブンなところが、アルフの喜びの大きさを表している。
これがテスタロッサ姉妹の午後である。
使い魔、アルフの夜
「ほら、アリシア…今日は早くねるんだろう?」
「んー、後ちょっと……」
「その台詞何回目だい?いい加減にしないと電源切っちまうよ!」
「それだけは勘弁してッ!ぃよしっ勝ったぁ!」
10時半をまわっても寝ようとしないアリシアに注意をするアルフ。
もう何度目かの注意にも関わらず、アリシアは一向にゲームを止める気配がない。
ちなみに、フェイトは良い子なため9時には完全に寝てしまっている。
「ほら、一段落ついたんだろ?いい加減寝な。」
「えぇ~、後もう一戦だけ~。」
「……聞いた話によると、遅くまで寝てない子は背が伸びないらしいよ。」
「何してるのアルフ!早く寝ないとだめじゃない!」
さっきまで散々渋っていたのに…アルフのセリフを聞いてからのアリシアの行動は迅速だった。さっさとデータをセーブして、自ら電源を落としてベッドに寝転んで、目を瞑って寝る体勢になる。
まったくもって現金な子である。
と、こんな感じで何も特別な事など起きずに、夜は終わりを迎えて行く。
後書き
一向にスランプから抜け出せる気配がないorz…今回のも駄文だしなぁ。
那美編も書いてるんだけど、一向に納得できるものが出来ない。皆様がネタを提供してくれたので、前よりは捗るようになったんですが……。くそぅ、崇りとのバトルの構想は頭の中にあるのに!
息抜きにこんなものを書いたんですが……出来が果てしなく微妙。最後のアルフの所が手抜きっぽいなーと思った人は正しいです。書こうとしてもあれ以上書けませんでした。早くスランプから立ち直りたい。