6月24日 AM07:50―藤見家―
「ふわぁぁぁ~~、ねむ。」
「もうっ、だらしないですよ凌。」
「そんな事言ったって眠いものはしょうがな……ふわぁぁ。」
今…俺は欠伸を噛み締め、リニスにお小言を貰いながらも、ズボンに携帯と財布を突っ込んで外出の準備をしていたりする。
休日で、いつもならまだ寝ている時間にこんな事をしているのには事情があった。
「はぁ、今日は桃子さんに頼まれて翠屋に行くんでしょう?そんな調子で大丈夫なんですか?」
「そういう事言うんなら、昨日の鍛錬は勘弁してくれても良かったんじゃないか?」
「それはそれ。これはこれです。」
学園祭で疲れてたから昨日ばかりは休みたかったんだけどなぁ、鍛錬。見逃してくれませんでした。
いつもより緩めの内容だったから気遣ってくれてはいたが。
「さよけ。……まぁ、大丈夫だろ。何の用かは知らんけど午前中に終わるって言ってたから。」
昨晩、いざ寝ようとベッドに入ったところに桃子さんから電話が掛かってきたのである。
で、肝心の要件の方だが……
『明日の朝8時くらいに翠屋まで来て貰っていいかしら。』
と、詳しいことは何も知らせてくれませんでした。
ぶっちゃけしんどいし、断ろうとも思ったのだが…『そう言えば、凌くん。昨日執事喫茶に居なかったわね。』等と含みのある言い方をされれば出向かない訳にも行くまい。もし断ったらどうなることか。
「っと、じゃあ行って来るわ。」
「はい、行ってらっしゃい。」
そうして準備を終えた俺は、バイクに跨り翠屋に向かった。
第34話「射手」
6月24日 AM08:05―翠屋―
「で、結局何で俺を呼んだんですか?」
目の前にいる万年新婚夫婦にちょっとキツメの口調で問い掛ける俺。
若干イラついているのはしょうがないと思う。だってこの2人…粧し込んで腕まで組んで、どう見ても『今からデート行きます』な恰好をしているんだもの。
こんな朝早く呼び出されて律儀に来てみればコレだよ。
絶対この人らこれからデートに行くから店番よろしくって感じの理由で俺呼んだんだぜ?殴っていいかな。
「いやー、実はこれから桃子とデーt「やっぱりかぁぁぁぁ!!!」おっと、人の話は最後まで聞きなさい凌君。」
俺の予想と寸分違わない台詞を言ってのけておいて何を言いますか。
ちなみに、衝動的につい放ってしまった顔面に向けての右ストレートは、かるーく受け止められてしまった。
くそぅ、結構本気で殴りに行ったのに。
「実はだな、今日は凌君1人でウェイターをやって欲しいんだよ。」
「??どういう意味ですか?」
「ほら、フィアッセっていつも接客してばかりじゃない?」
「そりゃ、チーフウェイトレスですからねー。」
「だ・か・ら、偶には接客して貰う立場になって貰おうと思って。」
「うん、そこで凌君の出番という訳だ。幸い今日は店を休むつもりだったし、丁度いいと思ってね。」
おぉ、思いの外まともな理由。
ってか、そんな事考えてたんだったら最初っからこの事を話して欲しかった。そしたら学園祭で取ったあの兎のぬいぐるみも持ってきたのに。
……ん?あれ?
「いいアイデアだとは思うんですけど、何で俺なんです?あと桃子さんいなくなったら料理の方はどうなるんですか?」
「あ、大丈夫よ。デザートは作って冷蔵庫に入れてあるし、モーニングセットなら凌くんでも作れるでしょ?」
「まぁ、そうですけど。……っていや、それだけじゃなくて何で俺n「じゃあ行こうか桃子!久しぶりのデートだ。」……うぉーい。」
「そうね。伝えるべきことは伝えたし、久々のデートを楽しみましょうか、あなた。」
「いや、だから……」
「あ、もう少ししたら来ると思うから、フィアッセの事お願いねー。」
そして、あははー、うふふー、と笑いながら、恋人繋ぎで手を握り合い2人は去っていった。
「………着替えるか。」
かなり強引に話を打ち切られ、遣る瀬無い気持ちになりつつも、俺は翠屋の制服に着替えるため更衣室へ入っていった。
「と言うか、フィアッセさんは高町のことが好きなんだろうから俺じゃなくて高町に頼んだ方が良いんじゃないのか?その方がフィアッセさんも喜ぶだろうに。」
ま、フィアッセさんと一緒にいるのは楽しいし、俺個人としては大歓迎なんだけどな。
ガチャ
いつも使用しているロッカーを開け、服を取り出そうと手を伸ばす。
そして―――
「………………」
バタンッ!
―――閉めた。
そりゃもう電光石火の速さで。
おかしいな、翠屋の制服じゃなかったぞ。
ガチャ
もう一度ロッカーを開ける。
そこにいつも着ている白い制服は無く、此処数日で嫌でも目に馴染んだモノが掛かっていた。
もうお分かりであろう。
掛かっていたのは昨日学園祭で着たばかりの執事服。もう二度と着る事はないと思っていた服であった。
「……マジか。」
思いも掛けない事態に呆然としてしまった俺を誰が責められよう。
これが此処に掛かっていると言うことは…要するにこれ着てフィアッセさんに接客しろって事か?……十中八九そう言いたいんだろうな、あの2人は。
「はぁ…やれやれ。」
不意打ちだったから吃驚したが……よくよく考えてみれば学祭準備期間は連日これ着て接客の練習してたんだから余り恥ずかしくない……筈だ。
いや、それはそれで駄目なんじゃないか…って気もするが。
私服を脱いで執事服に着替える。
そうして更衣室から出た俺は厨房に立ち、フィアッセさんが来る前に翠屋モーニングセットの調理に取り掛かり始めた。
だが、そこで改めて気付く。
『やっぱりこの格好は恥ずかしい』と。
学園祭の時は周りの人も同じものを着ていた上に、テンションも平常時より高かったのだから、今着ると恥ずかしく感じるのはある意味当然なのだが、俺がその事に気付いたのは相当後になってからだった。
そうして俺は軽く溜息を吐きながらも、フライパンの上に卵を投下したのだった。
6月24日 AM08:25
(フィアッセside.)
「『明日は翠屋をお休みします。凌くんを翠屋に呼んでおいたから、明日は凌くんと思う存分ラブラブしなさい!p,s,朝ご飯は食べないでねっ☆』って言われてもなー。」
愛用の白い自家用車を翠屋に向けて走らせながら、私は昨夜…桃子から送られてきたメールの事を思い出してそんな事を呟いてしまった。
朝ご飯を食べるなって言うのは……リョウと一緒に食べる為…なのかな?
んー、けど翠屋でどうやってラブラブすればいいんだろう。う~ん、一緒に働いて親睦を深める…とかかなぁ。でも、お休みだって話だし。
一応、ゆうひから貰ったSEENAのコンサートのチケットが有るけど……
うー、どうやって誘ったらいいのか分からない。それに、もし断られたりしたら……
数分後…そんな葛藤を抱えたまま、私は翠屋に到着した。
車を近所の駐車場に停め、翠屋の前まで歩いて行く。そのままドアの取っ手に手を伸ばし、引く。
そして、その扉の向こう側には―――――
「おはようございます、お嬢様。朝食をご用意しておりますのでどうぞこちらの席へ。」
―――――黒い執事服に身を包み、爽やかな笑顔を浮かべた私の想い人『藤見 凌』が、恭しくお辞儀をしながら立っていた。
「え?え?」
突然の事に混乱して、うまく言葉が出てこなかった。
何で? 似合ってる お嬢様?私の事? 格好良い。
様々な言葉・感想が頭に浮かんでは次々に消えていく。
いつもはお客さんに向けられているその笑顔が、今この瞬間だけは私一人に向けられている。そう思うだけで、胸が高鳴っていくのが分かった。
だから、こんな状態に陥って尚…私は目の前の人から目を離せなかった。そのまま言葉を発する事もせず、只々リョウを見詰め続けていた。
「お嬢様??」
「ひゃ、ひゃい!?」
「どうかなされましたか?」
「い、いえ、何でもないれす!!」
あぅ、咬んじゃった。
しかも二回も。
「そうですか。では、こちらへ。」
私の返事を聞いたリョウは今まで浮かべていた笑顔を苦笑へと変え、けれど態度はそのままに、私をテーブルへと導いてくれた。
「暫くそのままでお待ちください。直ぐに朝食をお運びします。」
「は、はい。」
椅子に座り、厨房の方へ消えていくリョウの姿をボーッと眺める。
不意打ちだった。普段見せる笑みとはまた違った接客用のクールな笑み。
お客さんに向けているソレはそれこそ何度も見たことあるが、よもや私自身に向けられる事が有るなんて全く思いもしていなかった。
しかも執事服で…だ。
好きな人にこういう事をされて、ときめかない女が一体どれだけいる事だろう。
少なくとも、この瞬間…私は確かにこう思ったのです。
――あぁ、やっぱり私はこの人が好きなんだ――
と。
料理を運んでくるリョウの姿を見て、私は改めて自分の気持ちを意識させられたのでした。
(フィアッセside.END)
6月24日 AM09:00―翠屋―
(凌side.)
「ご馳走様でした。」
「それでは食器を片付けて参ります。」
フィアッセさんが食事中の間、彼女の左斜め後ろで待機していた俺は、その言葉を聞いてすぐにそう言って食器を片付けた。
厨房の流しへ持っていって水に浸けておく。
そして、フィアッセさんの所に戻った俺は、フィアッセさんの対面の椅子に座り、上着を脱いで背凭れに引っ掛けてネクタイを緩めた。
「ふー、疲れた。」
「ふふっ、ご苦労様。」
グーっと伸びをして、首を回す。
やっぱり約30分間立ちっぱなしってのは疲れるわ。
「それで、どうでした?執事っぽかったですか?」
「んー、執事っぽいかどうかは分かんないけど…格好良かったよ、リョウ。」
「あー、あはは。何か照れますね。」
フィアッセさんみたいな美人にそう言われるとお世辞でも嬉しいもんだよなー。一瞬だけど俺って恰好良いのかも…とか思っちゃったよ。
「店に入ったら行き成りあんな出迎えが待ってるんだもん。もうビックリ。」
「あれ、桃子さん達から予め聞いてたんじゃないんですか?」
「聞いてないよー。大体、送られてきたメールには翠屋に来いって事ぐらいし…か……」
最後の方は何か段々声が小さくなっていった。なにか思い当たることでも有ったんだろうか。
フィアッセさんは、少し俯いて「ま…か、昨日…ってた…と?」とか、「ラ…ラ……てそうい……とか。」と小声で呟いている。断片的にしか聞き取れないけどやっぱり心当たりが有ったらしい。
「えーっと、昨日の内に聞いてたって言えば聞いてたんだけど……本当にしてくれるとは思ってなかったから頭の中から追い出してたみたい。」
「昨日って…夜ですか?」
「ううん、朝。」
「朝?そんな早くから計画されてたんですか?コレ。」
「私がその…ね、レコーディングの仕事で学園祭行けなかったでしょ?それを残念がってたら士郎と桃子が…その……」
「あぁ、納得しました。」
他人の為にこういう事が計画出来るあの人らは、やっぱ凄いよなー。俺が思いついた事って言ったら、射的屋で取ったぬいぐるみをプレゼントするくらいだし。何と言うか…器の違いを思い知らされるよ。
…いや、面白そうだからと言う理由も有るのかも知れないけどね……
「ゴメンね、リョウ。迷惑だったでしょ?」
「え?あ、いえいえ。別にそんな事は……」
「ホントに?」
「確かに恥ずかしくはありましたけど、迷惑って程では……それに、俺も学園祭にフィアッセさんの姿が見えなかったのは少し寂しい感じがしましたし、何だかんだ言っても…今回の事は俺にとっても都合が良かったと言うか。」
「……そっか。」
あれ、もしかして俺…今相当恥ずかしいこと口走ったか?フィアッセさんも顔赤くなって俯いちゃってるし!
「あ、あのね…リョウ!」
そんな微妙に気不味い雰囲気を吹っ飛ばしたのは、どこか必死な様子のフィアッセさんの言葉だった。
「何ですか?」
「えっと、その…あの……」
「?」
「こ、これ!今から一緒に行かない?」
「これ?」
目の前に勢い良く差し出された物を受け取り、そこに書いてある文字の意味を読み取っていく。
それは『天使のソプラノ』の異名を持つSEENAが歌うコンサートのチケットだった。
「ゆうひから2枚貰って、誰にあげようか迷ってたの。だから……」
「えと、俺なんかでいいんですか?」
「う、うん。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「え?……い、いいの?」
「予定もないし、俺でいいのなら。」
「う、うん!全然オッケー!じゃあ行こ?」
「は、はい!ってうわっ!?」
手を握られ、そのまま外まで引っ張っていくフィアッセさん。
行き成りのことに驚いて、転けそうになってしまったが、それについて店から出て行く。
店の戸締りをし、俺とフィアッセさんはコンサート会場へと向かったのだった。
6月24日 AM10:55―ホテル・ベイシティ―
あの後、フィアッセさんと俺は、海鳴市にある最高級ホテルにやって来ていた。
翠屋から徒歩で結構な距離を歩き、今はそこの地下にあるコンサートホールで二人並んで座り、始まるのを待っている状態だ。
別にフィアッセさんの車や、俺のバイクで来ても良かったのだが…フィアッセさんの「開演時間はまだまだ先だし、帰りは道路も混むだろうから……それに、ゆっくり行きたいし。」との意見により、めでたくそのように決まった。
「はー、凄いホールですねー。」
「ふふっ、今度…ママも此処でコンサートを開くんだよ。スクールの卒業生全員で歌うの。」
「って事は、フィアッセさんもですか?」
「…うんっ。」
「へぇー、行きたいなぁ。」
「チケット貰ったら、リョウにも渡すよ。」
「ホントですか?ありがとうございます。」
そんな話を2人でしていると、ステージの中央に1人の女性が歩いて来た。
「あ、始まるね。」
「そうみたいですね。」
「…SEENAです……今日は…来ていただいて、本当にありがとうございます………どうかごゆっくり…お楽しみ下さい。」
丁寧な口調で、静かにホールに響き渡る声。
お辞儀をして、一歩前に進み出る。
「……それでは、最初の曲……尊敬する、私の先生…ティオレ・クリステラの歌です。」
そして、歌が始まる。
俺たちは、静かに……コンサートの雰囲気に浸った。
「…………………」
フィアッセさんは、静かに。
でも、いつもはあまり見せない、情熱を秘めた目で…。
ずっと静かに、ゆうひさんの歌を聞いていた………。
…………………………
………………
………
コンサートが終わり、フィアッセさんは楽屋へ挨拶しに行って……少し遅くなっているようだった。
同じくホールにいた人たちが次々に帰っていくのを見ながら…俺はひとり、フィアッセさんを待っていた。
「……………あ……あれ、リョウ…もしかして待っててくれたの?」
「ええ、まぁ。」
「……ありがと。じゃ、帰ろうか?」
「はい。」
帰り道…。
俺たちは少し寄り道をして、海鳴臨海公園にやって来た。
そこで…フィアッセさんは手摺に手を置いて、海を眺めながら自分の思いを語り始めた。
俺はその少し斜め後ろに立って、同じ様に海に目を向け話に耳を傾ける。
「……やっぱり…ゆうひの歌は凄いな…ゆうひの歌を聞いた後って……なんだか、心にじんと…、歌が残ってて……それが、ずっと暖かいの。」
……確かに…。言われてみればそんな感じかも知れない。
「私も…早く、歌いたいな……」
「………………」
青空を背に、そう言ったフィアッセさんの表情は…凄く綺麗だった。
「うたを歌うって事はね……自分の魂を、人に届けることなんだって…これは、ママの口癖…」
風に靡く自分の髪を押さえ、話し続ける。
「ゆうひは、暖かい人なのね……明るくて、おせっかいで…傍にいるみんなのことが、凄く大好きで…」
「フィアッセさんに、何だか似てますね。」
「あはは、たまに言われる。星座も血液型も、全然違うんだけどね。……ゆうひのは、暖かな【好き】って気持ちでいっぱいの…綺麗な魂。」
「じゃあ、フィアッセさんのは?」
「……わたし?…私は……まだ、分からないかな……」
フィアッセさんが俺の方へ振り向いた。
その瞳には、何かを固く決心したような力強さがあった。
「……だけど…」
「え?」
「だけど、今うたったら…きっと……」
♪~~♪~♪~~~♪~♪~~♪~♪~~♪~
フィアッセさんから紡がれた言葉は、突然流れ出した音楽によって遮られた。
「わ、わたしの携帯………」
話を遮られたのがショックだったのか、ズーンと落ち込みながら鞄から携帯を取り出し、通話ボタンを押すフィアッセさん。
こちらに背を向けて、電話の相手と話をし始める。
「えぇ!?」
通話中のフィアッセさんから驚きの声が上がった。
暫くして電話を終えたフィアッセさんは、申し訳なさそうな顔をしてこっちに振り向き……
「誰からだったんですか?」
「えと、イリアっていうスクールの教頭先生なんだけど……何か、ママが多分3時間後くらいにこっちに着くからって…」
「は?え、マジですか?」
「うん。お迎えよろしくって、伝言を預かってるって。」
えーっと、って事はアレか?
ティオレさんはもう既に飛行機で日本に向けて出発していて、フィアッセさんに電話するのをイリアさんにお願いしてたって事か?
「そ、それはまた唐突な。」
「あ、あはは。ママって桃子達に負けず劣らずお茶目な人だから。でも…まさかイリアまでこんなサプライズに便乗するとは思わなかったよ。」
「連絡とかも一切無しですか?」
「うぅ、近々コンサートをこっちで開くから、もしかしたら…とは思ってたけど…連絡もなしだなんて聞いてないよー!」
「と、取り敢えず落ち着いて下さい。今から空港まで行って間に合いそうですか?」
「た、多分…何とか。と、取り敢えず行かないと!」
「そ、そうですね!」
余りに突然のことで慌てに慌てた俺たちは、結局さっきの話に触れることもせずに、この広い青空の下で一緒になって…翠屋までの道を走ったのだった。
6月24日 PM15:20―Gトレーラー―
Gトレーラーの内部にて、リスティとセルフィは今回出現したアンノウンへ対抗するための作戦会議を行っていた。
「え?今からですか?」
「あぁ、昨日の朝に見つかったあのミイラにされた被害者には、親族はいないって話だったんだが……どうも被害者の妻は子を身篭ってるらしいんだよ。」
「……まだ生まれてもいない子を狙ってくるって言うんですか?幾ら何でもそれは……」
「無い…と言い切れるか?まぁ、刑事一課の連中もそれは無いと見て、数時間前に見つかった被害者の親族周辺に護衛を配備するらしい。ま、あくまで万が一に備えてだ。出てくれば儲け物、出てこなくてもいずれ一課が張っている護衛対象の方に何らかのアクションを起こしてくるだろうさ。」
「もし本当に出てきたらどうするんですか。こっちはこの前の戦闘でダメージを負ったG2とG3の修理が今日中に終わるかどうか分からないって言うのに!」
オクトパスロードによる苛烈な攻撃によって、損傷したG2・G3は未だ完全な修理が終了しておらず、今日中に修理が完了するか怪しいのが現状だった。
「技術部に文句言っておけ!まったく、修理に必要な書類はちゃんと届けられてるだろうに。」
「それを今言ってもしょうが無いでしょう?」
「はぁ、修理完了前に現れたらG1に頼るしか無いな。いつでも連絡出来るように準備しておいてくれ。あ、一応恭也と勇吾にも連絡する用意はしておいてくれ。」
「はいはい。くれぐれも気をつけてね、リスティ。」
「分かってるよ。」
手をヒラヒラさせながら、リスティはGトレーラーを降り、被害者の妻の護衛へと向かった。
6月24日 AM15:40―ゲームセンター―
フィアッセさんと別れた後、俺は駅前のゲーセンに足を運んだ。
理由はいたって単純。要するに暇だったのだ。家に帰ってもやることないしな。
でもって、暇潰しの為の場所に選ばれたのが此処。
駅の駐車場にバイクを止め、中に入り店内を見渡す。
うーむ、しっかしゲーセンに来るのも久しぶりだ。見たことないゲームが山ほどある。
「えーっと、じゃあこの『POPOWERD HEARTS』からやってみるか。」
格ゲーのコーナーまで足を運んで椅子に座る。
ちなみにこのゲームは原作の方に出てたゲームだった筈。
確か…正しいコマンドを入れたら隠しキャラの【DK(ダークナイト)】か【ナハト】が出るんだよな。
けど…コマンドなんて憶えてないしなぁ。……適当にボタン押しまくってみるか。
これで出たら凄いんだけどな。ま、あるわけもないが。
適当にボタンを連打しまくる。
MF(マスクドファイター)
「ぶほっ!?」
現れたキャラを目にして俺は吹かざるを得なかった。
まんま仮面ライダー1号である。
適当に押したコマンドなのにまさか原作でも見たことない隠しキャラを出してしまうとは……
「よし、取り敢えずやってみるか。」
説明を読んで最低限のコマンドを把握しつつ、俺は画面へ目を向けた。
初戦の相手は忍者。如何にもと言う出で立ちで忍者刀を逆手に持っている。
初戦だから流石に弱い。
練習には最適だった。…と言っておこう。
で、技とか使ってみた感想なんだが…このキャラますます仮面ライダーっぽい。
ライダーキック・パンチ・チョップは基本。反転キックや月面キック、更にはきりもみシュートまである。初戦で確認出来たのはそれだけだが…この分だとコマンド次第ではまだまだ技の種類があるのかも知れない。
2回戦の相手は機械人形だった。
ロケットパンチやドリル、スカート捲くってミサイル発射など男のロマンを再現したキャラだった。こちらも問題なく勝利。
そしてやっぱりあった他の技。今回はスクリューキックと、投げ技としてライダー返し。そして、一時的にパワーを高めるライダーパワーを発見した。
う~ん、この世界に昭和ライダーって無かった筈なんだが……今度もう一回調べてみようかな。
気を取り直して3回戦。
今度は薙刀を得物にした巫女だった。
投げつけてくる霊符に梃子摺ったがそれでも余り苦戦せず勝利。
そのまま4回戦…と思ったのだが、画面に『New Challenger』の文字が現れ、キャラ選択画面になってしまった。
げっ、乱入者か。しかも相手が選んだのは隠しキャラの【ナハト】。だとすれば相当やり込んでるに違いない。
『ラウンド1……ファイトッ!!』
でも、せめて1回くらいは勝たせてもらうッ!
…………………………
………………
………
『あなたとは、本当は戦いたくなかったって言ったら……信じた?』
敵のキャラが勝ち台詞を言う。
『YOU LOSE』
結果は敗北。当然と言えば当然か。
1戦目は…攻撃しても完璧に防いでくるわ、一度攻撃に転じたら反撃する間もなく撃破されるわ…酷いものだった。
でもって2戦目。これはまさに運の勝ちだった。1戦目と同じ試合運びで負けそうになった為、自棄になって適当にコマンドを押しまくってやったのだ。そうしたら……
『友よ、助けに来たぞ!』
……まさかの2号登場。でもって2人で空中に跳び上がり、
『『ファイター!ダブルキーック!!』』
超必殺技を放った。で、最も驚いたのは…ほぼMAXだった相手のHPゲージが一撃で0になったことである。……流石にチート過ぎやしませんか?制作スタッフの人。
そして最終戦…先程の技を警戒してか、相手の方がリミッターを解除したらしい。こっちの防御をガード弾きで崩し、すかさず空中へ斬り上げられる。そこから空中コンボ発動。HPゲージが0になるまで空中に浮いたままでした。
あ、ちなみに最後は超必殺技で殺された。HPが限りなく0に近くなってから放つとか…相当2戦目のアレがムカついたと見える。うん、まぁ気持ちは分かる。流石にあれはチートだと思ったし、謝っておくか。
立ち上がって相手の台の方へ歩いていく。
つか、何時の間にか俺たちが対戦してた台の周辺にギャラリーが集まってるんだけど……
「おい、見ろよ…あのにーちゃん。」
「あぁ、さっきクイーンを一回倒した奴だろ?」
「そもそもあんなキャラ初めて見たぜ。相当やり込んでるにちげーねー。」
その人達からそんな言葉が聞こえた様な気がしたけど、気の所為だと思うことにした。
ギャラリーの間を縫ってさっきの対戦者の元へ歩いていく。
台には紫がかった髪をした、どこかで見たことがあるような外見の女性が…って、
「お前かよ。」
思わずげんなりした声を出してしまう。
「え?……あ。」
俺の声に聞き覚えがあったのか、向こうもこちらを振り向き、間抜けな声を出す。
その女…月村忍は口をポカーンと開けて、俺を見上げていた。
…………………………
………………
………
「いやー、それにしても此処に藤見君がいるなんて想像もしてなかったよ。よく来るの?」
「いや、今回はたまたま暇だったから来てみただけ。普段は滅多に来ないな。」
あの後、ゲーセンを出た俺たちは、近くの自販機で珈琲と紅茶を買って時間を潰していた。
聞けば月村も、家にいても暇だったからゲーセンまでノエルに送って貰ったようだ。来たのは2時だと言ってたから相当遊んでいる事になる。
「えー?その割にはゲーム強かったじゃない。製作者がお巫山戯で作ったって噂の幻の隠しキャラまで出してたし。」
「あれは適当にコマンド入れたら偶然出ただけ。二度目は無理だ。」
「そうなの?なーんだ、出し方教えてもらおうと思ったのに。」
「そりゃ残念だったな。それよりどうする?もう帰るのか?」
「んー、どうしよっかなー……藤見君は?」
「俺?んー、まぁ暇だしな。5時までは遊ぼうかと。」
と言うか、折角久しぶりにゲーセンに来たのにあれ一回だけして帰るとか勿体無い気がする。次いつ来る気になるか分からんしね。
「そっか、じゃあ私も5時までいようかな。」
「じゃあって何だ。」
「気にしない気にしない。じゃ、遊び倒しましょうかー!」
俺の手を引っ掴んでもう一度中に入っていく月村。でもって連行される俺。
まず最初に行ったのはUFOキャッチャー。
様々な模様の猫のぬいぐるみが入ったヤツに目を付け、まず最初に月村がトライ。
1分後、難なく虎柄のをゲットしていた。
一方の俺は、狙っていた白猫をゲット出来ず、代わりにネコ○ルクっぽいぬいぐるみを取ってしまった。誰かにプレゼントしても笑顔で拒否られそうな代物な為、部屋に飾るしか無くなりそうな気がする。
試しに月村に押し付けようとしたところ、「うん、それ無理。」と素晴らしい笑顔で拒否してくれた。
お次はレースゲーム。
月村はこれもやり込んでるらしく自信満々。
バイクは無いのかと聞いたところ、隠しコマンドを入力して出してくれた。
「でも、バイクだと不利なとこ結構あるよ?大丈夫?」
「やってみれば分かるさ。」
結果は俺の勝ち。
「ふふん、免許保持者嘗めんな。」と言ってやったところ、俺の方を恨めしそうな目で見てきた。
そして今度は『ダンシング・リズム・エモーションX』と言うところに連れて行かれた。俺が音ゲー苦手なの分かってて連れてきたに違いない。
結果は言うまでもなく惨敗。コイツに勝つにはきっとフィアッセさん並みのリズム感と高町並みの運動神経がいると思う。
その後も何だかんだで楽しみながら、ガンシューティングゲームや、クイズゲーム、その他いろいろなゲームを遊び尽くし、気付いたときには既に5時を回っていた。
「あ”ー、遊んだ遊んだ。」
「勝負は忍ちゃんの勝ちだったけどねー。」
「む、そんな事言ってると乗せて帰ってやらないぞ?」
「え、送ってくれるつもりだったの?」
「何だよ、意外か?」
「うん、すっごく。」
「やっぱやめた。ノエルさんに来て貰え。」
「わー、嘘々。冗談だよー!途中まででもいいから乗っけてって下さい!」
背を向けて独りで帰ろうとする俺の腕をガシッと掴んで引き止めてくる。
その態度に少し笑ってしまいそうになりつつ、予備のヘルメットを月村に投げ渡す。
「んじゃ、しっかり掴まってろよー。」
「りょうかーい。」
ギュッと月村の手が俺の腹部に回されたのを確認して、月村邸へバイクを走らせた。
6月24日 PM17:38―海鳴市品野町―
リスティは現在…とある人物を影から護衛していた。
護衛対象の名は朝霧結。今日の朝ミイラとなって発見された朝霧勇次の結婚相手だ。
アンノウンがまだ生まれてもいない命まで狙うのか分からなかったが、もしかしたら狙われる可能性があるかもしれないと思い、リスティはこうして彼女の家の前に張り込んでいた。
3か月前に結婚したばかりで旦那を亡くしたのが余程ショックだったのであろう。彼女は、縁側に腰かけ生気の無い目で虚空を見つめお腹をさすっていた。
そんな時だ。彼女のすぐ近くに、ゼブラロード―エクウス・ノクティス―がヌッと姿を現したのは。
リスティはすぐ上着のポケットに手を突っ込み、予め呼び出しておいたセルフィの番号に電話を掛け、アンノウンの出現を伝える。
「シェリー!アンノウンが出た。G2とG3は出撃できるか?」
≪アンノウンが?!……ダメ、まだどっちも修理が終わってない!≫
「ちっ、だったら月村家に連絡して、G1に出動要請をしてくれ。」
≪分かったわ。リスティはどうするの?≫
「G1が到着するまでの時間稼ぎをする。」
≪大丈夫なの?≫
「あぁ、任せろ!」
通話を打ち切り、携帯を仕舞いながら女性の元へ駆ける。
ゼブラロードの姿は、女性からでは死角になっていて見えないのか、彼女は未だにその場を動かずにいた。
「っっ!?危ない!!」
リスティは朝霧結に向かって有らん限りの声でそう叫んで警告し、彼女とアンノウンの間に割って入った。
ブルルルルルルルルッ!
「警察です、逃げて下さい!早く!!」
彼女はゼブラロードの姿を目撃すると、ヒッ…と小さく悲鳴を上げ、裸足であることも構わずに一目散にその場から逃げだした。
ブルルルルルルル!!
「行かせないよ。お前なんかに…あの人も、これから生まれてくる新しい命も消させるもんか!」
追いかけようとするゼブラロードの前に立ち塞がり、行く手を阻むリスティ。
ブルルルルッ!!
荒い鼻息を吐き、怒りの声を上げるゼブラロード。
「舐めるなよ、アンノウン。打倒するのは無理でも…足止めくらいはして見せるッ!」
パァァァァァ!
背中に6枚の光の翅が展開する。HGSとしての力の象徴…リスティのリアーフィン『トライウィングス・オリジナル』だ。
そして、リスティは宙に浮かび上がり、ゼブラロードと対峙した。
6月24日 PM17:37―隆宮市 月村邸―
「ゴメンね、結局家まで送って貰っちゃって。」
「気にすんな、元々最後まで送ってくつもりだったんだからな。」
道中何のアクシデントも無く、月村を家へと送り届けた俺は、月村と別れの挨拶を交わして自宅へ帰ろうとしていた。
此処に来る途中に気付いたのだが、実は俺…昼飯食べてなかったりする。昼間はティオレさん来日の知らせでバタバタしてたし、ゲーセンに入ってからは空腹なんか忘れる程に遊びまくってたからなぁ。
ついでに言えば、4000円近く入れていた筈の財布の中には25円しか入っていなかったりする。幾ら何でも使いすぎなので、もし今度ゲーセンに行ったとしても自重しようと思う。……月村はいつもこれくらいか、それ以上がデフォらしいが。改めて金銭感覚の違いを思い知った瞬間だった。
「折角だし、お茶だけでも飲んで行かない?」
「流石に邪魔になるんじゃないか?時間的に言えば夕食だろ?」
「それもそうか、残念。」
「まぁ、また暇な時に呼んでくれりゃいいさ。じゃな、月村。」
「そうする。じゃあねー、藤見くーん。」
こっちに手を振ってくる月村に片手を上げることで返した俺は、その場から徐々に遠ざかって行った。
此処で何もなければ、至って平穏な休日になっていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
月村の家のある隆宮市から海鳴市へ帰ってきて直ぐに、俺はアンノウンの存在を感じたのである。
「これは…原前町か!」
(リニス、聞こえるか?)
(えぇ、聞こえてます。…どうかしたんですか?)
(アンノウンが原前町に出現した。襲われている人の避難誘導を頼みたいんだが……)
即座に念話をリニスへ繋ぎ、事情を説明する。
(原前町…ですね?)
(あぁ、いつもみたいに俺の魔力辿って合流してくれ。)
(分かりました。)
リニスからの返事を聞き、俺はアンノウンのところへ急ぐためにギリギリまで速度を上げた。
6月24日 PM18:07―品野町 廃校―
「クッ!(やっぱり生半可な攻撃は通らないか。けど、大技を使おうにも…一瞬でも隙を作れば殺られる!)」
足止めは成功したものの、アンノウンは朝霧結を追うことを諦め、代わりにリスティを抹殺の対象と認識していた。
只の一度でも身に受ければ致命傷となるアンノウンの攻撃を、今まで培ってきた経験と己の能力を最大限に生かし、躱し続けていく。
しかし、何事にも限界がある。およそ30分もの間アンノウンの攻撃を紙一重のところで躱し続けて来たのだ。精神的な疲労も然ることながら、肉体的な疲労は最早限界に達しようとしていた。
ブルルルッ!
「しまっ!?」
一瞬衰えた動きを見逃さなかったアンノウンは、リスティの右腕を鷲掴みし、校舎へとぶん投げた。
「ガフッ!」
人外の力で壁に叩きつけられたリスティは、苦しげな声を上げて痛む肉体を奮い立たせようと必死に歯を食いしばった。
気力を振り絞り、眼前の敵を親の敵のように睨みつける。
ブルルルルル
意識を失う寸前…彼女が見たのは、自分の首を掴もうと腕を伸ばしてくるアンノウン――――
「はぁぁぁぁっ!!」
――――に向かってバイクによる突撃を敢行するG1の姿だった。
ブルァァァッ!!
ゴシャッという鈍い音と共に数メートルもの距離を吹っ飛ばされるアンノウン。
しかし、ダメージはそれ程ではないのか、すぐさま立ち上がってG1に向かって突撃してくる。
G1もビートチェイサーから降り、拳を構えてアンノウンを迎え撃つ。
ブルルルルッ!!
アンノウンの拳がG1の顔目掛けて放たれる。
それを右手で弾いて、左の拳でアンノウンの顔面にカウンターを喰らわせるG1。
更に、怯んだところへ右足から放った中段蹴りを炸裂させる。
ブルルルルゥゥッ!!
「なっ!?」
しかし、アンノウンはそれを持ち堪えた。しかも、驚くべきことにG1の右足を掴んで宙に放り投げたのだ。
「きゃぁぁぁぁ!!」
地面に落下したG1は胸部ユニットを強打し、損傷箇所から火花が散る。
「あ、くぅっ……」
G1は起き上がって再び戦おうとするが、アンノウンは情け容赦の欠片も無くその隙を狙って、さっきG1がダメージを受けた箇所へと蹴りを入れる。
「ぐ、ふっ!」
≪胸部ユニット損傷!バッテリー出力90%まで低下!さくら様!!≫
苦しそうな声を漏らしながらも、G1はアンノウンの腰へと蹴りを入れる。
起死回生のその一撃は、アンノウンを数歩後退させることに成功し、G1は体勢を立て直した。
すかさず反撃へと転じ、飛び膝蹴りを腹に喰らわせて一瞬体を宙に浮かせ、足が地面についたのとほぼ同時に右足を引く。
そして―――
ブルルルルゥゥ!!
―――渾身の回し蹴りがアンノウンの頭部を捉えた。
吹っ飛び、フェンスに激突するアンノウン。
これを好機と見たG1は、ベルトの赤いボタンへ人差し指を伸ばし、『マイティキック』を放とうとする。
しかし、その指は止められた。いや…止めざるを得なかった。
ブルァァァァァァァァァ!!!!
アンノウンが嘗てない程の叫び声を出し、辺りが段々と暗くなっていく。
何かが、起ころうとしていた。
6月24日 PM18:12―原前町―
G1が黒のゼブラロードと死闘を繰り広げているのと時を同じくして、凌も白のゼブラロードと対峙していた。
「変身ッ!!」
襲われていた人をリニスが逃がし、その場に残った凌は…変身ポーズを取ってAGITΩへと変身。
AGITΩ!
ゼブラロードへ戦いを仕掛けた。
ブルルルル!
「ハァァァ!!」
横薙ぎに振るわれた左腕を回避し、AGITΩはゼブラロードのボディへと拳を振るう。
一瞬よろめいたゼブラロードだったが、瞬時に体勢を立て直して反撃に移る。今度は右腕を振り下ろし、AGITΩの肩を狙う。
ゼブラロードの狙いに気付いたAGITΩは、それを左手で払い除け右の手でアッパーを喰らわせ、次いでキックを見舞う。
ブルルルル!!
堪らず吹っ飛ぶゼブラロード。
そのチャンスを逃すまいと、AGITΩは自身のクロスホーンを展開。
足元に紋章を出現させ、一気にトドメを刺そうとした。
しかし、その時…異変が起きた。
ブルァァァァァァァァァ!!!!
突然ゼブラロードが咆哮したのだ。
するとどうしたことか、まだ太陽が完全に沈んでいないのにも関わらず、辺りを暗闇が包み始め…霧まで発生してくるではないか。
「なっ!?」
思わず驚きの声を漏らすAGITΩ。
アッという間に辺りは暗闇と霧によって覆われ、AGITΩはその視界を奪われる事となった。
偶然か必然か…それは、品野町でG1達と戦っている黒のゼブラロードが咆哮した時と全く同じ時間に発生した。
6月24日 PM18:15―品野町 廃校―
「そんな……」
G1は困惑していた。
いや、この場にいる全員が…と言い直すべきだろうか。
日が沈んでいないのにも関わらず、辺りを包んだ暗闇…まるで今が深夜なのではと勘違いしてしまうような真っ暗闇だ。
だが、真に彼女らを混乱させていたのは、恐らくこの異常事態の現況であるアンノウンの姿を、全く捉えられないことだった。
単なる暗闇であれば、G1は何の問題も無く敵を発見…攻撃を仕掛けることができる筈だった。
「駄目、アンノウンを発見できない。ノエル、そっちは?」
≪センサーにも反応なし。……逃げたのでしょうか。≫
「これだけの能力を逃亡に使う?確かにありえないとは言い切れないけど……ッ!あぐっ!?」
≪ッ!?さくら様!どうしたんですか?!≫
「いきなり、攻撃が……」
驚くべき反射速度でアンノウンの攻撃に対応したG1であったが、完全には防ぎきれず、右腕にダメージを負った。
≪なッ!しかし、センサーには何も!?≫
「ガッ!?ゴホッ!こ、今度は…前?冗談でしょ、全く見えなかった。」
腹部に攻撃を受け、地面を転がるG1。しかし、依然アンノウンの姿は見えなかった。
≪さくら様…これは……≫
「姿を、消してる。でも、まさかG1の性能でも捉えられないなんてッ!ぐっ!?」
姿が見えないのを良い事に、アンノウンはG1へと攻撃を続ける。
G1は、己の直感を頼りに何とか致命傷を負わずに済んでいるが、着実にダメージを負い…バッテリー出力が落ちてきていた。
「くうっ!」
≪バッテリ出力、60%まで低下!さくら様、これ以上は!≫
アンノウンの猛攻撃により、G1は右肩の装甲が外れ、その他の部位にもダメージが蓄積されて行く。
このままではジリ貧になると考えたさくらは、ノエルにある提案をした。
「はぁ、はぁ…ノエル……『ペガサス』を使うわ。」
≪!?……危険すぎます!忍お嬢様の説明によれば、『ペガサス』の活動時間はバッテリー出力最大時でも90秒が限界…今の60%なら動けても約40秒しかッ!≫
「現状打てる手はそれしか無いわ。この状況を打破するには、忍が太鼓判を押すくらいの索敵機能を持った『ペガサス』に賭けるしかないのよ。」
≪しかし……≫
「忍の作ったG1と私を信じなさい。大丈夫、必ず勝つわ。」
≪……分かりました。≫
ノエルを説き伏せ、さくらはベルトに指を持っていき、そこに付いている緑のボタンを押した。
≪Change Pegasus Form≫
電子音声がベルトから流れ、直後…G1の体の色が赤から緑へと変わる。
『ペガサスフォーム』へフォームチェンジが完了すると共に、G1の頭部に搭載された…高性能なセンサーの数々が一斉に起動。
見えない敵の姿をさらけ出そうとフル稼働する。
「見つけた!」
数秒後、センサーの一つがアンノウンの姿を捉えた。
アンノウンはG1の左側面で腕を振り上げ、攻撃の姿勢を取っていた。
G1はそんなアンノウンへ足払いを仕掛け、転倒させる。
自分の位置がバレているとは毛ほども考えていなかったアンノウンは、簡単にバランスを崩した。
その隙に、G1はビートチェイサーのところまで疾走し、新たに搭載された『ペガサスフォーム』専用武装、『ペガサスランチャー』を取り出した。
≪バッテリー出力30%!急いで下さい!≫
ノエルの警告を聞きながら、さっきアンノウンがいた場所へ振り返り、その姿を探す。
アンノウンは、さっきのがマグレだと思っているのか…呆れるほど無防備にG1に向かって突進してきていた。
G1は左手でペガサスランチャーを構え、右手でベルトの緑のボタンを押す。
≪Charge Up≫
電子音声が流れ、エネルギーが腕を伝ってペガサスランチャーへと送られる。
ブルルルルルル!!
≪Full Charge≫
エネルギーの蓄積が臨界に達し、バッテリー出力が低下する。
G1はランチャーを構え、十分に狙いを定めてから…そのトリガーを引いた。
発射された弾丸は真っ直ぐに飛び、命中。
ブル、ルルルゥウウ!!!
G1のエネルギー総量の約半分を込めた弾丸をその身に受けたアンノウンは、頭に光の輪を出現させて爆発した。
同時にG1も、バッテリーの残量が0となり、装甲の色を白へと変えてその場にへたり込んだ。
まさに、さくらの忍への信頼と、彼女の決断力の勝利であった。
6月24日 PM18:17―品野町 廃校―
「チィッ!離れろ!」
感覚が驚異的に強化されるフレイムフォームに覚醒した凌にとって、視界を奪われたのはそれ程痛くないはずだった。
しかし、流石にアンノウンも学習しているようで、AGITΩがフォームチェンジをしようとベルトに手を持っていくと、悉く腕にしがみついて来て妨害してくる。
AGITΩは一旦距離を離して、何とかフレイムに変わろうとするが、思うように距離を開けられない。
ブルルルルルッ!!!
「このっ!又か!!」
またもしがみついて来たゼブラロードを振り解く。
しがみついて来たところを攻撃すれば……とも思ったが、いまいち決め手に欠けた為に却下せざるを得なかった。
「ぐっ!しまっ!?」
姿が見えないため、背後に回られたことに気付かず、AGITΩは首を絞められてしまう。
「こ、のッ!」
苦し紛れに肘鉄を喰らわせるが、いまいちダメージを与えられない。
逆に突き飛ばされ、地面に投げ出されてしまう。
すぐに起き上がろうとしたところへ、姿を消したゼブラロードはAGITΩを踏みつけ地面に這い蹲らせる。
「ぐ、う……」
思い切り踏みつけられ、起き上がろうとしても起き上がれないAGITΩは、どんどん体力を消耗して行く。
「ア、 ギッ!」
「凌!!」
そんなAGITΩの危機を救ったのは、彼のパートナーであるリニスだった。
AGITΩがアンノウンに踏みつけられているのを悟ったリニスは、姿が見えないにも関わらず、フォトンバレットを倒れているAGITΩの上目掛けて3発放ち、そのうちの一つが見事アンノウンを捉えた。
吹っ飛び、壁に激突するゼブラロード。
それを好機と見たAGITΩは、即座に立ち上がって後方へ大きく跳躍し、ベルトの右のドラゴンズアイを叩いて、フレイムフォームへと形態を変える。
賢者の石が赤く染まり、光を放つ。
そこに右手を持っていき、フレイムセイバーを引き抜く。
装甲の色が赤に変わり、右肩にプロテクターが装着される。
「………………」
AGITΩは、神経を極限まで研ぎ澄まし、敵の位置を探る。
シャカンッ!
握ったフレイムセイバーの鍔の装飾を開かせ、6本角に変化させる。
フレイムセイバーの刀身から凄まじい熱が放出される。
「……………ッ!!」
敵の位置を攫んだAGITΩの行動は迅速だった。
振り向きざまにフレイムセイバーを一閃。
背後から首を狙おうとしていたゼブラロードは、上半身と下半身を真っ二つに切断され、爆散した。
そして、アンノウンを倒したAGITΩは、リニスと共にその場から去っていった。
そこから遥か離れたビルの上…倒され、消滅したゼブラロードのいた場所を、オーヴァーロードは詰まらなそうに見つめていた。
おまけ―解説―
補足説明①:今回出てきたアンノウンの特殊能力について
完全なオリ設定。
低格のロードは単独使用不可能。
今回ゼブラロードが使えたのはオーヴァーロードが気まぐれに力を貸した為。
補足説明②:気絶したリスティ
ノエルたちが警察まで運びました。
ついでに言うと、意識が回復したらセルフィによるお説教が待ってます。
以上。他にも気になったことがあれば感想で言って下さい。出来る限り答えます。
後書き
どうも、久々の更新で皆様に忘れられていないか心配ですが、何とか34話投稿です。
書いても書いても気に入らず、何回も書き直した結果がこの話です。それでも納得のいかないところは多々あるんですけどね。これでも大分マシになった方なんですよ、はい。アンノウンの特殊能力については…ノリと勢いの結果としか言えないです。(ペガサス出すにはコレしか思いつかなかっただけ。)まだ忙しい日々は続きそうなんで更新遅くなるかもですが、気長に待っていただければ幸いです。
P,s,次の話は【IFゆうひEND】にしようと思うんだけど……どう思う?