第十三話「契約」
「それで?一体どういうことなんだ?」
猫が人になったことで、またもパニックに陥った俺が落ち着いてから、事情を説明されることになった。
猫が人になったり、頭に声が聞こえたり、不思議体験ってレベルじゃねぇよ、これ!
「はい、信じて貰えるかは分かりませんが、私は此処とは違う世界から来ました。」
猛烈に嫌な予感がした。
「それに、私は人間じゃないんです。つい最近まである人物の使い魔をしていました。名前はリニスっていいます。」
ええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!
なんで『リリなの』のキャラがいるんですかーー?!
とらハの世界じゃなかったの!?ココ!
…あれ?でも、リニスって最終的に死んじゃったんじゃなかったっけ?
それに………使い魔を『していました』?
「あの……信じてもらえませんか?」
「え?あ、ああ。し、信じます、信じますとも!」
「そうですか、良かったぁ。」
あははー。やっぱ魔導師とかもいるんだろうなー。ある人ってプレシアのことだろうし。
「えっと、とりあえずもっと詳しいこと聞きたいんですけどいいですか?」
「あっ、はい。」
とりあえず気になっていることから聞いていこう。
「さっき使い魔をやっていた。って言いましたよね。それってどういうことなんですか?」
「言葉の通りです。あの人との契約はもう切れました。今は、体内に残っている魔力で人型になっているんです。魔力が無くなれば、私はただの山猫に戻ります。」
契約が切れたってことは、フェイトの育成やバルディッシュは完成してるってことか。
「じゃあ2つ目、何で俺に正体を明かしたんだ?そう言うのって普通バラすものじゃないんじゃない?」
俺がそう言うと、リニスは険しい表情になり、こう言った。
「実は、あなたに頼みがあるんです。」
「頼み?」
「はい。」
寝床貸してほしいとかか?
「私と、契約して欲しいんです。」
「は?契約?」
「そうです。」
………何ィィィィイ!!??
「何で俺!?いたって普通の一般人ですよ?」
「気付いていないでしょうが、あなたには魔力があります。お願いします!私と契約してください。いま猫に戻るわけにはいかないんです!」
あまりに必死な様子なので、何かあると思い、まずはそれを聞き出してから決めることにした。
「………理由を教えて下さい。そこまで契約を急ぐ理由を。」
暫くして、ポツポツとリニスは沈痛な面持ちで語り始めた。
「私とあの人、プレシアの契約内容は、プレシアの娘、フェイトの育成だったんです。それが終われば、私は役目を終えて消えるつもりでした。……けれど、私は偶然見つけてしまった。」
「見つけた?何を……」
「とある計画が書かれたデータです。何をしようとしているのかは分からないけど、『第97管理外世界』つまり此処に、古代文明の遺産『ロストロギア』と呼ばれるものをばら撒くつもりなんです。そして、プレシアはそれをあの子に回収させるつもりなんです。」
「ちょっと待ってください。聞き慣れない言葉が出てきたけど、まぁそれは後で良いです。何故ばら撒いたロストロギアとやらをまた回収させるんですか?」
そのロストロギアは十中八九ジュエルシードの事だろうが、それにしてもおかしい。あれは確かユーノが見つけた物のはずだ。原作が始まるのはなのはちゃんが3年生の時、つまり2年後だ。何故こんなに早くそんな計画が立ち上がっている。
「分かりません。けど、データの中にはそのロストロギアに関する文献が載っていました。それには、願望を叶える恐ろしく強大な魔力を秘めた宝石だと書いてありました。もし、それが暴走すればこの世界が滅んでしまうかもしれません。」
「それが実行されるのはいつか分かりますか?」
「準備を整えてから。と書いてありましたから、今すぐという訳ではなさそうですけど……」
「つまり、正確な日時は分からないってことか。」
恐らく実行は2年後だろう。準備というのは多分フェイトの戦闘訓練、それに管理局への対策といったところか?
「無茶を言ってるのは分かってます。でも、私はこれを止めたいんです。私と「分かった。契約しよう。」えっ?」
「えっ?じゃなくて、オーケーだって言ったんですよ。」
「ほ、本当ですか?」
「ええ、そこまで教えて貰っといて拒否する訳にもいかないですし。」
「あ、ありがとうございます。」
契約するのはいいんだけど……使い魔って魔力消費するんだよな、確か。俺どれくらいあるんだろ。疑問に思ったので俯いて何か作業しているリニスに聞いてみることにする。
「なぁ、リニスさん。俺ってどれくらい魔力あるんだ?」
「え?そうですねぇ、ランクで言うならAってところでしょうか。」
また微妙な数値だな。いや、AAAとかあっても、デバイスとかないし宝の持ち腐れだからそれはそれで困るんだけどさ。
「それじゃあ準備できましたので、こっちに来て下さい。」
「へ?」
先ほどから俯いて作業していたのは魔法陣を書いていたようだった。っていうか……
「何で手書き!?魔法で作るんじゃないの?そういうのって。」
「本来はそうするんですが、生憎と魔力がもう限界でして。」
ああ、だから床に書いたんですね。手書きでもいいのか、魔法陣って。でも、よりにもよって油性ペンで書かないで欲しかったよ。
そんなことを思いながらも俺は魔法陣の中に入り、リニスと真正面から向き合う。
「じゃあ、目を瞑って下さい。」
「分かりました。」
……あれ?何で目を瞑る必要が?
「なぁ、リニ」
うむっ!?
!!!!!!!!?????????
眼を開けた瞬間、魔法陣から光が溢れ、リニスが俺の口を唇で塞いだ。
キスされた。前世を除いたら初めてのキスである。
顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。
徐々に光が収まっていく。
完全に光が消えたところでリニスが唇を離した。
「あの、ゴメンなさい。契約自体は儀式魔法でしようと思ったんだけど…どうしても魔力が足りなくて、それで……」
「い、いや、別にいいです。驚いただけだから。」
そう強がってみたが俺の心臓は壊れるんじゃないかと思うほど激しく鼓動していた。
「そう…ですか。なら、よ、良かった…です。」
よく見るとリニスのほうも顔が真っ赤に染まっている。
俺たちは気恥ずかしくて数十分の間、目をあわせることができなかった。
ようやく落ち着いてきたので、気になっていたことを聞いてみることに。
「なぁ、リニスさん、使い魔って契約者の魔力を消費して生きてるんだよな。」
「ええ、そうですよ?」
「俺の魔力で足りてるのか?」
「はい、それは大丈夫です。あなたの魔力を全部貰っちゃってますけど。」
そりゃそうか。よく考えれば、足りなかったら契約して欲しいなんて言わないだろうし。
「ああ、それなら良いんです。どうせ魔力なんて有っても使えないんなら宝の持ち腐れだし。」
デバイスもないし、使い道がないからホントに豚に真珠・猫に小判って感じだよなぁ。
まぁ、それはそれとして。
「それで、これからの事なんだけど………」
話を切り出した直後、ぐぅ~。と俺の腹の虫が鳴った。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
どっちも無言で見詰め合う形になった。
き、気まずっ!
「ふふ、じゃあ話は後にして晩御飯食べましょうか。私作りますから。」
「いや、そんなことしなくても自分で作りますよ。」
「いえ、私が作りたいんです。それとも、私の作る料理は食べたくありませんか?凌。」
そう言ってリニスはにこりと笑い、台所に歩いて行った。
リニスの作ってくれた夕食は、とても美味しかった。
食べている途中に、これからの事を大まかに決めた。
最初にリニスが「とりあえず、私はあなたの使い魔になったんですから呼び捨てで良いですよ。」と言ったので、これからは呼び捨てで呼ぶことに。
リニスは家にいるときは猫形態で過ごすらしい。ただし、俺の親がいないときは人型になって使い魔らしく世話を焼きたいんだとか。
それにしても……今日はいつにも増して波瀾万丈の1日だったなぁ。
後書き
PT事件を私なりに解釈してみた。詳しいことは設定にて。矛盾がありましたらご指摘お願いします。
主人公は地味に魔力持ち。ただし、リニスの維持で全部持っていかれます。
プレシアが「あなたほどの高性能な使い魔、維持するのも楽じゃないのよ。」と言っていたことから推測して、これくらいは必要かなと思い、ランクはAにしました。