今、新入生として『私立風芽丘学園』の校門前に立っている俺は何処からどう見ても普通の高校生。
名前は藤見 凌。
実は最近、親の仕事の都合で子供の頃から住んでいた土地を離れ、海鳴市に引っ越してきたのだ。
「お父さんの仕事の都合で海鳴市ってところに引っ越すことになりそうなの。」
中学3年の時に母さんからその言葉を聞き、進学先を此処に選んだ。
幸い学力は十分足りていたし、母さんと父さんも乗り気だったのが主な理由だ。
新たな土地での新生活に、「オラすっげぇワクワクすっぞ」と、ばかりに気持ちが高ぶっている。
そうして俺は校門を通って、校舎の中に入って行った。
けれどこの時、俺は全く知らなかった。
この2年後、この海鳴市で起こる事件の事を。
そして、それに自分が否応無しに関わって行く事になる事を。
『藤見 凌』
これから先、過酷な運命を背負う事になる男の名前であった。
第一話「出会い」
自分で言うのも何だが、俺は極々普通の一般人だ。しいて他の人と違うところを挙げるなら、前世の記憶をある程度持ったままこの世界に転生したらしいってことぐらいかな。
まあ、転生したと言っても、今では前世での思い出なんてモノは殆ど覚えていない訳なのだが。
とは言え、死んだ時の事は今でも結構ハッキリと覚えている。
義妹に心臓を一突き。
それで、前世の俺は死んだ。
今でも不思議なんだが…何で俺は刺されたんだろう。
初めて出来た彼女を紹介しただけだったと思うんだが……
ま、まぁ、それはさて置き、転生してから早15年間、俺はこの世界が普通の世界だと信じて疑っていなかった。
いや、餓鬼の頃は一応アニメとかの世界だった時のための対策はしてた。
アニメや漫画、ライトノベルとかのファンタジー満載でメルヘン万歳な世界である可能性を考慮して、常に目立たないよう地味な態度を心掛けてきたり…とかな。
厄介事に巻き込まれて二回目の人生も早死にするなんてゴメンだからな。
けど、俺は知らず知らずの内、とんでもないミスを犯していた事に気付いていなかった。
当たり前の事だが、新しい記憶が増えるに伴い、古い記憶はそれに埋もれてどんどん劣化の一途を辿る。
俺は年を重ねるにつれ、漫画やアニメのシナリオなどを思い出せなくなっていった。
しかし、それで良かったのかも知れない。
そのお蔭で、俺は過去の記憶などに囚われる事なく、『藤見 凌』としての人生を始める事が出来たのだから。
さて、校長先生の長い話も終わったみたいだし、思い出話はここまでにしておくか。
数時間後、入学式が終わり、自分のクラスであるC組に着いた俺は、さっそく友達になれそうな奴を探していた。
何せ中学からの友人が1人もいないのだ。新しく越してきたと言う事もあって、友達を作るのも一苦労なのである。
結局俺は、他のグループの中に入っていく勇気もなく、担任の先生が来るまで何もできなかった。
先生が自己紹介をしている間、俺はこのまま友達ができなかったらどうしようか……いやいや、ネガティブいくない。
「はい、次の人~。」
「高町恭也です。趣味は釣りと盆栽と昼寝です。家は喫茶店を経営しています。1年間よろしくお願いします。」
そうやって下らないことを考えていたら、いつの間にか生徒たちの自己紹介が始まっていた。
「はい、じゃあ次~。」
「月村忍。趣味などは特にありません。」
「………」
「………」
「えっと、それだけですか?」
「はい。」
「え~、じゃあ、はいっ!次の人!」
あれ?高町恭也に月村忍?どっかで聞いたような……。
「藤見君?藤見くーん?君の番ですよ~?」
げぇっ!?考え事してたせいで気付かなかった!
「は、はい! 名前は藤見凌。趣味は読書とゲーム。特技とかは特にありません。最近S県からこっちに引っ越してきたばかりなんで、分からないところだらけですがよろしくお願いします。」
「ボ~としてたらダメですよ?次からは気を付けてね。じゃあ次の人~。」
先生から軽いお叱りを受け、俺は席に着いた。
ようやく全員の自己紹介が終わり、その後は明日からの連絡などを聞いて、後は下校するだけになったのだが……。
すごく………予想外です。
今、俺の机を中心に人が集まっています。
どうやら俺が前に住んでいたところの話が聞きたいらしい。
あぁ、今日は1日を町の探索に使おうと思っていたのに、この調子だといつになることやら。
あれやこれやと質問を投げ掛けられ、やっとのことで質問攻め地獄から解放された時には、すでに1時間以上が経過していた。
「結局こんな時間になっちゃったなぁ。」
一旦家に帰って昼食をとり、後片付けが終わった時にはもう3時を過ぎていた。
「まぁ、夕食まで3時間以上あるし、ここら辺の地理を把握するだけなら十分か。」
と、探索を開始したのも束の間、2時間後、俺は自分の迂闊さを呪うこととなった。
「迂闊だった。目的もなく歩くにしてもせめて金は持ってきておくべきだった」orz
家がどっちにあるのかさえ分からないどころか、ここがどこなのかも分かりゃしない。
いや、落ち着け俺。KOOLになれ、KOOLになるんだ。
幸い住所は解ってるんだから交番に着きさえすれば頼りになるお巡りさんが教えてくれるはずd…………交番がどこにあるのか分からねえorz
「…………………えぇい!最終手段だ。もう、形振り構っていられない!あの喫茶店で店員さんにでも聞いてみよう。」
正直、「迷子になったんで道教えて下さい」とか聞くの恥ずかしいけど背に腹は代えられない。
うちの母は少しでも帰ってくるのが遅かったら警察に連絡しかねないからなぁ。(遠い眼)
おっと、そんな事考えてる場合じゃないな。
兎にも角にも、入ってみなければ始まらない。
意を決して、俺はその喫茶店の扉を開いた。
そこには一種異様な光景が広がっていた。
ウェイターの男性が女性客にケーキを運び、女性客が何処かうっとりとした表情で熱っぽい視線を向ける。
すると、それを見た眼鏡を掛けたウェイトレスの女の子が、何故か厳しい視線をウェイターに向けて送った。
そして、それを見た男性客連中が声を揃えて、(しかし微妙に小声で)「イイッ!!」と言った。(何が?)
そして極めつけは、小さな女の子がピョコピョコ跳ねながらカウンターにいる男性(何処となく店長っぽい雰囲気の人)に、「おとーさん、なのはちゃんとちゅうもんとれたよー。」と言ってはしゃいでいるところだ。
いや、それだけならばまだ良い。癒されるしな。
問題は…その男性が滅茶苦茶緩み切った顔で「おぉ、偉いぞなのは!」と言って頭をこれでもかと撫で回している事だ。
あれ、喫茶店ってこんな感じだったっけ?」
「あら、いらっしゃいませ。」
途中から思わず声に出してしまっていたらしく、その呟きが聞こえたのか、カウンターから二十歳ほどの女性が顔を出していた。
「ただ今席が埋まっておりまして、カウンターの方で宜しいですか?」
「へっ?あぁ、いえ。俺、客として来たんじゃないんです。最近この辺りに引っ越してきたんですけど……道に迷ってしまって。」
うぅ、やっぱ恥ずかしいなぁ、この年で迷子だなんて初対面の人に言うのは。
「まぁ、それは大変ね。」
「それで…えっと、地図でも貸して頂ければと思いまして。」
「わかったわ、少しここで待っててね?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
ふぅ~良かったぁ。一時はどうなる事かと思ったけど、これで家に帰れるな。
しばらくして、女性が小走りで戻ってきた。
「おまたせー。はい、これが地図よ。」
そして、その女性はそう言って、隣に立っている全身黒一色の服を着た男性を指差した。
よく見ると、先程までウェイターをしていた男性のようだ。
「はい?」
え?何?どういう事?
「はぁ~、母さん、初対面の人に何言ってるんだ。」
「あら、あんた無愛想だし、地図と同じで喋らないじゃない。」
「……母よ、あなたから見た俺はそれほどまでに無愛想だと言うのか。」
「そう言うのは友達が最低5人くらい出来たら言いなさい。あんたの友達は私の知る限り赤星君だけよ。」
「むぅ。」
完全に置いてけぼりを喰らってしまった。
「さっきは家の母がすまなかった。軽い冗談だから流してくれると助かる。」
話について行けず、暫くの間ボーッと突っ立っていた俺に男性が気付き、声を掛けてきた。
「あ、あぁ、元々無茶言ってお願いしたのは俺の方ですし。気にしてはいませんけど。」
「そうか、そう言って貰えると助かる。じゃあ、行こうか。」
「は?行くって何処にですか?」
「事情は母さんから聞いた。道に迷ったんだろう?住所を教えてくれ、案内しよう。」
地獄に仏とはこの事だ!地図を見せて貰えなくて落胆しかけていたが、地元の人が案内してくれるんなら、こんなに頼もしい事は無い。
「是非、お願いします。」
そうして俺は無事に自宅へ帰れる事になったのだった。
「あ、そう言えば、君はどこの学校の生徒なんだ?」
家までの帰り道、親切な黒服の店員がそんな事を聞いてきた。
「風芽丘学園の新入生です。そう言うあなたは?」
「俺も君と同じで今日から風芽丘の新入生だ。だから敬語は要らん。」
「ん、じゃあそうさせて貰うわ。」
何とビックリ。俺よりも年上に見えたこの店員さんはどうやら同じ学年らしい。
と言うか、さっきから思ってたんだけど、この店員さんの事どっかで見た事があるような気が………あ、もしかして。
「なぁ、もしかしてだけど…お前の名前って『高町 恭也』だったりする?」
「む、確かに俺は高町恭也だが、何故それを知っている?」
やっぱ同じクラスの高町かー-!!
同じ教室にいたのに今の今まで気付かなかった俺たちって一体……
「俺もついさっき思い出したんだけど、俺とお前…同じクラスだ。」
「…お前の名前は?」
「藤見凌だ。まぁ、今日が入学初日だし覚えてなくても無理ないか。」
「そうだったのか。すまない。」
そう言って頭を下げる高町。
「いやいや、俺が思い出せたのも偶然みたいなもんだから気にしないでくれ。」
しかし、これは友達を作るチャンスかも知れん。
何となくだが高町とは気が合いそうな気がするし。
「お、此処だな。藤見、着いたぞ。」
「うん?おぉ、あそこに見えるは散々探した俺の家。ありがとう高町、恩に着るよ。」
「気にするな。困った時はお互い様と言うだろう。じゃあな藤見、また明日学校で会おう。」
「おーう、じゃあな高町。」
そうして俺たちは別れた。
数分後、高町に「友達になろう」と言うのを忘れて、俺は途方にくれる事になる。
……俺ってヤツぁ orz
後書き
修正しました。の割に文章量も余り増えてないし微妙ですね。
まぁ、前のよりは多少マシになったんではないかと。