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No.11290の一覧
[0] 【完結】幼なじみは悪魔の子 (ワンピース オリ主)  [くろくま](2012/05/21 00:49)
[1] 第一部 プロローグ 「異端児」 [くろくま](2010/03/27 22:21)
[2] 第一話 「母親」  [くろくま](2010/01/15 22:03)
[3] 第二話 「慈愛」 [くろくま](2010/01/15 22:06)
[4] 第三話 「訪問者」[くろくま](2009/11/16 22:22)
[5] 第四話 「悪魔の実」[くろくま](2009/10/31 10:08)
[6] 第五話 「日常」[くろくま](2009/10/31 10:15)
[7] 第六話 「別れ」[くろくま](2009/10/30 22:56)
[8] 第七話 「血筋」[くろくま](2009/09/10 19:51)
[9] 第八話 「秘密」[くろくま](2009/09/11 20:04)
[10] 第九話 「どうでもいい」[くろくま](2009/09/11 20:13)
[11] 第十話 「チェックメイト」[くろくま](2009/09/11 20:26)
[12] 第十一話 「最高手」[くろくま](2010/03/13 12:44)
[13] 第十二話 「悪魔の証明」[くろくま](2009/09/11 20:31)
[14] 第十三話 「お母さん」[くろくま](2009/09/11 20:40)
[15] 第十四話 「ハグワール・D・サウロ」[くろくま](2009/09/09 19:55)
[16] 最終話 「if」 第一部 完結[くろくま](2009/09/13 00:55)
[17] 第二部 プロローグ 「二人の行き先」[くろくま](2009/11/16 22:34)
[18] 第一話 「コーヒーと温もり」[くろくま](2009/11/16 22:37)
[19] 第二話 「老婆と小金」[くろくま](2009/11/16 22:47)
[20] 第三話 「遺跡と猛獣」[くろくま](2009/09/22 00:15)
[21] 第四話 「意地と酒」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:10)
[22] 第五話 「意地と賞金稼ぎ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:06)
[23] 第六話 「意地と残酷な甘さ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:02)
[24] 第七話 「羅針盤と父の足跡」[くろくま](2009/09/27 02:03)
[25] 第八話 「クジラと舟唄」 [くろくま](2009/10/02 00:50)
[26] 第九話 「選択と不確かな推測」[くろくま](2009/10/05 19:31)
[27] 第十話 「オカマと何かの縁」[くろくま](2009/12/20 00:51)
[28] 第十一話 「オカマとコイントス」[くろくま](2009/12/20 00:52)
[29] 第十二話 「オカマと鬨の声」[くろくま](2009/12/20 00:54)
[30] 第十三話 「オカマと友達」[くろくま](2009/12/20 00:57)
[31] 第十四話 「オカマと人の道」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[32] 第十五話 「オカマと友情」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[33] 最終話 「洞窟と水面」 第二部 完結[くろくま](2009/11/04 22:58)
[34] 第三部 プロローグ 「コードネーム」[くろくま](2010/01/11 11:13)
[35] 第一話 「再びのオカマ」[くろくま](2010/01/11 11:23)
[36] 第二話 「歯車」[くろくま](2010/01/11 11:29)
[37] 第三話 「あいまいな境界線」[くろくま](2010/01/11 11:46)
[38] 第四話 「裏切り者たち」[くろくま](2010/01/11 11:50)
[39] 第五話 「共同任務」[くろくま](2010/01/11 12:00)
[40] 第六話 「歓迎の町の開幕」[くろくま](2010/01/11 12:16)
[41] 第七話 「歓迎の町の邂逅」[くろくま](2010/01/21 23:38)
[42] 第八話 「旗」[くろくま](2010/02/21 22:04)
[43] 第九話 「虚像」[くろくま](2010/02/07 23:53)
[44] 第十話 「ユートピア」[くろくま](2010/05/30 00:25)
[45] 第十一話 「ようこそカジノへ」[くろくま](2010/04/08 21:09)
[46] 第十二話 「リベンジ」 《修正》[くろくま](2010/03/10 13:42)
[47] 第十三話 「07:00」[くろくま](2010/03/10 17:34)
[48] 第十四話 「困惑」[くろくま](2010/03/10 17:39)
[49] 第十五話 「決戦はアルバーナ」[くろくま](2010/03/10 17:29)
[50] 第十六話 「それぞれの戦い」[くろくま](2010/03/14 20:12)
[51] 第十七話 「男の意地と小さな友情」[くろくま](2010/03/14 20:40)
[52] 第十八話 「天候を操る女と鉄を斬る男」[くろくま](2010/03/27 21:45)
[53] 第十九話 「希望」[くろくま](2010/03/29 21:40)
[54] 第二十話 「馬鹿」[くろくま](2010/04/11 18:48)
[55] 第二十一話 「奇跡」[くろくま](2010/04/12 20:54)
[56] 最終話 「これから」 第三部 完結[くろくま](2010/05/14 21:18)
[57] 第四部 プロローグ 「密航者二人」[くろくま](2010/05/03 00:18)
[58] 第一話 「サルベージ」[くろくま](2010/05/10 23:34)
[59] 第二話 「嘲りの町」[くろくま](2010/05/20 21:07)
[60] 第三話 「幻想」[くろくま](2010/05/28 21:31)
[61] 第四話 「ロマン」[くろくま](2010/05/31 18:03)
[62] 第五話 「雲の上」[くろくま](2010/06/05 10:08)
[63] 第六話 「神の国 スカイピア」[くろくま](2010/06/15 17:29)
[64] 第七話 「序曲(オーバーチュア)」[くろくま](2010/06/24 20:49)
[65] 第八話 「海賊クレスVS空の主」[くろくま](2010/06/26 23:44)
[66] 第九話 「海賊クレスVS 戦士カマキリ」[くろくま](2010/06/30 22:42)
[67] 第十話 「海賊クレスVS神エネル」[くろくま](2010/07/06 05:51)
[68] 第十一話 「不思議洞窟の冒険」[くろくま](2010/07/08 21:18)
[69] 第十二話 「神曲(ディビ―ナコメイディア)」[くろくま](2010/07/17 22:02)
[70] 第十三話 「二重奏(デュエット)」[くろくま](2010/07/24 15:38)
[71] 第十四話 「島の歌声(ラブソング)」[くろくま](2010/08/07 19:39)
[72] 第十五話 「鐘を鳴らして」[くろくま](2010/08/10 12:32)
[73] 間話 「海兵たち」[くろくま](2010/08/10 17:43)
[74] 第十六話 「ゲーム」[くろくま](2010/08/26 05:17)
[75] 第十七話 「昂揚」[くろくま](2010/08/29 07:53)
[76] 第十八話 「偶然」[くろくま](2010/09/06 12:51)
[77] 第十九話 「奥義」[くろくま](2010/09/14 21:18)
[78] 最終話 「過去の足音」 第四部 完結[くろくま](2010/09/21 20:00)
[79] 第五部 プロローグ 「罪と罰」[くろくま](2010/09/30 18:16)
[80] 第一話 「理由」[くろくま](2010/10/06 19:55)
[81] 第二話 「水の都 ウォーターセブン」[くろくま](2010/10/11 19:42)
[82] 第三話 「憂さ晴らし」[くろくま](2010/10/26 20:51)
[83] 第四話 「異変」[くろくま](2010/10/26 20:57)
[84] 第五話 「背後」[くろくま](2010/11/06 09:48)
[85] 第六話 「エル・クレスVSロブ・ルッチ」[くろくま](2010/11/14 11:36)
[86] 第七話 「隠された真実」[くろくま](2010/11/29 03:09)
[87] 第八話 「対峙する二人」[くろくま](2010/12/20 22:29)
[88] 第九話 「甘い毒」[くろくま](2010/12/20 23:03)
[89] 第十話 「記憶の中」[くろくま](2011/01/03 02:35)
[90] 第十一話 「嵐の中で」[くろくま](2011/02/13 14:47)
[91] 第十二話 「仲間」[くろくま](2011/03/20 21:48)
[92] 第十三話 「生ける伝説」[くろくま](2011/05/04 00:27)
[93] 第十四話 「READY」[くろくま](2011/07/16 13:25)
[94] 第十五話 「BRAND NEW WORLD」[くろくま](2011/08/15 18:04)
[95] 第十六話 「開戦」[くろくま](2011/08/20 11:28)
[96] 第十七話 「師弟」[くろくま](2011/09/24 15:53)
[97] 第十八話 「時幻虚己(クロノ・クロック)」[くろくま](2011/11/13 16:20)
[98] 第十九話 「狭間」[くろくま](2011/12/25 06:18)
[99] 第二十話 「六王銃」[くろくま](2012/01/30 02:47)
[100] 第二十一話 「約束」[くろくま](2012/02/22 02:37)
[101] 第二十二話 「オハラの悪魔達」[くろくま](2012/04/08 17:34)
[102] 最終話 「幼なじみは悪魔の子」 第五部 完結[くろくま](2012/08/13 19:07)
[103] オリキャラ紹介 [くろくま](2012/05/21 00:53)
[104] 番外編 「クリスマスな話」[くろくま](2009/12/24 12:02)
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[11290] 第十八話 「時幻虚己(クロノ・クロック)」
Name: くろくま◆e1a6eab8 ID:255fd99a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/13 16:20

―――無数の歯車が絡み合い、刻々と刻まれる。


  
 自分は何なのだ。
 何故、自分は自分であり、確固たる自我を持ち生まれたのか。
 何故、生まれながらにして断片的に知識を得ていたのか。
 何故、見るもの聞くものその全て既知感を感じ、あまつさえ懐かしいとさえ感じてしまったのか。

 それはクレスが生まれてからずっと考え続けていた命題であった。
 クレス自身が誰よりも分かっていた。
 明らかに異質。そして異端。 
 己の存在は余人には到底許容できるものではない。
 そしてその答えを得ることは永遠に失われたままなのだろう。
 だが、今はその理由が少しだけ分かったような気がした。


「"Time waits for no one."……か、なるどな」


 紅い光が収束し、クレスの瞳に鬼火のように灯る。
 その瞬間、ギチリと、時が悲鳴を上げたかのような歯車同士の不協和音が響いた気がした。
 異質に、そして魔的に世界を歪め、クレスは笑った。






「だが、例外はあるか」












 第十八話 「時幻虚己(クロノ・クロック)」













 紅い光をその眼に灯し、己が歪めた世界をクレスは認識した。
 それは事なる空間。
 己のみに見え、感じる世界だった。


「君の身に何が起こったかは、当然教えてはくれないのだろう?」


 軽く息を吐き、クレスは楽しげな笑みを浮かべるリベルに目を向けた。


「当り前だろ。誰が教えてやるか」

「そう年寄を苛めないで欲しいものだが、まァよいだろう。それもまた面白い」

 
 無数の軍靴が大地を蹂躙するかのようにリベルは歩を進めた。
 穏やかでありながらも、それ以上の苛烈さを感じさせる瞳がクレスの姿を睥睨する。
 それだけで喉元に刃を突きつけられたよな感覚に襲われるも、クレスは動じなかった。


「私を失望させてくれるなよ」


 そしてリベルの姿が消えた。
 余りに流麗な脚運びは大気にすらその姿を溶け込ませ、まさしく風となってリベルを運ぶ。
 気が付けばリベルはクレスの懐に入り込み、万物をも砕く一撃を放っていた。
 放たれた拳は必然のようにクレスに吸い込まれる。
 遅れてリベルの動きに耐えきれなかった世界が震えた。
 

「心配するな、そんなことはねェよ」


 その瞬間、新たな衝撃が辺りを駆け廻った。


「ほう……ッ!」


 リベルが漏らした声は驚きか。
 リベルの顔に深い笑みが刻まれる。その表情に影が被った。それは己の眼前に差し出した掌の影。
 突き出されたクレスの拳を受けとめた自身の影。
 驚愕すべき光景だった。
 クレスは武芸の極致に立つとされるリベルの一撃を捌ききり、なおかつ一撃を加えようとしたのだ。


「剃"幻歩"ッ!!」


 瞬間、クレスの姿が気配すら感じさせず掻き消えた。 
 一度目とは明らかに違う。
 リベルが流麗ならばクレスは夢幻。
 その動きはさしものリベルですら驚嘆させた。
 間髪すら入れず、正面に居た筈のクレスはまるで瞬間移動でもしたかのように、突如背後に現れ拳を振るっていた。
 クレスの動きを察知したリベルは流れるような動きで拳を交わし、同時に暴風のような蹴りを放つ。
 しかし蹴脚がクレスに触れる寸前、またその姿が消えた。


「嵐脚―――」


 次にクレスが現れたのは上空。
 速い。余りにも速過ぎる。
 その速度は圧倒的であり、あろうことかリベルですらその姿を見失いかけた。


「―――研爪ッ!!」


 撃ち降ろされたクレスの脚より、三爪の鋭い斬撃が放たれる。
 クレスの放った斬撃はリベルを切り裂く。だがそれは残像だった。


「なんという速さだ。
 だが、速さのみで私を捉えられると思うのは甘いよ」


 リベルが脚が瞬く。
 

「嵐脚"獄林槍"」


 一瞬のうちに生み出されたのは、無数もの刺突。
 それらは同時に穂先並べ敵を蹂躙する槍衾。


「受けてみたまえ」


 リベルの号令と共に無数の刺突がクレスに襲いかかった。
 速さとは利点だけではない。
 速度は思考を蝕み、視界を狭め、猶予すらも消す。
 リベルの前では速さすらも諸刃の剣だった。
 喊声すら聞こえてきそうなその勢いにクレスの姿が飲み込まれたかに見えた。
 だがその全てをデタラメな軌道を辿ることでかわし切り、クレスは再びリベルに肉迫していた。


「アレを捌き切るか。だが、これはどうかな?」


 しかし、そこには逆に距離を詰め、既に拳を放っていたリベルの姿があった。
 クレスの眼が見開かれる。
 因果をも凌駕する神速の一撃が真っ直ぐにクレスに叩きこまれた。
 だが、クレスはありえない反応を見せた。
 突き出されたリベルの拳に対し、その軌道をなぞるかのように身体を逸らしたのだ。
 颶風を纏ったリベルの拳はクレスの頬を切り裂くも、紙一重で空を切り、外れた。
 吹き荒れる風圧の中、一瞬、リベルとクレスの紅い瞳が交差する。
 その時、リベルの顔に初めて純粋な驚きが浮かんだ。


「オオオオオオオオオッ!!」


 咆哮と共に、クレスの渾身の一撃がリベルに放たれる。
 踏み込まれた両脚が地面を砕く。
 凶悪なまでに引き絞られた拳が絞り込まれた弓から放たれる矢の如く突き出された。
 拳はリベルの中心に直撃。余りの一撃にリベルが床を削りながら後退する。
 

「……なんと、まさかこれほどとは」


 目を見開いたリベルが感心するようにリベルが呟く。
 クレスの拳は的確にリベルを捉えた。クレス自身手ごたえも感じた。
 だが、クレスの一撃はリベルの差し出した掌に止められていた。


「何と魔的な。
 どうやらその技、ただ単純に速度が増すだけではないようだな」

「何を言ってんだ、おれは何も変わらない」


 炯々と光を灯す瞳で、クレスは言う。


「遅くなったのは、アンタの方だ」

「成程。それが虚実かどうか、見極めて見せよう」


 快活に笑うリベルの前で再びクレスが消える。
 その動きは夢幻。初動を完全に消し去り、尋常ではない速度で世界を駆ける。
 リベルはその姿を捉え、遮るかのように幾多もの攻撃を加えるも、クレスはその尽くを回避した。
 それはまるで世の理から外れたかのように魔的。
 しかし、その速度に振り回される事なく完全に制御しきり、なおかつ相手の動きを的確に捕捉する。 


「これはどうやら、私も遊んではいられんようだな」


 リベルが呟きを漏らした瞬間、硬化されたクレスの踵が襲いかかる。
 しかし、クレスの一撃が肌に触れる寸前でリベルの姿が消え、同時にクレスの背後で鋭い手刀を繰り出していた。
 突き出された手刀は必然のようにクレスを貫くものと思われた。
 だが、あっさりとリベルの腕は空を切った。


「嵐脚―――」


 クレスが現れたのはリベルの真下。
 獣のように低く伏せた姿勢より後方に回転すると、振り上げた脚により巨大な斬撃を生みだした。
 それはクレスの持つ最高の切断力を持つ技。


「―――断雷ッ!!」


 巨大な三日月状の刃がリベルを襲う。
 完全に不意を突いた攻撃を前にリベルの表情が消えた。
 斬撃はリベルに直撃。
 凝縮された一撃に周囲から音が消え、静寂が辺りを包む。


「ヌンッ!!」


 だがその静寂は、リベルが発した気合により打ち破られた。
 直後、リベルを中心に斬撃が二つに分かたれ、それぞれが後方に飛び、石壁を切り裂いて後方に消えた。
 その背後で、


「指銃"咬牙"ァッ!!」


 空を駆け抜け知覚すら困難な程に加速したクレスが、硬化させた指先を突き出していた。
 クレスの動きを察知しリベルは身体を反転。
 同時に振り上げた手刀によってクレスが突き出した腕を叩き落とそうとした。
 だがクレスは止まらない。
 今までの幻惑するような姿から一転、愚直なまでに真っ直ぐに突き進む。
 クレスとリベルの姿は、瞬く間に交差。
 完全に腕を振り抜いたクレスに対し、空中に立つリベルがゆっくりと振り向いた。


「見事だ。よもや是非も無い。
 君の能力は私にも届き得る牙となりえた」


 リベルの脇腹より紅い血が流れ、荒廃した石床に落ちた。
 完全に不意を突いたクレスの渾身の一撃は、如何にリベルといえど完全に捌ききれるものでは無かった。
 だが、そのような事など瑣末な事のようにいつもと変わらぬ様子でリベルは続けた。


「だが、理解したよ。
 君だからこそ、得られたその能力を」


 リベルは地上に着地すると回顧するように目を閉じた。


「昔から疑問に思っていたのだ。
 君の存在は余りにも異端過ぎた。君に六式を教えた際にも、それは顕著に感じた。
 身体の基礎ができた直後、僅か一日……いや、もしくは一瞬で君は六式の基礎全てを完璧に習得した。
 あの時、私は感じたよ。この子はまるで"思いだすかのように"技を習得すると。
 そしてそれを裏付けるように、切欠さえあれば君は様々な技を習得した。その理由がようやくわかったよ」


 快活に、だが先ほどとは明らかに色合いの違う笑みを浮かべたリベルと、振り返ったクレスの瞳が交差する。
 リベルの視線の先で、クレスは好戦的な笑みを作った。






「―――"時"だね。君が持ち得た能力は」



 


 考えようによっては他の可能性もあっただろう。だが、リベルは確信を持ってクレスの能力を断言した。


「時間操作とは、恐ろしい力を目覚めさせたものだ」


 時間操作。
 それは人知を超える、絶大なる力。
 故に尋常ではない程の速度で動き回り、なおかつ超越したリベルの姿を捉え続けられた。
 この二つの現象は矛盾する。
 だがそれは、時が有限という概念に基づいたものだ。
 相反する二つの事象も、“時”事態を操ったならば可能となる。
 

「そんな大層なもんじゃねェよ」


 確信を突くリベルの言葉にクレスは嘯く。 
 

「おれにできるのは自分を欺く事だけだ」


 時幻嘘己(クロノ・クロック)。 
 そう、今のクレスは時を操るなど大仰な能力は持ち得ていない。
 クレスが行ったのは己を欺く事。
 自身を欺き、時を操れると誤認させる。
 人は誰しも他人とは異なる瞬間を生きる事がある。
 それは例えば生命の危機であり、全神経が過敏に反応した結果、物事の速度が異常なまでに遅く見せるのだ。
 クレスはその状態を"生命帰還"によって作り出し、維持させた。


「だが、それでも君は特別だ。
 普通の人間……いや、君以外の人間にその感覚は耐えきれるものではない。
 異なる時の中で生きると言う事は、別の理で生きるも同じ。通常ならば脳の処理が追い付かず、発狂するだろう。
 ところが君はどうだ? 君はその感覚を当然のように認識している。違うかね?」

「流石だな。その通りだよ」

 
 クレスは静かにリベルの言葉を肯定する。
 今、クレスを包む世界は酷く緩慢だった。秒針が一つ刻まれるだけでも息が詰まるほど遅い。
 リベルとかわす会話すらひたすらに鈍く感じ、自身から流れ落ちる血潮すらも狂おしいほどにもどかしい。
 だが、クレスは特に不快に感じはしない。
 それどころかこの異常な空間の中で一人平然と普段通りに動き回れた。
 当然だ。
 これはクレスが己を欺き作り上げた世界なのだから。
 


「なんとなく予感はあったんだよ。
 何かが出来る気がするって。だが、思いだせなかった。
 未だに何故こんなことが出来るのか、予測は立てられるけど、所詮予測でしか無い」


 クレスは徐に腰元に下げたサイドバックから、黒手袋を取りだした。
 それはリベルがオハラを去る際に手渡した、父親の遺品。
 クレスはそれを両手に取り付けた。


「だが、おれが母さんの息子である事だけは確信している」

「"悪魔の実"ではないのだね」


 黒手袋には僅かではあるが海楼石が仕込んである。
 それを知っていたリベルは、クレスの力の異質さを再確認する。


「当然だ。泳げなくなるならこんな力なんかいらねェよ。
 泳げないとロビンを助けられないし、何よりあの船だと狩りが出来なくなって死活問題だ」

「はっはっはっは! そうかね、面白い!」


 快活に笑い、リベルの身体が僅かに沈む。
 圧倒的な重圧が辺りを駆け廻り、世界を歪ませる。


「小手調べは終わりにしようか。
 君の力を認めよう。君は私の対等たりえる」


 その中でリベルはゆったりと拳を持ち上げ、クレスの喉元へと向けた。
 リベルが初めてクレスに対し構えを見せたのだ。
 その瞬間、世界を覆う重圧全てがクレスに襲いかかった。
 構えとは己が力の矛先を向ける事。
 リベルの放つ世界歪ませる程の重圧の全てに指向性を持たせたのだ。


「……やっぱりまだ本気じゃ無かったんだな」
 
「当然であろう。これでも私は君の師なのだ。
 師としての威光を見せる為にも、始めから本気を出す訳にもいかんだろう」

「そうかよ、上等だ」


 ヘタをすれば空間に潰されるのではないかと言うほどの重圧の中で、クレスもまた同じように構えを取った。
 臆することは何も無い。
 戦い、勝つ。
 始めから為すべきことは変わらないのだから。
 両者の気迫がぶつかり合い、辺りに静寂が生まれた。
 それに伴い、周りの喧騒と振動が伝わってきた。
 今、司法の塔で戦いを繰り広げているのはクレスだけではない。
 ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパー、フランキー、そしてロビン。
 仲間たちが皆、それぞれの戦いに挑んでいる。


「行くぞ、アウグスト・リベル」

「その意気や良し。
 ならば、見せてやろう。我が六式の真髄を」






◆ ◆ ◆





 
 海賊達と世界政府の戦いは苛烈を極めていく。
 そんな中で、一つの"災厄"が引き起ころうとしていた。
 ロビンを連行するスパンダム。
 あろうことか彼は迫りくる海賊達に動転し、"ゴールデン電伝虫"のボタンを押してしまったのだ。
 それは全てを壊滅させる"正義の鉄槌"。



 <バスターコール>の発動要請だった。







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