照明の消された図書館内にオレはいる。
オレだけではない。
ここには、母さんはもちろんクローバーや職員の人たちが
息を潜めて一人の少女を待ちわびていた。
「おおっ!来たぞ、本を返しに来た模様!全員配置に!!」
クローバーの声で全員が素早く準備を始める。
オレも支給されたあるものを手に持ち構えた。
早くもテンションのあがったクローバーがまたテーブルの上に上る。
あんたそんなにそこがいいのか………
ツッコミたい気持ちをなんとか押さえる。
なぜならもうそこまで来ているからだ。
ゆっくりと扉が開く音がする。
図書館内が暗いことが気になったのか遠慮がちだ。
中に入ってきた。
休みの日でも無いのに人影がないのが気になったのか
おそるおそると言った様子だ。
「こんにちは、クローバー博士借りていた本を………」
その瞬間
オレたちは一斉に手に持ったものを打ち鳴らした。
「「「おめでとう!!!ロビーーーーーーン」」」
鳴り響くクラッカーに舞い散る紙吹雪。
そしてどこか歓声にも似た祝福の声。
もちろんオレも大声で叫んだ。
しばし呆然とするロビン、
そんなロビンにクローバーが代表してこの祝福の理由を告げる。
「先日の博士号試験!!見事満点合格じゃ!!!
今日から考古学者と名乗ってよいぞ!!!」
ロビンの顔に満面の笑みが広がる。
オレもまるで自分の事のように嬉しくなった。
第八話「秘密」
「よいか、ロビン!!
考古学者がなんたるかをよく知っておけ!!」
クローバーは今日この瞬間に考古学者となったロビンに向けて、
同じ学者としての言葉をおくる。
「知識とは!!!
即ち過去である!!!」
クローバーは図書館、
そして内部に納められた大量の本を指し、誇るように両手を広げた。
「樹齢五千年!!!
この全知の樹に永きにわたり世界中から運び込まれた膨大な文献の数々
これらは我々全人類にとってかけがえのない財産である!!!」
オレはクローバーの言葉に聞き入っていた。
オレはクローバーのことは気に入らないが、
人としてのあり方は嫌いじゃなかった。
隣を見ると母さんとロビンも同じようにクローバーの言葉に耳を傾けていた。
「世界最大最古の知識を誇る図書館
この“全知の樹”の下にあらゆる海から名乗りを上げて集まった
優秀な考古学者達!!
我々がこの書物を使う事で解き明かせん歴史の謎などありはしないのだ!!」
クローバーがロビンに激励として語ったことは
クローバーや母さんそしてオハラの図書館で働く全ての考古学者たちの誇りだ。
そしてその誇りをロビンにも持って欲しいと言うことだろう。
「よいな!これ程の土地で考古学を学べる幸せを誇りに思い
この先もあらゆる文化の研究で世界に対し貢献する事を期待している」
最後にクローバーはロビンの頭を誇らしげになでる。
その姿はまるで孫娘と祖父のようだ。
邪魔してやろうかと一瞬思ったが
まぁ……今日くらいは多めに見てやろうと思う。
「博士!私は空白の歴史のなぞを解き明かしたいの!!」
ロビンはなにかを期待するようなそんな笑顔だ。
空白の百年ね………
確かに面白そうな研究だな。
たが、ロビンの言葉を聞いたクローバーはオレの予想外の反応だった。
「なっ!!!い、いかんっ!!!
それだけは今まで通り禁止だ!!」
「どうして!?
歴史の本文(ポーネグリフ)を研究すれば
空白の百年に何が起こったかわかるんでしょ!?」
「ぬおーっ!!
お前っ!!なぜそんな事まで!!
さてはまた“能力”で地下室を覗いたな!!!」
訳がわからかなかった。
何故クローバーはロビンの言った空白の百年とやらに
そこまで過剰な反応を見せる必要があるのか?
何時もと様子が違うクローバーに理由を聞こうとしたその時、
オレは母さんに手を捕まれた。
母さんは首を振る。
黙って見守れと言いたいようだ。
「ポーネグリフを解読しようとする行為は犯罪なんだと承知のハズだぞっ!!!」
犯罪行為………どうりでクローバーも焦るはずだ
オレもロビンにはそんな危なそうな橋を渡って欲しくない。
それにロビンは反発するかのように反論した。
そしてその内容はオレを驚愕させた。
「───だけどみんな!!
夜遅くに地下室でポーネグリフの研究をしてるじゃないっ!!!」
なっ……!!
オレ驚き、母さんの顔を見た。
母さんは青ざめ
ひどく後悔するような顔つきをしている。
もしかして、本当の事なのか………っ!!
「貴様っ!!ロビンっ!!!なぜそんな事まで…………
どういうことだ!?それも全て覗き見たというのか!!!」
「だって堂々と行ったってお部屋に入れてくれないじゃないっ!!」
ロビンは涙をこらえながらも懸命に反論する。
「だから………ちゃんと考古学者になれたら
みんなの研究の仲間に入れて貰えると思って私頑張ったのに!!!」
ロビンは寂しかったのだろう。
悪魔の実のせいで町の人間との繋がりが絶たれてしまっている中で、
親しく出来るのはオレと母さんと図書館の人たちだけ。
その中で仲間に入れてもらえないのはとても悲しいことだ。
だから、幼くして博士号の試験に挑戦しようと思ったのだろうか………
「確かに……学者と呼ばれる程の知識をお前は身につけた……
だか、ロビン、お前はまだ子供だ!!!」
「!!!」
クローバーのことだ、
当然ロビンの心中など察しているだろう……。
クローバーはひざを着きロビンと目線を合わせた。
「我々とて………見つかれば首が飛ぶ
命を懸ける覚悟の上でやっている事なのだ……
八百年前…これが世界の法となってから
現実に命を落とした学者達は星の数程おる……!!
いい機会だ、教えておくが
歴史上、古代文字の解読にまでこぎつけたのは唯一このオハラだけだ。
踏み込む所まで踏み込んだ我々はもう戻れない」
オレはクローバーの言葉に言葉を失っていた。
命がけ
言葉にするのは簡単だが実際にその状況に居るのとは別次元だ、
ここにいる人間はそんな危険を冒しているというのだ。
「全知の樹に誓え…!!
今度また地下室に近づいたら
お前の研究所と図書館への出入りを禁ずる!!!」
怒声にも似たクローバーの声に
ロビンは弾かれたように外へと飛び出した。
数分前の楽しげな雰囲気は完全に吹き飛び、
図書館内を嫌な沈黙が支配する。
オレには床に残る紙吹雪やまだ温かいパーティー料理が寂しげに見えた。
「……どういうことだ?」
「………」
「どういうことだって聞いてんだよ!!!」
オレは今すぐロビンを追いかけたい気持ちを押さえつけた。
今はどうしても聞きたい事があったからだ。
「………、お前が聞いた通りだ」
「ふざけんな!!
それでオレが納得するとおもってんのか?
命懸けってどういうことだよ!!?」
クローバーは語らない。
膝をついた状況からゆっくりと立ち上がると、
そのままオレに背を向ける。
オレは頭に血が上りクローバーに掴み掛かろうとした。
だが出来なかった。
母さんがオレを留めるように抱きしめたからだ。
「……クレスお願い……なにも聞かないで……」
泣きそうな、いつもの母さんからは考えられない弱々しい声だ。
「……でも、母さんっ!!」
「お願い………今は、ロビンちゃんを追いかけてあげて……」
オレはなんとか自制しようと心を落ち着ける。
精神力の訓練はリベルから受けた。
オレは落ち着きを取り戻した頭に、ふと浮かんだ事があった。
「……六年前、オレが二歳だったころ、
母さんとオルビアさんが口論しているのを聞いたんだ……」
「………」
「……折れたのは母さんの方だったけど、
その時のオルビアさんを強い口調で説得する母さんが印象的でよく覚えてる……」
「………」
「次の日にオルビアさんは船に乗って海にでた……そしてまだ帰ってこない、
…もしかして、オルビアさんが乗ってた船の目的って────」
「それ以上を言うな!!!」
クローバーがオレの言葉を遮った。
「…………それ以上を言うでない……」
やはりそうか………
オレには妙な確信があった。
船に乗るときのオルビアさんの示していた表情はそう言うことだったのか……
じゃあ、オルビアさんは?
オレにはこの質問は聞けなかった………
聞けば何かが終わりそうだった。
オレは抱きしめる母さんの腕をふりほどき出口に向けて歩いた。
「…………ロビンを追いかける」
そのまま振り返ること無く走った。
今日は嫌な日だ。
知りたくなかった事を多く知ってしまった。
クローバーたちを責める事は出来なかった。
もちろん責めたい。
でも、意味が無かった。
オレの言いたい事なんて全部解っているのだろう。
理解もして自覚もしているはずだ。
だからオレが何を言っても変わらないし、
しかも話の限りだと今更戻れないらしいのだ。
オルビアさんの時もそうだったのだろう。
だから母さんは折れたのだ。
まぁ、もうその話は後だ、
今はロビンを探す事が先だ。
幸い海岸に向かったのを聞いた。
なんとかなるだろう……オレは海岸に向けて走った。
「………………へ?」
海岸にたどり着いた。
オレは今とてつも無く混乱していると言っていい。
さっきの展開が衝撃すぎて脳が疲れているのかもしれない。
ロビンの足跡を見つけた。
足跡は浜から逆方向に向かって延びている。
たが、問題はそこじゃない
ロビンのかわいらしい足跡の近くにあるクレーターのような巨大な窪み。
しかもよく見たら足跡だ。
これがまるでロビンを追いかけるように続いていく。
ここから導かれる答えはこうだ。
────ロビンが巨人に襲われ逃げた。
巨人殺す!!
よくもロビンに手を出しやがったな!!
「待ってろロビン!!!絶対に助けてやるぞ!!!」
オレは人生最高速度で足跡を追いかけた。
追いかけて直ぐに
かわいらしいロビンと
凶悪な巨人を見つけた。
オレは脚に全力で力を込める。
「“剃”っ!!」
巨人に向けて高速で移動する。
巨人はロビンに向けて巨大な口を開けている。
────まっ、まさか、あんなにかわいらしいロビンを食べる気か!!
「まてや!!!コノヤローー!!!」
「クレス?」
「んあ?」
オレの叫びに気づいたのか巨人は呆けたようにこちらを向く。
よっかった。
ロビンは、無事だ。
オレは“月歩”を使い巨人の顔面前まで移動する。
リベルほど鮮やかではないが移動するには十分だ。
「鉄塊“砕”」
「────ふがっ!!」
「クレスっ!!?」
オレは硬質化した拳で全力で巨人の顔をなぐった。
大の大人でも気絶させるほどの攻撃だ。
だが、その巨体故か反応は鈍い。
だが、隙は作った。
「────逃げろ!!ロビン!!!」
「────ごめんなさい」
オレ超かっこ悪い。
勘違いだったようだ。
あの後ロビンに事情を説明されて勘違いに気づいた。
オレに説教をするロビンが可愛いと思ったが、
怒られてる立場なので自重する。
巨人のおっさんはかなりいい人だった。
ハグワール・D・サウロ
と言う名前でなんでも漂流してオハラに行き着いたらしい。
なんと言っていいのやら……
まぁ……おかげでロビンが少し元気になったようなのでどうでもいいか。
と言うかこいつ、笑い方変すぎるぞ。
あとがき
原作突入&サウロ登場です。
果たしてクレスはオハラを救えるのか……
シリアスが続きそうです。
作者としてもこの展開を書くのが辛いです。
でも、がんばります。