沿岸において睨み合う二人を中心として、重く荒々しい風が吹き抜けた。
指先に力を込め指の骨を鳴らし、浮かび上がりそうな闘争心を抑え込みながら、クレスは機械めいた冷徹な視線で船の上に現れた男──ハリスを見上げる。
対し、見下ろすハリスの視線は歓喜によって見開かれ、鬼火のように燃える双眸が純粋故に禍々しい殺気をとぼらせている。
今にも襲いかかってきそうな殺気に反応し、ゾロ、サンジの二人もそれぞれに構えを取った。
フォクシー海賊団もハリスの行動が予想外だったのか、殺気を撒き散らすハリスに焦り声を上げるが当のハリスはまったく聞いてはいなかった。
「誰なの、あの見るからにヤバそうな奴は……!?」
ナミが唯一冷静そうな顔をしているロビンに問う。
ロビンは普段とは少し違った様子のクレスを視界に納めながら答えた。
「<串刺し>ハリス。
10年ほど前に、<西の海>で知り合ったわ」
「知り合い……? じゃあ、何でこんなことになってんの!?」
「知り合った理由が、私達の賞金を狙って来たからね。あの時は、クレスと戦って引き分けていたわ」
「うそッ!? クレスと引き分けって……て言うか、それ碌な知り合いじゃないでしょ!!」
本来ならばナミの言う通り、クレスとハリスとは敵同士だ。
だが、二人にとってはその意味も多少異なる。
クレスにとってハリスは<倒すべき敵>では無く<倒さなくてはならない敵>なのだ。
10年前に着け損ねた決着を果たすことに戸惑いはない。受け身や護衛では無く、クレスの取っては珍しく、自身から戦いを望む形だ。
それはハリスにとっても同じで、生粋の戦闘狂である彼にとって<必ず戦いたい相手>にクレスは当てはまる。
「ロロノア、コック、悪いが手を出すな。これはオレの戦いだ」
クレスの言葉に、ゾロとサンジは一瞬だけ視線を合わせ、
「……勝手にしろ」
「まったく、理由は知らねェが、負けんじゃねェぞ」
そう言い、構えを解いた。
普段は見せないようなクレスの表情に、何かを感じ取ったのしれない。
クレスは二人に軽く礼を言うと、嬉しげな笑みを浮かべたハリスへと言葉を為した。
「10年か……考えてみれば、かなりの時間が経ってたのか。相変わらずのようだが、腕は落ちてないようだな」
「寝言は寝て言えや。お前こそ錆ついてやがったら、拍子抜けもいいとろだぞ」
互いに睨み合う視線を強め、二人の間に今に破裂しそうな緊張が漂った。
だが、意外なことにハリスは武器を納めると、クルリと背を向けた。
「……どういうつもりだ?」
「いや、なに……10年もたてばオレも立場が変化したってとこだ。
てめェとここでやり合うことは万々歳なんだが、そうしちまうと後々困りそうなんでな。───そこでだ、てめェに一つ提案があんだがよ」
「なんだ?」
「せっかくだし、<ゲーム>でやり合わねェか? 話は付けといてやるからよ」
第十七話 「昂揚」
『───開会式を始めまーす!! 静かにしろ、野郎ども!!』
<デービーバックファイト>の開催が決定し、辺り一帯はまるでお祭りのような様相を呈していた。
次々と出店が立ち並び、騒がしさを増す会場に大音量のアナウンスが響く。
フォックシー海賊団によって建てられた壇上には、それぞれの船の船長であるルフィとフォクシーが並び、ゲーム開始に応じて宣誓が行われる。
一つ、デービーバックファイトによって奪われた仲間・印・全てのものは、デービーバックファイトによる奪回の他認められない。
一つ、勝者に選ばれ引き渡された者は速やかに敵船の船長に忠誠を誓うものとする。
一つ、奪われた印は二度と掲げる事を許されない。
『───以上、これを守れなかった者を海賊の恥とし、デービー・ジョーンズのロッカーに捧げる!! 両船長、守ると誓いますか?』
壇上の上で、高らかにゲームの三ヶ条の確認がなされ、両船長に同意の意志を問う。
フォクシーは余裕のポーズで、ルフィは出店の焼きそばを食べながら宣言する。
「誓う」
「誓う!!」
歓声が上がり、誰もが見守るその中で、フォクシーによって三枚のコインが深海のデービー・ジョーンズへと捧げられる。
悪魔に呪われたジョーンズは今もなお暗い深海に生きていると伝えられ、海底に沈んだ船や財宝は甲板長だった彼のロッカーにしまわれると言う。
沈むもの全てを自分のものとしたデービーの名から、敵から欲しいものを奪う事を海賊達は<デービーバック>と呼んだのだ。
これは海賊達にとっては神聖な儀式であり、宣言された三ヶ条を破るならば、速やかにデービー・ジョーンズからの呪いが下るだろう。
『オーソドックスルールによる<3コインゲーム>!! <デービーバックファイト>の開戦だァ!!』
◆ ◆ ◆
「それにしても<ゲーム>で決着をつけようって……何考えてんだアイツ」
「確かにらしく無いわね。彼の性格ならあの場で戦いに発展してもおかしくなかったもの」
クレスとロビンは先程のハリスの行動に違和感を感じていた。
海賊同士の人取り合戦にハリスが興味があるとは思えない。戦うならばもっと純粋な戦場を想定していただろう。
10年という歳月でハリスも多少の変化があったと言うのだろうか。フォクシー海賊団の中には想像以上に溶け込んでいるが、それが理由ではない気がする。
そのらしくないその行動は僅かに不気味さすら感じさせていた。
「結局理由は不明か……まァいい、勝てば何も問題ない」
「フフ……頑張ってね、クレス」
開会式が閉幕し、エントリーシートの記入となった。
<デービーバックファイト>の<3コインゲーム>は「レース」「球技」「決闘」の三種目により行われる。
競技は数種類あるものの、基本的にその例を漏れる事はない。
フォクシー海賊団が提示した三競技は、
第一回戦「ドーナッツレース」
第二回戦「ブラッティペイント」
第三回戦「コンバット」
出場人数は一回戦は三人、二回戦は四人、三回戦は一人。
重複とメンバー変更が出来ないため、必然的に一味は全員参加となった。
一味はそれぞれ悩んだものの、適材適所で決定した。
「ドーナッツレース」はナミ、ウソップ、ロビン。
「ブラッティペイント」はゾロ、サンジ、チョッパー、クレス。
「コンバット」はルフィ。
クレスは始め、ハリスは「コンバット」に出てくると踏んでいたのだが、どうやら違った。
ハリスの出場種目は二回戦の「ブラッティペイント」。「コンバット」は伝統的に船長同士の争いらしく、妙なところで義理固いハリスはそれに従うようだ。
始めて聞くゲームなので、クレスは手元のルールブックを読み内容を理解していく。
「………何とも、胡散臭いゲームだ」
ルールブックを読み終えたクレスの感想はそれだった。
「ブラッティペイント」
これはいわゆる、的当てゲームだ。
ただし、<的(ターゲット)>となるのは人間。
両チーム選出された四名のうち一人はターゲットとしてリング内に立ち、残る三名が相手チームのターゲットを狙い、ペイントボールを投擲する。
ターゲットとなった敵チームの人間に5つ、頭なら一つボールを当てればゲーム終了。勝利となる。
また、ターゲットが気絶もしくは死亡した場合も勝利となる。
なお、外野の武器使用は禁止。反則時は審判により警告もしくは退場が言い渡される。
簡単に言えばこんなところだった。
このルールから、始めはウソップが意気揚々と「おれの出番だ」と言って名乗り出たのだが、手渡されたボールを手にして愕然となった。
相手が手渡してきたボールの重量は一つ約五キロ以上。残念ながらウソップは遠くまで投げられない。
それならば作ればいいのではないかとの話になったのだが、何でも<マイボール>の使用は禁止ではないが好ましくないらしい。
何でも、昔酔っぱらった海賊達が砲弾を投げ合った事が競技の始まりで、伝統的に例外なく手渡された<ブラッティボール>が使用されているそうだ。
ちなみにブラッティなのは直撃して頭が割れたかららしい。
「別にいいんじゃない?」とナミが言ったが、「鬼!!」「外道!!」と理不尽な勢いで相手側からのブーイングにあった。
必然的に出場はゾロ、サンジ、チョッパー、クレスの怪力組となったのだった。
◆ ◆ ◆
『さァさァまずは、海岸づたいの島一周妨害ボートレース「ドーナッツレース」っ!!
手作りボートの木材はオール二本、空ダル3個! それ以外の部品を使っちゃその場で失格。船大工の腕の見せ所だ!!
なお、司会は私フォクシー海賊団宴会隊長イトミミズ、南の海の珍鳥<超スズメ>のチュチューンに乗って空から状況を報告するよ!!』
巨大なスズメに乗ったア進行役の軽快なトークが拡張機型電伝虫から聞こえてくる。
始まってしまった<デービーバックファイト>の第一回戦の競技は「レース」。
一味からの出場はナミ、ウソップ、ロビンの三人だ。
「……長鼻、お前に言っておくことがある。肝では無く、魂に刻め」
競技の始まる直前、クレスはウソップを逃がさぬように肩を掴み、一世一代の大仕事を託すような沈痛な顔で告げた。
「ロビンを守れ、何かあったらお前を殺す」
「いや、鬼かッ!!」
「いいか、たとえお前が鼻だけになっても守り切れ」
「ハッ倒すぞコラァ!!」
理不尽な物言いだが、クレスとしては心配で仕方がないのだ。
ロビンの力を信じてはいるが、問題はレースが海の上で行われるというとこだ。
万が一でもタルボートが沈みでもすれば<能力者>のロビンがどうなるか、考えただけでクレスは海に八つ当たりしそうになる。
状況が状況の為仕方がないが、念には念を入れたかった。
ボートの制作が完了し、両チームとも完成したタルボートを海に浮かべ乗船する。
<船大工>不在の一味はウソップがその場しのぎで作り上げた「タルタイガー号」。残念ながら今にも沈みそうだった。
対し、相手のフォクシー海賊団のボートは本職の船大工達によって作られた「キューティワゴン号」。おまけにメンバーには魚人とサメがいる。
はっきり言って一味は圧倒的に不利だ。勝てる可能性は低いかもしれない。
「いやん、沈めてあげる」
「やってみなさいよっ!!」
スタート地点に並んだ二艘のタルボートの上で、ポルチェとナミが火花を散らす。
観客達の声援も最高潮に達し、レース開始の合図を今か今かと待ちうける。
実況役のアナウンサーが超スズメの上からレースについての最終のルール説明をおこない、最後に両チームに向けて迷子防止の<永久指針(エターナルポース)>が投げ渡された。
そしてカウントダウンが行われ、戦いの火ぶたが切って落とされた。
『レディ~~~~ドーナッツ!!』
銃声が鳴り響き、スタートの合図を知らせる。
その瞬間、フォクシー海賊団の船員たちが隠し持っていた銃、バズーカ砲が一斉に火を噴いた。
放たれた砲弾はウソップ達へと向かい、海に着弾。巨大な水しぶきが上がり、ウソップ達を阻害する。
<海賊競技>のその意味を察し、ウソップが事前に岸からボートを離す事を提案していなければ直撃していただろう。
「な、何よコレ!! 部外者からの攻撃なんて反則よッ!!」
ナミが叫ぶが、そんなルールはない。
海賊の世界に「卑怯」という言葉は無く、それはこのレースも同様だ。
妨害行為は海賊競技の常識であった。
「何か飛んでくるわ」
「えッ……ってオイ!! 岩ァ!!」
ロビンの声にウソップが空を仰ぐと、巨大な岩が隕石のように頭上を覆っている。
ウソップは反射的に叫んだ。
「漕げェ!! 右だァ!!」
「待って、前に進みましょう」
そんなウソップにロビンが言う。
命の危機に置いて意見が対立する事は非常に危険だ。
何を言い出すんだとウソップは泡を食うが、ロビンは冷静な声で言った。
「援護が許されているなら、条件は同じよ」
その瞬間、空を覆っていた巨大な岩が無数の破片へと切り刻まれ、砕け散った。
『な……な、何だ今のはァ!? 麦わら海賊団、レンジャークレスの攻撃によって、お邪魔攻撃の大岩がいきなり砕け散った~~~ッ!!』
沿岸のフォクシー海賊団達が予想外の事態に口を開けて固まる。
彼らの固まった視線の先には、無数の斬撃を飛ばしロビン達を襲った大岩を粉砕したクレス。
クレスはそんな彼らの視線を気にも留めず、大岩を投げた人物に向かって殺気だった視線を向けた。
「……ぶっ潰す」
その視線の先にいた人物は事態が理解できていないのか、不思議そうに首をかしげる<魚巨人(ウォータン)>。
クレスは自身の数十倍はある魚巨人に向けて"月歩"によって一気に加速した。
「あぁ…………………え?」
「鉄塊───」
クレスは魚巨人の顔の部分まで飛び上がり、その眉間に向けて硬化させた拳を叩きこんだ。
「───“砕”!!」
体格差は数十倍。
しかし、クレスにとってはその程度のハンデはゼロに等しい。
問題は身体の大きさでは無く、相手を打ち倒せる威力を持つ攻撃が出来るかだ。
クレスが放った拳は、眉間に突き立てられたマグナムの一撃も同義。拳は確実に魚巨人の頭蓋を揺らし、昏倒させた。
意識を失い、ふらつきゆっくりと倒れ込む魚巨人。崩れ落ちた瞬間、その巨体故に辺りが揺れ、土埃が舞った。
言葉を失うフォクシー海賊団。
「さァて……次は誰だ?」
そして土煙の向うから現れたクレスに震えあがった。
一罰百戒。
これはいわば抗争時の常套手段だ。
相手が勢いづく寸前で、自身の力を見せつけその意気を刈り取る。
一度停止してしまえばほとんどの人間は動く事が出来ない。
「とりあえず……相手のボートでも潰しておくか」
海賊競技での妨害はお互い様だ。こちらがしてはいけないと言うルールはない。
クレスは軽く飛び上がり爆発的な勢いで脚を一閃させようとした。
だがその瞬間、一人の男が嬉々として飛び込んできた。
「おいおい、そうはさせねェよ!!」
「ハリスさん!!」
フォクシー海賊団から上がる安堵の声。
同時にハリスの背中から抜き去られた<鉄串>がクレスの心臓目掛けて突き出される。
クレスはそれを“鉄塊”で固めた腕で逸らし、半身になった姿勢から一気に裏拳を叩きこんだ。
鈍い音が響き、クレスの拳が止まる。
拳は咄嗟に抜かれた二本目の<鉄串>に受け止められていた。
「何だ、<ゲーム>でやり合うんじゃなかったのか?」
「そのつもりだぜ? だけどな、そういきり立つなよ。興奮するじゃねェか」
「とんだ暴れ牛だな。剣でも突き刺して大人しくしてやろうか?」
互いの力が拮抗し、クレスの拳とハリスの鉄串の間でギチギチと不協和音が発せられる。
クレスは無理やり一歩踏み込み、不意に力を抜いた。
「おおっ!?」
均衡が崩され、ハリスの体勢がぶれる。
クレスは見事なまでの体捌きでハリスの背後を取り、一切の容赦なく手刀を叩きこんだ。
だが、クレスの手刀は空を切る。
ハリスは体勢が崩れた状態であるにもかかわらず、構わず前に飛び、野生めいた運動センスで身体を捻り、なおかつクレスに向けて抉り込むように鉄串を突き出した。
「チッ!」
クレスはそれを身体を反らし回避。
するとハリスは突き出した鉄串をそのままの勢いで投げ捨て、突き出されていたクレスの腕を掴んだ。
「ハァッ!!」
そして猛然と目を見開き、クレスを強引に引き寄せ、もう片方の手に持った鉄串をクレスに向けて叩きこもうとする。
だが、それとハリスの攻撃を察し、クレスが拳を握ったもう片方の手をハリスに向けて突き出すのは同時だった。
クレスの拳は確実にハリスを打ち砕く。だが、同様にハリスの鉄串は"鉄塊"ごとクレスを突き破る。
互いの攻撃はピタリと急所を捉える寸前で止まった。
「いいねェ、やっぱりてめェは最高だよ」
「お前は相変わらずの戦闘狂でうんざりするよ。邪魔だ退け」
「なんだ、そんなにあのネェちゃんが心配なのか?」
「お前には関係ない」
「ま、その通りか。だが、たまには信用してやってもいいんじゃねェか? 付きまとわれるとネェちゃんも迷惑だろ」
「…………」
「ハハッ、怒るなって。だがまァ、てめェがレースの妨害をするならオレも動かないわけにはいかねェな。これでも今はあの船の用心棒やってるんでね」
その後しばらく沈黙が続いたが、同時に拳と鉄串を引き、二人は目線を合わせたままゆっくりと離れた。
握っていた拳を解いたクレスが言う。
「持ち越しだな」
鉄串を背中の筒へと収納しハリスが答えた。
「楽しみにしてるぜ」
ハリスはそのままフォクシー海賊団の方へと歩いて行く。
クレスは海の方へと視線を向けた。ロビン達の乗ったボートは既に視界の外にある。
サンジを筆頭に、お邪魔攻撃を行おうとしたフォクシー海賊団の面々は全員強制的に黙らされたようだ。
「まァ……いい」
クレスはそう呟き踵を返した。
◆ ◆ ◆
一進一退の攻防を繰り広げた「ドーナッツレース」はいささか不可解な現象によって終結した。
相手は遠距離攻撃に長けた戦闘員に加え魚人にサメと考えうる限り最悪のメンバーだったが、ナミ、ウソップ、ロビンは見事に奮闘する。
そしてその末、最後の直線においてリードを勝ち取った。
だが、後僅かでゴールという瞬間にそれは起こった。
「ノロノロビ───ム!!」
と、四足ダッシュで疾走するハンバーグの上で、フォクシーの指先から光線が放たれる。
為す術も無くその光線を浴びる麦わらチーム。その瞬間、身体が、船が、波が、───全てがノロくなった。
そして麦わらチームがノロくなったその隙に、相手チームに抜き去られ、そしてそのままレースが終了した。
第一回戦は一味の敗北だった。
「第一回戦ドーナッツレース、おれ達の勝ちだ!!」
得意げにフォクシーが一味に宣言する。
<ノロノロの実>。
フォクシーは今だ謎に包まれた未知の粒子<ノロマ光子>を自在に発せられる能力を持っていた。
この<ノロマ光子>を浴びた物体はその他全てのエネルギーを残した状態で“ノロく”なるのだと言う。
ありえないなどという言葉は通じない。
理屈はともかく、現実としてそこにあるのだから。
『さァさァ、では待望の戦利品! 相手方の船員一人を指名ししてもらうよっ! オヤビン、どうぞ~~~っ!!』
進行役が<ゲーム>の勝者に戦利品の指名を促す。
<海賊ゲーム>の醍醐味。
勝者は、敗者チームから好きな人物を一人、仲間として引き入れる事が出来るのだ。
フォクシーがにんまりと一味を見渡す。
船長、
剣士、
航海士、
狙撃手、
コック、
船医、
考古学者、
レンジャー、
一味は少数ながらも質の高い船員の集まりだ。フォクシーから見れば宝の山に見えるだろう。
急かすようにフォクシーの音楽隊が小太鼓を鳴らし、一味の不安が高まった時、フォクシーは欲しい船員を指差した。
「船医トニートニー・チョッパー!!」
指名されたチョッパーは速やかにフォクシー海賊団サイドへと連れて行かれる。
チョッパーは助けを求めたが、一味が手を出すことは出来ない。チョッパーはこれからフォクシー海賊団に忠誠を誓わなければならないのだ。
「チョッパー!!」とルフィ。
「あの野郎狙いはチョッパーだったのか。……確かにアイツは珍獣の中の珍獣」とサンジ。
「かわいいモノマニア!?」とナミ。
「毛皮マニアじゃないかしら?」とロビン。
「いや、密売するんじゃねェのか? ……食ってもマズそうだし」とクレス。
「言っとる場合か!! 仲間取られたんだ、こりゃシャレにならねェんだぞ!!」とウソップ。
心配する一味の目の前で、チョッパーは相手チームの熱烈な歓迎を受け、壇上の上の椅子へと座らされた。
顔には忠誠の証しとしてマスクが着けられ、目じりに涙を浮かべ“元”仲間だった一味を見つめている。
そしてついに堪え切れず、泣きごとを漏らしてしまう。
「ガタガタ抜かすなチョッパー! 見苦しいぞ!!」
そんなチョッパーに一人酒を煽っていたゾロが喝を入れる。
「お前が海に出たのはお前の責任。どこでくたばろうとお前の責任。誰にも非はねェ。
ゲームは受けちまってるんだ。ウソップ達は全力でやっただろ、海賊の世界でそんな涙に誰が同情するんだ」
厳しい言葉だが、ゾロの言うことは正論だ。
非情な海賊の世界に置いては、どのような結果になろうとも全ては己の責任となる。
海に旗を掲げ、また掲げられた旗に集った時点で、全ての選択は自身が選ぶべきなのだから。
「男なら───フンドシ締めて、黙って勝負を見届けろ」
ゾロの言葉にぐずついていたチョッパーは唇をかんだ。
そして溢れそうな涙をこらえ、鼻水を拭き、ドンと男らしく堂々と座りなおした。
「よし!! ───さっさと始めろ、二回戦」
それを見て頷き、ゾロは腰に下げた三本の刀を揺らしながら次の戦いへと歩を進める。
威風堂々たるその姿に、敵方のフォクシー海賊団から声援が飛んだ。
「……もっともだ。まだ二戦ある。
ウチの大切な非常食を取り戻してつりがくるぜ」
口元から煙を吐き出し、サンジもまた歩み出た。
ゲームは全部で三回、一度負けた所で問題はない。
「別にいい、勝つべき事には変わりない。それに、やられっぱなしってのは気に食わん」
最後に闘志を浮かび上がらせてクレスが次のゲームへと進む。
やるべき事は一つだった。
第二回戦「ブラッティペイント」
出場者はチョッパーがデービーバックされたため、ゾロ、サンジ、クレスの三人となる。
四対三。戦闘においては一騎当千の三人もゲームでは話が異なる。
この差は一味を不利な状況へと追い込むだろう。
そして懸念されるのはもう一つ。
「はっ、三人だとよ。何ならてめェらも抜けていいぞ」
と、ゾロ。
「いえいえ、てめェらが抜ろよクソ野郎共」
と、サンジ。
「やる気が無いんだったら抜けてもいいぞ。オレ一人で十分だ」
と、クレス。
今は三竦みの状態となっていて喧嘩には発展していないが、どう考えてもチームワークは最悪だった。
『ここで一発「ブラッティペイント」のルールを説明するよ!!
フィールドは一つ、ボールはいっぱい制限なし。相手チームのターゲットにボールを5つ、頭なら一つ叩きこめば勝利ッ!!
そしてターゲット板きれじゃなくて、人間だ!! 両チームまずはこのターゲットとなる人間を決めてくれ!!』
「オレが行こう」
麦わらチームでターゲットに立候補したのはクレスだった。
ゾロとサンジは元からターゲットになるつもりは無かったのか、すんなりと承諾された。
クレスの考えではこのゲームは<戦場>と言っても差し支えない事態になる。
そして、自身の予測が正しければ、相手のターゲットは一人に絞られる。
『おおっと! ココで、我らがフォクシー海賊団の選手の入場だァ!!
グロッキーリングと並び、無敵を誇る精鋭達に最強の助っ人を加えた最高の布陣!!』
進行役のアナウンスが響き、フォクシーの海賊団の面々が左右へと割れた。
その間を歩く人影が四つ。
周りの歓声を受けながら、そこに乗る四人はゆっくりとフィールドへと歩みを進める。
『さァさァ、まずは皆さんご存じ! ブラッティペイントの申し子三人衆ッ!!
<殺人ピッチャー>と名高い三つ子達。長男から、アリ―、イリ―、ウリ―!!』
前方を遮る壁のように現れたのは、クレス達の倍はある巨漢達だ。
異常に盛り上がった肉体に、やけにピッチリのユニホームと野球帽をかぶっている。
三人とも鏡で映したようにそっくりで、クレスでは見分けがつかない。
『そして、我らの頼れる用心棒───』
その時、クレスの周りで音が消え去った。
目に入るのは歩み寄る一人の男。
<鉄串>が収納された鉄筒を背負い、その口元に獰猛な笑みを浮かべている。
視線が交差する。
相手は肉食獣の如き獰猛な笑みを浮かべた。
クレスも自身の口元が僅かに釣り上がったのを自覚した。
「さァ、死合おうや。エル・クレス」
「望むところだ、<串刺し>ハリス」
あとがき
デービーバックファイト編です。
始めハリスを出さずに、グロッキーモンスターズVSゾロ、サンジ、クレスとグロッキー涙目的な話にしようと思っていました。ですが余りにも圧倒的過ぎて止めました。
替わりと言ってはなんですがのハリス登場です。
クレスとハリスがいるので第二回戦をオリジナルにしました。ドッチボール的なものですね。
次も頑張りたいです。ありがとうございました。