「あ~ビックリした。何なんだよ、この“不思議洞窟”は!!
地震ばっか起きるし、さっきは“海雲”まで流れ込んでくるしよ。溺れるとこだったよ」
麦わら帽子をかぶり直しながら、ルフィはうんざりとため息を吐いた。
ウワバミに襲われ、クレスが足止めをしている間に散り散りとなった五人。
一人になったルフィは野生の勘の赴くままに真っ直ぐ南(実際は南西)に進み、その途中でワイパーと遭遇し、戦闘となった。
ルフィはワイパーと互角の戦いを繰り広げるも、途中立っていた足場が崩落し、気がつけば洞窟のような場所に迷い込んでいた。
「出口はどこだァ!!」
洞窟内にはツタや岩石、遺跡の残骸、果ては人骨まで様々なものが転がっている。
一見、ゴミ捨て場とも取れるような惨状だったのだが、その中に存在を異にするものがあった。
黄金。
なんと一味が探す、黄金があったのだ。ルフィが見つけたのは王冠にネックレス。探せばまだ見つかるかもしれない。
だが、そこまではと棚から牡丹餅とでも言ってよかったのだが、困ったことにいつまでたっても出口が見つからなかった。
歩き回っても、一向に外に出られず、穴でも開けてみようと壁を殴りつければ、突如“地震”がルフィを襲った。
八方ふさがりと言っていい状況。
ルフィは苛立ち交じりに、こりもせずに“洞窟”を殴りつけることにした。
「ゴムゴムのバズーカ!!」
ゴムの弾性を生かした渾身の掌底が“洞窟”の側壁に突きささる。
だが、如何なることか、洞窟はルフィの一撃を受けてもびくともしない。
しかし、不思議な事にぶるぶると引き付けを起こしたように痙攣している。
壁を殴った時の感触は硬いものの、岩石とは異なる感触であったのだが、ルフィは気にはしなかった。
ルフィがもう一発殴ろうとした時、
「うわあああああああああああ!!」
洞窟がまた“地震”にあった。
まるで大波にのみ込まれたように上下左右にうねり、平坦な道が絶壁になったり、時折地面が逆転する。
数十メートルにも及ぶ急落下を味わい、上から様々なものが落下してきてルフィを襲い押しつぶす。
だが、ルフィはゴム人間だ。その程度ではびくともしない。
「ふんッ!!」
邪魔な瓦礫を粉砕し、ルフィはその中から這い出る。
「ぷは───っ! あ~ビックリした。また揺れやがったよコノヤロ」
ルフィは落下物をなにとはなしに見渡した。
そしてそこで思いがけないものを見つけて、声を上げる。
人だった。
「ん? なんでアイツもここにいるんだ?」
瓦礫の山を飛び越えて、ルフィはその者の傍に駆け寄った。
「おい、大丈夫か!?」
横たわるその姿は所々が炭化し、一目で重傷だと分かった。
だが、それでも胸を上下させて規則正しい寝息を立てているところ見ると、見た目以上には軽傷なのかもしれない。
手元を見れば、意味は分からなかったが鉄線が握られていて、そこから伸びた鉄線は愛用していたサバイバルナイフに繋がっている。
「おい、起きろ!!」
心配したルフィはとりあえず肩をゆすぶった。
「何があったんだ、クレス!!」
第十一話 「不思議洞窟の冒険」
風は無く、妙になまくさい匂いが漂っている。
「……ッ……ぁあ……痛ェ」
そんな空間で、規則正しい寝息を立てていたクレスは、ズキリと刺すような痛みで目を覚ました。
鈍痛のする頭を無理やりに覚醒させ、自身の状態を確認する。
身体が異常に重い。節々も痛んだ。だが、思ったよりは症状は軽いようだ。
「クソ……あの野郎……今度会ったら殺す」
“神”と名乗る男、エネルと対峙したクレスは、エネルが放った雷により敗北した。
<ゴロゴロの実>による圧倒的な威力の雷撃であったが、クレスが負った傷はその規模からは考えらねないほど軽い。
「……咄嗟に投げてよかった」
クレスの腕には鉄線とそれに連結したサバイバルナイフが握られている。
雷撃を受ける瞬間、クレスはこれを大地に向かい投げつけ、アース電流の要領で被害を最小限に抑えた。
だが、もともとの電圧がデタラメな数字だったため、衝撃はクレスを襲い意識を飛ばした。
「それにしても……どこだ、ここ?」
首だけを動かし辺りを見回す。
光源は感じられず、辺りは見渡す限りの暗闇だった。
クレスは無理やりに夜目に変更し、徐々に広がる視界に目を細めた。
「おっ! 起きたか、クレス!!
いや~なかなか起きねェからどうしようと思ったぞ。よかった、よかった」
「麦わら……?」
何故かそこにはルフィがいた。
溶けたようにボロボロになった服を着て、手には桶のようなものを持ってる。
クレスが目を覚ましたのを知ると、ルフィは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「何でお前がここに……つーかここどこだ?」
「わかんね。迷ってたらお前が降ってきたんだ」
「降って来た……? なんだそりゃ、お前が運んでくれたとかじゃないのか」
クレスは自身の置かれた状況に頭を悩ませる。
見た所洞窟のような場所だが、エネルの雷撃を喰らった時、クレスは密林の中にいた筈だ。
ならば何故この場所にいるのか。
おそらくは気絶している間に何かが起こったのだろうが、今のところ知る術は無さそうだ。
「そういえば何持ってんだお前?」
クレスはルフィが持っている桶のようなものを指した。
「ん? ああ、おめェがなかなか起きねェから水を汲んできたんだ」
「そうか……すまん。介抱しようとしてくれたのか。迷惑かけたな」
「おう! 揺すっても起きなかったときはどうしようかと思ったぞ。
いや~この水、くせェはぬめるはで気持ち悪かったけど、治ったならいいや」
「……ちょっと待て。お前、その水でオレをどうするつもりだった?」
「ぶかける」
「殺すぞコラァ!!」
感謝の気持ちなどというものは木端微塵に吹き飛んだ。
むしろ怒りすら湧いてくる。
「まぁ……いい。こんな洞窟にいてもしょうがない。とりあえずここを出よう。出口がどっちか分かるか?」
「それなんだよ。おれも気付いたらこの中にいてよ。いろいろやってみたんだけど、抜けだせねェんだ」
「まぁ、そんなに心配する必要はないだろ。入れたってことは必ず出れる筈だ」
「あっ!! それよりもよ、クレス!! 聞いてくれ!!」
ルフィは興奮を隠しきれない様子でクレスに言う。
「見つけたんだ!! 黄金っ!! この不思議洞窟の中で!!」
「……は? 本当か?」
「ホントだって!! 探せばまだ見つかるかもしれねェぞ!!」
ルフィの事だ、ウソでは無いだろう。
宝の現物を見ていないから分からないが、探す価値は十分にある。
一瞬、宝を探すべきかと本能的に血が騒いだが、クレスは直ぐその考えを取り消した。
「……いや、それは後にした方がいいかもしれない」
「何でだよ!?」
「……この島はヤバい。オレは宝よりもロビンの方が心配だ」
「そうなのか?」
ルフィは声のトーンを落とした。
傷だらけでクレスが現れたことから、ルフィも仲間の事が心配になったのかもしれない。
「ああ、宝に関しては後で全員集まってから探しに行った方がいいと思う。場所はオレが覚えとくから」
「わかった。なら、早くここを抜けよう」
クレスとルフィは洞窟から抜けだそうと前に進んだ。
前か後ろ。進むか、退くか。
道は一本なのだが、洞窟内は無風で変わり映えも無い。クレスも出口がどっちにあるのか分からなかった。
なのでルフィの意見を元に、ルフィが出口だと思って進んでいた方向に二人は進むことにした。
「それにしても……何だここは?」
洞窟の内壁を触り、そこから感じる感触にクレスは首をかしげる。
「どうしたんだ?」
呟き、考え込むように黙り込んだクレスにルフィが問いかける。
「洞窟の壁のさわり心地がおかしい。
硬いけど妙に弾力がある。……コレ絶対鉱物や岩石じゃないぞ」
「空だからじゃねェか? 雲みたいな感じで」
「……そう言われれば、納得するしかねェんだろうけどな。まぁ、今は関係無いか」
洞窟は一本道だったためにクレスも割りと楽観的に考えていた。
くねくねとした道や、急に坂になった道、滑り台のような下り坂。
時折足元にほんの僅かな振動を感じならがら、瓦礫や何故か壁とは異なる成分の岩石の塊を越え、転がる骨を飛び越え、洞窟内に溜まった酸性の強い沼地を抜ける。
共に身体能力は高い二人だ。特に障害となる障害も無く順調に二人は進んでいたが、やがて二人の歩みは止まった。
行き止まりだった。
「……行き止まりだな」
「そうだな」
どうやら進むべき方向は逆だったようだ。
クレスはため息をつき、どうしようもないので引き返そうとしたが、ルフィは立ち塞がる壁が不満だったようで、
「コンニャロ、穴あけ!!」
洞窟の壁をゴムキックで蹴り飛ばしていた。
「何してんだてめェ!!」
おそらく考える事も無く壁を蹴り飛ばしたルフィにクレスがキレる。
相当な威力の篭った蹴りだ。大岩であっても今の一撃を受ければ砕け散るだろう。
だが、そんな事を洞窟内ですればどんな危険が降りかかるか未知数だ。下手をすれば崩落が起こり生き埋めになる。
「だってよ」
「だってよじゃねェよ!! 軽率なマネすんじゃねェ!! 下手したら生き埋めになって死ぬぞ!!」
「大丈夫だって。おめェが来る前から殴ったりしてたけどビクともしなかったし」
「……お前よく生きてたな」
クレスは頭を抱えた。
直感論で本能的。言ってみればルフィはロビンとは真逆に位置する存在だ。
確かにそれが必要な場合もあるが、ルフィの場合何も考えていないので何をしでかすが分かったものではない。
今になってロビンの素晴らしさを再確認するクレスだった。
「ん? ちょっと待て。この洞窟確かに行き止まりだが、上に繋がってるな」
行き止まりの壁を見上げると、上に向かい周りと同じ大きさの穴が繋がっていた。
「うわ……もしかしたら、オレもお前も落とし穴みたいに空いた縦穴に落ちたのかもしれないぞ」
「なんだそれ?」
分からないといった様子のルフィにクレスは簡単に説明する。
「洞窟の一種だよ。縦方向に空いた穴で落ちると少々厄介なことになる」
だとすれば、脱出の難易度が大きく跳ね上がる可能性がある。
光が届いていないところを見れば、植物か何かで覆われているのかもしれない。
だがその時、クレスは引っ掛かりを感じた。
今まで通って来た道は入り組んではいたが、全て同じ大きさの横穴だったのだ。
自然に開いた穴ならばこんな事はありえない。という事はこの洞窟は、『ミルキーロード』のように何者かの手が入った穴か、もしくは別の何かとなる。
「ここを上に行ってみるか……それとも戻るべきか」
クレスが考えこもうとしたその時、洞窟が大きく振動した。
「なッ!?」
「うわッ、まただ!!」
「またって何だ?」
「いや~さっき殴った時もその後で洞窟が地震にあったんだ」
「どアホかッ!! それを早く言えッ!! それを知りながら何で殴った!!」
「うーん、なんとなく」
「てめェもう何もすんなァ!!」
洞窟内を襲った地震は激しさを増す。
まるでのたうちまわるように洞窟内が蠢きまわり、上下が簡単に逆転。床も急に消える。まるでシェイカーの中に飛び込んだようだ。
もはや地面には立っていられず、二人は暴れ回る洞窟内を成り行きに任せて、引きづり込まれるように後退させられた。
振動のあおりを受けて、瓦礫類まで躍るように飛びまわりクレスとルフィを襲う。
二人は飛来するそれを粉砕し、振動が納まるまで何とか耐えた。
「いや~ビックリした」
何故か楽しそうなルフィ。
振動は一段落し、洞窟内は何とか落ち着いたようだ。
「何ださっきの揺れは……尋常じゃねェにも程がある」
対照的にクレスは頭を悩ませる。
過去にもいくつか洞窟には入ったが、このような事は初めてだ。
ルフィがいう“地震”は崩落の事だろう。空島に地震があるのかは疑問だが、殴った際にどこかが崩れたのかもしれない。
だが、それにしても、さっきの揺れ方は尋常ではない。崩落で崩れたと言ってもあの揺れ方はありえない。
先程の揺れは洞窟自体が蠢いて揺れていたのだ。
「あ~クソ、何だってんだ。さっさとロビンと合流したいってのに……」
クレスは苛立たしげに吐き捨てる。
ウワバミ、ゲリラ、そして神。空島のサバイバルはトラブル続きだ。
神を信じた事は無かったが、今のクレスは神を探してでもで殴りに行きたい気分だった。
「あっ! クレス、そういえば、あのでけェウワバミはどうしたんだ?」
「どういう意味だ?」
「倒したのか? なら後でサンジに頼んでメシにしよう」
「いや、倒し切れなかったから木に縛り付けて来たんだ。
暫くは動けない筈だが、食うのは諦めとけ。あのヘビはしつこすぎる」
「なんだ、まだ生きてんのか」
ルフィは腕を頭の後ろで組んで、「あーあー腹減った」などと緊張感も無く呟いている。
お前朝も大量に食ってただろと思ったが、言うだけ無駄であろう。
この男の胃袋もウワバミだ。目の前にある食材を圧倒的なスピードで消していく。
……まるでまる飲みしているように。
「ちょっと待て」
クレスは頭痛を抑えるように額に手を当てた。
まさかという思いが脳裏によぎる。
だが、恐ろしい事にありえない話ではないのだ。
「麦わら、ちょっと手を貸せ」
「ん? 何だ?」
クレスはルフィに向け協力を要請する。
「この洞窟、もう一回ぶん殴るぞ」
洞窟の内壁に向かい、クレスとルフィは拳を構えていた。
「でもよークレス、ホントにいいのか?」
意外な提案をしたクレスに、ルフィが地震が心配なのか問いかける。
「問題無い。殴ってみてまた地震が起きれば、オレは納得する」
「そうか。なら、思いっきりやるぞ」
「ああ。この洞窟はおそらく崩れる事は無い。上手くいけば突き抜けるだけ。手加減は無用だ」
硬くも何故か弾力のある内壁。
それに向けてルフィとクレスは同時に動いた。
「ゴムゴムの───ッ!!」
「指銃───ッ」
ルフィはゴムの弾性をフルに生かした拳。
クレスは鉄塊によって硬化させた拳。
二人はともに内壁に向け、強烈な一撃を繰り出した。
「───銃(ピストル)!!」
「───“剛砲”!!」
渾身の一撃が共に内壁に突きささる。
二人の拳は内壁に抉りこみ陥没させるも、突き破る事は叶わなかった。
だが、変化は顕著に表れた。
内壁は痙攣を起こしたように小刻みに振動。そしてその後、赤くはれ上がったのだ。
そして、クレスが予感した“地震”が起こった。
「やっぱりそうか……なんてこった」
予測通りの事態にクレスは苦く顔を歪める。
前程が間違っていたのだ。
この場所は、“洞窟”では無く、“洞窟のような場所”だった。
クレスはこの正体を知っている。
そもそもが、自身の置かれた状況としては考えにくい場所だ。
この長く巨大な穴。
のたうちまわるように暴れる内部。
あちこちに転がる骨。酸性の強い沼地。
まる飲みという事実。
そこから連想されるのは───
「ここ……腹の中だ。あのウワバミの中の……!!」
ルフィとクレスは知らぬ間に、クレスの拘束から逃げ出したウワバミに食べられたのだ。
◆ ◆ ◆
神の島、アッパーヤードでの生き残りをかけたサバイバルも終盤へと差し掛かろうとしていた。
神の軍団、シャンディア、麦わらの一味。
この三者の戦いは多くの脱落者を出し、その数を確実に減らしていく。
そして生き残った者は、巨大な豆蔓(ジャイアントジャック)へと集結し、三つ巴の乱戦を始めようとしていた。
「アァ……見るからに凶暴そうなのがいるな。黄金よこせ」
刀を抜き、ゾロが言い放つ。
「やれやれ哀しいな。我が“鉄の試練”誰一人逃れられぬのに……!!」
神官オームとそのペット、ホーリーは試練に訪れた咎人達を歪んだ哀しみで嘆く。
「てめェら全員、邪魔するなら排除するのみだ!!」
神の打倒を目指すワイパーはバズーカ砲を装填する。
「エネルの居所、神隊の居所を教えて貰おうか!!」
相棒のピエールと共に<空の騎士>にして“元神”の老騎士ガン・フォールはランスを構える。
「ジュララララララララ……!!」
そして何故か迷い込んだウワバミが腹に入り込んだ異物に苛立ち咆哮する。
四人と三匹。
それに加え、この場に向かって次々と生き残った者たちが向かおうとしていた。
乱戦は混乱を極め、誰かが倒れ、誰かが生き残る。
それを嗤う男が一人。
「ヤハハハ……!! そうだ全員登れ。上層遺跡で消し合うがいい。───生き残りは五人。神の予言は絶対なのだ!!」
選定の戦。
神が定めた、生き残りの席を争う最後の戦いが今幕を開ける。
あとがき
思ったより前に進みませんでした。
クレスは空の主の腹の中です。
食べられたといってもルフィと同じように気付かないと思うんですよね。まぁ、食べられた事が無いので分かりませんが。
あと関係ありませんが、空の主の鳴き声の『ジュラララ』が『デ○ラララ』に見えて仕方ありません。なんとなく似てる気がします。
次も頑張りたいです。ありがとうございました。