一味が二手に分かれて、少しの時間が経った。
「この国の歴史を少し話そうか……」
脱出組に同行した空の騎士は船に揺られながらポツリと口を開いた。
雲の河の流れに船を乗せ、手ぶらとなったナミ、ウソップ、サンジは語り出した空の騎士に注目する。
「……我輩6年前まで“神”であった」
「頭打ったかおっさん?」
いきなり話の腰を折った無礼なウソップにピエールが馬になって噛みついた。
空の騎士は気にせず続ける。
「……この“神の島(アッパーヤード)”がスカイピアに姿を見せたのは、おぬしらの知る通り400年も昔の話だと聞く」
大地はもともと空には無い物だ。
それまでの“スカイピア”ごく平和な空島だった。
たまに“突き上げる海流”に乗ってやって来る青海の物資は資源に乏しい空の者に重宝された。
空島にある大地は全てそうやってやって偶然来たもの。だから、“神の島”ほど巨大な“大地(ヴァ―ス)”が空にやって来る事は奇跡だった。
空の者は当然それを、天の与えた“聖地”だと崇め、喜んだ。
しかし、“大地”には先住民<シャンディア>がいて、空の者は私欲に走り、当然のように戦いが始まってしまった。
幾重もの戦いを経て、空の者はシャンディアから"大地"を奪い取り、シャンディアは故郷を失った。
以来、400年。戦いは止まない。
「じゃ、おめェらが悪いんじゃねェかよ」
「───そうだな。おぬしらの……言う通りだ」
サンジとウソップの言葉に空の騎士は表情を変えることは無かった。
空の騎士───先代の神、ガン・フォールは400年にも渡る戦いにおいて、唯一和平を試みた神であった。
だが、それも果たせぬままに神の座を追われた。
「エネルは? 何なの<神・エネル>って?」
ナミが質問する。
「……我輩が“神”であった時、どこぞの空島から突如兵を率いて現れ、我輩の率いた<神隊>と<シャンディア>に大打撃を与え、“神の島”に君臨した」
君臨したエネルは、神隊を何らかの労働に強いた。何をしているのかは詳しくは分からない。
シャンディアにとっては神が誰であれ、状況は何ら変わらない。ただ故郷を奪還するのみだった。
「聞いてりゃ、その<神・エネル>ってのはまるで恐怖の大魔王だな」
「恐怖か……いや、それより性質が悪い。
エネルはお前達のように国外からやって来る者達を犯罪者に仕立て上げ、裁きに至るまでをスカイピアの住人達の手によって導かせる。
これによって生まれるのは、国民達の“罪の意識”。己の行為に“罪”を感じた時、人は最も弱くなる。エネルはそれを知っているのだ。
“迷える子羊”を生みだして支配する。まさに“神”の真似事というわけだ。……食えぬ男よ」
一味が出会ったコニスとパガヤもそうだった。
国民達は恐怖に怯え、罪の意識に頭を垂れる。
<神・エネル>とはまさに、無慈悲な、神という絶望そのものであった。
第八話「海賊クレスVS空の主」
「おいゾロ!! そっちは逆だ! 西はこっちだぞ!! まったく、お前の方向音痴にはホトホト呆れるなァ」
「おいルフィ。お前は何でそう人の話を聞いてねェんだ。
“髑髏の右目”何だから右だろうが! あっちだ!! バカかてめェは!!」
ルフィとゾロは互いに相手とは逆方向を指しながら口論していた。
そんな二人に離れた場所にいるロビンとクレスはチョッパーに、
「……私たちが向かっているのは“南”で方向はこっちだと伝えてくれる?」
「ついでに、どう考えても足手まといだから船に帰れと言ってこい」
「よしきた」
クレス達は予定通り“神の島”を南に向けて進んでいた。
深い森の中ではまともな方角が定まりにくい。そして空島もグランドラインなのでコンパスも使えない。
方角を知るには、太陽の位置ぐらいからしか察しれない為、慣れた者でない限りかなり迷いやすくなっている。
もっとも、ルフィとゾロはそうでなくとも迷う可能性があるのだが。
探索組の五人の役割は黄金郷の発見と黄金の確保。黄金が眠っている可能性があるとあって、特にルフィはウキウキだった。
「何だ南か、早くそれを言えよ~。ん~~んん~~ん~~♪」
「ルフィ! その手に持ってるのいい感じの棒だな!!」
「なははは! だろ? やらねェぞ、チョッパー。自分で見つけろ」
「ああ……いいなぁ~~。棒どこだ? 棒……棒……」
「……棒がどうした」
棒を見つけたチョッパーは、棒で遊びながら四人に語りかける。
「でもおれはこの森もっと怖いとこかと思ったけど、なーんだ大したことねえな~」
チョッパーの周りにいるのは、ルフィ、ゾロ、ロビン、クレス。
一味の中でも頼りになる実力者ぞろいだ。この四人が周りにいると相当心強い。
「へぇ、チョッパー、今日は強気なのか」
「そうなんだ。がはは」
「だが、確かに正直拍子抜けだよなァ。
昨日おれ達が森へ入った時も別に何も出なかったぜ。神官の一人とも会わず終い。おめェの気持ちもわかるぜ、チョッパー」
「だ、だろ?」
「おかしな人たちね。そんなにアクシデントが起こって欲しいの?」
「まったくだ。まぁ、心配しなくてもアクシデントなんてもんは起こる時は呼んでも無いのに向うから……」
クレスはピタリと動きを止めた。
急に立ち止ったクレスにルフィ達が声をかけようとするが、クレスは「シッ」っと口元に指を立てる。
「動くな。……何か聞こえる」
クレスの言葉に一味は耳を済ませた。
静寂に包まれた森の中で、聞こえて来たのはパキパキと何かが引き潰される音と、ずるずると重く地面を引きずる音。
「……喜べお前ら。アクシデントだ」
「な、何の音なんだ?」
震えた声でチョッパーが問う。
クレスは珍しく引きつった笑みを浮かべた。
「ヘビだ。たぶん捕捉されてる」
「ヘビ? なんだそりゃ、ぶった斬ればいいじゃねェか」
「ただの蛇じゃない」
クレスは厳しい視線を前方に向ける。
「たぶん全長は軽く100メートル以上はある、超巨大な大蛇(ウワバミ)だ……!!」
ジュララララ……と舌をチラつかせながら、前方に巨大なウワバミは姿を現した。
その冷たい目を向けられ、五人は一瞬言葉を失った。
「逃げろ~~!! 大蛇だァ!!」
「ギャアァ~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
「何て大きさ……これも空島の環境のせいかしら」
「やっぱり、食う気満々かよ」
「ナマズみてェな野郎だ。ぶった斬ってやる」
一味が身構えた瞬間、ウワバミが咆哮する。
そしてその巨体に似つかわしくない俊敏な動きで五人の中心に飛びかかり、メリー号でさえ余裕でまる飲みにできそうな口で噛みついた。
五人は素早くウワバミを避け、それぞれに避難する。
ウワバミは勢い余り、正面にあった空島の環境ゆえに巨大化した大樹に食らいつき鋭い牙を立てた。
すると、ジュ……という、焼け付くような熔解音と共に、大樹が一瞬でごっそりと溶かされ、バランスを失い、自重に負けメキメキと倒れた。
「毒……!?」
「チッ、最悪の部類だな。クソ」
「こりゃ逃げた方が……よさそうだな」
「確かに」
「コエ~~~~!!」
ウワバミは笑っているような顔で牙を剥き、五人に襲いかかろうとする。
五人は撹乱の為、それぞれ別の方向へと散った。
「毒液に触れるな、即死だぞ!! のあっ! こっち見んな!!」
「おーい!! 毒大蛇(ウワバミ)!!
こっちだぞ~~!! ついて来いっ!! 餌が逃げるぞ~~~!! アッハッハッハッハ!!」
危険を促すゾロと、ウワバミを挑発するルフィ。
クレスはうろたえるチョッパーに思いついた考えを口にした。
「おい、トナカイ。オレにいい考えがある」
「な、なんだ!?」
「───エサになれ」
「フザんなァ!!」
ウワバミがまず目を付けたのは、能力によって近くの大樹に飛び乗ったロビンだった。
飛びかかってくるウワバミをロビンは大樹を蹴り、軽やかに避ける。そして能力によって腕を咲かせ、新たな枝へと飛び移った。
獲物を見失い、辺りを見回すウワバミに、
「おいおいおいおい歯ァ食いしばれ、ウワバミ……ッ!!」
クレスが“月歩”によって一瞬で接近。
そして拳を固め、ウワバミの横っ面に強力な一撃を叩きこんだ。
クレスの拳は超重量のウワバミを近くの大樹に叩きつけた。だが、その巨体故か反応は鈍い。
ウワバミは軽く頭を振ると次は目に入ったチョッパーに狙いを定めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
チョッパーは全力で走った。
全力過ぎて、<獣形態>にもかかわらず四足歩行を忘れていた。
「こりゃまずいな……」
ロビンの傍までやって来たクレスはウワバミを見て呟く。
このウワバミを倒しきることは難しいだろう。先程は本気で殴りつけたにもかかわらず、ウワバミは堪えた様子も無い。
ここで散り散りになって逃げたとしても、後で合流(出来るかどうかは、はなはだ疑問だが)した時に、また現れないとは限らない。
「どう考えても……足止めした方がいいよな」
「どうしたの、クレス?」
クレスは当たりを見渡し、地形を確認。
獲物との力量の彼我、そして腰元に下げた装備とを分析し、答えを出した。
「ロビン……悪いけど、先行っといていてくれるか?」
「クレスはどうするの?」
「あのヘビを───狩る」
クレスは静かな視線をウワバミに投げかけた。
「そう、無茶しないでね」
「ああ、お前も無理すんなよ」
ロビンと暫く別行動を取るのは心配だったが、今はあのウワバミをどうにかするのが一番に思えた。
幸い、目的地は決まっている。いずれは誰か仲間と合流するだろう。
敵が誰であってもロビンならば易々と敗れはしない。クレス自身も手短に済ませ、後を追えばいい話だ。
クレスは基本的に勝てない戦いはしない。ロビンもそれを知っていたので、クレスに従うことにした。
「んじゃ、行くわ」
「ふふ……がんばって」
タン、とクレスとロビンは真逆の方向に飛んだ。
クレスは“月歩”によって空中を駆け、今はチョッパーを追いまわしているウワバミの顎にすくい上げるような一撃を繰り出した。
大口を開けていたウワバミは強制的に顎を閉じられ、舌を噛み、痛がっていた。
「クレス!!」
「先行け、トナカイ。ここは任しとけ」
「うおおおおお!! クレス~~~ッ!! ありがとう!!」
チョッパーは感動し、脇目も振らずに森へと走り去って行った。
クレスはウワバミを見上げ、手招きし挑発した。
「来いよ……ウワバミ。バカでけェ財布にしてやるよ」
ジュラアアアアアア……!!
ウワバミは怒り狂ったように咆哮を上げ、クレスに襲いかかった。
◆ ◆ ◆
───同時刻。神の島、海岸。
神の島、アッパーヤードの先住民シャンディア。
故郷を取り戻そうと400年もの間、神の一団に戦いを挑み続けた彼らは今日、最後の戦いに挑もうとしていた。
「……またチャンスが来ると思うな」
大戦士カルガラの血を引き、誰よりも勇猛に戦う、<戦鬼>ワイパー。
ワイパーの後ろには、戦いを潜り抜けてきたシャンディアの精鋭達が集結してる。
彼等は地面に無残にぶちまけたバックいっぱいの“大地”に背を向け、目の前に広がる神の島を睨めつけた。
鞄に納められていた“大地”は村にいるアイサという少女の宝だった。鞄をあずかっていたラキという女戦士がワイパーを非難したが、仲間の一人が制した。
全てが終われば、この程度のちっぽけな“大地”に憧れる必要も無いのだ。
大地への憧れも、望郷も、全てが解決する。
「覚悟のない物はここに残れ、責めやしない」
「おい、ワイパー、覚悟なんておれたちゃそんなもんいつだって……」
「途中で倒れた者を見捨てる覚悟があるか?」
ワイパー仲間に背を向け、無言のままに覚悟を迫った。
「仲間を踏み越えて、前に進める奴だけついて来い。───今日おれはエネルの首を取る」
かつて、大戦士カルガラは言った「シャンドラの火をともせ」
シャンドラの戦士たちはそれに準ずる。
彼らは今日、全てにケリをつけるつもりだった。
◆ ◆ ◆
“神の島”の中心に位置する“巨大豆蔓(ジャイアントジャック)”。
天空へと昇るその巨大な蔓の上層を覆う雲の上に、“神の社”はあった。
「ヤハハハハ!! 今日の“神の島”は、なかなか賑やかだな。そうだそうだ、祭りの参加者は多い方がいい」
その中心に据えられた雲で作られた広々とした玉座に、一人の男が悠々と腰かけていた。
鷹揚とした様子の男だ。頭にバンダナを巻き、異様に長い耳たぶと、眠たそうな目をしている。
間の抜けた姿に見えるが、其の実、全てを見通してるような余裕が感じられた。
この男こそが<神・エネル>。スカイピアに君臨する唯一神だ。
「さァて……こちらの戦力は、神官3に、神兵長ヤマ率いる神兵50。私を含めて54人。
今、島に向かっているシャンディアは20人。
青海人は森に入ったのが5人。脱出組が4人……いや、3人。ジジイはもう戦えまい」
神の島にエネルへと報告する監視員はいない。
だが、まるで全てを見通しているようにエネルは語る。そしてそれは全て事実だった。
エネルは女官から受け取ったリンゴを玩びながら、悠然たる笑みを浮かべた。
「締めて82人! これで生き残り合戦というわけだ。ヤハハハ!! 今より3時間後、これが一体何人に減るか当てようじゃないか」
神の戯れ。何人生き残るか予測する簡単なゲームだ。
エネルは傍に控えていた男官を指した。
男官は神の戯れに苦言を交えつつも、50人と答えた。
神官、神兵、シャンディア、青海人。どれも相当な実力者だと彼は読んだ。三時間で30人ほど落ちる計算だ。
「ヤハハハハ!! なるほどな50人。
だが、お前、それでは少し甘いな。空の戦いをナメているぞ」
「……では、“神”はどのようなお考えで?」
「よし、私がズバリ答えてやろう。3時間後、この島に立っていられるのは82人中───」
エネルは神の予言を告げる。
「───5人だ」
そして、手に持っていたリンゴにかぶりつく。
咀嚼しながら、両頬を歪めた。
「生き残った者だけが箱船に乗り“夢の世界”へと旅立てる。その資格を得るに相応しいのはのは誰だろうなぁ?」
◆ ◆ ◆
ウワバミが大口を開けて飛び込んでくる。
クレスは“剃”によって地面を駆け、その場から脱出し、ウワバミの噛みつきを逃れた。
「チッ……あの巨体でこのスピードか」
わかっていた事だが、ウワバミの相手は骨が折れる。
一味は全員逃げ出し、周りにはクレス一人。
目的は足止め。もう十分時間が立っているので、それも十分に思えた。
問題はこのウワバミをどうやって振り切るかだ。
「また来やがった」
舌をチロつかせながら、ウワバミはクレスを見下ろす。
クレスはぐっと脚に力を溜め、解き放つ。
「嵐脚“線”」
一直線に伸びた斬撃は長いウワバミの胴に直撃する。
だが、クレスの嵐脚はウワバミの強靭な鱗を浅く裂いただけだった。
予想外の攻撃に怯むウワバミだが、長い身体をくねらせクレスに喰らいつく。瞬間、クレスは飛んだ。
大地を削りながら、ウワバミの顎がバックンと広範囲にわたり飲み込むも、クレスは逃れた。
クレスはそのまま、低空でウワバミの傍を駆け、その額に硬化させた拳を叩きこむ。
ウワバミの巨体が地響きと共に大地に叩きつけられるも、一瞬の後、その巨体が空中のクレスに向け跳ねあがった。
「ッ!!」
ウワバミの巨体故に回避は間に合わない。
クレスは一瞬でそう判断し、全身に“鉄塊”をかける。鞭のようにうねる巨体にクレスは大きく吹き飛ばされた。
凄まじい程の衝撃がクレスの全身に響いた。今の衝撃を受ければ海王類でさえ一瞬で絶命し、はるか上空まで吹き飛ばされた後に地面に叩きつけられるだろう。
だが、クレスは耐えきった。“鉄塊”で全身を守りつつ、絶妙なタイミングで後ろに引いたのだ。
一撃を凌いだが、うかうかしていられない。待ちきらないのか、ウワバミはヘビの独特の顎を限界まで開けて落ちてくるクレスを飲み込もうとしている。
全長100メートルを越すウワバミがのび上がりクレスに食らいつく。
クレスとの距離は一瞬で0に近づき、トラバサミのように顎が閉じられる。
クレスは"月歩"を駆使し、閉じられる直前に逃げ切った。
「コイツはマジで……骨が折れるどころじゃないぞ。へたすりゃこっちがやられるな」
クレスは枝の上に立ち、大地を占領するウワバミを眺める。背中には冷たい汗が流れていた。
力技は無理だ。ウワバミの巨体故にこちらの攻撃は効果を上げていない。
このままコッチに気づかずに通り過ぎてくれればいいのだが、鋭い嗅覚とピット器官をもつヘビ相手には通じないだろう。
「頭を使うしかないか」
クレスは腰元のバックからナイフと対海王類用の鉄線を取り出した。
「こっちだウワバミ!!」
クレスは隠れていた木の枝から飛び出し、ウワバミの注意を引いた。
案の定、ウワバミはクレスの存在に気がつきその巨体をうねらせながら追いかけてくる。
ウワバミを引きつれて走り、目を付けた大樹に向けてナイフを投げ込んだ。ナイフは大樹に巻き付き、固定される。
クレスはウワバミから逃げながらそれを繰り返す。
そして、全て設置し終わるとクレスは方向転換を果たした。ウワバミはただ前にいる獲物を追い続ける。
クレスは目を付けた大樹の周りをぐるぐると回る。ウワバミは大樹に巻き付きながらその後を追う。ウワバミに巻きつかれた大樹はしめつけられ、ミシミシといやな音をたてた。
「よし……いいぞ、そのままついて来い」
クレスはトン、と大樹を蹴って離れた。
「嵐脚“乱”」
空中で回転しながら鋭く脚連続でを振り抜き“嵐脚”を放った。大樹の枝が何本も切断される。
大樹に巻き付いたウワバミは空中のクレスに向けて襲いかかろうとする。
だが、ガクン、とウワバミの動きが縫いつけられるように止まった。
「……捕まえた」
ウワバミの身体には対海王類の鉄線が大樹ごと巻き付き、締め付けていた。
クレスの仕掛けた罠は単純だ。一本のロープを結べば輪になるように、ウワバミの身体を何ヶ所も鉄線によって大樹に巻きつけ、固定したのだ。
ウワバミは固定する鉄線は釣り糸と同じで、引けば引く程作られた輪が縮まる結び方をされている。つまりはウワバミがもがけばもがくほど締め付けられるのだ。
もがくウワバミが咆哮する。
その力に罠どころか、巻きついている大樹までメキメキと音を立てた。
「動くんじゃねェよ」
クレスは硬化させた拳で思いっきりウワバミの下顎をを殴り上げた。
ウワバミは顎を閉じられ、一瞬大人しくなったものの、それでも抵抗を続けた。
「……やっぱり、オレもまだまだか。
リベルのおっさん位強ければ、このウワバミも小細工なしで粉砕出来んだろうがな」
クレスはもがくウワバミに背を向けた。
捕らえたはいいものの、今のクレスでは屈強な生命力を持つであろうこのウワバミを倒しきるよりも、ウワバミが罠を破る方が早いだろう。
悔しいが倒しきるには力が及ばない。
だが、目的を忘れるわけにはいかい。クレスは頭を切り替えた。
ウワバミはもがきながら、自身を捉えたクレスを睨めつける。
「悪いがそこで大人しくしてろ。
もう追ってくんなよ、オレはお前にはもう会いたくない」
そしてクレスはウワバミを残してその場を去り、逸れたロビンの後を追うために、森の中を進んで行った。
残されたウワバミは抵抗を続ける。
ミシミシ、メキメキと大樹をへし折らんと締め上げながら。
◆ ◆ ◆
「結構時間が経ったな……ロビンはどの辺だ?」
ウワバミを足止めし、クレスは目的地に向け進む。
立ち並ぶ巨大な樹木と行く道を遮るように隆起する根。そして島中を巡る空の河。
クレスはそれらをいちいち乗り越えるなどというまどろっこしい事はせずに、月歩によって高速で進んだ。
「それにしても……やたらと森が騒がしいな」
断続的に響く爆発音や破壊音。
クレスは知る由も無かったが、現在“神の島”では<神兵>と<シャンディア>による壮絶な戦いが繰り広げられていた。
「ん?」
クレスが上へと視線を投げかける。
すると、上空を流れる雲の河から、白い法衣のようなものを来た男が「メェ~~~!!」という奇声と共に襲いかかってきた。
クレスは男が突き出した掌を空中を蹴り避ける。そしてすれ違いざまに男の腕を取って強引に下へと投げつけた。
男は地面に叩きつけられるも、よろよろと立ち上がろうとする。だが、立ち上がる寸前に上空から飛来したクレスの踏みつけを受けた。
「しまった……尋問すりゃよかった」
完全に意識を飛ばした男にクレスは軽く後悔した。
おそらく昨日のミーティングより<神兵>と予測できるが、いくつか情報を引き出すべきだったかもしれない。
まぁ、しょうがないかと、意識をロビンとの合流に切り替えたクレスに声がかけられた。
「コイツ……ワイパーが言ってた青海人か」
「そのようだな、カマキリ」
クレスが見上げれば雲の河の上に、ゲリラらしき男が二人いる。
男達はそれぞれに武器をクレスに向け構えた。
「おいおい待て待て、先を急いでんだ。やり合うつもりはない」
「フン……関係ねェな。ここはおれ達シャンディアの土地だ。大戦士カルガラに従い侵入者は排除する……!!」
カマキリと呼ばれた、モヒカンに丸いサングラスをかけた男はクレスに槍の矛先を向ける。
どうやら、こちらの都合などお構い無しのようだ。
クレスは指先に力を込め、指を鳴らした。
「ったく……せっかく見逃してやるって言ってんのによ。
さっきも言ったが、先を急いでんだ。後悔すんなよ、手加減はなしだ」
「ハン……言ってろ。先を急ぐのはお互い様だ」
あとがき
サバイバル本格始動です。
今回はクレスVSウワバミですね。今のクレスでは倒しきれませんでした。
ウワバミは考えればかなり強いと思います。
エネルは例外としておいておいて、ワイパーの燃焼砲でさえかき消しましたし、ルフィが中から攻撃しても無事でした。
そう考えると、一撃で首を落としたノーランドと、刺し殺したカルガラの強さはヤバいですね。
次も頑張りたいです。ありがとうございました。