波と風を手繰り、メリー号は“積帝雲”の中へと入り込んだ。
雲とは一般的には水蒸気の塊だとされている。
だが、“積帝雲”の雲はまるで海中のように身体が濡れ、当然のように息が出来なかった。
必死に船にしがみつき、宣告もなしに突然襲った窒息感と戦う。
気が遠のきそうになったその時、目の前に光が差し込んだ。
空を飛んだ勢いと船の持つ浮力によってメリー号は雲を抜ける。そして、その上に浮かび上がった。
「くッ……ロビン!!」
身体を包む倦怠感からほぼノータイムで立ち直ったクレスは、真っ先にロビンの下へと駆け寄った。
クレスの勘が告げている。今抜けた雲は間違いなく“海”だった。
ならば能力者のロビンにどんな影響を残すかは未知数だ。
ロビンはぐったりと欄干にもたれかかりながら、他の一味と同じようにあらい息を吐いている。
「ハァ……ハァ……大丈夫よ……クレス」
「苦しいんだったら無理すんな。ゆっくり息を整えろ」
「フフ……もう、心配性ね」
心配するクレスにロビンは無事を告げる。息は荒いがどうやら、大事は無かったようだ。
一味もそれは同じようで(ウソップは何故か頭を打って気絶していたが)暫くすると、いつものように元気に立ち上がった。
クレスは一安心し、辺りを見渡した。
「ここは……雲の上……か?」
雲を抜けた先は一面の白だった。
液体状の雲が、まるで海のように広がり、波打っている。
前方には山のように盛り上がった雲の塊があり、その合間から滝のように雲が流れ落ちていた。
空の世界は見渡す全てが雲で出来ていた。
第五話 「雲の上」
「何だココは!! 真っっっっ白!!」
興奮したルフィが叫ぶ。
一味は辺りを見渡し、果てしなく続く雲の世界に息をのんだ。
「雲!? 雲の上!? 何で乗ってんの!!」
「そりゃ乗るだろ、雲だもん」
「「「イヤ、乗れねェよ」」」
クレスはメリー号が浮かんでいる雲に目を向ける。
この雲を突っ切った時の感覚は、海水にしては軽いように感じたが、それでも"海"であった。
僅かにのみ込んだ雲が塩の味がした事からもそう予測できる。
原理などはさっぱりわからないが、さしずめ今浮かんでいる雲は、“空の海”なのだろう。
「そう言えば航海士、ログはどこを指してんだ?」
「ログ? ……ちょっと待って」
ナミは方位指針を覗きこんだ。
「……まだ、上を指してる。これより上があるってこと?」
「どうやらココは“積帝雲”の中層みたいね」
「まだ上があんのか。……次はどうやって行くんだろうな」
「それは分からないわね」
ナミ、ロビン、クレスはログの指す位置に頭を悩ませる。
だが、現状では手段は未知数だ。結局のところはどこかに進んで見るしかないのだろう。
「第一のコ~~~ス!! キャプテン・ウソップ!! 泳ぎま~~~す!!」
「おう!! やれやれ!!」
「ウソップ、スゲェ!!」
対照的にウソップ、ルフィ、チョッパーは浮かれまくっている。
「やめとけ」とサンジが呆れながら言うが、ウソップは気にせず海に飛び込んだ。
「おいおい……よくも臆せず堂々と。危機感ゼロだな」
「……あいつ等ときたら」
「でも、とっても楽しそう」
「そりゃ、楽しいだろうよ。なんたって“空の海”だ」
呆れ顔でクレスは立ち上がり、靴を脱ぎ、上着を脱ぎ捨て、サイドバックを外す。
軽装となったクレスは軽く腕を回す。そして僅かに口元をほころばせた。
「って、あんたも行く気満々じゃない!!」
「ま、一応は得意分野だしな。どっちにしろ調べるなら実際に潜るのが一番だろ? ついでに長鼻の様子も見て来てやるから」
「ただ口実が欲しいだけに聞こえんだけど」
「偶然だろ」
クレスはサイドバックからナイフと鉄線を取り出して腰元に下げた。
「お! クレスも行くのか!?」
「まぁな。なんか食料になりそうなものがあったらついでに取って来てやるよ」
「うひょ~~~! マジか!」
「パサ毛! 取って来るなら食えそうなのにしろ。とりあえずコイツ等に毒見させる」
「ああ、適当に準備して待ってろ」
空の海。
どんな場所かは潜れば分かるが、やはり心躍った。
「クレスも楽しそうね」
「そりゃそうだろ、なんたって空の海だ」
クレスは側壁の上に立ち、軽く飛び上がって、身体を弓のように撓らせる。
そして矢のように伸びあがり、一気に海に飛び込んだ。
水を掴み、一気にかき出す。すると面白いほどに身体が前に進んだ。
初めて泳いだのはいつだったが、“六式”の訓練によって幼いころから身体能力が高く、泳ぐ事も得意だった。
浮き輪で浮かんだロビンを遠くへ連れて行こうと引張って、ロビンに怖がられたのも懐かしい。
(それにしても……やっぱり軽い水だな。抵抗を殆ど感じない)
視界は雲だからか真っ白だ。
だが、前方がまったく見えないと言う事は無く、慣れてくれば薄い靄のように感じられた。
軽く、柔らかく、白い。不思議な感触だが、これが"空の海"を泳ぐと言う事なのだろう。
ぼんやりとそんな事を考えながら泳いでいると、下方に先に潜ったウソップの姿が見えた。ウソップは下へ下へと進んでいく。
その軽さ故か、空の海は潜る事にほとんど抵抗を感じない。
ウソップも一通り泳いでそれを感じたのだろう。
だが、潜る事に抵抗がないと言う事は、逆に浮力が小さいと言う事だ。
沈みやすく、浮かびにくい。この事を失念していると痛い目を見る事になるだろう。
クレスはその事の警告を伝えておこうと、とりあえずウソップに近づいていく。
だが、クレスの目の前から突然ウソップの姿が消えた。
(……ちょっと待て、ドアホかあいつはッ!!)
クレスは爆発的に海を蹴り放って、ウソップに向けて一気に加速する。
抵抗のない白い海を進んで暫くすると、目の前の景色が一気に開けた。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁあああ!!」
その先には真っ逆さまで絶叫と共に涙と鼻水を垂れ流しにしたウソップの姿。
ウソップは空の海の底を抜け、何も無い“ただの空”で存分に自由落下を味わっていた。
少し考えれば分かる事だ。メリー号は雲の底を突っ切って空までやって来た。空の海に行き着く“底”など無いのだ。
「長鼻ァ!!」
「クレス!? だ、だずげでぐれええぇええええぇぇぇぇえええええええ!!」
ウソップはクレスの姿に全力で助けを求める。
自業自得にも程があるのだが、見捨てるわけにもいかないので、クレスは“月歩”でウソップに駆け寄り、逆さに落ちるその脚を掴んだ。
それと同時に雲から綺麗な二重の目を咲かせたゴムの腕が伸びて来た。ロビン達も心配して助けようとしたのだろう。
クレスはロビンにウソップを掴んだ腕を上げて無事を告げる。ゴムの腕に咲いたロビンの目は安心したような笑みを作ると、スッと消えた。傍目から見るとホラーだが、クレスは特に気にしない。
「余計な心配させんな……コラ」
ウソップは失神してしまっていた。
クレスは片足の“月歩”で飛びながら、ウソップの頭をもう片方の足で軽く蹴った。
「……ん、ココは……ひゃあああああああ!!」
「うるさいぞ」
「ぐおッ!!」
「帰るぞ長鼻。大人しくしてろ。暴れたら餌にすんぞ」
「は、はーい」
クレスは大人しくなったウソップを連れて再び、雲の中へと入った。
「おもっしれーなココの魚」
ウソップを助け出してからクレスは何度か海に潜り、空の海に生物がいる事を突き止めた。
空の魚に関してはノーランドの日誌にもある記述で、日誌内では“奇妙な魚”と表現されている。
浮力が小さく底のない海で、生き残るために独自の進化を遂げた結果でろうと予測できる。
「しかもうめェ!!」
「ソテーにしてみた」
現在、船ではクレスが取って来た魚の試食会という名の毒見が行われている。
毒がないのはクレスとサンジが一応確認済みだが、それでも万が一という事もある。
よって、とりあえず先に胃袋も丈夫そうな男共に振る舞う事にした。
「おお……なかなかうまいな。やっぱ料理人がいると違う」
クレスも“空魚その1のソテー”を口に運んだ。
口に入れた空魚は弾力があるのに柔らかく、口の中でとろけるように消えていく。新食感だ。つけ合せのソースも絶妙だった。
クレスも調理は一通りこなせるのだが、なかなかサンジのようにはいかない。
「ロビンも食べるか?」
「ええ、頂くわ」
「ロビンちゅわァ~~~んッ! どう? おいしい?」
「ええ、とても」
「いや~~照れるなァ! 腕によりをかけました、レディ」
「……オレの取って来た魚だしな」
「あァ!? おれの料理にケチつけるつもりか」
「あ? 事実だろ」
「アホが二人」
「「てめェには言われたくねェよロロノア(マリモ)!!」」
方位指針はまだ上を指しているものの、船をどう進めていいのか分からないため、一味は取り合えず前方の壁のように立ち上る雲の塊へと船を進めている。
船の見張りはチョッパー。双眼鏡を覗きこみ、辺りを見渡していた。
「おーい! みんな!! 船と……人? えッ!?」
「どうしたチョッパー?」
「船があったのか?」
「いや……うん、いたんだけど、もういなくて!! そこから牛が四角く雲を走ってこっちに来るから、大変だァ~~~!!」
「わかんねェ、落ちつけ!」
とりあえず何かがいたのだろうと、警戒のためにクレスはチョッパーが指を指して騒いでいる方向に目を向ける。
「何だ……人?」
「人だ!! 雲の上を走ってくんぞ!!」
「おい止まれ、何の用だ!!」
角の生えた四角い仮面を被り、背中に天使のような羽を生やした男がコチラに向かって雲の上を滑走してくる。
肩には物々しいバズーカ―砲を担ぎ、手には細長い盾を持っている。明らかな敵意を感じた。
「排除する」
仮面の向うで男の双眸が鋭い光を放った。
「やる気らしい」
「上等だ」
「何だ? 何だ?」
飛びかかって来る男にサンジ、ゾロ、ルフィが立ち向かう。
仮面の男は足のスケート靴のような装置から烈風を噴射させ、加速した蹴りで3人を一瞬で吹き飛ばした。
三人とも身体が思うように動いていなかった。だがそれも仕方がないだろう。今は空に昇って来たばかりだ。急激な気圧の変化にさすがの三人も着いていけなかったのだ。
男は船の甲板を蹴って恐ろしい程の跳躍を見せながらメリー号から離脱し、肩に担いだバズーカ砲の照準を一味に向けて定めた。
「排除」
男の引き金が引かれる瞬間、
「物騒なもん向けんじゃねェよ」
“月歩”によって接近したクレスが砲身を踏みつけ、強制的に照準を下げた。気圧の変化もクレスは例外だった。
メリー号を外れた砲弾は雲の海に大きな水柱を上げる。
同時にクレスは砲身の上を駆け、男を蹴りつける。鎌のような半円を描いた鋭い蹴りに、男は足の装置から烈風を噴射させた。
噴射を受け、男の体制がクレスの蹴りの軌道から僅かに逸れる。クレスの蹴りは男の顔面に直撃するも男の仮面を砕くだけにとどまった。
「チッ……」
男の素顔が露わになる。
何かの風習か、剃り込んだ長髪を後ろに束ね、顔の左側に毒々しい刺青を入れた男だ。
男は舌打ちするクレスに向け、脚の装置の噴射によって身体を捻りながら、勢いに乗った回し蹴りを放った。
クレスは咄嗟に“鉄塊”で硬めた腕で防御する。鋼鉄のような硬度持つクレスの腕を素足で蹴りつけたにも関わらず男は眉ひとつ動かさない。
それどころか、クレスに受け止められた脚を噴射装置によって更に加速させ、中に浮いたクレスをなぎ払った。
だが、男の脚は空を切る。クレスは“月歩”によって直前で後ろへと引き避けていた。
一瞬にも満たない攻防の末、男は雲の上へと着地する。その着地の瞬間、空を駆けるクレスが男に向け指を突き出した。
「指銃ッ!!」
「……ッ!!」
六式が一つ、指銃。
高速で打ち出される鉄指の弾丸。
クレスの指銃は男の胸の中心を射抜くように突き出されて、男が咄嗟に突き出した細長い盾を貫いた。
だが、クレスの攻撃は男の身体を削り傷を与えるも、決定打には至らなかった。男は貫かれた盾の合間からクレスの懐に身体を滑り込ませるように密着する。
そして掌をクレスの腹部に押し当てた。
「───衝撃(インパクト)!!」
瞬間、クレスの身体に衝撃が駆け抜けた。
咄嗟に鉄塊で防御したにも関わらず、男の掌から生まれた衝撃はクレスの“髄”を破壊する。
だだの打撃では無い。いうならば打撃が生まれる過程を省いて、威力のみを直接叩きこまれたような衝撃だ。
「……ガッ!!」
内臓を痛めたのかクレスの口元から血が漏れ、体制を崩し、雲の中へと投げ出される。
男は後ろに飛びながら担いでいたバズーカ砲をクレスに向けた。
速やかに引き金が引かれ、砲弾が発射される。砲弾は容赦なくクレスに迫った。
「嵐脚!!」
クレスは雲に沈んだ状態で足を一線させ、斬撃を放つ。
放たれた斬撃は砲弾と相殺し砲弾が炸裂する。爆音が轟き、男との間に黒煙が漂った。
「効いたぞ……今のは……」
クレスは月歩で飛び上がりながら、黒煙の向うにいる男を睨めつける。
口の中に溜まっていた不快な血を吐き出し、手の甲で口元を拭った。
「なめんな」
「……しぶとい野郎だ」
クレスの両足に力がこもる。
男もまた盾とバズーカ砲を構えなおした。
「そこまでだァ!!」
その時、水玉模様の巨大な鳥に乗り、甲冑を身を包んだ老騎士が飛来する。
老騎士はクレスと睨み合う男に向けて、手に持ったランスで体重の乗った鋭い突きを繰り出した。
男は老騎士のランスを盾で受けるも、後ろへと弾き飛ばされる。
弾き飛ばされた男はクレスと老騎士を見比べ、舌を打ち、背を向け退いた。
「去ったか」
老騎士は鳥から飛び降り、メリー号へと降り立った。
そして、しばし呆然としていた一味に向け、
「ウ~~~ム、我輩、空の騎……グべッ!!」
老騎士の頭にクレスの踵が食い込んだ。
「誰だコイツ?」
「それを今聞いてんだよ!!」
怒られた。
「ウ~~ム、いきなり踵落としとはヒドいのである」
「悪い、怪しいから敵だと思った」
クレスはチョッパーに処置を受けながら“空の騎士”と名乗った老騎士に頭を下げた。
「ウム……まぁ、それもしたがななかろう。それよりもビジネスの話をしようじゃないか。おぬしら青海人であろう?」
「ビジネス……? それに青海人って何?」
ナミが空の騎士に問いかける。
「青海人とは雲下に住む者の総称だ。つまりは青い海から昇って来たのか? という事だ」
「うん、そうだぞ」
先程の男にやられた状態で寝っ転がっていたルフィが答える。
空気が薄いため、上がった息がなかなか整わない。
どうやらまだ気圧の変化に戸惑っているようだ。それは座り込んだサンジとゾロも同じなのだろう。
「ならば今の状態も仕方あるまい。
ここは“青海”より7000m上空の“白海”。更にこの上層の“白々海”に至っては一万mにも及んでいる。通常の青海人では身体が持つまい……」
ルフィは空の騎士の言葉を聞きながら背中のバネで起きあがった。
そしてドンと胸を叩く。
座り込んでいたゾロとサンジも長い息を吐いた。
「おっし! だんだん慣れて来た!!」
「そうだな……だんだん慣れて来た」
「イヤイヤありえん」
「早いうちに全力を出せるようにしとけよ。オレも一撃貰っといて言えた義理じゃないが、動けるようにしといたほうがいい」
「いきなり動けるおぬしが一番ありえん」
空の騎士は気を取り直し、話を進める。
「我輩フリーの傭兵である。
ココは危険の多い海だ。空の戦いを知らぬ者なら、さっきのようなゲリラに追われ、空魚の餌になるのがオチであろう。
そこでだ。───1ホイッスル、500万エクストルで助けてやろう」
空の騎士の言葉に一味は首を捻り、
「何言ってんだおっさん?」
素直な疑問を上げた。
「バカな! 格安であろううが!! これ以上は1エクストルもまからんぞ!! 我輩とて生活があるのだから」
「だからその“エクストル”だとか“ホイッスル”ってのがわかんねェんだよ」
サンジの言葉に空の騎士は目を唖然と見開いた。
「ハイウエストの頂かがココに来たんじゃないのか? ならば島を一つ二つ通ったであろう?」
「ちょっと待って!! 他にもこの“空島”に来る方法があったの!? それに一つ二つって、空島っていくつもあるもんなの?」
「……何と!! おぬしらまさかあの“バケモノ海流”に乗ってココへ!? ……まだそんな度胸の持ち主がおったとは」
「……普通のルートじゃないんだ、やっぱり」
ナミが自分たちが一か八かの勝負をした事に気づきおよおよと泣き崩れる。
「いーじゃん、着いたんだから」
「死ぬ思いだったじゃないのよ!! じっくり情報を集めていればもっと簡単にッ!!」
ルフィの胸倉をナミが暴力的に揺さぶる。
「そう言えば……クレスが取って来た航海日誌にもそんな事書いてあったわね」
「なるほど……そっちが正規ルートだったか」
「納得してんじゃないわよッ!!」
恐慌するナミ。
だが、空の騎士は諭すように言葉を紡いだ。
「一人でも船員を欠いたか?」
「いや、全員で来た」
「他のルートではそうはいかん。100人で空を目指し、何人かが到達する。誰かが生き残る。そういう賭けだ。
───だが、“突き上げる海流”は全員死ぬか、全員到達するかだ。
0か100の賭けが出来る者はそうはおらん。近年では特にな。度胸と実力を備えるなかなかの航海者達とみうけた」
空の騎士は一味に向かい小さな笛を投げた。
「1ホイッスルとは一度この笛を吹き鳴らす事。さすれば我輩、天よりおぬしたちを助ける為に参上する。
本来はそれで空の通貨500万エクストル頂戴するが、1ホイッスルおぬしらにプレゼントしよう。その笛でいつでも我輩を呼ぶがよい」
空の騎士はそう言い、背を向け立ち去ろうとする。
「待って! 名前もまだ……」
「我輩は“空の騎士”ガン・フォール!!」
「ピエ───ッ!!」
すると主の名乗りに応じ、控えていた水玉の鳥が大きく鳴いた。
「そして相棒、ピエール!!」
空の騎士は名乗りを終え、颯爽と相棒のピエールに飛び乗った。
「言い忘れたが、我が相棒ピエール、鳥にして<ウマウマの実>の能力者!!」
「鳥が!?」
巨大な鳥の姿が変化する。
掻き爪は力強い蹄に、嘴は消え、口からはエンジンにも似たうねりを吐いた。
鳥の肉体は悪魔の力により馬へと変化する。
だが、唯一。背中にはためく翼だけはそのままだ。
「つまり!! 翼をもった馬になる!! 即ち……」
「うそ……!! 素敵!! ペガサス!!」
ペガサス。神話のみに語られる伝説の天馬。
老騎士を背に、荒ぶるように後脚で立つ。鋭い嘶きが響いた。
「そう、ペガサス!!」
「ピエ~~~~~ッ!!」
ただ全身水玉模様だった。
(((いやァ、微妙……)))
ブサイクな馬だった。
「勇者たちに幸運あれ!!」
宣託を告げる神官のように空の騎士は一味に言葉を贈り、ブサイクな天馬で去って行った。
「……結局なにも教えてくれなかったわね」
「そうだな。……何だったんだあの爺さん」
結局手がかりも無く、一味はひとまずは予定通りに、前方の滝のように流れ落ちる雲に向けて舵を取った。
メリー号は雲の海を進み、やがてその前に大きな雲の塊が立ち塞がる。
ためしにルフィが手を伸ばしてみると弾力を持って弾かれた。触ってみると干したての布団のように柔らかく温かい。
今度は固形の雲。それはつまり、この雲の上を船は通れないと言う事だ。
一味は固形の雲と雲の間に出来た迷路のような隙間を辿って、前に進む。空の騎士を呼ぶ案も上がったが、緊急事態用として残しておく事にした。
苦労しながらも雲の迷路抜ける。
すると前方に巨大な門が現れた。
「『HEAVEN'S GATE』……“天国の門”だとよ」
「縁起でもねェ。死にに行くみてじゃねェかよ!!」
「いーや、案外もうおれ達ァ死んでんじゃねェのか?」
「そうか、その方がこんなおかしな世界にも納得できるな」
「死んだのかおれ達!?」
「天国か~~~楽しみだァ!! こっから行けるんだ!!」
門の向こうには一味が目標として目指した巨大な雲の滝がある。
滝は更に上の天空へと繋がっていた。どうやらココが入り口で正解のようだ。後はあの滝をどうやって昇るかだった。
「見ろ!! あそこから誰か出てくる!!」
ウソップが指を差す。
門は短いトンネルのようになっていて、両側に歩行用の陸地スペースがある。
そこに繋がる個人用の扉からカメラを持った老婆が出て来た。
「観光かい? それとも……戦争かい?」
シャッターを切りながら老婆は一味に問いかける。
「どっちでも構わないけど、上層へ行くんなら入国料一人10億エクストルおいて行きなさい。それが法律」
どうやら入国管理の人間らしい。
特に珍しい事ではないが、どうやら空島にもそういう制度があるらしい。
以外に発達した社会を形成している島なのかもしれない。
「天使だ……梅干し見てェな天使だ」
「10億エクストルってベリーでいくらなんだ?」
「……あの、もしお金がなかったら?」
ナミの問いかけに老婆は無表情で、
「通っていいよ」
「いいのかよッ!!」
「───それに、“通らなくてもいい”。
私は門番でも憲兵でもない。お前たちの意志を聞くだけ」
老婆は不気味な笑みを浮かべた。
「ん! じゃあ、おれ達は空島に行くぞ!! 金はねェけどな」
「そうかい。8人でいいんだね」
特に考える事も無くルフィは即答した。
「いいのか? 払っとけば面倒事に巻き込まれずに済むかもしれないぞ」
「いいんじゃねェのか? 払わなくていいって言ってんだし」
「そうね、タダで済むならそれに越したことはないわ」
こういうケースは後で法外な“違反金”や“滞在料”や“出国料”をブンどられる事がある。払えなければ強制的に過酷な労働に回されるだろう。
クレスはそれを指摘したがルフィは意見を変える事は無かった。
ナミも頭を悩ませ、結局をお金を取った。
「でもよ、どうやって上に行くんだ?」
そんな疑問が上がった時、メリー号に取り付けられ、空に昇る際に折れてしまった両翼を巨大なハサミが掴んだ。
「白海名物、“特急エビ”」
驚く一味をよそに、メリー号を掴んだ巨大なエビは雲の滝に向けて進み始めた。
ジョットコースターのように高速でメリー号は雲で出来た滝を昇っていく。滝はずっと上まで続いてる。
歓声を上げる一味。この上に一味の目指す“白々海”の空島があるのだろう。
「……供物は8人」
メリー号がその姿を消した時、老婆が口元を歪める。背中に生えた白い羽とは真逆の笑みだ。
───「天国の門」監視間アマゾンより、全能なる“神”及び神官各位。
───神の国「スカイピア」への不法入国者8名。
───“天の裁き”にかけられたし───
あとがき
空島編開始です。
今回はクレスVSワイパーですね。
ワイパーのインパクトダイアルに関してはオリ設定ですが、リジェクトダイアルを使っていた事から、普段はインパクトの方を使用しているのだと想像しました。
クレスがインパクトで一撃を貰う。以外にこれが重要だったりします。