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No.11290の一覧
[0] 【完結】幼なじみは悪魔の子 (ワンピース オリ主)  [くろくま](2012/05/21 00:49)
[1] 第一部 プロローグ 「異端児」 [くろくま](2010/03/27 22:21)
[2] 第一話 「母親」  [くろくま](2010/01/15 22:03)
[3] 第二話 「慈愛」 [くろくま](2010/01/15 22:06)
[4] 第三話 「訪問者」[くろくま](2009/11/16 22:22)
[5] 第四話 「悪魔の実」[くろくま](2009/10/31 10:08)
[6] 第五話 「日常」[くろくま](2009/10/31 10:15)
[7] 第六話 「別れ」[くろくま](2009/10/30 22:56)
[8] 第七話 「血筋」[くろくま](2009/09/10 19:51)
[9] 第八話 「秘密」[くろくま](2009/09/11 20:04)
[10] 第九話 「どうでもいい」[くろくま](2009/09/11 20:13)
[11] 第十話 「チェックメイト」[くろくま](2009/09/11 20:26)
[12] 第十一話 「最高手」[くろくま](2010/03/13 12:44)
[13] 第十二話 「悪魔の証明」[くろくま](2009/09/11 20:31)
[14] 第十三話 「お母さん」[くろくま](2009/09/11 20:40)
[15] 第十四話 「ハグワール・D・サウロ」[くろくま](2009/09/09 19:55)
[16] 最終話 「if」 第一部 完結[くろくま](2009/09/13 00:55)
[17] 第二部 プロローグ 「二人の行き先」[くろくま](2009/11/16 22:34)
[18] 第一話 「コーヒーと温もり」[くろくま](2009/11/16 22:37)
[19] 第二話 「老婆と小金」[くろくま](2009/11/16 22:47)
[20] 第三話 「遺跡と猛獣」[くろくま](2009/09/22 00:15)
[21] 第四話 「意地と酒」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:10)
[22] 第五話 「意地と賞金稼ぎ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:06)
[23] 第六話 「意地と残酷な甘さ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:02)
[24] 第七話 「羅針盤と父の足跡」[くろくま](2009/09/27 02:03)
[25] 第八話 「クジラと舟唄」 [くろくま](2009/10/02 00:50)
[26] 第九話 「選択と不確かな推測」[くろくま](2009/10/05 19:31)
[27] 第十話 「オカマと何かの縁」[くろくま](2009/12/20 00:51)
[28] 第十一話 「オカマとコイントス」[くろくま](2009/12/20 00:52)
[29] 第十二話 「オカマと鬨の声」[くろくま](2009/12/20 00:54)
[30] 第十三話 「オカマと友達」[くろくま](2009/12/20 00:57)
[31] 第十四話 「オカマと人の道」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[32] 第十五話 「オカマと友情」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[33] 最終話 「洞窟と水面」 第二部 完結[くろくま](2009/11/04 22:58)
[34] 第三部 プロローグ 「コードネーム」[くろくま](2010/01/11 11:13)
[35] 第一話 「再びのオカマ」[くろくま](2010/01/11 11:23)
[36] 第二話 「歯車」[くろくま](2010/01/11 11:29)
[37] 第三話 「あいまいな境界線」[くろくま](2010/01/11 11:46)
[38] 第四話 「裏切り者たち」[くろくま](2010/01/11 11:50)
[39] 第五話 「共同任務」[くろくま](2010/01/11 12:00)
[40] 第六話 「歓迎の町の開幕」[くろくま](2010/01/11 12:16)
[41] 第七話 「歓迎の町の邂逅」[くろくま](2010/01/21 23:38)
[42] 第八話 「旗」[くろくま](2010/02/21 22:04)
[43] 第九話 「虚像」[くろくま](2010/02/07 23:53)
[44] 第十話 「ユートピア」[くろくま](2010/05/30 00:25)
[45] 第十一話 「ようこそカジノへ」[くろくま](2010/04/08 21:09)
[46] 第十二話 「リベンジ」 《修正》[くろくま](2010/03/10 13:42)
[47] 第十三話 「07:00」[くろくま](2010/03/10 17:34)
[48] 第十四話 「困惑」[くろくま](2010/03/10 17:39)
[49] 第十五話 「決戦はアルバーナ」[くろくま](2010/03/10 17:29)
[50] 第十六話 「それぞれの戦い」[くろくま](2010/03/14 20:12)
[51] 第十七話 「男の意地と小さな友情」[くろくま](2010/03/14 20:40)
[52] 第十八話 「天候を操る女と鉄を斬る男」[くろくま](2010/03/27 21:45)
[53] 第十九話 「希望」[くろくま](2010/03/29 21:40)
[54] 第二十話 「馬鹿」[くろくま](2010/04/11 18:48)
[55] 第二十一話 「奇跡」[くろくま](2010/04/12 20:54)
[56] 最終話 「これから」 第三部 完結[くろくま](2010/05/14 21:18)
[57] 第四部 プロローグ 「密航者二人」[くろくま](2010/05/03 00:18)
[58] 第一話 「サルベージ」[くろくま](2010/05/10 23:34)
[59] 第二話 「嘲りの町」[くろくま](2010/05/20 21:07)
[60] 第三話 「幻想」[くろくま](2010/05/28 21:31)
[61] 第四話 「ロマン」[くろくま](2010/05/31 18:03)
[62] 第五話 「雲の上」[くろくま](2010/06/05 10:08)
[63] 第六話 「神の国 スカイピア」[くろくま](2010/06/15 17:29)
[64] 第七話 「序曲(オーバーチュア)」[くろくま](2010/06/24 20:49)
[65] 第八話 「海賊クレスVS空の主」[くろくま](2010/06/26 23:44)
[66] 第九話 「海賊クレスVS 戦士カマキリ」[くろくま](2010/06/30 22:42)
[67] 第十話 「海賊クレスVS神エネル」[くろくま](2010/07/06 05:51)
[68] 第十一話 「不思議洞窟の冒険」[くろくま](2010/07/08 21:18)
[69] 第十二話 「神曲(ディビ―ナコメイディア)」[くろくま](2010/07/17 22:02)
[70] 第十三話 「二重奏(デュエット)」[くろくま](2010/07/24 15:38)
[71] 第十四話 「島の歌声(ラブソング)」[くろくま](2010/08/07 19:39)
[72] 第十五話 「鐘を鳴らして」[くろくま](2010/08/10 12:32)
[73] 間話 「海兵たち」[くろくま](2010/08/10 17:43)
[74] 第十六話 「ゲーム」[くろくま](2010/08/26 05:17)
[75] 第十七話 「昂揚」[くろくま](2010/08/29 07:53)
[76] 第十八話 「偶然」[くろくま](2010/09/06 12:51)
[77] 第十九話 「奥義」[くろくま](2010/09/14 21:18)
[78] 最終話 「過去の足音」 第四部 完結[くろくま](2010/09/21 20:00)
[79] 第五部 プロローグ 「罪と罰」[くろくま](2010/09/30 18:16)
[80] 第一話 「理由」[くろくま](2010/10/06 19:55)
[81] 第二話 「水の都 ウォーターセブン」[くろくま](2010/10/11 19:42)
[82] 第三話 「憂さ晴らし」[くろくま](2010/10/26 20:51)
[83] 第四話 「異変」[くろくま](2010/10/26 20:57)
[84] 第五話 「背後」[くろくま](2010/11/06 09:48)
[85] 第六話 「エル・クレスVSロブ・ルッチ」[くろくま](2010/11/14 11:36)
[86] 第七話 「隠された真実」[くろくま](2010/11/29 03:09)
[87] 第八話 「対峙する二人」[くろくま](2010/12/20 22:29)
[88] 第九話 「甘い毒」[くろくま](2010/12/20 23:03)
[89] 第十話 「記憶の中」[くろくま](2011/01/03 02:35)
[90] 第十一話 「嵐の中で」[くろくま](2011/02/13 14:47)
[91] 第十二話 「仲間」[くろくま](2011/03/20 21:48)
[92] 第十三話 「生ける伝説」[くろくま](2011/05/04 00:27)
[93] 第十四話 「READY」[くろくま](2011/07/16 13:25)
[94] 第十五話 「BRAND NEW WORLD」[くろくま](2011/08/15 18:04)
[95] 第十六話 「開戦」[くろくま](2011/08/20 11:28)
[96] 第十七話 「師弟」[くろくま](2011/09/24 15:53)
[97] 第十八話 「時幻虚己(クロノ・クロック)」[くろくま](2011/11/13 16:20)
[98] 第十九話 「狭間」[くろくま](2011/12/25 06:18)
[99] 第二十話 「六王銃」[くろくま](2012/01/30 02:47)
[100] 第二十一話 「約束」[くろくま](2012/02/22 02:37)
[101] 第二十二話 「オハラの悪魔達」[くろくま](2012/04/08 17:34)
[102] 最終話 「幼なじみは悪魔の子」 第五部 完結[くろくま](2012/08/13 19:07)
[103] オリキャラ紹介 [くろくま](2012/05/21 00:53)
[104] 番外編 「クリスマスな話」[くろくま](2009/12/24 12:02)
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[11290] 第四話 「ロマン」
Name: くろくま◆31fad6cc ID:be9c7873 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/31 18:03

「ハッハッハッハ!! 今日は最高だぜ!!」 

「あの時の大猿達にゃ笑ったよ!! あの図体で、『おやっさ~~~ん!!』だ!! ハハハハハハ!!」

「アハハハハハハ!! ダッサ~~イ!!」

「そう言ってやるなよ。相手がお前やベラミーじゃしょうがねェ。
 なんたってうちの船長は賞金額は5500万ベリーの大型ルーキーだ」


 嘲りの町、モックタウン。
 昼間に臆病者達をなぶりものにした酒場で<ベラミー海賊団>は戦果を祝い、祝杯をあげていた。
 食い散らかした料理と特上の酒が散乱するテーブルの中心には奪い取った戦利品が並べられている。
 夢追いのジジイ達が持っていた一級品の金塊。売りさばけば時価数千万以上の代物だ。
 酒の肴として頼んだありったけの店の料理も、この金塊に比べれば全てが圧倒的に劣る。この金塊を奪った時の武勇もまたしかりだ。
 今日は最高の一日だ。
 なぜならば、夢見がちのバカどもに圧倒的な実力差と現実を見せ付けてやったのだから。


「大変だァ!!」


 そんな時、息を切らしながら一人の男が手配書の束を握りしめながら店に駆けこんできた。


「昼間この店にいた奴らはすぐ逃げた方がいい!!」

 
 カウンター席で酒をあおっていたベラミーはその男に顔を向ける。
 男はベラミーの姿を見つけると、更に泡を食ったようにまくし立てた。


「ベラミー!! アンタまだここにいたのか!? すぐ逃げた方がいい、アンタ一番やべェ……殺されるぞ!!」

「何の話しだよ? おれが? 誰に殺されるって?」


 ベラミーがカウンターの椅子を回転させ、カウンターにもたれかかりながら男に向き直る。
 男は手配書の束を店中に見えるように広げた。
 近くにいた者が手配書を読み上げた。


「<海賊狩りのゾロ>懸賞金……六千万。
 <麦わらのルフィ>懸賞金……一億……い、一億!!?」


 誰もが声を失った。
 先程までの喧騒は一瞬で吹き飛んだ。
 重い沈黙の中で、誰かが滑り落としたグラスが割れ、甲高い音を響かせる。


「一億……?」

「……六千万」

「そうさ!! 昼間のあいつら二人とも、アンタより懸賞金が上なんだよ!! ベラミー!!」


 男のもたらした情報に店内は浮足立ち、ざわめき始めた。
 一億の賞金首など想像もつかないレベルだ。昼間の海賊達はとんでもない者達だったのだ。


「ハッハッハッ……ハッハッハッハ!!」


 そんな中で、渦中のベラミーの笑い声が響いた。
 その声に誰もが困惑する。
 ベラミーは小心者たちにバカらしげに告げた。


「馬鹿共が!! こんな紙切れに怯えやがって、てめェ等の目は節穴か? 昼間の張本人を見だろうが!!
 過去にこんな海賊がいたのを知ってるか? てめェの手配書をてめェで偽装して“ハッタリ”だけで名を上げた海賊。
 相手はその額に縮みあがり、何もせず、ただ降伏するわけさ。戦えば本来勝てるものをな。まさに、今のお前らだ!! 当人の弱さを目の当たりにしながらこのザマだ。情けねェ!!」


 ベラミーの言葉に店内は落ち着きを取り戻し始めた。
 考えればその通りだ。昼間の海賊達は喧嘩にも関わらず戦おうともしなかった腰ぬけどもだ。
 あんなひ弱そうな小僧どもに何を怯える必要があったのだ。第一“麦わら”などという名前も聞いたことがない。
 昼間の海賊達が何か凶悪な事件を起こしたというよりも、賞金額を自分で上げるトリックの方が幾分にも納得できる。


「何だ……脅かしやがって」

「ぎゃははははは!! 騙されてやんのば~か」

「うるせェ!! てめェもだろうが!!」

「何だ、心配して損したぜ」


 そして皆、再び酒を注ぎ飲み直す。
 ジョッキに注がれた酒を、先程の失態と共に飲み干そうとして、






「ベラミィ~~~~~!! どこだァアア~~!!!」






 昼間の海賊の怒声に、含んだ酒を噴き出した。


「ご指名とはな」


 再び重い沈黙が漂う店内で、一人、ベラミーが余裕の笑みと共に立ち上がり、外へと向かった。
 

「おい」


 欠けた月が空に浮かぶのを背に、その男は町中に声を響き渡らせるためか、背の高い円筒状の建物の屋上に立っていた。
 外は風があり、首にかけている麦わら帽子が揺れている。
 <麦わらのルフィ>手配書で見た通りの男だ。


「今、お前の噂をしてたトコさ。おれに用か?」

「そうだ。ひし形のおっさんの金塊を返せ」

「金塊? ああ、クリケットのジジイが持ってたやつか」


 ベラミーはルフィを見上げ、足に力を込めた。
 すると、ベラミーの足が渦巻くスプリングと変化し、収縮して、バネの持つ爆発的なエネルギーと共に解放される。
 <バネバネの実>これがベラミーの能力だ。
 収縮させたバネは圧倒的なパワーとスピードを生む。ベラミーは一足飛びで数十メートル上の麦わらの下まで飛び上がり、その正面に降り立った。


「返すも何も、アレはおれが海賊として奪ったんだ。海賊のお前にとやかく言われるつもりはねェ筈だ」

「あるさ」

「?」

「おっさん達は友達だ。だからおれが奪い返すんだ」


 昼間とは打って変わって、強気な様子の麦わらにベラミーは吹き出した。


「ハハハハハハ!! 聞くがお前、戦闘が出来るのか? パンチの打ち方を知ってんのか!? 
 てめェみたいな腰ぬけに何ができる!! 昼間みたいにつっ立ってても、おれからは何も奪えやしねェんだぜ、臆病者!!」

「昼間の事は話は別だ」

「そうか、一体何が違うんだ? じゃあ今度は……」


 ベラミーの脚がバネに変わる。


「もう二度とその生意気な口がきけねェようにしてやるッ!!」


 ベラミーは軽業師のように屋根を蹴って、バク転し後ろに跳んだ。
 収縮されたバネのエネルギーはいとも簡単に二人が立っていた屋根を崩した。
 ベラミーはそのまま近くの壁に張り付くように着地し、屋根と共に中に投げ出された麦わらに向けて拳を構える。


「スプリング狙撃(スナイプ)!!」


 バネの力を解き放ち、狙いすました一撃を麦わらに向けて繰り出した。
 麦わらは接近するベラミーの気配を察し、宙に舞う屋根の一部を蹴って、下に向けて飛んだ。
 間一髪で避け、その後ろでベラミーが屋根を粉々に粉砕する。麦わらはそのままの速度で地面に突っ込んだ。


「まさかそれで死なねェよな?」


 新たな壁に着地したベラミーの視線の先で麦わらは立ち上がった。
 ベラミーが口角を釣り上げる。


「スプリング跳人(ホッパー)!!」


 ベラミーが壁を蹴り放った瞬間、その姿が消えた。
 一瞬の後に、予想だにしなかった位置で爆発のようなモノが起こり、その位置が蹴り砕かれる。
 バネの力は跳び回る程に加速する。収縮と膨張を繰り返し、その身に宿る力を高めて行く。
 騒ぎに集まった者たちは一様にどよめいた。
 彼らから見えるのは次々と壊れゆく街並みと、その中心で背を向けて立つ麦わら。加速したベラミーの姿を捉えられたものは一人としていなかった。


「友達だって!? ハハッハハハハ!! そういや、あのジジイも大猿共もてめェらと同類だったな!! 400年前の先祖のホラを信じ続ける生粋のバカ一族だ!!」


 ベラミーは麦わらをせせら笑う。
 麦わらは爆撃のような破壊の中心で何もできずその嘲りを聞くしかない。


「何が“黄金郷”!! 何が“空島”!! 夢見る時代は終わったんだ、海賊の恥さらし共!!」


 気狂いのピエロのように、バネ足の男は跳び回る。
 最高潮まで高められた力は、どこまでも猛威を振るう。ベラミーが跳び回るテリトリーはまるで戦場跡のように崩れ去って行く。
 ベラミーはあざ笑う。
 時代は変わった。これからの時代を生き抜くのは、夢などという幻想にとらわれない、強い力を持つ者だけだ。
 夢におぼれる愚か者に生きる資格は無い。
 これは制裁だ。夢追いの愚か者に下す、今を生きる海賊としての制裁だ。
 さァ、挫けろ、どうしようもない力に挫け、現実に打ちのめされろ。
 夢は、幻想は! 絶対に叶わない!!


「パンチの打ち方を知ってるかって?」

「あばよ!! 麦わらァ!!」


 麦わらは静かに拳を握った。
 跳び回るベラミーに動じた様子も無い。
 無防備に立っているように見える麦わらに向け、不気味な音と共に、風を切り裂き、勝利を確信したベラミーが突っ込んでくる。
 誰もが、ベラミーの勝利を疑わなかった。同時に麦わらの敗北を疑わなかった。
 ルフィの身体が軽く沈んだ。脚が大地を力強く踏みしめる。
 そして、硬く握りしめられた拳は、ゆるぎない意志は、その胸に抱いた夢は、幻想は、全ての雑音と嘲りと障害を───
 

 
 

 
─── 一撃の下に、叩き潰した。












第四話 「ロマン」
 











「あんたは行かないでよかったの?」


 現在、ジャヤの東海岸では猿山連合総出によるメリー号の修繕・強化が行われている。
 一味と猿山連合が慌ただしく動き回る中で、ナミがゾロに問いかけた。


「あ? 何なんだおめェ……喧嘩すんなつったり、しろっつたり、行けっつたり、行くなつったり」

「違うわよ。あんただってやられたじゃない?」


 昼間の喧嘩の事だ。
 ゾロはルフィと同じく、相手に手を出すことなく殴られ続けた。


「やられた? ……別にあいつ等はおれ達の前に立ち塞がった訳じゃねェだろ。同情しか残らねェ喧嘩は、辛いだけだ」

「何ソレ? アンタばか?」


 ゾロとしてはしっかりとした理念があったのだが、その辺りの機微はナミには伝わらなかったらしい。


「うるせェ!! どっか行け!! 邪魔だ!!」

「コラコラコラ、マリモマン!! てめェ今ナミさんになんつった?」

「あァ?」

「おい、ニーチャン達こっちに板!!」

「ヘイ」

「お、気がきくな、タヌキ」

「トナカイだ!!」


 一味はルフィが一人でモックタウンに向かったにも関わらず、余り心配した様子を見せなかった。
 怪我の手当てを終え安静の為に座りこんでいたクリケットは近くにいたクレスに問いかける。


「おめェ等……あの小僧が心配じゃねェのか?」

「いや、少なくともオレは心配はしていない」

「理由を聞いてもいいか?」

「……理由か」


 クレスは船の補強に使う木材を抱え直しながら、軽く首を傾げる。


「特に浮かばないな」

「なに?」

「いや、言葉が悪いか……何ていうかな、あの男ならば大丈夫、そんな気がするだけだ」


 クレスの答えに、クリケットはくわえていた煙草をもみ潰した。


「大した理由だな」

「だろ? オレも不思議なんだよ。ただ……」

「ただ、何だ?」

「その理由がわからないからこそ、オレ達はあの男について行こうと思ったのかもしれない」

「そうか……邪魔したな」

「いや」


 クリケットは新たな煙草を取り出し火を灯した。
 夜の澄んだ空気をを吸い込み、煙と共に吐き出した。


「程々にしとけよ、おっさん。麦わらが帰って来るまでまだ時間はかかる」

「余計な御世話だ」

「そうかい」


 積み上がって行く煙草の吸殻に目を向け、クレスは作業を再開した。






 日は昇る。
 ベラミー達によって中破したメリー号だったが、一味と猿山連合の奮闘により無事、修繕と強化を終えた。
 メリー号は空島仕様に生まれ変わった。
 その名も、<ゴーイングメリー号 フライングモデル>
 基本は元のメリー号のままだが、鶏を模した両翼と尾羽が取りつけられ、船首にも赤い鶏冠がついている。


「私、これを見ると不安になるんだけど」

「鶏って飛べたっけ?」

「一瞬」

「それって落ちてねぇか?」

「まぁ……鶏よりは鳩の方がまだ飛べそうだな」

「それ以前の問題でしょうがァ!!」


 外見はともかく、修繕と強化は終わり、以前よりもメリー号は丈夫になった。
 計算では“打ち上げる海流”にも耐えられる仕様となっている。


「それにしても……何やってんのよ!! ルフィは!!
 約束の時間から46分オーバー。海流に乗れなくなっちゃうわよ!?
 だいたい、帰りは金塊持ってるんだから重くて遅くなるでしょ!? そういう計算出来てないのよあいつの頭では!!」

「いや……最初っから時間の計算なんてしてねェと思うぞ」

「ああ、100%な」 


 準備は完了し、後は空島に向かうだけなのだが、金塊を取り返しに行ったルフィがまだ帰って来ていなかった。
 海はデリケートだ。些細な違いが変化を生む。時間には余裕に持つべきなのだ。
 そろそろナミの苛立ちの限界が来ている。もう少しで爆発しそうだった。


「お───い!!」


 そんな時、岸沿いからうれしそうな声のルフィの声がきこた。
 

「あいつだ!! よかった、帰ってきた!!」

「ハラハラさせやがるぜ」


 マシラとショウジョウがルフィの帰還に安堵する。
 ルフィは嬉々とした笑顔で、腕を掲げながらこちらに向かって来ている。


「ルフィ、急げ!! 出航時間はとっくに過ぎたぞ!!」

「やったぞ~~~~~!! これ見てみろ!!」


 ルフィは本当に嬉しそうに掲げた手に持ったモノを突き上げた。


「ヘラクレス~~~~!!」

「「「何しとったんじゃ───!!」」」


 カブト虫の王者「ヘラクレス」
 ルフィのテンションはだだあがりだである。
 

「…………」


 この時、クレスがルフィの事を尊敬のまなざしで見つめていたのは誰も知らない。
 なんだかんだで、ヘラクレスは男の憧れだった。
 

「おっさんこれ」


 一味と猿山連合はルフィの帰還により急いで出航の準備を始める。
 その中で、ルフィはクリケットの前に奪い返した金塊が入った包みを置いた。
 クリケットは加えていた煙草をもみ潰し、灰皿の上で山のように積み上がった中に加える。
 

「さっさと船に乗れ、時間がねェ。空に行くチャンスを棒に振る気か、バカ野郎が」

「うん、ありがとう、船」

「礼ならあいつ等に言え」

「ありがとなおめェら!! ヘラクレスやるよ!!」

「いいのかよ!! メチャクチャいい奴じゃねェかお前!!」


 ルフィもまた出航準備の整った船に乗り込んだ。
 クリケットはその背中を見送りなりがら、ルフィが奪い返した金塊に目を移した。そして、その包みを握りしめる。
 この金塊はクリケット達が見た幻想を形にしたものだ。ルフィはクリケット達の幻想に共感し、金塊を奪われた事に怒り、そして奪い返した。この恩は大きい。


「猿山連合軍!!」


 クリケットは声を張り上げた。


「ヘマやらかすんじゃねェぞ!! たとえ何が起きようがコイツ等の為に全力を尽くせ!!」

「ウォ~~ホ~~~~!!」

「ウッキッキ―!!」

「小僧!! おれァココでお別れだ!!」


 クリケットは立ち上がり、空を目指す一味に向け、幻想を追い続ける同士として、たむけの言葉を贈る。


「一つだけ、これだけは間違いねェ事だ!! 
 “黄金郷”も“空島”も!! 過去誰一人、“無い”と証明できた奴はいねェ!! 
 バカげた理屈だと人は笑うだろうが、結構じゃねェか!!」
 
 
 あるわけがないものを探す。
 たとえ誰かに後ろ指を指されようとも、その存在を信じて、疑いながらも、迷いながらも、ただひたすらに愚直なまでに。
 夢を忘れた者に何がわかる。くだらない常識に負けた者に何がわかる。小賢しい理屈を吐くな。ありえない? そんな現実誰が決めた!!
 幻想を追う者は誇り、叫ぶ。



「それでこそ、ロマンだ!!」



 ルフィは船尾からクリケットに向け、にっこりと笑みを作る。


「ロマンか」

「そうだ!!」


 クリケットもまたルフィに向け笑みを作る。
 幻想に挑む男の笑みだ。


「金をありがとよ。おめェら空から落ちてくんじゃねェぞ」 

「ししし!! じゃあな、おっさん!!」


 風向きは良好。
 快晴の下、朝日に照らされながら船は南の海を目指し旅立った。
 




 空への入り口はジャヤから南の海流で発生する“打ち上げる海流”という災害だ。
 発生位置は毎回変わるため、それに乗るためにはそれ以前に付近に到着し、発生する正しい位置を読み取り為に“探索(サーチ)”しておく必要がある。
 その際に重要なのは、“打ち上げる海流”が立ち上る先に、"積帝雲"があるかどうかだ。
 この条件がそろわなければ、空島を見る事無く、一味は海の藻屑と成り果てるだろう。
 だが、この前提は“積帝雲”が空島だと仮定してのものである。もし、間違いであったならば、同じく海の藻屑だった。
 

「園長(ボス)不味いです!!」


 一味と猿山連合軍が海に出て三時間が経った。
 その時、双眼鏡を覗きこんでいたマシラの部下が焦り声を上げた。


「南西より“夜”が来ています!! "帝積雲"です!!」

「本当か!? 今何時だ?」

「10時です。予定よりずっと早い!!」

「マズイな、……ショウジョウ!! 行けるか!?」

「ウータンダイバーズ!! 直ぐに海に入れ!! 海流を探る!!」


 前方からは巨大な雲が接近していた。
 一味も一度遭遇した突如発生する“夜”の正体。
 雲の化石とも呼ばれる、辺り一面を飲み込むような、遠く離れた船からも雲の全容すらうかがわせない程の巨大で分厚い雲。


「アレが、“積帝雲”」

「……何て大きな雲だ」


 予想よりも早い展開に、徐々に船の上が慌ただしくなっていく。
 ショウジョウの探索音(ソナー)が響き渡り、次々とウータンダイバーズが情報を告げた。
 

「反射音確認!! 12時の方角に巨大海流を発見!!」

「9時の方角、巨大生物を探知!! 海王類と思われます!!」

「10時の方角に海流に逆らう波を確認!! 巨大な渦潮ではないかと思われます!!」


 その瞬間マシラが鋭く叫んだ。


「それだ!! 船を10時の方角に向けろ!! 爆発の兆候だ!! 渦潮を捉えろ、退くんじゃないぞ!!」


 海が変わった。
 今までは青空が広がり、波も比較的穏やかであったのだが、急激に波が高くなった。
 キャラベルのメリー号は翻る波の飛沫に煽られ、大量の海水が降り注いだ。


「航海士さん!! 記録指針はどう?」


 ロビンの言葉に波は空を指す記録指針を覗きこんだ。
 

「ずっとあの雲を指してる!! 風の向きもバッチリ!! “積帝雲”は渦潮の中心に向かってるわ!!」

「なるほど……“当たり”か」


 クレスは船の帆を引張りながらナミの言葉を聞いた。
 記録指針の先には島がある。
 どんなに不可解な現象があったとしても、“偉大なる航路”においてこれだけは絶対の真理。
 ならば、後は波に乗りその先の島を目指すのみだ。


「おい兄弟!! 今回は当たりのようだ!!」

「ああ!! 威力も申し分なさそうだ!!」

「行けるのか!?」

「ああ、行ける!!」


 マシラは部下達に指示を飛ばす。
 すると、マシラの船からメリー号に向けて二本のアームが伸び、メリー号を掴んだ。
 

「帆を畳め!! 渦の軌道に連れて行く!!」

「そしたらどうしたらいいの!?」

「流れに乗れ!! 逆らわず中心まで行きゃなるようになる!!」


 マシラの船に引き連れられ、メリー号は渦の中心へと向かう。
 荒れる波の向うに、目的地の大渦はあった。
 それはサイクロンのように恐ろしい程のうねりで回る大渦だった。
 メリー号が渦の流れに乗った瞬間、マシラの船は素早く離脱する。メリー号は一瞬で渦の流れにのみ込まれた。戻ろうとしても、もはや舵は効かないだろう。


「飲み込まれるなんて聞いてないわよォ!!」

「船、飛ぶのかな?」

「大丈夫だ!! ナミさんとロビンちゃんはおれが守る!!」

「こんな大渦初めて見たわ」

「覚悟を決めた方がよさそうだ」

「やめだァ!! やめやめ!! 引き返そう、帰らせてくれェ~~~!!」

「観念しろウソップ。手遅れだ」

「行くぞ~~~!! “空島”~~~~!!」


 渦に乗り、メリー号は海底に通じるであろうその中心へと進んでいく。
 一味の前方に大渦に飲み込まれた大型の海王類が現れるも、渦の力凄まじく、まともに身動きできずに悲鳴上げながら沈んで行った。


「じゃあなお前ら!! 後は自力でがんばれよ!!」

「ああ!! 送ってくれてありがとう!!」

「待てェ~~~っ!!」


 暢気に手を振るルフィにウソップが全力でつっこむ。
 メリー号は渦を回り回って、あっという間にマシラとショウジョウの船から離れて行った。
 ウソップ、ナミ、チョッパーは猛威を振るう大渦に本気でうろたえる。
 メリー号は順調に渦の中心へと向かい、辺りもいつの間にか“夜”になってる。


「引き返そう、ルフィ!! 今ならまだ間にあうかもしれねェ!!」

「そうよ、ルフィ!! やっぱり私も無理だと思うわ」

「空島なんて“夢のまた夢”だろ!?」


 渦を眺めていたルフィは、必死に説得しようとするナミとウソップに向き直る。
 

「“夢のまた夢の島”!! こんな大冒険、逃がしたら一生後悔すんぞ!!」


 物凄くいい笑顔で言い切った。


((た、楽しそ………………!!))


 もはや手遅れだと二人は悟った。


「ホラ……お前らが無駄な抵抗をしている間に」

「間に……なんだ?」

「大渦にのみ込まれる」


 メリー号の船体が浮いた。
 その先にあるのはどこまで続くのかわからない、海に空いた穴。
 落ちれば大渦にのまれ、もみくちゃにされながら海底に引きずり込まれるだろう。


「うわっ!! 落ちる!!」

「ぎゃあああああああああああああ!!」


 響くウソップの悲鳴。
 船は大渦の中心に落ち、浮遊感が一味を襲うが、なぜか直ぐに消えた。
 メリー号は静かな水面に着地する。
 そこにあった筈のもの、大渦が消え、海が凪いでいた。


「え?」

「何!? 消えた、何で!?」

「あんなでっけェ大渦の穴が!? どういう事だ!」


 ナミは海の変化に海面を覗きこんだ。


「……違う。もう、始まってるのよ。渦は海底からかき消されただけ……!!」

「まさか……」


 海が不気味な音を立て始めた。
 静かに、だが確実に異変は起きている。
 そんな時だった。



「待ァてェ~~~!!」



 遠方から三つの髑髏を掲げたイカダのような海賊船がメリー号に向けて近づいて来た。
 

「おい、ゾロ」

「あ?」
 
「あれ」


 ルフィとゾロは海賊船へと目を向けた。
 海賊船の上には腕を組み仁王立ちする男がいる。二人がモックタウンで出会った無精ったらしい男だ。


「ゼハハハハハハハ!! 追い付いたぞ、麦わらのルフィ!! てめェの一億の首を貰いに来た!! 観念しろやァ!!」

「おれの首? “一億”ってなんだ!?」

「やはり知らねェのか……」


 男は二枚の手配書を広げた。
 一枚はルフィのもの。 
 もう一枚はゾロのものだ。


「本当だ!! 新しい手配書だ!! ゾロ!! 賞金首になってんぞ!!」


 ウソップが双眼鏡で覗き込み確認する。
 

「何ィ!? おい待て、おれは? おれのもあるだろ!?」

「ねェ」


 残念ながらサンジの分は無い。


「一億と六千万か、……まァ、妥当だな」

「そうね、あの子達なら当然」


 男が提示したルフィとゾロの賞金額にクレスとロビンは納得する。
 ルフィはアラバスタにおいて、あのクロコダイルを下し、ゾロはMr.1を倒したのだ。その金額は当然だ。
 ただ、表沙汰になっていないのは、世界政府の介入があったからだろう。
 だが、今はそれどころではない。クレスは一味に促す。


「お前ら、喜ぶのは後にしとけ!! 海の様子がヤバい!!」

「来る。……これが“打ち上げる海流”」


 一味は懸賞金が跳ね上がった事に浮かれていたが、海の異変に再び気を引き締め直した。
 まるでそこから巨大な何かが這い上がって来るかのように、突如、海面が隆起し始める。


「船にしがみつくか、船室へ!!」

「ぎゃあああああああ!! 海が吹き飛ぶぞ!!」


 海の一角がメリー号と一味を追って来た海賊船を悠々取り込んで盛り上がり、地響きと共に内包された圧倒的なエネルギーを噴出させる。
 巻き上がる巨大な水柱。それはまるで天を貫く閃光のように、“積帝雲”に向けて一直線に放たれた。
 
  

「うわあああああああああああああああああああ!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」



 大自然の猛威に二艘の船がのまれた。
 メリー号は位置が良かったのか水柱に乗ったまま上空まで舞い上がり、イカダ船は弾き飛ばされ大破した。






◆ ◆ ◆






 その水柱はどこまでも大きく、遠く離れたジャヤからも確認できた。
 クリケットは煙草をくわえ、無言のまま、天に昇る水柱を見つめ続ける。
 そして、一味を空へと送り出した大猿兄弟は大波に煽られながらその幸運を祈った。

「「行けよ、空島!!」」






◆ ◆ ◆






 巻き上がる水柱をメリー号は垂直に突き進む。
 重力によって位置関係が変わり、一味は皆マストや壁を床にして立っていた。
 

「うほ~~~~っ!! おもしれェ!! よーし!! これで空まで行けるぞ!! 行けェ!! メリ~~~!!」

「ちょっと待った……そうウマい話ではなさそうだぞ」

「どうした?」

「船体が浮き始めてる……!!」

「なんだって!?」


 辺りを見渡せば、“打ち上げる海流”にのみ込まれていたモノが次々と下へと落ちて行く。
 メリー号もこのまま海流から弾かれれば同じ運命をたどる事となるだろう。しかもそれは時間の問題かと思われた。


「やっぱただの“災害”なのか!? 
 爆発の勢いで登っちまってんだから、今更自力じゃ……!!」

「うわっ!! いろんなものが降って来るぞ!! “突き上げる海流”の犠牲者だ!!」

「あァ……おれ達ももうお終いだ。このまま落ちて全員……!! ッてそうだ!! クレス!! おめェ確か空を飛んで無かったか?」

「それがどうした?」

「うおおおおお!! 助けてくれ!!」

「アホか。オレは有事の時はロビン以外助けん。自力で何とかしろ」

「そこを何とか!!」

「知らん」

「ぎゃあああああああ!! 死ぬ~~~~!!」



「───帆を張って!! 今すぐ!!」



 混乱の最中、航海士のナミが強い口調で一味に指示する。


「これは“海”よ!! ただの水柱なんかじゃない、立ち上る“海流”なの!!
 そして下から吹く風は地熱と蒸気の爆発によって生まれた“上昇気流”!!」


 ナミは海流と風、そして肌に感じる空気から情報を推察し、そして活路を見出した。


「相手が風と海なら航海してみせる。この船の航海士は誰?」

 
 ナミは不敵にほほ笑んだ。
 この船の航海士は最高の人材がただ一人。
 一味はナミを信頼し一斉に動き出した。


「右舷から風を受けて、舵は取り舵!! 船体を海流に合わせて!!」

「野郎共!! ナミの言う通りに!!」

「オォ!!」

「急げェ!!」


 一味は速やかに帆を張り、二本のマストで船はめいいっぱいに上昇気流を受け止める。
 だが、船は徐々に水柱から離れて行く。
 

「うわっ!! ヤバいぞ、船から離れそうだ!!」

「落ちる───っ!! 落ちるぞナミ!! 何とかしてくれ!!」

「ううん、行ける!!」


 風と海流を掌握し、航海士は確信する。
 メリー号は水柱から完全に離れ、───空を飛んだ。


「えッ!? 飛んだァ~~~!!」


 メリー号は帆で風を受け、取りつけた両翼に風を絡ませながら飛翔する。
 まさに夢の船。誰が想像できようか、船は風と波を掴んで空を航海しているのだ。


「スゲェ!! 船が飛んだ!!」

「マジか!?」

「へェ……」

「やった」

「ナミさん素敵だ!! そして好きだァ!!」

「ウオオオオオ!!」

「ふふ……」

「これは、……なかなか」


 船は飛翔し真っ直ぐに“積帝雲”を目指す。
 立ち上る水柱は真っ直ぐに雲を貫いている。


「この風と海流さえつかめば、どこまでも昇って行けるわ!!」

「おいナミ!! もう着くのか“空島”!!」

「あるとすればあの雲の向こう側よ」

「雲の上か」


 一味は空の先に思いを馳せる。
 この先にはどんな世界が広がっているのか、見果てぬ冒険に心が躍る。
 空に広がるのは天国か、それとも地獄か。
 船が向かうのは“積帝雲”を抜けたその先。


 その答えは全てこの雲の先にある。

 










あとがき
次回から空島ですね。
今回は前回の話の差分にあたるのですが、どうしようかと思って、書いて消してを繰り返して、結局今回も蛇足的に書いてしまいました。申し訳ないです。
空島編は何パターンか考えているのですが、どれにしようか迷っています。
次も頑張りたいと思います。


 


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