第五話「日常」
「………あつい」
オレは誰に語るでもなく呟いた。
本来、快適な気候のはずのオハラでは現在、約十年ぶりの夏日を記録している。
いつもの過ごしやすい気候はそこにはなく、うだるような熱気のこみ上げる、
快適な気候になれた住人達にとっては地獄のような日々が続いていた。
しかもコレはここ数日だけじゃなくて数週間続くらしい。
「ロビン、お願いだからもっと腕を増やしてくれ」
六式の自己鍛錬を終えたので、
オレはロビンと木陰で涼を取っている。
それだけだったら普通の光景だが、
オレたちの周りにはロビンの“悪魔の実”の能力によって生み出された、
手に団扇を持った腕が十本ほど咲いていた。
………まぁ、たいていの人間だったら驚くだろうが、
オレは見慣れてるので気にしてない。
「べつにいいけど、もう団扇が無いよ」
ロビンもこの暑さには辟易してるのか、いつもより本を読むペースが遅い。
「じぁあいい。それじぁロビンが無駄に疲れそうなだけだし」
「うん、わかった」
ロビンは頷いて、また本のページを読み進める。
オレは容赦なくビームのような熱線を出し続ける太陽をにらめつけた。
「働き過ぎだこのやろう」
気づけばグチを吐いていた。
「……クレス、太陽にグチをいってもしょうがない」
そんなことはわかってるけど、言わずにはいられなかった。
「だいたい何で今日に限って図書館休みなんだよ」
「定休日だから」
「まぁ、そうだけど、
くそっ、このことは断固クローバーのじじいに抗議してやる!」
「やめた方がいいよクレス、また怒られるわ」
「かまわん! あいつら絶対自分達だけ涼んでんに決まってる!」
もちろん、母さんは別だ。
オレは立ち上がり涼しいしい図書館内部へと突撃を開始することにしたが………
「……止めよう、無駄に汗かくだけだ、めんどくさい」
あまりの日照りの強さに出鼻を挫かれた。
「そんなに暑いなら水浴びでもしたら?」
ロビンがそんなことを呟く、
水浴びねぇ、水浴びつったら海かな?
……いやダメだ。
ここからだと海岸まではそんなに遠くないけどロビンは泳げない。
行くとしたらせめて浮き輪くらいは必要だ。
それだと時間がかかりすぎる。
やっぱりあきらめるか…………ん?、まてよ!
「そうだよ !ロビン!」
オレはロビンの腕を取る。
「えっ!? なに?」
突然声を張りあげたオレに驚いたのか目をしばたかせるロビン、
そんなロビンに考えを告げる
「行こうか!水浴び!」
オレはロビンの手を引き森林の中を海から逆走するように 進んでいく。
「ねぇ……クレスどこに行くの?」
だんだんと濃くなる緑に 少し入り組んだ道。
不安になったのかロビンがオレの手をぎゅっと握る。
「もうすぐだよ」
オレは目の前の枝をかき分け前に進んむ、
そして目的の場所にたどり着く。
「……きれい」
そこには清らかな清流があった。
ここは、オレが適当に散策していたら見つけた場所だ。
ロビンのお気に入りの広場から少し離れた場所にある緩やかな流れの小川で、
透き通るような水が太陽からの光を浴びて水面がキラキラと輝いている。
島から海へと流れ出る河川からの分流なのだろう、
川の流れも穏やかで、水深もオレの膝までもない。
まぁ……当然泳ぐことは出来ないけど避暑にはもってこいってわけだ。
「行こうか!ロビン!」
「うん!」
オレとロビンは小川に向けてかけだした。
それから二人で日が暮れるまで遊んだ。
はじめは涼んでただけたったんだけど、
冷たい水がとても気持ちよくて、気づいたら全身ずぶ濡れになっていた。
ロビンに水をかけたら文字どうり十本の腕で十倍にして返された。
オレもむきになってやり返して二人して笑いあった。
その後、ずぶ濡れのままで帰って母さんに怒られた。
「もう、二人とも賢いんだから、タオルくらい持って行きなさい」
「「ごめんなさい」」
もっともです。
もっと計画的にするべきでした。
ロビンがしゅんとして、うなだれた子犬みたいになってる。
……かわいい
「お風呂沸かしてあるから、風邪をひかないうちに二人で入りなさい」
「はい」
「は………いっ!」
ふっ二人でですか?
「なに変な声出してんのクレス?」
「いっ、いやだって………」
「なに?……ロビンちゃんとお風呂に入るのいやなの?」
「えっ、クレス嫌なの?」
今にも泣きそうな声を出すロビン。
ぬあっ!! 罪悪感がオレを苛む。
と言うかその聞き方は卑怯です、お母さま!!
「いっ…いやっ、そんなことないぞロビン」
苦し紛れもいい声だ。
「じゃあ、問題ないわね。風邪を引かない内に入りなさい」
しぶしぶと脱衣所に入る。
なんだか、ロビンがうきうきしている。
「うれしそうだなロビン」
「うん!クレスとも一緒なの久しぶりだから」
ロビンはするすると母さんに買ってもらったお気に入りの服を脱いでいく。
その姿、羞恥心皆無である。
まぁ…まだ、幼いしね。
「じゃあクレス、先に行くね」
元気よくロビンは風呂場へと向かった。
オレはため息とともに服を脱ぐ。
服の下は自分でも驚くほどの統制のとれた筋肉がある。
これは、六式の訓練のたまものだ。
リベルの訓練は凄かった。
父さんを強くしたと豪語するだけのことがはある。
リベルは神がかり的な手加減ができる人物だった。
オレの限界に合わせて徐徐に、
それもオレが気づかないほどに巧妙に訓練のレベルを上げていく。
訓練の途中に交わす煽り文句や、細部まで的確なアドバイス。
そして、オレの限界をオレ自身よりも熟知している。
リベルほど優秀な師は世界中探してもそうはいないと思う。
始めの半年はオレの身体がリベルの訓練についていかずに
半死半生の状態だったようだが、
最近ではなんとかきつめの訓練後も動くことができる。
リベルの話では、回復力が増したらしい。
まぁ……動けるようになった今でも死ぬほどつらいけどな。
と言ってもリベルはオレに付きっきなわけではない。
仮にも海軍本部少将だ、
本業は海兵なわけで普段はオハラに近い海軍支部で働いている。
なんでも、自ら教導を担当しているらしいので、
この島近海の海賊には同情を禁じ得ない。
服を脱ぎ風呂場へと入る。
なんだか嬉しそうなロビンの提案で、洗いっこをすることにる。
小さな背中をやさしくこするたびロビンが嬉しそうに笑った。
その後にロビンがオレの背中をこすってくれる。
力が足りないのだが一生懸命がんばってくれた。
あぁ……至福のひと時
こうやって幸福に浸っているのわけで……
別にオレはロビンと風呂に入るのが恥ずかしいわけではない。
ロビンがあと十年ほど年をとったら話は別だろう。
でも、まだロビンは幼い。
これで恥ずかしいなら、逆にに問題だ。
問題なのは………
「久しぶりだから、みんなで入りましょう」
あなたなのです。お母さま!!!!
母さんはオレとロビンが二人で風呂に入ると必ずと言っていいほど、
自分も一緒に入る。
この身体は子供なのに心は大人な
奇妙な星の下に生まれたオレの気持ちを考えてほしい。
「家族水入らずっていいわねぇー」
……母さんは着やせするタイプです。
「もう、照れなくてもいいじゃない親子なんだから」
「帰投命令ですか?」
海軍支部の一室でリベルは電伝虫に向かって疑問をぶつける。
「そうだ…………速やかに本部へと帰ってこい」
「何故です?こうもいきなりですと本部からの命令と言えども承伏しかねる」
「理由はない。貴様は命令どおりにすればいいのだ。
ただでさえ貴様は我が儘がすぎるのだから」
「我が儘だとは心外ですな。私は友との約束を守っただけのこと」
リベルの言葉に皮肉のようなものは一切無い。
それは彼の心からの言葉だった。
「それが我が儘だと言うのだ!!」
だが、電伝虫の向こう側はそうとは受け取らなかった。
電伝虫からの怒声。
リベルはそれを受け流しながらも何か不穏なものを感じていた。
「…………ところで、帰投命令とは誰からの指令です?」
「──────センゴク大将からのものだ」
「センゴク殿からの!?」
リベルはセンゴクと言う名前に驚きを隠せないでいた。
大将“仏のセンゴク”
言わずと知れた海軍の英雄の一人である。
この名前が出た以上リベルが我を通すのも限界がある。
正直なところオハラに来ることには様々なところで無理を通した。
だが、それ以上にリベルは先ほど感じた不穏なものが確信に変わったことに
何かとてつもなく嫌な予感がした。
「………………何も起きなければいいのだが、」
電伝虫が拾うことが不可能なほどの小ささでリベルはつぶやいた。
あとがき
お風呂です。
幼なじみ設定なら一度はやろうと思っていました。
始めは気合を入れて書いてたのですが、
気づけば文章がなんともセクハラな感じになって、
泣く泣く修正するはめに……。