──────数日前、アラバスタ王国。
枯れ果てた港町ナノハナに二つの人影があった。
「……行こうか」
「ええ」
語りかけたのはクレス。そして、それに答えたのはロビン。
二人の傍には航海用の装備に身を包んだ< “バロックワークス、オフィサー・エージェント専用水陸送迎用カメ” バンチ>が葉巻をふかしていた。
クレスとロビンはそれ以外には言葉を交わすことなく、バンチの背に乗り指示を出す。すると、バンチは意をくみ取り海に向けて走り出した。
バンチはドタドタと地面をならしそのままのスピードで海へと入る。しばらくすれば、アラバスタも小さくなった。
「彼らはどんな運命を辿るのかしら?」
「……さぁな」
前を向いたままに問いかけるロビンにクレスはぼんやりと海を見ながら答えた。
思い出すのは、蝕まれる国を憂いた王女と侵略者である自身との邂逅。
その時、クレスとロビンは気まぐれのように王女に希望を見せた。
自分達の状況を考えればありえない選択だった。
特段、意味など無かったのかもしれない。ほんの些細な気まぐれ……いや、罪悪感が浮き出た結果か。
数多くの人々を巻き込んだロビンの “夢” 。その成就のためにいたずらに邁進する事は大犯罪を意味する。
しかし、ロビンに見せてあげたいのだ。幼き頃から彼女が抱き続けて来た夢が叶う瞬間を。そしてそれをクレス自身も見てみたい。
だが、それ以外の全てを犠牲に出来るほど、冷酷では無かった。
クレスは<永久指針(エターナルポース)>で方角を確かめつつ、バンチの舵を取る。
……自分達が撒いた小さな種の先に希望があるかを確かめるために。
第六話 「歓迎の街の開幕」
──────偉大なる航路 ウイスキーピーク
本来なら、その夜は静寂の中で朝日を迎える筈だった。
賞金稼ぎの町であるこの島に何も知らずにやって来た、たった五人の少数海賊。
船長の賞金額が思いのほか高額だったのは予想外だったが、口の中に飛び込んできた哀れなネズミを狩るように、速やかに稼業を終え、サボテン岩に新たな墓標が刻まれるだけ、──────その筈だった。
「──────聞くが、増やす墓標は一つでいいのか?」
既に騒乱の火蓋は切られていた。
騒ぎの主はたった一人の剣士。
勘のいいこの剣士は海賊達を陥れる為の宴を開いた住人達を怪しみ、尻尾を見せるのを待っていたのだ。
だが、賞金稼ぎ達が驚かされたのはこの剣士が知っていた “とある秘密” だ。
剣士はこの島の賞金稼ぎ達に関する決して知っていてはいけない秘密を知っていたのだ。
ゆえに賞金稼ぎ達のリーダー的存在の男、Mr.8は有る決定を下した。それは、速やかなる剣士の抹殺。
しかし、剣士は驚異的なまでの強さで賞金稼ぎ達をかき回していた。
放たれる弾丸をもとともせず、緑の髪の剣士は刀を振るう。
剣士の敵はウイスキーピークの賞金稼ぎ。見積もってその数、100人。
剣士は魔獣のような勢いで戦場を駆け、次々と賞金稼ぎをなぎ倒す。
腰元に下げられた刀は三本。
一見無駄にも見える。しかし、それらは飾りでは無い。剣士にとっては三本全てが己の武器。
二本を両腕に、そして、最後の一本を口にくわえて、まるで身体の一部のように縦横無尽に操る。
三本全てを同時に使う───三刀流。
剣士の名はロロノア・ゾロ。
かつて、東の海で<海賊狩りのゾロ>と恐れられた賞金稼ぎで、現在は海賊<麦わらの一味>のメンバーだった。
◆ ◆ ◆
「何たる醜態……。たった一人の海賊剣士に負けてしまっては、ボスからこの街を任された我々の責任問題だ」
Mr.8であるイガラムの隣にはミス・ウェンズデーであるビビ、そしてMr.9が並ぶ。
そしてその三人を見下す形で緑髪の剣士は立っていた。
石造りの建物の屋上に立つ緑髪の剣士を睨めつけながらイガラムは内心で歯噛みした。
イガラムが王女と共にバロックワークスに潜入して暫くの時が過ぎた。
どういうつもりかは分からなかったが、ミス・オールサンデーとMr.ジョーカーから祖国を救う為の有力な情報を手に入れた。
後は機を見て今までに入手した情報をまとめ祖国に帰るだけだという状況での海賊達の入港。
いつものように、油断を誘い縛り上げるだけだと思ったが今回はいささか事情が違った。
海賊の一人が逃げ出し、そして驚異的な強さで暴れ回っている。
既に幾人もの部下達が倒され、パートナーであるミス・マンデーまでもが倒された。今動ける人間はここにいる自分を含めた三人だけだろう。
バロックワークスに敵対する身であるが、組織の人間全てを憎むのは間違っている事をイガラムは分かっていた。
それも、自らに与えられた部下達はバロックワークスについてはそれこそ名前と表向きの目的しか知らないような末端の人間達だ。
アラバスタ王国の護衛隊長であるイガラムは部下の扱いには長けており、なおかつ彼らが血の通っている人間だということも知っていた。
共に、酒を飲み交わした事もある彼らを倒された事もある怒りもあるが、それよりもイガラムを苛立たせるのは組織に敵対する身でありながら、その組織を守らなければならない事だ。
この島で生まれた利益は全て祖国の崩壊へとつながっている。イガラムがここで腕を振るえば振るうほどバロックワークスは興隆し祖国のアラバスタは衰退する。
潰れてしまえ。と思った事もある。ビビを連れ脱出し、目の前の剣士によってこのまま崩壊させられるのも良いだろう。
……しかし、イガラムに与えられたMr.8という立場はそれを許さない。まだ動く訳にはいかないのだ。
「“イガラッパ”!!」
イガラムは苛立ちのままに、手に持ったサックスに仕掛けられた散弾銃の引き金を引いた。
サックスの重低音に混ざり、弾丸が弾けるように放たれる。
緑髪の剣士はそれを後ろに跳び避けた。
「行くぞミス・ウェンズデー!!」
「ええ、Mr.9」
イガラムの攻撃を合図に、Mr.9が得意のアクロバットを生かし緑髪の剣士の元へと壁を駆けのぼり、ビビは指笛を鳴らした。
「来なさいカル―!!」
響き渡る指笛。そしてそれに応ずるように、一匹のダチョウのような大きな鳥、超カルガモが勇ましく鳴き声を上げた。
「クエーッ!!!」
そして、すっとその場に右手を出した。
「“お手”じゃなくてここへ来なさい!!!」
ビビは気を取り直し、超カルガモに颯爽と跨る。
「さぁ!! 豹をも凌ぐあなたの脚力見せてあげるのよ!!」
「クエーッ!!」
そして、超カルガモはその場にすとんと腰を下ろした。
「誰が“お座り”って言ったのよ!!」
頭の少し足りない超カルガモを容赦なく叱咤しながら、ビビが戦列に加わった。
イガラムは王女がこうして闘うことに不安を持ったが、今はそれどころではなくその考えを黙殺した。
◆ ◆ ◆
「……コイツらと戦ってる自分が恥ずかしくなってきた」
そう言うのは、ものの見事にMr.9とミス・ウェンズデーを打ち取ったゾロの談。
Mr.9はアクロバットと金属バットで勇猛にゾロに挑んだものの、剣に似た性質の武器で圧倒的に実力差のある剣士のゾロと切り合うことが出来ずにそのまま後ろに押され、転落。
ミス・ウェンズデーは幾何学模様のペイントでゾロを幻惑するも、止めの一撃をさそうとして、超カルガモに乗り猛烈に逆走。そしてその後に、転落。
……人々はそれを自爆と呼ぶ。だが、勝利に変わりは無い。
「おっと……!!」
頭を抱えそうになった瞬間にゾロは横へと跳び逃げる。
先程までゾロのいた場所で弾ける散弾。
ゾロは一瞬の逡巡の後に、先ほどまでの戦闘で空けた穴に飛び込んだ。
「穴から下へ……無駄な事を」
既に穴から飛び降り、散弾銃の射程外まで避難するゾロをMr.8は見下ろす。
「私の真の恐ろしさよく噛みしめろ」
襟元の蝶ネクタイを正しながらそう言った。
「散弾銃は厄介だな……どう間合いを詰めるか」
石壁に背を預けながら、ゾロはMr.8を探る。
散弾銃と刀では圧倒的に間合いが違う。これがただの銃だったならばゾロならば避ける事も可能だったが、複数の弾丸が無秩序に飛んでくる散弾銃ではどうも相手が悪い。
ゾロがどう動くか考えていた時、一つの叫びが上がった。
「どゥあアア~~!!」
それは硬い地面では無く、幾分か衝撃の和らぐ廃材置き場に落下したMr.9だ。 Mr.9はボロボロの身体でゾロを睨めつける。
「よくも酷い目に合わせてくれたもんだ!! 許すまじ!!!」
「勝手に落ちたんだろうが」
ゾロの冷めた声をものともせず、Mr.9は金属バットの隠しボタンを押す。
「“カっ飛ばせ仕込みバット”!!」
すると金属バットの先端が打ち出され、その後ろについた鉄線がゾロの手首に巻き付いた。
「ハッハッハッハッハ……!! 腕一本封じたぜ!!」
「鉄線……!!」
Mr.9は自分にも同じように鉄線を巻きつけゾロの動きを封じる。
「今だやっちまえMr.8!!」
「その通り!!」
邪魔な鉄線をどうしようかと考えていたゾロに、
「下手に動くとあなたの大切な仲間の命まで奪うことになるわよ」
ミス・ウェンズデーが手に持ったでナイフを麦わら帽子の男の(お腹一杯で)まるまると風船のように膨らんだ腹に付きたてゾロを脅す。
「ハッハッハッハ!! いいぞ、ミス・ウェンズデー!! これで貴様は逃げられもせず、攻撃も出来ねェというわけだ!!」
ゾロの耳に届くのは、人質からのひさましい悲鳴では無く、暢気な寝息。
「……あの野郎せめて起きてから人質になりやがれ」
人質となった麦わらの帽子の男はあろうことか爆睡していた。
ゾロはため息を漏らす。
あの様子では全くの無抵抗で雪だるまのようにここまで転がされてきたのだろう。
幸せそうに眠り続ける麦わら帽子の男。これで、海賊の船長なのだからため息の一つくらいつきたくなる。
「───砲撃用~意!!!」
そんなゾロは突然聞こえたMr.8の声に慌てて視線を向けた。
するとそこには、丁寧にロールした髪の毛からウィーン……ガコン! と変形音と共に銃口を出現させた姿。
Mr.8はあろうことか髪の毛の中に六丁もの小型の大砲を隠し持っていたのだ。
「砲撃用意完了!!」
「何ィ!!?」
驚くゾロ。当然だ。彼は現在動きを封鎖されているのだ。
Mr.8の武器は散弾銃だけだと思っていたが、あの髪の毛にある小型の大砲は予想外だ。
何よりも、髪から銃口がのぞくなど誰が予想出来ようか。
「“イガラッパッパッパ”!!」
首元の蝶ネクタイを引き、Mr.8は砲弾を発射する。
「オモチャかよあいつは……!!」
迫る砲弾。ゾロはそれを見て、力いっぱい鉄線を引いた。
「い!!!」
すると当然、それにつながったMr.9が引張られる。
Mr.9が予想だにしなかった事態。だが、思い返せば簡単だった。この男は力自慢のミス・マンデーを“怪力”で屈服させたのだ。
逃げようにも自らにも撒きつけた鉄線のせいで完全につながっている為逃げられない。
そしてMr.9は一本釣りされるマグロのようにゾロの手元へと引き寄せられ……Mr.8の放った砲弾の盾となった。
着弾音を聞き、ゾロは再びMr.9が繋がった鉄線を引いた。
Mr.9はボロボロの状態で空中でまた引き寄せられ、今度はパートナーであるミス・ウェンズデーの方向へと飛んでいく。
その際にゾロは腕を振り払い、繋がれた鉄線を外す。
「きゃああああ!!」
すると、Mr.9はミス・ウェンズデーにブチ当たりそのまま後方へと飛んでいった。
「“イガラッパッパッパ”!!」
「うおっ!!」
上から降り注ぐ砲撃。ゾロはそれを飛びこむように避ける。
そして回転し立ち上がり、これだけの砲撃音を聞いてなお爆睡している麦わらの男の元へと走り、そのまるまると風船のように膨らんだ腹を思いっきり───踏みつけた。
「何を?」
刀の届かない高所という圧倒的なアドバンテージを持つMr.8にとってゾロの行動は理解不能だった。
人質を助ける訳でも無く、踏みつける。どう考えても建物の中にでも逃げ込んだ方が聡明だ。
しかし、Mr.8の思考は裏切られる。
ゾロが踏み込んだ男の腹がビヨ―ンとトランポリンのように伸びたのだ。
そして、ゾロは踏み込んだ力の反動を受け、屋上でゾロを狙うMr.8に迫る。
驚き、タイを引こうとするが、それよりも剣士のすれ違いざまの一閃の方が早かった。
斬撃音と共にMr.8が倒れる。
「うっし……終わり」
月明かりの中。短い息を吐きながら、ゾロが勝利を宣言した。
◆ ◆ ◆
──────港への道
「ま…まさか、12以下のナンバーを持つエージェントが……!! あの4人が負けるとは思わなかった」
「しかし お前……逃げるって言ったってどこにだよ!!」
「どこでもいいさ……!! とにかく奴らがこの島を出るまでどこかに隠れて……」
海賊に破れた賞金稼ぎ達は逃げ惑う。
彼らにとってこの展開は驚天動地だ。手練であるフロンティア・エ―ジェント4人とミリオンズ合わせて100人近くで挑んだというのに立った一人の剣士の前に敗北。
おおよそ、自分たちに手に負える事態ではないと、とりあえず逃げて嵐が過ぎ去るまで待とうと考えていた。
しかし、彼らの足は止まる。
「───!!? “13日の金曜日(アンラッキーズ)” !!!」
サングラスをかけたラッコとハゲタカ。
任務を果たせなかった敗残兵である彼らの前に、不幸を告げる二匹が現れた。
「ちょ……ま、待ってくれ!! お、おれたちは逃げるんじゃなくて……ち、ちょっとトイレに!!」
必死にいい訳をする賞金稼ぎ達。
だが、アンラッキーズの二匹は彼らに耳をかすことは無かった。
『ぎゃあああああああああ!!!』
アンラッキーズの任務は任務失敗者達に対する制裁だ。
自は身に降りかかる不幸を想像し悲鳴を上げる。
「待ちな……!!」
しかし、新たな声によって、ピタリと二匹が止まる。
そして、暗闇から新たに二つの人影が現れた。
一人は焼け焦げたようなチリチリの髪にサングラスの男。もう一人は全身にレモンの輪切りの装飾をあしらった女だ。
「夜中だってのにずいぶん賑やかねこの町は」
「……ケッ、つまんねー仕事おおせつかったモンだぜ。こんな前線にわざわざオレ達が……」
突然現れた二人に、海賊の仲間かもしれないと浮足立ったミリオンズ達は銃口を向ける。
「貴様等いったい……誰だ!!?」
二人は鼻を鳴らし、答えた。
「Mr.5」
「ミス・バレンタイン」
◆ ◆ ◆
「!?」
賞金稼ぎ達を片づけ静かになった夜を満喫しながら月を肴に酒を飲んでいたゾロは、突如不穏な気配を感じた。
「今一瞬妙な気配が……港の方からか? ……いや、もう一つあったような」
疑問に思うも、気のせいかと再び酒瓶を口元へと運んだ。
「あ、やべ。ルフィが置き去りだ」
◆ ◆ ◆
(ここで朽ちてなるものか……!! 私には大事な使命が……!!)
Mr.8は生きながらえていた。
剣士の斬撃は容赦こそなかったが、一命を取り留めるほどには手加減されたものだった。
何とか身体を起こし、これからどうするべきか考えようとして、
「無残なモンだな。たった一人の剣士に負けただと?」
振りかけられた声に驚愕する。
「Mr.5!!? ミス・バレンタイン!!?」
そこには、オフィサー・エージェントである二人が立っていた。
「お前らフザけてんのか? ん?」
「キャハハハハハハ!! しょせんこれが私達との格の差じゃない?」
二人は満身創痍のMr.8を見て蔑んだ視線を向ける。
Mr.8は奥歯を噛みしめ、絞り出すように、
「……我々を笑いに来たのか!?」
「それもあるな」
「キャハハハハ!! 当然任務出来たのよ」
そんな二人に、同じく満身創痍のMr.9とミス・ウェンズデーが膝をつきながら、
「……ハハハハハ ありがてェ……あんたらが加勢してくれりゃあんな奴ァ敵じゃねぇ」
「……そうね。お願いだから、あの剣士を早くたたんじゃって頂戴っ!!」
島の被害は甚大だ。おそらく社員で動ける人間は殆どいないだろう。
この島は、バロックワークスの資金源の一つだ。ここまでやられれば組織に対する被害は小さくは無い。それに組織にしてみても面子というものがある。
仕返しを願う声を耳にして、Mr.5は敗北者達を見下し、サングラスの奥の目を細めた。
「つまんねェ、ギャグ、ブッこくな」
「!」 「!?」 「!」
それは予想だにしなかった答え。
その答えに、Mr.9は困惑し、Mr.8とミス・ウェンズデーは険を帯びる。
「おれ達がお前達の加勢だと?」
「わざわざそんな事でこの“偉大なる航路”の果てまで私達がやって来るとでも思ったの? キャハハハハ!!」
「……何? じゃあ一体何の任務で……」
Mr.9の疑問。
それは重要任務以外に動かないMr.5のペアがわざわざ派遣される程の任務とは何かということだ。
「心当たりはねェか? ボスがわざわざおれ達を派遣する程の罪……。
ボスの言葉はこうだ。『おれの秘密を知られた』
当然どんな秘密かはおれも知らねェが……」
その瞬間、Mr.8とミス・ウェンズデーの二人の表情が硬くなる。
「我が社の社訓は“謎”……。
社内の誰の素情であろうと詮索してはならない。ましてやボスの正体など言語道断」
「……それでよく調べていけば、ある王国の要人がこのバロックワークスに潜り込んでいる事がわかった」
「……!!」
その時、Mr.8は拳を砕けんばかりに握り締めていた。
目を見開き、歯を噛みしめる。
(バレている……!! もはや、ここまで!!)
Mr.8は静かに立ち上がると、ゆっくりと襟元のタイへと指を伸ばし、
「罪人の名は現在アラバスタ王国で行方不明になっている……」
「───死ね!! “イガラッパッパ”!!」
本来なら味方である筈の、Mr.5とミス・バレンタインに向けて砲弾を放った。
着弾し、爆音が響く。
「イガラム!!」
ミス・ウェンズデーが叫び。
「?? いがらむゥ?」
状況についていけないMr.9が困惑する。
「お逃げ下さい!!」
必死なMr.8の叫び。
しかしそれを遮るように甲高い笑い声が響いた。
「キャハハハハ!! 無駄よ」
いつの間にかフワリ……と爆風に乗るように舞い上がったミス・バレンタインがミス・ウェンズデーを空襲する。
放たれた蹴りは僅かに逸れ、ミス・ウェンズデーの髪飾りを砕く。パサリと後ろでまとめていた流れるような水色の髪がとけた。
「くっ……!!」
ミス・ウェンズデーが仕返しに腕を振り払う。
しかし、そこにミス・バレンタインの姿は無く。彼女は笑い声と共にフワリと軽やかに空中へと舞い上がっていた。
その時、後ろで爆発音が響いた。
ミス・ウェンズデーが振り向く。そこには胸元で何かが爆発し崩れ落ちるMr.8。
「罪人の名はアラバスタ王国護衛隊長イガラム!! そして……」
Mr.8の放った砲弾によって作られた煙幕から浮かび上がるように、砲弾が着弾した筈のMr.5が現れる。
そしてその隣に、まるで体重を感じさせないような軽やかさで着地したミス・バレンタインが並んだ。
「アラバスタ王国 “王女” ネフェルタリ・ビビ……!!」
Mr.5はスッ……と胸元から証拠写真を取りだした。
そこに映るのは、美しい水色の髪を靡かせる王女。
化物……!! とミス・ウェンズデーは二人を睨めつける。
組織からの“裏切り者”への抹殺命令。
それは、バロックワークスに潜入したMr.8とミス・ウェンズデーのタイムアップを示し、ビビとイガラムの終わりを意味していた。
◆ ◆ ◆
──────薄い暗闇に声は響く。
淡い月の光をまといながら男女二人は会話する。
希望の行方を知るために。果敢にに抗う姿を見届けるために。そして自らの目的のために。
「始まったわね」
「ああ」
「少し予想と違ったけど、どうするの?」
「今は……静観かな。動きようが無い」
眼下に映るのは、二人の能力者による圧倒的な光景だ。
「……もしかしたらこのまま王女様達は死んじゃうかもしれないわね」
「その程度なら……どうせ、この先も無理だろう」
「……そうね」
「それに」
「?」
「偶然ってモノはやっぱりあるもんだ」
男は別の方向を指しながら言った。
「もしかして、あの剣士さん? 確か“東の海”でMr.7を倒した男だったかしら?
確かにあの剣士さんならMr.5のペアにも勝てそうだけど、王女様達に手を貸すかしら?」
「いや……違う。<海賊狩りのゾロ>じゃない」
「じゃぁ誰なの?」
「爆睡して引っ張られている方だ」
「あの麦わら帽子のコ? どうして、そう思うの?」
「これ」
「手配書?」
「さっき、そこで拾った。最近手配されたばかりのルーキーって奴だ」
「これは……」
手配書を見た女の目が見開かれる。
「ハハッ……面白いだろ?」
「ふふ……確かに、驚きね」
「……幸運ってやつは本人とは関係の無いところで働くもんだ。
知らず知らずに、周りは偶然で固められていて、状況は既に揃い、後はその先の答えを自身で掴めるかで決まる」
「王女達の願いが届いた結果か、それとも彼が自らを導いた結果なのかしら?」
「さぁな……でも、これはもしかすると」
「……もしかするかもしれないわね」
「通称<麦わらのルフィ> 懸賞金三千万ベリー。
本名……モンキー “D” ルフィ」
「……サウロと同じ “D”
……くしくも、状況は類似してるわね」
「……ああ」
「これからどうなるか……見物ね」
そして、再び趨勢を見送る。
その口元には、僅かな笑みがあった。
あとがき
というわけで、今回から本編突入です。
まずはお詫びを。今回の話の中盤はほとんど原作そのままです。
省略しようかな……と思い書いていたのですが、どうも緊張感が抜けたため、話をなぞる事にしました。適当に流して下さい。
あと、冬休み中などと大言壮語をぬかして申し訳ございませんでした。