親バカという言葉がある。
子供がかわいくて仕方ないがために
……いろいろとはっちゃけちゃう親のことだ。
いや、すまん少し言葉がおかしいな。
子供がかわいいあまりに
……いろいろとはしゃいじゃうわけだ。
ん? あれ? おかしいか?
いや………間違ってはいないはすだ。
だって、…………………。
「「「ロビンちゃーん!!お誕生日おめでとう!!!」」」
オレの前にいるのは親バカだと思うからだ。
まぁ…悪くはないけどな。
第二話「慈愛」
舞い散る紙吹雪に鳴り響くクラッカー。
貸し切られた図書館内にならべられたパーティー料理の数々。
図書館の職員総手で発せられる大合唱は全てたった一人の子供のためだ。
「えっ!? あっ…あの?」
その当人はさすがに困惑してるみたいだけどね。
まぁ……当然といえば当然だ。
本来は定休日のはずの図書館に連れられて扉を開ければ、いきなりの大歓迎。
さすがに驚いて言葉も出ないだろう。
「ロビン、こっち、こっち」
オレは困惑しているロビンの手を引いて主賓席に座らせる。
「クレス……これは?」
「ロビンの誕生日会だよ」
「そのとおり!!!!!」
突然登場するハイテンションな男。
いきなり叫ぶなびっくりするだろうが。
「今日はロビンの五歳のバースデー!! ケーキあるぞ! ケーキ!!」
テンションを上げるのはいいけどあんたははしゃぎすぎだ。
というかテーブルに乗るな!下りろ!!
今、目の前にいる初老の男性はクローバーといって、
……こんなんでも考古学の権威らしい。
「こんなんとはなんだ!!」
いや……だって。
というか聞こえてたのか。
「カァ―!!! だから、貴様はかわいげがないのだ!!
もっとロビンを見習わんか、とても同い年には思えんわ!!」
そんなこと言われても困る。
肉体は五歳児なのだがぬぐいがたいほどの自我が顕現しているのだ。
「うるせー。じいさんにかわいがられてもうれしくないってーの」
「こっちこそ、貴様なんぞ可愛がっても面白くもないわ」
なぜかこのじいさんとは仲が悪い。
何でもオレがオレの父親に似ていてムカつくらしい。
知ったことか!!
「……クレス、博士……ケンカしちゃダメだよ……」
「「ごめんなさい」」
ロビンの一言で二人声を合わせる。
オロオロとオレとじいさんが言い争うのを心配していた。
ほんと………………ロビンはかわいいね。
「ちがうのよ、ロビンちゃん。この二人は本当は仲良しなの」
母さんがやってきてロビンの頭を優しくなでる。
ロビンは子犬のように身をよせた。とても気持ちよさそうだ。
実に絵になる二人だった。
だが、母さん……
オレとクローバーが仲良しとは心外です。
「……そうなの?」
「そうなの。クレスはタイラーさんそっくりだから博士もつい興奮しちゃうのよ」
エル・タイラー
オレの父親にあたる人だ 。
父さんはこの島の出身らしい。
母さんは父さんの話をよくする。
……やっぱり今でも好きなようだ。
「ふんっ! バカなことを言うでない、
顔立ちならともかく性格まで似とるなんてますます気に入らんわ!!」
よくオレと父さんは良く似ていると言われる。
これはどういうことだろうか?
単純に良く似た性格なのかそれとも……………
まぁ……言われる度に母さんが嬉しそうな表情をするのでいいかとも思う。
「落ち着けよじーさん、ロビンの前でみっともねーぞ」
「そういうところが気に入らんのじゃ!!!」
「ほら、仲が良いでしょう」
「……そうなのかな?」
ロビンの誕生日会も終わりオレはロビンと母さんとの三人で家に帰る。
ロビンはオルビアさんがかえってくるまでウチで預かることになった。
正直正解だったと思う。
あの夫婦に預けられてたならロビンはもっと寂しい思いをしてたかもしれない。
「楽しかった? ロビンちゃん?」
「はい! おばさま!」
母さんに笑顔いっぱいに答えるロビン。
本当に嬉しそうでよかった。
ロビンと母さんは仲が良い。
見る人によれば本当の親子にも見えるだろう。
そんな二人をオレはぼんやりと見つめた。
オレは人前で猫を被ることをやめた。
3歳くらいまでは気をつけてたんだけど、急に馬鹿らしくなった。
それも母さんのせいだ。
3歳の誕生日の日にいきなり、
「クレスが変なのは知ってるから気にしないで良いのよ」
と大胆にも言いはなってくれた。
何時から変だとおもってたのか?
と聞いてみたらなんと生まれた時から変だと思ってたらしい。
あれはさすがにびっくりした。
やっぱり普通の方が良かったのかと聞くと、
「うーん私にはそんなこと関係ないかな?
私がお腹痛めて産んだ子供だし、そんな些細なことはどうでもいいわ」
ここまでくるともう馬鹿らしくなった。
話した。
オレのこと。
オレには生まれた時から“自分”と言うべきものがあって、
一人の人間として完成していたんだと。
もしかしたら本当の息子では無いかもしれないとも言った。
言ってしまった後で、あ~あ、やっちまったって気分になった。
これで後には引けなくなったわけだ。
オレは母さん……いや、シルファーさんの言葉をまった。
今まで図々しくも息子でいたのだ。
いつかは話すべきことが今に成っただけなのだ。
何を言われても受け入れる準備はできていた。
「………そうだったんだ、なるほどね……」
「……本当に申し訳ないと思っています、
…………出来ることなら……。
いえ、………なんとお詫びすればいいのか」
オレは誠意を込めて頭を下げる。
三歳児が幼さを感じさせない言葉使いで、母親に対し謝罪する。
傍目から見ればそれは異様な光景だっただろう。
だがオレは深々と頭を下げ続けた。
シルファーさんの顔は見えない。
ただ言葉を待った。
「顔をあげて。…………私はあなたのことを本当の息子だと思っています。
それは、例えあなたの言葉が本当だとしても変わりません。
………私がいてロビンちゃんがいて……そしてクレスがいるこの日々に私は幸せを感じているの」
それは、やさしい、とてつもない慈愛にあふれた声だった。
「私にとってはあなたは、あなた。
…………あなたの正体なんてそんな些細なことはどうでもいいの。
だからお願い、このまま私の息子でいてちょうだい」
頭を上げる。
シルファーさん………いや、母さんの顔はとても綺麗だった。
あれから2年
オレは母さんとロビンと三人で変わらぬ日々を暮らしている。
本当に母さんには驚かされる。
「クレスは今日楽しかった?」
夕焼けに照らされながらロビンの手を引く母さんはとても輝いて見えた。
「……まぁまぁかな」
こんなオレが息子になることを許してほしい。
でも、………この人が母親で本当に良かった。
あとがき
クレスと母親の関係は、こうなりました。
ロビンの性格がつかめません。
ほんと、申し訳ないです。
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