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No.11290の一覧
[0] 【完結】幼なじみは悪魔の子 (ワンピース オリ主)  [くろくま](2012/05/21 00:49)
[1] 第一部 プロローグ 「異端児」 [くろくま](2010/03/27 22:21)
[2] 第一話 「母親」  [くろくま](2010/01/15 22:03)
[3] 第二話 「慈愛」 [くろくま](2010/01/15 22:06)
[4] 第三話 「訪問者」[くろくま](2009/11/16 22:22)
[5] 第四話 「悪魔の実」[くろくま](2009/10/31 10:08)
[6] 第五話 「日常」[くろくま](2009/10/31 10:15)
[7] 第六話 「別れ」[くろくま](2009/10/30 22:56)
[8] 第七話 「血筋」[くろくま](2009/09/10 19:51)
[9] 第八話 「秘密」[くろくま](2009/09/11 20:04)
[10] 第九話 「どうでもいい」[くろくま](2009/09/11 20:13)
[11] 第十話 「チェックメイト」[くろくま](2009/09/11 20:26)
[12] 第十一話 「最高手」[くろくま](2010/03/13 12:44)
[13] 第十二話 「悪魔の証明」[くろくま](2009/09/11 20:31)
[14] 第十三話 「お母さん」[くろくま](2009/09/11 20:40)
[15] 第十四話 「ハグワール・D・サウロ」[くろくま](2009/09/09 19:55)
[16] 最終話 「if」 第一部 完結[くろくま](2009/09/13 00:55)
[17] 第二部 プロローグ 「二人の行き先」[くろくま](2009/11/16 22:34)
[18] 第一話 「コーヒーと温もり」[くろくま](2009/11/16 22:37)
[19] 第二話 「老婆と小金」[くろくま](2009/11/16 22:47)
[20] 第三話 「遺跡と猛獣」[くろくま](2009/09/22 00:15)
[21] 第四話 「意地と酒」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:10)
[22] 第五話 「意地と賞金稼ぎ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:06)
[23] 第六話 「意地と残酷な甘さ」 《修正》[くろくま](2010/07/24 09:02)
[24] 第七話 「羅針盤と父の足跡」[くろくま](2009/09/27 02:03)
[25] 第八話 「クジラと舟唄」 [くろくま](2009/10/02 00:50)
[26] 第九話 「選択と不確かな推測」[くろくま](2009/10/05 19:31)
[27] 第十話 「オカマと何かの縁」[くろくま](2009/12/20 00:51)
[28] 第十一話 「オカマとコイントス」[くろくま](2009/12/20 00:52)
[29] 第十二話 「オカマと鬨の声」[くろくま](2009/12/20 00:54)
[30] 第十三話 「オカマと友達」[くろくま](2009/12/20 00:57)
[31] 第十四話 「オカマと人の道」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[32] 第十五話 「オカマと友情」[くろくま](2009/12/20 01:02)
[33] 最終話 「洞窟と水面」 第二部 完結[くろくま](2009/11/04 22:58)
[34] 第三部 プロローグ 「コードネーム」[くろくま](2010/01/11 11:13)
[35] 第一話 「再びのオカマ」[くろくま](2010/01/11 11:23)
[36] 第二話 「歯車」[くろくま](2010/01/11 11:29)
[37] 第三話 「あいまいな境界線」[くろくま](2010/01/11 11:46)
[38] 第四話 「裏切り者たち」[くろくま](2010/01/11 11:50)
[39] 第五話 「共同任務」[くろくま](2010/01/11 12:00)
[40] 第六話 「歓迎の町の開幕」[くろくま](2010/01/11 12:16)
[41] 第七話 「歓迎の町の邂逅」[くろくま](2010/01/21 23:38)
[42] 第八話 「旗」[くろくま](2010/02/21 22:04)
[43] 第九話 「虚像」[くろくま](2010/02/07 23:53)
[44] 第十話 「ユートピア」[くろくま](2010/05/30 00:25)
[45] 第十一話 「ようこそカジノへ」[くろくま](2010/04/08 21:09)
[46] 第十二話 「リベンジ」 《修正》[くろくま](2010/03/10 13:42)
[47] 第十三話 「07:00」[くろくま](2010/03/10 17:34)
[48] 第十四話 「困惑」[くろくま](2010/03/10 17:39)
[49] 第十五話 「決戦はアルバーナ」[くろくま](2010/03/10 17:29)
[50] 第十六話 「それぞれの戦い」[くろくま](2010/03/14 20:12)
[51] 第十七話 「男の意地と小さな友情」[くろくま](2010/03/14 20:40)
[52] 第十八話 「天候を操る女と鉄を斬る男」[くろくま](2010/03/27 21:45)
[53] 第十九話 「希望」[くろくま](2010/03/29 21:40)
[54] 第二十話 「馬鹿」[くろくま](2010/04/11 18:48)
[55] 第二十一話 「奇跡」[くろくま](2010/04/12 20:54)
[56] 最終話 「これから」 第三部 完結[くろくま](2010/05/14 21:18)
[57] 第四部 プロローグ 「密航者二人」[くろくま](2010/05/03 00:18)
[58] 第一話 「サルベージ」[くろくま](2010/05/10 23:34)
[59] 第二話 「嘲りの町」[くろくま](2010/05/20 21:07)
[60] 第三話 「幻想」[くろくま](2010/05/28 21:31)
[61] 第四話 「ロマン」[くろくま](2010/05/31 18:03)
[62] 第五話 「雲の上」[くろくま](2010/06/05 10:08)
[63] 第六話 「神の国 スカイピア」[くろくま](2010/06/15 17:29)
[64] 第七話 「序曲(オーバーチュア)」[くろくま](2010/06/24 20:49)
[65] 第八話 「海賊クレスVS空の主」[くろくま](2010/06/26 23:44)
[66] 第九話 「海賊クレスVS 戦士カマキリ」[くろくま](2010/06/30 22:42)
[67] 第十話 「海賊クレスVS神エネル」[くろくま](2010/07/06 05:51)
[68] 第十一話 「不思議洞窟の冒険」[くろくま](2010/07/08 21:18)
[69] 第十二話 「神曲(ディビ―ナコメイディア)」[くろくま](2010/07/17 22:02)
[70] 第十三話 「二重奏(デュエット)」[くろくま](2010/07/24 15:38)
[71] 第十四話 「島の歌声(ラブソング)」[くろくま](2010/08/07 19:39)
[72] 第十五話 「鐘を鳴らして」[くろくま](2010/08/10 12:32)
[73] 間話 「海兵たち」[くろくま](2010/08/10 17:43)
[74] 第十六話 「ゲーム」[くろくま](2010/08/26 05:17)
[75] 第十七話 「昂揚」[くろくま](2010/08/29 07:53)
[76] 第十八話 「偶然」[くろくま](2010/09/06 12:51)
[77] 第十九話 「奥義」[くろくま](2010/09/14 21:18)
[78] 最終話 「過去の足音」 第四部 完結[くろくま](2010/09/21 20:00)
[79] 第五部 プロローグ 「罪と罰」[くろくま](2010/09/30 18:16)
[80] 第一話 「理由」[くろくま](2010/10/06 19:55)
[81] 第二話 「水の都 ウォーターセブン」[くろくま](2010/10/11 19:42)
[82] 第三話 「憂さ晴らし」[くろくま](2010/10/26 20:51)
[83] 第四話 「異変」[くろくま](2010/10/26 20:57)
[84] 第五話 「背後」[くろくま](2010/11/06 09:48)
[85] 第六話 「エル・クレスVSロブ・ルッチ」[くろくま](2010/11/14 11:36)
[86] 第七話 「隠された真実」[くろくま](2010/11/29 03:09)
[87] 第八話 「対峙する二人」[くろくま](2010/12/20 22:29)
[88] 第九話 「甘い毒」[くろくま](2010/12/20 23:03)
[89] 第十話 「記憶の中」[くろくま](2011/01/03 02:35)
[90] 第十一話 「嵐の中で」[くろくま](2011/02/13 14:47)
[91] 第十二話 「仲間」[くろくま](2011/03/20 21:48)
[92] 第十三話 「生ける伝説」[くろくま](2011/05/04 00:27)
[93] 第十四話 「READY」[くろくま](2011/07/16 13:25)
[94] 第十五話 「BRAND NEW WORLD」[くろくま](2011/08/15 18:04)
[95] 第十六話 「開戦」[くろくま](2011/08/20 11:28)
[96] 第十七話 「師弟」[くろくま](2011/09/24 15:53)
[97] 第十八話 「時幻虚己(クロノ・クロック)」[くろくま](2011/11/13 16:20)
[98] 第十九話 「狭間」[くろくま](2011/12/25 06:18)
[99] 第二十話 「六王銃」[くろくま](2012/01/30 02:47)
[100] 第二十一話 「約束」[くろくま](2012/02/22 02:37)
[101] 第二十二話 「オハラの悪魔達」[くろくま](2012/04/08 17:34)
[102] 最終話 「幼なじみは悪魔の子」 第五部 完結[くろくま](2012/08/13 19:07)
[103] オリキャラ紹介 [くろくま](2012/05/21 00:53)
[104] 番外編 「クリスマスな話」[くろくま](2009/12/24 12:02)
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[11290] 第八話 「クジラと舟唄」 
Name: くろくま◆31fad6cc ID:4d8eb88c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/02 00:50
海賊達の楽園。
海賊の墓場。

相反するこの二つの言葉はどちらも等しく同じものを指す。
“赤い土の大陸”レッドラインより望む海。

“偉大なる航路”グランドラインだ。

様々な文献で夢幻ように語られる荒唐無稽の数々を内包する海である。
未だその全容を知る者は無く。
最終地点を確認し航海の制覇を果たしたのは伝説の海賊ゴールド・ロジャーの一団のみだと言う。

何を常識とするかにはあいまいな基準線しかないが、
非常識な事にはいくつか出会った。
隣でオレと同じように今目の前で起こっている事象に驚く幼なじみもそうだ。
ロビンは海の悪魔の化身とも言われる“悪魔の実”の能力者だ。
彼女は海に嫌われ一生カナヅチになることと引き換えに、
いたるところからも自在に自らの身体の一部を咲かす事が出来る能力を手に入れた。
そして、不可解な事なら原因は不明だがオレ自身にも当てはまる。

だが、そんなことはこれから向かおうとする海では常識の範囲内に組み込まれるのかもしれない。
そう感じさせる何かが、グランドラインと言う魔境には有るのだ。
これから向かう海はおそらく……いや、間違いなく。
オレなんかが想像するよりもずっと、
不思議で不可解で不確かな未知があるのだろう。

だから、こんなこともその基準から言えばほんの序の口に過ぎないのだと思う。


海流が激流としてうねり、山を登って行くなんてことは……












第八話 「クジラと舟唄」













グランドラインへと向かう入り口は山だった。
まさか……と言うべきか、
やはり……と言うべきか、
さすがは天下に名高きグランドラインだ。入り方からしてぶっ飛んでる。
オレとロビンが乗った船は激流に乗って引き込まれるように進む。
海面を見れば相当な流れのようだ。
グランドラインの始まりリバースマウンテンは“冬島”だから海流は下つまり深海へと流れ込む。
つまり落ちれば海の藻屑と言う訳だ。
落ちれば泳げばいいなんてレベルの話では無い。
一つ間違えれば命を失うのだ。

この異常時に際しても驚きは一瞬なのは
オレもロビンも二十三年と言う短くも長い人生を歩んできたからだろう。
驚きや戸惑いは意味をなさず、己のすべき行動に専念することが全てだと知っているからだ。


「ロビン、このまま舵を切ってくれ。オレは帆を調節してくる」

「…………」

「かなりヤバめの海流だな、船の進め方次第では一瞬で海の藻屑だよな」

「…………」

「さすがはグランドライン、ただでは入らせてくれないってか?」

「…………」


意気込むオレに反して何故かロビンからの返事は無かった。


「……どうしたんだ?
 問いかけじゃないけど無言は少し寂しいものがあるぞ」


少し間を置いた後に、


「……クレス」

「ん、なんだ?」


ロビンは平坦に、
いつも通りの声で、
まるで備え付けの食器でも壊してしまった時のように、
言った。


「ごめんなさい。舵棒が折れちゃったわ、ボッキリと」


後ろでひらひらと所在なさげに舵棒を玩ぶロビンの能力で咲いた腕たち。


「…………は?」

「残念ながら修復には少し時間がかかるわね」

「…………」


トロルのバカやろー!!
船を奪った身で理不尽な内心の吐露だ。
それはさすがに不味いでしょう。
こうなれば、帆がどうだとかあまり関係が無い。
今すべきこと……無くなっちまったな。
ヤバいな、意気込んでそうそうに死ぬかも。
嫌だな……運任せって嫌いじゃないけど、今は勘弁してほしいな。


舵の無くなった船は運河の激流に流れる。
山を駆けのぼる程の流れだ。
もしも、正しいコースをはずれ脇にそれてしまったら……


「なぁ……この船ヤバくないか?」


脇にそれていた。完璧に。
前方に迫る鉄柱。
当たれば間違いなくバラバラだ。
“嵐脚”で切り飛ばそうにもさすがに鉄は斬れない。
オレの持つ最善手は接近と共に鉄柱に一撃をかましてその反動で船の針路を無理やりに戻すことだ。
だが、それはやらない。必要が無い。
なぜなら……


「百花繚乱“大樹”」


頼れる幼なじみがいるからだ。

咲き誇る腕。
それは互いに絡み合い一つの巨大な腕を形成する。
ロビンの悪魔の実の能力だ。
その腕は船を苗床として咲き、前方に迫る鉄柱を握り、
グイッと鉄柱を軸として引張り船を正規のコースへと直した。


「助かったわ、サンキュ」

「どういたしまして」


予定調和のように危機を乗り越え、船は山を登る。
それは昔に読んだ、想像上の冒険譚のような出来事だった。
しかし、興奮度は活字の上の出来事よりも何倍も上だ。

東西南北
全ての海から流れる海流が一つに重なりリバースマウンテンの頂上で一つに重なる。
四つの海に対して入り口は四つ。
そしてその四は頂上で一に変わるのだ。
これはグランドラインでは過去の栄光は関係なく誰もが同じ位置に立つのだと暗示しているようで面白い。
強者だけがこの魔境で生き残れるのだろう。

オレとロビンを乗せた船も山の頂上を越え、運河に乗って“偉大なる航路”へと下る。


「入ったな」

「ええ、入ったわね」


船から上がる水しぶきを受けながら共に呟いた。
視界は薄い白の靄によって狭められる。
高度が高いからかおそらく今は雲の中にいるのだろう。
オレ達はその霞みががった先にある海を見ようと目を凝らした。
これから何が起こるか分からない未知の海域に足を踏み入れたのだ。
期待と僅かにくすぶる不安を胸に靄のかかった先を見つめる。
好奇心が首をもたげ、その先を確認させようとオレに命じる。
霞みがかったその先にあったものは、

……余りにもバカげた物だった。


「……は?」


壁があった。
真っ黒で巨大な壁だ。
その壁が入江の出口を塞ぐように立ちはだかる。


「なんだこりゃ?」

「山……かしら?」

「どっちにしろコイツを何とかしないとまた船がヤバいぞ」

「どうするの?止まることなんて出来ないわよ」

「なら避け……舵折れてんだったな、
 クソッ、舵棒はオレが何とかするからロビンはもしもの時にまた頼む」


その時、
壁は全身を震わせるような轟音を放った。
鈍い獣の唸りにも似たそれはオレとロビンの耳を痛めつける。
その鳴き声に反射的に耳を押さえる。
そしてようやくその巨大すぎる全容ゆえに認識出来なかった姿に気づいた。


「コイツ……クジラだ」


巨大な山のように見まごう、
額に大量の傷を作ったクジラが何故かレッドラインに向けて鳴いていた。


この時不思議な感情を抱いた。
まったくもって不思議だった。
何故こんなことを思ったか謎だった。

……その声に何故かオレは共感を覚えたのだ。













ロビンの能力によってオレ達は何とか再びの危機を乗り越えた。
折れた舵を何とか操り、立ち塞がるクジラの隙間を通り切り抜けた。
クジラはその巨体故にオレ達の乗った船に気づく事は無かった。
……途中でクジラの巨大な目がギョロリと動いた瞬間はさすがに肝が冷えた。
船はリバースマウンテンを抜けた先にある双子岬に停泊する。
レッドラインと同じ、草一つない岩盤のような赤い土の地面に灯台と小さな小屋があるだけと言った、
グランドラインの入り口にしては少々寂しい土地だった。

オレとロビンは警戒しながら島に上陸した。
ここはグランドラインなのだ。
山を登る運河や巨大なクジラのようにもはや何が起こっても不思議は無い。
出来れば始めに出会うのは人間だといいなと希望にも似た思いを抱く。
初っ端から厄介事はごめんだ。


「誰かいんのか?」


一応の確認のために声を出した。
人の気配はない。
赤い岩石の大地にいるのはオレとロビンの二人だけ。
新たな門出にしては少々寂しいものだ。


「誰もいないみたいね」

「そうだな……少々拍子抜けだな」


まぁ、安全ある事にこしたことは無い。
オレは周囲を見渡しテーブルとベンチがあるのを見つけた。
休憩を兼ねロビンを誘いそこに座ることにした。


「さすがに疲れたな」

「そうね……まさか山を登るなんて」

「まぁ……あれにはさすがに驚いたな。無事で何よりだよ」


オレはゆったりと全身の力を抜き、空を見つめた。
青く晴れやかな空。
雲の流れは緩やかで、のんびりと流れていく。
どうやら空は余り変わらないらしい。

ロビンの方もゆったりと肩の力を抜いてリラックスムードだ。
荷物から本を取り出し読書を始めた。

そんな時だった。

ぎぃー

古びた扉の音が響いた。


「「!!!」」


オレもロビンも弾かれるように反応した。
辺りに人の気配は無かった筈だった。
気配の察知に関してはそれなりに自信がある。
音の発生源は灯台からだ。
中の確認こそしなかったが人がいるとは思ってなかった。
いや……本当に人なのだろうか?
ここはグランドラインなのだ、どんな怪奇が現れても不思議ではない。
そして音の主は扉の向こうから姿を見せた。


「花……?」

「いえ、人よ」


中から現れたのは年老いた老人だった。
しかし、年を取っているのに老いと言うものを全く感じない。
老人は片手に折り畳み式の椅子を、
もう片方の手に新聞と言ったどこか気の抜ける装いだった。

恰好だけは。

オレとロビンは老人が発する妙な威圧感に呑まれた。
不気味ささえ漂わせるその眼光は、
剣呑な人生を歩んできたオレ達にさえも、いともたやすく危機感を抱かせる。
冷や汗が流れた。
ロビンが身構え、オレはその前に出ていつでも対応できるように構えた。

老人はオレ達を一瞥し、


「…………………」


持っていた折り畳み式の椅子を降ろし、


「…………………」


それを組み立て、


「…………………」


ゆっくりと座り、


「…………………」


パサリと新聞を広げた。


「…………………」


「…………………」


「…………………」


「……なんか言えや」


思わず声が出た。
無性にいらついた。

老人は再びオレ達に視線向ける。
その威圧感をはらんだ視線はオレとロビンに緊張を抱かせる。
オレとロビンの警戒レベルは上がる。
老人はオレ達の反応を見透かしたように言った。


「止めておけ……死人が出るぞ」

「へぇ……誰が死ぬって?」


オレは前に出る。
老人と視線が交差した。
老人は何も臆した様子は無く、
寧ろオレ達の反応を楽しむように時間をかけ答えた。


「……私だ」

「お前かよ!!」


そしてなおマイペースに新聞をめくる老人。
なんだかどっと疲れた。





老人はクロッカスと言うらしい。
双子岬の灯台守をしている六十六歳双子座のAB型だそうだ。
聞いてないのに教えてくれた。
正直名前と役職以外はどうでもいい。
始めに姿を見せなかったのはオレ達の人柄を見極めるためだったらしい。



「たった二人で“西の海”からリバースマウンテンを越えて来たか……」

「まぁな」

「ふむ……やはり海賊では無いようだな。たった二人でわざわざ何をしに来たんだ?」


オレとロビンがやって来た理由。
それは“真の歴史の本文”を見つけ、“空白の百年”の謎を解くためだ。
しかし、それはおいそれと人に言えるような目的では無い。
オレ達が求めるものは世界の法で禁止されているのだ。


「観光だよ」


明らかな嘘だ。


「……そうか」


クロッカスの反応は淡白だった。


「……それよりもクロッカスさん、この海について教えてくれないかしら?
 私達の持つ情報は常識では測れないものが多すぎて困っているの」


情報は力であり命綱だ。
時に生死をわける程の価値を持つ。
特にこの海ではそれは顕著に表れる筈だ。


「お前達の持っている情報が何か知らんが……」


クロッカスは一端言葉を区切り言った。


「その全ては正しくもあり間違いでもある」

「え?」

「……どう言うことだ?」

「季節、天候、風向き、海流、その全てがデタラメに巡り、
 一切の常識が通用通用しないのがこの海だ。
 だから先ずは、お前達の持つ常識と言うものを捨てなければならない」


常識を捨てろ。
余りにも無茶苦茶な言葉だ。
だが、クロッカスの言葉には重みがあった。
経験と言う重みだ。


「通常のコンパスは持っているか?」

「ん?ああ」


オレは腰に下げたウエストバッグからコンパスを取り出した。
古めかしい作りだがその分頑丈さが売りの一品だ。
めったなことが無い限り壊れる事は無い。
だが……


「コンパスが壊れた?」


ぐるぐると、一向に指針は北を指すことなく回り続けていた。


「……“偉大なる航路”の磁場ね」

「ああ、“偉大なる航路”にある島々は鉱物を多く含むために、
 航路全体に磁場異常を来たしているのだ。」


オレ達の常識がまた一つ覆された瞬間だった。


「……なるほど」

「理解したか?」

「ああ、とんでもないとこだなココは。
 つまりは、常識を疑う現象が全て起こりうる海なんだな」

「そうだ」


呆れるほどのデタラメさだな。
嘘のような冒険譚に書かれたそれらが実は事実である可能性があるのだ。


「臆したか?」

「いや、俄然興味が湧いた」


昔読んだ冒険話のように、
嘘のような夢のような旅をロビンと行えるのだ。
こんなに嬉しいことは無い。
自然と口元が笑みを作った。


「ふふっ……わんぱくね」

「その言い方は止めてくれ、なんだか一気にモチベーションが下がる」


悪戯小僧かオレは


「ところでクロッカスさん。あのクジラはいったい何なの?」


リバースマウンテンで立ち塞がった傷だらけのクジラだ。


「アイツ……アイランドクジラだろ」


“西の海”にのみ生息するクジラだ。
一応、狩りには精通している。
一通りの動植物に関する知識は持っていた。


「ラブーンのことか……」


クロッカスがクジラについて語ろうとした時だった。
地面が鈍く揺れた。
地震とは異なる断続的な揺れは一定のリズムで刻まれる。
海を見れば大きな波が立ちオレ達の船が上下に揺れていた。


「また始めたか!!……ラブーン!!」


地震のような揺れの理由、
それは、クジラが“赤い土の大陸”に向けてその巨体をぶつけていたからだった。













とあるクジラの話をしよう。

“西の海”のとある海域にそのクジラはいた。
広い広い海の中でクジラは一人ぼっちだった。
クジラは幼くして群れから離れてしまったのだ。
辺りを探しても仲間のクジラはいなかった。
一人ぼっちで海を漂っていた時にクジラはとある船に出会った。
仲間と勘違いをして追いかけたその船は海賊船だった。

気の良い海賊達はかわいらしいクジラを気に入り可愛がった。
音楽をこよなく愛した海賊達はクジラによく歌を聞かせ、クジラもそれを喜んだ。
楽しい日々だった。
共に笑い。共に泣き。
苦しみを乗り越え、また笑い、歌を歌う。
クジラは海賊達と過ごす時間が大好きだった。
………だがその日々にも終わりは訪れた。
海賊達が“偉大なる航路”に向かう事を決めたのだ。
グランドラインは危険な場所だった。
苦渋の決断の後に海賊達はクジラを置いて行く事にした。
クジラは当然ついて行こうとした。
しかし、海賊達の意志は固くクジラを残しリバースマウンテンを登った。
船が何ヶ所も故障したものの海賊達はグランドラインへと降り立った。
だが、そこで海賊達は一つのことに気づいた。
船の後ろにいる見慣れた黒い身体、
なんと、置いてきた筈のクジラがついてきていたのだ。

船が治るまでの間、海賊達はクジラと共に過ごした。
宴が毎日夜遅くまで続き、一日中クジラの大好きな歌が響いた。
そして長くも短い夢のような時が流れた。
船が治り海賊達は旅立つ事を決めた。
それは同時にクジラとの別れでもあった。
クジラはやはり海賊達について行こうとした。
そんなクジラを見兼ねた海賊達は、クジラと一つの約束を交わす。



────必ず世界を一周してお前に会いに来る。



クジラはそれを信じて待つことにした。
別れは寂しいが、また会えるのだ。
海賊達はクジラが見えなくなるまで手を振り、歌を歌い、音楽を奏でた。
その胸に誓いの火を灯して………



………それが四十五年前の話だ。


クジラは未だに海賊達を待ち続けている。
高く、高く、天にまで届くような巨大な壁の向うに彼らがいると信じて……













クジラ……ラブーンは今もまだ海賊達を待ち続けていた。
海賊達はやはり亡くなっていたそうだ。
クロッカスはその事をラブーンに伝えた。
ラブーンは賢いクジラだった、当然その事を理解した。
しかし一向に認める事は無かった。
それからと言うもの毎日のようにレッドラインに向けて身体をぶつけ続けているらしい。


揺れも止み、波も穏やかさを取り戻した。
ラブーンは暴れ続けてしばらくしてからおとなしくなった。
クロッカスがあらかじめ打った鎮静剤が効きだしたらしい。
今はその巨体を岸に近づけ眠るように静かにたたずんでいた。


「ラブーンいい加減にせんか、お前だってもうわかっとるのだろう」


クロッカスは諭すように語りかける。
しかし、ラブーンは聞く耳を持たない。
オレはそんなクロッカスとラブーンに近づいた。


「本当に生きてると思ってるのか?」


四十五年と言うのは人間にとっては余りにも長い。
生きている可能性なんてゼロにも等しいだろう。

オレの問いかけにクジラは鈍い音で鋭く鳴いた。
当たり前だと言ってる気がした。


「小僧……何のつもりだ?」


クロッカスがオレに困惑の目を向けた。
しかし今はそれを無視する。


「……お前はまだ信じているんだな」


どうしてオレはラブーンの鳴き声に共感を覚えたのか分かった。
このクジラはどうしようもなくオレに似ていたのだ。

オレと同じで事実を知ってもそれを認めたくないのだ。
そして、心の中で未だに希望を抱き続けているのだ。
ラブーンなら海賊達。
オレなら母さんやオルビアさん、クローバーにサウロ、図書館の皆。

……大切な人達が生きているその可能性を諦めきれないのだ。


オハラは滅んだ。
その事は後に情報として確かめる事も無くこの目に焼き付いている。
あれから十五年……故郷の地には近づいていない。
そうすることで、未だに惨めにも哀れにも残酷にも希望を持ち続けてているのだ。

ロビンには情けなさ過ぎて言えないオレだけの秘密だ。


オレはラブーンに向き会い静かに、しかし力強く言った。


「必ず会えるさ……オレもそう信じている」


半ば自分に向けた言葉だった。
ラブーンはオレの様子に気づいたのか同情するように短く鳴いた。
クロッカスはオレに何も言わなかった。


「……あんまり無茶すんな、傷だらけだと向うは悲しむ」


……クロッカスさんにも心配かけんな。
そう言って、ラブーンから離れロビンの元へと戻った。

ロビンは椅子に座り読書をしていた。


「何してたの?」

「なんでもない……たわいない、とてつもなくバカなことだ」

「……そう」


ロビンは読みかけの本を閉じた。
そして立ちあがりオレに近づき前に立った。
そしてオレの手をやさしく包み込んだ。
ロビンの指は細く繊細で柔らかかった。


「落ち込んだりしたり、悩んだりしていた時はクレスはこうして手を握ってくれた」

「………………」

「何があったかは知らない。何を考えてるかも知らないわ。
 クレスはそう言うとこ私には見せてくれないから……私には分からない」

「………………」

「でも、クレスが苦しそうなのは分かるの」


ロビンはオレを見た。
身長は同じくらいなのでちょうど目線が水平上にある。
綺麗な黒曜石のよな綺麗な瞳だった。
その瞳が柔らかな笑みを作った。


「……ありがとう」

「どういたしまして」


夕暮れの柔らかい光を受けたその表情はとても魅力的だった。






オレ達は双子岬で夜を明かした。
ささやかではあったがクロッカスとラブーンを招き宴を開いた。
そこでオレは歌を口ずさんだ。余り自信は無いが今日は無性に歌いたかった。
歌ったのはオレとロビンの故郷の海の歌だ。
軽快なテンポで始まるその曲は“西の海”の海賊達に広く愛されていた。
名前は確か……



“ビンクスの酒”……だった。











あとがき
入りましたねグランドライン。
第一話はラブーンの話です。
ビンクスの酒……良い曲ですね。私は好きです。
次の話は個人的に少しためらいがあるのですが、
長々と引きずってきた“悪魔の実”を出そうと思います。
今はプロットだけですが皆さまの反応が怖いです。
ヘタを打てば“ワンピースの二次小説”と言うジャンルに正面から喧嘩を売りそうです。
次もがんばります。



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