「そういえば、ハリスは今頃どうしてるのかしら?」
「………知らん、知りたくも無い」
嫌な奴の名前を聞いた。
名前を聞いただけでその姿がよみがえる。
賞金稼ぎ
“串刺し”ハリス
オレの大嫌いな男だ。
「ふふっ……、素直じゃないんだから。
あんなに仲良しだったのに……」
「誰が仲良しだ!!」
何がおもしろいのかロビンは楽しそうに笑う。
失礼なやつだ。
だいたい……どこをどう取ったら仲良しに見えたんだ?
出会いの初っ端から最悪だったじゃねぇか。
「アイツとはいずれケリをつける……それだけの関係だ」
「あら? そう言うのを男の子の間じゃ仲良しって言うんじゃないの?」
「違うわ!!」
まぁ……いい。
思い返したくは無いが、ロビンがそれを望んでいるみたいだしアイツとの出会いでも話すか……
第四話 「意地と酒」
大体五年前くらいか……
オレもロビンも今の生活にも随分と慣れた頃の話だ。
海軍からも政府からも十年間逃げ続けて、世間を賑わせた“悪魔達”のニュースも時の流れによってすっかりと風化し、お互いに随分と成長して身体的特徴からも正体が悟られ無くなった頃だ。
相変わらず裏の組織に与していたものの、この頃になると表を堂々と歩いても何も問題は無かった。
一時期は思いだしたく無い程にひどかったのが嘘のようだった。
政府も確実に追っては来ているものの、徐徐にその規模を縮小していき用心さえしていればそう問題は無かった。
平穏と言うには少し物騒だったが、ロビンと二人、遺跡の探検や“六式”の鍛錬をしたりして静かに暮らしていた頃だ。
この時、オレはロビンと共に裏組織の一つに接触してその身を隠していた。
オレは“六式”で培われた力と動体視力を買われ、ロビンはその知能を買われ組織の幹部として雇われてた。
「お客さん、ポケットの中身を見せていただけますか?」
「なっ!!」
オレは不自然な動きを見せた男の腕を掴む。
男はオレから逃れようと必死で抵抗するが、オレの腕は万力のようにその腕を拘束する。
すると客の男のポケットから数枚のカードが零れ落ちた……。
男はそれを絶望的な表情で眺める。
彼の人生はこれで終わりを迎えたのだ。
「こ、これは何かの間違いだ!!
じょ、冗談だろ!!? 見逃してくれ、何でもするから!!!」
男は涙を流し必死で懇願する。
オレは何も言わない。
オレの仕事はここまでだからだ。
扉が開き屈強な男達が数人ぞろぞろと現れる。
組織が経営するカジノの構成員達だ。
男は自分の運命を悟ったのか項垂れる。
そしてオレに掴まれた腕の反対側の腕をスーツの内側に忍ばせた。
「ちくしょうが!!死ねぇ!!」
男は銃を引き出す。
そしてその引き金に指をかけようとした、その瞬間。
オレは男の腕を蹴り飛ばした。
「ぐっ!!」
オレの脚先は男の持った銃を的確に蹴り上げ
銃を空中へクルクルと舞いあげる。
やがてそれはオレの腕の中に納まった。
「……残念だよ」
オレは銃を男に突き付ける。
男には抗う術など無かった。
「はぁ………」
「どうしたの、そんなため息なんかついて?」
「いや、……何でも無い」
“仕事”が終わり現在はロビンと落ち合い酒場で酒を飲んでいた。
並んで酒場のカウンターに座る。
そこで昼間のことをふと思い出しなんとなくナーバスになった。
「何にも無いこと無いでしょ。話してみたら? 少しは楽になるわよ」
「いや、そんな大した事じゃないんだ」
本当に大した事なんて無い。
要は後味が悪かったのだ。
今回の件はカジノでイカサマをしたあの男が悪い。
しかも手付きから見るとかなりの腕だった。
常習性もあるに違いない。
オレが気にする必要なんて無い筈だ。
だが……今回の件でどのような形で男に制裁が与えられたかは想像に難くない。
「もう……意地っ張りなんだから……
何か辛い事や不安や悩みがあったら遠慮しないで話せって昔からクレスは言ってるじゃない。
それには自分は当てはまらないの?それとも……私は頼りにならないの?」
「……む」
─────何か辛いことや不安や悩みがあったら遠慮せずに話せ
確かに幼い頃からロビンに言ってきている事だ。
ロビンは賢いから周りに自分の悩みを悟られないように行動してきた。
悪魔の実の件がいい例だ。
だからいつもロビンにはそう言い続けてきた。
「……わかった、話すよ」
大体その言い方は卑怯だ。
ここで話さなかったら、オレがロビンを信用していないみたいじゃないか。
オレは昼間の出来事をロビンに話した。
まったく……情けない話だ。
十年間も罪を重ね続け未だにこういった事には慣れない。
襲いかかってくる人間や悪意を持った人間には容赦無く対応できる自信がある。
だが……そうでない人々。
例えば昼間の客のような直接オレに悪意を持たない人間やこちらの都合で勝手に傷つける人間。
そう言った人々に関してはどうしても罪悪感が抜けないのだ。
「……やさしいのね」
語り終わった後にオレを気遣ってかロビンは優しい言葉をかけた。
そう言ってもらえるとうれしいのだが、実際は違うのだ。
本当に優しいなら昼間オレは男を見逃していたはずだ。
そして男が帰る間際に今日のことを話し男をカジノから遠ざけた。
だが、オレはそれをせずに自分に与えられた“仕事”をこなした。
「………違う、オレはただ……」
「─────甘いだけ……だろ?」
突然、見知らぬ男が話に割って入っていきた。
背中に細長い筒を背負った男だ。
額にバンダナを巻きボサボサの髪を逆立てている。
狼のような野性味あふれる目が特徴的だった。
男はそのまま酒を注文するとロビンの隣に座った。
「オォ、ねぇちゃん今夜暇?」
「誰だよてめぇ、と言うかロビンに話しかけるな、ブッ飛ばされたいか」
いきなりロビンをナンパし始める男。
男はオレをさして気にした様子も無く店員から手渡されたグラスを手に持った。
「何だ、うるせぇぞ。せっかく酒を飲みに来たんだ静かにしろ」
「あァ?」
自分からオレを煽っておきながら放置するとはいい度胸だ。
本気でブッ飛ばしてやろうかと考え始めた所にロビンがオレに釘を刺した。
「……クレス、他のお客さんの迷惑になってるわ」
「そうだぞ、静かにしろ」
ロビンの言葉に便乗する男。
やばい……今一瞬怒りで我を忘れかけた。
「それで……突然割り込んで来て何か用なの?」
ロビンが男に対して警戒の目を向けた。
「いや……興味があったんでね。
他人の会話に割り込むなんて無粋な真似あまり好きじゃないんだが、
おもしろそうだったんで“つい”……な」
そう言ってオレ達にその鋭い目を向ける。
「お前がどんな事に興味を持とうと自由だが、オレ達の邪魔をするな」
立て、そして一刻も早くロビンの隣からどけ。
「そりゃ悪かった。
でもな……つい手を出したくなるんだよ。
─────お前みたいな弱虫野郎を見てるとな」
その言葉には絶対の自信が込められていた。
「お前が誰だか知らないが……喧嘩売ってんのか?
見ず知らずの人間にそこまで言われる理由なんて無いぞ」
「見ず知らず……とは、確かに正論だ。まったくもって正解だ。
だが、オレがこう言うのも理由がある」
男はグラスに入った酒を飲み干すと勢い良くカウンターに叩きつけた。
カン……
と一際大きな音が響き静かな雰囲気だった店内が静まりかえった。
「見てたぜ、昼間の一件。
オレから見ても実に鮮やかな手際だったじゃねぇか」
「…………」
「だが、ここでまた会ってみれば後悔の素振りを見せてやがった。
本来なら圧倒的な力を持つはずのお前がだ!! けっ、反吐が出るぜ!!
自分の行動に自信が持てねぇ、てめぇ見たいな勘違い野郎が大嫌いなんだよ。
力があるなら絶対の自信を持ちやがれ!!
─────後悔するなら行動するんじゃねぇよ。そんなのはオレに対して失礼だ!!」
男の一方的な口上にオレもそろそろ我慢の限界だった。
グラスの中身を一機に飲み干しを勢いよくカウンターテーブルに叩きつけた。
「お前の言いたい事は分かった。
だが、それはオレには関係無いことだ、
喧嘩なら買ってやるよ、かかってこいや」
「はっ、いいねぇ!!
図星を突かれて怒ったか?
こちとら、もともとそのつもりだったんだ、
来いよ、ボコボコにしてやるぜ!!」
オレは指に力を入れ骨を鳴らし。
男は背負っていた細長い筒に手をかけた。
まさに一触即発。
静まりかえった店内に誰かのゴクリと言う固唾を飲む音が響いた。
「─────止めなさい」
大声では無い。
だが、それでも良く通る声が響いた。
「ん!?」
「な!?」
咲き誇る腕。
オレは男に一撃を喰らわせようとした瞬間、
ロビンに全身を拘束された。
男の方も同じように全身を拘束されている。
「ロビン、手を離せ、このままだとコイツを殴れない」
「そうだぜ、ねえちゃん。能力者のようだが……
悪いが邪魔するなら女と言えどタダじゃ済まさないぞ」
「てめぇ、ロビンになんて口ききやがんだ。彼方まで吹き飛ばすぞ!!」
「威勢だけはいいようだな!! それが何秒持つかねぇ!!?」
いがみ合うオレ達。
やはり熱は納まらずオレ達は対立した。
「───人の話しを聞きなさい」
オレと男は更にロビンによって口を塞がれた。
「クレスも貴方も落ち着きなさい。
ここはお酒を飲む場所よ。喧嘩するのは止めなさい」
ロビンの言う通りだった。
少し血がのぼり過ぎていたみたいだ。
今のオレは組織の幹部でこの酒場は組織の経営する店の一つだ。
ここで騒ぎを起こすのはまずい。
男の方もロビンの言葉を受けてかおとなしくなった。
だが、その瞳だけは相変わらず獲物を見つけた狼のように凶暴だった。
ロビンはオレ達の様子を見てか拘束を解いた。
「まぁ、ねぇちゃんの言う通りだな……酒場には酒場での勝負があるってもんだ。
オレとしたことが、そんな事を忘れちまうとはな」
男は再びロビンの隣に腰を下ろした。
「おっさん、酒くれ、酒!!
ありったけ持ってこい!!!」
男が挑発するようにオレを見た。
オレは男の意図を悟りロビンの隣の腰を下ろした。
「オレにもだおっさん!!
コイツより多く持ってこい!!」
「んだと!!てめぇ如きがオレに敵うと思うな!!」
「せいぜい吠えてろ、どうせ勝つのはオレだ」
慌てた店主が大量の酒を運んでくる。
巨大なジョッキがオレと男の前に置かれた。
オレと男は同時にジョッキを手に持った。
互いに睨み合う。上等だ。
「「勝負だ!!!」」
「もう、勝手にすればいいわ……」
「……大丈夫?」
呆れたように、ロビンが言った。
現在オレは完全に酔いがまわり、フラフラと足元が揺れる中で宿へと帰っていた。
気持ち悪い。今すぐ胃の中身をぶちまけたい気分だったが、ロビンに嫌われそうなので全力で我慢していた。
実はオレは酒は好きだがそこまで強くない。
飲めない事は無いが、嗜む程度だ。酒豪なんて口が裂けても言えない。
だが、だからと言って、ハリスに負けるつもりはさらさら無かった。
半分意識が飛びかけた状況で意地だけで飲んでいた。
「ハリスの方も実はそんなにお酒強いわけじゃ無かったみたいだったしね……
二人して意地を張って何が楽しかったの?」
「……確かに悪かったよ、迷惑をかけた。
だけど、これだけは言っとくぞ」
「何?」
「勝ったのはオレだ」
ロビンが笑いだした。
失礼なやつだ。
今のは真面目な話だってのに……抗議しようと思ったが、その瞬間猛烈な吐き気が襲ってきた。
「もう、気持ち悪いなら吐いちゃった方が楽よ」
「ぜ、全然……大丈夫だ」
「……青い顔で口元を押さえながら言っても全然説得力無いわよ」
そうして、這々の体で宿へと帰り、全力でトイレに駆け込んだのは直ぐにでも忘れたい思い出の一つだ。
あとがき
すみません。一話で収めるつもりでしたが、
今回はいつもより長くなりそうなので二話構成とさせていただきます。
始めは原作キャラとの交流を考えていたのですが、
手ごろなキャラが見つからなかったためオリキャラを出すことにしました。
次の話はクレスとハリスのバトルです。
頑張りたいです。