「ぬおおおォオ…!!
こりゃワシを狙って来とるでよ!!」
巨大な的と成りえるサウロに向かって戦艦からいくつもの砲弾が放たれる。
降り注ぐ砲弾の中をサウロは手の中にオレとロビンを納めて走った。
「クレス!!……サウロ!!
お願い引き返してっ!!」
サウロに包み込まれた手の中で更にオレに抱きしめられているロビンが涙ながらに訴える。
「………ダメだ………母さんやオルビアさんの決意を無駄には出来ない…!!」
オレだって本当は引き返したい。
だけど、もう引き返しても何も出来ないのだ。
オレとロビンは生きろと言われた。
ならば絶対に生き残らなければならない。
「誇れ!!ロビン!!クレス!!
お前さんらの母ちゃん立派だで!!オハラは立派だでよ!!」
そんなことは十分に分かってる。
サウロの言う通り母さんとオルビアさんは立派だ。立派すぎる。
自分の命と引き換えに、
オレ達の命そしてオハラの学者としての誇り
その両方を守ろうとしているのだ。
そして、その選択に一瞬の後悔も逡巡も見せなかったのだ……!!
「この島の歴史はいつかお前さんらが語り継げ!!
オハラは世界と戦ったんでよ!!!」
忘れるものか、
途絶えさせるものか……!!
母さんやオルビアさんそれにクローバーや図書館の皆の
戦いをオレは絶対に無駄になんかしてたまるか!!
走るサウロに砲弾が一つ迫った。
「!!?」
「あっ!!」
「クソッ!!」
オレはロビンを砲弾から守るために全身に“鉄塊”をかける。
サウロは砲弾が命中するにも関わらず
自分をかばう事無く、オレ達を乗せた手のひらを砲弾から遠ざけた。
着弾と爆音。
砲弾はサウロへと着弾した。
肌に熱風が伝わるが怪我などは全くない。
サウロが守ってくれたからだ。
「……!!すまん……びっくりさせたでな、
…ちょっと…待っとれ……」
サウロはオレとロビンを地面へと下ろすと、
顔に受けた砲弾による痛みに構うこと無く
岸にある軍艦に鋭い視線を向ける。
「アレか…あんな岸から…
二人が傷ついたらどうするんだで………!!」
サウロは軍艦に向けて走り出した。
まさか…軍艦と生身で戦り合う気か!?
「やめろ、サウロ!!」
「やめてーー!!サウローー!!」
サウロは軍艦を掴む。
動揺する海兵達をよそに恐るべき怪力によって軍艦を持ち上げた。
「覚悟せぇ…ワシを敵に回すと……ただじゃすまんでよ……!!」
サウロは持ち上げた軍艦を近くにあるもう一隻の軍艦に向けて投げつけた。
軋み粉砕される船の音が離れたこちらまで聞こえる。
サウロは軍艦相手に暴れ続ける。
海兵達はサウロに対し手に持った銃や、軍艦に備えつけられた大砲で反撃する。
しかしサウロの攻撃は身体にいくつもの砲撃を受けてもひるむどころか、
むしろ激しさを増した。
「サウロやめろ!!これ以上はお前がヤバい!!」
「そうだよ!!もやめて!!死んじゃうよ!!」
オレとロビンは必死でサウロに叫びかける。
母さんオルビアさんに続きサウロまで命をかけて
オレ達を守ろうとしているのだ。
「今のうちに避難船に逃げるでよ!!この島におっては助からん!!」
「でも、サウロ……!!」
「クレス!!ロビンを連れていくでよ!!」
「ロビン!!」
オレはロビンの腕を掴む。
そして半ば引きずるように走った。
ここでもし避難船に乗れなかったら逃げる手立ては無くなってしまうのだ。
第十四話 「ハグワール・D・サウロ」
オハラへの攻撃はとどまることなく激しさを増す。
町は炎に包まれ、かつての穏やかな面影は無い。
あちこちから黒煙が巻き上がり
日のあたる昼を光無き黒へと染めていく。
オレ達の家、
ロビンと母さんとよく買い物に出かけた店、
ロビンと水遊びをした小川、
六式の訓練をした広場、
オルビアさんを見送った港、
数えればきりがない
思い出の数々がその炎の中に消えていく。
それは、全知の樹も例外では無かった。
「お母さァ─────────ん!!!」
炎に包まれる全知の樹。
ロビンがこらえきれない思いを叫びに変える。
あそこには母さんやオルビアさん、クローバーに皆がいるのだ……
オレも出来るなら叫びたかった。
あまりに残酷な現実を嘘だと否定したい。
でも今はそれをすることは出来ない。
母さんとの約束、
ロビンを必ず守るためには今を生き抜かなくてはならないのだ。
そのためには、今と言う現実を受け入れ行動しなければならないのだ……!!
「行こう!!オレ達は生きるんだ!!ロビン!!」
一冊でも多くの本を、
一節でも多くの文節を、
燃え上がる全知の樹の内部では
一つでも多くの文献を守ろうとする学者達によって懸命な活動が行われていた。
彼らは命の危険などまるで感じていないかのように活動を続ける。
それは先人達の言葉を受け継ぎ未来へと届ける彼らの義務であり、誇りであった。
振り向く事無くロビンを抱え全力で走った。
出来るなら今は何も考えたくない。
ただ、自分に出来る事だけをやりたかった。
オレ達は避難船へとたどり着く。
既に帆を張り出向の準備を終えているようだが、
何とか間に合った。
この船に何とか紛れ込めば島を出る事が出来る。
幸い、オレとロビンが法を犯したと知っているのは
スパンダインとか言う役人とその部下だけだ。
避難船に乗る人間がオレ達に気づいた。
だが、雲行きが怪しい。
ロビンの事で船上はもめていた。
ロビンを傷つける言葉の数々、
オレは怒鳴りたい気持ちを抑え込みロビンを抱きしめる。
オレはそのままロビンを抱え“月歩”によって船に飛び乗った。
驚く、人々。
だが、そんなのには構ってられない
速く人ごみに紛れて姿を隠さなければ……
『避難船!!!そのガキ共を拘束しろ!!
そいつらは子供でも凶悪な悪魔共だぁ!!!!』
政府の船から聞こえる耳障りなスパンダインの声。
政府は安全地帯から学者達が逃げないように監視していたのだ。
スパンダインによって避難船に乗っていた海兵達が半信半疑ながらも
オレ達に向けて銃を向けた。
「ロビン、掴まってろ!!」
オレはロビンを抱えたまま立ち塞がる海兵に“嵐脚”を放つ。
巻き上がる海兵達の悲鳴。
オレはその中を“剃”で駆け抜けた。
「くそっ!!どうすればいい!!」
最悪だ。
生き残る希望に賭けたがその当てが外れてしまった。
海兵達が弾丸を放ってくる。
オレはロビンを守るように身を屈め全力で避難船から離れる。
「ぐっ!!」
「クレスっ!!」
弾の一つが背中に当たった。
焼けるような痛みが広がる。
だが、貫通だけはさせるわけにはいかない。
瞬間的に“鉄塊”をかけた。
ロビンを傷つけさせるわけにはいかない……!!
「……“CP9”か…くだらん事を……!!」
サウロが標的を政府の船に変える。
船に向けて走り出したその時、
「────アイスブロック“両棘矛”」
巨大な氷塊が投げつけられた。
「………!!………クザン!!!」
氷でできた矛はサウロを傷つけ、足を止める。
──────海軍本部中将クザン
あの野郎……!!
なんてタイミングで現れるんだっ!!
「あらららら……
“バスターコール”が元海兵に阻止されたんじゃあ
格好つかないんじゃないの……」
「クザン…!!おめぇはこの攻撃に誇りが持てるのか!!?
おかしいでよ………!!お前も知ってるハズだで!!!
これは“見せしめ”だ………!!!その為にこのオハラを消すんだで!!!」
「これが今後の世界の為なら仕方ない。
現に学者達は法を破ってんじゃない……!!
正義なんてものは立場によって形を変える。
だから、お前の“正義”も責めやしない
────ただ、おれ達邪魔をするなら放ってはおけねぇ……!!!」
にらみ合う二人が対峙したその瞬間。
ひときわ大きい爆音が響いた。
島では無く海の方。
船が燃えていた……
それは、オレとロビンが乗ろうとした避難船だった。
嘘…だろ……
あそこには学者達は絶対にいないはずだ
いたとしても、島中の民間人が乗っているんだぞ……!!
その攻撃はオレだけで無く、
サウロ、ロビン、そしてクザンまでにも戦慄を与えた
「これが……!!これが!!正義のやることか……!!
これでもまだ胸を張れるのかァ!!!」
サウロは怒りをぶつけるようクザンを殴りつける。
その拳の威力は大地を割り大気を震わせる。
「……!!!、サカヅキのバカ程行き過ぎるつもりはねぇよ!!!」
クザンはサウロの拳を飛び上がり避ける。
「逃げるど二人とも!!あいつの強さは異常だで!!」
サウロはオレとロビンを手に納めると走り出す。
だが、駄目だ。
オレもそうだった、クザンはこれくらいで逃げられるほど甘くない……!!
「───アイスタイムカプセル!!」
クザンから放たれる猛烈な冷気がサウロの足を捕まえる。
足から全身に広がるようにサウロが凍っていく。
こうなればもう抜け出せない…!!
「走るんだで思いきり!!!
島内におったら命はねぇ……!!
とにかくワシのイカダで海へ出ろ!!」
「サウロは!!?」
「ワシはここまでだ……!!」
「いやだ!!皆と離れるなんていやだよ!!」
「サウロ……っ!!」
「……よく聞け……ロビン、クレス……
今はとても悲しくて、寂しくても……!!
いつか必ず“仲間”に会えるでよ!!
海は広いんだで…………
いつか必ず!!!お前達を守って導いてくれる“仲間”が現れる!!!
───この世に生れて一人ぼっちなんて事は絶対にないんだで!!!
証拠にお前達は今二人だ……その手を離すんじゃないでよ。
そうすれば、いつか幸せに笑いあえる仲間に会える。
デレシシシ……この海のどこかで必ず待っている
仲間に会いに行け!!!ロビン!!!クレス!!!」
オレは泣きじゃくるロビンを抱え直し
凍りついていくサウロから離れる。
今はクザンから逃げなければならない。
たとえ、サウロを見殺しにするような真似をしてもだ……!!
──────そいつらと……共に生きろ!!!
サウロの最後の言葉をオレは胸に刻んだ。
あとがき
もうそろそろ終わってしまいます。
おそらく後1、2話ほどでオハラ編は終了ですね。
完結に向けてがんばります。
感想版での返信は時間の都合上もう少しお待ちください……
まさかあれほど書き込んでいただけるとは思っていませんでした。
“ワンピースしてる”は最高の褒め言葉です。
天に昇れそうです。
本当にありがとうございました。