「あらら……
暇つぶしついでに散歩でもしてみれば、
とんでもないもの見つけちゃったじゃない……」
クザンと呼ばれた長身の男の登場により、
オルビアさんはひどく動揺した。
やばい……
オレも背中に流れる嫌な汗がいっこうに引かない。
「まさか、こんな女子供にまんまとしてやられるとはねぇ…」
この場の空気は完全にこの男が支配していた。
───海軍本部中将
やばい……こんな奴に勝てる気がしない……
オレに六式を教えたリベルでさえ少将だったのだ。
単純に考えてこの男の実力はリベルと同等かそれ以上……万に一つも勝ち目は無い。
「ク、クザンさん!!!」
スパンダインとか言う役人が早くも勝利を確信したのか喜びの声を上げる。
それをクザンは胡乱な目つきで見つめた。
「政府の役人ともあろう人が何やってんだか……
メンドクサいけどコレは見逃せんわな」
周りの空気が変わる。
酷く冷たい凍てつくような寒さだ。
「アイスウォール」
突然。
オルビアさんと人質にした長官との間に分厚い巨大な氷の壁が現れる。
高くそびえ立つ氷の壁は人質とオレたちを完全に隔絶し、オレたちは人質のアドバンテージをいとも簡単に失った。
「逃げなさいクレス君!!クザンは“ヒエヒエの実”の氷結人間!!
決して勝てる相手じゃないわ!!」
“ヒエヒエの実”
数ある悪魔の実の中において最強と名高い“自然系”の能力。
“自然系”の能力者は身体を自然変換することが出来るため物理攻撃が一切通用しないと言う。
オルビアさんの言うとおりだ。
この場は逃げるしかない。
だが間違いなく相手はそれを許さないだろう。
そうすれば最悪二人とも捕まってしまう
ならば……!!
「───いいえ、
逃げるのはオルビアさんだけです」
「何言ってるの!?
私が何とかするから逃げなさい!
あなたを捕まえさせる訳にはいかない!!」
「それはオレだって同じです。
オルビアさんを捕まえさせる訳にはいかない
それに、二人とも逃げ出すにはコレしかありません!!」
オレは“速度”に関しては自身がある。
オルビアさんさえ逃げてくれればオレも逃げきれる可能性もゼロではないのだ。
「それでも、確実にあなたが逃げられるなら私がここに残ります」
「ロビンの事はどうするんです!?
まさか、ここまで帰って来て会わないつもりですか!!?」
「今はそんな場合じゃないでしょう!?」
「いいえ!! そんな場合です!!
ロビンはずっとあなたのことを待ってました!!
オレも母さんもクローバーも図書館の皆もずっとロビンにあなたを会わせてあげたかった!!
母親なら子供の為になら傲慢になるべきでしょう? オレは絶対に大丈夫ですから行ってください!!」
オルビアさんは撃たれたように肩を震わせる。
一瞬だがオルビアさんの中で戸惑いのようなものが生まれたようだ。
でも……言葉だけでは説得は難しい。
どんな言葉をどんなに重ねても
オルビアさんはオレを置いて先に逃げられるような人間じゃないだろう。
ならば……
「そろそろ逃げる算段はついたのか?」
「そんなとこだよっ!!」
行動に移すしかない。
「クレス君!!」
オレは“剃”を使いクザンの視界を塞ぐように移動した。
「嵐脚!!」
「あららら……味なまねしてくれちゃって……」
迫る鎌鼬。
しかしクザンは避けよう ともしなかった。
“嵐脚”がクザンの身体を両断する。
だが、氷の固まりのような物がにぼろぼろと崩れ落ち、
地面からまたクザンが現れた。
「行って下さい!! あなたはロビンの────お母さんなんですから」
オルビアさんは苦しそうに唇を噛みしめる。
オレがオルビアさんを先に逃がすまで逃げない事を察したようだ。
「約束して、……絶対に逃げ延びるって」
「もちろんですよ。
このまま捕まる気なんてさらさらありません」
苦渋の選択を終え。
オルビアさんは走り出した。
「そうはさせん。
悪ィが……どちらも逃がすつもりは無い」
クザンが大気中から発生させた鋭い氷の矛を放つ。
「アイスブロック“両棘矛”」
「させるかァ!!」
オレはオルビアさんに向かって飛ぶ矛を全力で打ち落とす。
矛を捌き切れなかった腕から血が流れる。
オレは傷ついたがオルビアさんは無事に逃げられたようだ。
オレは一人クザンと対峙する。
まともに戦うつもりはない。
しかし、オルビアさんが安全圏まで離れるまでは時間を稼がなければならなかった。
そして、時間が稼げたとしてもオレが逃げ出せる可能性は低い。
だが……やるしか無い。
「そこをどけ小僧、
───悪戯も過ぎると、ただではすまさんぞ 」
「いやだねオッサン、
───上等だっての、かかってこいやコノヤロー」
第十一話 「最高手」
政府の強制捜査は図書館にも及ぶ。
貴重な資料を手荒に扱われるのを嫌がる学者達が猛反発するも、役人達は武器をちらつかせ黙らせる。
そしてオハラの考古学者 は全員図書館の前にへと集められた。
そこにはロビンの姿もあった。
クレスと別れ図書館へとやって来たロビンはサウロから聞いた話を伝え、そして、母の行方を聞いた。
必死な様子のロビンに対し、オルビアがここにやってきたことを知る職員達はオルビアの決意をくみ取り嘘をついた。
しょんぼりとするロビンをシルファーが優しく抱きしめた時、政府の役人達がやってきた。
乱暴な役人達にロビンはおびえた。
サウロの言っている事が本当なら大好きな皆が殺されてしまうのだ。
ロビンに対しシルファーは避難船に行く事を勧める。
ロビンは考古学者となったがロビンほど幼ければ誰も学者だとは思わない。
だがロビンはそれを嫌がった。
避難船に行っても優しい人は誰もいないし、何よりクレスがまだやって来ていなかった。
「っ!!」
クザンによって凍らされた手足が焼けるように痛む。
それだけならまだましだったが、だんだんと動かし難くなっていきとうとう動かなくなってしまった。
「もう止めとけ、お前さんの腕は完全に凍り付いた」
「うるせー、大きなお世話だよ」
オレは凍ってしまった腕を庇う。
まだクザンの足止めをして全然時間が経っていない。
オルビアさんの為には後数分が必要だった。
だが、コイツ相手に後何分、いや……何秒持たせられるか分からなかった。
「もう終わりにするぞ」
クザンが動いた。
オレはそれを無駄と思いつつも迎撃する。
「指銃!!」
オレの攻撃はクザンの身体に吸い込まれ………
「───アイスタイム」
オレの意識は落ちた。
自身の能力によって凍りついたクレスをクザンは見つめる。
「リベルの旦那の言う通りだな……
まさか、………性格までそっくりだとは……」
彼は自分の後輩にあたる男を思い出し口元を笑みに変える。
屈強な心。
どこまでも諦めの悪い目の光。
そして理性で隠した反骨心。
どこまでも、奴に似た少年だ……
クザンは感傷に浸りながらクレスに近づく。
「これから、お前はどうするつもりだ……少年」
「動かないで!!」
クザンは声の主へと振り向いた。
そこには逃げたはずのオルビアが銃をクザンに向けて構えていた。
「あららら……
コイツがせっかく命張ってまで逃がしたってのに、戻ってくるなんてどう言うつもりだい?」
「確かにさっきは逃げたわ。
でも、その子があなたに捕まったなら話は別よ。
子供の犠牲の上にまで立って我を通すつもりも無いわ………その資格もね」
「なるほど……、“最高手に賭ける”それがあんたの最善手ってわけかい」
「……ええ」
オルビアはうなずく。
あの時の最善手は自身を囮としてクレスが逃げのびることだった。
だが、その方法はクレスが先手を打ち拒んだのだ。
ならばオルビアに出来た最善の方法とは、クレスの選ぶ最高手を成功させることだった。
「ふぅん………それでどうするつもりだ?
はっきり言ってお前さんに何ができるわけでもあるまい?」
「取引をしましょう」
「応じると思ってるのか?」
「それはあなたしだいよ。
───私に聞きたいことがあるんでしょう?」
あとがき
青キジ強過ぎますね。
始めて出てきた時は衝撃でした。
やはり青キジ相手では瞬殺でした。
クレスでは絶望的に勝ち目がありません。
オハラ編もそろそろ終わりですね。
この駄文なシリアスにもう少しお付き合いいただければ幸いです。