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No.11220の一覧
[0] とある幽霊の場合  (オリ主×再構成)[リットン](2010/03/26 21:58)
[1] 一話[リットン](2010/09/24 19:15)
[2] 二話[リットン](2011/05/01 19:10)
[3] 三話[リットン](2010/04/29 19:15)
[4] 四話[リットン](2010/04/03 00:42)
[5] 五話[リットン](2010/04/03 00:43)
[6] 六話[リットン](2010/04/03 00:43)
[7] 七話[リットン](2010/04/29 19:16)
[8] 八話[リットン](2010/04/03 00:55)
[9] 九話[リットン](2010/04/29 19:15)
[10] 十話[リットン](2010/05/03 09:54)
[11] 十一話[リットン](2010/09/24 19:14)
[12] 十二話[リットン](2010/04/29 19:13)
[13] 十三話[リットン](2010/04/29 19:13)
[14] 十四話[リットン](2010/04/29 19:12)
[15] 十五話 [リットン](2010/04/29 19:12)
[16] 十六話[リットン](2010/04/29 19:11)
[17] 十七話 A'sへ[リットン](2010/01/28 19:02)
[18] 十八話[リットン](2010/01/31 16:56)
[19] 十九話[リットン](2010/04/29 19:10)
[20] 二十話[リットン](2010/04/29 19:09)
[21] 二十一話[リットン](2012/03/20 03:00)
[24] 二十二話[リットン](2012/03/20 02:57)
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[11220] 八話
Name: リットン◆c36893c9 ID:73b2310e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/03 00:55
「おぅ、これは……」

大急ぎで来たのは良いものの、どう見ても手伝う必要がないように思える。

まったく危険性が感じられないのだ。断じて感じられないのだ。

そう、大事なことなので二回言ってしまうぐらいに感じられない。

しかし、危険性が感じられないので、なんというかこのまま見ていたい気分になるね。

もっとやれと言ってしまいそうだ。

というかだね、これは邪魔したら無粋だろ。

どこぞの野郎の悲願を叶えたですよ? 同姓としてジュエルシードを応援しなければなるまいさ。

幸い親友は転送終了と同時に“後は、任せたよ”と言ったきり、力尽きたようにフェレット状態で寝ている。

つまりは邪魔立てするものは誰もいないわけで、安心して任されようと思う。

どこぞの馬鹿野郎が起こした奇跡の成れの果てを、誰かが望んだ一つのアヴァロンを見届けようではないか。

なのはさんもこの戦いできっと得るものがあるはずだ。いや、あるに違いない。

手出し無用なのだ。目を見ればわかる。あのユーノくん早く来てとエマージェンシーを含んだ目はフェイクなのだ。

胸中では不屈の心で“てめぇ何しやがる! 今すぐリリカルにしてやんよ!!”とか考えてるに違いない。

「高町なのは……恐ろしい子。負けるな、負けるんじゃない! 僕らのジュエルシード!!」

サポーターよろしく、ジュエルシードにエールを送る。

とは、いってみたもののさっきから、肝心のなのはは右往左往するだけだ。最早、一般人Aでしかない。

どうしたらいいのかわからないのか、変身すらしていないのだ。

変身していない魔法少女なんぞ唯の電波少女に同じ。恐るるに足らず。

「魔王は未だ覚醒せずか……。ジュエルよ、そんな不思議ちゃんに構わず任務を遂行せよ。」

やるんだ、今がチャンスだジュエル。勝利は目前だジュエル。

それはお前の目の前に落ちている。俺には見える。

おまえの手――触手、いや、エクスカリバーは何のためにある?

何を為すために存在する? 誰が為にある?

願いを叶える宝石よ、今こそ力を解放するんだ!

おまえが、願いを叶える石であることを世に示せ!

さぁ、水着を掴めと轟き叫――

「――くっ、馬鹿な!」

男の夢を乗せたエクスカリバーはパシャッという音と共に砕けて消えた。

女性に触れる瞬間、横手からの攻撃に形を失い唯の水へと化したのだ。

なんてこった……。なんてこったっ!

あのエクスカリバーが、僕らの奇跡の具現が!

アヴァロンへと導くはずの鍵が!

「貴様っ、高町恭也ーーー!!」

また、また邪魔をしようというのか。

思い起こせば二ヶ月前。

何の罪も無いはずの俺を不審だから妹を脅かす不届き者だからというだけの理由で海鳴中を追い回したところからの因縁だ。

「あぁ、また……」

エクスカリバーが一本、また一本と折られていく。

己の無力さを思い知る。

約束された勝利など、どこにもなかった。

すまないジュエル。見守る事しかできない俺を許しておくれ……

「希望が……希望が失われていく……」

『……盟主よ。隣の方はいいのかい?』

「……隣?」

『ふむ、あの捕まっている連中ですよ』

見れば、アリサとすずかが捕まりアラレモナイ格好になっている。

「いや、流石にドラム缶ボディーじゃどうしようも……」

『なるほど』

もっとこうね。メリハリをね、つけてくれないと。

人間ってのは曲面にこそ魅力を感じるように出来てるんですよ。

あんな線形近似が楽そうなボデーでは、ちょっと。

ふと、よくよく周りを見渡してみると狙いが見えた。

外道め。

「くっ、何故だ! 何故なんだ、ジュエル! 何故にロリへと走った!!
 すぐ目の前に“Big”があるというのにっ! 大きな夢が2つもタワワに実ってるというのにっ!
 おまえの捕まえてる連中には“ない”んだぞ? 夢とか希望とかが詰まったものが“ない”んだぞ?
 今ならまだ間に合う! 正気に戻れ!! 戻るんだ、ジュエーーールッッッッ!!!」

俺の魂よ届け。

願いを叶える宝石へと叫んだ。





いつだって人の想いは届かない。

呆然と膝を着き目の前の光景を見詰める。

ギリッと奥歯をかみ締めた後、一度目をギュッと瞑り――そのまま立ち上がった。

『よろしいので?』

「……あぁ、野郎の夢は野郎が壊す」

暗黒面に堕ちてしまったジュエルシードを開放する。

最早、戻れまい。誰かが下さねば、誰かが止めねば永遠に間違いを犯し続ける。

だから、この手でジュエルを殺す。

「馬鹿野郎が……」

なのはを捕まえて今にも装備品をひっぺはがそうとしている愚か者へと急ぐ。










――「にゃっ、だ、だめ、だめだってば」

執拗に水着を外そうとしてくる水で出来た触手を懸命に払う。

どうしよう、さっきからそればかりが頭の中を駆け巡っていた。

ユーノが来ると言ったきり連絡が取れない事がさらに拍車を掛けている。

もしかして、ユーノくんの身に何かあったのだろうか?

だとしたら、ここのジュエルシードはどうすれば?

次から次へと出てくる疑問符に、考えがまるで纏まらない。

「えっ――」

――瞬間、辺りを魔力が覆う気配と共にひと気が無くなった。

「これって、ユーノ君――」

「――あぶねぇぞっと」

「ふぇっ? にゃっ!?」

ようやく来てくれたと思ったと同時、拘束していた水の触手が断ち切られる。

「よっと」

「ひゃっ、んっ、あ、ありっ――!?」

拘束から落ちる先、受け止められ助けられたと救い主の顔を見たら驚いた。

な、なんでこの子が?

「変態さ……ん?」

「そうです、私が変態さんです。って、うぉい。助けた相手に何てことを!」

「えっと、ご、ごめんなさい」

だけどと思う。

この人は、お兄ちゃんやアリサちゃんの言うところの変態さんだ。

詳しい話は聞いてないけど色々とあったらしい。

「……人がどう思うかではなく、自分がどう思うかだと思うぞ?」

「あっ、はい……あの、ごめんなさい」

確かにその通りだと思う。わたしだって勝手に決め付けられるのは嫌だ。

反省しなきゃ。

「まぁ、変態かどうかと問われれば、そうなんだけども」

「へっ?」

「人間ってのは多かれ少なかれ変態なんですよ。人はこれを人間総変態説という」

……そんなのあるの?

じゃあ、わたしも変態さんってこと?

「――学説が、古代ギリシャで生まれたとか生まれなかったとか」

「へっ? ……えっと、結局どっちなんだろ?」

「あなたも変態、私も変態。差別無き世を作るのに、これほど適した思想があろうか? いや、ない!
 だからこそ古代エジプトのクフ王もピラミッドに刻んだとか刻んでないとか」

「だからどっちなのーー!?」

「思うにメソポタミアというのもいい加減だよな。ギリシャ語で複数の河の間って意味だぞ?
 そんな言い難いのに唯の中洲かよ、お前ってな話だよ。中州文明でいいじゃんもう」

「お話しが変わっちゃった!?」

「……反応があるっていいねっ! よし、良い子、良い子してあげよう」

抱きかかえられてたのを降ろされ、何故か頭を撫でられてしまった。

こうしてみると少なくても悪い人には見えない。

それに、助けてくれた。

わたしを倒すとか言ったらしいんだけど本当なんだろうか。

「あの――」

『――盟主、よろしいか?』

いきなり声がしたのでちょっとびっくり。

やっぱり、レイジングハートと同じで喋れるんだ。

「んー?」

『いえ、この娘おもしろいですね。捕らわれる前と捕らわれた後では魔力量が1.3倍近く違う。
 後20回程放り込んでやれば立派な化け物に仕上がるかと』

「……マジ?」

そう言ってわたしの方をじっと見てくる。

なんだろ。って化け物って、もしかしてわたしのこと!?

そんな――

「っ――!?」

後ずさりしようとしたところをガシッと肩が捕まれた。

「な、なに?」

「……実は尻尾が生えてたりしませんか?」

「えっ? ……生えてないよ?」

「満月を見ても平気ですか?」

「平気だよ?」

「お知り合いにサイヤな方がいませんか?」

「さいや?」

よくわからない。

化け物かどうかの確認なんだろうか。

わたしは尻尾は生えてないし、満月を見ても平気だし、さいやとかいう知り合いもいない。

うんっ、たぶん大丈夫。

『実証に勝る理論無し――そう思わないかい、盟主?』

「……」

なんでそこで無言に。

もしかして、これって大変拙い状況なのでは?

「えっと、あっ、とりあえずジュエルシードを封印しなきゃ」

「……」

猶も無言でじっと見つめてくる。

うぅ~、すごい気まずい。

『盟主、迷いはチャンスを殺すよ?』

そして、これってもしかしなくても、わたしに味方がいなかったり……

大丈夫っ!

弱気になりそうなので心の中でグッと拳を握る。

きっと、この人は悪い人ではないもん。

「そうだな。じゃあ、やるか」

「えーーー!?」

――叫ぶと同時、桜色がなのはを包んだ













――まさか、変身シーンを間近で見るとは。

この眼帯は光であれば魔力光だろうがなんだろうが波長を調整して実態を映す。

つまりは、なんというか、その……

大丈夫っ! 小児科医になったと思えばこの程度なんともない。

眼帯に示されるスペック値がリアルを訴えているが気にしない。

マイマインドには何の支障もない。

平面に価値などない、平面に価値など無い、平面に価値など無い、平面に価値など無い――

「曲面さいこぅーーー!!」

無事、乗り切った。

危ない、危ない。後少しで暗黒面に一歩踏み入れるところだった。

流石は白いだけはあるな。この俺が押されるとは。

「……なかなかやるじゃないか」

なのはを見つつ言う。ちなみに未だに肩を掴んでたりする。お陰で――

「えっと、あのー、とりあえずジュエルシードをどうにかしませんか?」

といってもなのはを助ける際にバインドで動けなくしているため、後は封印するだけだ。

この様子だと恐らく、なのはは気づいてない。

「まぁいっか。ありゃ俺の獲物だ。手出し無用」

「えっ?」

「ユートピアを目指して旅をしたら辿り着いた先はディストピアだった。
 そんなカタストロフなのだよ、これは。悲劇は終わらせねばなるまい、誰かが止めねばなるまい?
 だから、一時でも同じ夢を見た者として俺が幕を下ろす。彼の罪を知る俺が断罪する」

「あのー、よくわからないのですが……」

「ジュエルよ。もう少しで俺達は分かり合えた。あと少しで壁を越えられた。
 だが、終わりだ。お終いだジュエル。なぁ俺達はどこで擦れ違ってしまったんだろうな?
 どこで間違ってしまったんだろうな? ――いや、止めよう、今更だ。
 あぁ、これだけは言わせてくれ。おまえって奴は最高だったんだぜ?」

「あはは……――はぁ」

『盟主、いいので?』

「んっ? あぁ最強計画は後回しだな。コツコツといきましょう! ねっ?」

「えっ? あっ、ようやく通じた。――はい、それが良いと思います。絶対それでお願いします!」

「お、おぅ」

グッと拳を胸の前で握って、全身を使っての肯定だ。

んな、必死にならんでもいいだろうに。そんなに嫌か、最強が。

『Fried』

「おぅ? おお、久々だね。元気してるかい?」

レイジングハートと話すのは一年ぶりか。

ユーノが止めたので改造はさせて貰えなかったが、弄らせてはくれたため俺のデバイス作りに大いに貢献してくれた良き理解者だ。

「えっ、レイジングハートの事知ってるの?」

「おーともさ。君より付き合いは長い。ちなみに使用者登録もされてるぞ」

「そうなの?」

『Yes,master』

「じゃあ、ユーノくんの事も?」

「知ってるね。ちなみに奴は人間だよ、フェレットじゃないよっ」

騙されちゃいけないと声を張る。

淫獣にご注意をだ。

「えっ? ……本当?」

「本当です。なんなら本人に聞いてみるといい」

「あっ、そういえばユーノ君は――」

「――ちなみに、やっこさんなら向こうで寝てるよ」

だから後で回収してくれと続けた。


「――そっか、もしかしてユーノくんの会わせたくない、お知り合いさんって……」

さて、そろそろだ。暗黒面に堕ちた不届き者を成敗せねば。

『Fried』

「?」

なんだろうか。




――「えーー」

不満を顕わに、なのはの方を見る。

「???」

首を傾げて何もわかってない感じのなのはから少し目を逸らし、そりゃねーよレイハさんと思いつつも考える。

ジュエルシードが8個取り除かれているわけだから――

「えっと、今ジュエルシードは何個持ってる?」

「1個だよ?」

「……マジか。それって動物病院の近くで?」

「うん、そうだね」

「じゃあ、じゃあ、この戦闘って2回目だったり?」

「うん」

思わずガクッとなる。

そりゃそうだ。そうなる可能性は大いにあった。

確かにこのままでは……

「……えーっと、何か駄目なのかな?」

やるしかあるまい。

いや、やらねばならない。かき乱して失敗しかけているんだ、これは責務と言えよう。

気持ちを殺す。ジュエルとの因縁はなのはを介して果たせばいい。

「OK,Raising Heart」

『Thank you』

レイジングハートのお願い、なのはに戦わせて欲しい、なのはに魔法を教えて欲しいを只今より遂行する。

ついでに、ユーノのお願い、なのはを任せるも併せようか。

「ヘイ、まずは自己紹介から始めようか」

「あっ、はい! わたし高町なのはって言います。ユーノくんのお知り合いさんなんですよね? じゃあ、なのはって呼んで下さい」

「OKなのは。では、こほんっ、あー、あー、うむ。
 ――おはようからおやすみまで、くらしに夢をひろげるミッドの悪夢こと僕、フリード・エリシオンです!
 ちなみにフリードってまともに呼んでくれる人の方が少ないです。」

よろしくねっ、と続けると何とも言えない表情でなのはが見ていた。

「……えっと、フリードくんでいいんだよね?」

「別にマイダーリンとかでもいいよ?」

「あはは……」

「……なぁ、ミッドの皆、元気かい? ここでは乾いた笑いしか起こらないよ。もう駄目なのかな?」

遠く中空を見つめ、暖かったFC社の面々を思い出す。

思えば遠くに着たもんだ。国に帰ろうか。

「えっ、あー、えっと、うーん、……マイダーリン?」

「それではやろうか。マイハニー!」

「ふぇっ?」

なのはの反応を確認しないまま、後ろから抱きすくめた。

そのままレイジングハートを掴むと、ちょうど二人羽織ような形になる。

「にゃっ!?」

『“んじゃ、ちょっくらお留守番よろしく”』

『“ふふ、こうなったか。相変わらず読めない、では、盟主よ深淵にて待ってるよ”』

俺持参のデバイス――Erを待機モードに落とす。

「えっ、えーっと」

「バインドブレイク」

ジュエルシードの拘束が解けた。

さぁ、フリード劇場を始めようか。

「これって――」

「――本日ご紹介する商品はこれ、魔法の本場ミッドの教習体験コースです」

「えっ?」

「ではVTRをどうぞ。――トニー敵がわんさかいるけど、どうするんだい?」

「HAHAHA、サニーそういう時こそ魔法なのさ。魔法の力でしつこいジュエルシードも一撃さ!」

「えっ、えっ?」

触手がこちらを狙ってるのが見える。

狙いはもちろんなのはか。

「本当かい?」

「本当さ!ほら、こうやって向かって来た攻撃に心で防御を選択してデバイスに伝えるのさ」

『protection』

「にゃっ!?」

水の触手がなのはに触れる寸前で、全てバリアに阻まれた。

「HAHAHA、簡単だろ?」

「こりゃいい! でも、攻撃はどうするんだい?」

「そりゃ色々あるさ。だけど、ここは――攻撃する前の事前段階から教えておこう」

「おいおい、事前段階とかあるのかい?」

「焦りは禁物だサニー。何事も準備は必要なのさ。混み具合を確認せずキャンプに行って空いてなかったら困るだろ?」

「確かにそりゃ困る!」

「そう、そんなことにならないために場所を取るのさ。戦闘でもそれはかわらない。まずは、有利な場所取りから始まるんだ」

バリアを張った直後からなのはは無言だ。やってることを理解したか。

それとも、ついていけないだけだろうか。

どちらにせよ、やった以上はやり切るだけだ。

何事も通してやることが大切なのである。

『Flier Fin』

「えっ、にゃ、とっ飛んでる!?」

「――飛んでる事を意識せず俺に身体を預けて。そして、魔力の流れを感じるんだ」

「あっ、う、うん!」

「どうだいサニー気持ちいいだろう?」

「やられたよ、トニー。このまま、ひとっとびしてハンバーガーでも買いに行きたい気分だよ」

「HAHAHA、おっとそんなこと言ってる間にまた攻撃だ」

「おっ、またバリアかい?」

「バリアもいいが、ちょっとここからは上級テクニックさ。――気になるライバルには秘密だぞ?」

「そりゃいい!こりゃシンディの奴を追い抜くチャンスだ!」

目前に迫る触手群を前にギリギリで――

『Flash Move』

――避ける。

「うわぁ、すごい!」

なのはが歓声をあげる。辿り着いた先は、触手の無い空間。

つまりはジュエルの背後にあたるはずだ。

「ほら、こうしてやると無防備だろ? こうなりゃ、なでてくれと言って腹を見せる子犬と同じだ」

「HAHAHA、なるほど。思う存分なでられる訳か」

「ひたすら自分にとって有利な位置取り、これが戦闘の基本だ。
 接近戦が有利ならひたすら近づく、遠距離戦ならひたすら間合いを取る。これが大事なんだ」

「……えっと、わたしは――」

「――なのはは遠距離戦だ。それもかなり優秀な」

「そうなの?」

「そうなの」

色々言いたいことあるんだろう、目がキラキラしている。

どうでもいいがこの状態で顔を向けられると距離にして20cm無い。

いや、ホントどうでもいいんだけどさ。

「これって後で質問コーナーとかあるのかな?」

「ちゃんと着いて来れたら考えるよ」

「そっか、うん、がんばる!」

デバイスを握る手に力が篭るのが見えた。

「――よくよく考えたら、トニーやっぱり自分に有利な位置ってのは難しくないかい? シンディは許しちゃくれそうにないよ」

「そりゃ難しいさ。間合いの読み合いってよく言うだろ?当然相手も自分に有利な位置取りをしようとするんだ。
 だからこそ、戦略が必要になるのさ。さっき見せた、攻撃を引き付けて背後に移動ってのもそれにあたるんだ。
 いかに自分の有利な戦局を作るか、これは答えが無いから自分で作るしかないのさサニー」

「おいおい、ここまで来てそりゃないよトニー。本当はあるんだろ?」

「HAHAHA、まったくサニーにゃ敵わないな。いいだろう、サニーは遠距離型だからそれをちょっとだけ教えるよ」

「さすがはトニーだ」

「当然、教習コースには近距離型もあるから安心してくれ。間違えて買ってしまわないように確認だけはしてくれよ?」

「トニー、別の距離型の才能が開花したりするかもしれないぞ?」

「HAHAHA、かもな。じゃあ、とりあえず遠距離型を見て決めてくれ」

「OKトニー」


『Divine Shoote』

4つの発射台がそれぞれ銀色の魔法弾を触手めがけて撃つ。撃ち続ける。

「トニー、これはどういう意味があるんだい?」

「相手へのけん制。そして攻撃、両方を兼ね備えているのさ。
 発射台――スフィアを制御して相手を自分の有利な位置に押し込めるんだ」

「おいおい、すごいじゃないか。早く教えてくれよ!」

「HAHAHA、でも、これは制御しきるのにはある程度、修練が必要なんだよ。つまりは、練習あるのみなのさ」

「そりゃ困るよ。それじゃあシンディに勝てないじゃないか!」

「大丈夫!大まかな制御なら出来るよ。慣れないうちは精密さより手数で勝負でいいのさ。
 でも、コントロールは大切だから練習しなきゃ駄目だぞ?」

駄目だ。息が上がりそうだ。

コレだけしか動いてないのに、なんというかお家帰りたい。

「HAHAHA、わかったよトニー。でも、こんなチマチマした攻撃じゃ時間がかかってしょうがないな。他にはないのかい?」

「おいおい、急ぐなよサニー。――まったく敵わないな。じゃあ、このコースもそろそろ終わりだ」

「OKトニー、ラストは派手に言ってくれよ?」

「HAHAHA、もちろんさサニー、さて、まずは準備だ」

『Restrict Lock』

バインドでジュエルシードを固定する。

「大きな攻撃魔法でチャージが必要ならこうやって逃げないようにしてやる必要があるんだ。
 ちなみに、バインドってのは他の攻撃と絡めても有効なので習得必須だぞ、サニー?」

「HAHAHA、わかったよトニー。これさえあればデビルフィッシュですら動きが取れなさそうだ」

『sealing mode.set up.
stand by ready』

「あぁ、もちろん、だ」

ちょいと病み上がりにはキツイ。

魔力ごと意識が持っていかれそうだ。

「――フリードくん?大丈夫?」

「……僕やればできる子ですから!」

周囲の魔力が収束し始めている。

根こそぎ収束する。制御においては神童と呼ばれた男。

魅せようではないか。

「うらぁ!!」

レイジングハートの切っ先に直径5m台の魔力の塊が組みあがる。

上出来すぎる。カートリッジ無しでここまで出来るとは思わなかった。やはりなのはの存在が大きいか。

本人は恐らく気づいていないだろうが、かなりの魔力を提供してくれた。

お陰で魔力弾の色が判別できない程、白くなっている。

「レイジングハート!」

『All right,Starlight Breaker』

拘束されたジュエルシードが魔力弾に押しつぶされ、強制封印されたのが見えた。





「――では、次の商品です」

疲れた。もう2度とやらね。絶対やらね。

なんで俺は普通に教えると言う選択をしなかったのか。

教師なんて絶対むかんな。

「――フリード君ありがとう。それで、あのね、あのね――」

なのはが目をキラキラさせたまま聞いてくる。

子犬か。先生は家に帰って寝たいです。

「――続きはユーノくんじゃ駄目ですか?」

「えっ、あっ……質問……コーナー……」

そんな全身でガッカリを表さないでくれ。

髪の毛までぐったりしてのはどういう仕掛けだ?

というか、さっきからデバイスを掴んでる俺の手に、なのはが手を重ねているため、二人羽織の体勢から抜け出せないのは、いったいなんの罠なんだろうか。

故意かこれは故意なのか?

教えくれなきゃスターライトブレイカーの試し撃ちするぞ、ごるぁってな感じか。

なんて恐ろしい。

「……あのね、駄目……かな?」

寂しげな表情の上に半泣きで上目遣いね。

だが甘い! そんなもの全て計算だと思えば――

何かに怯えるようにギュッと重ねられていた手が握られた。

け、計算だと思えば――

握られてる手にさらに力が篭る。

「……はぁ、降参、降参。マイリマシタ」

「えっ、じゃあ、教えて……くれるの?」

「教える、教える。ったく、んな高等テクニックどこで身につけたんだか」

「こうとうてくにっく?」

天然ですか、そうですか。ユーノの先が思いやられる。

「それで、えーっと、質問なんだけど――」

「――ちょい待ち。大事な事忘れてた」

当たり前すぎて忘れていた。

俺にとっちゃどうでもいい授業だったが、なのはには恐らく大切だ。

「?」

「魔導師倫理――魔法を使う上での大切な事なんだとさ。レイジングハート、殺傷設定頼めるか?」

『All right』

「殺傷設定?」

「魔法ってのはだな、救いだけ与えるものじゃない、レイジングハート」

『stand by ready』

プールに向かって、周りを4つの環状魔法陣が取り巻くレイジングハートの切っ先を向ける。

「よう見とけ。自分の使う力が悪用されたらどうなるか」

『Divine Buster』

――瞬間、銀の線がプールに向かって一直線に伸び、その中に貯まる水ごと吹っ飛ばした。

「っ――!?」

辺り一面水蒸気に包まれている。

いいね。火照った体にゃ、ちょうどいい塩梅だ。

「魔法を使うなら、これが向けられる覚悟もしなきゃいけない。撃つなら撃たれる覚悟を、だ。
 そして、何かを守るために力を行使するなら、撃たれるリスクはより高まる。
 考えてみてみな。これが人の入った状態でやられたらどうなるか」

「……」

「これ以上教えて欲しいと願うなら――そう、自分の力は容易に人を殺す事ができる、それがわかった上でだ」

だから魔法を使う際はうんぬんは、管理局出身である魔導師倫理教師の口癖だった。

それは言わない。自分で答えは出るだろう。

「レイジングハート、殺傷設定を使ったログの削除お願いできるか?」

『All right』

「ありがとう。んじゃ、なのは。答えが出たらユーノに言いな。俺の居場所はユーノが知ってるから。
 あっ後、殺傷設定を使った事は誰にも言わないでくれるとありがたい」

「あっ、うん……わかったよ」

笑顔を作ろうとしているが上手くいってない。

「それじゃあ、プール、楽しんでくれ」

そのまま踵を返す。

「あっ……」

背後で狼狽する気配がした。

まぁ、存分に悩め若人よ。

とりあえず、先生は寝ます。






――「……あのね、ごめんなさいフリード君、ちょっといいかな」

「なっ――!?」

驚いたあまり、ズドッとベッドから滑り落ちてしまった。

「あっ、ごめんなさい。えっと、大丈夫?」

「大丈夫じゃねーです。あのな今何時よ?」

「あはは……えっと2時です」

「そう真夜中のな。それでこんなステキな時間に何用でございましょうか?」

「あのね、答えが出たから聞いて欲しくて」

だろうな。喋りたくてしょうがないって顔をしている。

元気だな。先生は昼間と変わらず眠たいです。

「……ユーノは?」

「寝ちゃってるよ?」

「どうやってここに?」

「寝る前に居場所は聞いていたから」

「いやいや、そうじゃなくて玄関は鍵しまってるし、ここオートロックだぞ?」

「えっと、そのー、あっちから……」

なのはが指し示した方向を見れば窓が開いていた。

あはは、と笑って誤魔化してるなのはをじっと見る。

「えっと、ごめんなさい」

「素直でよろしい。んで、答えってのは夜這いかい、マイハニー?」

「ち、違うよ!」

顔を真っ赤にして腕をぱたぱたさせて否定する。

その歳で夜這いを知ってるのか。

ネット社会の弊害がこんなところにも!

至急対策がどうとかこうとか――

「あー駄目だ眠い。なのは隊長、テンションが上がりません」

「えー、待って、お話しだけだから」

「膝枕でもするんだったら聞くよ~」

そう欠伸混じりに言った。言ってしまった。




自分の言動にゃ責任を持てと、ユーノに口すっぱく言われたことを思い出す。

現在、頭はなのはの太ももの上。つまりは、The膝枕の状態である。

……なんだこれ。どうしてこうなった。

唯の膝枕であれば寝てしまえば、後は野となれ山となれだ。

しかし、目を瞑ったら寝ちゃうからという理由で、強制的に目を開けさせられてる。

目を瞑ったら、駄目だよってな声が掛かるのだ。

お陰で見詰め合いながら話すという羞恥プレイ。

そして、すぐに終わるかと思ったお話は全然終わらなかった。

色々と聞かれて色々と話すうちにチュンチュンタイムに突入している。

そう、朝方になると聞こえてくるあれだ。

「……なのは隊長、外を見るであります」

「うわぁ、朝日だね。それでね、すずかちゃんがね――」

なんて楽しそうに話すんだろうか、この夜更かしさんは。

あれかナチュラルハイか。俺もなるかナチュラルハイ。

あれ、なんでだろ朝日がやけに眩しいや。

そう思い、窓に視線を向けると――

「なっ何してんの?」

ユーノの姿がそこにはあった。



あははははは、もう、どうにでもなーれ。





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