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No.11220の一覧
[0] とある幽霊の場合  (オリ主×再構成)[リットン](2010/03/26 21:58)
[1] 一話[リットン](2010/09/24 19:15)
[2] 二話[リットン](2011/05/01 19:10)
[3] 三話[リットン](2010/04/29 19:15)
[4] 四話[リットン](2010/04/03 00:42)
[5] 五話[リットン](2010/04/03 00:43)
[6] 六話[リットン](2010/04/03 00:43)
[7] 七話[リットン](2010/04/29 19:16)
[8] 八話[リットン](2010/04/03 00:55)
[9] 九話[リットン](2010/04/29 19:15)
[10] 十話[リットン](2010/05/03 09:54)
[11] 十一話[リットン](2010/09/24 19:14)
[12] 十二話[リットン](2010/04/29 19:13)
[13] 十三話[リットン](2010/04/29 19:13)
[14] 十四話[リットン](2010/04/29 19:12)
[15] 十五話 [リットン](2010/04/29 19:12)
[16] 十六話[リットン](2010/04/29 19:11)
[17] 十七話 A'sへ[リットン](2010/01/28 19:02)
[18] 十八話[リットン](2010/01/31 16:56)
[19] 十九話[リットン](2010/04/29 19:10)
[20] 二十話[リットン](2010/04/29 19:09)
[21] 二十一話[リットン](2012/03/20 03:00)
[24] 二十二話[リットン](2012/03/20 02:57)
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[11220] 七話
Name: リットン◆c36893c9 ID:2c4b1fa8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/29 19:16
 今やバリアジャケットは存在せず、体のあちらこちらから出血している。頼みの綱のデバイスは折られ、反攻の余地さえ無い。
 フリードにとって“絶望”人生においてそれを感じたのは、それこそ中学生の頃。未だ死という物をまじめに考えていたそのときだけだ。
 そのためなのかショックは大きい。諦めないといいたいが何も出てこない。そう、これは発作に似ているとフリードは思う。
 抗えない病魔の力。絶対たる力によって蹂躙される今の状況は、まったくもってそれに近似していた。


「ったく、化け物が……」


 目前にいる己を完膚無きまでに叩きのめした化け物。プレシアを見てフリードは呟く。
 Sランクオーバークラスの魔導師。その力は絶大だった。
 フェイトを軽く倒してしまったことで、フリード自身どこか嘗めて掛かっていた事は否めない。
 だが、これは気持ちの持ちようだとか言うレベルを遥かに超えた次元の話だ。
 “全てが通用しない”のだ。準備は完璧だった。そう自負するだけの装備をフリードは持っていた。
 それら全て純然たる力に蹴散らされたのである。フェイトに通用したものがまったく通用しない。今までの戦略が全て泡沫に帰していた。
 攻撃を仕掛ければ圧倒的な魔力によるバリアに阻まれ。防御をすれば、次元を跳躍した攻撃にバリアが全く役に立たず、そのまま直撃する。
 デバイスを用いたこちらの切り札も、全てやる前に異常を察知したプレシアによって壊された。
 魔力量が違う、魔法の質が違う、戦闘のキャリアが違う、どうしようもない三重苦にフリードは為す術が無かった。

 何か光明をとフリードは思うもののプレシアの目を見れば、それが望めない事がわかる。
 観察されているのだ。プレシアの目は、後どれくらいで死ぬだろうか、そういう実験用マウスを見るような目だった。
 油断しているなら、まだ何かできる。驕っているならその隙をつける。だが、それが無い。
 理知的に。あるいは、計算尽くにフリードを追い込んでいく。
 遊びは無い。プレシアは、ただ淡々と実験用マウスの死を逆算し、それを実行していく。
 ……発狂してなきゃ、これ程までかよ。
 心中で賞賛ともつかない、絶望をフリードは吐露した。


「これで終わりね。死になさい」


 膠も無い。プレシアの周りに紫の魔力光が燈る。
 脳裏の一部に蔓延った、病苦により死を見つめ続けたために培った冷徹な理性が、フリードに終わりを告げる。
 死が近い。
 死神の鎌が首筋に当てられているのがわかる。
 ……これで終わりか。また幽霊か。いや、今度こそ終わりかもな。
 死へ誘う紫の光を見つつフリードは思う。


 脳裏に走馬灯が過ぎる。
 残した社員の事。
 必ず会おうといったユーノの事。
 再戦を誓った少女の事。

 フリードにとって、それら全てどうしようもなく愛しかった。
 この世界に来たのは、まだ短いがそれなりに楽しめたと総決算する。
 最期である。何もしないで終わるなんて“らしく”ない。
 最早、喋る事すらできないデバイスを硬く握り締めフリードは最後まで“らしく”生きることを選択した。


「はん、化けて出てやるよ!
 やればできる子代表、フリード・エリシオン! なめんなよっ!!」


 銀の光がフリードを包む。
 まともな攻撃なんかできやしない。防御なんて元からするつもりもない。
 やるは特攻。何から何まで敵わないなら命を削るまでだ。
 生死全てを省みず、全魔力による一撃を叩き込む。
 決意の内容にフリードの顔が楽しげに歪む。
 ……漢だったら一つに賭けるってか
 どこかで聞いたようなフレーズを胸にプレシアへとフリードはカミカゼを謀る。


「そう」

「なっ――!?」


 紫光がフリードを貫いた。
 受けた威力をそのままに、蹴飛ばされた空き缶のようにゴロゴロと部屋の隅までフリードは転がる、
 一歩も踏み出せず、一太刀も浴びせられず幼きカミカゼは熟練の雷光の前に散った。
 プレシアの表情は依然変わらない。淡々と目の前の死を見つめる。
 出すタイミングが少しばかり早かったせいか、即死にまでは至っていない。
 消滅しかけの銀光を纏ったフリードを見て、面倒な事だとプレシアは思う。
 死にかけだ。最早、次元跳躍させる必要すらない。
 手を掲げ射撃魔法をプレシアは形成する。
 そのまま何も語らず腕を振り射撃魔法による射殺をフリードへと決行した。



――死を乗せた紫の矢がフリードへ届く寸前、金色がそれを遮った。











――「それは何のマネだい? フェイト?」

気が付いたら、目の前には居るはずの無い黒衣の少女がいた。

「え、えっと」

自分で起こした行動にも拘らず、狼狽しているのが後ろからでも見て取れる。

「何のマネかと聞いているんだよ! まさか……お母さんの邪魔はしないわよね?」

「あっ、うっ……」

震えている。それでも俺の前からどかない。

……これは、全て俺が引き起こしているのか?

有ってはならない事だ。そんなの絶対に有ってはならない事だ。

明滅しかける意識をクリアにする。

「そこをどきなさい!!」

「っ――」

プレシアの怒声が響く。それでも退かない。小さな体いっぱいで俺を隠す。

その姿に心が鳴動する。動けないはずの身体に力が湧く。

――ここで立ちあがらにゃ漢じゃねぇ。

歯を食いしばる。

ダルイ。動けない。体がそう言っているのが聞こえる。

全て無視する。そんなもの後でいくらでも聞いてやる。

どんなに頑張っても生まれなかったプレシアの隙が今はある。

今、動かなくて何時動く。

母親が全ての娘が、その母親に逆らってまで生み出した隙だ。

必ず活かす。

――散ってしまった魔力を再度集め構成する。

「……そうかい、お仕置きが必要だね~、フェイト?」

「っ――!?」

プレシアが脅しを掛けながら近づいてくる。

それに対し只管、首を振る仕草を見せ尚も俺の前から退かぬフェイト。

その健気な少女を後ろから抱きすくめた。

「なっ――!?」

「えっ――!?」

「では、ごきげんよう!また会いましょう!」


――瞬間、二人を銀が包みそのまま掻き消えた。







どうしたものか。

さっきから泣きじゃくっているフェイトを見て思う。

生まれて初めてプレシアに反抗したのだろう。

もう捨てられるだの何だの喚いている。

とてもとても傷に響くので、いい加減縋り付くのだけは止めて欲しい。

現在場所はマイルーム。長距離転送の後、フェイトを半ば引き摺るようにして連れて来た。

落ち着いてから話そうと思ったがこれでは無理か。

待ってる間に俺が死にそうだ。

「あ~、落ち着けとは言わないから良く聞いてな? いいね?」

「――どうしよう、どうしよう。私捨てられちゃう、捨てられちゃうよ――」

まったく聞いていない。

「あ~、もうだから、その捨てられない方法を今から教えるってば!!」

ピタリと嗚咽が止んだ。

なかなかに現金だと思ったのは秘密にしておこう。

「……本当?」

うむ、上目遣いが可愛らしい。

体がまともな状態なら時間を掛けて堪能したい、そう思わせる程だ。

「あぁ本当だ。だからちょっとそこに座りなさい」

「えっ、あっうん……」

俺から離れてちょこんと指定された場所に座る。

「んで、その方法はな、これだ!」

そう言って取り出したのは8個のジュエルシード。

「えっと、これって……」

「もってけ。そんでもって俺から奪った事にするんだ。
 いいか、庇ったのは俺から隠し場所を聞くために仕方なくやったんだ。
 別に母親を裏切った訳じゃない、わかったな?」

正直、これでプレシアの溜飲が下がるとは到底思えない。

でも、やらないよりは確実にましだろう。

使えない子の評価は覆せる可能性があるのだ。

「で、でも――」

「――あ~、もう! でももしかしもあるか! とっとと母親の所に戻れ! 遅くなればなる程、拗れるんだぞ。
 タイムイズマネーだ! 時間はお金で買えないんですよ!」

戻れコールを三唱する。

正直、限界なのだ。そろそろ倒れる。

「……」

無言でジュエルシードをフェイトは見つめる。その瞳には葛藤が見て取れる。

良い子じゃ、ホント憎たらしいくらい良い子だな。

手負いじゃなければ、さぞ良い光景に見えたことだろう。

「……負い目なんか感じなくて良いんだぞ? 俺の命を救ったんだ。それも母親に逆らってまでな。
 正直、ジュエルシード8個なんて安いぐらいだ」

正直な気持ちである。

ユーノには大変申し訳ないが、俺にとってのジュエルシードはその程度の価値でしかない。

「でも、バルディッシュを――」

「――バルディッシュは俺が勝手にやったことだ。それとも何か? 俺とバルディッシュの誓いを馬鹿にするか?」

話してる部分部分で意識が明滅する。自分で何を言ってるのか殆どわからなくなってきている。

血がどんどん抜けているのだ。部屋が暗くて助かった。でなければフェイトがパニックになっているだろう。

「……そんなことないよ。――うん、わかった」

迷いはなくなったか。

どうやらフェイトは了承したようだ。

「あぁ、これで貸し借りなしだ。次、会うときゃ敵同士だな」

「……うん」

最早、焦点がボケているためフェイトがどんな顔をしているのかわからない。

俺に煽られ、やる気に満ち溢れていると信じる。

「さぁ、いったいった!」






半ば無理やりフェイトを追い出した後、酩酊したようにふらふらする身体をなんとかベッドまで運ぶ。

これはやばい。なんとか医療機器を接続したのは良いもののどうやら持ちそうも無い。

仕方ない。奥の手だ。迷惑掛けるぜ?親友――









――「!?」

「どうしたのユーノ君?」

「なのはごめん! ちょっと出かけてくる!」

「えっ? あっ……行っちゃった」

少女の膝元に居た小動物が、飛び降り脇目も振らず駆ける。

後には、首を傾げた少女が残るだけだった。











――起きたらそこには見慣れた顔があった。

どうやら生きているようだ。

「よぉ」

「よぉ、じゃないよ!」

「あっ、そんな怒鳴らないで。頭にめっちゃ響く」

不機嫌を絵に表したような表情でこちらを見つめる親友に不満を訴える。

ホント勘弁してつかぁさい。

「えっ、あっごめん。て、自業自得だよ、そんなの!」

「いや、そこは優しくすべきだろ~。逆に」

「なんだよ逆にって。はぁ、だいたい君は優しくしたら調子に乗るじゃないか」

「いやな、おまえそれが――」

ふと、違和感に気づく。急いで右目に手を当てる。

無い。やはり無い。マイ変身アイテム独眼竜眼帯が無い。

「あぁ、なんたる――」

「どうしたの? やっぱり、どこか具合が悪い?」

心配そうな顔をユーノが向けてきた。

が、そんな事どうでもいい。

「具合なんて悪くねーよ! というか、それどころじゃなーい!」

「えっ」

「……お願いこんな私を見ないで!」

必死に懇願した。

もう、土下座する勢いだ。

なんてことだろうか。こんなことがあっていいのか。

神は死んだ。きっと、プレシアに殺された。

「……あぁ、なんかようやくフリードにあってるんだって気になったよ」

血まみれの姿を見たときはホントどうしようかと思ったよとユーノは続ける。

何を暢気に言ってるんだこの野郎は?

これでもう“俺にこれを外させるとは……”とかできないんだぞ?

“目を合わせるなよ、悪夢を見るぜ?”とかできないんだぞ?

いや、ユーノは眼帯の事を知らない。だからこんなに落ち着いていられるのだ。

そうに違いない。流石のユーノ君もこの浪漫まで否定するとは思えない。


「えっと、もしかしてコレの事?」

ユーノの後ろ。思わぬ所から声が掛かる。

「!?」

……何故に彼女がここにいますか。

そう訝しがっていると、彼女、フェイトがユーノの隣に並んだ。

フェイトの持っているものを見て思考が止まる。

神は死んでいなかった。

というか、ここに居た。

「1万と2000年前から愛してる」

思わず抱きしめる。

「えっ――!?」

「ふぇっ――!?」

「なっ――!!」

部屋に感嘆詞が溢れる。

そんなことはどうでもいいと素早くフェイトを離し、眼帯を取った。

これで、これで完全体になれるぞー!!

フリード完全体。

またの名を独眼竜形態。

サイヤ星の王子様だろうが戦国の英傑だろうが掛かってくるが良い。

まとめて屠ってくれようぞ。

そう、眼帯を装備し浸っていると、周りが騒がしい事に気づく。

「――ちょっと! 聞いてるのかい?」

「だから無駄ですって。この状態のフリードに何言ったって無駄です」

見れば不満顔のアルフをユーノが何やら宥めていた。

「まぁまぁ落ち着け皆の衆!」

「あんた(君)が原因なんだよ!」

仲良くはもる。

うむ、仲良き事は美しきかな。

「そうか、俺なら仕方がないな! ところでユーノ、これを見て何か言う事がないかい?」

右目、眼帯を指して言う。

アルフが横から何か言っているが俺には聞こえない。

あーあー聞こえないの精神だ。

「はぁ、ですからアルフさん無駄ですってば。――で、その眼帯がどうしたの?
 目を怪我しているようには見えなかったけど?」

「そりゃ、実際怪我なんかしてないしな」

「……これもしかして右目見えてる?」

「そんなの当たり前だろ。見えなきゃ困るだろうが。高性能眼帯なめんなや?」

胸を張っていう。

かなりの開発費を掛けた自信作だ。

にしても、よく壊れないで居てくれた。

見かけはちょっとぼろくなってしまっているが、それが逆に風情を醸し出している。

こいつを着ければ、それはもう歴戦の勇士といった具合だ。

「……高性能ってことは、それなにか機能があるの?」

「まぁな。色々測ったり、視力や視野の補助とかできる」

「なるほど。すごいね」

「……」

それだけか?

それだけなのか?

なんたる、ナンセンス!

「いや、あのな他にもっと言うべき事があるだろ?」

「えっ?」

心底わからないといった顔をしている。

本気で言っているのだろうかこいつは?

本当にわからないというのか?

仕方が無い特別にヒントをやるしかないだろう。

そう思い、ゆっくりと眼帯を外す。

「目を合わせるなよ、悪夢を見るぜ?」

そして、ユーノの目を覗き込むようにして言ってやった。

「……」

「……」

「……そういえばアルフさん、聞きそびれてたんですが、フリードとはどういう関係なんですか?」

「んっ?あぁ――」

「――ちょっと待てーー!! そりゃ、いくらなんでもないでしょーよ!
 イジメってのは無視から繋がるんだぞ? おまえ、それだけはやっちゃあかん!」

「……さっき、あんたあたしを無視したじゃないか」

アルフさんから厳しいご指摘を頂く。

結構なお手前で。しかし、そんな攻撃では俺は墜とせませんよ?

ならばこちらも攻撃をと、どこか遠く、そう夢の世界から現を見る様に言ってやる。

「……人は耐えなきゃならない事が往々にしてある、そうは思わないかね?」

「だったら耐えな。今がその時だよ」

自分で魔球だと信じていたボールが易々とバックスクリーンに放り込まれるのを感じた。



アルフとユーノが話しているのを尻目にすごすごと部屋の隅に向かっていく。

本日の敗戦投手フリード――

頭の中でナレーターがさっきの事について語っている。

『いや、どうでしょうか悪くない玉でしたよ?』

『玉自体は悪く無いですが、若干コースが甘めでしたかね。その分上手く対応されてしまいました』

……コースってなんだよ?

甘いって何さ。翠屋特性スイーツか?

真剣にコースとは何かを考えていると、どうやら先客がいるらしいことに気づく。

部屋の隅っこに住む妖精さんと呼んであげよう。

「ちょっと、いい」

「っ――!?」

ビクッとなる部屋の隅っこに住む妖精さん

「な、何?」

「コースって何だろうね?」

「……こーす?」

「そう、コース」

「……えっと、ごめんなさい。ちょっとわからない」

「だよね。難しいねコース」

どこか遠くを見ながら妖精さんの横に並ぶようにしてちょこんと座った。

「っ――!?」

またもやビクッとなる妖精さん。

その姿は小動物っぽくて出会った頃のユーノを彷彿とさせる。

つまりは、嗜虐心をそそられ――

いかん、いかん、ぼかぁ紳士です。

キリッと前方を見据えた。

「お嬢さんなかなかに安産型だね」

「えっ?」

何を言っているのか俺は。

というか、何故に安産型?

たまに自分の脳が本気で恐ろしくなる。

変態紳士から、紳士が取れる前に軌道修正せねば――

「と、ところで何でここに?」

「えっ、あっ、うん。――帰ったら服が血でいっぱいなのに気づいて、だから、あの、ごめんなさい!」

何故に謝るのか。

そんなことでは欧米では生きていけないぞ?

「何で謝るのさ」

「だ、だって気が付かなかったから……」

まぁ、気が付かないように部屋の電気を点けなかったりと色々工作したしね。

気づかれたら俺のほうが、どうしていいかわからなくなっていた事だろう。

「いいってそんなの。ユーノ曰く自業自得だそうだからね。それよりジュエルシードは持ってった?」

「あっ、うん……」

「血まみれの格好で?」

「……だって急げって言うから」

「あっいや、そういう事を言いたいんじゃないんだ。うん、なら母親の機嫌はもしかしてよかったりした?」

自分を狙った相手の血を浴び、自分ご所望の物を半分近く持ってきたのだ。

さぞご満悦だった事だろう。

ジュエルシードを持っていっただけでは、溜飲は下がらないと思っていただけにこれは思わぬ誤算だ。

「機嫌は……うん、どうだろ」

あまり、表情が芳しくない。

駄目だったのだろうか?

「どうしたの?」

「……ごめん。なんでも無いよ」

フェイトの目が頼むから聞かないでと言っているが、だが断る。

「でっ、何があったのさ」

「……」

そんな恨みがましい目をされてもな。

そんな顔をされて心配するなという方が無茶だとお兄さんは思うよ?

残念ながら何かに耐える少女を見て愉悦を覚える趣味は持っていない。……たぶん持っていない。

いや、自分を信じよう。そこまで堕ちてないよっ、きっと。

「……本当に何でもないよ」

今度は悲観したような、達観したような、それでいて未だ何かを期待しているような微妙な表情だ。

「……ふむ」

若干の不快が募る。

正直、この年代の子にそんな顔は似合わない。

もっと傲慢に生きろよとは言わない。強く生きろとも言わない。

唯、もう少し自由に生きるべきだと俺は思う。

――ならばと、ちょっとばかり真剣に語ることを決意した。

「……さっきの話に戻るけど、コースとは何かわからない、でいいよね?」

「う、うん」

話しが逸れたからだろうか若干嬉しそうだ。

さて、どこまでいけるか。どこまで伝えられるか。

「さよか。じゃあ難しいながらに俺が出した推論を聞いてくれないか?」

にっこりと微笑んでやる。

少しばかり病魔を楯に自由に生きた傲慢な奴の意見を聞いてくださいと、切に願う。

「……うん、私でよかったら」

「いや、君だから語るんだ」

「えっ、あっ、うん……ありがとう」

体育座りで組んだ足に顔を隠す様にして言う。

照れている。そう、そういう歳相応の行動の方が良い。

見ていてグッジョブ! と、サムズアップしたくなる。

「おう、わかればよろしい。んでコース、英語で言うならc-o-u-r-s-eでcourse。
 つまりは、行路のことだわな」

「……行路?」

「そう、行路。たどるべき道すじだよ。
 ――さて、じゃあフェイト君の行路には何がある?」

「私の行路?」

「そう自分の行く道だ。他の誰でもないフェイトが歩く道だよ」

「自分が歩く道……そんなのわからないよ……」

難しい事を言っている。こんなの死に掛けの老人に聞いても答えを出せている奴はすくないだろう。

自身の人生を決める選択。誰もが通る道である。誰もが通る道でありながら完全解は無い。それ故に難しい。

この少女はどういう結論になるにしろ、あと少しで強制的にその難しい道の選択をしなければならないのだ。

だからこそ問う。どこに居て、どんな道を歩もうとしているのかを。

流されるまま選択するのもいいだろう、それも一つの行路である。

だがしかし、自分で選ばぬ道に何の価値がある?

不幸とか言う概念に流されて、判断を下した挙句にそれを仕方の無い事だと選んだ道を誇れるか?

そんなの自分の人生に負い目を感じるだけだろう。

その先に何があろうが自分で選ぶ。

幸せを与えられるより、幸せを掴む。

その在り方の方が最後は充実感を感じる、少なくとも一度人生をやり終えた俺はそう思う。

もし、人の生き方に介入するなんて傲慢だと言われたらこう返そう。

だって俺、元幽霊だしと。

「なら、自分の立っている場所、わかる?」

「立ってる場所?」

「そう、自分の足で立っている場所だ」

そう言われ気になったのか、フェイトはじっと自分の足を見る。

「何があろうがそこからしか始まらない。どこを目指そうがそこからしか始められない。
 そういう自分の場所、つまりは足元だね」

「……よくわからないよ。フリードはわかるの?」

ようやく、持ってこれた。

さぁ、ここからだ。自身のエピソードで一気に釣り上げる。

自分語りならまかせろ。ネタには困らない。

さて、何から話そうか――






「――というわけですよ」

ここまで聞き入ってくれるとは思わなかった。

おかげで独壇場だ。ジャイアンリサイタルである。

「うん、面白かった。――でも私にはやっぱりわからないよ」

どこか眩しい物を見るような目で返される。

……失敗だったか?

自分語りうぜーで終わっちゃったか?

「私は、フリード程強くないから……」

自嘲気味にフェイトが言う。

そういうことか。

たく、何を言ってやがるのかこの娘は。

「何言ってるんだか。為す術も無くやられて、それでも立ち上がった人の言う言葉じゃないな」

「……戦いとこういうのは違うよ」

「違わないね。だってそれは、急場か長場かの問題だもの。事の本質はそんなものでは違えない。
 大丈夫だよ、君の強さは俺が知っている。君が強いといった俺が保障する!」

「……」

伝わっただろうか?

伝わって欲しい。

願わくば、最終決定は自分の手で行えるような、そんな意思を持たん事を望む。


二人共無言でいると、やけに生暖かい目で見られていることに気づいた。

「……なんだよ」

「いや、別に」

「そうそう」

ユーノがどこか含んだような目をして言い、アルフがそれに同意する。

「はん、惚れるなよ?」

「はいはい」

誰がこんな余裕のあるユーノ君にしてしまったのか。

昔のユーノ君よ怖がらずに表層意識に出ておいで。

内心で呼びかける。

と、トラウマが蘇った。

「……すみません、すみません、すみません、もう心の中で呼びかけたりしないので許してください――」

「……どうしたんだい、これ?」

「あぁたまに為るんですよ。フェイトさんだっけ? ちょっと、ごめんね。っと、えい!」

「はっ!?」

ここは誰? 私はどこ?

見渡せば心配げな顔をしたフェイトと、呆れた顔をしたアルフと、得意げな顔をしたユーノがいた。

「まぁ、こういう時はこういう具合に頭を斜め45°から叩いてやると治ります」

得意満面で俺の取り扱い説明書を話すユーノ。

ありがとうと言いたいが、てめぇはゆるさねぇ。

「うるぁ!!」

傍にあったユーノ足を掴んで倒す

「うわぁ! ――ってて、何するんだよ!」

「叩きじゃなくて殴りだったろうが! めちゃくちゃ痛かったわ!」

どうよこれ、たぶんちょっと凹んでるべと頭を指しつつ言ってやる。

「だんだん、ちょっとやそっとの衝撃じゃ治らなくなってるんだから、しょうがないじゃないか!」

「えっ、マジで?」

初耳だ。本邦初公開である。

その驚愕の内容に、全フリードが驚いた。

「本当の話だよ! 角度が微妙だったり、叩く力が微妙だったりすると一度止まって再度繰り返すが年々酷くなってたんだから!」

……なん……だとっ?

通りで会社にいる時にたまに意識を失っていたわけだ。

あの強くやりすぎちゃった、ごめんね☆ってそういう事だったのか。

何の話か聞いても教えてくれないから、てっきり俺の知らないネタかと思っていたのに。

撲殺魔法少女血まみれ○○○とかあるのかと思っていたというのに!

というか、どこの電化製品だ俺は。

電化製品のこういう異常は中のコンデンサの異常が大抵の原因だ。

あれか、今度脳外科に言って俺の脳のコンデンサをどうにかして下さいと言うべきか。

俺の頭の中のコンデンサが大変なんですと詰め寄るべきか。

「う~む」

「……何を考えてるか、知らないけど止めとけと僕は言っておくよ?」

「ユーノ、こういう場合は病院だろうか? 改造を施してくれるところだろうか?」

「えっ? ん~、病院じゃ今更手遅れだろうから、改造を施してくれるところかな?」

そんなところあるの? と、ユーノが続ける。

んなもん、あるから言ってるに決まっている。

スカさん、やってくれるだろうか?

「あぁストップ、ストップ。そんなに元気なら大丈夫そうだね。ったく、本当に数時間前まで瀕死だったのかい?」

俺達の会話に割り込みアルフが言った。

ちらっと時計を確認すると時刻は、正午すぎ。

半日でここまで持ち直した計算になる。

なんという超回復と思ったが、隣のユーノの魔力量が著しく減っているのに気づき考え直す。

たく、こいつは。きっと、来てからずっと治癒魔法を掛け続けたのだろう。

それを何にも言ってこないあたりユーノらしい。

「なにさ?」

「いや、別に。ありがとさん、そう思っただけよ」

「……どういたしまして、だよ」

苦笑しつつユーノが答える。

まったく親友様々だ。

「そういや、この部屋なんか特別な魔法か何かが掛けられてる?」

「んっ? あぁ、デバイスを作るために環境を一定にしてあるな」

「あぁ、だから大丈夫なのか。もし、それがなかったら結構拙かったよ」

そういや、この時点でユーノは地球環境に適合してなかったけか

どうやら様々な要素があり助かったようだ。

俺の無謀な行為で止まったかと思ったが、まだ風は止んでないらしい。

「――和んでいるところ悪いけど、そろそろ本題に入らせてもらっていいかい?
 あたしらもそんなに暇があるわけじゃないんだ」

アルフが言う。

その顔はいつに無く真剣だった。

「本題? 何かあるのか?」

てっきり俺を心配してきたんだと思ってたが。

チラッとフェイトを見る。

「あっ、ちっ違うよ! 本題は心配だから見に来たんだよ?」

何もそんなに焦って言わんでも。

責めてる様に感じ取ってしまったか?

「というと、副題はあるってこと?」

そう、俺の代わりにユーノが確認する。

「あっ、うん……。――ちょっと待って」

そう言いフェイトはバルディッシュを手に持つ。

「んっ、よし。バルディッシュ?」

言いつつチラッとアルフに目線を送るのが見えた。

何を始めるってんだ。

『Yes,sir.』




――瞬間、4つの宝石が目の前に顕現した。

「なっ――!?」

ユーノが驚く。

俺は驚くというより――

「どういうことだ?」

「これだけ返す」

そう言い、フェイトが俺に4つジュエルシードを押し付けてきた

「おい――」

「――じゃあ、次はそれを奪いに来るから。アルフ!」

「はいよ」

二人を橙光が包み

――そのまま掻き消えた。



何も言う暇も無かった。

完全に打ち合わせされた動きだ。

4つのジュエルシードを見つめ意図を考える。

うん、わからん。もしかしてアホの子なのだろうか?

「フ・リ・ードーーー!!」

「お、おぅ」

「これはいったい、どういうことなんだよ!!」

「ちょっと待って、落ち着いて? ねっ? 目が血走ってるよ?」

「これが落ち着いていられるかーーー!!」





「話せば長いんだ。簡潔に言うとだ
 ――手伝おうと思って手伝ったら、逆に足引っ張っちゃった、てへっ☆」

ごめんなさいねドジっ子で、とポーズを作る。

あっ、ヤバい。ユーノが無表情になった。

これは――







――「はぁはぁはぁ」

「何卒、何卒、これでご勘弁を!」

ちょうど怒りの爆発の小休止に入ったユーノに、ジュエルシード4つを献上する。

もちろん土下座だ。平に~、平に~である。

「……ふぅ、フリードはあれがどんなものかわかっててあの娘に渡したんだよね?」

「あぁ、まぁな。それは言い訳せんよ。間違ってるとも思ってないし」

「……何かあるの?」

「あの子にゃ命を救われたっていう借りが有るんだよ」

「だからって……」

複雑そうな表情をしている。

当たり前か。

ロストロギアだとわかってて渡した。立派な犯罪である。

「他になかった。少なくとも俺には思いつかなかった。渡さなければあの子がやばい」

「あの子? フェイトさんのこと?」

「あぁ、俺をけちょんけちょんにしてくれた人の娘だ。あの子は。
 ――渡さなければあの子が罰を受けることになる」

それでもおそらく4つ程度なら罰を受けたかもしれない。

結局、無駄になった。なにをやってるのかあの子は。

「息娘なのに、そんな……」

「事実だよ。――それと問題ない。渡したジュエルシードは全て取り返す。
 あのジュエルシードはフェイトだから渡したんだ。おばさんにあげた覚えは無い」

「あばさん? 女性なの?」

「あぁ、プレシア・テスタロッサ。今回のジュエルシード強奪の犯人だよ」

「えっ? 本当に?」

「船を襲った魔力の測定結果がある。見るか?」

伊達に3ヶ月も張り付いてない。それぐらいの仕事はやっている。

「……くっ、やっぱり故意によるものだったんだ! おかしいとは思ってたんだよ」

悔しそうにユーノが言う。

「まっそういうわけで任せろ!」

「……そういえば、何でそんな事を知ってるの?」

「ここら辺を3ヶ月前から調べていたからな」

「3ヶ月前? ここを?」

「あぁ、色々と見つかりそうだったからな」

何がかは暈す。多くを語らずである。

「ふ~ん……まぁ、いいや。でっあんな状態にされたのに勝てる見込みはあるの?」

「まぁ、手段を選ばんのならな」

薄く笑う。形振り構っていられない。

単純な実力ではいくら頑張っても届かないだろう。

合法的な戦略なら全て読み潰されるしまうことだろう。

なら――

「……フリード怖いよ?」

「んっ? 大丈夫よ? ちゃんと生かすからね」

というか生きてもらわないと困る。

荒らすだけ荒らして退場など許されない。

本当なら手遅れになる前に、管理局が来る前に終わらすつもりだったがしかたない。

あの人は強すぎる。裏を取らねば敵わない。

――ならばこそ、管理局が来てから事を行う。その強い光に紛れ込む。

「……どうした?」

気づくとユーノがじっとこちらを見ていた。

「……いや、なんでもないよ。フリードがフリードである限り僕は君の味方をする、それだけだよ」

「そっか……ありがとよ」

その姿に学園時代の最後、別れの間際を思い出す。

ったく良い目だね。本当に良い目だ。

道を踏み外せない、そんな気にさせてくれる。

「なんか――」


――魔力を感じた。

「これは――!?」

「ジュエルシード!?」

忙しないな。

頭の中で逆算する。

ジュエルシードを8個取り除いているため。

イベントの昇順がわからない。

それどころか有無すら微妙だ。

ここに来て早めに終わらせようと後先考えず、ジュエルシードを集めたのが足を引っ張るか。

「ちっ、ユーノなのはは今何やってる?」

「なんでなのはの事知ってるのさ?」

「あぁもう、そんなもん色々調べていたからに決まっているだろうが。
 ――なんだ3サイズでも知りたいのか?」

「そっそんなわけないじゃないか。なのはなら今プール――」

『――ユーノ君どうしよう、ジュエルシードが――』






――「大丈夫なの?」

「おまえこそ」

一人は瀕死の重傷を負ったばかり、もう一人はその傷を必死で癒したばかりだ。

つまりは二人ともぼろぼろである。

だが、行くしかない。

「よっと」

ケースからデバイスを選ぶ。エスとエルは使えない。この状態であの子達を使えば即気絶行きだ。

もうひとつ一番安定していた。シリーズ10のあの子はプレシアに破壊され修理しなきゃ使えない。

残るは、俺の不完全な相棒と。

『やぁ、死への旅路を一緒に行く気になったかい?』

シリーズナンバーXX。

つまりはナンバーをまだ与えられていないシリーズだ。

シリーズ初期から構想があったにも拘らず色々調整がうまくいかず、ずっと引き伸ばしにされている。

「……仕方ないな。よろしく頼む」

『もちろんだとも盟主よ』

ほんと大丈夫だろうか。

最早、不安しかない。

「……あいかわらず変なデバイス作ってるね」

「変って言うな! だいたいスクライアも取引先の一つ――」

「――じゃあ、いくよ! 転送したら僕はガス欠で何もできないから、なのはの事よろしくね?」

「お、おーよ」



淡い緑に包まれ。


――世界が暗転した。





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