大破というより廃棄寸前と言ってしまったほうが良いだろう。
申し訳ない気持ちになるがこういうのは戦いの常だ。
直す事でお詫びとさせてもらおう。
最早、話す事すらできないヴァルディッシュのデバイスコアを見ながら考える。
「さてと、やりますか――」
――と、コアが光ったのが見えた。
「?」
人間で言うなら危篤間際だ。
所謂、絶対安静の状態である。正直、光ってる場合じゃないよ君? と考えつつ、
う~む、と頭を捻らせていると再度光った。
何か言いたいのだろうか?
俺への恨み言か?
謹んでお受けしようとデバイス修復機器の端末に繋ぐ。
――苦笑する。
あぁ成る程と思うと同時にこの子を使うマスターを羨ましく思う。
敵に向かって言うか普通。その豪胆さと強き意志には敬服する。
「……いいねぇ、実にいい!」
お望み通りにやりましょう。
こちとらデバイスとの絆を社訓に掲げる会社のシャッチョーサンだ。
こういうのを見せられて答えない訳にいかない。
それを抜きにしたとしても、こんなに熱い想いをスルーしたら漢がすたる。
「さて、どうする? どんな強さを求める? 最強? それとも――」
――アルフが起きた時そこは自身の見知った部屋ではなかった。
まだ、はっきりとしない頭に喝を入れ――
「――!?」
思い出した。あったこと全てを思い出してしまった。
瞬時に戦闘体勢に入る。
警戒と状況確認をと思うと同時に、拘束も何もされてないことを疑問に思う。
……とにかく優先すべきはフェイトの事だ。
それ以外は後からゆっくり考えればいいと考え、視線を部屋のドアへとアルフは向けた。
と、部屋のドアが開くのが見え――
「――おう、起きたのっ――!?」
ドアから人影が見えた瞬間、アルフは全力を込め拳を少年へと撃ちつけた。
しかし、拳は少年へと届く事はなく中空で銀の壁に阻まれる。
「くっ、バリアだって?」
「……まぁまぁ落ち着いてよ。これやるからさ」
そう言って少年はドッグフードを片手にアルフへとちらつかせる。
「なめんじゃないよ!」
先の戦闘で出来なかったバリアブレイクをここで果たす。
この余裕の表情の少年に拳を叩き込もうとアルフが吼える。
「やめとけ、やめとけ。お姫様に迷惑ですよ?」
「っ――!? フェイトに何をした!!」
「別に治療だけよ? 使い魔ならわかるでしょうに。あ~後デバイス修理のために生体データは取らせてもらったけどね」
信じがたい事だとアルフは思う。少なくとも自分たちをこんな状態にしたのはこの少年なのだ。
それを治療しただけでなくバルディッシュの修理までしているというのか? いったい何のために?
考えれば考えるほどよくわからない、自身では答えの出ようのない疑問がアルフの頭の中を埋め尽くした。
「……それを信じろってのかい?」
「信じるも信じないも自分で見りゃ良い。百聞は一見にしかずとな」
ついといで~と軽い口調で言う少年に警戒するも結局は付いていくしかない。
……なにかフェイトに異常があれば私にはわかる。その時はこの少年を――
そう、決心しアルフは少年について行く。
――「フェイト!? 大丈夫かい?」
ベッドに横たわるフェイトに向かってアルフが安否を確認する。
顔色は問題ないように見える。それに使い魔としてのフェイトととのリンクも寝ているだけだとアルフに伝えていた。
「まぁ、2日は目を覚まさないんじゃないか。こっ酷くやられたしね~」
そう軽くいう少年に向かってアルフがキッと睨んだ。
「あんたがやったんじゃないか!」
「だね~。でも、先に喧嘩売ってきたのはそっちね。人の物盗っちゃいけませんよ?」
「そんなことはわかってるんだよ! ……この子にはそうせざるを得ない事情があるんだよ」
グッと唇をかみ締め、搾り出す様にアルフが言う。
しょうがない事なのなのだ。こっちだって――と、アルフは誰にともわからない言い訳を心の中で呟く。
別にこの少年に許して欲しいわけでもないが、フェイトのことを悪く言われるのだけは我慢ならない。
そう、少なくとも何も知らない奴に文句を言われたくはないのだ。
「さよか。まぁ、これでも食え」
そう言ってまた少年はドッグフードをアルフへと差し出してくる。
「……あんたね」
「まぁまぁ」
なおも押し付けるようにしてくるため、しょうがなくアルフは受け取った。
“犬まっしぐら! あのチャッピーも認めました!”とよくわからない宣伝文が載っている。
「何か入ってるんじゃないだろうね?」
「ん~、どうだろ? 入ってないんじゃないかな? でも、美味しいらしいよ?」
なんたってあのチャッピーが認めたららしいしと少年が続ける。
チャッピーって誰よアルフはと思わなくもないが、とりあえずフェイトの無事を確認し緊張が解けたためか、
やけにお腹が空いているのを認識しているのも事実だ。
それに、なんというか美味しそうなのだ。見た目といい匂いといい。
後ろ髪を引かれながらも空腹に誘われるままアルフは食べた。
「!?」
「どうよ?どんなもん?」
「……おいしい」
「おっ、そうか! 流石はチャッピー外さないな。本当はHATIが生涯愛した味とかいうのに惹かれたんだけど、やっぱりこれで正解だったな」
そう言って少年はアルフに笑いかけた。
その表情からはまるで敵意が感じられない。
「……あんたは何者なんだい?」
アルフが問う。おまえは敵ではないのかと。
「さてね。自己紹介ならしたと思うんだけどね。」
忘れたらしょうがないと少年は胸を張り、何かを宣言するような格好をとる。
「すぅ~、よしっ! おはようからおやすみまで、くらしに夢をひろげるミッドの悪夢こと僕、フリード・エリシオンです! よろしくねっ!」
そう言い少年はアルフに向かって握手を求めた。
「……」
「……」
二人の間に沈黙のレールが引かれる。
そのまま時間が硬直したような感覚にアルフが囚われ始めると、ふいに少年は壁に向かって歩き出し、
頭を壁に押し付け独り言をつぶやき始めた。
「なんで反応ないかな~。この紹介そんなに駄目か? 社内じゃかなり好評だったってのに。もうちょっと一般人にわかりやすくいくべきなんだろうか?」
ぶつぶつと何かぼやく様に壁に語りかけている。
正直、触れたくないと思わなくもないが、このままでは埒があかないと思いアルフは少年に話しかけた。
「はぁ、そのよくわかんない紹介とか正直どうでもいいのさ。――単刀直入に聞くよ、あんたは敵かい味方かい?」
その言葉に少年はゆっくりと身をアルフに向ける。
「ふむ、二元論ね。どうだろうか? あっ、謎ということにしておいてよ。その方が面白いよね、これは」
うんうんと少年が頷きつつ答えた。
「……なんだいそれは。こっちは真剣に聞いてんだよ?」
「こっちも真剣だけどね。言うならば今の治療を行っている段階では味方、治ればまた敵ってところか?
まぁ、そういう訳で謎と称したほうが早いよ。あっ、その娘がもしジュエルシードを諦めるってんなら味方のままかな」
「……それはできないね。何を言おうがフェイトはそれを集めるよ」
どこか遠い目をしてアルフは言う。
最早、少しでもフェイトの負担を減らす事それぐらいしかやることはない。
この戦いが終わればフェイトが望むような幸せが訪れるんんだろうか、アルフは考える。
「さよか。まぁ、それもよし! なんにしてもまずは、デバイスを直してやらないとな」
そう言い少年は部屋の扉へと踵を返した。
「……デバイス? バルディッシュかい?」
「んっ? あぁ、そうよ」
「そういえば、フェイトに何も言わず弄ってるのかい」
「……バルディッシュが俺に頼んだんだよ。その内容がちょいと俺の琴線に触れまくったんで断れないね~」
「? ――それってどんな内容なんだい?」
「そりゃ言えないね。漢と漢の約束よ。まぁ悪いようには絶対しない。あぁ、もし金髪ちゃんが起きたら謝っておいてよ」
「なんだいそれ――」
「――んじゃ、後よろしく~」
アルフが何か言う暇もなく、少年は鼻歌交じりに去っていってしまった。
なんだというのか。アルフはため息をつく。
胡散臭い事この上ないが今は信じようと思う。
敵意が感じられなかった事もあるが、あの少年にはそう思わせるだけの雰囲気があった。なんというか何かをやりあうにしては、軽すぎるのだ。
なんにせよ今はフェイトがこんな状態だ。休ませられるんなら休ませた方が良いに決まっている。
いざとなればその時は――
決意の内容をさらに深め、アルフは拳を硬く握った。
――さて、本来のお仕事に戻りましょうか。
フェイトの看病はアルフが後はやるだろう。
こちらには、是非フェイトが起きる前に完成させサプライズといきたい思惑がある。
正確かつスピーディーにでも遊び心は忘れないように。
最早、FC社の合言葉となりつつある言葉を脳裏に浮かべ全工程をはじきだす。
「ふはははは、時間が足りねー!」
でも、それもよし! なんだか楽しくなってくるじゃない?
こうギリギリの線を辿るのが快感になるのだ。
脳内麻薬がドバドバ出てくるのを感じる。
いける。これはいける。今なら最高のものができる。
OKいこうじゃないピリオドの向こうへ!
材料は持ってきたストレージデバイス3つ。
数的には2個1ってな感じで余裕で間に合う。
にしても元の材料って個人製作にしては恐ろしく高価な材料を使っている。
リニスさん無茶しすぎですね~。最新素材じゃなけりゃ逆に劣るところだ。
さて、材料がなんとかなるなら後はアイディアだ。
今まで考えてきた普通のアイディアは捨てる。
そんなもの面白くない。今の状態に似つかわしくない。
作ったとしてもこんなのバルディッシュじゃない! と、床に叩き付けてしまうことだろう。
さぁ、どうする?
バルディッシュはフェイトのデバイス。
フェイトといえば雷だ。
魔力変換資質。聞こえは良いが純粋魔力の大量放出が苦手となる欠点もある。
これをどうにかすれば、とりあえずは“面白い”だろう。
電気からの逆変換。
可能だ。バルディッシュの処理の能力を上げてやればリアルタイムでできる。
しかし、これには電気の一次貯蔵が必要となる。しかも、極めて安定且つ安全な状態で。
カートリッジシステムを応用するか? そうすれば、ノーリスクのカートリッジシステムが組みあがる。
それには、消耗式ではなく固定式の閉じたシステムの方が好ましいだろう。
電気二重層キャパシタを応用してタンクにし、それをカートリッジシステムに組み込み――
――頭の中で次々とパーツが組みあがる。
2日でできることにしてはなかなか良い線だ。
さぁ、後は時間との戦いだ。
時刻を見る。午前3時。
ちょうど丑三つ時だ。なかなかにステキな時間である。
なんか起きそうじゃないの。幽霊的に考えて。
そういや元幽霊だったね俺と頭の隅で思い出す。
「完成した暁にはゴーストシステムとでも名づけるかね~」
ふふふ~んと鼻歌を歌いながら作業に取り掛かかる。
ちらっと端末を見るとバルディッシュの意思が表示されていた。
“お願いします”か。
「まかせろ! フリード・エリシオンの名に誓いおまえを負け犬のままになんかさせない!」
負け犬にさせたのは俺のような気もするがそんなことは気にしない。
漢は立ち上がる限り負けはないのだよ。
勝敗は兵家も事期せず、羞を包み恥を忍ぶは是れ男児である。
つまるところ、バルディッシュは漢としての素養を満たしているのだ。
後は、その誇るべき漢に似合う強さを与えるだけだ。
「うっし、頑張ろうin海鳴!」
「くはははははははははーーー!!」
どうだろうかこれ。なかなかにきまってきた。
たまに自分の才能が恐ろしくなる。
ふと、気配がしたので後ろを見るとアルフがなんとも言いがたい表情でこちらを見ていた。
狼娘さんなんですかその表情は? デバイスにしてやろうか。
「……本当に頼むよ?」
「まかせり☆」
その俺の頼もしい言葉にアルフが心底ゲンナリした顔をした。
その表情はかつてのユーノとだぶる。なんとも懐かしいね。
思わずジーっと見つめているとついつい郷愁に駆られてしまう。元気だろうか奴は。
夜空のお星様になってはいないだろうか。
淫獣化していないだろうか。
……大事な事を忘れていた。そうだ、奴にはそれがあった。
これはデバイス化決定! 全次元が同意した!
「ユーノデバイス~、検索が得意だよ~」
「……フェイトごめん。色々と間違った気がするよ」
もう一度アルフを見るとどこか遠い目をしていた。
忙しい娘さんだ。
そういうのは、波止場とかでやらないと絵にならないよ?
夕暮れ、どこまでも続く水平線を気だるげな表情で見つめる女性――の耳が犬耳。いや、狼耳。
うん、シュールだ。見た人は、えっ? て、なるに違いない。
「……なんだい?」
ジーっと耳を見ていたのが拙かったのか怪訝な表情で言ってくる。
「いや、ふしぎっ! て、思っただけよ」
「???」
いつか誰かと語り合おう。耳の不思議について。
――ここはどこだろう。
部屋を見渡して見ても見覚えがない。私はいったい――
「――!?」
思い出した。私負けちゃったんだ……
完敗だった。本当に何もできなかった。
「フェイト!? 起きたのかい! よかった、本当によかった……」
「あっうん。ごめんねアルフ。私負けちゃった……」
「いいよ、いいよそんなの! こうして無事だったんだからさ!」
アルフが涙目まじりで言ってくる。
よくはないと思う。だってバルディッシュは――
「っ――!? バルディッシュがない! アルフ、バルディッシュが――」
「――ほいよ、バルディッシュ一本お待ち!」
「わっ、わ、……ふぅ。えっと、……バルディッシュ?」
『yes, sir.』
「えっ、でも……」
投げ渡されたバルディッシュを見て不審に思う。
だって、バルディッシュは私のせいで――
「あ~、修理ついでにパワーアップさせておいたから。」
「修理? パワーアップ? あなたが?」
「俺以外に誰が居ると? まぁ、謎のデバイスマイスターFと呼んでくれ!」
「えっと、確かフリードだったよね?」
そう私が言った瞬間、フリードは壁に向かい、頭を壁に押し当てるようにして独り言をつぶやき始めた。
「だからさ。別にノってくれなんて贅沢な事は言わないよ? なんでぶった切るのさ。その内泣くぞ――」
「えっと、あのごめんなさい」
よくわからないが謝っておいた方が良い気がする。
本当に悲しんでる感じがするし。
「え~子や。ホンマ、えー子やで~。そんな君にはFC社表彰の良い子で賞をあげちゃう!」
「あ、ありがとう」
握手を求められたので、握手をしたらぶんぶんと両手で振り回された。
こういう人は初めてなので対応にちょっと困る。
「こら、フェイトが困ってるよ。離しな!」
「おう、sorry.ちょっと二徹明けだからね! テンションが高めで失礼します。
ちなみに今の俺なら楽勝で倒せちゃったりするかもね~」
チラッとこちらを伺うように見ている。
試されているんだろうか?
「……そんなことしないよ。君は正面から破る」
「さよか。じゃ、新生バルディッシュの説明をば、しましょうか――」
――「というわけですな」
すごいと思う。
本当なのかと疑いなくなるが、持ってみた限りでは本当だ。
私に対して前の頃より最適化したらしいバルディッシュは、本当に手の一部になってしまったみたいな感じがする。
「運用効率で従来より80%、最大出力で670%まで改善してある。
最大出力に関してはさっき説明したゴーストシステムとカートリッジの影響が主ね。
まぁ、時間と材料さえあればイメージ付きの精神リンクも作れたのだけども。
流石に完成したインテリジェントデバイスをばらすわけにはいかなくてな~。
FC社の特徴なんで是非付けたかったんだけどね」
「……なんで?」
「?」
「なんでここまでしてくれるの?」
率直な疑問だ。
敵同士だった。それに戦闘を仕掛けたのは私のほうだ。
それなのになんでこんな……
「君が可愛かったから、じゃいけない?」
にっこりと微笑まれた。その答えは予想していなかったので虚をつかれてしまう。
「おっ、その表情チェキ。いや~いいね、いいね」
「フェイトをからかうんじゃないよ!」
……からかわれたのか。
そうだよね。ちょっと、びっくりしてしまった。
「ワタシ ウソ ニガテネ。コレ ゼンブ ホントウネ」
「そういうところが胡散くさいんだよあんたは!」
どうやら、措いていかれている。目の前で騒ぐ二人の姿を見つつ思わず戸惑った。
アルフは、何時の間にこんなに仲良くなったんだろう。
その光景を羨ましく思う。私は――
「とまぁ、それは置いといてだ。最大の理由はバルディッシュに頼まれたからだよ」
そうフリードに言われ、ハッとなり意識を現実に戻す。
いけない、いけない。なんてことを考えているのだろうか私は。
「……バルディッシュに?」
「そう。まぁ野郎の誓いというのを果たしたのですよ。あっ内容は秘密ね」
「?」
秘密ってどういうことなんだろうか。
『sorry,sir.』
「……うん、いいよ。私はバルディッシュを信じる」
今度は絶対に他のデバイスに劣るなんて言わせない。
もう誰にも私は負けない。そう決意を胸に、そっとフリードを見つめた。
「まぁ、そんな感じだ。あ~後、カートリッジは無闇に使わないようにね? 成長を阻害する可能性があるからね」
「えっ、でも……」
思い出すのは先の戦闘の最後。
止めを刺されたのは間違いなくカートリッジとやらで爆発的に上がった魔力に押しつぶされたからだ。
「あぁ、俺はいいのよ。だって男の子だもん」
しれっと言われた。
なんだそれは、卑怯だと思う。それではまた負ける可能性が……
「私も使う!」
「いや、だからね。……ふむ? ん~その心は?」
「だ、だって、おっ、女の子だもん」
顔中真っ赤になっているのが自分でもわかる。
どうだろうかマネしてみた。きっと、これで何も言えなく――
「――おもちかえり~☆」
「ふぇっ?」
「なっ!?」
フリードに小脇に抱えられて連れ去られてしまった。
「ふぅ、あぶない、あぶない。あと少しで新聞に載るところだった。幼きリビドーも怖いものだね~」
「なに言ってるんだい! 2時間近く逃げ回っておいて!」
「そりゃ捕まえきれないアルフさんが全面的に悪いかと」
「……いいから、おろして~」
ずっと抱えられたままだ。逃げようと思うもののタイミングがつかめない。
それに少し思うところもあった。
本当は楽しいなんて感情は抱いてはいけなかったのかもしれない。でも――
「ふははははは、かかっておいで狼娘さん! この月夜に人間に負けるなんてことがあっていいのかね?」
「なに言ってるんだい! あっ、ちょっ、待ちな!」
再び月夜の鬼ごっこが始まる。
顔に当る風がどうしようもなく気持ちよかった。
「ふぅ、ふぅ。……やべぇ本当に撒いちまった」
あれからどれくらいたったのか。
鬼ごっこはいつの間にか終わっていた。
「さて、じゃあそろそろ頃合かな。」
そう言っておろされた。
どことなく不安に感じるのは、久々に自分で踏む地面だからだろうか。
「えっと――」
「――それじゃあ、また!」
それだけ言ってフリードは踵を返す。
「あっ」
何を言えばいいのかわからない。
再挑戦を宣言する? いや、そういうのではなく――
「……その子、俺が認めたバルディッシュを使うんだ。次は俺相手に何もできないで沈むなんて許されんよ?」
背中越しにフリードが言ってくる。
その言葉を受け、地面をチラッと少しだけ見つめ数瞬の内思考を巡らし、うん、と小さく頷く。
……その言葉に秘められた想いを私は確かに受け取ったように思う。
自身の答えで合っているかはわからない、でも、答えなくてはならない。宣言せねばならない。
「……うん、次は負けない! 絶対に! バルディッシュの強さをあなたに見せてあげる!」
背中しか見えないのでわからないが彼は笑っている気がする。
うん、きっと――
「さよか、じゃあ楽しみにしましょう」
それだけを言い残しフリードは夜空に消えていった。
暫く夜空を見上げ、そっとバルディッシュに手を重ねる。
「……バルディッシュがんばろう」
『yes,sir』
――眠い。
徹夜明けということもあるが、一仕事やりとげた後だしどうしても眠くなる。
予想外のことをしてしまったが、まぁいいだろう。
気分の良さがそれを証明している。それに収穫もあった。
バルディッシュを修復する際に転送ログから時の庭園の場所がわかったのだ。
追い風はどうやら俺に向かって吹いている。
「よ~しっ!」
さて、問題がある。
どうやって戻ろうか。
別れを告げたのはいいが飛び出したのは俺の部屋もとい家だ。
なかなかに家賃が高く、元居た世界なら居にそんな金使うとか馬鹿じゃねーのと思わず言ってしまいそうなマンションだ。
帰ってふかふかのベットで爆睡したいが戻ってみて、まだフェイト達が居たら気まずい事この上ない。
ユーノの所はどうか?
魔力を確認したし、なのはの所にいったのはわかっている。
ジュエルシードは、8個俺が持っているため何か変わるかと思ったが、今のところは変わってないようだ。
ユーノのところにいって“おっす、おらフリード。そこの暖かそうな布団で眠らせてくれ!”とでもいうか?
いやいやいや、例のなのはを倒す宣言をしたお陰で翠屋の物騒な連中に顔を覚えられている。
お陰で何回か死にそうな目にあったのだ。というか、この町は人間卒業したやつが多すぎる。
魔法による高速移動を伴った攻撃を見切られた時には思わず“な、なんだってーー!!”と叫んでしまった。
奴らは怖い怖すぎる。まさに海鳴の悪魔連合だ。
まぁ、様子を伺いつつマイホームへ戻るのがベストか。
索敵。
人影なしっと。
中に入ってみると、まだ若干人の名残がある。
「どうやら荒らされてないね。立つ鳥跡を濁さず。見事です、先生はなまるあげちゃう!」
物色された後がないのを確認する。
一応敵のアジトだってのに、なんて良い子ちゃん達なんでしょう。
ふと、テーブルを見ると書置きがあった。
「“ありがとう”ね」
どうやら最高の気分で寝れそうだ。
「――ん?」
「どうしたのユーノ君?」
「なんか知ってるような魔力を感じたんだ」
「知ってる? お知り合いさんなの?」
「んーそうだけど、とっても嫌な予感がする」
「??? ――お知り合いさんなのに嫌な予感がするの?」
「できれば、なのはには会わせたくないかな」
「えっ、どういうことなの?」
「染まっちゃったら大変なことになる」
「???」