金欠である。
金がない。まったくない。No moneyである。
奨学金の振込みまで後15日待たねばならない状態で一銭も無い極限状態だ。
何度見ようが通帳にはゼロと表示されている。
記帳したら増えてるかもしれないと何度かやってみたが駄目だった。どうやら俺には足長おじさんはいないらしい。
振り込んでくれたらいくらでも『おじさん、ありがとう』とにっこり微笑んであげるというのに。
やっぱロリじゃなきゃ駄目なのか……
いっそのこと、女装するか。今の俺なら見栄えは映えるだろう。
そうだ、変なプライドは捨てよう。お金、大事である。
生きていくためには多少の苦難は付き物なのだ。苦労は買ってでもしろと偉い人が言ってたじゃないか。
「ユーノ君、おーい」
「……」
さっきからガン無視である。
何が気にくわないというのか。
「無視してないで評価してくれよ。どうよこれ?」
とりあえず、ウィッグ付けて、女子生徒からかりた服とスカートを着ている。
最初は貸す事に難色を示していたが『ユーノがさ……どうしてもっていうんだ……』と若干はにかみながら言ったら、ものすごい勢いで貸してくれた。
写真があったら5000以上は出すとのことだ。何の写真とは流石につっこめなかったのはご愛嬌。
「おーい」
一向に俺の方さえ向いてくれないのでユーノの肩に手をかける。
と、ものすごい勢いで振り払われた。
「近寄るな、この変態!」
ふむ、あのユーノ君がずいぶん強くなったものだ。
あの優しかったユーノ君が。ため息をつきながらもしょうがないなーと付き合ってくれたユーノ君が。
成長したな……お兄さんちょっと感動したよ?
「まぁ、そんなことより。どうよこれ?」
「そんなことじゃないよ! ちょっとは気にしてよ! 今までの君はよく見たら変態だったけど今は変態そのものだよ!」
「なるほど、ものほんか。なかなか本物って巡りあえないからな。いい経験だな!」
サムズアップしてやる。ナイス変態!
「なんでそんな他人事みたいな顔して言ってるのさ!! 今までもおかしかったけどこれは振り切ってるよ! 大体なんで女装なのさ!」
「よくぞ聞いてくれた。これはな聞くも涙、語るも涙の話でな。まぁ、要約するに金がないんだ」
「要約しすぎて涙どころか疑問符しか出てこないよ!」
「落ち着けユーノ。隣近所に迷惑だろ?」
「■■■■■■■ーーーーっ!!!」
あっ発狂した。
近頃キレやすい若者が話題になっていたのを思い出す。
昭和ではちゃぶ台返しなるものがあったらしいが、その時は最近キレやすい父親が――とかなったんだろうか。
親父とちゃぶ台とキレるの因果関係。難しいね。
ちゃぶ台ってのは何かあるのか? 掴むと投げたくなる、そんな魔力を発していたのか。
持った瞬間、こ、この材質と手触りと形状は!?とかなるのだろうか。すごいなちゃぶ台。昭和の宝具と呼んでやろう。
まぁ、丸いしな。きっと、フリスビー感覚に違いない。うむ、昭和の親父すげぇな!
そりゃ、今の男は草食系男子とか言われるわけだよ。
ところで、草食動物は雌をめぐってそりゃ悲惨な戦いをするわけだけどもそこら辺はどうなのだろうか。
肉食動物は死というものが間近なためか諦めは早い。負けると判断したならすぐに止めてしまう。
草食動物は肉食動物と違って狩をしないため致命傷がわからず、何度も、何度も、戦いを繰り広げるのだ。
普段戦いをしない故、引き際がわからず命を落とすことも間々ある。
そう考えると――
「――人の話しを聞けぇーーーーー!!!!」
気が付けば、レイジングハードが突きつけられていた。
拙い。ユーノ君マジ切れである。
その目、ちょっと怖いよ? キャラじゃないよ?
さて、どうやってなだめるべか。
前、これで気持ちを落ち着けてとフェレット用の缶詰を渡したら普段撃てないくせにディバインバスターを撃ってきたからな。
怖い、怖い。人ってのは割と簡単に限界を超えるらしい。
だいたい専用のデバイスなんて卑怯だ。こちとら金がないから学校の備品であるストレージデバイスをかりるしかないってのに。
ぼろいし効率最悪だしでいい所なんて一つも無い。
その点こいつのはと、レイジングハートの切っ先を見て――
「これだーーーーーーーー!!!!」
「!?」
俺の大声にユーノがビクッとなる。
いや、そんなことはどうでもいい。
閃きました。閃きましたよ。頭の上に電球が光りました。
気分は乱れ雪月花。早速行動、即実行。
チャンスの神に後ろ髪は無い。
幸運の女神は飽き易い。
いざ、行かん――
「……もうこんな生活やだ」
部屋の扉を閉める際、ユーノが夏の甲子園でさよならホームランを打たれた投手のような格好で燃え尽きてるのが見えた。
夏はこれからなのに何やってんだあいつは。
――「出来た、出来た、出来ましたよー!!」
水でお腹を満たしつつユーノに集るということをし続けてようやく完成した。
「……フリード。うるさいよー。食べ物なら明日奢ってやるから今日は寝なよ」
寝ぼけ眼で、だいたい何時だと思ってるのさーとユーノが続ける。
この野郎、人がこう活路を見出したってのに祝福の言葉とかないのか。
しょうがないな、一人でやるか。
「おめでとうございます。フリードさん!」
「いやー、それほどでもありますよ」
「勝因はなんだったんでしょうか?」
「やっぱり気づけた事ですかね。それが一番大きいですよ」
「なるほどー。では――」
「――わかった、わかったよ! 起きるから、その奇行やめてよ!」
目を擦りながら言いつつユーノが起きてきた。
「奇行とは失礼な。誰も褒めないなら自分で褒めるしかないでしょうに」
「はいはい、おめでとう。フリードはすごいよ」
「そっ、そうか? はは、そうかそうか」
「……フリードって幸せだよね」
「よせやい。照れるじゃないか」
「……」
何故に深夜に生暖かい目で見られないかんのか。
こうなったら見つめ返してやろうか。
「で、いったい何があったのさ」
「んっ? あぁ、これだよこれ。」
そう言って、出来たばかりのストレージデバイスを見せる。
「ストレージデバイス? そういや、デバイスマイスターの資格取ってたね。あぁ、自分専用のとか?」
「ちゃう、ちゃう。売るんだよ」
「売る? んー、どうだろ。難しいと思うよ? 相当品質がよくないと個人のものは売れないって聞くし」
「まぁ、見とれ」
食うものにすら困るという背水の陣だ。ハングリー精神見せちゃる。
それに、これは目的の一歩に過ぎない。こんな所で躓いていられない。
運がよかったのか。オークションで早々とそれなりの値段で捌くことに成功した。
「どうよこれ! 向いてきたじゃない風が」
ひゃっほーいと歓喜を表現しつつ次のビジョンを心の中で見据える。
イケる。手応えは掴んだ。
「よかったね。これで僕も一安心だ」
これでようやく、落ち着いて眠れるとユーノが続けるが――
「何言ってるんだ、まだまだこれからよ? まだ入り口ですよ?」
「……えー」
心底げんなりした顔でユーノが言った。
――季節は冬に入る。
おこたでミカンと言いたいところだが、そんな物はないし暇も無い。
「ふははははははははは、絶っ好っちょーーー!!」
「そんな馬鹿な……」
フリード製のストレージデバイスはかなりの好評を得て入荷すれば即完売の様相を呈していた。
物作り大国日本出身の人間なめんなやーー!!
製品のきめ細かさと品質で金髪共に負けてたまるかよ。俺今銀髪だけど。
「どうですかユーノ君。これが世間というものですよ」
「いや、うん、これは本当にすごいよ」
「ふふふふ、まだ驚かれては困るんだなーこれが」
「えっ?」
「見たまえ、これを」
じゃじゃーんとたった今完成したばかりのものを見せる。
「えーっとこれは? あー、インテリジェントデバイスか。ってすごいじゃないか! こっ、これ自作なんだよね?」
「勿の論だともさ。設計構成すべて自分でやってる」
「うわー、あっじゃあ、これがやりたかったものなんだ。自分専用を自分で作るかー、すごいよ本当」
「んっ? 自分専用? ちゃうちゃう、この子も売っちゃう」
処女作だから売りたくはないがしょうがない。
この子のために、だいぶお金を使っちゃってる。売って資金を回収しなければ次に進めないのだ。
「えっ? 売るの? これを? そんなもったいない!
それに、インテリジェントデバイスってあんまり売れないよ? 高いでしょこれ?」
「高いっちゃ高いが、まぁ我に秘策有りだ」
「えっ?」
さっきから驚いてばかりの友人を横目にデバイスを起動させる。
「ほらよ」
「わっわ、っと、別に普通のデバイスに見えるけど」
『初めましてご主人様』
「――っ!!!」
ユーノが驚いてる。まぁ、そりゃ驚くか。
「……なにこれ」
「何が?」
「いや、何か、デバイスが話しかけてきた瞬間映像が頭の中に……」
「あぁそれがこの子のイメージだな。まぁこれが秘策よ。特許も取得済みだ」
「……この女の子はフリードが考えたの?」
「いんや、この子は持ち主の好みを把握して映像を流してる。でどんな娘が見えるのよ」
「!? ……そんな風に言われて言える訳ないよ」
真っ赤にしちゃって。まぁかわいい。
「インテリジェントデバイスってのは所持者との意思疎通が第一だしな。たぶん需要はある」
というか無いと困る。やりたいことはまだあるのだ。
「……おーい、いつまでデバイス持ってボーっとしてやがるんですか」
「っ――!! あっ、は、はいっ!!」
投げ渡すようにしてデバイスを渡してきた。本当にどんな娘が見えたのやら。
「……売るんだよね?」
「残念ながら売るなぁ。なんだレイジングハートに実装して欲しいのか?」
「っ――いっ、いらないよ!!」
何もそんなに慌てなくてもいいだろうに。
――「よし、完成」
半ば半信半疑で作ったがどうだろうか。これこそ需要が気になるところだ。
「おーい、ユーノ」
「んっ? あぁ、新作?」
「そっ。でな、テストしてみてくれ」
「テストって、えっ? なにか新機構でも入れたの?」
「新機構って言うか新機軸? まぁ、起動すればわかる」
俺の言葉を受けユーノがデバイスを起動させる。
これが受け入れられるかどうかで世界が変わるな。
結構悪い意味で。いや、良い意味か?
『ちょっと、あんた。起動するのが遅いのよ!!』
「「……」」
部屋に沈黙が満ちる。
『ちょっと! もう、聞いてるの?』
ユーノの顔がギギギと軋む様にこちらを向いた。
「……なにこれ?」
「えーっと、なんというかツンデレ?」
「つんでれって何さ」
「諸説あってだな――」
淡々と説明していく。淡々と。
『次はもっと早く起動しなさいよね! ……待ってるからね?』
そして、デバイスの起動を止めた。
「「……」」
再び部屋に沈黙が満ちる。
「……これも売るんだよね?」
「……まぁ、売るねぇ」
「売れるの?」
「どうだろうねぇ」
二人でどこか遠くを見つめながら言うのであった。
「どうや、俺の勘に間違いなんてなかったんやーーー!!」
新機軸フリード製インテリジェントデバイスは需要暴騰による市場価格高騰で3000万近くまで上がっていた。
「他に類を見ない発想! そして真似できない様に特許も抑えてある! 勝ち組、ふぉーーー!!」
「……」
「どうしたのかねユーノ君。我が社、フリードカンパニー略してFCに入社したいかね?」
そうなのである。この高騰により色々な問題が見え始めたため会社を興した。
今やシャッチョーさんだ。万札燃やして暗いだろ見えるかい? とか出来るのである。いや、まだ出来ないけど。
「……いや、いいよ。なんというかさ、とんでもない物にミッドが侵されていく気がするんだ」
「大丈夫! その想像は間違ってないよ!」
「間違ってないんだ!?」
うわーと頭を抱えるユーノ君を尻目に新機軸5種目の投入を決意する。
「よし、これで次はあれがいけるな!」
「……なんか聞きたくないけどアレって何?」
「えーっとな。所持者をな、いよーな程愛するデバイスだよ」
「異様なほど?」
「そっ。でその所持者に近寄るものは異性だろうと同姓だろうと嫉妬していってな。
一定値を超えるとその近寄ってきた奴らを○していくイメージ映像を所持者の夢に――」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
結局、ユーノの猛反対にあい無期限延期と相成った。
「需要、あったと思うぞ?」
「駄目に決まってるでしょうが。そんなのが流行ったらミッドは終わりだよ」
「いや、もうたぶん、終わってるというか始まってると思うぞ?」
「えっ? 何がさ? 始まって???」
「ん、まぁ、各所でミッドチルダハジマッタとほら、この通り喜びの声が俺宛の葉書で――」
「――いや、いいや聞きたくない」
なぜにそんな疲れた顔をしているのか。
「……スクライアだけはマジメに生きよう」
「あぁ、そうそうこの葉書に中にスクライアの族長からの――」
「いやーーーーーー!!!!」
今日も今日とてユーノの絶叫が魔法学園に響く。
多くのものはそれを聞き日常になんら変わりが無いことを確認していた。
――2度目の夏がやってきた。
「あぁクソ。微妙だ」
返ってきたテストを見て愚痴る。
「魔法史? 興味ねーです。とかいってまったく勉強しないからだよ」
自業自得だよといった顔でユーノが言う。
「興味ないものは興味ないんですよ。実践と魔法理論だけでいいじゃん。他は不要だよ不要。なんだよ魔導師倫理って」
「あはは、制御系と物作りに関しては稀代の天才と呼ばれてる男ともあろうものが何を言ってるんだか。先生も言ってたでしょ、見本となれって」
「それは、ようするに器用貧乏ってこったろうが。素直に喜べないねー。
しかも見本って。この年での社長業が珍しいから広告塔にしたいだけでしょーが」
学園の顔にしたいんだろうが御免こうむる。
にしても俺、中途半端なのである。何がというと能力がだ。
全てにおいてできる。と言えば聞こえは良いが、要は突出したところがないわけで。
つまりは、RPGでは使えないキャラ筆頭だった。
それを補うためにオリジナルの魔法の開発もしようと思ったけど、正直デバイス作りが面白すぎてほとんどやっていない。
……このまま惰性でデバイス作って生きていったりしてなー。思わず、はははと乾いた笑いをあげたくなる。
「――そういやさ、自分専用のデバイスとか作らないの?」
「んー? 作るよー。っていうか作ってるよー」
「あっ、そうなんだ。……やっぱ新機軸?」
「まさか。相棒だもの。俺がこんなんだからそれを止める役目を担うし」
そう、なんたって相棒だからね。行動をもって生死を共に分かつんですよ?
そりゃ、もちろん自分専用にカスタマイズですよ。
「えーー、意外と言うかなんと言うか。じゃあ、あの女の子の映像流す奴だけ?」
「いんにゃ」
「えっ、まさか新機軸乙女Ver?」
心底嫌そうな顔で聞いてくる。
「なわけあるか! 普通だよ普通。そういうものより全部他に処理をまわす」
「んっ? 他って?」
何か作ってたっけてな顔をしている。
ふふ、内密に作ってたからな。まぁもっとも傍目から見たらデバイス弄ってただけにしか見えないから絶対に気づかないとは思う。
「聞いて驚くな! なんとな、デバイスの形態がな108個とれるという無駄設計!
ずっとな、戦闘前に『俺のデバイスの形態は108式あるぞ』と言うのが夢だったのよ」
胸を張って答える。
言ってやった。ついに言っちまった。
デバイスを作り続けて以来ずっと暖めていた構想だ。
ようやく表に出せた――
「ふーん。でもそれって全部使うの?」
「……もう、おまえには話さん」
「えぇーー!? なんでさ!?」
「うるせぇ! 男のロマンがわからねぇ奴なんざ魔王様に粛清されちまえーーー!!」
ドップラー効果と微妙な哀愁を残して立ち去った。
「……なんだってのさ」
――親友にこの時間にテレビを見ろと言われていたのを思い出し読書をやめテレビを付けた。
親友というより悪友に近いんだろうかと、まだ目的の番組が始まらないテレビを見つつユーノは考える。
いや、やはり親友には違いない。どんなに煩くされても、もう煩わしいと思うことがないのだ。
悪友に近いならばそうは思えない。
理由を考えれば色々出てくるが、やはり彼が一生懸命だったのを見ているからだろう。
ずっとだ。ずっと何かに真剣に取り組む姿を見せられれば嫌でも応援したくなる。
「はぁ」
結局乗せられてるのかと思わなくもない。だが、乗ってたほうが何か起こりそうで確実に面白いのだ。
以前ならこうは思えなかった。両親が居ないせいもあってか、積極的に人に近寄ろうとは思わなかったのだから。
迷惑をかける。その言葉にいつもビクビクしていた気がする。
同じように両親が居ない、しかも後ろ盾すらない彼に聞いてみたことがある。
『迷惑を掛けるって思ったら行動できなくならない?』
彼の答えは簡単だった。迷惑を掛けたと思うなら返せばいい。掛けてないと思うなら返さなくていい。
人はどの道生きてる以上迷惑は掛け続ける。なら自分の見える範囲のみで返しゃいい。それ以上は神様にでもなって考えてくれ。
そういって笑ったのを鮮明に思い出せる。
なんのことはない、単純明快だ。やってから考える。それで迷惑を掛けたと思うならそのとき考えればいいそれだけなのだろう。
こういう答えに当たり外れはない。これは強い人間の答えだ。だが、この答えを好ましいものだとユーノは思う。
自分が弱いからだというつもりではなく、単に彼がフリードが出した答えだからだ。“らしい”とどうしても思ってしまう。
「……やれやれ」
どうも思考が彼の擁護に回るのはあの後に言われた言葉のせいなのか。
『なら、僕に迷惑を掛けてるのはいいの?』
そう続けて問いたら返ってきた答えが、また――
「では、続いて本日のゲスト若き天才デバイスマイスター、フリード・エリシオンさんです!」
目的のものが始まった。流石に緊張しているのかと思ったがいつも通りだ。
ユーノは苦笑する。
「やっぱりフリードは強いよ」
本当にそう思う。
その後、フリードの猫の被り具合に怖気が走ったりで番組を見るのが苦痛だったとフリード本人に訴えるユーノの姿があった。
「まぁまぁ落ち着けよ親友」
――「うっしゃー終わったー」
長かった、いや、あんがい短かったな。まぁとりあえずようやく学業が終わった。
金も貯まったし言う事なしだ。この世界に来たときのことが嘘の様だ。
「おめでとうフリード」
「おう、おめでとさん」
ユーノが笑いかけてくる。うむ、嬉しそうで何より。
「スクライアに戻るのか? 主席様」
「もちろんだよ。特別表彰生様」
「うっ、嫌な所付いてくるじゃないか。あのユーノ君がやりよるわ」
「あはは、お互い様だよ。それに君に散々鍛えられたんだ。これぐらいはね」
そう言って笑うユーノを見て早まったかなーと思う。
弄られてるときのユーノ君の方が俺は好きです。カムバックユーノ!
「……何やってるのさ」
空に向かって指を鳴らす真似をする俺に、ユーノが怪訝そうな顔で話しかけてくる。
「明日からもう突っ込んでくれる奴はいないんだよ? ちゃんとしないと」
「……おまえは俺のなんなんだ」
「親友、だろ?」
いい顔だな。本当に良い顔だ。
もう、ユーノちゃんってからかえないな。
「だな。じゃあな親友! また、どこかで必ず!」
「うん。また、必ずどこかで!」
空は雲一つ無く、飛んでしまえばどこまで見渡せそうな蒼天の下、
二人は硬く握手を交わした。