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No.11220の一覧
[0] とある幽霊の場合  (オリ主×再構成)[リットン](2010/03/26 21:58)
[1] 一話[リットン](2010/09/24 19:15)
[2] 二話[リットン](2011/05/01 19:10)
[3] 三話[リットン](2010/04/29 19:15)
[4] 四話[リットン](2010/04/03 00:42)
[5] 五話[リットン](2010/04/03 00:43)
[6] 六話[リットン](2010/04/03 00:43)
[7] 七話[リットン](2010/04/29 19:16)
[8] 八話[リットン](2010/04/03 00:55)
[9] 九話[リットン](2010/04/29 19:15)
[10] 十話[リットン](2010/05/03 09:54)
[11] 十一話[リットン](2010/09/24 19:14)
[12] 十二話[リットン](2010/04/29 19:13)
[13] 十三話[リットン](2010/04/29 19:13)
[14] 十四話[リットン](2010/04/29 19:12)
[15] 十五話 [リットン](2010/04/29 19:12)
[16] 十六話[リットン](2010/04/29 19:11)
[17] 十七話 A'sへ[リットン](2010/01/28 19:02)
[18] 十八話[リットン](2010/01/31 16:56)
[19] 十九話[リットン](2010/04/29 19:10)
[20] 二十話[リットン](2010/04/29 19:09)
[21] 二十一話[リットン](2012/03/20 03:00)
[24] 二十二話[リットン](2012/03/20 02:57)
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[11220] 十五話
Name: リットン◆c36893c9 ID:73b2310e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/29 19:12
やれやれ、めんどくさいねこれは。

目の前の女性を見つつ思う。

もう少し軽いイメージだったんだけどね~。

「――いえいえ、本当ですよクロノさんのお姉さんかと思いました」

「そうですか? ふふふ、ありがとうございます」

そう言って嬉しそうに微笑んでいるが、態度は子供に対して向ける態度じゃない。

明らかに一般的な社交辞令に対する大人な態度だ。

……正直、参ったねこりゃ。

内心で思わず舌打ちしたくなるのを堪える。

もう少し相手は子供という事で目線を合わせてくれる事を望んでいたんだけどね。

まさか、こんなビジネスライクな態度を取られるとは思ってもみなかった。

「ええ、本当にお綺麗で。この艦の乗組員の皆様方が羨ましい限りです」

「ありがたいですわ、例え謝辞でも嬉しく思います。普段は言ってくれる方がいませんから」

終始、笑顔、笑顔、また笑顔だ。

……伊達に艦長はやってませんですか。

この感じは管理局や他の企業の偉いさんに会った時の感触と同じだ。

一定の壁を背後に臨んでいる。

つまりは、この人は今アースラという壁を背負って、会談していた。

……堅苦しい態度に息が詰まりそうになるね。

さて、どうするか。このままでは社を背負わされてしまう。

それは、流石に御免被る。

そうなれば、何かあったときにうちに請求が来る可能性ができてしまう。

共同で事に当るなんてことになったら、うちがスポンサーで管理局が実行役という構図の出来上がりだ。

簡単な話、管理局としてはロストロギア関連だとしても、管理外世界の出来事に極力お金を払いたくはないのだ。

極論を言ってしまえば、アメリカの事件に日本の警察が出張っても税金の無駄でしかない。

是非ともうちを巻き込んで金の出費を抑え、ロストロギアだけを回収したい意図が透けて見える。

だからこそ、この人は俺にFC社も協力しますの一言を引き出したいのだろう。

こちらとしては、個人的な出費に抑えてFC社の社長ではあるが、あくまで事件に心を痛めた個人としてこの件に臨む姿勢を見せたい。

管理局の分まで払うなんて事をしたら、社に迷惑が掛かるほどの大損になっちまう。

今時、管理局に協力なんて宣伝文句にもなりはしないのだ。

それに、管理外世界の悲劇を食い止めた美談に、金の掛かる広告を入れたとしてもその美談の主役である管理局に、すべて食われるのは火を見るより明らかだった。

何よりそういう金を使ったスタンドプレーは、同業種他社にすこぶる評判が悪い上に一部の消費者からも受けが悪い。

美談に金の流れを感づかせると、碌な事はないのだ。

ならばこそ、何とかせにゃいかん。

このまま続けたところで意味は無い。

商談をやりに来たわけではないのである。

「――ふぅ、申し訳ございません。手前勝手なのですが、お互い堅苦しいのは抜きにしませんか? こういうのは、正直苦手なんです」

「……ええ、私もです。このまま進んだらどうしようかと思いましたわ」

そう言って目の前の女性――リンディ・ハラオウンは苦笑した。




「……えっと、あの、マジっすか?」

「ええ、マジです」

にっこりと微笑まれるリンディさん。

どうやら試されたか。

……こうなると色々と考えた俺は何だったんでしょうね。

べ、別に悔しくなんてないんだからね!

「……理由を聞いてもいいっすか?」

「――人が困っている、それも私たちが管理すると不遜ながらも豪語したロストロギアで。
 これ以上の理由があるかしら?」

そう矜持を語るリンディさんの姿は本当にカッコいいものだった。








――「どうだったの?」

部屋に入るなりユーノが聞いてきた。

「どうもこうも不戦敗ですね~」

自社の損益を計算した俺に対して、見事にリンディさんは矜持を示してくれた。

ロストロギア関連で民間に集る程、落ちぶれてねーよってな管理局の意地を感じた。

アレでは負けたと言わざるを得ない。

「えっ? どういうこと? 失敗したの?」

「ん~? 失敗はしてない、でも俺は負けた。OK?」

「???」

疑問符を浮かべるユーノを素通りして、部屋の片隅で談笑するなのは達のところへ向かう。

やれやれ、今のところ計画通りにはなっているけども、さっきのを見る限りこれ以上の化かし合いは避けたい。

こっちの土俵で戦う分にはまだ何とかなるが、あっちの土俵に入ったら寄り切られる可能性のほうが高い。

「――頼むから予想外の事はやめてくれよっと」

「あっ、フリードくん。終わったの?」

言いつつこちらに気づいたなのはが駆け寄ってくる。

「お~ともよ、ばっちり話してきたわ」

「……あんただけで話してきたってのが心配なんだけどね」

同じように近づいてきつつ、何やら失礼な事を仰るアルフさん。

「失礼な。ちゃんと仕事をやってきましたともさ」

「……なんて言ってたの?」

そう心配げに、ちょっと遅れるような形でアルフの横に並んだフェイトが聞いてきた。

「んっ? 万事まかせろだとさ」

「そっか……」

「よかったねフェイトちゃん!」「フェイト~」

安堵の表情を浮かべるフェイトに、なのはとアルフが両サイドから抱きつく。

そして、そのまま揉みくちゃにされていた。

「……」

これはアレか? 俺は正面から行けということなんだろうか。

見事にぽっかりとフェイトの正面に一人分のスペースが空いていた。空いちゃっていた。

考えろ、考えるんだフリード。

アレはどう見ても罠っぽいじゃないか。

なんというか飛び込んだ瞬間、俺の両わき腹が大変な事になるような気がする。

いや待て、だから何だというのか。

罠だからどうしたというのか。

「――ここは敢えて行くしか無いのではなかろうか?」

「何の話しをしてるのさ?」

遅れてやってきたユーノが疑問を投げかけてきた。

「いや、ユーノあのな。行くべきかどうか迷ってるんだ」

「……まだ、迷ってるんだ。フリードが珍しいね、やっぱりそれだけ困難ってことか」

「いや?簡単だとは思うぞ? 本当は心も決まっているんだ、でもな後一押しが足りない」

「そうなんだ……。そっか、じゃあ僕が押してあげるよ。責任は僕も持つ」

「ユーノ、おまえ……。そうか、お前も男だったな。わかった、へたれは撤回だ、一緒に行こう!」

「今更認めてくれたんだ。わかったよ、僕も覚悟は決めた!」

「おう、行こうぜ!」

ガシッとユーノの手を掴んだ。

「ああ!」

力強いユーノの魂の呼応を聞き、そして、熱い絆を武器にそのまま女の子達へとルパンダイブを決行する。

さぁ兄弟、いざ我らが魂の眠る地へと行かん――

「へっ?」

ユーノの反応が遅れた。肝心な時にミスりやがって!

くっ、大丈夫だ見捨てねーぞ兄弟。

最早、俺の身は空中にある。このままでは熱き絆という名で繋がっている二人の手が切り離されてしまう。

なんとか、なんとかせねば!

「っ――」

だ、駄目だ切れる。

ならば兄弟! せめておまえだけでも向こう側へ送ってやる!

「行けーー!! ユーノ、決して振り返るんじゃねー!!」

そう言って、ユーノごとなのは達へと放り込んだ。

「うわぁぁぁぁ!!!」

「えっ!?」「なっ!?」「にゃ!?」

後は、頼んだぜ兄弟……




「――何をやってるんだ?」

いつの間に着たのか後ろから飽きれた声でクロノが言ってくる。

「兄弟が漢になった瞬間でさぁ。クロノの旦那も見守ってやってくだせぇ」

「……あれがか?」

「ええ、あれがです」

視線の先にはユーノがなのは、フェイト、アルフを押し倒していた。

「……彼は捕まりたいのか」

「例え捕まったとしても本望だと思います。彼も責任は持つと言ってましたから」

「そうか」

そう言ってクロノがユーノ達へとへと向かっていく。

「――っ痛てて」

「あ~、ユーノ・スクライアだったな?」

「えっ、あっはい」

『Chain Bind』

「うわぁぁぁ!!」

気が付くとユーノがバインドで簀巻きにされていた。

うむ、うむ、やっとであいつも簀巻き同好会の一員になれたな。

おらぁ嬉しいぜ兄弟。

「はぁ、とりあえず大人しくしとけ――っで、大丈夫か?」

クロノがなのは達に安否を聞く。

「えっ、あっ、だ、大丈夫です」

「フェイト怪我は?」

「……大丈夫だよ」

それに対して全員無事だと答えていた。

よかった、よかった、これで丸く収まるな。

「フ・リー・ドォォォォォ!!」

何やら簀巻きにされていたユーノが怒鳴りながら転がってくる。

「どうした兄弟?」

良い転がり具合だと、サムズアップしつつ笑顔で尋ねた。

「今日という今日は絶対に許さないからな!」

「許しましょう! 許しあえるって素晴らしい事だって、スクライアの族長が言ってた」

「そんな事言う――かもしれないけど、今はそんなの関係あるか!
 幾らなんでもひどいぞ! なのは達も巻き込んだんだよ?」

「大丈夫だって言ってたぞ?」

「そんな問題じゃない! 怪我したらどうすんだ!」

「すると思うのか?」

「しない保障はない!」

「するさ」

「誰がだよ!」

「おまえさんが、だな。断言しようか、おまえさんなら怪我する勢いなら自分が犠牲になって何とかしてたね。
 だから、保障しよう。なのは達は怪我しないってな」

「……なんだよそれ」

「あれ? 違うか?」

「……」

「間違いないと思うんだけどね」

「……卑怯者」

「おぅ、褒めれられた。憎まれっ子世に憚るってな、今後ともよろしく!」

「プレシアさんに粛清されちまえ」

「はん、返り討ちにしてくれるわ」

そう言ってユーノから目線を切ってクロノ達の方を見る。

さて、そろそろだ。クロノも来たし時は満ちた。

いっちょ気合を入れていきましょうか。

「……頑張りなよ、フリード」

「……まかせんしゃい」

そのままユーノの方を見ず答え、クロノ達の所へと向かった。



「さて、さて、先にリンディさんにお話ししたとおり、すぐに決行したいと思います」

「ああ、頼んだ。もし、それで済めばこちらとしてもありがたい」

俺の宣言に対し、そうクロノが答える。

「えっと、何のお話かな?」

それに反応して、なのはが疑問顔で聞いてきた。

「それに関してはどうだろう、クロノさんに聞いてくれ」

「ああ、そうだな一応関係者だ、話しておいた方がいいだろう。別室で話すから付いてきてくれ。
 ――じゃあ、頑張れよエリシオン」

「うぃっす」

クロノの激励に敬礼して返す。

無事に帰ってこれたら、この半径1m以上に近づこうとしない少年ともよく話しをしよう。

嫌だと言っても話しをしよう。


「――あ~、フェイト」

皆と一緒にクロノに連れられて、部屋を出ようとするフェイトに声を掛けた。

「えっ?」

「母ちゃん好きか?」

「……うん! もちろんだよ」

笑顔で返される。

良い笑顔だ。まさに、可憐と称するに相応しい笑顔だった。

「……さよか」

そう呟き、にぱっとパーフェクトフリードスマイルを負けじとお見舞いしてやった。

きっと、負けず劣らず笑えたはずだ。

「――んじゃね~、皆さん」

そう言って別れを告げ、身を翻し皆とは逆の扉から出る。

さて、一足先に行こうか時の庭園へ――











――「ふふふん、やっぱりアースラに夢中ですか」

楽に進入できたのに、気をよくして呟いた。

管理局の登場に足元が御座なりになっている。

これでは、ねずみが一匹侵入したことに恐らく気づいていないことだろう。

さて、後は上手く立ち回るだけだ。

リンディさんには先に面識のある俺が最後の説得をして、それでも駄目なら合図しだい突入をお願いしますと言ってある。

フェイトの方が適任なのではと反論もあったが、今の状態では身内の方が拒絶反応を示すだの何だの言って押さえ込んだ。

管理局が、まだ今のプレシアという人物をよくしらないことが幸いした。

今の現状だと偶然ジュエルシードを手にしたおかげで取り込まれかけている、犯罪を起こさない程度に異常を抱えた可哀想な人という認識でしかないのだろう。

「――準備は大丈夫だよな?」

『……愚問ですね』

「よっしゃ、んじゃ頑張ろうか!」

そう言って向かう、プレシアの居る場所へと。








『セット完了。何時でもいけます』

「オーケー、部屋の異常を周りに気取らせるなよ?」

『問題ありませんよ、隣の部屋から観測したとしても気取らせません』

「いうね~、頼んだぞ相棒もどき――いや、Blickwinkel」

『……開発コードで呼ばれるのは何時以来ですかね』

「今そんだけ、期待してんだよ俺は」

『……そうですか。わかりましたよ、私を作った事を感謝させてあげます!』

そして、目の前にある扉を開けた――








――「アリシア、もうすぐだからね」

扉を開けた先ではプレシアが、培養液の中に漂う己の娘へと何やら語っていた。

どうやら、扉を開けた事にすら気づかない程、自分の世界に入っていらっしゃるようだ。

「ブリック、発動しろ」

『わかりました』

部屋に力場が展開していく。

「誰っ!?」

それに、ようやくプレシアが気づいたようだ。

でも、もう遅い。気づいた時にはすでにクモの糸に絡まっている。

「ども、ども、お久しぶりでございます」

「っ――あぁ、何時ぞやのクソガキね」

俺を実際に視認し、落ち着いた様子を見せるプレシア。

ふむ、なるほど、ずいぶんと舐められているね。

この前は俺の方が何も出来なかったが、今度はそれのお返しをしてやろうじゃねーの。

「ええ、その節はずいぶんとお世話になりました」

「どうやら今度こそ死にたいみたいね」

「まさか折角の生を無駄になんかしませんよ」

「そう」

プレシアの右手に魔力素が集まるのがわかる。

無駄、無駄、無駄、無駄ぁってな。

「あ~、止めといた方がいいですよ?“この中”で魔法なんて」

「煩い! 死になさいクソガ――なっ!?」

――瞬間、プレシアの形成しようとした魔法が暴走し小爆発を起こした。

「っ――がはっ!」

プレシアが己の起こした小爆発に巻き込まれ血を吐く。

「だから、やめといた方がいいと言ったんですよ。あぁ、後たぶんこれからは形成すらできないんで」

「くっ、な、何をしたの!?」

「反魔法領域――つまりは、てめぇに魔法は使わせねーよってなだけです」

「ば、馬鹿言わないで。それに、マギリンク・フィールドは正常に発生したのよ!?」

「――単純明快っすね。ただ単に魔力素自体に特性を持たせる。つまりは、ベクトルと極性を持たせただけっすよ。
 別にマギリンク・フィールドを打ち消したわけじゃないです」

そう、それだけで魔法は使えなくなる。

簡単な話、この状態で魔法を使うには一つ一つの魔力素の極性の相性を確かめつつ3つの方向軸を一辺にコントロールしなければならない。

情報量がベクトルの無限級数積の極性の数だけ累乗されるのだ。使うなら神にでもなるしかない。

「そんな馬鹿なこと……まさかジュエルシード!?」

「流石は研究者、ご名答。便利っすねこれ。マギリンク・フィールドに頼らないエネルギー変換なんてできちゃうんですから」

そう言ってプレシアに近づく。

単純なアンチ・マギリンク・フィールド――AMFでは頭脳で打ち破られる可能性があった。

だが、これならこちらからジュエルシードか反魔法領域を発生させているユニットを奪わない限りはプレシアにはどうしようもない。

「来るな! こっちにだってジュエルシードはあるのよ!?」

「だから無理っすね。この状態で干渉なんてできないですよ」

目的地まで着いたので止まった。

「……まぁ、でも問題があるんですよ。この状態だと俺も魔法は使えないんですよね」

「!? ははは、そうよ、当たり前よ! 魔力素自体が狂ってるんだもの!
 愚かね。それとも、まだ何かあるのかしら?」

好機を見出したためか、プレシアの顔が嬉しそうに歪む。

「一応あります。まぁ、こんなものしかないんですけどね」

そういって取り出したのはリチウムイオンポリマー二次電池と諸々が入った容器。

「そ、そんなものどうするっていうの」

「こうするんですよっと!」

そう言って思いっきりアリシアの入った水槽へと容器を叩き付ける。

――瞬間、大きな爆発音と共にアリシア諸共水槽ごと吹っ飛んだ。

「あ、アリシアーーー!!!!」

「おお、よう燃える、燃える」

炎がアリシアの全てを包み――そして、アリシアは形を失った。

「あぁぁ……」

煌々と燃え盛る炎の前で膝から崩れるプレシア。

「とりあえず南無~、文化的に、もしかしたら火葬じゃなくて土葬がよかったのかもしれないけど、そこら辺は勘弁してくれ」

その横で俺は軽く手を合わせる。

もしかしたら、幽霊なんぞになってるかもしれないが、とりあえず来世の幸せを祈った。

「貴様ーーー!!!!」

「おっと」

激昂したプレシアが掴みかかってきたのでそれを避ける。

「何でしょうか?」

「殺してやる、殺してやる、殺してやるーーー!!!」

「そんな目を血ばらせてもね。殺意じゃ人は殺せませんわ~」

完璧に我を忘れて突っ込んでくるプレシアにブリックを向け――

「――電撃!」

『了解』

「ひぎゃっ!」

予備に装備してあるキャパシターから電気をブリックに帯びさせプレシアを殴った。

要はスタンロッドによる物理攻撃である。

プレシアは、ひしゃげた様な悲鳴を上げた後、まるで陸に打ち上げられた魚のように全身を激しく震わせていた。

「無理しない方がいいですよ?体が悪いんですよね?」

「がぐっ……」

まだ、プレシアの身体は痙攣している。

おかしい、弱電のはずだ、普通こんなに長く痙攣は続かない。

「おい、ちゃんと手加減したよな?」

『もちろんですよ、ただこの方の体力が予想より遥かに低いんです』

「まじかよ……」

そう話している内に痙攣は治まったようだが、荒い息をするだけで一向にその場から動く気配が無い。

「えっと、大丈夫?」

「くっ、触れるな人殺しが!」

そう言って語調とは裏腹に弱々しく俺の手を払った。

「……殺したも何も元から死んでる人間ですね~」

「馬鹿を言うな! 生きていた、アリシアは確かに生きていたわ!」

「あれが生きているというなら、髪の毛が伸びる日本人形の方がまだ生きてるね」

「なっ、人形なんかと――」

「――それに、生きているというならあんたは何でジュエルシードを集めてんだ?」

「そ、それは」

「死んでたんぱく質が固まった時点で、脳が完璧に死んだ。
 その時点でアリシアさんはこの世から居なくなってますね」

「違う!」

「違わない。あんたのやったことは、ただの死体の長期保存ですわ。
 世の中、残念ながら死体が動き回るファンシーな世界じゃねーのよ」

脳が生きていたならば、あるいは可能だったのかもしれない。

だが、こんな回りくどい方法を取ってる時点で間違いなく脳が完璧に死んでいる。

つまりは、もうアリシアのパーソナリティは存在していないのだ。

残ったのはアリシアの外見をした死体だけである。

人間の思い入れだけではどうしようもできない壁が、この世界にも確かに存在していた。

人の身ではその壁を越えられないから、死ぬという概念がこの世界にも遍在しているのである。

「違う、ちがう、アリシアは、アリシアは――」

「――あんたのせいで成仏できない」

「!?」

「ってな。何時まで縛り付けておく気よ。もう、生き返らないって分かっているだろうに」

「し、知ったような口を!」

「生き返らせるより、新たに造る方を選んだ時点で推して知るべしだな。
 それに、残念ながら俺一回死んでるでね、わかるんだわ。
 母親がどんなに泣き叫ぼうとも生き返ってあげることはできねーのよ」

「な、何を言って――」

「――まっ、つまりだ、あんたとアリシアさんが会うことはもう二度と無い。
 間違いない、もう、絶対に無いんだよ」

思い出すのは俺が“俺”であった時に最後にみた病室。

そこでは、“俺”に泣き縋った母親が居た。

俺はそれを見ていた、ただ見ていた。

何もできない、何もしてやれない。

最後に母親に言った“ごめんなさい”の一言だって恐らく伝わっちゃいない。

いや、違う。間違いなく伝わりはしないのだ。

だって、“俺”は死んだのだから。

「……」

反論が途切れたので様子を窺うと、俺のほうを見てプレシアが固まっている。

……もっと、反論すると思っていたんだけどね。

何が彼女に届いたのかは知らないが、彼女は継ぐ言葉を失っていた。

アルハザードなんて物に頼ろうとした時点で彼女は知っていたはずだ。アリシアが生き返る目が殆ど無い事を。

だからこそ、俺は妄執の源を消し去った。科学者である冷徹な部分に訴えた。

そのせいか知らないが、話している最中に徐々にではあるがプレシアの瞳が理性を取り戻しているのが見えていた。

結局、彼女はどうしようもなく優秀な科学者だったのである。

状況を整理し事象を理知的に考える。感情を超越して理性が本人の願いとは逆の結果を示す。

故に、ブレーキをひたすらかけ続ける理性をどうにかするために感情を暴走させ狂ったのだろう。

しかし、その暴走させるための触媒を失ったことで抑制されていたはずの理性が再び思考を再開させてしまった。

己の行動の妥当性を感情を排してはじき出す。

その結果が今、俺の目の前にあった。

「……ふふふ、何が分かるというの?あなたに娘を失った人の気持ちが分かる?」

プレシアが自虐めいた笑みを浮かべ言ってくる。

「確かにわからんね。でも、逆の立場なら理解できる。
 目の前で親が泣き叫んでるのに、どうしてもあげられない奴の気持ちならわかる。」

「……どう思うのかしら?」

「簡単、何時までも泣いてんじゃねーよ、こっちまで悲しくなってくるだろうがってな感じかな。
 あぁ、そして最後に生んでくれてありがとう、そしてさようならってのは思うね」

「……」

「まっ、俺の場合はごめんなさいの謝罪の気持ちの方が大きかったけどね」

「……生き返らせてくれとは思わなかったのかしら?」

「思わないね。生き返って、それに費やした労力のせいで小皺が増えていたら申し訳なくてしょうがない」

「……そう。おかしいわ、こんな荒唐無稽な話なのに真実味があると感じてしまうのは何故かしらね」

「さてね」

そう俺が言うとプレシアは仰向けに倒れた。

「全て失ったわ……もう、未練なんか無い。さぁ、殺しなさい」

何を勘違いしたのか俺が殺しに来たと思ったようだ。

銀髪の死神さんにでも見えたのだろうか?

何かカッコいいけども、残念ながら鎌を持っていないので死神さんではない。

「何でだよ、人殺し反対! 俺に出来るのは死体の焼却処理までだよ。
 それに、あんたはまだ全部失ってないだろうが。娘がまだ一人いるじゃねーか」

「娘? ……フェイトの事?」

そう言ってあんな人形と呟き自嘲気味に笑う。

「そう、アリシアじゃないフェイトだ」

「……あの子はアリシアではないのにアリシアの格好をしている、あんなの愛せる訳が無いわ」

どこか覚めた表情で言うプレシア。

彼女にとってはアリシアを失った時点で会話なんぞ、どうでもいいのだろう。

動けない上に、アリシアを生き返らせる望みも絶たれた。

この会話自体が無意味であると、その表情が示していた。

「可笑しなことを言うね。アリシアじゃないんだから当たり前じゃないか、あの子はフェイトという一人のパーソナルだ。フェイトとして愛せばいい」

「あの子はアリシアとして造られたの、わかる?」

「結果に過程は必ず付随するのかよ、なぁ科学者?」

「……だとしても、だとしても今更なのよ。
 アリシアは私の全てだった、それ意外は蛇足なだけだわ」

どこか遠い目をしてプレシアが語る。

言いたくはない、言いたくはないが、それは間違いなく嘘である。

嘘であると断言できる。

子供が自分の全部であるなら、本当に自分の全てであるなら、彼女はとっくの昔に自殺していたはずだ。

すぐにでも、後を追っていたはずである。

だが、彼女は己を信じ、己の才を信じて生き残った。

信じて生きるだけのものを彼女はアリシア産む以前から持ってしまっていた。

残念ながら、どんなに否定しようと人間である以上、親にだって譲れないものはある。

己の生涯を掛けて積み上げてきたモノがある。

それは、子供とどちらが大切なのかなんていう質問で推し量れるものではない。

よくある、それを子供の方が大切なんていう奇麗事で簡単に片付けられるわけがない。

今まで生きてきた証明を捨てられるわけがないのだ。

何故なら、そう、それを捨てた者を人は死人と称するのだから――

「そりゃ可笑しい。あんたにとって研究ってのはなんだったんだ?」

「どうでもいいものね、アリシアさえ居ればよかったのよ」

「はん! そうかよ、アリシアが死んだのも、それを復活させようとしたのも己の研究なのにか?」

「……だからこそよ、私の愚かな研究さえなければアリシアは死なずに済んだのだもの」

「そこまで、否定しながら何で最後まで頼る。
 アルハザードに行くのも全部それの成果だろーに」

「……そんなもの結局私にはそれしか手段がないだけ――」

「――そう、あんたが今まで血の滲む様な思いをして磨いてきたその頭脳が選択した。
 捨てられるわけが無い、どうでもいい訳が無い。そこには己の生き方も矜持も全部詰まってるはずだ。
 幾ら否定したところで自分の中に流れる血は変えられねーよ」

「……」

「さて、じゃあもう一度問おうか。あんた自身とも言える頭脳が生み出したものがどうして愛せない?」

「……それを認めてしまったらアリシアは――」

「――消えない。そう簡単に人の想いが消えてたまるかよ。
 あんたがアリシアを愛していたというのはフェイトが証明するその姿かたちがそれを証明する」

「……」

プレシアは黙る。その表情は読めない。

だが、こんな偉そうに語るガキの言葉を考えてしまってる時点で彼女の中で何かが起こっているのは明白だった。

さぁ、俺の言葉にのせて彼女は何を賭けるのか――

「――どうするアリシアの忘れ形見を置いて逝くか?
 アリシアを忘れる必要なんてないんだ。むしろ、忘れなきゃいい。そして、ただ一人認めりゃいい。
 己の全てをぶち込んで生み出したもう一人の娘をさ」

アリシアが本能により生み出された娘というなら、フェイトは理性が生み出した娘といえるだろう。

その差はない、どちらもプレシアの全てが詰まっているはずだ。

後は、プレシアがどう捉えるか――

「――フリード!」

声のした方を振り返ると、息を切らした黒衣の少女が居た。










――「ブリック他には?」

『彼女一人です』

「さよか。よぉ、フェイト」

フレンドリーに話しかける。

まさか、こんなに早く来るとはね。

しかも、一人だけとは好都合。

俺の勘が正しければ後もう少しでプレシアは釣れる。

言いかえれば、もう一押しが必要だった。

それは、彼女――フェイトが賭けるべき存在かどうかで決まる。

さて、もういっちょ頑張ろうか。

「えっ……」

フェイトが俺とその横で倒れているプレシアを交互に見つめ息を詰まらせた。

「どうした、フェイト」

「えっと……フリードが母さんに会いに行ったって聞いて心配で前みたいになるんじゃないかって。
 でも、これはどういう? 母さんは? いったい――」

「――ストップ、ストーップ! まぁ、簡単だちょいとムカついたのでヤキ入れちまった」

「なっ、えっ、……嘘、だよね?」

嘘であることを願っているかのような表情でフェイトが聞いてくる。

「いんや、嘘じゃないね。前、あんだけボコボコにされたからね。お返しにボコボコにしてやった。
 本気出したらあんまりに弱いもんだから拍子抜けしちまったよ」

「……フリード?」

「さて、さて、こんなおばちゃんとこれ以上話しても無駄だね。行こうかフェイト!」

「……何を言ってるの?」

俺が言葉を発する度に、フェイトの表情は険しさを増す。

「何って、だからこれ以上こんなのと話しても無駄だって」

そう言いながらブリックでプレシアを突っついた。

「うぐっ」

「っ――か、母さん!」

「おっと、ごめん、ごめんブリック。変なもん小突いちまったな」

『……問題な――いえ、そうですね、こんな汚らわしい物を近づかせないで下さい』

「っ――!?」

フェイトが大きく目を見開いて絶句する。

信じられないものを見たという目でこちらを見ている。

「後で洗ってやるからな?」

『ええ、お願いしますよ』

「……フリードどうしちゃったの?」

困惑と悲しみと色々とミックスしたような表情をするフェイト。

「んっ、どうしたも、こうしたも俺は何時だって自分に正直に行動してるね。
 プレシアがムカついたから、ぼこった。それだけですね~」

「……騙したの?」

「んっ? 騙した覚えは無いけど、騙されたんなら騙される方が悪いね。無用心すぎですわ~」

「……」

すでに、フェイトは俺の方など見ず俯いていた。

「まっ、こんなところで無駄話もなんだし、とっとと行こうぜ?
 こんな暴力ばばぁと一緒に居る必要は無いって。俺と来い、幸せにしてやるよ!」

「……」

「一緒に来たら、そうだなぁ……このばばぁと違って一緒に居て上げられるし、金もそれなりにあるから不自由なく生活できるぞ?
 毎日、毎日、そりゃ楽しい生活が待ってる。あぁ、そうだ、なぁフェイト俺がお兄ちゃんになってやるよ!」

「……」

「どうだフェイト、嬉しいだろ?」

「……離れろ」

「んっ?」

「母さんから離れろって言ったんだ!」

そう言ったフェイトの目は敵意に満ちていた。

出会ってから今まで、ここまで激しい憎悪の目は見たことがない。

「……ブリック反魔法領域をプレシアから半径2mに固定」

『了解』

一旦、固定してしまうとすぐには解除できないが最早、プレシアは動けない。

これぐらいで固定してやれば十分だろう。

「あんたの娘はアホだな。幸せになるチャンスを自ら捨てるんだとよ」

「……」

プレシアは何も語らない。フェイトが現れてからずっとフェイトだけを見ていた。

何か遠い物を見るように呆けて見つめている。

「ふぅ、さてブリック。久々の戦闘だな、いけるか?」

フェイトを見つつ、ブリックに聞く。

視線の先のフェイトは、今にもこちらに向かってきそうな気配がある。

『愚問です。ですが、こんな半分予想外の戦闘を起こして収集つけられるのですか?』

「さぁてな、少なくとも賭ける価値はあるね」

人間、共通の敵を持った方が仲間意識は働く。

後は、あの憎悪が篭ったフェイトの目を見てプレシアがどう思うかだ。

あの感情をむき出しにして激昂している姿を見てどう感じるか。

人形ではない人間の生の感情を見てどう判断するか。

「それにしても、あ~あ俺嫌われちった」

『自業自得でしょう。あれだけやればもう仲直りも絶望的です』

「……気が滅入るね。うっしゃ、せめてプレシアだけでも釣り上げましょう!」

『……あの人にそこまでの価値はあるんですかね?』

「当たり前だろ。友達や恋人なんざ、これからいくらでも作れるが、本当の母親ってのは残念ながらプレシア一人なんだよ。
 この世界に一人しかいねーのよ。それを俺なんていう粗末な餌で釣り上げられるならこれ以上のことはないだろーよ。
 ――さぁ来るぞ! 積極的善意を押し付けてやろうぜ!!」

『……しょうがありませんね、ええ返品不可で送りつけてやりましょう!』

ハーケンフォームでサイズを上段に構え突進してくるフェイトに、ブリックを構え向かっていく。



――そして、金と銀の攻防が始まった。



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