注)この話よりEXとULの月詠を分ける為、ULの方を「真那」、EXの方を「月詠」で統一します。2005年2月11日……白陵柊学園 グラウンドから入ってきた(真那の知る常識的なリムジンよりやや)長大なリムジンと2つの超大型トレーラー、そして白銀武と3人の人影。 先程通信機越しに冥夜の叫びを聞いた真那。その叫びは白銀武の存在がこの世界の冥夜にとって・他の者にとってどんなに大切な存在であるかを垣間見させた。 真那はその事を脳裏に留めながら武御雷の外部カメラを望遠モードに持っていきその3人の顔を注視した。 (冥夜様……、やはり武の言っていた通り似通っている。しかし……。) 武からこの世界では悠陽殿下に当る人は既に故人となっており、存在するのは冥夜だけと聞いていた、そしてその冥夜が真那がいた世界の冥夜とそっくりだと。 確かに似通っていた、顔の作りはそっくりであり真那が知る冥夜と見た目には相違は無い、しかし……。 (やはり別人だ、育った環境が違えばこうも違うものなのか……。) 自分の世界の冥夜を良く知る真那にとって、今モニターに映るこちらの世界の冥夜は全く違う人物、同じ心と顔を持った別人だと認識できていた。 勿論根本的な部分は変わらないだろう。しかし、顔付き・体付き・動作、全てが自分の知る冥夜と違っていた。 そして…… (香月副指令、副指令との接触はほとんど有りはしなかったが……。) 香月副指令とはほとんど接点が無かった、しかしそれでもモニターに映る夕呼とは別人だと認識できた。 (目だ……、あの全てを見通すような鋭い眼光が無い。) 香月副指令は好奇心を湛えた瞳をもしていたが、その大半は全てを見通すような鋭い眼光……それは未来を見詰める目線、未来を勝ち取るために戦う戦士の目であった。 だが今自分が見ている夕呼の瞳の奥には好奇心の塊しか見えない、それは純粋なる科学者……知識を探求する者の目であった。 最後に…… (あれが……この世界の「私」か。) 「月詠真那」。自分との同一存在、違う世界の自分。 自分に瓜二つな彼女の事はよく解らなかった。自分と違う存在だという事は他の2人と同じく実感できた、しかしその目に宿る光が……そのあり方がよく解らない。 真那は暫らく、この世界の「月詠」の顔を凝視していたがやがて目線を外した。 (考えても解らんか……。) 見ただけでは解らない、とりあえず自分と違う存在だと解っていればそれでいい……一応そう納得した。 〈ピピピピ〉 少しの時間待機してるとやがて通信が入る。 『話は終わりました。』 「そうか、もういいのか?」 『ええ』 「では武御雷を動かすのだな?」 『はい、頼みます。』 「どうすればよいのだ?」 『ここにあるトレーラーが見えていますか?』 「ああ、確認できている。それに接近すればいいのだな。」 『そうです。じゃあゆっくりとお願いします。』 至極簡単なやり取りの後武の通信が切れる、真那は遠隔操作で武の機体を、そして自分の機体の動力をアクティブに持って行きゆっくりと武御雷を立ち上がらせる。 そしてそのまま武達の方へ向かい静かに歩を進めだした。白陵柊学園グラウンド 冥夜・月詠・夕呼の3人は驚愕して「それ」を凝視していた。3者それぞれに驚愕とは違う感情……疑問と疑惑と好奇心……を瞳に宿しながらゆっくりとこちらに向かってくる「それ」を目で追っている、そんな3人を武は苦笑して見ていた。 (そりゃ~ビックリするよな~。行き成りこんな機械が現れたら。) こちらの世界にこのサイズの2足歩行機械は存在しない……少なくとも武が居なくなった時までは存在していなかった。 ましてや武御雷の威風堂々とした様相にはその驚愕の度合いも一押しだろう。 驚愕する3人を代表するように冥夜がその疑問の口火を切った。 「武、これは……一体なんなのだ?」 その質問に武は「それ」の方を軽く見上げて言った。 「戦術機」 「戦術機?」 「そう、戦術歩行戦闘機。名を武御雷」 「たけ……みかづち……。」 冥夜は武と同じ様に近付いてくる2機の武御雷を見上げる。 「どうやって動かしているのよ、あれは?」 更に横から夕呼が質問してくる。 「俺の仲間が中で操縦していて、もう1機を遠隔操作してるんです。」 「仲間……でございますか?」 「武の仲間……、ではやはりそなたは何処かの組織に……。」 月詠と冥夜がその言葉に反応する、冥夜は口の中で武に聞こえない様に言葉を呟く。 武が居なくなった時に可能性として高かった推論、何処かの秘密組織の隠蔽という事が考えに浮かんだためだ。 そんな2人に構わず武と夕呼の話は続いていく。 「やっぱりもう1人誰か居るのね。」 「夕呼先生にはお見通しですか。」 「少し考えれば解る事よ。2機の見知らぬ2足歩行機械、そして此処に1人居る白銀。」 「やっぱり夕呼先生に最初に連絡を取って正解でした。」 「私はいい迷惑だったわよ……まあ、面白くなってきたから帳消しにしてあげるわ。後でキッチリ説明してもらうわよ。」 その時夕呼が武に見せた表情は、人間と魂の契約を取り結んだ時の悪魔の微笑みと言われても納得できそうなほどに怖い笑みであった。 その笑みに脂汗を滲ませながらも武は月詠に対して次のお願いをする。 「それじゃ月詠さん、これをトレーラーに乗せますから固定して外から解らない様に防水シートを掛けてくれませんか。」 「それは……しかし……。」 「良い月詠、言う通りにせよ。」 「しかし冥夜様!」 「例え3年経とうとも武は武、目を見れば私にはそれが解る。武が嘘をつく事や人に危害を加える事などありはせぬ。」 事情は後で説明してくれると言った、その言葉に嘘偽りは無いと冥夜は確信していた、そして武から危険が感じられない事も。何故か……? それは冥夜にもハッキリとは解らなかった、しかし冥夜は今の武の本質が昔と変わっていないことを直感的に理解していた。 「ですが……。は……冥夜様の御心のままに。」 逡巡していた月詠であったが敬愛する冥夜の頼みだ、断れよう筈もない。冥夜へ危険が降りかかる可能性も否定できないがその時は……自らの命に代えても冥夜様を御守りいたしましょう……と、そう決意した。 「では武様、あの戦術機と言う機械をトレーラーに載せてくださいませ。」 「解った。すまないな、冥夜、月詠さん。」 武は軽く手を上げて2人に礼を言うと、また虚空に向かうように誰かと話を始める。 「それじゃあトレーラーに載せて下さい、……ええ、膝立ちで。ワイヤーで固定してもらいますが重心移動をオートに設定しておいて置いてください。それじゃあお願いします。」 その武の言葉が終わると戦術機……真紅の武御雷はトレーラーに慎重に足を載せていく。 ゆっくりと……重量の掛け方を調整して、屈んだ姿勢のまま片方の膝をトレーラーに載せる。次いでもう片方の足をゆっくりと載せそのまま手を膝横に付いた前傾姿勢の膝たちの状態でトレーラーに載った。 次いでもう1機の漆黒の武御雷を同じ様な要領でトレーラーに積載して行く。 武を含めた4人はそれを好奇心と不安を含めた目でジッと見詰めていた。 2機の積載が終了すると月詠は何時の間にかトレーラーの周囲に待機していた自らの部下である侍従達に命令を下す。 命令を受けた侍従たちは、積載された武御雷を固定して防水シートを掛け更にワイヤーで固定していく、その手際は武から見て恐ろしく的確で迅速だった。さすが月詠さん直属侍従、どんな事でも完璧だ……と感心してしまった。 ものの5分足らずで固定が完了してしまった、正にプロ級の業だ、向こうの世界の熟練戦術機整備員の腕前に匹敵する……一体どんな侍従教育をされているんだろうか? 激しく疑問な武であった。 「固定は完了いたしました。」 「うむ、では参ろうぞ。」 「そういえば何処に運ぶんだ?」 「町外れの工場を買い上げました、私的な資金を使用して現金買収しておりますので足が付く心配はございませぬ、ご安心を。」 「いや……。私的な資金……買い上げ……? 久々だけど相変わらずのスケールだな。」 自分が戦術機を隠匿できる場所を確保してくれるように頼んだのだから有り難かったが……。そのスケールの大きさは3年振りに味わうが相変わらずのようだった。 「ほらほら! 寒いんだから早くしなさいよ。」 呆れているというか感心している武に夕呼が急かす。どうやら知的好奇心を揺さぶった興奮が過ぎた事で現実の感覚が押し寄せ、この寒空の下にいるのも限界らしい。 4人はリムジンへ乗り込む。依然一文字鷹嘴が運転していた超大なリムジン程ではないがそれでも普通のリムジンよりは長かった。 武は冥夜と向かい合わせに、月詠は冥夜の横、夕呼は武より少し離れて座る。 全員が座った後計ったようにリムジンがゆっくりと発進する。 「今更だが武、先程の武御雷とやらに乗っていた仲間というのは一緒に乗らなくて良いのであろうか?」 リムジンが発射した直後に不意に冥夜が武に質問する。 「何かあった時の為に待機しているってさ。」 「何か? あの武御雷とやらが危険に陥る事がそうそう起こりうるのか?」 「どんな時でも戦士は万が一の事態に備えるべき……それが当たり前だったしなぁ。それにそういう所は堅物だからな……。」 武は真那の事を思い出して苦笑する、それがやけに嬉しそうに見えて武を見詰める冥夜は何となく面白くなかった。 「白銀、その奇妙な服はやっぱりパイロットスーツのような物よねぇ。」 「これですか。ええ、そうですけど……。」 「ふ~~ん。」 先程から黙って何かを考えていた夕呼は突然に質問してその答えを聞くとまた思考の内に没頭してしまう。 きっと今夕呼の頭の中では様々な情報が飛び交っているのだろう。 (夕呼先生の事だから俺がどうしてたかも大体予想が付いているんじゃないかなぁ。) こっちの世界ではまりもに「夕呼は天才」位にしか聞いていなかったが、向こうの世界では夕呼の天才振りが十二分に発揮されていた。 根幹部分が同じならばこちらの夕呼もやはりまりもの言う様に「天才」なのであろう。 それきり4人は黙り込んでしまった。 冥夜は「みんなが集まってから」という手前約束を破る訳にはいかん……と持ち前の高潔さの為話を切り出せなかったし、月詠は冥夜を差し置いて発言はしない。夕呼は思考に没頭しているし武は色々気まずくて自分から話を切り出せない。 武御雷の中の真那も成り行きは武に任せて、自らはジッと沈黙を守っていた。町外れの工場 あれから数分、4人はジッと沈黙を保っていた。冥夜はソワソワし、月詠は油断なく武を注視している、夕呼は時折指で空中に何かを描いていて、武はその沈黙に固まっている。 重苦しい数分間だった。 その時月詠が不意に何かに気付いたように顔を上げる。 「皆様方、到着したようです。」 連絡も受けなく外も見ないでどうやって知ったのか……武は激しく疑問だったがこの際どうでも良かった。今の一言で重苦しい雰囲気が一気に霧散したからだ。 そのままリムジンは大きな工場に入っていく、既に中はある程度掃除済みらしい、工場にしては綺麗なものだった。 月詠の直属侍従が何人いるかは解らないが30分足らずでここまでやるとは……相変わらず底が知れないと思った武であった。 そのままリムジンが停止したため武はドアを開け周りを見ながら外に降り立つ。 その瞬間…… 「タケルちゃん!!!」「白銀君!!!」「たけるさん!!!」「白銀……!!」「タケル!!!」「白銀くん!!!」 懐かしい声が聞こえた。どうやら工場の内観に夢中になっていて反対側への意識が疎かになっていたらしい。 その場で反対側に体を向けさせる、月詠さんが気を利かせたのか何時の間にかリムジンは後方に消えていた。 (純夏・委員長・タマ・彩峰・尊人・まりもちゃん) 純夏以外は懐かしいとも言えないが、この世界のみんなに会うのは本当に久しぶりだ。 まりもちゃんは全然変わっていなかった、尊人は少し背が伸びたみたいだが相変わらず女の子と見間違えられそうな顔だ。 タマも向こうの世界と同じで少し背が伸びてほんの少し女らしくなっている、……がこちらの世界のタマはやはり姿はネコ? 委員長・彩峰も向こうの世界と変わらない、2人とも年相応に成長して女らしくなっている、委員長が髪を下ろしている以外は向こうの世界と差異はなかった。 そして純夏は…… (他の皆はある意味見慣れているけど、純夏は新鮮だよな~こうやって見ると……。) やはり年相応に美しく成長している、冥夜と方向性は違うが間違いなく美人の部類に入るだろう。髪が少し長くなっているがアホ毛は変わっていない、今もピコピコと動いている。 感動した……確かに純夏にあえた事は嬉しかった。 向こうの世界に行って暫らくしてから純夏の事を愛しいと思う様になっていた、あの当時はたまらなく純夏に会いたかった。 でも今は……狂おしいほどの渇望は無く、ただ懐かしいと思った。 だって自分はもう純夏を求めていないから、もっと大切なものが存在するから……。 大切な友達……大切な幼馴染……仲の良い人……。 「よう、久しぶりだなみんな!」 そんな皆に冥夜達に会った時と同じく、やはり気楽な感じで片手を上げて挨拶をする武。気楽と言うか……本人は湿っぽい挨拶や大仰な挨拶は苦手な為に普通に挨拶しているだけなのだが。 そんな武に皆は少々唖然とする、そして次の瞬間反応が分かれた。 委員長は拳を固めブルブルと怒りだし。 タマは泣きそうな顔になり。 彩峰は同じ様に片手を上げて挨拶を返してくる。 尊人は嬉しそうな顔になり。 まりもは心底ホッとした表情だ。 そして…… 「た~け~る~ちゃ~ぁぁ~ん~~。」 純夏は泣きながら怒りに震えるという器用な反応をとっていた。 武はそんな純夏に危機を覚える。3年経っても、戦士として成長しても、体は純夏の恐怖を覚えていたらしい。 「こぉ~の~お~お~ば~か~も~の~!」 腰を捻り回転させ左の拳を引き絞る。 (こ・これは! まさか!!!) そう……あの幻の必殺!! 「今まで……なにをやっていた~~!!!」 どりるみるきいふぁんとむ!!! 武はそれを回避しようと足を動かそうとするが過去の恐怖が肉体を支配し足が動かない……。BETAとの戦いで培った動体視力は迫ってくる左手の軌跡まで読み取れているというのに。 (くっ……、南無三) らしくもなく祈りながら回避は諦め腹筋に力を込める。 そしてインパクト!! 〈ドンッッ〉 「あれ???」 「おお!!?」 しかしその幻の左は鈍い音を立てて武の腹筋に阻まれた。 左手を振り抜く前に肉の壁に止められた純夏、彼女は驚愕して武を見上げた。 驚いていたのは武も同じだったが……。常識的に考えれば実践仕様で鍛えた、成人男性の力を入れた腹筋に女性の一撃が通じるはずもない、この結果は当然だ、ましてや今は衛士強化装備を身に着けている、防御は完璧だ。 しかし衛士強化装備を通してでも衝撃が伝わるとは……いくら純夏の一撃が規格はずれだからといっても外れすぎだ。(普通の女性じゃ〈ボスッ〉です、まちがっても〈ドンッッ〉なんて重い衝撃音は出ない。) 武は心底安堵した、何か少しだけ向こうの世界での苦労した出来事に感謝してしまった。南無……。 そんな事は知らない純夏は悔しそうに唇を引き結び泣きそうな顔で武を見上げて言った。 「ニセモノ。」 「なにぃ!!」 その言葉に思わず昔の様に突っ込む武。 「タケルちゃんがギャグキャラよろしくお星様にならないなんて……そんなのニセモノだよ!!」 「お前は一体俺を何だと思っている。」 〈ズビシィ〉チョップ 武の軽い一撃……のはずだが、今の武が昔の感覚で「軽く」打てば…… 「あいたっっ。う~~酷い、酷すぎる、久々に会ったっていうのに思いっきり殴るなんてひどすぎるよぉ~~。血も涙もないこのタケルちゃんの所業、最早許すまじ!」 「え~い、軽い一撃でそんなに騒ぐな! うっとうしい。」 「軽い! あれが軽いですってぇ!! キィ~~~、この暴力人間、薄情野郎、タケルちゃんのバ~カバ~カ!!」 「うるさい、このバカ純夏。」 「バカって言った、今バカって言ったよぉ! バカって言う人は自分がバカなんだからね!!!」 「黙れこの超弩級バカ! 先にバカバカ言ったのは自分だろうが。」 「うわ~~ん、酷い……タケルちゃんが酷いよ~~。」 「「「「「「「「………………」」」」」」」」 行き成り漫才宜しく言い合いを始めてしまった2人に対して他の8人は最早何も言えずにそれを傍観する事しか出来なかった。 「この2人本当に3年振りの再会なんだろうか?」……と激しく疑問に思ってしまうのも無理はない。しかし皆何処かで解ってもいた、この2人にとってこのバカみたいな過去日常であったやり取りこそが再会の挨拶なのだと。 それは間違ってはいなかった。純夏は既に涙で前が見えない程で泣きながら言い合いを続けている、武も武で純夏のバカな言い合いに付き合っている。今の武ならば少しくらい文句を言われたって昔の様に向きになって反論する事は無いはずなのに……。 そしてその言い合いは暫らく続き、他8人はそれを周囲で呆れたように・微笑ましそうに見詰めていたのであった。 皆の武の名前の呼び方がカタカナ・平仮名なのは昔のタケル的に呼んでいるからです。 冥夜・月詠・夕呼の3人が武と呼ぶのは武の変化に気付いて対応しているからです。 間違いではありませんのであしからず。 キャラのセリフというのは難しい……。執筆速度が2分の1程度に落ち込みます。 実はこの辺の内容は深く考えていません、設定上は幾つかあるのですがほとんどノリです。 おかしかったらご勘弁の程を……余り酷いようなら修正しますが。