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No.11215の一覧
[0] 妙薬の錬金術師(現実→鋼の錬金術師、転生TSオリキャラ)【R15】[toto君](2012/03/30 23:20)
[1] 1話[toto君](2009/10/02 00:13)
[2] 2話[toto君](2009/10/02 00:13)
[3] 3話(さらに修正)[toto君](2009/10/02 00:13)
[4] 4話 上編 (修正)[toto君](2009/08/28 15:40)
[5] 4話 下編[toto君](2009/08/30 19:41)
[6] 5話 上編(修正)[toto君](2009/09/27 12:01)
[7] 5話 下編(修正)[toto君](2009/09/15 15:29)
[8] 6話(修正)[toto君](2009/09/18 22:28)
[9] 7話 上編(修正)[toto君](2009/09/18 22:53)
[10] 7話 下編[toto君](2009/09/26 17:32)
[11] 8話[toto君](2009/10/02 00:30)
[12] 閑話[toto君](2012/03/25 16:10)
[13] 閑話2[toto君](2012/03/25 20:50)
[14] 実家編1話[toto君](2012/03/27 00:20)
[15] 実家編2話[toto君](2012/03/26 23:34)
[16] 実家編最終話 【暴力表現あり】[toto君](2012/03/30 23:17)
[17] キメラ編 1話[toto君](2012/03/30 20:36)
[18] キメラ編 閑話[toto君](2012/03/30 20:46)
[19] キメラ編 2話[toto君](2012/03/31 07:59)
[20] キメラ編 3話[toto君](2012/03/31 13:29)
[21] キメラ編 4話[toto君](2012/04/15 19:17)
[22] キメラ編 5話[toto君](2012/04/01 10:15)
[23] キメラ編 閑話2[toto君](2012/04/02 00:30)
[24] キメラ編 閑話3[toto君](2012/04/02 12:08)
[25] キメラ編 最終話 上[toto君](2012/04/02 20:50)
[26] キメラ編 最終話 下[toto君](2012/04/03 02:45)
[27] 9話[toto君](2012/04/15 19:18)
[28] 閑話 魂の合成 自己採点編[toto君](2012/04/15 19:17)
[29] 閑話 怠惰な兵士と戦うアルケミスト 1話[toto君](2012/04/16 02:33)
[30] 閑話 怠惰な兵士と戦うアルケミスト 2話[toto君](2012/04/21 23:49)
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[11215] 9話
Name: toto君◆b82cdc4b ID:70257aa7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/15 19:18
ネミッサ・ウェッジウッドという一人の女性の話をしよう。


アメストリス中央にある【茶葉専門流通店 ルベド】のオーナーであり、紅茶を愛する人々からは
博士、教授等と渾名されるアメストリスでは数少ないティーコーディネーターである。

元々は西部アメストリスの商家の娘であり、同じ他の商家に嫁ぐのが彼女の本来の未来だったが
それに嫌気が出て、家を飛び出し、家で受けていた教養を元に立派に一人で個人商店を立ち上げた才女である。
黒い後ろに纏め上げられた髪に上品な優美な猫のシルエットを胸にあしらった赤いコートジャケットの下にはパンツスーツ。
黒縁眼鏡がその彼女の利発さを引き立てる。
彼女はサイズが少し大きめでずれ下がる眼鏡を中指で上げながらコツコツとパンプスで南部の街にある大病院の床を鳴らしながら歩く。

「ユーリめ、中央の私の店にも来ず、連絡の一つも寄越さず、黙って結婚するかと思えば入院。そして今更、一体どれほど私を怒らせる気………?」

彼女の肩にショルダー・バッグその中には彼女が作り上げた作品の一つである
乾燥した矢車菊などを香料に混ぜた紅茶、彼女の最新作であるフレーバーティー「エリクサー」が入っている。

「紅茶缶を開ければ幸せの香りがする」というキャッチフレーズで現在売り出す予定の試作品だ。


ネミッサ・ウェッジウッドは正真正銘の天才である、とユーリック・バートンは彼女に言う。
なにせ彼女こそ、この世界でのアールグレイ紅茶の生みの親である。
シン国の漢方茶を元に彼女独力で考え出したアメストリスで生育するベルガモットオレンジに似た柑橘系の果実を香料とした
フレーバーティーを作った女性である。

アールグレイではなく、プリンセスと呼ばれているこのアールグレイ紅茶は、近年アメストリスの暇を持て余し、茶会が趣味な婦人達からは大変人気がある紅茶である。
ちなみに大総統の奥方お気に入りの銘茶である。

なんでも、大総統の奥方が好きだからこの紅茶の名は【プリンセス】

「アールグレイの名が…この世の歴史から…」

とユーリックが嘆く一品である。



ユーリック・バートンが新聞に紅茶理論を掲載した時に彼女が興味を持ち、彼女がユーリックの研究所に赴いた。
その時以来、ユーリックの友人兼、テスターとして数年の付き合いがある。
初めてユーリックが彼女の紅茶を飲んだ時に

「ウェッジウッド…………トワイニングさんはいないんですか?」

と訳の分からない言葉を口走ったようだが、それ以来ユーリックは様々な提案を彼女に行なっている。
茶葉の粉末製法であるCTC、そしてウェッジウッドだから…という理由でシン国製の陶器をアメストリスのような欧州風に変えた
茶器の製造の提案など様々であり、ネミッサにとってユーリックは代え難いアドバイザーである。


「まぁいい、精々怒ってやろうっと」

ネミッサは口を綻ばせながらユーリックのあの困り顔を脳裏に浮かべながら歩く。

そうしてユーリックが入院しているという部屋に近づくと。

「マーガレット?」

ハンチ帽がトレードマークの隠れた金髪が目に入る女性に出会う。

「お、プロフェッサー・ネミッサ、こんにちは、今日もいい天気で嫌気が差しますねぇ、私みたいな物書きにとっちゃあ
この南部の太陽光線は非常につらいものですよ、日々暗室か事務所に篭もっているのですからね」

首にはまるで武器のような無骨なカメラをぶら下げ、ペンとメモ用紙を片手に歩くマーガレット・クライスリー。

彼女もユーリックの知り合いであり、中央で娯楽中心の文章を新聞で掲載している。
そして、優先的にユーリックの発明を取り上げる記者である。
東西南北と他国との小競り合いで忙しいアメストリスの新聞はなんとも無骨である。
その中彼女が書くのは市民の生活を中心としたもので、ユーリックはマーガレットのファンである。
新聞はテレビ欄と過去に思っていた文才がないユーリックにとって、彼女の書く文章は大変面白いものらしく、新聞といったら彼女の文章だと言う。


マーガレットも数少ない女性の国家錬金術師も注目しており、よくユーリックの研究所に記者として訪れる女性だ。

「こんにちはマーガレット、貴女もユーリに?」

「ええ、そうですよぉ、なんと、あの赤毛の小娘ぇ、私に黙って実家に帰って結婚するらしいじゃないですか、
そして今更私に連絡……これはもう、怒り心頭ですよぉ、あの墓みたいな研究所も取り壊して………なんて勝手な」

「また煙草…ってゆうかここ病院、病院」

マーガレットは腰のポーチから紙巻煙草を出して火を付けようとするのに対し、ネミッサは眉を顰める。

「おっとこれはいけないですねぇ」

慌ててポーチに煙草を仕舞うマーガレットに溜息を吐くネミッサ。

「イライラするのはわかるけど、煙草吸うのはどうかと思うわよ?」

アメストリスでは女性で煙草を呑むのは倦厭される。
年嵩が入った人々は皆、ネミッサの様に眉を顰めるだろう。
流産の可能性が上がるので女性には煙草はよくない、と

「なぁにそんな差別するやつは願い下げですよぉ」

個人の自由ですよこんなもの、とマーガレットは笑う。

「ま、元々私のお茶の味がわからないぐらい馬鹿舌だから、今更か」

タールとニコチンと苦い泥水の中に落ちろ、と
煙草にコーヒー派のマーガレットに冷たい視線を送り、ネミッサはユーリックの病室に向かって一人歩き始める。

「ちょおぉと待ってくださいよぉ教授」

「やめなさい、煙草臭い…あと背中に貴女の商売道具が当たって痛い」

ネミッサは背に抱きつくマーガレットに大変嫌そうな顔をする。
そう、言いながらも二人が仲良く病院の中を歩いていると。

「あら、またユーリのお客さんね?…………はぁ、また女性ばかり………あの子」

と長い美しい赤い髪を首と共に斜めにガクリ、と揺らしながらドレス姿の貴婦人が一人その二人を遠めで眺めて溜息を吐く。

ユーリック・バートンの母、アニー・バートンである。

多分また独身なんだろうなーと思う、若い女性二人を眺め、このまま結婚させた方が本当に安心するのかしら?
とアニー・バートンは思う。



恋は戦いだ、と過去に多くの恋敵達と男性を取り合う、ドロドロとした戦争よりも時には陰惨で陰湿で権謀術中な戦いも好んでおり
恋の戦いが好きだが、取り合う男性を取ったあとは興味が湧かない、という元バツイチのアニーにとって、娘のユーリックはつまらない子である。

若き日の自分の様に男性に好まれる容姿をしておきながら、これまでほとんど異性との浮いた話一つない娘。
女性には色々な男性と巡り合って経験を詰むのが大事よね、と快くユーリックの一人暮らしを了承したが、結局は引きこもって研究一筋。

兄の考えは知らないが、やけに男性的なアームストロング家の婚約者はアニーにとっての希望だった。
ユーリック自身は気付いてないが、どちらかというと彼女の周囲には女子供ばかりが集まる。
ユーリックの病室から片時も離れようとしない、あのパトリシアの件もあるのだ。





あのむさ苦しいほどの男臭さはユーリックとってピッタリだとアニーは考えている。

「あの子ほうっておくと、無駄に女性をはべらして一生独身で生きて行きそうだもの……あのまま、あの男臭さに押しつぶされればいいのよ」

と、アニーは考える、そして、結局結婚は延期となったが、このまま無理矢理結婚させようかしら、と。
さらに病室で呟く、「シルビア」という、どう考えても女性の名前に不安な気持ちを抱く。

「しかも勝手に折角伸ばしていた髪を切ってしまうなんて……なんて子よ、親不孝だわ」


目覚めた瞬間、どうやったのか、「ああ、邪魔ですね」の一言を言いながら自らの髪を鬱陶しそうに触り
病院の看護婦をどう口説いたのかしらないが、病院の看護婦が総出で勿体無いと言われながら髪を切って貰ったという話だ。

「ずっぱりやってくださいね」

「ほ、本当に、良いんですか?」

若い看護婦の一人が残念そうに尋ねる。

「ええ、すっきりしたいですから」

わざわざ髪用の鋏を用意して貰わなくても
本当なら、銃剣使って自分で切り落とすつもりでしたから。

と悪戯な少年のように微笑むユーリック。


「それは駄目です!」

「じゃあ、丁寧によろしくお願いしますね、私、こういうの苦手ですから」

背中にたなびく赤毛を手に乗せ、軽々しくそう言う。

「じゃあ……本当に切りますね」

「お礼は、あとで……そうですね、私が退院したら一緒にお茶でもしましょうか?」

ご馳走しますよ、美味しいの、とユーリックは言う。

ユーリック・バートンは微笑んで、透き通った瞳を看護婦に向ける。
その瞳の奥にはどこまでも透き通った決意が宿っている、焔の中に飛び込む決意、戦う決意が宿っている。
その眼で言うのだ。

「ほら、切ってください――――――全部任せますよ、貴女に」

「―――――はい」



という押し問答はこの病院の看護婦の中では持ちきりだ。

まるで王子さまみたいだった、とか看護婦達が今もきゃあきゃあ、言っている。


そしてあの腰の近くまでの髪がばっさりと首に掛かる程度に切り揃えられたのを見て、母として女として思わず殺意を抱いた程だ。

そして気付くと一本芯が通ったような燃え盛るような意志が瞳に宿り
今までユーリックになかった筈の凛々しさが生まれ、益々どこか変な方向に美しくなったと母は思う。

「恋をすると女性は美しくなる、っていうけど、絶対あれは違うわよ………不安になるわ」

母として言葉を何度か交わしたが、珍しいほどの断固とした口調で今月の結婚を拒否する娘。
兄は「いまになって………やっと狼になるか、そして戦いに挑む戦士の眼だ……これはこれで楽しみだな」と結婚を延期を軽く了承してしまうし。

淑女としての戦いを自ら教えたアニーとしては本当に不安だ。

「でも、まるでナイフの様に鋭利になった空気が今のユーリにはあるわね、楽しみね……………結局、私もバートンか」

人と血を流し合う闘争が本来の全力で出来なくなったアニーにとって戦いという生きがいを女の戦いを眺めるのが生きがいとして
誤魔化していたが、やはり戦いとは命が最も煌く瞬間こそ楽しい。


アニーは何かしらの戦いを始めようとするユーリックの顔に期待する。
ああなってしまったら、もう止める理由はない。
戦いに往く者を止める権利はバートンの人間にはないのだ。



そして思う。


本当に


面白い子になったわ、と。

「でも、いつか結婚はしてもらいましょう、ちょっと危ないわ」

色々な意味で。

なるべく早く。


バートンの人間は戦いの中で命を落とすのだから。

そして一度戦い始めたら、止まらない、命が一番大切ではないあの子は危ない。






マーガレットとネミッサはあのノンノンとした雰囲気を醸し出すいつも寝癖交じりのノンビリ屋、あのユーリックが髪を短く切り、どこかその雰囲気の中に
鋼鉄のような意志を宿した空気を感じ驚く。どこかぴりぴりしているのを感じるだ、傍に居ると。


「どう?ユーリ」

「ええ、美味しいですよ、この紅茶、うん………甘くていい香りですね、BOP故に抽出に時間を掛けて
じっくりと茶葉と香料の香りを引き立てると良いですね」

陶器の音を立てず、ユーリックは折れたばかりな筈の腕でティーカップを受け皿に下げ、静かに言う。
ユーリックの身体は恐ろしいほどの回復力を見せ、あと数日で退院する。


「ええ、3分から5分ぐらいだけど、何か良いアイディアある?」

「いいえ、これで十分ですね……それにしても美味しいですね」

「ええ、シン国の特選茶葉のみで作ったものだからね」

いえ、とユーリックは微笑む。

そして

「貴女の腕がいいからですね、私には、こんなに上手に淹れられませんよ」

そのユーリックの眼を見てネミッサ(26歳独身)は戦慄する。

「あなた………変わったわね」

燃え盛るような紅い髪、そしてどこまでも深い空のような、どこまでも深い海のような青い、青い瞳。

そのまま飲み込まれそうなほど、深く、青い。

そして、その中に火が着いた様に何かしらの恐ろしいほどの意思が宿っている。


それは怒りだ、そうネミッサは思う。

動物園でみたことがある、飼いならされた猛獣のような目ではなく。
野生に生きる、猛獣の怖い眼だ。

それよりもなんだろう、相応しいのは

そうだ

大空を一羽だけで舞う鷹のような、雰囲気だ。
優雅だが、近づけば啄ばまれそうな危うさ、そして、そのままどこまでも遠くへ飛び立ってしまうような不安。

そういう風に見えてしまう。

遠い感じがするのだ。

人は未知を恐れる。
理解出来ない何かを恐れる。

そして危うい存在なら余計そうだ。


今のユーリックは危うく

「今の貴女は怖いわね」

「怖いですか?」

そうですかね、とユーリックは何時も通りの穏やかな表情を浮かべる。
当然、怖いと言われて驚いたのだろう。
何時も通りの小動物のような臆病さ、草食動物のような穏やかさをユーリックから感じるが
だが、どこか怖い。
ユーリック・バートンという人間は極端に本当の怒りを見せない人間である。
多分また、自分ではなく他者の為の怒っているのだろう。
この子、表面上は穏やかな癖に実は物凄い好戦的なのだ、実際そうは見えないが、イザコザの中に勝手に飛び込むというか、暴走するというか。
前に一度、一緒に旅行した時もそうだった、何か大事件に発展する物事に突っ込む馬鹿というか熱血というか。



「少しね………あなたがそこまで本気で怒っているのは初めて見たからね………これからどうするの?」

私の過去のように大人しく結婚をするのを止め、一人で何処かへ行くのか、そう尋ねる。
動き始めたらこの娘は止まらないのだ、その何かが本人が終わったと思うまで。

「ええ、一人、大事な友人が遠い処へ言ったので、ちょっと引っ張り戻しに往きます」

ユーリックはぐ、と握りこぶしを1つつくる。
ゆっくりと指が折りたたまれる。
白く頼りない細い指だな、と思っていた手が今までとは違う力強さに溢れている。

まるで、この細い指で全てを砕くことが出来る、というような鋭利な強さ。
拳のぱきりと鳴る骨の音に、少々鳥肌が立つのを感じながらネミッサは言う。
この手で腕を握られたら、と思うと寒気がする………と思いながら。


「羨ましいわね、その友人」

私がその友人の立場になったらこうも怒ってくれるだろうか、とネミッサは思う。
いや、多分怒ってくれるだろう、と思う。
そして怒られる友人は多分泣かされるのだろう、この子に許されるまで。

そしてユーリックに近づき、短くなった髪をネミッサは手櫛を掛ける。

「…………くすぐったいですよ」

そう言って、微笑む、まるで少年のような美しい年下の女性にネミッサは思う。
女性らしい起伏さえなければ半ズボンでも履かせたい愛らしさだ。
もし、このまま綺麗な本当の男の子だったら良かったのに。
そこらへんにいる男よりも実は男らしく勇敢なのだ―――――なんと勿体無い。

なんて不覚な事を思ってしまい、自分を恥じて、すこし顔に熱が篭もるのを感じる。



「マーガレット…………貴女何してるの?」

「ちょっとした創作活動を」

マーガレットはメモ用紙に何かしらを書き込んでいた。
どうせ碌なころじゃないので話を進めよう。

「まぁいいわ、なんで私達を呼んだか聞きたいのよユーリ、なんだかまた発明って感じもしないから、要件があるならいいなさい」

内緒事だ、これからの話は、とネミッサは思う。

なにせ、眼が覚めた瞬間に私達に連絡を取り始めたのだ。

そして護衛として普段居る筈のあのパトリシアが病室に居ない。
あの人殺しの眼を持つ、怪物が居ないのだ。
ユーリック・バートンの横で鋭い眼光で周囲を見る、あの女性。
ユーリックが研究所を出ると現れる、存在。

だが、今此処にいるのは3人。

記者のマーガレット。
お茶商人のネミッサ。
錬金術師のユーリック。

だが、一体なんの用件があるのだろうか?

「ええ、まずマーガレットですね」

「ええぇ、何の用ぅ?結婚インタビュー?独占?」

「独占は独占でも別の意味で貴女に頼みたいことです、ま、私の新しい商品説明の記事ですね」

「面白そうな記事ならなんでもいいけどねぇ」

「で、私は?」

「ええ、一番頼みづらいんですが、中央で貴女、貸し店舗経営してましたよね?」

「それが何?」

今現在売れに売れる商人な自分は、物件もいくつかもっているが、それがなんなのか?

「ちょっと一軒貸してください」

「いいけど、何する気?」

「ちょっとした宣戦布告ですよ………私は貴女の言ったことちゃーんとやっていますよ、そして私は此処に居ますってね」


ユーリック・バートンは歯を剥き出して笑う。
狼のような獰猛な笑顔。

それを見た二人の女性は

堂に入ってて、格好良いわね、と思い、すぐさまお茶会を続ける。

そして

「ちなみに結婚は延期になりました」

まだ心の決意が……と嫌そうにユーリックが言うのを見て。

二人は笑う。











9話



東方司令部の司令室に座る二人はあるモノを見て驚く。


「勘弁してくれたまえ……ただえさえ、いっぱいいっぱいだと言うのに!」

「髪……切ったんですね」

リザ・ホークアイは彼女の姿を見て、まず先に残念がる。

焔の錬金術師はそのあるモノを見て思う。

「やはり、怖いモノ知らずだな………」


あの妙薬の錬金術師が新聞の一面に写真付きで掲載されていた。

掲載内容はこうだ。



【妙薬の錬金術師】賢者の石を探す!

あの発明家として有名な国家錬金術師が新たな大きな発明に乗り出す!
彼女ユーリック・バートンはこう言う!

「これからは錬金術師の私達だけではなく、皆さんにも錬金術を使うという豊かさをいつか味わって欲しい」

と一体どういう事なのだろう!?
そもそも賢者の石とは!?
記者がインタビューすると

「賢者の石とは私はこう思ってます、無限に等しい力が宿る新しい希望だと」

「無限に等しい力とは、一体なんでしょうか?」

「私は思うんです、いつでも私たちを豊かにするモノとは須く長い時を得て生まれる自然物にあるのではないかと。
石炭も無限に等しい、というほど有る訳ではなくいずれ、つきます。しかし賢者の石とは逸話で語られる、なんでも出来る魔法の石ではなく
私はこう思うんですよ、賢者の石とは我々生命の象徴である太陽のような無限に等しい、新しい私達人々の新たなエネルギー資源になる新しい自然物でははないかというのが私の仮説です。
無限に等しく無限と言わないのは太陽は人からすると無限である力の象徴ですが、永遠ではありません。
ですが、私たちのようなちっぽけな存在にとっては、それは正しく膨大な有限、そして無限と感じるものです。
私は断言します、私達錬金術の力の源であるものこそが賢者の石であると、そして多分、賢者の石とはこの私達が住む星という一個の生命の力が宿る
カケラだと、そう考えています、それを手に居れ、人々の豊かな発想があればこそ、まさしく賢者の石となるのではないか、そう思います。
そしてその豊かさを何れ全ての人々の手に、それがこれからの私の研究の命題となります」

「実際あるのでしょうか?」

「あると思います、この惑星にはまだ見ぬ可能性が宿ります、そして、その力に近しかった過去の偉大な錬金術師は皆、賢者の石を求めています。
多分それは本能的なものなのでしょう、私達錬金術師はその豊かさを心の奥底で知っているんです」


「その賢者の石とはどのようなものでしょうか?」


「私もまだ確信に至っておりませんが、多分それはどこにでも有り触れたモノでありながら誰も気付かない、そんなものだと思います。
たとえば、そうですね、今現在、物理科学では否定されるエーテルのようなもので、光を伝播する架空の物質ではなく
本来の意味での場を満たすエネルギーがあるのだとしたら、それこそが賢者の石だと、私は思います」

「なるほど、ではその賢者の石はどのようにしてこれから私達の手にはいるのでしょうか」

「東にあるシン国には錬丹術というのが盛んに研究されています、それは場にある気脈というエネルギーを元に私達のように錬金術を使うと
あります、ならばその気脈というエネルギーの中心に賢者の石はあると考えられますので、それを何れ汲み出す方法を考案し、循環させて使うことにより
我々に新しいエネルギー資源が生まれ、これから先、きっと更に私達は豊かに、そして全ての人々が争わなくても良いほどの希望となると思います」

「まるで夢のような話ですね」

「ええ、夢です、だからこそ目指しがいがあると思います、そして私の代で完成しないとしても、私達の後に続く者たちならば
やってくれます、それは人だから出来ることです、自分の意志を継がせ、育む、それが人の力だと思います」

以上が本記者が独占取材を行なった【妙薬の錬金術師】のインタビューでした。
本記者には全く理解が及ばないことですが、どうやらモノ凄いことらしいのです。


彼女はこれから中央の方に研究所を開きそこで研究するそうです。

場所は本新聞に後程掲載するそうで、そして賢者の石に関することがあるのならば情報をお願いします、とのことです。





では次の新しいニュースは最近市民の女性に流行しているという、香り紅茶についてです。
女性にモテたいなら、これだ!これをプレゼント!という新商品が発売されるそうなのでご予約はお早めに。



「この缶を開けたら幸せの香り「それにしてもまさか、ラジオまで流すとは………正気かね!?」


気になって、もしやと思いラジオをつけると至極当然と記事に似た内容の放送が流れる。
どうやら録音してあるらしく、もう数回は流れているようだ。

これではユーリックは敵味方関係なく賢者の石に関る全ての者に注目されることになる。
多分、今旅の途中の鋼の兄弟も、傷の男も、そして影で蠢く者達も
そしてまた別の者も全て、ユーリックの元に集うかもしれない。


賢者の石に関る物事の深くへ、その場の最大火力で一気に形振り構わず進む行為だ。
まるで弾薬庫で火遊びするような無謀さ、愚かさ。


なんという危険な行為だ。
どのように考えても危険な目にあうのが予想される。
鋼の兄弟と同じように。

だが、とロイ・マスタングは思う。
掲載された写真のユーリックという、あの少女だった女性には今

「……この眼には焔が宿っている、あの歩き出した少年たちのように」

強い決意がある。

それこそ、人殺しの眼ではなく戦いの眼。

なにが彼女にあったのだろうか。


と腕を組み、唸る。

そして。


「短い髪も似合うな」

「馬鹿いってないで仕事してください、今増えたんですから」

護衛をこちらも送らなくてはならない。

一応、東部側にいた国家錬金術師なのだから。

あまりにも無謀な行為だ、だが、だが。

「ああ、そうだな……だが面白い、影の中にあるようなモノに対し正々堂々と陽の下で挑むか…」

だが、それはあまりにも彼女らしいというか、なんというか

「馬鹿なのか…………」

心底そう思う。

「…………多分そうですね」

くすり、とリザ・ホークアイは笑う。

彼女の手にはまたか、またなのか。
今夜の私の夜食はまた、バランス・ブロックか……飽きたのだが。
と焔の錬金術師は溜息を吐く。

どこまでも勝手なユーリック・バートン。



あの戦場でもそうだった気がする。
折り合いがつくところでやめればいいのに、勝手に一人で暴走する。
戦場であの紅蓮の錬金術師と口喧嘩していたあの怖い物知らず。
護衛に付いていた兵士も所在なさげに横で立っていることしか出来ない様だった。


普通そうに見えて、やることがぶっ飛んでいるのだ、案外。

例に挙げるなら、暇を見つけると、無言で敵の戦死者を一人で担いで歩き始め、そして無言で埋める、といったことをするなど。
それを無表情で淡々とやる少女。

側からみて何度肝を冷やしたことか。

戦場で殺し合いをしていた男達でさえドン引きするほどの怖い物知らずな少女。

中々にホラーだった。



見ていると薄ら寒くなるような、鳥肌が立つような、勝手に一人で自分のマイルールを発揮する女性だ。
どうやら争いごとを忌避する割りに、人の血と肉と骨をまるで料理しているかのように頓着なく触る。
無駄に弾丸摘出が得意だったな、確か。

後方勤務だった癖に前線まで補給作業していたし。

今回のようにあれは多分、勝手にやっていただろう。
本当に嫌そうにしていた割には仕事は効率性重視で的確だった、と思う。







今更にそう思う。



最近の傷の男の件もそうだ。
なんでそんな……というような勝手な暴走をするのだ。



「こうなれば、あの鋼の兄弟の下に一緒に居させよう、これでは守りづらい…しかし女とは怖いね、本当に」

どちらが巻き込まれるのかわからないが、どうせ様々な事件に巻き込まれるのだ。
一つにして置いた方が気が楽だ。



「何故、私を見て言うんですか大佐」

「そういう感じが………ごめんなさい」

相も変わらず二人は物騒な触れ合いを楽しんでいた。



そして








「あっはっはっはってはっはっ………やっぱり面白い子、しかも本人は出鱈目なことを言ったつもりだと思うけど、中々的を射てない?」

どう、思うシルビア?と色欲は尋ねる。

「ああ、そうだねユーリは………本当に、楽しみだね」

そういって黒衣を纏ったシルビアは両手の五指に力を篭める。
その右手には最早、錬成陣はなく。
ただ、どこまでも力強い。
この獣は飼いならせないと分かった瞬間に影は協力し合う事を考えた。
お父様の手によって、このシルビアの願いを完全に獣の願いを中心にすることが出来た。

今の獣は目的の為なら全てを捨て、協力するだろう。


ユーリック・バートンの人柱としての利用を。

そして果たすだろう。

ユーリック・バートンを絶望させ、完全に屈服させ、殺すという獣の目的を。



「まだ駄目よ?」

人体錬成をタイミングの良い時にさせるのだから、と色欲は言う。
そして最早、人体錬成はシルビアには通じない。
それでも、もうそれに縋るしかないだろう。



この少女は完成されている。

キメラではなく、シルビアという完成されたバケモノなのだから。
かつてあった少女の願いを失い、獣と化した怪物。

二つが一つになっているのだ。


「全てが無駄だった、とわかった時のユーリの絶望は、私の最高の愉しみだね…………人柱として使い終わったあとは好きにしていいんでしょ?」

「ええ、その時を楽しみなさい、私も楽しみなのだから」

あの不屈が宿る瞳を絶望に陥らせるのはどこまでも愉快だろう、きっと。
人の眼球は心の窓であり、その人の内面を写す鏡だとするのなら。

その鏡よりも先に心を割った時こそ最高の瞬間。

あの眼が絶望に塗り換わった瞬間こそ最も美しいだろう。












そして妙薬の錬金術師は歩き始める。
様々な思惑とぶつかりながら目指すだろう、賢者の石を。

そして自分が望む本当の幸せを自らの手に掴むために、自らが定義した幸せという、箱庭から飛び出す。












次回も続く。




















あとがき

主人公が主人公やりはじめるよ編。





ちなみにエリクサーはあの有名紅茶マルコ・ポーロのハガレン版。
本当に美味しい紅茶なのでご賞味あれ。
紅茶缶開けた瞬間に香りの良さに驚きます。



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