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No.11215の一覧
[0] 妙薬の錬金術師(現実→鋼の錬金術師、転生TSオリキャラ)【R15】[toto君](2012/03/30 23:20)
[1] 1話[toto君](2009/10/02 00:13)
[2] 2話[toto君](2009/10/02 00:13)
[3] 3話(さらに修正)[toto君](2009/10/02 00:13)
[4] 4話 上編 (修正)[toto君](2009/08/28 15:40)
[5] 4話 下編[toto君](2009/08/30 19:41)
[6] 5話 上編(修正)[toto君](2009/09/27 12:01)
[7] 5話 下編(修正)[toto君](2009/09/15 15:29)
[8] 6話(修正)[toto君](2009/09/18 22:28)
[9] 7話 上編(修正)[toto君](2009/09/18 22:53)
[10] 7話 下編[toto君](2009/09/26 17:32)
[11] 8話[toto君](2009/10/02 00:30)
[12] 閑話[toto君](2012/03/25 16:10)
[13] 閑話2[toto君](2012/03/25 20:50)
[14] 実家編1話[toto君](2012/03/27 00:20)
[15] 実家編2話[toto君](2012/03/26 23:34)
[16] 実家編最終話 【暴力表現あり】[toto君](2012/03/30 23:17)
[17] キメラ編 1話[toto君](2012/03/30 20:36)
[18] キメラ編 閑話[toto君](2012/03/30 20:46)
[19] キメラ編 2話[toto君](2012/03/31 07:59)
[20] キメラ編 3話[toto君](2012/03/31 13:29)
[21] キメラ編 4話[toto君](2012/04/15 19:17)
[22] キメラ編 5話[toto君](2012/04/01 10:15)
[23] キメラ編 閑話2[toto君](2012/04/02 00:30)
[24] キメラ編 閑話3[toto君](2012/04/02 12:08)
[25] キメラ編 最終話 上[toto君](2012/04/02 20:50)
[26] キメラ編 最終話 下[toto君](2012/04/03 02:45)
[27] 9話[toto君](2012/04/15 19:18)
[28] 閑話 魂の合成 自己採点編[toto君](2012/04/15 19:17)
[29] 閑話 怠惰な兵士と戦うアルケミスト 1話[toto君](2012/04/16 02:33)
[30] 閑話 怠惰な兵士と戦うアルケミスト 2話[toto君](2012/04/21 23:49)
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[11215] キメラ編 1話
Name: toto君◆510b874a ID:7ebe966e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/30 20:36
南部の市街地を抜け、目立たないようにひっそりとある、3階建てのビルディング。
ハンセンにあるユーリックと同じく墓石のようなコンクリート作りの建物。

ユーリックとパトリシアは人目を避けるようにハイリッツ・グラードが住む、この建物に向かう。
パトリシアはまるでデジャブを覚えたらしく、ユーリックの方をつつく。

「私はここに来るのは初めてですが……ユーリ、貴女の研究室と同じのような気がします」

「はい、だって私が真似しましたから」

ユーリックはじんじんと痛む頬を押さえながら、そう、答える。
ビルディングほど、便利な家はない、という師の薦めどおりに建てた研究所。
壊すのも、作るのも簡単だと、師は言っていた。
ハンセンの自分の家のことを思い出してしまったユーリックは苦笑する。



「家畜専門の錬金術師とは聞いていましたが」

「ああ、試験農場はこれより遠くの場所にありますよ」

さて、久しぶりの先生の家だ、とビルに近づくと

「こんにちは」

ビルの窓から上半身を乗り出して艶のある黒い髪が目立つ少女が手を振っている。

「こんにちは」

ユーリックは頬から手を離し、その手を振るい、挨拶を返す。

「おじいちゃんが待っているから、そのまま入ってください」

少女がそう言って、窓辺から姿を消す。
スルリと、まるで小動物のように乗り出していた上半身が消えるその様は

「やっぱり猫みたい……」

ユーリックは、そう思った。

しかし

待っているとは、どういうことだろう





ビルに入って直ぐ。
一階の部屋の奥から、お菓子を作る時の独特の甘い香りがユーリックの鼻に届く。
台所はユーリックと同じく一階に設備されていたはず。


「連絡はお前の実家から来ている、治療を受けに来たのだろう」

白髪銀縁眼鏡の硬質な瞳を浮かべる老人は皺を歪ませながら、そう言う。
相も変わらず、その瞳の中には何の感情も浮かんでいない。
吐き出された言葉には何一つ己の感慨が含まれて居ない。
正真正銘の錬金術師、ただ、英知を学ぶ、ということだけに全てを置いているかのような老人。

「ふむ、丁度良い時間に来たな、今、シルビアがクッキーを焼いていたところだ。
その顔では痛いだろうから食べなくても良いが、どうだ、食べるか」


「食べます」

手作りクッキーほど、この世に美味しいクッキーはない、ユーリックはそう、思っている。
製品のように、製品化に満たす美味さよりも、人が手を掛けた手作りの味の方が好きだからだ。
情緒、とでも言うのかああいう小さな可愛い女の子の作ったクッキーは絶対美味い、そう考えてしまった。

「先に治療を「今食べたいです」……痛くはないのか」

「痛みよりも、まず美味しい物を」

そのユーリックのユーリックらしい言葉に老人はふ、と口を綻ばせる。

「相変わらずだな、いつでもお前は変わらない……あと治療の他に積もる話もある」

「ところで、家から連絡が来ていたのですよねなんででしょうか」

あの鬼畜家族が私のことを心配して連絡したのだろうか


「それは積もる話の中に含まれている、どうする、先にそちらの方にしようか」

「シルビアちゃんが作ったお菓子を食べながらでは」

「いや、お前ならこういうだろうな、お菓子を食べながら聞く話ではない、とね、私は構わないが」

と老人はパトリシアを見て、次に自分の瞳を見て、そう、言う。



どれにする


暗に老人が、自分と一対一でする話がある、と告げている。


ユーリックは途端にふと、自らの思考が錬金術師らしい
どこまでも合理的な思考に変わることを感じた。

そして、ある疑問が生まれる。


同じ錬金術師でありながら、どこまでも理論的で感情を持たない師の瞳。
その眼をみた瞬間、ユーリックは妙薬の錬金術師ではなく、ただ単に英知だけを求める一人の錬金術師に成った。
この師の下で学んでいた時のように。



「私は元々先生とお喋りに来ました、だから、やっぱり先にそっちですね」

「ここ数日のことで………腑に落ちないことがあったか」

「ええ、まぁ、あの時は怒りで、私は理解をしようとすることをやめていました、そして感情のみで動いていました」

「そこがまだまだ未熟なところだな、【妙薬の錬金術師】」

「いえ、今の私は貴方の弟子ですよ」


私は、殴られて、怒鳴られて、貶されて、忘れていた。
そうだ、あの家の両親も兄達も私を

理由がなければ、殴らない。

あの数日間、私は全治一ヶ月の怪我を負わされた。
とことん、実に巧みに、まるで結婚の披露宴に治癒が間に合う範囲の怪我。
一切、障害が残らない、上手な手加減で生まれた傷。

直りが遅いのが、自ら負った傷のみ。
自分で折った指ではない方はまるで積み木を建てるように、戻すことが出来たのだ。
これならば2週間あれば、元通りだろう、という傷。


そしてヒントがある。

父の第一声。

「よりにもよって国家錬金術師殺しに巻き込まれるとは」という言葉。

あの声には怒りがあった。

それだけではない。

焦りがあった、陰りがあったのだ。

「では、お聞かせください、我が、今のバートンのことを」

「ふむ、随分と的をつく言葉だ、それではシルビアのクッキーは冷めたあとで戴こう」

楽しみにしていたのだがね。

と珍しく老人は眼に感情を浮かべる。

「シルビア」

老人が大声を上げる。

「はーい、なになに、おじいちゃん」

てくてくとシルビアはひょい、と台所から顔を出す。


「上で大事な話がユーリックとある、お前はもう一人の方を持て成せ」

一体何が

とパトリシアは周囲を見回してからユーリックを見る。

ユーリックはパトリシアにこう、言う。

「そういうことなので、パティ。シルビアちゃんの焼きたてのクッキー、私の代わりに美味しく食べてください、で、私の分も残してください」

「そういうことだ、パトリシア中尉、シルビアの作ったクッキーでもゆっくり食べていろ、そして、たまには護衛のことを忘れて、ゆっくりしていろ」

そこはお客様用の席だ、と居間のテーブル端を老人が指を指す。

パトリシアは二人の発言に余計混乱してしまい、そのままその席に向かい、納得いかぬまま座る。



先生と私はシルビアちゃんがテーブルに焼きたてのクッキーを置くのを見て、パトリシアがクッキーを食べ始めるのを見ながら上の階に続く階段を上る。



「では少々、長い話だユーリック、ノートの用意はあるか」

「先生、私貴方との授業で一度もノートを使ったことはありませんよ、そもそも、先生は黒板、使わなかったじゃないですか」

それにこの家に黒板はない。
あるのかも知れないが、私は見たことがない。


授業は全部先生の言葉だけ。
錬成陣も全部、渡してくれた本のみで、書き方は全部、家で自主練習。
基本的な書き方は本から学んだ。

昔は、それでいいのかと思いもしたが先生の一言で納得した。


言葉だけの説明で理解できない程度の人間に私は錬金術は教えない。
私は教師ではない、錬金術師だ。
ただ教えるべきだろうことを、話すだけだ、親身になど教えない。
そもそも、私は錬金術の教師などしたことは一度もない、教師に錬金術を教わったことなどない。

そもそも、言葉ごときから学べないものに用はない。

錬金術は言葉よりも遥かに奥が深い。

言葉なんて簡単なものから学べないのなら諦めろ。




という、厳しいお言葉。

なんだか矛盾している気がするような言葉だが。


ようは、馬鹿は帰れ。


それだけだ。


確かこの人、錬金術師が錬金術を大衆の為に使うことは良いが、広めることは嫌いだった。
誰よりも錬金術師ではない人間に錬金術を使わせることを嫌っている。

何故か、と問えば。

一言。

「碌なことにならない」とのこと。

授業も難しく、一度話したことは繰り返さないし、聞き返すことは許さなかった。

そしてどんどんハイペースで授業が進んでいく。
その場で理解しないと一気にわからなくなるような授業。

毎日が篩いに掛けられるような授業だったと思う。
体調不良な時は、言い出れば、その場では授業をしない。
その日はお終い。

では次回、って感じだった。






三回ぐらい、仮病を使ったことがあるような、ないような
そしてわからなかった言葉を必死にノートに家で書きまとめていたような。

「ああ、そういえば、そうだったな、だが…」

「だが………」

「今シルビアも錬金術に興味を抱いていてな、なんだ、私の話は難しいらしいのだ」


「……………難しかったです、先生」

うん、錬金術師になるための最大の壁は、先生だった。
バートン家が用意した教師。

なんでも昔からの知り合いらしい。





「お前は変わらんが、私は少し、変わったぞ、今ではシルビア用の黒板が私の家にはある」

………この先生でも孫娘はやっぱり、可愛いのか。

「だが、全然わからないらしいのだ、話が終わったら、シルビアに教えてあげてくれ」

「………先生の弟子の私が教えるのがいいのなら」

「お前もかユーリック」

「私もほとんど感覚の様に理解してやってます」

頭の中に手足も翼も尾鰭もいろんなものが新しく生えたような感覚で。

「それは、そうだ。錬金術師に成らなければ錬金術は使えない」

「………それはそれで大きな矛盾があるような」

「まぁ、いい。さっさと席に着け」

いつのまにか、私達は先生の書斎にいたらしい。

一度しか階段を上っていないのに。

あれ、昔は三階にあったような……。

「今は寝室が上だ……シルビアが寝る前には私も寝なくはいけないらしい」

一々、上に寝かし付けにいくのが面倒だ、とのことだ。

と先生が言う。

夜中、勝手に研究しているのが、シルビアが夜中に起き出して
トイレに行く度にバレてしまう、と先生は不満そうに言う。

先生が尻にしかれている。



私は昔、先生の下で勉強していた頃と同じ、小さな、木製の机がある木製のイスに座り、先生は少し遠く離れた場所にある
シルビアちゃんの落書きであろう、猫が大きく書かれた背中のある木製のイスに座る。

先生がイスに座ると、まるで先生が猫に座られているように落書きが見える。

「では、座ったな…長い話をしようか、ユーリック・バートン」

「……ちょっとタイムです」

思わず、爆笑しそうになってしまい、落ち着くまで少々時間が掛かってしまったことは言うまでもない。















キメラ編 話




「手酷くやられたようだな、ユーリック」

「ええまぁ」

私は先生の言葉に対し頷く。

そして私の腫れた頬に指をさす。

「昨日のです」


そして、私の頬の傷を見て、こう言う。

「たかが、1日。流石、バートンの血筋だ、相も変わらず、直りが早い、しかし、お前は何故、無意味な挑発を行なった」


何度も殴られても、もう私は発音よく流暢に喋ることが出来ている。
口がうまく回らないほど殴られたのに。

私は運動能力は低くても体力だけは凄いのだ。


「いい加減、ムカついたからですよ、普段は人が良い癖に
私のことになると、いつもああで、本当に嫌になったんです」

可愛がられる甥達に比べ、いつも私は、両親に酷い仕打ちを受けていた。
子供らしく遊ぶことも許されず、いつもあのくすんだ訓練場。
自由を許されたのは人々が居る前だけ。

まるで、何かの偽装だ。
私は娘に訓練を施していることを隠している、やっぱりこの家は普通じゃない、と思わせる日々だった。


そしていつも戦場に向かい、私を他人に教育させた。
母は昔、戦場で足に大きな傷を負い、あまり出歩かない人なので私の傍にはいつも教師が付いていた。
母から教わったのは作法とピアノ。




「それはお前だけが、あの家で、生きた人間だからだ」

「生きている、人間」

「お前の父親は言っていた、バートンは代々全ての人間が生まれたときから死んでいる。
バートンの血筋の人間は屠殺場にいる家畜のような存在だ、殺されるまで待つだけの人間だとな。
戦いの中でしか、真に満たされず、戦わなければ飢餓を覚える。
そこまで行くと、生きている、というよりも、死んでいるに等しい、そして彼等は生まれた時からそれを受け入れている。
本質的な意味合いで、彼等は死んでいる、だが生きて動いている…………異常者の家だ。皆、純正の人間でありながら、須くキメラのようだとな」



私の今着ているジャケットを指してそう、言う。
バートン家の狼の刻印。

それが人狼を意味する刻印だと私は知らなかった。


「それってオカルト的な意味でしょうか」

錬金術の話ではない、と思った私はそう先生に質問した。

「やはり、知らないのか」

「何を」

「バートンの祖先である、とある部族達はある民族の所有物として生かされ、生きてきた。
バートンがバートンは名乗る前までは彼等は奴隷であり、隷属を強いられた人間達だった。
最初は八の部族だった、だが、所有されて6の部族は殺され、残った二つの部族で二人だけ生き残った、異常な能力を持つ二人だけが。
そして残った男と女同士で子供を作り、それから彼等は一つとなった一族同士で近親相姦を繰り返した。そして皆、全て異常を持ち、
それを武器として生き延びた。そして隷属を強いてきた民族を全て殺しつくし、解き放たれた。
それからは、他の帰属する価値のある者や民族や国家などの下でその異能を揮い、生きてきた。それが今日のバートン家だ」

そんな可笑しな話は聞いたことがない。
代々軍人の家系じゃなかったのか

「あれは嘘らしい」

嘘……。

「まぁ、ヤツのくだらない冗談だがな、私も冗談で言っている、だから真に受けるなよ」

「先生が冗談を言うなんて珍しい話ですね」

「くだらない冗談だ。だが、お前の兄達を思いだせ、あの男達は皆異常だろう」

「異常です」


どいつもこいつも、戦い、という暴力に傾倒し、それ以外のことに深く興味を持たない兄達。
恐ろしく、理解に苦しみ、納得がいかない家族達。

そして皆、まるで人を超えた何かのように、恐ろしく強く、戦いを恐れない。

まるで、戦うことしか生きる道がないかのように。

「だが、バートンの者は皆、自分の異常を自覚している、そして周囲に異常者として思われないように偽装して生きている」


いやいや、あの兄とか誰がどうみても異常者じゃないですか。

「誰も彼もが皆、死ぬことを好むように軍人として戦場に立つ、そうしなければ異常として周囲に弾かれ、殺されるだけだからだ。
知っているか、お前以外のバートンの血筋の人間は全て、軍人を幼い時から目指すことを。戦闘がある場所に行くためにだ」

「いや、あれ……単に教育の問題だと思われますけど」

「いやそうかな、そうかもしれない、だが、ユーリックお前は違う、只一人、お前だけあの家では違う、ああいう風に育てられながら
どこまでも普通の人間だ。どこまでも普通の人間のように争いを恐れ、人が傷つくのを厭う人間だ。だから彼等は誰よりもお前に期待している」

あの家によく訓練を受けに来る甥たちを思い出す。
あの子達もバートンで厳しい訓練を受けている。

そして、皆、その訓練を受け入れている。

当たり前のように。






「何を」

「【普通】に生きることをだ、バートンの家に生まれた女は須く他の兄弟たちの子供の母として期待され育てられる。
そもそも、バートンの女も似たような志向を皆もっている、多少、男よりも弱いがな。
そんな風に生まれたら、普通の人間の下で子供を生み、家庭を作れると思うか?
結局は皆、バートン同士で子供を作るしかない。
それにな、私も驚いた、お前が他の家に嫁として送られると聞いたときは、ユーリック・バートンというバートンに生まれた異常を他の普通として生きさせる
ことに決めたことにな……そうだ、言い忘れていた、結婚おめでとう、ユーリック・バートン」

「……でもこんなにボコボコにされてるんですけど、お嫁にいけないぐらい」

「あそこまで激怒したのは彼等は恐れているからだ、普通であるお前が、異常を持たずにバートンとしてどこまでも才能があることを
そして恐れている、お前が今、バートンが帰属しているこの国に起きている、【何か】の犠牲になることを」

「【何か】」

「彼等はイシュバール戦で気付いたらしい」

「何故、あの戦闘狂のバートン家が何故、イシュバール戦では中立派を選んだと思う
バートンは恐れている、この国の深いところに根付く【何か】に対してな。
バートンの血筋が齎す特別な嗅覚にそれを感じ、その【何か】の犠牲にならぬように。
そして、異常な人間が異常に感じたイシュバールの戦いの匂いがしない、異常である自分達の戦いの場を南部に選び、ただ目立たぬように、ただ戦っている」

バートン家の権力の衰退。

それはバートン家により選ばれた手段。
バートン家はどこまでも他人事のように穏健と過激の中で中立を選んだ。



「そしてバートンの者でありながら、お前はこの国に対し何一つ警戒していない、少しでも道を踏み外せばどこまでも落ちるしかないと言うのに」

お前が、学んできた錬金術を全て、無意味で無価値なモノに貶めるような、奈落にな、そう先生は言う。



「お前はこの国の【何か】に関り始めたと、お前の両親は恐れている、国家錬金術師として優れる娘が利用されるのではないかと、ね」

だから、最も安全だと思われるアームストロング家にお前を入れることにしたのだと、先生は言った。

そして【妙薬の錬金術師】が出会った一つの陰り。




それが、国家錬金術師を標的にした

連続して続く、無差別な殺戮。


それに【妙薬】が巻き込まれた。


そして異常を持つバートンが感じた恐れと焦り。


異常だったイシュバール戦の生残りが行なう国家錬金術師のまるで


まるで。


選別のような殺戮を。





国家錬金術師としてではなく、本来の意味での錬金術師のみが生き残るような殺戮。

賢者の石を目指している、と公言する、本来の意味で錬金術師を目指している【鋼】。
錬金術を自らの大きな目的の過程として本来の意味で錬金術師を体言する【焔】。
そして、ただ誰かの豊かな幸福という未来を作るために生きる、本来の意味で錬金術を使う【妙薬】。


そう、あの【鋼】と【焔】と【妙薬】が揃った時まで、須く皆、出会えば必ず殺されていた。
優秀でも、才能があっても、力があっても必ず皆、殺されている。



それを知った、バートンはどう思ったと思う

ならば


生き残るものはそれなりに決まっている、とな。

だから選別。

まるで、分けるように死に、分けるように生き残る殺戮。













「私はね、それは思い違いだと、お前の父に言ったよ」

残った【豪腕】

あれはどうしても意味が繋がらない、とね。

え、それでと思ったが。
取りあえず先生の言う通りのことを思った。

思い違いだろう、と。

「ええ、そもそも私が狙われたのは偶然ですよ」

私よりも優れている錬金術師は沢山いる、と私は先生に言う。

自らの首に掛かるまるで首輪のような銀時計。

それを手で掴み、握りしめてそう、言った。







「だが、それでもお前の父はこう、言っている」



【違っていたとしても、繋がっている】とな。

全てこの世界でこの世で決められたルールがあると。

それはバートンでも従うルールだと。

生き残る者が優れている存在だ。

力も才能も関係ない。

いつでも死んだ者に先がなく。
いつでも生きている者に先がある。


「お前に父はな、バートンの血族が持つ異常で嗅ぎ取った、というのだ、ならば、多分その通りだろう」







思わず震えるほど、全身が寒くなる。

私も昔から思っていた


イシュバール戦は何のために行なわれていたのだろう、と。





怖い。


そう、思った。


結局私もバートンの人間。

なら、その感覚は大事にしなければいけないのかもしれない。




それは、置いといて。




「で、それって知っているの両親だけですか…」



それよりも、一番の謎は我が兄のこと。



「ああ、お前の兄達は血が濃すぎるのか、馬鹿だからな、バートンの血筋による才能のみで好き勝手に生きている」

そういえば、兄弟全員まるで偶然かのように、南部での戦場のみを愛している。
全員が異常な程の戦闘能力で好き勝手に生きている。

戦いこそが我が人生、そういいそうな兄達。

どいつもこいつも都合の良い辺りまで出世する。
自分達が、直接戦闘に参加できる位まで出世する。
そしてただ、戦う。

戦うことだけが、生きがいのバートン一家。


「……………全然、私無事じゃないです」


結局、あの兄は何も考えていないのか……。

てゆうかなんでこんなに殴られなければいけないのか

と思っていると
先生は私の顔を見ながらこう、言う。


「丁度、全治一ヶ月だな……他の怪我も多分、そのぐらいで直るだろう、一ヶ月よりも早く直る傷もあるだろうが」


それ以上の傷はないのだろうな、相変わらず程度が上手い、学者の私にはマネ出来ない、と先生は言う。


「一ヶ月後に結婚をするようだからな、一ヶ月間、十分に身体を治癒しろ」


ちなみに、お前の父と母によってお前に出来た傷は全て、放っておいても直るぞ、と先生は言う。


「ま、折れた指は私が治療しよう、ん……なんだその顔は、謎が解けたのならば。喜んだ顔をしろ」










なるほど、相変わらず方向が極端にバイオレンスな一族……。

そして与えられた外出許可。
人前にも出られないような怪我を残したままの外出許可。












ああ

なんという、理解に苦しむ家族愛。





やっと理解は出来ます、でも全然、納得いきません。



「それとも一ヶ月、監禁されたかったのか?」

それならこの怪我はなかったのだがな、と先生は言う。


「それも嫌です」



ようは結婚するまで余計なことをしないようにボコボコにしたのか……。

うん、全然、感動出来ないし、全然、この悲しみは癒えない。


「結局、私の家って…………鬼畜が住む家なんですね」

「今まで暮らしてきて気付かなかったのか?それならばお前も十分バートンの人間だ」


「感じてましたけど、気付かないようにしてました」


だって、あれだけ厳しくされてきたら、そう思うしかやっていけない。

悲しい……なんで、私あんな家に生まれたんだろう。

「で、私がもし今回の件で家出したらどうするんですか」

「それは考えていなかったらしい、取りあえず、殴れば黙るだろう、とか言っていたな」

「………馬鹿なんですか、私の家」

「ちなみに言うが、お前の一族は全員お前以外、代々戦闘職だな」

ちなみに全員、趣味が戦闘に関係するものだろう?と先生が言う。

銃が大好きお父さん。

ナイフが大好きお母さん。

銃が大好き一番上のお兄ちゃん。
銃が大好き従兄弟の義姉さん

銃の訓練が大好きな甥っ子(長男)
ナイフの訓練が大好きな甥っ子(次男)
銃の玩具が大好きな甥っ子(三男)


武器ならなんでも大好きお兄ちゃん。
武器ならなんでも好きなちょっと過去に問題があるらしい、血の繋がりのない義姉さん(アメストリス国軍南部で近接戦闘最強のパトリシアの親戚)

とりあえず殴るの大好きお兄ちゃん。

一番怖いよ、剣が大好きお兄ちゃん。



みんな牙と爪を磨くの大好き、狼一家。


「一言で言えば、お前の家は人食い狼の家だ、そしてお前は?」

「羊…です、羊でいいです」

私は美味しい草を探す羊でいいです。

「……言っていたが、本当であったのなら運動能力の低ささえなければ、たとえ羊でもお前が父の後を継ぐはずだったらしいぞ」

比較的にまともな子がバートンを継ぐのが基本らしい。
大体、全員家を残す前に戦死していくかららしい。


うん


嫌過ぎる。

厳しくされたのは多少、それもあったからか。

確かに…お爺ちゃんもお祖母ちゃんも全員戦死してるし。
従兄弟の義姉さんの家、義姉さん以外戦死してるし。

しかも全員、戦いを楽しみすぎて、やめ時をミスって死んだらしいし。



「もういいです、先生、クッキー食べましょう、クッキー」

「私は喉が渇いた」


うん、もうやめよう、不毛な会話は。

どうせ何を言っても無駄だし。


さっきの話は怖いところもあったが。
取りあえず、お茶とお菓子がこわい。














バートン家ではバートン家当主であるヴォルフガンク・バートンと
その妻にして妹のアニー・バートンはゆっくりとコーヒーを啜って談笑していた。


あっはっはっは、ついカッとなってやりすぎてしまった、と。




「お兄様、よろしいですか?」

「ん、なんだ」

「わたくし、思いましたの……狼が鷹を生んだって」

「ああ、そうだな、私も思った、だが少し違う……羊かと思えばもしかしたら獅子だったかとね」

「ええ、あの時私達を振り払い、反抗した時、なんて強い子だったんだろうって思いました、そして後悔しました」

「ああ、バートンの異常は私たちの息子が継いだが、才能は娘に色濃く出ていた、バートンの異能を」

あの時、自分と妹を振り払い、拘束から脱出した娘のことを思い出す、ヴォルフガンク。
その時、苦々しく思ったものだ、と。

何故、一番普通の子という、バートンの異常が一番バートンの才能を色濃く継いだのかと。

「【火を吹く狼】を教えるべきであった」

ユーリックにはその資格がある。

バートン家が近代編み出した銃とナイフによる、戦闘技術。
バートンは本来優れたその俊敏な移動速度を用いた短刀、ナイフでの戦闘を教え継がせてきた。
それは人間の限界を極限まで引き出した瞬発力。
初代バートンから受け継ぐ、人でありながら、狼のように人を殺戮する戦いの才能。


それに近代生まれた銃と組み合わせ出来た技術。

狼が銃と言う火を手に入れ、3代かけ、培われた技術。

「銃の才能はあると知っていた、しかし銃だけだと思っていた」

ユーリックは運動能力がバートン家でありながら異常に低い子供だった。

「もう少し、厳しくするべきであったか」

「流石に途中で死んでしまいますよ、あの子運動が全然出来ない子でしたから」

「ううむ………他所にやる前に気付かせるとは……なんという子だ」

人体の限界を引き出す、まるで切り替えのような瞬時に発揮する速度。

「殴っている時に気付きましたけど、あの子、【切り替え】をやっておきながら、一切それに対して疲労していないのですよ、ああ勿体ないことをしたわ」

もし、もしもあの子が戦いを望む普通の子でしたら…と妹は残念そう、に言う。
もともと、アニー・バートンには兄であるヴォルフガンク以外に夫がいたが、あまりにもその夫との結婚生活が馴染めなくて
結局は兄と子供を作ることにした女であり、足に大怪我を負う前は一級のナイフ使いとして戦場で活躍していた。

ナイフ戦闘を是非とも教えたかったわーと母の顔で、そう笑う。

「せっかくだから牙を教えたかったわ」


「ああ、案外、私の大切なコレクションである『狼』の一つを譲ったのは間違いではなかったな」

ヴォルフガンク・バートンは父の顔でそう笑う。
その対の銃である、【森の狼】を手で玩びながら。


「いいわねーお兄様は、ジュリが来るまでユーリに銃を教えることが出来て」


「いや、しかし、火の吹かし方しか教えれなかったぞ」

「そうだわ、今からは?」

作法もピアノもダンスも教えてきましたけど、面白くないですもの
一応、そっちの方も出来る子でしたけど
ただ一応というだけでつまらなかった、と笑う。

足が悪いといっても、常人を越える運動能力を持つアニー・バートン
どこかの街に居る【鋼】の師の内臓が悪い、とかと同じぐらいの戦闘能力減少でしかない。
だが、それは致命的な弱さに繋がり、戦場には出られず、フラストレーションが溜まっている、と愚痴を言う。

久しぶりに戦いたい、という妹に対し。


「いや、今からあれを教えるとなると、駄目だ、殴りすぎた」

流石に駄目だろう、それは、と笑う兄。

「教えるべきでしたね。私達の技術」

「ああ、そう思えば、無為にしてしまったな」

このまま嫁に行かせてしまうのは、勿体無い。

それに

「あの子は才能がある、我がバートンの中で誰よりも才能がある……生き残る才能が」

だが

「甘い、そして優しすぎる、」

バートン家当主にして現在まとも代表はそう苦々しく語る。

「誰よりも争いを恐れ、しかしその中で誰よりも人を傷つけることは厭うくせに
誰よりも自分が誰かの為に傷つくことを恐れない、人を傷つけるくらいなら、自分が傷つくことを選び、どんな苦痛に耐えてしまう」

「ええ、あのイシュバールでも、そうでしたね」

「私は思ってしまう、あの子こそバートンの中で最も強くなる必要がある、と」

「ええ」

「あのキャデラックの監視を直感的に潜り抜け、止める前に戦い始めた、あの我が娘のことを考えるとそう、思ってしまう」

自分がユーリックの為に用意した南部の軍の中で精鋭である二人。
ユーリックが自らの研究所から離れるさい、必ず連れさせた二人。


あの【鋼】が襲われた傷の男に襲われた事件。

2度に渡る、ユーリックの戦い。

そう、キャデラックは危険に赴かない監視の為の存在で、パトリシアはユーリックを守るための護衛。
報告に行く人間は別の人間が用意されていた、

であるのに

「それでも止まらない子だ、だからさっさと結婚させて子供でも作らせる」

「そうすれば多分、大丈夫ですわよね」

子供でも出来ればその無鉄砲さはなくなるだろう、と二人は溜息を吐く。


「なに、いざとなれば、戦えばいい、歳を食って鈍っただろうが、まだまだ私こそ、南部では最強だ」

そのためにアームストロングの姉の方に渡りは付けてある、とヴォルフガンクは笑う、攻撃的な笑みで。
ユーリックを嫁にやるのはこのためでもあるしな、と笑う。

「悪魔ごとき、まだまだ首を撥ねるぐらいなら造作もない」

北と南の牙は揃いつつある。

バートン家が経営する数々の企業の中には全てバートンの息が掛かっている。


「それにしてもユーリックは鈍い」

そう、ユーリックの発明で出来た起業した会社は全てバートン家の者が経営しているのだ。
ばれぬ様に殆どが金に余裕がある、南部アメストリス退役軍人達を家族に持つ人たちによる経営。

「だが、才能はあるな、あの錬金術の才能で我が家は生き残るだろう」

儲かってたまらない、とヴォルフガンクは笑う。

そして多く潜むバートンの群れ。
南部に中にはあのイシュバールで錬金術の実験体として生き残ったキメラにされた者達の隠れ蓑にしている会社もある。
彼等は深くこの国を恨んでいる。

ヴォルフガンクの昔からの知り合いであるハイリッツが医師としてキメラと成った者達に紹介し
今でも続けて治療を行なっているので
皆、バートンに恩義を感じている。

いや、ある意味悪質な人質かもしれない。

「たかがアイディア、それだけで起業する会社がどれだけあると思うのだろうか、家の娘は」


東と西はわからないが

「なに、いつもどおりバートンらしく、帰属する価値なしだと思えば、殺すだけだ、そしてそろそろだと、私の鼻は言っている」

そうやって、長く生き残ってきた、そして、それ以外出来ない、とヴォルフガンクバートンは笑う。
妹のアニーも笑う。










どこまでも異常なほどにバートンは強い。
そういう風に生きれない故にそういう風に強く生きる。

「さて、家の娘はどういう風に生きるのだろうな」

ヴォルフガンクは銃【森の狼】のトリガーガードの不可解な溝を見て、娘に期待する。

















あとがき



前回の主人公視点のお話、どうでしたか?



そしてキメラ編はまだ続く。


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