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No.11085の一覧
[0] 迷宮恋姫【完結】 (真・恋姫無双 二次創作)[えいぼん](2010/05/31 20:54)
[1] 第一話[えいぼん](2009/09/21 00:53)
[2] 第二話[えいぼん](2009/09/21 01:05)
[3] 第三話[えいぼん](2010/01/24 20:05)
[4] 第四話[えいぼん](2009/09/26 05:36)
[5] 第五話[えいぼん](2009/08/25 00:08)
[6] 第六話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[7] 第七話[えいぼん](2009/09/15 21:39)
[8] 第八話[えいぼん](2009/09/15 21:40)
[9] 第九話[えいぼん](2009/08/25 00:05)
[10] 第十話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[11] 第十一話[えいぼん](2009/08/27 23:37)
[12] 第十二話[えいぼん](2009/08/26 21:34)
[13] 第十三話[えいぼん](2009/09/21 08:56)
[14] 第十四話[えいぼん](2009/08/29 02:46)
[15] 第十五話[えいぼん](2009/09/21 03:04)
[16] 第十六話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[17] 第十七話[えいぼん](2009/09/04 23:58)
[18] 第十八話[えいぼん](2010/02/20 07:17)
[19] 第十九話[えいぼん](2009/09/21 03:40)
[20] 第二十話[えいぼん](2009/09/21 03:47)
[21] 第二十一話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[22] 第二十二話[えいぼん](2010/05/20 18:53)
[23] 第二十三話[えいぼん](2009/09/07 22:44)
[24] 第二十四話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[25] 第二十五話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[26] 第二十六話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[27] 第二十七話[えいぼん](2009/10/03 08:55)
[28] 第二十八話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[29] 第二十九話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[30] 第三十話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[31] 第三十一話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[32] 第三十二話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[33] 第三十三話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[34] 第三十四話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[35] 第三十五話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[36] 第三十六話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[37] 第三十七話[えいぼん](2009/09/21 00:42)
[38] 第三十八話[えいぼん](2009/09/20 23:50)
[39] 第三十九話[えいぼん](2009/09/22 15:51)
[40] 第四十話[えいぼん](2009/09/22 18:12)
[41] 第四十一話[えいぼん](2010/05/14 19:23)
[42] 第四十二話[えいぼん](2009/09/27 16:52)
[43] 第四十三話[えいぼん](2010/02/20 14:39)
[44] 第四十四話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[45] 第四十五話[えいぼん](2010/05/14 19:22)
[46] 第四十六話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[47] 第四十七話[えいぼん](2010/02/20 14:57)
[48] 第四十八話[えいぼん](2010/05/14 19:06)
[49] 第四十九話[えいぼん](2009/09/30 21:32)
[50] 第五十話[えいぼん](2009/10/02 00:33)
[51] 第五十一話[えいぼん](2009/10/03 01:57)
[52] 第五十二話[えいぼん](2010/03/27 14:36)
[53] 中書き[えいぼん](2009/10/03 16:02)
[54] 閑話・天の章[えいぼん](2010/01/10 19:35)
[55] 閑話・地の章[えいぼん](2010/01/09 11:12)
[56] 閑話・人の章[えいぼん](2010/01/10 10:59)
[57] 第五十三話[えいぼん](2010/02/01 19:13)
[58] 第五十四話[えいぼん](2010/04/14 23:22)
[59] 第五十五話[えいぼん](2010/01/18 07:26)
[60] 第五十六話[えいぼん](2010/01/20 17:42)
[61] 第五十七話[えいぼん](2010/01/31 22:16)
[62] 第五十八話[えいぼん](2010/01/29 23:27)
[63] 第五十九話[えいぼん](2010/02/03 05:56)
[64] 第六十話[えいぼん](2010/02/20 07:29)
[65] 第六十一話[えいぼん](2010/02/20 07:30)
[66] 第六十二話[えいぼん](2010/04/13 21:38)
[67] 第六十三話[えいぼん](2010/02/20 07:32)
[68] 第六十四話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[69] 第六十五話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[70] 第六十六話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[71] 第六十七話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[72] 第六十八話[えいぼん](2010/03/27 14:39)
[73] 第六十九話(書き直し)[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[74] ボツ話[えいぼん](2010/03/25 07:16)
[75] 第七十話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[76] 第七十一話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[77] 第七十二話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[78] 第七十三話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[79] 第七十四話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[80] 第七十五話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[81] 第七十六話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[82] 第七十七話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[83] 第七十八話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[84] 第七十九話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[85] 第八十話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[86] 第八十一話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[87] 中書き2(改訂)[えいぼん](2010/04/01 20:31)
[88] 第八十二話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[89] 第八十三話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[90] 第八十四話[えいぼん](2010/04/13 21:43)
[91] 第八十五話[えいぼん](2010/04/17 03:04)
[92] 第八十六話[えいぼん](2010/04/29 01:36)
[93] 第八十七話[えいぼん](2010/04/22 00:13)
[94] 第八十八話[えいぼん](2010/04/25 18:36)
[95] 第八十九話[えいぼん](2010/04/30 17:45)
[96] 第九十話[えいぼん](2010/04/30 17:51)
[97] 第九十一話[えいぼん](2010/05/05 13:47)
[98] 第九十二話[えいぼん](2010/05/07 07:39)
[99] 第九十三話[えいぼん](2010/05/30 13:16)
[100] 第九十四話[えいぼん](2010/05/16 08:27)
[101] 第九十五話[えいぼん](2010/05/16 08:31)
[102] 第九十六話[えいぼん](2010/05/18 07:11)
[103] 第九十七話[えいぼん](2010/05/22 07:52)
[104] 第九十八話[えいぼん](2010/05/31 22:26)
[105] 第九十九話[えいぼん](2010/05/30 13:59)
[106] 最終話[えいぼん](2010/05/31 22:24)
[107] 後書き[えいぼん](2010/05/31 20:56)
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[11085] 第八十六話
Name: えいぼん◆2edcbc16 ID:fd94314f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/29 01:36
「この戦利品の数を見てくれよ、一刀!」
「……ああ」
「お前の演説で、あいつらもやる気を出したんだろうな。今までとは比べものにならないよ!」
「……そっか」

ムネムネ団の戦果を嬉しそうに報告する白蓮。
そんな彼女に対して、生返事で応じる一刀。

一刀の態度に眉を顰める白蓮だったが、その不満を飲み込んで言葉を続けた。

「死傷者がもっと増えるかもと思ってたけど、それほどでもなかったし。探索を小隊毎に固めたのが良かったみたいだ」
「でも、やっぱり死んだ奴もいるんだよな」
「そんなの当たり前だろ。ピクニックに行ってるんじゃないんだから」
「……」

もちろん一刀だって、1人も死なないなどと思っていたわけではない。
ムネムネ団500人が迷宮探索に向かったのだから、脱落者が出るのは当たり前である。
そもそも今までだって死者は出ていたのだし、白蓮の言う通りそれが殊更に増大したわけでもない。

尤も今回の場合、その死傷者の発生が一刀の演説と全く無関係だとは言えないだろう。
それでもあれは必要だったと、一刀も納得した上での煽りである。
自分の扇動で他人が死ぬ、そんなことは当然一刀にだって分かっていた。
だが実際に他人の命を背負う重さの前では、そんな理屈など何の足しにもならない。

(あいつら自身が迷宮探索することを決めたんだから、全部自己責任だ……)
(俺は無理しろなんて、一言も指示してない……)
(もともとは団長だって、スパイ作戦なんだし……)

どんなに言い訳を重ねても、心の重圧が消えない一刀なのであった。



冥琳と雪蓮が倒れてから1ヶ月余り、ようやく完治したとの連絡が来た。
彼女達の退院祝いに華を添えようと、いつもの魚に加えて貝類も供給すべく一刀は蓮華や思春と共にBF5の海岸へ向かった。
BF5の海岸の端には膝下程度の浅瀬があり、そこではシジミやアサリ、ハマグリなどが採れるのである。

ちなみに、なぜわざわざ一刀達が貝類を取りに来たのかと言えば、貝類はギルドでの流通がないからである。
その原因は、一定確率で釣れるモンスターの存在にあった。
確実に敵が存在する危険な海に足を踏み入れる者など少数派であるし、所詮は貝類なのでリスクに見合うほど高値で売れるわけでもない。
一部の好奇心旺盛な冒険者達により貝類の存在は早くから知られていたものの、そういった理由でギルドでもあまりお目にかかれない品となっていたのだ。

【魚群探知】や【魚釣り】も貝類には効果がないため、底冷えする海の中でシジミトゥルルと頑張っている一刀。
その行動とは裏腹に、彼の心は沈んだままであった。
不意に襲ってきた『マリンマイマイ』を瞬殺し、一刀は暖をとるために岸へと上がった。

「ほら、さっさと火にあたれ、一刀」
「ありがとう、思春」

思春に差し出された手ぬぐいで濡れた手足を拭き、たき火の前で熱いほうじ茶を啜る一刀。
その様子を一瞥した思春は、すっくと立ち上がった。

「さて、今度は私が行く。一刀、火の番を頼むぞ」
「了解」

危険を冒してまで貝類を採ろうとする者などめったにいないため、今も周囲は無人である。
そのため大胆に服を脱ぎ捨ててふんどし姿になった思春は、引き締まったヒップを揺らしながら浅瀬へと向かった。
後光が射しても不思議ではない魅惑の後姿に、思わず両手を合わせて拝む一刀。

「何をやっているのよ、一刀」
「あ、いや、なんか御利益がありそうだったからさ」

いつの間にか傍に来ていた下着姿の蓮華を、慌ててビッグサイズのタオルで包み込む一刀。
濡れそぼった肢体をタオルごと抱き寄せ、冷えきった肌を優しく擦るようにして暖める。
これは恋人である思春への対応と全く同じであった。
2人のやり取りを蓮華が羨望の眼差しで見つめていたことに気づいた思春からの指図である。

嫌がられるかもとドキドキした一刀だったが、蓮華はすんなりと受け入れてくれた。
時折くすぐったそうに身をくねらせならが、一刀に尋ねる蓮華。

「御利益って、何を願ったの?」
「安全祈願かな。迷宮探索は危険だから」
「……思春のお尻に?」
「ああ。後は蓮華の下乳にも祈れば完璧だ。あ、いや、変な意味じゃないぞ」
「じゃあどんな意味なのよ?」
「眼福っていうだけあって、幸が多そうかなぁと」
「……やっぱりエッチな意味なんじゃない」

言葉は非難するような内容だが、蓮華の口調は穏やかであった。
どこか変だった一刀がいつもの雰囲気に戻ったのを、蓮華は敏感に察したからだ。
この機会を逃さず、なぜ一刀が落ち込み気味なのかを優しく問い掛ける蓮華。
誰かに話すだけでも気が楽になるからと蓮華に言われ、一刀はムネムネ団の事情を説明した。

「迷宮探索なんだから、全員が無事でいられる保証なんて誰にも出来ないわ」
「わかってる、そんなことはわかってるんだ!」
「……一刀」
「でも、もし俺が団長にならなかったら死ななかった奴らだって、絶対にいるんだよ……」

普通なら、弱音を吐く一刀の横面でも張って渇を入れる場面であろう。
だが蓮華は、彼の言い分に共感を覚えてしまっていた。
なぜなら雪蓮が倒れていた1ヶ月ちょっとの間、蓮華もまたギルドの責任者として剣奴達の命を預かっていたからである。

多少おかしいと思う所には目を瞑って現状の通りに運営すれば、問題が出たとしても蓮華の責任ではない。
だがそうするには、蓮華は生真面目過ぎた。

テレポーター警備のローテーションを変更したり。
強制参加の訓練日を創設したり。
給料体系に階級制度を導入したり。

祭や穏と相談しながら、自分が良いと思う案を実行していった蓮華。
主目的が経費削減だった所まで、一刀と同じであった。

結果的に剣奴達への負荷が増し、そのために命を落とした者もいたのではないか。
もし自分が余計なことをしなければ、今頃生きている者もいたのではないか。

そう、蓮華もまた、今の一刀と同じ悩みを抱えていたのだ。
だが思慮深さと決断力に優れていたと伝えられる孫権の加護を持つ少女は、それでも前に足を踏み出す強さを心に秘めていた。

「凡人の私達には失敗なんていくらでもあるわ。姉様のように天に愛された才能を持っていないのだから、それは仕方ないことよ。それでも私達には、出来ることがある」
「出来ること?」
「失敗を挽回して、次に繋げる努力よ。貴方は団員の死傷者が出た問題を、まさかそのままにしておくつもり? それだけは、上に立つ者として絶対に許されないわ」
「でも、500人もいるんだぞ? 俺1人で、何が出来るって言うんだ!」
「頭を使って、人に協力を求めて、それでも駄目なら体を張るのよ!」

一刀に怒鳴り返し、そのまま彼の頭を強く抱き寄せる蓮華。
そうして一刀の耳元で、蓮華は静かに言葉を紡いだ。

「才の足りない私達が姉様達と並ぶためには、努力を怠ってはダメなのよ、一刀」
「蓮華……」
「一緒に頑張りましょう、一刀。貴方は決して1人きりではないわ」

蓮華の頬に手を当て、その唇に顔を寄せる一刀。
そんな一刀の仕草に、蓮華もそっと瞼を閉じた。

パチパチと火の粉が弾ける音に、たちまち粘膜の奏でる淫靡なリズムが加わる。
BGMにはそれらを包み込むような波の飛沫と、その全てを切り裂くような鈴の音。

……鈴の音?

「ほら一刀、そこの岸壁で取れたウニだ」
「痛っ、ちょ、ウニを背中に押し付けないでっ」
「はぷっ、あ、一刀、やめちゃダメよ。もっと舌を吸って……」

普通のラブコメであれば、ここがオチの場面であろう。
しかし一刀には、風俗店で培ったSM経験があった。
キャノ様とのオンバシラプレイに比べれば、ウニの痛みを快感に変換することなど朝飯前である。

背中に刺さるウニをそのままに、蓮華と唾液を交換しつつ思春の濡れたふんどしを捲り上げる一刀。
やがて重ねられた舌が3枚となり、遂には3人の影が1つになった。

こうして蓮華と思春の献身により、憂鬱を吹き飛ばすことに成功した一刀なのであった。



団長としての責任に目覚めた一刀は、今まで直視出来なかった団員達の死因について調査を始めた。
その結果分かったことは、ヘルハウンドによって頸動脈をやられる団員の多さだった。

小隊単位での行動を課しているため、人数的に不利な戦闘は発生しない。
そのためダメージ的に追い込まれても十分にフォローが効くし、必ず魔術師が1人以上いるので回復も可能である。
一方で団員達のほとんどが男なこともあり、彼らが有力な加護神を得られているとは言い難い状態であった。
LVの近い斗詩や猪々子などと比べて格段に落ちるHPを見ても、そのことは分かる。

つまり一刀達であれば多少の不意をつかれても対処出来るヘルハウンドの急所攻撃が、団員達には致命的であったのだ。
更にHPが低い分だけ攻撃を受けてから死亡するまでに手当てをする時間的な余裕がないということも含め、2重の意味で団員達にとってヘルハウンドは天敵なのである。

逆に言えば、急所さえ守れれば死傷者が大幅に減るに違いない。
そう考えた一刀は、沙和を臨時に雇い入れた。
材料は団員達から買い取った戦利品の『ミスリルインゴッド』や『滑らかな皮』が腐るほどある。
これらを使ってムネムネ団制式首輪を作成し、団員達への購入と装着を義務付けようという狙いだった。
有料だと団員達からの不満が出るかもしれないが、一刀だってむさいマッチョ達が首輪をつけて喜ぶ姿など見たくないのだから、お互い様であろう。

「それはお互い様って言わないのー」
「なんでだよ。奴らが我慢する分、俺だって我慢するんだぞ? あ、女の子用は、もうちょっとデザインを考えよう」
「……隊長、十分楽しんでるのー」

小隊長用、班長用、一般隊員用をそれぞれ男女別にデザインして各1つずつ制作したら、沙和の仕事は終了だ。
もともと大量生産を視野に入れているため、サイズは調整が可能なように設計されている。
そのため一刀はこれらを見本に、街の防具屋に量産を依頼することが可能だったのである。

「ところで沙和達って、今忙しい?」
「ううん、のんびり休暇中なのー」
「それじゃしばらく俺に雇われてくれないか?」
「沙和はOKなの! 凪ちゃん達も、多分大丈夫だと思うのー」

一刀に出来ることは、首輪の配給だけではない。
凪達を雇い入れた一刀は、迷宮内の身回りも積極的に行おうと考えていた。
つまり、自らが率いるレスキューチームの結成である。

頭を使い、周囲に助けを求め、体を張る。
こうして一刀は、ムネムネ団の団長として日に日に成長していった。



東に苦戦する小隊がいれば。

「熱くなれよ! 熱い血潮を燃やしてけよ! どうしてそこで攻撃やめるんだ、そこで! お前等ならやれるって! もっともっと、熱くなれよおおおっ!」
「もっと熱くなるのー!」

CHRの高い一刀の熱い声援と、沙和の【罵声】による能力補正で団員達を発奮させ。


西にトラップに引っ掛かった小隊がいれば。

「はあっ! ご無事ですか?」
「ここの『槍衾』は、ウチが塞いどくわ」

団員達が引っかかったトラップを凪が【氣功】で吹き飛ばし、真桜が二度と発動しないように手を加え。


南に道に迷った小隊がいれば。

「諦めんなよお前! PTメンのこと思ってみろって! ずっと探索してみろよ! 絶対いつか出口に辿り着ける! だからこそ、ネバーギブアップ!」
「ネバーギブアップなのー!」

敢えて道を教えずに、冒険者としての能力を育て。


北に大怪我を負った小隊がいれば。

「大変だ。真桜、早く『傷薬2』を!」
「救護院でならくっつくかもしれんし、念のため腕も持ってった方がええで。いざとなったら、ウチが義手を作ったるから」

団員達を地上まで護送して、宿にいた月に『再生の滴』を唱えて貰い。


連日のように迷宮へと潜って団員達を救助する一刀達。
死線を潜り抜けたムネムネ団は、ますます精強さを増していった。

ところが全てが順調なように見えて、実は1つだけ問題があった。
それは凪達の給料である。
浮いた資金は全て朱里達が回収しているので、ムネムネ団に金銭的な余裕はまったくない。
策に使う費用であるとのことなので仕方がないが、そのため凪達はずっとロハで働かされていたのだ。

凪達と結成したレスキュー隊は、言ってみれば一刀の心の贅肉である。
なぜならその活動をしなくても、朱里達の策謀になんら影響が出ないからだ。
1貫でも多く欲しいと身銭まで切っている朱里達に余分な人件費の請求も出来ず、かといってさすがにこのままではまずいと思った一刀は、一計を案じた。

現在、全てのドロップアイテムは売値の1.5倍で団が買い取りをしている。
売るか売らないかは各人の自由としているのだが、大半の団員が換金を希望したために在庫はたっぷりとある。
基本的にそれらはギルドにまとめ売りをして団の運営費に回すのであるが、朱里達の高い知略はそれらも含めた利益を割り出してしまうため、普通なら余剰金は生まれない。

そこで一刀は、華琳に『黄銅の短剣飾り』の商談を持ちかけたのである。
2ヶ月程前に迷宮探索を行った時、彼女達のクランには『黄銅の短剣飾り』が不足していたはずであった。
もしそれが未解決であれば、きっと高値で購入してくれるに違いないと一刀は考えたのだ。

一刀の目論見通り、華琳は『黄銅の短剣飾り』を売値の倍である1個5貫で大量に購入してくれた。
華琳にとってもギルドの非売品である『黄銅の短剣飾り』を入手出来るのは美味しいチャンスであり、売値の2倍程度であれば格安と言ってもよいくらいだった。

(これなら、凪達に今までの分の給料まで払えるな)

ほっとする一刀の目に、ふと華琳のパラメータが映った。
不可解なことに、華琳は2ヶ月前と同じLV24のままであった。
BF25の海岸を拠点としていれば、今頃LV26くらいになっていてもおかしくない。

「ところで、最近は迷宮探索に行ってないのか?」
「……実はね、かなり苦戦しているの」
「なんでまた?」
「貴方達4人がいないと、前衛不足でローテーションが組めなくて。だから、BF25まで辿り着けないのよ」

『バミュータの宝玉』で荷物持ちの必要はなくなったが、それでもまだ人員が足りないのだと言う。
特に夜営が困難だそうで、かといってLV24の華琳達ではBF25海岸まで強行突破するにも戦力不足であるらしい。

「BF24に到達した辺りで前衛の体力が尽きて『帰還香』を使うのが、すっかりパターンになってしまったわ」
「……華琳達でもそうなら、雪蓮達も相当苦戦してるだろうな」
「あら、貴方は知らないの? 雪蓮クランは桃香クランとしばらく前に同盟を結んだのよ。雪蓮達が退院した直後くらいじゃなかったかしら」
「そうなんだ?」
「ええ。どうやら彼女達もBF24までは到達出来たみたいよ」

ここ最近で突出した実力を持つに至った華琳クランに対抗するため、とうとう彼女達もなりふり構っていられなくなったらしい。
その結果、彼女達は今や華琳クランに迫る勢いで迷宮攻略を進めているそうだ。

「なら、華琳も月達の漢帝国クランと同盟を組んだらどうだ? あそことは以前一緒に迷宮攻略してたんだろ?」
「あの時と今では状況が違い過ぎる。もうBF25なのよ? パイは1つなのにこの段階で同盟なんて、どう考えても不可能だわ」

雪蓮と桃香はどうやって同盟の条件に折り合いをつけたのかしら、と考え込む華琳。
その様子を見つめる一刀の目が、不意に顔を上げた華琳の目と合った。

「今日、私を貴方達が訪ねてきたのは、まさしく天祐よ。凪、沙和、真桜、一刀。私の生きる道を、今からは貴方達も共に歩みなさい!」
「華琳さん……」
「私はこの命で、一遍の詩を紡ぐ。誰よりも勇壮で、誰よりも果敢で、誰よりも雄大な、そんな人生の詩を」
「か、格好いいのー」
「2000年の後まで語り継がれるであろう私の生き様、貴方達はその詩を彩るに相応しいわ」
「壮大なスケールやな……」
「決して後悔はさせない。私の名と一緒に、永久に不滅の存在となるのよ!」
「……」

(というか、俺は既にムネムネ団に就職してるし……)

空気を読んで口には出さなかったが、一刀は少なくとも現時点で華琳クランへの加入は出来ない。
『炎の妖精』と自分を慕ってくれる団員達に対する裏切り行為になるからである。
麗羽陣営の2枚看板である『大妖精』斗詩、『氷の妖精』猪々子と並び称されるまでになった一刀には、それなりの責任があるのだ。
いずれは決別する時が来るだろうと思ってはいたが、それが今でないことは明らかだった。

かといって、3人娘の行動に口を挟むつもりも一刀にはない。
加護神から考えると凪達は華琳クランに加入した方がいいように思うが、結論は彼女達自身で出せばいいのである。
例え彼女達が華琳に否と答えても、一刀は加護神うんぬんを持ち出す気もなかった。

一刀達に答えを求める華琳。
凪達も一刀の返事を待っている。
一刀は彼女達の思考を傾けさせぬよう、慎重に言葉を選んで返答した。

「悪いけど、俺は仕事があるから無理だ。それから凪達との契約は、今日で打ち切らせて貰うからさ。後は自分で考えて返事をしてくれな」
「隊長、自分達がいなくても大丈夫なんですか?」
「協力者の当てなら他にあるから、こっちは心配いらないよ」
「沙和、隊長と一緒にクランに参加したいのー」
「我儘を言うなよ。そういうのは、自分で決めるべきだぞ」
「うーん、隊長がおるなら、ウチも文句なしやったのに……」
「俺と一緒に働きたいってのが最終決定なら、団で再契約してもいいさ。とにかく自分がどうしたいのか、今晩じっくり考えてみてくれ」

一刀自身は、華琳の言葉に共感出来ない部分が多かった。
名を残すということにそれほどの価値を感じなかったし、そのために命を賭けるのも嫌だったからだ。
それでも華琳と共に歩む人生というのは、それはそれで面白そうだとは思う。
少なくとも宿屋の主として平穏無事な一生を終えるという人生設計を放棄してもいいかも、と思わせるくらいの人物的な魅力が華琳にはあった。

タイミングさえ合えば、もしかしたら了承していたかもしれない華琳からの提案。
それが一蹴されたことは、大げさに言えば華琳に天の時が未だ訪れていないことの証明であったのかもしれない。

翌日、申し訳なさそうに華琳クランへの加入を伝えに来た凪達。
このことにより、また迷宮攻略の局面がガラリと変わることになるだろう。

そんな予感を抱きつつ、その大きな歴史の変動からすっかり置いてけぼりの一刀なのであった。



**********

NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:25
HP:454/399(+55)
MP:30/0(+30)
WG:80/100
EXP:143/8000
称号:炎の妖精

STR:38(+11)
DEX:53(+22)
VIT:28(+3)
AGI:41(+12)
INT:27(+1)
MND:20(+1)
CHR:53(+18)

武器:新・打神鞭、眉目飛刀
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、大極道衣・改、ハイパワーグラブ、仙人下衣、六花布靴・改
アクセサリー:仁徳のペンダント、浄化の腰帯、杏黄のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス、崑崙のピアス

近接攻撃力:294(+39)
近接命中率:118(+14)
遠隔攻撃力:160(+15)
遠隔命中率:106(+18)
物理防御力:194
物理回避力:122(+24)

【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。
カラミティバインド:敵全体を、一定時間だけ行動不能にする。

【魔術スキル】
覆水難収:相手の回復を一定時間だけ阻害する。<消費MP10>

【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。

所持金:32貫


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