飛び掛かって来るヘルハウンドを盾で殴りつけ。
足元に忍び寄るバジリスクの毒牙を『打神鞭』で捌き。
横から殴りつけて来るオーガの拳をギリギリで避け。
≪-不動如山-≫
≪-土の鎧-≫
穏と亞莎からの強化魔術が、一刀に向けて放たれる。
それらを集中的に受け、更にブースト香まで使用していることに加えて、BF22のモンスターはLV23の一刀より格下という事実もある。
だが、一刀には手も足も2本ずつしかない。
多勢に無勢というのは、まさしく今の状況に相応しい言葉なのだろう。
オーガの攻撃によって体勢の崩れた一刀に、ケルベロスの突進を止める術はなかった。
「ぐっ!」
吹っ飛ばされて倒れ込む一刀に、敵の群れが殺到する。
即座に身を起こした一刀は、しかし何を思ったのか左手の中に『眉目飛刀』を呼び出すと、蓮華達の方へ襲い掛かろうとしていたスライムに投げつけた。
この状況で新たな敵を呼び込むなど、自殺行為以外の何物でもない。
案の定、一刀は敵達の攻撃を捌き切れずに集中打を受け続けた。
≪-治癒の雨-≫
≪-癒しの水-≫
後衛達のフォローがなければ、一刀のHPはとっくの昔に無くなっていたであろう。
そうまでして、なぜ彼が攻撃を一手に引き受けねばならないのか。
「カラミティバインド!」
もちろんそれは、最短でWGを100にするためである。
事前に必殺技名を叫ぶよう嫌がる一刀に強要していた雪蓮達は、その声を合図に動けなくなった敵へと殺到した。
蓮華が、思春が、明命が、それぞれの武器を動けない敵へと振り下ろす。
その作業的な敵の殲滅方法は、彼女達のプレイヤースキル向上を望む雪蓮の方針とは真逆のやり方であった。
だがこの作戦自体は、ある種の経験として彼女達の糧となるに違いない。
そう割り切って、雪蓮も蓮華達とは別の敵へと『南海覇王』を突き立てた。
攻撃力特化の雪蓮は、1人で蓮華達3人と同等以上のダメージを敵に与えることが出来る。
敵の反撃がないこの作戦は、最も雪蓮の特性を活かせると言えよう。
そして、そんな雪蓮よりも更にこの作戦向きの加護スキルを持つ者がいた。
NAME:祭【加護神:黄蓋】
LV:21
HP:52/333(+20)
MP:0/0
そのHPが大幅に減っているのは、祭自身の意志によるものである。
先ほど穏が唱えた全体回復の効果を持つ水系統3段階目の魔術『治癒の雨』に対しても、祭はわざわざその効果範囲外へと避けていた。
普段は危なっかしくて使用出来ない祭の加護スキル、【苦肉の策】のためである。
自身の被ダメージ量を敵への与ダメージ量に加算出来るこのスキルのお陰で、現時点での祭の攻撃は雪蓮に匹敵する程の威力となっていたのだ。
蓮華達3人で1体、雪蓮が1体、そして祭の矢によって1体。
一刀が必殺技を放ってから僅か10秒の間に、計3体がこの世から永久に退場した。
その間にも、一刀は『眉目飛刀』を投げてWGを稼ぐ。
ようやく動けるようになったモンスター達、そのヘイトは必殺技を放った一刀へと向いている。
従ってその場にいる全ての敵は一刀へと殺到したのだが、もはや群れと呼べるだけの数は残っていない。
しかし一刀の方も、HPは回復していても体の芯にまだダメージが残っている。
普段より格段に動きを鈍らせた一刀は、それでも敵達の攻撃を捌こうと必死で足掻いた。
時には受け止め、時には受け流し、時には受け損ない。
そうやってWGを貯め、血と汗の結晶である武器スキルを解き放つ。
「カラミティバインド!」
自らの血で赤く染まった視界に、雪蓮達が残りの敵を殲滅する様子が映る。
フラフラとしながらも、その敵に向けて一刀は『眉目飛刀』を投擲した。
5Pでも10Pでもいいから、次の戦闘のためにWGを貯めておきたかったのだ。
≪-再生の滴―≫
≪-癒しの水-≫
そんな一刀を、穏と亞莎の放った暖かな粒子が包み込む。
オーガに殴られた顔の傷が、ヘルハウンドに噛みつかれた腕の傷が、スライムに焼かれた足の傷が、見る見るうちに塞がっていった。
(なんか、必殺技名を叫ぶのが快感になってきた……)
しかし残念ながら彼女達の魔術は、一刀の脳味噌へのダメージだけは回復しきれていない様子なのであった。
加護スキルの効果を得るためにHPを減らしている祭よりも、更にボロボロの一刀。
最初にわざと敵の攻撃を受けただけの祭に対し、一刀の場合は回復しては減らされの繰り返しなのだから、それも当然である。
いくら痛みに鈍い一刀とはいえ、無限ループの拷問じみたその行為はさすがに辛い。
「大丈夫ですかぁ、一刀さん」
「ああ、全然平気だって。穏や亞莎の魔術のお陰だよ」
だが、そのことを一刀が口にすることはなかった。
この痛みが冥琳の助けとなるのであれば、いくらでも受ける覚悟があったからだ。
「ちょっと休憩にしましょう。少し戻った所の小部屋がいいわ」
「じゃあ俺は周囲に敵がいないか見て来るよ」
「あのねぇ……。貴方が一番休まなきゃいけないの!」
「索敵は私にお任せ下さい、一刀様!」
「わかったから、そんなに怒るなよ。美人が台無しだぞ、雪蓮。それじゃ明命、悪いけど頼むな」
「はいっ!」
「まったく。なんであんなにダメージを受けたのに、減らず口を叩く余裕があるのかしら」
空元気も元気。
むしろ、余裕がないからこその軽口なのである。
男なら誰でも心当たりはあると思うが、殴られた瞬間の痛みというのは実の所さほどでもない。
それはアドレナリンなど脳内麻薬の分泌によって、痛みの感覚が鈍るからである。
しかし、それでも大抵の人は暴力を振るわれることを恐れる。
なぜなら、殴られるのはとても痛いだろうと想像するからだ。
そして一刀も、その辺りは常人となんら変わる所がない。
殴られたり斬られたりするのは、一刀だって当然怖いのだ。
いくら覚悟があるからといって、恐怖で心が折れそうになるのは人間として当然である。
一刀に出来ることは、負けそうな心を空元気で立て直すことだけであった。
「えぇ、膝枕ですかぁ? ……うーん、一刀さんがそれでゆっくりと休めるなら、してあげますよぉ」
「おぉ、穏の太股って暖かいんだな。なんか、すっごく癒されるよ」
「目を瞑った方が、疲労が回復しますよぉ?」
「いいんだよ。この幸せな風景を見ていた方が、疲れがとれるし」
「あぁー、おっぱいを見上げてるんですかぁ? もう、エッチなんですからぁ」
セクハラではない。空元気である。
傷つき疲れ果てた戦士の、一時の休息なのだ。
まったりとした表情で、穏の膝枕を満喫する一刀。
そんな一刀の元に、顔を強張らせた蓮華が歩み寄った。
(げ、少し調子に乗り過ぎたかな……)
慌てて身を起そうとした一刀の手を、蓮華はそっと握りしめた。
さんざん攻撃を受けてきた一刀の痛みを、少しでも癒したい。
そう思った蓮華は、彼の手を自らの胸元へと導いたのである。
「これで貴方の気が紛れるなら、と思って……」
「あ、凄く柔らかい」
「……恥ずかしいから、感想を言わないで」
頬を赤らめる蓮華の様子に、自分はまだまだ頑張れると確信する一刀なのであった。
今回の迷宮探索は、無理に無理を重ねたスケジュールとなっている。
そうでもしなければ、とても1週間でBF25海岸まで辿り着けるだけのLVには到達しないからだ。
睡眠以外は全て戦闘といっても過言ではない苛酷な迷宮探索は、確実に一刀達の心と体を蝕んでいた。
だが、それと引き換えに手に入れたものもあった。
それはもちろんLVである。
1日目:祭壇からの移動日。一刀(LV23)、雪蓮(LV21)、蓮華(LV20)
2日目:主にBF22での戦闘。一刀(LV23)、雪蓮(LV22)、蓮華(LV21)
3日目:2日目と同様。一刀(LV23)、雪蓮(LV22)、蓮華(LV21)
そして4日目が終了した今日、遂に一刀のLVが24となり、蓮華を始めとする年少組がLV22となったのだ。
これは雪蓮クランにとって、BF22のモンスター達が強敵ではなくなったことを意味する。
僅か4日の迷宮探索、その成果としては破格であろう。
だがそのことにより、新たな問題も発生した。
それはBF23へ主戦場を移すことが容易ではないという事実である。
BF22を主戦場に定めていたため、このフロアにおける雪蓮の地図を確認する作業は既に終えている。
BF23への階段も発見していたし、そこに至るまでの罠も全てチェック済みだ。
では何が問題だったのか。
それは、拠点であった。
美以がいないため、どうしても拠点はBF20の安全地帯にする必要がある。
大荷物を運びながらの強敵戦など現実的ではないし、BF21に拠点を移そうとしても安全地帯がないため荷物を放置しておけないからだ。
そうなると、BF23で戦うための往復の移動時間だけで約8時間も掛かってしまう。
無論、そんな選択肢は問題外である。
ならばBF22でこのまま戦い続ければいいのではないか。
現に一刀がLV24に達しているのだから、同じように戦っている雪蓮達がLV23になるのも容易いはずだ。
と、そう考えるのは早計である。
なぜなら今回のパーティ構成は、雪蓮斑4人、蓮華斑4人、そして一刀のソロであるからだ。
言うまでもなく、カラミティバインドを使える一刀こそが本作戦の要である。
そして策の性質上、一刀は敵からの集中攻撃を受け続けなければならない。
つまり一刀のレベルアップこそがより深い階層で戦うためのキーポイントであり、それを優先させるために皆の倍の戦果を上げられる布陣としていたのだ。
そもそも一刀がLV24になっていなければ次のフロアなどという選択肢自体が出て来ないことを考えれば、このパーティ編成は必然である。
その一刀の取得EXPから逆算すると、彼の半分しか敵と相対していないことになる彼女達がLV23へと歩を進めるには、雪蓮でも3日、蓮華だと5日は掛かるであろう。
ちなみに一刀がLV25へ達するのは、現状のまま狩りを進めた場合で約12日である。
普通なら全く文句のない成長スピードであるのだが、時間制限のある今回の場合、そんな悠長な選択をすることは出来ない。
「となれば、明日はBF25の海岸を目指すしかないわね……」
「食糧やドロップアイテムは置いていこう。でないと、突破するのは厳しい」
海岸にさえ辿り着けば、【魚釣り】で食事はなんとかなる。
水とお香、それに短剣飾りがあれば、2週目に予定されている海岸での戦闘に支障はないだろう。
着替えは下着だけを最小限、それが精一杯である。
「これが最初の難関だな。なんとしても辿り着くぞ」
「当然よ。BF25の海岸で、新しい短剣飾りを手に入れるんだから」
今までのパターンから、BF25海岸では恐らく『金の短剣飾り』が入手出来るであろう。
そう予測を立てた雪蓮の考え自体は、一刀も支持していた。
だが『金の短剣飾り』に期待する雪蓮とは異なり、一刀はその効果に悲観的であった。
病の特性は、継続した状態異常である。
『銀の短剣飾り』を使っても次の瞬間にはまた元に戻ってしまうため、冥琳を治すアイテムはその原因自体を根絶させる効果を持ってなければならない。
しかし、青銅でHP回復、黄銅でMP回復、銀でHP全快+状態異常回復ときているのだ。
その上位である『金の短剣飾り』の効果が、病を治すのに特化した性能だとは思えない。
なぜなら迷宮内で受ける状態異常は、全て外的要因のものであるからだ。
つまり、全てが『銀の短剣飾り』で治る状態異常なのである。
これまでの傾向から、短剣飾りは迷宮内で受けたダメージの回復を想定したアイテムだといえる。
そして冥琳の病は迷宮に関係がないし、仮にそれがイベントだとしたら汎用アイテムで回復するのも妙な話であろう。
もし冥琳の病を治すアイテムがあるとしたら、そのために特化した固有アイテムであるはずだと一刀は思っていたのだ。
だがそんなことを雪蓮に告げて、彼女のモチベーションをわざわざ下げる必要もあるまい。
「きっと全て上手くいくさ。頑張ろう、雪蓮」
「ええ。そのためにも、今日はもう寝るわよ」
そう言って雪蓮は、隣に寝転がっていた一刀の頭を、むにゅっと抱きしめた。
4日目にして既に恒例となっていた、戦士の休息タイム。
本日の夜当番が雪蓮だったのである。
(俺、もうこのクランから離れられないかも……)
雪蓮の胸を堪能しながら、心地よい眠りにつく一刀なのであった。
迷宮突破では、LV上げ時とはパーティ構成を変えるべきである。
まず雪蓮と蓮華を同じ組にして、そちらに人数を多めに配置する。
そしてパーティ効果の分かる一刀が、少数でも性能の高いチーム編成を選ぶ。
こうすることで、迷宮突破の危険度を減らすことが可能だからだ。
チームメイトに明命と思春を選んだ一刀。
そのパーティ効果はAGI特化であり、この状況にマッチした性能だと評価出来る。
且つこのパーティは、先行部隊としても優秀であった。
索敵は明命に一歩譲る思春だが、彼女は罠に対するある程度の知識を持っていたからだ。
お互いに協力し合って往き道を確認する2人。
彼女達の探る方向には、敵の一団が存在していた。
極力戦闘を避けるため、迂回路を探すことにした一刀達。
だが、連日の激戦が祟っていたのであろう。
普段はしっかり者であるはずの思春が、愛刀『鈴鳴』を壁に引っ掛けてしまったのだ。
りーん。
と、澄んだ音が迷宮に響き渡る。
2人をサポートする立場の一刀は、どうしても避けられない戦闘の際には囮役も果たさねばならない。
「明命、思春! 先に後退しろ! 雪蓮達の待機場所まで引っ張っていく!」
「はいっ!」
「くっ、すまない。頼んだぞ、一刀」
場所はまだBF23の途中であり、LV24の一刀であれば1人で殿を務めることが可能なフロアである。
『眉目飛刀』を投げてWGを稼ぎつつ、退却を開始する一刀。
激戦に継ぐ激戦のお陰ですっかり『六花布靴』の性能を引き出すことにも慣れ、高いAGI効果と相まって、一刀はほとんど無傷で雪蓮達の元へと帰還することが出来た。
ところが、待機していた雪蓮達の方が無傷ではなかったのである。
彼女達の待機していた場所は、全員が支障なく戦闘出来るだけの広さを持つ中部屋だった。
その場所へと達する道が、実は一本ではなかったのだ。
別に他の道が隠されていたわけではない。
全員で戦闘可能な部屋がそこしかなかったため、その悪条件には目を瞑ったのである。
それが結果的には、分岐点からの敵の侵入を許すこととなってしまったのだ。
もちろんそれらの道も索敵はしていたのだが、どうやら探りが甘かったらしい。
その辺りも、恐らく連日の激戦における疲労の影響だろう。
しかしそんなことは理由にならないし、言い訳をしている暇などあるはずもない。
今はこの状況を打破することが最優先であった。
既に敵味方の乱戦となっている現状では、カラミティバインドの発動を待てるだけの余裕はない。
一刀が引っ張ってきた敵も加わるのだから、尚更である。
「私が退路を切り開くわ! 蓮華と一刀、殿をお願い!」
「わかりました、姉様!」
「その後は、どうするんだ!」
「一刀と蓮華で壁を作って、1体ずつ倒していくのよ! いいわね?」
「了解!」
敵中に飛び込む雪蓮、その後には傷ついた穏と亞莎が続く。
彼女達の背後を守って敵の追撃を防ぐ蓮華と一刀。
雪蓮達が側道に逃げ切りさえすれば、後は自分達がその入り口に立ち塞がるだけである。
祭の援護射撃もあるだろうし、後衛達の魔術もあるのだから、そこから先はさして難しい戦闘ではない。
「あっ!」
全ては、その側道にトラップさえなければの話であった。
先頭を走っていた雪蓮に対して発動した罠、それは毒の矢である。
側壁から突如として放たれた矢が、彼女の背中へと深く突き刺さったのだ。
慌てて『解毒の清水』を唱える亞莎。
だが、毒矢は雪蓮に刺さったままなのである。
解毒された次の瞬間、雪蓮は再び毒状態へと陥ってしまう。
その様子を見て、穏も雪蓮の元へと駆け寄った。
雪蓮に深く突き刺さった矢は、強引に引き抜くとそれが致命傷になりかねないため、無理は禁物である。
いくら『再生の滴』があっても、命を失った相手には無意味であるからだ。
少なくともこの戦闘中は、毒に侵された雪蓮のHPを回復し続けるより他に手段はない。
だが現時点では、毒矢よりも遥かに雪蓮の生死に関わる問題があった。
それは、この戦いを勝ち抜けるかどうかである。
亞莎も穏も、雪蓮という柱石が倒れて動揺したのであろう。
後衛が2人とも雪蓮に気を取られてしまうことの意味は、普段の彼女達であれば当然理解出来ていたはずだ。
彼女達が援護を放棄したこと、それは前衛陣の崩壊という結果に繋がったのである。
「うぐっ……」
ゴーレムからの一撃を受け損ね、その場に倒れ伏す蓮華。
更なる敵の追撃から蓮華を庇った一刀のWGが、そこでようやく100に達した。
「カラミティバインド!」
しかし一刀の叫びは、虚しく響いただけであった。
動けない敵を攻撃する余力など、今の彼等には残っていなかったのだ。
その10秒で出来たのは、短剣飾りによるHP回復と、倒れた蓮華を後ろに下げた思春が一刀の隣に立つことだけであった。
蓮華が倒れたことにより、今や戦力バランスは大きく敵側に傾いていた。
攻撃タイプの思春や支援タイプの明命では、最前線を支え続けることは難しい。
明命と同じく支援タイプであるものの、LV24の一刀だからこそ辛うじて蓮華と並べていたのだ。
穴の出来た前線を、辛うじて塞いでいた一刀達。
だがその防衛ラインが、遂にヘルハウンドによって突破されてしまった。
無防備な雪蓮や蓮華を辛うじて祭が守っていたが、それを援護する余裕など一刀達にはない。
更なる敵の猛攻を防ぐので精一杯だったのである。
そして頼りの『帰還香』も、この状況ではかき消されてしまって使い物にならない。
後1匹でも後ろに通したらアウト。
後1人でも前衛が倒れたらアウト。
後1体でも敵の増援が来たらアウト。
そして少しずつでも敵を減らせなければ、当然ジリ貧である。
このままでは、全滅も時間の問題だった。
一刀達がこの結末を迎えるはめになったのは、不思議でもなんでもない。
ひとつでも間違えば、いや、全てを完璧にこなしたとしても、僅かに運が足りないだけで容易く全滅を迎える。
一刀のプランとはそういう性質ものだったし、誰も死なずに達成出来たら奇跡なのだ。
僅かな確率に賭けて全てを失うことなど、迷宮都市・洛陽ではありふれた出来事である。
自分達だけは奇跡を享受出来ると考えての計画だとしたら、その考えはあまりにずうずうしい。
もちろん一刀達だって、そんなことは理解していた。
分かっていて、それでもこの作戦に賭けるしか道がなかったのである。
だから一刀は、この状況に追い込まれても諦めなかった。
これも想定内であり、とっくに覚悟は出来ていたからだ。
死ぬ覚悟ではない。
どんな状況におかれても、それを打破する覚悟である。
もちろんその覚悟を決めていたのは、一刀だけではない。
思春も明命も、誰ひとりとして絶望に眼を伏せる者などいなかった。
そして奇跡とは、こういう時にこそ起こり得るものなのであろう。
「あら、随分と追い詰められているわね、一刀。手助けは必要かしら?」
「華琳! どうやってここまで?!」
一刀の目の前に、なんと華琳達が姿を現したのである。
それだけではない。
こんな所にいてはいけないはずの人物までもが、彼女達の中に交じっていたのだ。
≪-赤壁-≫
救護院で看病されているはずの冥琳、その魔術が一刀達とモンスターとの間に不可侵の境界を作り上げたのであった。
**********
NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:24
HP:442/385(+57)
MP:0/0
WG:20/100
EXP:812/7500
称号:○○○○
パーティメンバー:一刀、思春、明命
パーティ名称:ふんどし同盟
パーティ効果:AGI1.5倍
STR:33(+6)
DEX:50(+19)
VIT:27(+2)
AGI:36(+7)
INT:27(+1)
MND:20(+1)
CHR:48(+13)
武器:打神鞭、眉目飛刀
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、大極道衣・改、鬼のミトン、仙人下衣、六花布靴・改
アクセサリー:猫の首輪、浄化の腰帯、覇者のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス
近接攻撃力:238(+39)
近接命中率:120(+20)
遠隔攻撃力:155(+15)
遠隔命中率:112(+28)
物理防御力:172
物理回避力:113(+20)
【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。
カラミティバインド:敵全体を、一定時間だけ行動不能にする。
【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。
所持金:9貫