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No.11085の一覧
[0] 迷宮恋姫【完結】 (真・恋姫無双 二次創作)[えいぼん](2010/05/31 20:54)
[1] 第一話[えいぼん](2009/09/21 00:53)
[2] 第二話[えいぼん](2009/09/21 01:05)
[3] 第三話[えいぼん](2010/01/24 20:05)
[4] 第四話[えいぼん](2009/09/26 05:36)
[5] 第五話[えいぼん](2009/08/25 00:08)
[6] 第六話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[7] 第七話[えいぼん](2009/09/15 21:39)
[8] 第八話[えいぼん](2009/09/15 21:40)
[9] 第九話[えいぼん](2009/08/25 00:05)
[10] 第十話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[11] 第十一話[えいぼん](2009/08/27 23:37)
[12] 第十二話[えいぼん](2009/08/26 21:34)
[13] 第十三話[えいぼん](2009/09/21 08:56)
[14] 第十四話[えいぼん](2009/08/29 02:46)
[15] 第十五話[えいぼん](2009/09/21 03:04)
[16] 第十六話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[17] 第十七話[えいぼん](2009/09/04 23:58)
[18] 第十八話[えいぼん](2010/02/20 07:17)
[19] 第十九話[えいぼん](2009/09/21 03:40)
[20] 第二十話[えいぼん](2009/09/21 03:47)
[21] 第二十一話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[22] 第二十二話[えいぼん](2010/05/20 18:53)
[23] 第二十三話[えいぼん](2009/09/07 22:44)
[24] 第二十四話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[25] 第二十五話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[26] 第二十六話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[27] 第二十七話[えいぼん](2009/10/03 08:55)
[28] 第二十八話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[29] 第二十九話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[30] 第三十話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[31] 第三十一話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[32] 第三十二話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[33] 第三十三話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[34] 第三十四話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[35] 第三十五話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[36] 第三十六話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[37] 第三十七話[えいぼん](2009/09/21 00:42)
[38] 第三十八話[えいぼん](2009/09/20 23:50)
[39] 第三十九話[えいぼん](2009/09/22 15:51)
[40] 第四十話[えいぼん](2009/09/22 18:12)
[41] 第四十一話[えいぼん](2010/05/14 19:23)
[42] 第四十二話[えいぼん](2009/09/27 16:52)
[43] 第四十三話[えいぼん](2010/02/20 14:39)
[44] 第四十四話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[45] 第四十五話[えいぼん](2010/05/14 19:22)
[46] 第四十六話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[47] 第四十七話[えいぼん](2010/02/20 14:57)
[48] 第四十八話[えいぼん](2010/05/14 19:06)
[49] 第四十九話[えいぼん](2009/09/30 21:32)
[50] 第五十話[えいぼん](2009/10/02 00:33)
[51] 第五十一話[えいぼん](2009/10/03 01:57)
[52] 第五十二話[えいぼん](2010/03/27 14:36)
[53] 中書き[えいぼん](2009/10/03 16:02)
[54] 閑話・天の章[えいぼん](2010/01/10 19:35)
[55] 閑話・地の章[えいぼん](2010/01/09 11:12)
[56] 閑話・人の章[えいぼん](2010/01/10 10:59)
[57] 第五十三話[えいぼん](2010/02/01 19:13)
[58] 第五十四話[えいぼん](2010/04/14 23:22)
[59] 第五十五話[えいぼん](2010/01/18 07:26)
[60] 第五十六話[えいぼん](2010/01/20 17:42)
[61] 第五十七話[えいぼん](2010/01/31 22:16)
[62] 第五十八話[えいぼん](2010/01/29 23:27)
[63] 第五十九話[えいぼん](2010/02/03 05:56)
[64] 第六十話[えいぼん](2010/02/20 07:29)
[65] 第六十一話[えいぼん](2010/02/20 07:30)
[66] 第六十二話[えいぼん](2010/04/13 21:38)
[67] 第六十三話[えいぼん](2010/02/20 07:32)
[68] 第六十四話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[69] 第六十五話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[70] 第六十六話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[71] 第六十七話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[72] 第六十八話[えいぼん](2010/03/27 14:39)
[73] 第六十九話(書き直し)[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[74] ボツ話[えいぼん](2010/03/25 07:16)
[75] 第七十話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[76] 第七十一話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[77] 第七十二話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[78] 第七十三話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[79] 第七十四話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[80] 第七十五話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[81] 第七十六話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[82] 第七十七話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[83] 第七十八話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[84] 第七十九話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[85] 第八十話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[86] 第八十一話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[87] 中書き2(改訂)[えいぼん](2010/04/01 20:31)
[88] 第八十二話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[89] 第八十三話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[90] 第八十四話[えいぼん](2010/04/13 21:43)
[91] 第八十五話[えいぼん](2010/04/17 03:04)
[92] 第八十六話[えいぼん](2010/04/29 01:36)
[93] 第八十七話[えいぼん](2010/04/22 00:13)
[94] 第八十八話[えいぼん](2010/04/25 18:36)
[95] 第八十九話[えいぼん](2010/04/30 17:45)
[96] 第九十話[えいぼん](2010/04/30 17:51)
[97] 第九十一話[えいぼん](2010/05/05 13:47)
[98] 第九十二話[えいぼん](2010/05/07 07:39)
[99] 第九十三話[えいぼん](2010/05/30 13:16)
[100] 第九十四話[えいぼん](2010/05/16 08:27)
[101] 第九十五話[えいぼん](2010/05/16 08:31)
[102] 第九十六話[えいぼん](2010/05/18 07:11)
[103] 第九十七話[えいぼん](2010/05/22 07:52)
[104] 第九十八話[えいぼん](2010/05/31 22:26)
[105] 第九十九話[えいぼん](2010/05/30 13:59)
[106] 最終話[えいぼん](2010/05/31 22:24)
[107] 後書き[えいぼん](2010/05/31 20:56)
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[11085] 第七十話
Name: えいぼん◆2edcbc16 ID:fd94314f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/13 21:40
お手製のメイド服(っぽい何か)に身を包んだ桃香と一刀の間に、気まずい沈黙が流れていた。
だがその時、それまでの均衡状態を破るように雷鳴が響き渡ったのである。

伝説に曰く、『青梅、酒を煮て、英雄を論ず』

一大勢力を誇っていた曹操が、当時客分格に過ぎなかった劉備に対して「世に英雄は2人、君と余だ」と語り掛けた故事である。
これは『英雄は英雄を知る』という曹操の慧眼を称えると同時に、劉備の思慮深さをも示している。
折からの雷鳴に耳を塞いで怯えて見せることで、曹操に自らを取るに足らない小人物だと思われるよう仕向けたことこそ、それである。
並みの男であれば、曹操ほどの人物に褒められればいい気分になってしまって、とてもそんな思慮を働かそうとは思えないはずだ。
まさに英雄同士の会合に相応しいエピソードであろう。

そして今、仁神・劉備の加護を受けた桃香に向かって、一刀が口を開いた。

「もしかして今のって、桃香のお腹の音?」
「はぅっ、違うよ、違うの! 私じゃないもん!」
「……良かったら、なんか食べてくか?」
「え、あ、う、うん……」

顔を真っ赤に染めて、宿へと入る一刀の後についていく桃香なのであった。



大皿に3杯もスープをお代わりして、満足げな桃香。
食べている時の様子からして、ここ最近十分な食事を取ってないように見える。

桃香が日々の食事に困るなど、どう考えてもおかしい。
なぜなら彼女の頭上に輝くステータスは、LV20と表示されているからだ。
それだけのレベルがあるのならば、生活費に不自由するなどありえない。

ちょっと迷宮に潜ればいくらでもアイテムが得られるのだし、第一彼女は洛陽でも有数の実力派クランのリーダーなのである。
一刀の経験から言っても、BF16~20辺りで1日戦えば、10~15個程度のアイテムがドロップする。
それが10~20貫で売れるのだから、月の半分も潜れば2000貫以上にはなるだろう。
クラン員数で割っても、暮らしていくのに十分な額である。

それがなぜ、こんなありさまになっているのだろうか。

「あのね、数ヶ月前から税金が上がったでしょ?」
「ああ、冒険者ギルドに変わった時か。でも桃香がそこまで困る程の値上げじゃなかっただろ」
「違うの、普通の税金の方。私は大丈夫なんだけど、商店街のみんなが今、大変なことになってるの」

以前は一刀の宿屋も、売り上げの7割を税として課されていた。
これはかなりの苛税と言ってよい。

元を正せば全ての始まりは一刀にあった、とは言い過ぎであろう。
しかし、間違いなく一刀が原因の一端を担っているのも事実である。

ことの始まりは、LV認識とPL(パワーレベリング)にあるからだ。

今の冒険者達は『贈物』を数えることにより、自身のLVが正確に把握出来る。
つまり、自分の実力相当のフロアが分かるようになったのだ。
すると当然、今までより遥かにLVアップが早くなる。

しかもそこに、PLという裏技までが登場した。
これは一刀が積極的に広めたわけではない。
だが探索者ギルド時代に七乃の指示で、雪蓮クランにPLされた剣奴達はかなりの数に上る。
彼等の口からPLのチートさが広まってしまうのは、仕方のないことであった。

これらの相乗効果で、ここ数カ月の間に加護を得る冒険者達が急増していたのである。

「白蓮ちゃんから聞いたんだけど、その冒険者達を麗羽さんが手当たり次第に雇ってるんだって」
「なんでまた?」
「その冒険者達にLVを上げさせて、自分達をPLさせようとしてるらしいの。それ以外にも目的があるのかもしれないけど……」
「なるほど。それでその出費分を、増税で賄おうって訳か」

それでも武器屋、防具屋、道具屋、飯屋、宿屋、風俗店など、冒険者が利用する施設に関しては、それほど困窮したわけではない。
加護持ちが多くなったことにより、金を落とす量も必然的に増えているためだ。

ちなみに一刀の宿屋がピンチを迎えていたのは、漢帝国クラン員以外の客を受け入れることが不可能だったからある。
もしフル稼働さえ出来ていれば、税金で7割を持って行かれても自分と子供達で普通に暮らしていけたはずだ。

そして桃香の住まう商店街には、その金が落ちにくい。
なぜなら、直接的に冒険者と関わりのある店が少ないからだ。
もちろん間接的な利益もゼロではないが、上記の店々に比べれば微々たるものである。

それに、武器屋なども別に潤っているわけではない。
増えた売上と税金が相殺くらいであり、彼等の生活グレードは変わっていないのだ。
従って彼等の生活を支えている商店街の利益も、同様に変化がないのである。

ただでさえ、この世界の税率は高い。
生活苦から両親に売られてしまった季衣達の例を見れば、そのことは分かるであろう。
その厳しい税が、儲けが増えていないにも関わらず、更に上がってしまったのだ。
貧しさに耐えられず洛陽から出て行こうとしても、そのための関税が必要なのである。
1人頭5000貫が払えるくらいならば、最初から貧困に苦しんではいない。

「それで、私達で炊き出しをすることにしたんだけど……」
「あー、そっから先は、大体わかったよ」

月の半分を潜れば2000貫でも、それを増やすことは難しい。
BF16以降の探索は、幾日も連続して継続出来るほど甘いものではないからである。

激しい戦闘、厳しい罠。
常に体中を緊張させ、夜営時も熟睡は出来ない。
一歩進んでは周囲を探り、二歩進んでは索敵を行う日々。

如何に英雄レベルの加護神を持とうと1回に1週間が限度であり、それと同じだけ休みも取らねば磨滅した精神が復調しない。
十分な休養も取らないままで日程的な無茶をした場合、間違いなく死という結末に繋がるだろう。

しかも、稼いだ2000貫を全て炊き出し代に回せる訳ではない。
迷宮探索にもそれなりの金は必要だからだ。
食糧やアイテムは当然消耗品だし、突き詰めれば装備品だって同様なのである。

桃香達は、自分達の生活を切り詰めるところまで追い込まれていたのだ。

「だからみんなで、お休みの日はアルバイトしようって。愛紗ちゃんと鈴々ちゃんは力仕事、朱里ちゃんと雛里ちゃんは寺小屋で働いてるんだよ」
「ずいぶんと大変そうだな。あ、でも桃香のクランって紫苑さんがいるだろ。今をときめくスーパーアイドルの璃々に資金援助を頼んだらいいんじゃないか?」
「それもダメだったの。アイドルは税率が9割なんだって」
「うわぁ、そりゃ酷いな……」

「ご主人様のところは公営宿だから、お給料から税金も引かれないし。お願いします、私を雇って下さい!」
「そりゃ雇うのは構わないけど、焼け石に水だろ。それよりもう一度、金策について考えた方がいいんじゃないか? 俺も協力するからさ」
「本当に?! ありがとう! 出来れば朱里ちゃんと雛里ちゃんも呼びたいんだけど、いいかな?」
「ああ。それじゃ俺が明日、桃香の家に行くよ。昼過ぎまでギルドの仕事があるから、夕方くらいでどうだ?」
「うん! これからよろしくお願いします!」

(ん? これから?)

と、桃香の返事に違和感を覚える一刀。
それは気のせいではない。

桃香の「ありがとう」は一刀の返事の前者、「雇うのは構わない」に掛かっていたのだ。
つまり一刀が4人で相談したいという風に解釈していた「呼びたい」との言葉は、桃香的には朱里と雛里も一緒に雇ってくれという意味だったのである。

こうして双方に誤解を生じさせたまま、桃香は一刀の宿を去ったのであった。



一刀が現在ギルドから継続して請け負っている仕事は2つ。
剣奴達のHP/MPを鑑定するのと、本日の仕事である奴隷市での仕入れであった。
雪蓮や冥琳も暇ではなく、その2人を合わせたよりもステータスを視認出来る一刀の方が素質を正確に判断出来る以上、一刀の感情面さえ考慮しなければ適材適所であろう。

最初は難色を示した一刀だったが、冒険者ギルドになってから剣奴達の死傷率が激減しているという事実を出され、それならばと引き受けたのだ。
確実に適正のある者だけを選べる分、自分がやった方が無駄な人死を出さなくて済みそうだという理由もあった。

「だからって、なんで私までお付き合いしなきゃいけないんです?」
「実は七乃にお願いがあってさ」
「うぅ、なんか嫌な予感が……」
「そう言わずに、なんとか頼むよ」

一刀が七乃に任せたかったこと。
それは、新たな奴隷メイドちゃんの購入である。
と表現すると悪い印象しかないが、実際には子供の保護を依頼したかったのだ。

現在一刀の宿は免税されているため、月々500貫以上の金が余る。
それを貯蓄に回すのも手だが、一刀は出来るだけ有効利用しようと考えていた。

女性が風俗店に購入されるのは、仕方がない。
だが少女が性を売り物にさせられるのは、可能な限り止めたい。
そして幼女が変態趣味のおっさんに買われてしまうのだけは、許せない。

いざという時に備えるのも大切だが、今この時だけしか出来ないことがある。
そう一刀は思っていたのだ。

「七乃だったら人脈もありそうだし、ヤバそうな人の目星もつくだろ? 今助けないと本当にまずいって子をメインに買って欲しいんだよ」
「お断りです。そういう人は大抵が有力者なんですから、邪魔なんかしたら恨まれちゃうじゃないですかー」
「……俺の宿にいる限り、七乃と美羽は絶対に守ってやる。だから頼む、この通りだ!」

深々と下げられた一刀の頭を見て、溜め息を吐く七乃。
その顔には、仕方ないなぁといった感じの表情が浮かんでいた。

「もう、わかりましたよ。その代わり、助言だけですからね。落札は一刀さんがして下さいよ?」
「ありがとう、七乃! この金だけじゃ、さすがに全員を保護するのは無理だから、助かったよ」
「まぁ美羽様も子供達と一緒に働くのは楽しそうですし、一生懸命掃除をする美羽様も素敵だし、背伸びして窓を拭く美羽様なんかもう堪らないですし、椅子を動かす時に『うんしょっ』だなんて、ああもうっ、美羽様ぁ、可愛らしい過ぎでプフッー!」

七乃の鼻から溢れ出す忠誠心。
稟の世話をする風の見様見真似で、一刀は七乃の首を叩いてやった。

「あふ、ひつれいひまひた」
「もう大丈夫か?」
「はーい、お陰様で。とにかく、美羽様が今の生活を気に入られている限り、私も出来るだけのことはしますからー」
「ああ、頼りにしてるよ」

とはいえ、美羽と七乃が何らかの目的を持って一刀の宿に雇われていることは、まず間違いない。
この発言から考えるに、キーマンは美羽であるらしい。
最近は一刀が忙しくて、テレポーター設置の件も伸び伸びになっていたが、そろそろ美羽としっかり話すべき時であろう。

雪蓮から受け取る予定の報酬で、とりあえず蜂蜜を買って帰ろうと考える一刀なのであった。



「で、妾になんの用じゃ? ハチミツ飴はちゃんとくれるのであろうな?」
「ああ、後でやるから、まずは話を聞いてくれよ」
「ダメじゃ! まずはハチミツ飴、話はそれからじゃ」

別に張り合う所でもないと、素直にハチミツ飴の入った布袋を渡す一刀。
急かした割には、すぐにそれを食べようしないでぎゅっと握り締める美羽。

話が始められそうな雰囲気だったので、一刀は率直にテレポーター設置を頼んでみた。
狙いは現在4ヶ所ほど確認されている海岸と、BF20の凪達のいた小部屋である。
それらの場所にテレポーターが作れるかどうかはわからないが、試してみる価値はあるだろう。

「嫌じゃ! なんで妾が雪蓮などに協力せねばならぬのじゃ!」
「雪蓮のためってわけじゃないさ。冒険者全員の利益になるんだ」
「同じことじゃ! 迷宮の管轄が雪蓮の手にある限り、妾は一切の協力をせぬ!」

だがこの提案は、美羽に一蹴されてしまった。
交渉の余地もなさそうな感じであるし、一刀もあまり無理強いはしたくない。

この件をあっさり諦めた一刀は、続いて懸念事項の方を問い詰めた。
元々駆け引きめいたことが苦手な一刀、これも先程と同じく直球勝負である。

「ところで美羽、なんか俺に隠し事をしてるだろ! 一体なんの目的で、うちの宿に潜り込んだんだ!」
「ななな何もないのじゃ! わわ妾達は乗っ取りなど全然考えておらぬ!」
「なんで俺に仕掛けて来るんだよ……。恨みがあるのは雪蓮達の方じゃないのか?」
「だってあ奴ら、凄く怖いんじゃもん。って、何もないと言っておろう?!」

慌てふためく美羽を眺めつつ、一刀は彼女達をどう処遇すべきか悩んだ。
クビにするにも、彼女達の穴を埋められる人材に心当たりはない。
しばらくは慎重に雇用を続けるしかないかと考えつつ、美羽の手に握られっぱなしの布袋に気付いた一刀。

「美羽、それ、溶けないか?」
「ああああっ! しまったのじゃ!」
「あーあ、せめて紐の所を持てばよかったのに。ところで、なんで食べなかったんだ?」

一刀の質問は、特に意味などない。
話の流れ的に、ただなんとなく聞いてみただけである。
ところが答える側の美羽は、さも重大な秘密を打ち明けるようにキョロキョロと辺りを見回し、一刀の耳に口を近づけて囁いたのだ。

「お主には世話になっておるからの、特別じゃぞ。実は妾が発見したのじゃが……」
「なんだよ、勿体付けて」
「蜂蜜はな、一人で食べるより、みんなと食べた方がずっと美味しいのじゃ!」

量が少なくなってしまうのが欠点じゃがの、と言いつつも独り占めしようとはせず、ベトベトになった飴を班員達に持って帰ろうとする美羽。
そんな彼女であれば、もし宿の経営権を乗っ取られても子供達の心配はいらないな、と思う一刀なのであった。



夕方になり、約束通り桃香の靴屋へと向かった一刀。
間の悪いことに桃香の母親が出掛けていたため、彼女は店を離れられなかった。

「ごめんね、もうすぐ帰って来ると思うんだけど。まだ朱里ちゃんと雛里ちゃんも来てないし、先に家に上がっててよ」
「ああ。ゆっくりさせて貰っとくから、気にしないでくれ」

双子のメイド修行で何度も来ているため、一刀にとっては勝手知ったる他人の家である。
しばらく居間でぼんやりとしていた一刀だったが、暇を持て余して中庭へと出た。
久しぶりに桃香の世話している花壇でも眺めようと思ったのだ。
ところが、あれほど咲き誇っていた花々が、その姿を消していたのである。

「あっ……、見ちゃったんだ、桃香りんランド……」
「桃香、これは一体?!」
「うん。こっちはきゅうり、そっちはナス、あっちはキャベツなんだ……」

店番が終わったのか、いつの間にか一刀の傍へと来ていた桃香が、がっくりと肩を落とす。
すっかり農家りんランドへと姿を変えていた中庭に、一刀の両眼から熱いものが溢れ出し、頬を伝って地面へと滴り落ちた。

「桃香、俺、頑張るよ。協力は惜しまないから、なんでも言ってくれ」
「ご主人様……」

桃香の肩にそっと手を置く一刀。
今まで色々なものを堪えて来たのだろう、一刀につられて涙ぐむ桃香。

「はわわ、いい雰囲気でしゅ」
「あわわ、こっそり見学させて貰おうよ、朱里ちゃん」

そんな2人の耳に、ちびっ子達のなにかと台無しな声が聞こえてきたのであった。



諸葛亮の加護を受けた朱里と、鳳統の加護を受けた雛里。
彼女達は、その加護神に相応しいだけの智謀を持っている。
にも関わらず、なぜここまでの困窮を防げなかったのであろうか。

「中、長期的な策ならばともかく、短期間でお金を稼ぐことは難しいのが実情なんです」
「何をするにも、税で雁字搦めにされてしまって……」

如何に知略に優れているからと言って、朱里達は一介の冒険者に過ぎない。
そんな彼女達に出来ることは、自ずと限られてくる。
手足を縛られた状態では、深謀遠慮の策自体を活かせないのだ。

逆に浅謀近慮の一刀は、そうであるが故に小手先の策を思いつきやすい。
ここでもまた、天才軍師のお株を奪う一刀の奇策が注目を集めた。

「一応アイデアはあるんだけど……。言っとくけど、絶対に無理に進める真似はしないから、ただの思いつきとして聞いてくれよ? 後、軽蔑とか、なしだからな?」
「うん。どんな意見でも参考になるから、聞かせてよ」
「実は俺の加護スキルで、『封神』ってのがあるんだけど……」

一刀は『3人娘解放クエスト』の際に起こったことを、桃香達に全て話した。
そうでないと、彼の策におけるリスクやリターンが正確に説明出来ないからだ。

そう、彼が提案したのは、祭壇における『贈物』の無限増殖である。
それが可能かどうかは、やってみなければわからない。
なぜなら実際に一刀が得たものは、『太公望の竿』とは別のアイテムであったからだ。

加護を受けるのが1回きりであることを考えると、プログラム上は『贈物』なしか、同じ『贈物』になるか、どちらかになりそうなものである。
なぜ一刀が別のアイテムを取得出来たのか、それは今の時点ではわからない。
だが加護神を失うことがないということは、一刀が身を持って証明した。
そして狙い通り『贈物』が増殖出来た場合、今後桃香達が金銭に困ることは一切なくなるであろう。

つまり、ローリスクでハイリターンを狙える絶好のターゲットなのだ。
但し、一時的とはいえ神を封じることを感情が許せば、の話である。

「ご主人様! そんな恐ろしいことを言ってはダメでしゅ!」
「は、発想は凄いんですけど、ちょっと……」
「うーん、やっぱ受け入れられないか。そうだとは思ったんだけどさ」
「私、『封神』は決して許されない罪だと思う。けど、ご主人様はそうやって凪さん達を助けたんだよね? それで皆が助かるなら……、私も……」

悲壮な表情で決意を固めている桃香の様子に、慌ててしまう一刀。
彼はなにも、それだけが唯一の手段だと言ったわけではないのだ。

「ちょっと落ち着けって。まだ相談を始めたばかりだろ。そもそも桃香達は、一体どうやって急場を凌ごうとしてたんだ? アルバイトだけじゃジリ貧なのは当然なんだし、まさか無策ってわけじゃないんだろ?」
「策と言える程のものじゃないですが、一応の方針は立てていました」
「LVを上げてBF21まで辿り着ければ、今までと同じ時間で数倍の利益が出せますから……」

現在の桃香クランは、辛うじてBF20まで到達している。
凪達によってアイテム類が入手出来るようになった今、BF21の階段を見つけるのも時間の問題である。
それまでの間を持たせるだけなら、アルバイトなどの金策でも大丈夫だろうというのが、彼女達の考えであった。

「というか、BF21への階段の場所なら俺が分かるぞ? 教えようか?」
「ううぅ、雛里ちゃん、どうしよう? 任せてもいい?」
「そんなの困るよ、朱里ちゃんが決めてよぉ」
「……なんでそこで悩むんだよ」

疑問に思う一刀だったが、これは彼の方が間違っている。
BF21からは敵の種類が倍に増えるのは、一刀も承知のことだ。
だが漢帝国クランや華琳クランといった最強クランに連れられて行った一刀には、その真の恐ろしさがわかっていない。

普通のクランでは、彼女達のように的確な対応を取ることは難しいのである。
少なくとも、自力で階段を発見するくらいにBF20を探索出来るような実力派クランでないと、BF21での戦闘は厳しいであろう。

そのことを朱里達に説明された一刀は、彼女達にあっさりと解決策を提示した。

「それじゃ、BF20の海岸で戦うってのはどうだ? 海の敵って強めだけど単体だし、アイテムがレアだから、BF21相当の稼ぎになるんじゃないか?」
「はわわ、そ、それでしゅ!」
「あわわ、凄いです……」

強めの敵との戦闘に慣れることが出来、且つEXP的にも美味しいだろう。
そこでLVを上げれば、BF21以降で稼げるようになるのもあっという間なはずだ。

3日後に迷宮探索を行うことを約束した一刀達。
その頃には、すっかり夜になっていた。

「そういえば、今日の炊き出しは大丈夫だったのか?」
「うん、紫苑さん達の番だったから」
「そっか。んじゃ、俺はそろそろ帰るかな」
「え? まだ肝心のお話しをしてないよ?」
「はぁ? なんのことだよ?」
「アルバイトだよ。明日から働かせてもらうんだもん。ね、朱里ちゃん、雛里ちゃん」
「よろしくお願いしましゅ、ご主人様」
「ふ、ふ、不束者ですが……」

今まで桃香達が自分を「ご主人様」と呼ぶのは、双子のメイド教育時に習慣付いてしまったのだろうと思っていた一刀。
だがここに来て彼は、ようやく彼女達と自分の間に何か齟齬があることに気がついた。

剣奴時代の一刀が交わした様々な契約からも分かるように、この世界での口約束は重い。
閉ざされた都市・洛陽の中で約束を破れば、即座に周囲に知れ渡ってしまう。
そしてあっという間に信用を失ってしまうのだ。

尤も今回の場合は、誤解が元での約束である。
金策の目処も立ったことだし、しっかり話し合えば解決する問題なはずだった。

(……今回のクエストは無報酬っぽいし、このくらいはご褒美だよな?)

新たに巨乳メイドとませっ子メイド、そして照れ屋ちゃんメイドまで獲得し、ご満悦の一刀なのであった。



**********

NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:22
HP:410/353(+57)
MP:0/0
WG:100/100
EXP:76/6500
称号:エアーズラバー

STR:29(+4)
DEX:46(+17)
VIT:25(+2)
AGI:34(+7)
INT:25(+1)
MND:19(+1)
CHR:45(+13)

武器:打神鞭
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、大極道衣・改、鬼のミトン、仙人下衣、ダッシュシューズ
アクセサリー:猫の首輪、浄化の腰帯、蝙蝠のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス

近接攻撃力:213(+22)
近接命中率:112(+20)
物理防御力:151
物理回避力:109(+23)

【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。

【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。

所持金:20貫


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