時は昔。
人に身を窶して大陸の覇権を争った神々も、決して戦だけをして過ごしていた訳ではない。
なぜなら、政務なくして軍事行動は起こせないからである。
いくら英雄達とはいえ、超常の力を持たぬ人の身となったからには至極当然のことであろう。
そして一刀にも、同様のことが言える。
迷宮に潜るためには、まずきちんと生活基盤を整えなければならないのだ。
「何度も言いますけど、宿屋にかかる税率は7割なんですよ! 1000貫の収入があっても、手元には300貫しか残らないんです!」
「でもさ、せめて子供達にお小遣いくらい……」
「どこをどう遣り繰りしても、そんなお金はありません!」
珍しくエキサイトしている七乃。
物事に動じないタイプの彼女がこんなにも必死になっている理由、それは一刀の経済感覚のなさに原因があった。
七乃や一刀を含む子供達の食費は、今まで通り一刀が魚をタダで仕入れて来ることが前提でも、月に50貫前後はかかる。
なにしろ多人数であるし、成長期の子供達にはバランスの取れた食事をして欲しいため、この出費は仕方がない。
ちなみに町では1食50~100銭、仲間との飲み会でも300~500銭程度である。
さすがに1000貫も払ってくれる月達に同じ食事は出せないので、それを別途用意するとなると、両者を合わせて100貫程度になるであろう。
ペットの餌代・衣類を含む生活費・雑費を含めると、それだけで150貫の出費、つまりこの時点でもう収入の半分が消えてしまうのである。
更に、このレベルの高級宿屋であれば、それなりの維持費が必要となる。
子供達の掃除だけでは行き届かない部分、つまり壁の塗り替えや中庭の手入れなどに専門の職人を雇わざるを得ないのだ。
年に何度かは改装工事を行わなくてはならず、その費用も月々の収入から定額を貯蓄せねばならず、それを含めると宿の補修費だけで月に100貫は必要になる。
残りは、メイド達への人件費である。
そして七乃が先程から主張しているのが、奴隷の分は無報酬にするべきだ、ということなのだ。
「大体、1人いくらあげるつもりなんですか?」
「月に1,2貫ってとこかなぁ。教育込みとはいえ、働いて貰ってるんだしさ」
「全員に2貫ずつ上げたら、それでもう赤字じゃないですか……」
それでも、仮にも1ヶ月間ずっと子供達を働かせているのである。
衣食住が保証されているとはいえ、もし一刀が1ヶ月バイトして無報酬もしくは2,300銭しか収入がなかったなら、絶対に辞めるであろう。
少なくとも、労働に対するやる気がゼロになることは間違いない。
もちろんこれは、リアルから来た一刀の感覚であればこその考えだ。
ここが七乃に経済観念がないと言われる所以であり、一般的には奴隷がこれだけ恵まれた環境にいられるだけで十分な対価なのである。
「それに私や美羽様のお給料だって曖昧なまま、先月分もまだ貰っていませんしー」
「うーん、そうなんだよなぁ。税かぁ、税ねぇ……」
資産に対する税がないため、今までは問題がなかった。
だが今月から定期収入が入るようになったので、行政に届け出をしなければならなくなったのだ。
ちなみにこれは冒険者としての収入以外にかかる税であり、冒険者としての分は既にギルドに対して加盟料を月々支払っているため、これ以上の税はかからない。
迷宮都市という特色が、冒険者に対する税の優遇措置となっているのである。
だがリアルでは消費税程度しか払ったことのない一刀にとっては、その優遇されている税が考え方の基準となっていた。
そんな一刀には、宿屋の収入の7割も行政府に持って行かれるのは、どうしても納得がいかなかったのだ。
「ていうか、普通は純益に対して掛かるもんじゃないのか、税金って」
「それじゃ経費の水増しで、不正がし放題になりますからねー」
現代日本とは違い、この世界ではそこまでのチェック機構はない。
だから総収入に対する税となっているのだ。
むろんそれでも完全にチェック出来るとは言い難いが、行政が違法性を調べる際に純益と総収入のどちらが調べやすいかは言うまでもない。
ちなみに税率も職種毎に違っており、例えば武器・防具屋は3割である。
つまり買取が売値の半分でも、純益は2割にしかならない。
新品の物でも材料費や制作依頼料を引くと同じような利益にしかならず、そこから如何に人件費などの経費を押さえるか、どの店でも遣り繰りには四苦八苦していた。
「……そんなにチェックがザルなんだったら、収入を過少に報告するとか、どうだろう?」
「確かにバレにくいですけど、事が露見したら一刀さんは打ち首ですよ? それでもいいなら、なんとか偽装してみますよー」
「ごめん、脱税はなしで。なぁ、七乃、なんかいい節税案はないのかよ。ギルドの運営をしてたんだし、こういうの得意だろ?」
「探索者ギルドは公営事業扱いだったので、基本的に免税だったんですよ。私達が払ってたのは、探索者達の税だけです」
「ずるっ! それじゃ街の武器屋なんかと同じ半額買取でも、利益率はケタ違いだったんじゃ……って、待てよ。公営事業、か」
正攻法も好きだが裏技も大好きなゲーオタの一刀。
優秀なβテスターとして、メーカー側にまでハンドルネーム【ち○こ太守】の名を知られているのは伊達ではない。
どんなに作り込まれたオンゲーでも、隅から隅まで舐めるようにしてコマンドを1つずつ試し、感謝の気持ちを込めてメーカーに不具合報告をしていた一刀。
そんな彼の手に掛かれば古代中華風異世界の法律の抜け道など、クソゲーオブザイヤーに輝いた『殿』のバグを発見するくらいに容易いことである。
「まぁ話の持っていき方次第でしょうけど、都市長の妹が従業員なんだし、七乃辺りに任せれば大丈夫なんじゃない?」
「そっか。詠の太鼓判が貰えたんなら、策に自信が持てるよ。それで、肝心の頼みについてなんだが……」
「こないだ命を救って貰った借りもあるし、ボク達の名前だったら使って構わないわよ」
「サンキュー、助かったよ」
一刀が思いついた案。
それは宿の公営化、つまり『漢帝国軍幹部専用宿舎』としての登録である。
月達が漢帝国軍の拠点として宿屋自体を借り上げる体裁をとることにより、洛陽の行政から独立した治外法権的なポジションを得ようと考えたのだ。
これだけならば、税金をまぬがれることは出来ない。
なぜなら、一刀に月々1000貫の収入が入ることには変わりがないからだ。
だがその問題も、漢帝国軍の宿舎に関する予算として一刀の財布とは別建てにしてしまえば解決する。
但し、そうなると一刀は自分のために宿屋の収入を使う権利がなくなるのだが、もともと自分一人であれば冒険者としての収入だけで十分なのだから特に困らない。
以上の策を実行することにより、一般客を受け入れることが出来なくなるため『メイド宿屋』としては成り立たなくなる。
しかし現状では、どうせこれ以上の客を受け入れることは難しい。
毎日みっちり子供達を働かせる訳にはいかないからである。
彼女達には、まだ遊びや勉強を通じて情緒を育てる時間が必要なのだ。
迷宮の攻略ペースから考えて、月達が洛陽に滞在するのは数年であろう。
しかし、その僅かな期間でも十分である。
肝心なのは、子供達が成長する時間を稼ぐことなのだ。
彼女達が立派なメイドになったら、改めて『メイド宿屋』を開業すればよい。
そうすれば、税を支払っても収支的に黒字化するはずである。
客が僅か6人だから立ち往かないのであり、数十ある客室がフル稼働すれば今の数倍の売上が期待できるからだ。
行政側との交渉は、詠の助言通りに七乃に一任した一刀。
策が成ることを期待して、彼はとりあえず手持ちの金から子供達にお小遣いを支給した。
労働の対価に金銭を貰うことは彼女達の刺激になるし、ある程度の金を持たせることで、計画的な遣り繰りを覚えさせたい。
間違っても流琉のような金銭感覚にならないよう、今のうちからお金の大切さを学んで欲しいとの思惑もあった。
1人2貫ずつ貰った子供達にとっては、これが初給料である。
衣類が好きなのか、布地を買って来てチクチクする子も。
食事が好きなのか、団子を買って来てモグモグする子も。
迷宮が好きなのか、短剣を買って来てブンブンする子も。
どの子の顔にも満面の笑みが張り付いているのを見て、幸せな気持ちになった一刀。
双子や美羽などは班員達みんなで食べられるオヤツを買ってきて、彼の涙腺を刺激した。
班長手当として更に1貫ずつ追加支給しながら、彼は思う。
(双子もそうだけど、やっぱり美羽も根はいい子なんだよなぁ)
雇われた当初から何か企んでいるようでもあったし、テレポーターの件もある。
一度美羽と、きちんと話をしてみようと考える一刀なのであった。
迷宮から帰って来た一刀は、宿屋の運営だけに頭を悩ませていた訳ではない。
華琳、雪蓮、桃香に持ち帰った『帰還香』の効果を見るや、それぞれからアイテム交換に連れて行けと矢の催促があったのだ。
一度に全員を連れて行けるのであれば一泊二日の行程だし、『帰還香』の使用が前提であれば日帰りも可能なのだが、そうは問屋が卸さない。
大人数では行動の統制が取れず、余計な敵を呼び込んでしまって思わぬピンチを招きかねないからである。
そしてそのことは、全員が理解している。
かといって、1クラン2人ずつなどの制限をつけても、それはそれで揉めるのである。
例えば華琳クランの場合。
「このバカ! 華琳様と行動を共にするのは、私に決まってるじゃない!」
「バカはお前だ! 華琳様の剣であり盾であるこの私が行かなくてどうする!」
「アンタじゃ、アイテム交換のアドバイスなんて出来ないでしょ!」
「それでは、間をとって風がお供に……ぐぅ」
「「寝るな!」」
例えば雪蓮クランの場合。
「うーん、まぁ、私と冥琳で行けばいいか」
「ふむ、出来れば私達がどのアイテムをどれくらい交換したか、特に華琳には知られたくないのだがな」
「あら、冥琳ってば、てっきりギルド運営が楽しくなって、迷宮に興味がなくなったのかと思ってたわ」
「ふ、馬鹿なことを言うな。雪蓮だって、そろそろ迷宮が恋しくなってきたのではないのか?」
「もう少しで、私達が手を離してもギルド運営に支障がなくなるようになるわ。この数ヶ月の出遅れを取り戻し、私達で孫策様を勝利に導くのよ。……私達の願いのために」
例えば桃香クランの場合。
「じゃあ、私と朱里ちゃんでどうかな?」
「ダメです、危険過ぎます! 私が朱里と行きますので、桃香様は街でお待ち下さい」
「あらあら、こういうものは年の順ですよ」
「鈴々も行くのだー!」
「では、ついでに私も。久しぶりに一刀殿とも会えますしな」
「ここにいるぞー!」
「あわわ、収拾がつかないです……」
というわけで、各クランをそれぞれBF20へ連れて行かなければならないのである。
それでも1週間あれば一応コンプリートなのだが、一刀は戦力外のままで迷宮に潜りたくなかった。
確かに各クランの冒険者達は歴戦の勇士達であり、一刀がいなくても各自でBF20に辿り着ける実力があろう。
だがその中でも最も実力のある漢帝国クランのメンバーですら、つい先日あわや全滅という危機に陥ったのである。
あの出来事は、『迷宮内に絶対はない』という教訓を一刀に叩き込んだ。
そんな彼が、今すぐに出来る強化を怠ったままで迷宮に潜るわけがない。
「悪いけど、新しい武器の扱いに慣れる時間が欲しいんだ」
そう言って、各クランにしばらくの猶予を貰った一刀なのであった。
『打神鞭』は鞭という名がついているものの、冥琳の持つ『白狐九尾』とは明らかに形状が違う。
21節のついているそれは、どちらかといえば穏の『紫燕』に近いのだが、やはり九節棍とも扱い方は異なるであろう。
それでもなにかしらのヒントがあるのではないかと考えた一刀は、丁度ギルドの執務室に揃っていた彼女達にそれぞれの武器の特徴について聞いてみた。
「冥琳、鞭ってどんな感じだ? あと穏も、ちょっと九節棍を使ってみてくれない?」
「ち、ちょっと待て一刀。私達にはまだ、そんな特殊プレイは早すぎないか?」
「お尻にですかぁ? やだもう、一刀さんたらマニアックですぅ」
「……もういい」
きっと仕事漬けだったせいだろう、なにやら欲求不満っぽい冥琳と穏。
これ以上彼女達に関わると『打神鞭』の練習に割く体力がなくなる展開になりそうだし、下手をすれば新たな性癖に目覚めさせられてしまいそうである。
やっぱり自己流で行こうと、一刀は彼女達の執務室から逃げ出した。
宿の中庭で、ひたすら『打神鞭』を振るう一刀。
もともとゲーム感覚で武器を操る一刀にとって、その動作自体は容易いものである。
Aボタンを押すようにして空気を切り裂く一刀に必要なものは、素振りではないのだ。
「面白そうな武器やな。良かったらうちが相手しよか?」
「そりゃありがたい、是非お願いするよ」
だから、月や詠と一緒に一刀の修練を見物していた霞の申し出は、願ってもないチャンスであった。
自然体に構えた霞と対峙する一刀。
『神速将軍』の異名を持つ霞に先手を取られることは、言うまでもなく不利である。
一刀は『打神鞭』の持ち手にある龍頭を押し込んで伸縮を可動にすると、霞の間合いの外から鞭を振り上げた。
21個ある節がその勢いで伸び、普段は全長1.1Mの『打神鞭』が数倍の長さとなって霞に襲いかかる。
当然、それを黙って見ている霞ではない。
手に持った『真・飛龍偃月刀』で受け止めようとする霞、だがその動作はまさしく一刀の読み通りである。
すかさず龍頭を回し、限界まで湾曲率を上げる。
すると、それまでしなりの良い棍と同程度の撓みを維持していた『打神鞭』が、いきなり芯を失い鞭のようになって霞の武器に巻き付いた。
そのまま一刀が龍頭を引き戻すと、伸びきっていた『打神鞭』が『真・飛龍偃月刀』を絡め取ったまま元のサイズまで縮んだのであった。
「なんやそのずっこい武器は! そんなん、反則や!」
「へぅ、ご主人様、凄い……」
「ちょっと月、今アイツのこと、なんて言ったの?!」
これらのギミックは、真桜の腕というよりも解放された風の魔力に依るものが大きい。
伸縮や撓みなどを、龍頭を介して風の魔力を調整することによって変化させているのだ。
こうして予め手順さえ決めておけば、現段階でも霞レベルの武人と渡り合えることが分かったのは、一刀にとっては収獲であった。
だがいくら初見だったとはいえ、武人の魂とも言える武器を取られてしまった屈辱は、霞を本気にさせた。
2戦、3戦、4戦と、模擬戦闘は続いていく。
鞭を打ち払い、瞬く間に一刀の懐に潜り込む霞。
慌てて龍頭を引き戻す一刀だったが、そのタイミングでは遅すぎる。
鞭を縮めて湾曲率を下げ、棍として使うことで接近戦をしようとした一刀だったが、当然霞はその準備が整うまで待ってくれない。
自分の首に突き付けられた『飛龍偃月刀』を見て、冷や汗を流す一刀。
(この場合、龍頭は放っておいて、盾で対応すべきだったな)
そう、『打神鞭』を不自由なく扱える一刀が鍛えたかったのは、こういう咄嗟の判断なのである。
今までずっと使用してきたダガーと盾の組み合わせであれば、避けるか受け流すか受け止めるか、それぞれの場面による対応は体で覚えている。
だが武器を鞭に変更することにより、また一から経験を積み直さなければならないのだ。
これはスキルや扱い方とは、まったく別の話なのである。
「ほら、もういっちょ行くで!」
「よしこいっ!」
一刀に向かって、嬉しそうに特攻をかける霞。
対モンスター戦はもちろん、対人戦でも一刀のような武器は珍しいのであろう。
それを楽しめる辺り、霞も立派なバトルマニアである。
腕に違いはあれど、武器の珍しさが一刀に反撃を許す。
一刀の横薙ぎを防ごうとした霞は、武器を絡め取られないよう鞭の先端を狙って合わせ打った。
ところが湾曲率を上げた鞭は、先端を押さえ込んだだけでは止まらない。
まるで狙ったかのように霞の袴の側面、具体的には肌の露出している限りなく尻に近い部分にヒットしたのである。
「あ痛っ!」
「……うらまやしい」
「月、一体どうしちゃったのよ?!」
引き締まった健康的な霞の尻につけられた、一筋の赤いライン。
彼女を傷つけないように戦おうとして、一刀は攻撃がぎこちなくなってしまった。
ダガーと違って寸止めの難しい鞭であることも、それに拍車をかけた。
「侮るんやない、本気出さんかいっ! その態度は武人に対して失礼やで!」
「いや、でもさ。女の子の柔肌に傷なんてつけるわけにはいかないし」
「そんなん、いくらでもあるっちゅーねん! そうや、なんなら一刀、アンタがうちに勝ったら、隅から隅までじっくり確認させたるわ。せやから、気ぃ入れてかかってきぃ!」
確かに自分の態度は、わざわざ模擬戦に付き合ってくれている霞に対して失礼だったと反省した一刀。
先程傷つけた霞の尻を手当てし、更におっぱいの先端にある赤い2つの傷痕にも手を当てるべく、今まで以上に気合を入れて彼女に襲い掛かった。
ところが、どうしても彼女へ攻撃が及ぼうとする直前に手が緩んでしまうのだ。
ベッドの上で、幾度も女の子の生き血を啜った妖棒の持ち主である一刀。
これ以上女の子を傷つけたくないという彼の思いは、もはや本能レベルなのであろう。
そんな一刀に、最終的には霞も苦笑するしかなかったのだった。
模擬戦がダメとなれば、後は実戦で鍛えるしかない。
だが、いきなり強敵戦は無謀である。
そう思った一刀は、とりあえずBF10のテレポーター前で何戦かしてみた。
(うーん、これじゃ敵が雑魚過ぎてダメだわ)
ではBF15の祭壇前広場でソロプレイをするかといえば、それも厳しい。
なにせ敵の数が多すぎるからである。
どうするべきか悩みながら、ダメ元でBF11のテレポーター前に移動した一刀。
「「「「「ほあっ、ほあっ、ほああああああ!」」」」」
一心不乱に弦楽器を奏でる人和。
汗を飛び散らせて跳ね踊る地和。
広場の空気を震わせて唄う天和。
そして、狂戦士と化したファンクラブ。
BF11テレポーター前は今、『流し満貫しすたーず』のライブ会場となっていたのだ。
「みんなー、今日も来てくれてありがとー!」
「次のライブは明後日の、同じ時間だよー!」
「私達の歌と踊り、また見に来て下さいね!」
「「「「「ほあぁっ!」」」」」
丁度テレポーター警備の交代の時間だったのか、これが本日最後の曲であったらしく、余韻に浸りつつ解散するファンクラブの面々。
一方の天和達は、どことなく不満気であった。
「あ、マネージャーさんだ」
「ちょっと一刀、最近全然来てくれてないじゃない! どういうことよ!」
「一刀さん、私達実は、最近伸び悩んでいるんです」
3姉妹と出会ってから数ヶ月。
テレポーター警備を兼ねたライブは連日のように行われており、彼女達も着々とLVを上げていた。
ところがこの1ヶ月程、彼女達は『贈物』を貰えていないと言うのである。
然もあろう。
一刀の見立てでは、ファンクラブの人数から考えてLV+1が彼女達の適正フロアなのである。
そして現時点でテレポーターが設置されている最深フロアは、ここBF11。
既にLV11になっている彼女達の育成は、ここからが難しいところなのだ。
正直、今の一刀は自分のことで手一杯である。
3姉妹の面倒を見ている余裕などない。
とはいえ、頼られれば応えようとするのが彼の気質である。
ちょっとは自分達で考えて工夫しろよ、と思わないでもないが、彼女達の目標は迷宮攻略ではなく加護を得ることだ。
そんな彼女達に冒険者のあり方を諭しても仕方がない。
スキルアップのことを考えれば下策であるが、いっそPLでLVを引き上げてやるのも手ではないか。
LVさえ上げてしまえば、後はどこかのパーティが加護を受ける時にでも紛れ込ませてしまえばいい。
『試練の間』ならば演奏がモンスターを呼び寄せることもないし、その条件下であれば彼女達と組む前衛にとってもメリットは大きいであろう。
そこまで考えて、一刀は複数の敵が出ない場所をもう1つ思い出した。
そう、釣り場である。
BF15の海岸まで連れて行き、一刀がモンスターを釣り上げ、彼女達が歌で援護する。
道中は短剣を装備すれば、複数の敵が出ても問題ない。
海岸のモンスターは強めであったが、それでも思春と2人で倒せた。
その時の手ごたえからすれば、援護があれば不慣れな鞭でもソロでいけるだろう。
これなら、強敵と安全に戦いたい一刀にとっても十分なメリットがある。
「じゃあ明日の朝から1週間、迷宮内で強化合宿をするぞ。警備の方は俺がギルドに話を通しておくから、ファンクラブにライブ中止の連絡をしておいてくれ」
「合宿かぁ。ちょっと楽しみかもー」
「これがアイドルになるための試練ってやつね。いいでしょう、受けて立つわ!」
「喉飴と、湿布と、特製ドリンクと、ああもう、早く帰って姉さん達の分も準備しないと……」
こうしてパーティを組んだ一刀と3姉妹。
彼等がBF15の海岸に姿を現したのは、明くる日の夜のことであった。
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NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:18
HP:315/288(+27)
MP:0/0
EXP:4203/4750
称号:エアーズラバー
パーティメンバー:一刀、天和、地和、人和
パーティ名称:アイドルマスター
パーティ効果:経験値UP、アイテムドロップ率UP
STR:24(+4)
DEX:34(+10)
VIT:22(+4)
AGI:26(+4)
INT:22(+2)
MND:17(+2)
CHR:27(+2)
武器:打神鞭
防具:スパルタンバックラー、避弾の額当て、大極道衣・改、鬼のミトン、マーシャルズボン、ダッシュシューズ
アクセサリー:猫の首輪、万能ベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪
近接攻撃力:194(+17)
近接命中率:84(+10)
物理防御力:118
物理回避力:88(+18)
【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。
所持金:206貫