「一刀、すまん。本当にすまん。無力な私を許してくれ……」
悲壮な表情を浮かべた白蓮に連れて行かれた場所、それは元・玉座の間、つまり現在の都市長室であった。
これは明らかにおかしい。
普通であれば、行政府の審問室で取り調べが行われるはずなのだ。
如何に重犯罪者であろうと、都市長室で尋問を行うことなどありえない。
そのような知識のない一刀でも、この絢爛豪華な部屋が取調室でないことくらいはわかる。
何か変だと警戒心を募らながら、その場にいる人物を確認した。
まずは宿屋。
彼が訴えたのだとしたら、この場にいるのは当然であろう。
次に白蓮。
彼女が一刀を連れて来たのだから、これまた当たり前である。
そして、豪奢な玉座に座り、これでもかとばかりに黄金を散りばめた服に身を包んだ女性。
服と同じ黄金色の髪をロールにしたその姿はまさに王侯貴族そのものであり、高貴さという一点のみを比較したのならば、桃香はもちろん華琳や雪蓮ですら叶わないであろう。
NAME:麗羽【加護神:袁紹】
LV:15
HP:235/235
MP:110/110
麗羽の左右に控えるお淑やかそうな女性と活発そうな女性も、それぞれが雰囲気を持っている。
その加護神から言っても、間違いなく只者ではない。
NAME:斗詩【加護神:顔良】
LV:18
HP:307/307
MP:0/0
NAME:猪々子【加護神:文醜】
LV:18
HP:330/330
MP:0/0
最後に、一刀の真正面に立っていた2人の人物で、この場にいる全員である。
「一刀さん、お久しぶりですねー。お元気があり過ぎているようで、なによりですー」
「七乃よ、雪蓮の手下の彼奴をぎゃふんと言わせてやるのじゃー!」
ギルドを追放された七乃と美羽。
彼女達こそが、今日の審議を担当する審問員なのであった。
一段高くなっている玉座から、文字通り高みの見物をしている麗羽達の眼前で『宿屋異臭事件』の審議がいよいよ始まった。
「それで、宿屋さん。貴方が一刀さんから受けた営業妨害の損害額はいくらになるんです?」
「はい。わたくしの宿は上級冒険者様用というのが売りでして、僅かでも魚の腐臭が残ると台無しなのでございます。従って、建て替えということに……」
「ちょっと待ってくれ! まず俺が犯人かどうかを審議するんじゃないのか?!」
「一刀さんが犯人ですー」
「その通りです。で、建て替えの費用ですが……」
そうあっさりと決めつけて、いきなり賠償額の話を始めた七乃と宿屋の態度に、一刀は慌ててしまった。
だが、さすがに自分が犯人なのに無罪を主張するのも良心が痛んだ一刀。
ある程度の賠償は仕方がないが、少なくとも宿屋の落ち度を指摘しなくてはと思い、一刀は抗弁した。
「七乃、言っとくけどその宿屋は、子供達に性的暴行を加えようとしてたんだぞ?」
「……そうなんですかぁ」
七乃の宿屋を見る目が冷たくなり、斗詩や猪々子達もまるで汚物を見たような表情となる。
彼女達の反応に希望を持った一刀。
しかし七乃の次の言葉は、一刀の期待とは裏腹なものであった。
「その子供達は宿屋さんの奴隷なんですよね?」
「ええ、その通りです。審問員様」
「それなら宿屋さんの所有物なんですから、持ち主がどうしようが全然問題ないですよー」
厳密にはこの洛陽には自治権があるため、全然問題ないとは言えない。
例えば『奴隷とはいえ幼子に対する醜い振る舞いは、万死に値しますわ』などと麗羽が言えば、それが罷り通るからである。
但し1つ1つの事件に対して判断出来る程、麗羽も暇ではない。
従って現実には審問員達が漢帝国の律令に合わせて、それぞれが独自に罪を裁いているのである。
そして漢帝国の律令に照らし合わせると、宿屋の行いは罪でもなんでもないのだ。
そんな七乃の言い草に、一刀の良心は深い眠りについた。
開き直って無罪を主張してやると、一刀は徹底抗戦する覚悟を決めたのである。
「俺がやったって証拠はあるのかよ!」
「一刀さん、今動機について自白したじゃないですか!」
「何時何分何秒、地球が何回回った時?」
「子供ですかっ!」
そのやりとりを聞いていた宿屋が、2人の会話に割り込んだ。
「まぁまぁ、審問員様。そんなこと、どうでもいいじゃないですか」
「……それもそうですねー。それじゃ、一刀さんが欲しがっていた証拠をお見せします。宿屋さん、貴方は確かに一刀さんの犯行を目撃したのですね?」
「はい、この目でしかと見ました」
「どうですか、一刀さん? 自分が犯人だと納得がいきましたか?」
七乃らしからぬ馬鹿げた理屈に、一刀は唖然とした。
数日前から部屋に立ち入らせず一体何をやっていたとか、事件後の宿屋で一刀の部屋が一番臭かったとか、そういった状況証拠ですらないのである。
「そ、そんなの、宿屋が嘘をついてるかもしれないじゃないか!」
「宿屋さん。貴方はこの神聖なる審議中に、嘘をつくつもりなのですか?」
「太祖神に誓って、真実のみを申し上げております」
「そういうことです。あんまりしつこいと、一刀さんが自白するまで体に聞くことになっちゃいますよ?」
七乃のLVは初めて出会った時から変わっておらず、いくら加護持ちとはいえ一刀から見れば低LV者であり、そこに美羽が加わったとしても一刀に負ける要素はない。
だが今は、白蓮、麗羽、斗詩、猪々子という高LV者が4人も同席している。
常識的に考えて、この場から逃げ出すのは不可能であろう。
(七乃を蹴り倒して一直線に扉に向かえば、なんとかなるか?)
にもかかわらず、物騒なことを考え始める一刀。
好きな言葉は『平穏無事』だった男だとは、とても思えない。
特に加護を受けてからの一刀は、こういう所が目立つようになってきている。
人間誰でも、急に強くなったら増長してしまうものなのであろうか。
もっとも、リアルでは不良達に絡まれてもロクに抵抗出来なかった一刀だったのである。
それが突然不良達をまとめて片手で倒せるような強さを手に入れたら、こうなってしまうのも無理はないのかもしれない。
そんな一触即発の状況下で、一刀と七乃に向かって初めて麗羽が言葉を掛けた。
「ああもう、なにをぐずぐずとしていらっしゃるの? 心配せずとも、うちの白蓮さんを助けてくれた一刀さんなのですから、悪いようには致しませんわ。やっていてもいなくても、どちらでもよいのですから、早く罪をお認めなさいな」
「姫、それを言ったらまずいですって」
「そうですよ、麗羽様。七乃さんが一生懸命やってるんですから、邪魔したら可哀想ですよ」
「まったく。なんでわたくしが、こんな茶番劇に付き合わなければならないんですの?」
「姫ぇ、だからダメですって」
「麗羽様、気が進まないのでしたら、やっぱりこんなこと止めましょうよ」
3人のやり取りに、なにかを感じた一刀。
自分がその言葉の何に引っかかりを覚えているのかと、一刀は考え込んだ。
一刀自身には悪いようにはしない。
実際に犯人でなくてもいい。
茶番劇。
それらのキーワードが、一刀の脳に書き込まれる。
もう少しでその解が得られそうな所で、七乃が口を挟んだ。
「とにかく、一刀さんには宿屋さんに賠償金を支払う義務があるんですよ。宿屋さん、賠償額は?」
「宿の建て替えに5万貫、休業中に得られたであろう利益保証に3万貫、被害者のお客様方や私への慰謝料で2万貫、合計10万貫ですな」
「一刀さん、判決が出ましたよ。10万貫の賠償金、分割払いは認めませんので即座に支払って下さいね」
「俺は犯人じゃないし、大体金額がおかしいだろ! 建て直しってなんだよ!」
「賠償額の決定権は第一に被害者にあるんですよ。そして、審問官の私がそれを認めたら、それで終わりなんです。加害者に金額を決める権利なんてないですよー」
裁可が罰金であった時の定型の判決文に金額を書き入れ、一刀にサインを促す七乃。
もちろん一刀が素直に従うわけがない。
なぜ七乃はここまで強引にことを進めようとしているのか。
こんなやり方で一刀が納得すると思っているのだろうか。
そもそも、仮に一刀が罪を認めたとしても、そんな大金を一括で支払う能力などあるはずがないのは、七乃だって承知のことであろう。
例え分割払いだったとしても、一刀は間違いなく支払わない。
今の一刀の身体能力をもってすれば、洛陽を強引に脱出することだって可能だからである。
(もし俺が支払わなかったら、どうなるんだろう?)
目の前で一刀の反応を窺っている七乃と、難しい話についていけず先程からウトウトしている美羽。
そんな彼女達を見て、ふと浮かんだ疑問に対する答えが急速に一刀の脳裏に浮かんできた。
彼女達が恨みを持っているのは、自分ではなく雪蓮達であるはずだ。
先程のキーワードや一刀には支払えない賠償額を請求する目的も、もし彼の負債を雪蓮達に被せることが可能なのであれば理解出来る。
実際にそんなことが可能なのかわからないが、一刀が冒険者としてギルドに所属している以上、雪蓮達にまったく責任がないとは言えないのかもしれない。
そして1分の理さえあれば、立法・行政・司法の全てを統括する麗羽達にとっては十分なのであろう。
「ふふ、ようやく理解出来たようですね、一刀さん。ちなみに宿屋さんは、2000貫で私達に証書を売って下さるそうです。まぁ宿は本当に建て直すわけでもないですし、お客さんも既に泊めているようですから、ぼろ儲けですね」
「……そんなの、サインしなきゃいいだけの話だろ。俺が雪蓮達を裏切るとでも思ってるのか?」
「一刀さんがどれだけ痛みに対して我慢強いのか、試してみるのも面白そうなんですけどねー」
とニヤつく七乃に、麗羽から待ったが入る。
「七乃さん。一刀さんには白蓮さんの加護の件で借りがあると、わたくしは言いましたわよね?」
「わかってますよ、麗羽様。美羽様もそういうの苦手ですしね。でも、拷問がダメとなると、後は例の審問しかないんですけどー」
「仕方がありませんわね」
不承不承、といった感じで一刀に向き直る麗羽。
「一刀さん、最後のチャンスですわよ。もともと美羽さん達に落ち度があったわけではないのですから、ただ美羽さん達のものを返して頂くだけなのですわ。それに、これを手掛かりにギルドさえ取り返しましたら、雪蓮さん達にそれ以上の手出しはしないと、このわたくしの名に賭けて誓いましょう。もちろん一刀さんにもなんのお咎めもいかないようにしますわ」
「お待ち下さい、都市長様! 七乃様からは、一刀さん所有の双子奴隷も賠償として譲り受ける約束をしておりますです」
「お黙りなさい、雑種!」
一刀には一切の咎を与えないなどと誓われたら七乃との約束がおじゃんになると、宿屋が慌てて口を挟んだ。
だがその行為は、麗羽の怒りを誘うだけであった。
斗詩と猪々子も不快そうに表情を歪め、白蓮は怒りに震えている。
七乃は「余計なことを……」と言いたげに額に手を当て、美羽は鼻提灯の制作に勤しんでいる。
「貴方の下劣さに、わたくしがどれだけ我慢を強いられているかわかっていらっしゃるの? 存在が華麗でない罪に問われたくなければ、これからは息を吸うのも遠慮なさいな。これが最初で最後の警告ですわよ?」
「は、はいです」
「さて、一刀さん。貴方のお返事はどうかしら?」
「……俺は雪蓮達を絶対に裏切らない!」
「オーホッホッホ、そういう雄々しいセリフは嫌いではないですわ。でも、残念ですわね。わたくしの加護スキルの前では、その猛々しさも無力そのもの……いきますわよ!」
≪-四世三公の蔵-≫
そう呟いた途端、唯でさえ豪奢な服に包まれた麗羽の体が一段と金ぴかに輝く。
部屋中に溢れ出した黄金の光は、やがて吸い込まれるように麗羽の元へと消えていった。
その光が唯一その場に残したもの、それは彼女の手に握られた鎖であった。
「これは『天意の鎖(エンシオゥ)』と言いますのよ。一刀さん、貴方は自分が犯人ではないと、この鎖に誓えますか?」
「……じゃない」
「なんですの?」
「……なんかじゃない」
「もっとはっきりおっしゃりなさい」
「―――俺は犯人なんかじゃ、ないんだから……!」
一刀がそう言い切った途端、麗羽の手から鎖が一刀に向かって伸びる。
鎖はそのまま吸い込まれるように一刀の中へと消え、どこからともなく威厳のある声が部屋中に響き渡った。
【日没までに、魚の王を釣り上げよ】
「さて、みなさんお聞きになりましたわね。これを以て天意と成しますわよ」
「どういうことだ?」
一刀には、何が何やらさっぱりわからない。
見兼ねた斗詩が、2人に『天意の鎖(エンシオゥ)』の性能について説明した。
『天意の鎖(エンシオゥ)』、それは罪ある者に何らかの課題を与え、その結果により天意の有無を判定する鎖である。
そして天意の無い者を精神的に拘束し、罪科に対する償いが済むまでそれが解かれることはない。
そう一刀に教えながらも、斗詩は内心で深いため息をついた。
人のいい彼女は、こういうやり方が嫌でたまらない。
今まで天意ありと鎖に認められた者など、存在しないのだ。
なぜなら、いつも今回のような無茶な条件が課されるからである。
きっと一刀も設定された償い(今回の場合は賠償金の支払い)が終わるまで、強制的に服従を強いられることになるだろう。
そう考えて、ますます憂鬱になる斗詩。
そんな斗詩を見兼ねて、猪々子が麗羽に提言した。
「姫ぇ、魚の王って人語すら解するとかいう伝説の魚じゃないですか。可哀想だからもっと別の課題にしましょうよー」
「猪々子さん。難易度も含めて全てが天意なのですわ。軽々しく変えられるものではありませんのよ」
猪々子を窘めながら、麗羽自身も多少がっかりした気持ちを覚えていた。
自分の耳にまで聞こえてくる程に名高い一刀であれば、天意を得られる可能性があるかもとの期待があったのだ。
もともとこの鎖は、物事の善悪を重視しない。
それは今まで使用した経験上わかっていることである。
であればこそ、仮に冤罪だったとしてもこの鎖で強制執行出来ると思い、強引に事を進めたのだ。
それでも、麗羽は考えてしまう。
この鎖に認められるような存在とは、どのような者なのだろうかと。
考えれば考える程に興味が増し、麗羽はいつしか鎖を使用する相手に対して、天意を成せるような英傑であって欲しいと願うようになっていたのである。
課題の難易度の高さに、一刀に見込みはなさそうだと興味を失う麗羽。
絶望的な状況に、悲しそうな瞳で一刀を見つめる白蓮。
立案した策の通りに事が進み、得意満面の七乃。
彼女達が見守る中、一刀が口を開いた。
「そんなことでいいのか? なら今すぐ釣るから、着いて来てくれよ」
「「「はぁ?!」」」
あまりの無理難題に気が狂ったのかと心配になる一同。
そんな彼女達を尻目に、さっそく川へと向かう一刀なのであった。
麗羽達の見守る中、一刀が竿を振るう。
すると1尾の魚が、あっさりと釣れた。
茫洋たる眼差し。
のっぺりとした面構え。
年季の入った『はねる』具合。
「よし、『コイキング』ゲットだぜっ!」
【こりゃ、またおんしかっ!】
「ごめんごめん、すぐにリリースするからさ」
一刀には初めから、王というフレーズにも人語を解するというキーポイントにも当てはまる魚の心当たりがあった。
釣りスキルを手に入れてから一番最初にゲットしたのが、川のレアポップ魚である『コイキング』だったからである。
その時の一刀はしゃべる魚を食べる気にもなれず、川に放してあげていたのだ。
【ところでおんし、そこに座りんしゃい】
「え? なんで?」
【いいから座りんしゃい!】
「あ、ああ」
【先日、おんしは川の仲間達を数百匹は釣りんしゃった。彼等はきちんと食べたのかえ?】
「あ、えっと、その……腐らせました。いや、実はこれには深い事情があって……」
【黙りんしゃい! よいかえ、この世の生き物というのは、お互いを支えあって生きちょる。小魚は藻を食べ、大魚は小魚を食べ……】
ビチビチと地面を跳ねる鯉。
その鯉に正座をさせられ、説教されている一刀。
そんなシュールな光景を見守る一同。
「天の御使い……」
「は? 麗羽様、何かおっしゃいましたか?」
「……いいえ、斗詩さん。なんでもありませんわ」
天意を受けた者の姿を日々想像し、その人物を我が君とまで呼んでいた麗羽。
その想像とは多少異なっていたが、それでも一刀は初めて鎖に認められ天意を得た者である。
麗羽は、一刀から目が離せずにいる自分に気がついた。
そんな麗羽の目に、一刀の中から唐突に出てきた鎖の姿が映った。
宿屋に向かって一直線に伸びていき、そのまま巻きつくようにして消えていく鎖。
「ひっ! こ、これは一体……?!」
「あらあら、一刀さんに要求した贖罪が全て貴方に帰ってきたようですわね。一刀さんに天意があるのならば、罪科は貴方にあるに決まっていますもの」
「贖罪……まさか、10万貫?! なぜ被害者のわたくしが、加害者に更に賠償金を支払わねばならないのですか!」
「まぁ、払うも払わないもご自由にすればよろしいですわ。『天意の鎖(エンシオゥ)』に逆らうことが出来れば、ですけれども。オーッホッホッホ!」
まさに泥棒に追い銭である。
もっとも宿屋が七乃の口車に乗らず欲をかかなければ、賠償額もせいぜい100貫程度であったため、この跳ね返りによるダメージも少なかったであろうことを思えば、自業自得と言ってよい……のであろうか?
いや、どう贔屓目に見ても、やはり男は一刀と七乃の犠牲者だったと表現するべきだろう。
今後のご健勝を祈りたい。
一方、コイキングの説教は佳境に入っていた。
【今後は自分の食べる分だけを釣りんしゃい。もちろん、魚達への感謝の心を忘れずにの】
「はい。あ、でも、金策が……」
【あれほど惨い真似をしておきながら、まだ我らの仲間達を金儲けに利用する気かえっ?!】
「いえ、もう釣りを金策には使いません!」
【では、そろそろ帰るとするかえ。おんしも早く帰りんしゃい】
「はい、色々とすいませんでした」
『コイキング』をそっと川へ返す一刀。
一同の方に向き直り、胸を張って宣言した。
「どうだ、俺が犯人じゃないってことがわかっただろ!」
「「「ちょっと待て!」」」
こうして、宿屋異臭事件は幕を下ろしたのであった。
「賠償問題は『天意の鎖(エンシオゥ)』の裁定に委ねましたが、罰則の方が解決していないのですよ。洛陽を騒がせた罪になるのですけど、一刀さんは初犯ですし人死も怪我人もなかったですし情状酌量の余地もありますから、罰金刑が相応だと判断しました。但し騒ぎの規模が大きかったですので、過去の事例に当てはめて2000貫の罰金になっちゃいましたけど」
審問の日から数日後。
訪ねてきた斗詩にそう告げられて、問題は全て解決したと思い込んでいた一刀は顔を青くした。
ちなみに一刀は、既に宿屋から賠償を受け取っている。
宿屋から10万貫も貰ったのだから、2000貫など端金だろうと思われるかもしれない。
だが実際にはそうはならないのだ。
なぜなら、宿屋に10万貫なんて大金を払えるわけがなかったからである。
宿屋の所持していた現金は、あの規模の宿を経営していたには少な過ぎるであろう1500貫であった。
審問の日より前の段階で宿屋が事件の被害者である上客達に迷惑料を支払っていたこともあるが、他にも大きな理由がある。
客を取らせる目的の他に自分の趣味でもあったのだろう、宿屋は金さえあれば少女の奴隷を購入していたのだ。
従って、10万貫に足りない分は現物で一刀に支払われていたのである。
その1500貫に彼自身の身銭から500貫を加え、罰則金を支払う一刀。
彼に残されたものは、事件当時に一刀が救った少女達を含む数十人の幼い奴隷達と土地を含む宿そのものであった。
気がつけば宿屋の主となりつつある一刀。
彼が再び迷宮に潜る日は、果たして来るのであろうか。
**********
NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:17
HP:270/270
MP:0/0
WG:75/100
EXP:2218/4500
称号:小五ロリの導き手
STR:20
DEX:30(+6)
VIT:20(+2)
AGI:28(+6)
INT:20(+1)
MND:15(+1)
CHR:26(+1)
武器:アサシンダガー、バトルボウガン+1、アイアンボルト(100)
防具:避弾の額当て、ハードレザーベスト、マーシャルズボン、ダッシュシューズ、レザーグローブ、万能ベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪
近接攻撃力:107(+5)
近接命中率:69
遠隔攻撃力:101(+5)
遠隔命中率:66(+3)
物理防御力:76
物理回避力:86(+18)
【武器スキル】
デスシザー:格下の獣人系モンスターを1撃で倒せる。
インフィニティペイン:2~4回攻撃で敵にダメージを与える。
ホーミングブラスト:遠隔攻撃が必中になる。
【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
所持金:127貫