ムーンプリンス一刀の迷宮探索占い
パーティメンバーの掌を、パーティリーダーが右手の人差し指で順番に押していく。
この時、パーティリーダーは仲間意識を強く持つことが重要である。
但しこれは、エリアが変わるごとに行わないと効果を発揮しない。
よって階層が変わる時や『試練の部屋』に入った時には、必ず行わなくてはならない。
おまじないだと言ってパーティシステムを説明している一刀に対し、蓮華のパーティメンバーは「何を言ってるんだ、コイツは」的な目を向けていた。
その様子をみて、無理もないなと星達は思う。
自分達だって実際に体感していなければ、いくら一刀の言葉とはいえ容易には信じられなかったであろう。
いまいち信用されていないことがわかったのだろう、一刀は星達にも話を振ってきた。
「せ、星達だったら解るだろ。最近俺が色々触ってたのは、このおまじないの効果に偶然気づいたからなんだ。色々と確かめるためだったんだよ。きっと太祖神が俺達に授けてくれた祝福的なものなんだって、たぶん」
「あんた、そんなことが軽犯罪の言い訳になると思ってるんじゃないでしょうね?」
と憎まれ口を叩く桂花も含め、星達は一刀の言っていることが本当だと解っていた。
それだけ『七人の探索者』効果を実感していたからだ。
一刀がこのことを蓮華に教えたのは、それなりの熟慮の結果である。
今まで試した所、全て能力アップ系の効果であり、一刀の想像を超えるような種類のものはなかった。
しかもそれらは、『七人の冒険者』を超えるようなチート効果でもない。
つまりパーティ効果の有無が極端な違和感となり、死の原因となる可能性は限りなくゼロに近いと考えたのだ。
体感ではっきりと効果がわかるようなボーナスがあまり出なかったということは、仲互いの原因にもなりにくいということである。
実際、プラシーボだと言えばそうかなと思う程度の効果であることがほとんどだったのだ。
上がり幅が数値で出ないのならば、『きずなw崩壊ファンタジー』事件にはなり難いであろう。
逆に言えば、実際の効果が定量的に証明出来ないので、情報としての換金が難しいのであるが。
もちろんこの一刀の決定には、色々と不備がある。
もし一刀の予想も出来ないような効果が出たらどうするのか。
もっとちゃんと考えれば、換金出来たのではないか。
絶対に『きずなw崩壊ファンタジー』にならないとは言い切れないのではないか。
だが、なにしろ一刀には時間がなかった。
一刀達の『試練の部屋』への挑戦が間近だったこともそうだが、蓮華達は今回の迷宮探索の最終日に『試練の部屋』へと挑むプランなのだから。
つまり彼女達は、自分達が加護を受けることでよりギルドの注目を引き寄せたいという考えだったのである。
である以上、一刀の性格から考えても、蓮華達が生き残る可能性を高める手段があるのを知っていて黙っておけるわけがない。
蓮華も一刀の説明自体には半信半疑であったが、それでも言われた通りに試してみた。
一刀の語り口調が真剣だったこともあったし、星達が当然のようにそれを実行していたからでもあった。
NAME:蓮華
LV:13
HP:212/192(+20)
MP:0/0
一刀にはHPの増加しか確認出来なかったが、それなりの効果も出たらしく、蓮華は不思議そうに腕を回したり飛び跳ねたりして、露わになっている下乳を弾ませていた。
だが重要なのはそこではなく、蓮華のLVである。
彼女のLVは『テレポーター設置クエスト』の当時と変わっていなかったのだ。
頻繁に会っている小蓮が、当時LV12だったのがLV13に上がっているのは知っていた。
ちょうどクエの頃に彼女は魔術師としての才能に気づいたため、前衛から後衛に移ったせいでEXPの取得が上手く行かずにLVアップが遅いのかと思い、何回か助言もしていたのだが、蓮華のLVに変化がないところを見ると、どうやらLV上げ効率の悪さが原因であったようだ。
はっきり言えば、この程度のLVでは『試練の部屋』どころかBF15だってまだ早い。
今回の迷宮探索に赴く前の顔合わせで彼女達のLVを見た時、一刀は正直に蓮華達の実力不足を告げてこの計画を中止しようとした。
しかし一刀に言われるまでもなく、彼女達自身もそのことをわかっていたのだ。
「それでも私達は、今回の探索で加護を受けなければならないの」
「無謀過ぎるだろ、それ。命は大切にしなきゃ」
一刀の言葉に、蓮華の傍に控えていた少女が険しい表情で怒鳴りつけた。
「誰のせいだと思っている!」
「思春、止めなさい!」
「どういうことだ?」
「……あんまり言いたくなかったのだけれど、貴方がPLをギルドに伝えたせいでね。そのせいで、時計の針が随分と早回りしてしまったのよ」
詳しいことは話せないし、私達の問題なのだから貴方が責任を感じる必要はない。
でも今更貴方に合同での探索を断られたら、他のパーティを探す時間なんてどこにもない。
どうしても貴方が否であれば、私達は単独でBF15を目指すが、出来れば協力して欲しい。
そう言われてしまうと、さすがに断り切れない一刀なのであった。
「それにしても、BF11、12に随分と人が多かったな」
「ギルドの短期育成を真似るクランが出てきたからよ」
それだけではなく、パーティを組んでいる剣奴の数もそれなりに多かった。
BF11だとドロップ品がそれまでより高額なため、BF10でソロで金を稼ぐよりも効率が良いからであろう。
古参の剣奴と比べ、PLによってLVを引き上げられた剣奴は、自身の身を買い戻す希望を失っていないこともあったし、LVが上がることによってテレポーター警備の負担が軽くなったことも、自由時間に剣奴達が迷宮探索をするようになった要因の1つであった。
蓮華が思わせ振りに言っていた、時計の針うんぬんの話は、こういう変化のことを示しているのかもしれない。
だが今はそんなことよりも、蓮華パーティの効率良いLVアップ方法を考えるべきである。
迷宮探索期間は定めていないが、最終日に『試練の部屋』へ挑戦することだけは決定している。
それまでに最低でもLV15には届いていないとまずいだろう。
LV15ならOKだという根拠はないが、『試練の部屋』がBF15に存在しているからには、少なくともそれ以下のLVでは足りていないことだけは間違いないからだ。
蓮華達のLVが低いからといって、チーム編成を変更して一刀達の中に2,3人ずつ混ぜるという案は、あまりよろしくない。
なぜなら、1,2程度のLV差ではPLもほとんど効果が見込めないし、『試練の部屋』に挑むチームでLV上げしないと、連携が疎かになるからだ。
そうなると正攻法でLV上げするしかないのだが、LV13の彼女達に移動狩りは厳しい。
移動狩りというのは、基本的には格下相手の戦術なのだ。
格上相手であれば、待ち構える方式の方が戦いやすい。
だがネックはハイオークの存在である。
釣り方式と魔術師系モンスターの相性は、最悪に近いからだ。
色々な要素を考えた上で、一刀は今回の狩り方式を決めた。
「はっ!」
小柄で俊敏な体を持った少女・明命が、クナイを投擲する。
明命の放ったクナイは狙い違わずオークに命中し、そのまま蓮華達の待つ一角へと敵を引き寄せることに成功した。
「それっ!」
星チームの釣り役は、白蓮である。
非個性的なのが最大の個性である彼女は、なんでも平均点以上にこなせる優等生だ。
馬上で扱うような半弓を引き絞り、狙いを定めて放つ白蓮。
しかしその矢は、リザードマンを掠めて壁に突き刺さり、傍にいたハイオークの注意まで引いてしまった。
リザードマンに追われて逃げる白蓮に向い、ハイオークが詠唱を始める。
その呪文はしかし、最後まで紡がれることはなかった。
「えーい!」
「とりゃー!」
季衣と流琉の同期攻撃で、左右からの鈍器に押し潰されるハイオーク。
そんなハイオークに向かって突っ込む一刀を、桂花の呪文が後押しする。
≪-砂の加護-≫
桂花の唱えた魔術の効果で更に速度を上げ、ダガーごと勢いよくハイオークにぶつかる一刀。
その衝撃で一刀もハイオークも、お互いに動きを止める。
だが一刀の右腕だけは、ハイオークに出来た傷口と同じ場所を更に2回抉った。
インフィ「複数回攻撃!」……まぁ、例の武器スキルである。
立て続けに必殺技攻撃を受けたハイオークは、さすがにNAMEを黄色くしてフラついていた。
その隙にいつものフォーメーションでハイオークを挟みこむ一刀達。
敵が流琉の方を向けば季衣が攻撃し、敵が季衣に襲いかかれば一刀が防いで流琉が攻撃する。
常に背後から殴られることになったハイオークは、満足に呪文を詠唱することも出来ずに、無念の雄叫びを上げて塵に還ったのであった。
一刀が狩場として定めたのは、『帰らずの扉』やBF16への階段に近い大広場である。
もしこの階層にテレポーターを設置するとしたら、恐らくここが選ばれていただろう。
そのくらいの広さがあり、3パーティでも十分に狩りが可能であった。
3パーティのうち、拠点を定めているのは星チームと蓮華チームだけである。
一刀チームは広場内を移動しながら敵を狩っていた。
一刀は釣り方式の2チームと移動狩りの1チームで分けることにより、移動狩りチームでハイオークの処分をしようと考えたのである。
本来であれば広い場所での移動狩りなど無謀もいいところであるが、3パーティが狩りをすることで敵の密度が下がり、移動狩りチームが複数の敵に襲われることもそれほどなく、襲われた時には釣りチームの拠点まで引っ張って協力して殲滅することも出来た。
蓮華チームには、BF15では比較的弱いオークやマッドリザード、キラービーを狙う様に指示を出していた。
敵の選別も大広場であればこそ可能なことだ。
更に狩りのペース自体も、先日とは打って変わって全力に近い。
普通はそんなことをすれば体力の消耗も激しくなり、それは簡単にストレスへと変わって迷宮滞在期間が極端に短くなってしまう。
だが、今回はその問題に対する解決策もあった。
≪-其静林如-≫
1日に1度の荷運びの時以外にも可能な限り穏に来てもらい、精神を落ちつける魔術を掛けてもらうことにしたのだ。
こうして昼は全員で広場でLV上げをし、夜は前回の場所をキャンプ地にして交替で野営を行う一刀達。
LVの低い蓮華達には、今回最も頑張ってもらわなければならないため、野営時の見張りは免除して休むことに専念させた。
こうして一刀達は、前回の倍近いペースで狩りをすることが出来たのであった。
「それにしても、一刀殿のおまじないの効果は凄いな。なにやら身が軽く感じられるぞ」
興奮して一刀に話しかける白蓮。
前回パーティ効果の恩恵に与れなかった彼女だったが、今回は星チームでパーティ登録をしていた。
その発言から、おそらくAGIが上がっているのだろうと推測される。
「ふむ、確かに身は軽く感じるのですが……」
一方、納得のいかないような顔をしている星。
恐らく『七人の探索者』を基準に考えてしまっているため、パーティ効果が物足りないのであろう。
なんというか、彼女達のその温度差が悲しい一刀。
だが、一刀にとっては更に悲しい出来事があった。
(4人パーティにしては効果が高くてラッキーだったけど、ロリコンって……)
自分は幼女が好きなわけではなく、幼女も好きなだけだと憤慨する一刀なのであった。
**********
NAME:一刀
LV:15
HP:247/206(+41)
MP:0/0
WG:20/100
EXP:3084/4000
称号:連続通り魔痴漢犯罪者
パーティメンバー:一刀、季衣、流琉、桂花
パーティ名称:U.N.ロリコンは彼なのか?
パーティ効果:ALL1.2倍
STR:14
DEX:23(+4)
VIT:15(+1)
AGI:21(+4)
INT:17(+1)
MND:12(+1)
CHR:17(+1)
武器:アイアンダガー、バトルボウガン+1、アイアンボルト(100)
防具:避弾の額当て、ハードレザーベスト、レザーズボン、ダッシュシューズ、レザーグローブ、万能ベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪
近接攻撃力:70
近接命中率:59
遠隔攻撃力:88
遠隔命中率:57(+3)
物理防御力:63
物理回避力:76(+18)
【武器スキル】
デスシザー:格下の獣人系モンスターを1撃で倒せる。
インフィニティペイン:2~4回攻撃で敵にダメージを与える。
ホーミングブラスト:遠隔攻撃が必中になる。
所持金:14貫300銭