白蓮の事情を説明する桃香。
桃香の話に相槌を打つ星。
そしてとりあえず白蓮を触る一刀。
「白蓮ちゃん家は、大陸でも有数の馬商人で……」
「ほほぉ、すると出身は『常山』の近くではないですか」
「きゃっ、なにをする!」
(うーん、やっぱり8人目のパーティ登録は無理か。試しに星を外して、白蓮を入れてみよう)
「ところがある日、白蓮ちゃんのお父さんが事業拡張で失敗して……」
「なんと、過ぎたる野望は身を滅ぼしますな」
「おい、なんで私を触って来るんだ!」
(パーティメンバーは、俺、季衣、流琉、風、稟、桂花、白蓮の7人で……って、なんだこの名称……)
パーティ名称:荒野の6に……あれ?
パーティ効果:物理防御力+15
「それ以来、白蓮ちゃんは莫大な借金を返すために……」
「ふむ、それで洛陽の都市長の世話になっているのですか」
「ふぅ、一体なんだというんだ、っておい! 他の人を突くな!」
(システム的にも影が薄いと認識されちゃう子なのか? 試しに俺、季衣、流琉、稟、桂花、白蓮の6人で……って、余り物かよっ!)
パーティ名称:5人囃子+1
パーティ効果:DEX1.1倍
「麗羽ちゃん、『優雅さはないけど便利ですわ』って……」
「なるほど、一応は重用されている、と」
「だから、他の人を無言で触るんじゃない!」
(大丈夫、きっと俺が見つけてやる、白蓮がちゃんと認識される組み合わせを! 俺、季衣、流琉、桂花、白蓮の5人でどうだっ!)
パーティ名称:ち○こと幼女と空気
パーティ効果:ALL1.05倍
「ところが麗羽ちゃん達、白蓮ちゃんのことを忘れて加護を取りに言っちゃったんだよね」
「あの御仁も、悪気はなかったのでしょうな」
「いい加減にしろ! まったく、酔った勢いで痴漢を働くなんて、最低の行為だぞ」
(もう、無理かも……)
桃香のクラン員は、もともと9人いた。
そのうち5人が既に加護を受けていて、4人が『試練の部屋』の攻略準備中であった。
麗羽に『わたくしの部下が加護を受けていないなんて、ありえませんわ』とせっつかれていた白蓮は、友人の桃香に頼んでクランに入れて貰い、5人で加護を受けるために祭壇に向かう準備を整えていた。
紫苑が桃香のクランに入ったのは、丁度この頃である。
ところが麗羽の一言が、またしても白蓮の運命を変えてしまう。
『おーっほっほっほ、白蓮さん。先日わたくしが加護を受けた時、貴方を忘れてしまったお詫びの準備がようやく出来ましたわ。まぁ、影の薄い貴方に責任の大部分がありますが、それでもこちらの過失は過失ですものね。実は、朝廷から貴方の官位を買いましたの。至急長安に向かい、皇帝に謁見していらして。ああ、礼などいらないですわ、端金ですもの』
とても有難迷惑であった。
長安までの往復と謁見やその前後の儀礼を考えると、どう見積もっても2週間は掛かってしまう。
他の4人はともかく紫苑には璃々のことがあり、一日でも早く加護を受けなければならなかった。
かといって、行く前にちょっと加護を受けてくる、と言うほど気楽な試練ではない。
仮に大怪我をして長安に行けなくなったら、麗羽の面目は丸潰れである。
こうして白蓮は泣く泣く長安へ旅立ち、その間に桃香のクラン員は白蓮以外の全員が加護を受けることに成功したのであった。
「最近、ますます当りが厳しくなってきてて。『官位まで買って差し上げましたのに、貴方はいつまでボンヤリとしているおつもりですの?』って……」
「お願い、一刀さん、星ちゃん。白蓮ちゃんも一緒に連れていってあげて」
「ふむ、私としては構いませぬ。困っている者には手を差し伸べる、それが人の正しいあり方ですからな」
「ボクもいいよー。人数が少なくなったら大変だけど、多い分にはこっちも助かっちゃうしね」
「待ちなさい、季衣。多い方がいいってわけじゃないのよ。ただでさえ既に7人もいるのに前衛が5人になったら、同士打ちになるのが関の山だわ」
「今みたいに、2班に別れて交替ではダメなのですか?」
「うーん、そう言えば私の時は『試練の部屋』って、そんなに広くなかったんだよね。8人なら4・4で別れた方が、動きやすくて有利かもしれないよ?」
仮に白蓮を入れるとしたら、桃香の言う通り4・4で『試練の部屋』に挑むことになるだろう。
桃香達がソロ同士で入っているため、もしかしたら8人でも入れるのかもしれないが、システムで7人パーティが上限だとされているのだから、その可能性は低い。
漢帝国軍などは恐らく実際に大勢で挑んだ経験があるだろうから、そこに問い合わせれば詳細が解るかもしれないが、一刀にそんな伝手はない。
では7人パーティのまま4・4で別行動を取れば、パーティ効果は維持出来るのか。
これも難しいと一刀は考えていた。
祭との情事で確認した際に、パーティ解散条件はエリアチェンジであると見当をつけていたからだ。
本来ならオフゲーでもオンゲーでもあり得ないような強制解散の条件。
そして初対面の白蓮でもパーティ登録出来たことで判明した、相手の同意を必要としないパーティ登録システム。
これらはゲームの世界でありながらリアルでもあるという矛盾によって捻じ曲げられた世界法則を、システム的に擦り合わせるためのフレキシブルな仕組みなのであろう。
具体的に1つの仮定を提示しよう。
前提条件として強制パーティ登録システムがありきだった。
オフゲーである『三国迷宮』のパーティ登録は、プレイヤーの意思以外に介入要素がないためだ。
ところが、この世界はリアルでもある。
従って、複数の意思が存在する。
では前提条件を変更し、相手の同意を得てからパーティ登録されるシステムになれば矛盾は存在しなくなるかと言えば、答えは否である。
なぜなら、この世界の人物達にはRPGの概念がないからだ。
なんらかの偶然で一度パーティを組んだら、システムを理解していない者では二度と解散出来なくなる。
そんなことになれば、『神々の代理戦争』というゲームの前提条件が崩れてしまう。
見かけ上のパーティとシステム上のパーティが違ってしまったら、最終的な勝者がわからなくなるためである。
そこで強制解散システムにより、一度組んだら永遠にパーティのままになってしまう不具合を調整した。
上記はあくまで仮定であり真実とは限らないが、考え方自体はそれほど的外れではないだろう。
つまりフレキシブルな部分というのは、もとから矛盾を内包している世界が破綻しないための、元のゲームシステムには組み込まれていない機構なのである。
パーティ登録を意識しながら、ちく……体を右手の人差し指で押すとパーティ登録が為されるシステムなども、当然そこに分類される。
一体誰がそんな世界を構築したのか。
それは一刀の方こそが聞きたいことである。
その答えを探し当てた時、一刀の現実帰還への手がかりが掴めるのかもしれない……。
皆の話は白蓮を迎え入れる方向に進み、後は一刀の答えを待つだけとなった。
だが、当然容易に頷ける話ではない。
そしてこれは、容易に首を振れる話でもないのだ。
拒否した時のメリットは、言うまでもなく破格のパーティ効果である。
白蓮の登場さえなければ5週間で自力を上げて、祭壇到達も簡単に達成出来たはずだった。
だが白蓮が登場したこと自体をなかったことには出来ない。
桃香の頼みを断ったとしてもパーティ間でのしこりは残ってしまうであろうし、下手をすればパーティが分裂してメリット自体が無くなる可能性もある。
特に星は、例えパーティ効果のメリットを説明したとしても、自分達の利益を確保するために他者を見捨てることを是とする性格の持ち主でない。
今まで毎日行動を共にしていたのだから、そのくらいのことは一刀でも理解している。
受諾した時のメリットは、純粋に強者が加わることである。
もともと前衛4人後衛3人では、1匹の敵を相手にするには多人数過ぎる。
ゲームでは味方の攻撃は当たらないかもしれないが、リアルでもあるこの世界では前衛3後衛2が限界であろう。
パーティ効果のことさえ考えなければ、白蓮の加入は一刀達にとってもメリットのある話のはずだったのだ。
平穏と調和をこよなく愛する一刀がどちらの選択肢を取るかは、言わずともしれよう。
しかし一刀は、仮にもリーダーの立場にいるのだ。
皆の安全を彼女達に崩された以上、対価を要求する責任がある。
その対価を以て強力な武器防具を揃えることで、下がった安全性を少しでも復旧しなければならない。
ポワポワと微笑みを浮かべて自分を見つめる桃香には、そのことを非常に言い出し難かった一刀。
金とか報酬とか対価とか、そんな話を切り出す自分は軽蔑されるかもしれない。
桃香はともかく、季衣達にまで卑しいなんて思われてしまったら……。
そう考えると、無意識のうちに手足が震えて来る。
だがそれでも一刀は、なけなしの勇気を振り絞って口を開いた。
「その、ひとつ確認したいんだけど、もしその依頼を受けたら……」
「なになに? 私に出来ることなら、なんでも協力するよ?」
一刀の言いたかったことは、残念ながら桃香には全然通じていなかった。
桃香は白蓮の時も紫苑の時も無償で助けていたのだから、それもそのはずである。
こういう人物は、まず金で頼むという発想自体が出て来ない。
だが彼女は協力すると言った。
高LV者に協力すると言われて、真っ先に思いつくのがPLである。
NAME:桃香【加護神:劉備】
LV:19
HP:293/293
MP:39/39
HP量の比較だけで強さが測れるとは限らないが、少なくとも桃香のHPと『七人の探索者』のパーティ効果を受けた一刀のHPは同等に近い。
少なくとも加護分を除けば、能力値が圧倒的に違うことはあり得ないだろう。
バレなければ大丈夫だと思うし、バレることもないと思われるが、それでも七乃に知られる危険を冒してまでPLして貰うメリットは少ない。
実力が圧倒的に違う相手でなければ、PLされても効率が悪いからである。
それにスキル熟練度を上げるという意味でも、『試練の部屋』での実戦が近いという意味でも、この1ヶ月はパーティ間の連携強化などのLV以外も含めた自力を上げることに使った方が有効だと思われる。
そう考えると、桃香に協力して貰いたいことなど……。
「あった! なんでも協力してくれるんだよな?」
「う、うん。こっちがお願いするんだもん、そのくらい当然だよ」
「よし、俺はこのパーティに白蓮を歓迎することに決めたよ。みんなもそれでいいよな?」
「ではでは、白蓮ちゃんの加入を祝して、風が乾杯の音頭などをー」
「待ってくれ!」
一刀の決定に賛同の意を表する皆を、当事者の白蓮が遮った。
何事かと思って白蓮に注目する一同に、白蓮が深く頭を下げた。
「まず、みんなに感謝の気持ちを表したい。突然のことだったのに、私を受け入れてくれてありがとう」
「私達としても、心強い仲間が増えるのは歓迎です。頭を下げられることはありません」
稟の言葉に僅かに微笑みを返し、しかしすぐに表情を固くして言葉を続ける白蓮。
「ただ、ひとつだけ言わせて貰いたいことがある。一刀殿、貴方にだ」
「お、俺?」
「貴方は先程から、私を触ったり皆を触ったり、挙句の果てに店員の女の子を触ったりしていた。一体どういうつもりなのだ。いくら私が入れて貰う立場だとは言え、こういうことは節度を持ってだな……」
店員の女の子を突いたのは、パーティ登録出来るかどうか興味があったからだ。
結論を言えば、パーティ登録は可能であった。
本来のゲームシステムで言えば、町の住人とパーティを組んで迷宮探索するわけがない。
だが、漢女モンスターを除く全ての人にLV表示があることも含めて、この辺も世界法則の擦り合わせなのであろう。
ゲームの中ならば店員さんは確実に迷宮に潜らないと断言出来るが、リアルでもあるこの世界では店員さんの意思ひとつで簡単に迷宮内に足を踏み入れることが可能なのだから、矛盾を内包するこの世界ではむしろ当然のことである。
だが一刀の知的好奇心など、白蓮にはまったく関係ない。
白蓮から見れば、一刀はただの連続痴漢事件の犯人である。
どう言い訳しようか悩む一刀を、星達がフォローした。
「白蓮殿、そういきり立つものではない。一刀殿は確かに痴漢犯罪者だが、触れられると興奮するせいか、なにやら力が増すように感じるのだ」
「そうなのです。お兄さんは確かに痴漢犯罪者なのですが、そのボインタッチは素敵な力を秘めているのですよー」
「一刀殿のメインが痴漢犯罪者なのはカカッと確定的に明らかですが、これで勝つると私は確信しています」
「兄ちゃん、そういえばボク、さっきから力が戻っちゃってるみたい。お触り効果がなくなっちゃったんだよ、きっと」
「私もです、兄様。もう一度触り直して下さい」
「そういえばアンタ、さっき通行人に痴漢を働いてビンタを貰ってたわよね」
「そ、そんな、一刀さん。連続痴漢行為だけじゃなく通り魔犯罪まで……。一刀さん、自首しよう! 今ならまだ間に合うよ!」
ちなみに、裏切り者は猫耳フードである。
「ち、違うんだ! こう、なんていうか、タッチすることは頑張ろうってことなんだ。だから、力だって沸いただろ?」
「なんだー、そういうことかぁ。びっくりしちゃったよ。私達もよくエイエイオーってするけど、そうするといつもより頑張れるんだよねー」
「だ、だよなー! そういう気持ちが大切なんだよ、わかるだろ、みんな!」
(((((店員や通行人に痴漢行為を働いたことは、それとは関係ないんじゃ……)))))
場所が居酒屋であったことが拙かった。
一刀の話したMP理論は酔っぱらいの戯言として、その信憑性の薄さから広まることはなかった。
その代わり、一刀の新しい称号が広まることになってしまったのであった。
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NAME:一刀
LV:14
HP:192/192
MP:0/0(+20)
WG:20/100
EXP:702/3750
称号:連続通り魔痴漢犯罪者
パーティメンバー:一刀、魔理沙
パーティ名称:店員さんは魔女?!
パーティ効果:MP+20
STR:14
DEX:21(+3)
VIT:14
AGI:19(+3)
INT:16
MND:11
CHR:15
武器:ポイズンダガー+1、バトルボウガン+1、アイアンボルト(100)
防具:避弾の額当て、ハードレザーベスト、レザーズボン、ダッシュシューズ、レザーグローブ、レザーベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪
近接攻撃力:71
近接命中率:55
遠隔攻撃力:85
遠隔命中率:53(+3)
物理防御力:60
物理回避力:72(+18)
【武器スキル】
デスシザー:格下の獣人系モンスターを1撃で倒せる。
インフィニティペイン:2~4回攻撃で敵にダメージを与える。
ホーミングブラスト:遠隔攻撃が必中になる。
所持金:5貫100銭