ギルドショップでも、桃香に案内してもらった武器屋でも、露店でも、今までに銃火器を見かけたことがなかった一刀。
おファンタジーな世界だからなぁと納得してボウガンを愛用していた一刀にとって、『豪天砲』の存在は驚きであった。
尤も、良く考えてみれば同じくファンタジーなアクションゲーム『ハンハン』シリーズにも同じような武器が登場する。
それに、超ビッグタイトルのRPG『NF(ネバーエンディングファンタジー)』シリーズにだって、銃火器は存在しているのだ。
それと同じメーカーが製作しているせいか、システムのあちこちに類似点が見られる『三国迷宮』に銃火器があっても不思議ではない。
現代人の一刀の中では間違いなく『弓<銃』である。
それは、頻繁に『弓>銃』の状態になるファンタジー世界に慣れきっている一刀のゲーム脳で考えても、常識的に覆せない法則だ。
一刀は銃火器に惹かれていった。
そこで思い当たったのが、スキルのことである。
ボウガンの武器スキルである『ホーミングブラスト』の必中攻撃は、銃火器でも通用しそうな技である。
ひょっとすると、ボウガンの武器スキルと銃火器の武器スキルは全く同じかもしれない。
もし銃火器を装備しても『ホーミングブラスト』のスキルがステータス表示に残れば、それはボウガンを使用することで育てた自身の武器スキルを損なうことなく変更出来る可能性に他ならない。
それを確かめるには、『豪天砲』を装備させて貰えばよいのだろうか。
いや、話はそんなに簡単ではない。
ここで問題になるのが、装備との相性なのである。
ステータスなのか適正なのかスキルなのか未だに謎なのだが、一刀が武器を装備した時には大別して3通りのパラメータ変化がおこる。
1.わずかに攻撃力が増減する。(ダガー、ボウガン)
2.かなり攻撃力が減る。
3.大幅に攻撃力が減る。
武器自体に攻撃力のパラメータがあることは既に解っている。
それは、装備することによってパラメータに(+○○)という補正効果が表れないこと、装備品を外すと攻撃力のパラメータ自体が消えてしまうこと、同じ種類の武器であるという条件下では命中率が装備によって変動しないことからも明らかである。
防具の防御力と回避力の関係にも、これと同じことが言える。
自分の能力+武器の能力(-■)=攻撃力
例えばポイズンダガーの能力が攻撃力21だったとして、石を使って+1にすると攻撃力21(+1)ではなく、22になるのだ。
実際には自分の能力単体での攻撃力が判別不可能であるため、武器の能力は他との比較でしか表せないのだが。
仮に攻撃力アップの指輪などを装備したならば、恐らく(+○○)で表記されることになるであろう。
1項の変動は、この公式がそのまま当てはまる。
そして2項の場合、そこからブラックボックス分の値が引かれてしまうのだ。
まだBF1の警備をしていた頃、桃香に紹介して貰った店で色々な武器を装備させてもらったことがあった。
その時は片手剣や片手槍、片手斧などに扱い難さを感じたものの、攻撃力自体はダガーよりも高かった。
だが今ではダガーを装備した時の攻撃力が、どんな武器よりも一番高いのである。
このことから、恐らくブラックボックスの根幹をなす要素はスキルであることが推測されるが、確実にスキルだと言い切れない根拠もまた存在する。
今まで、LVアップ時や装備品交換時以外で攻撃力が上昇したことがないのだ。
もし完全にスキル依存なのだとすれば、それはおかしい。
なぜなら、完全にスキル依存だと思われる必殺技は、LVアップに関係なく追加されるからである。
この事実は、一刀のスキルが上限値ではないことを意味している。
それはつまり、スキル値の上昇が攻撃力の上昇を伴っていないということだ。
この辺のことは実際に武器を変えて検証しないとわからないが、MMOゲームにありがちなスキルポイントのトータルが決まっているシステムの場合、その検証をすることは致命的な失策になり得る。
検証にスキルポイントを使い過ぎてメイン武器のスキルが足りなくなりました、ではお話にならない。
尤も、トータルポイント上限の状態で更にメイン武器のスキルを上げようとすると、他のポイントが自動的に下がってバランスが調整されることも考えられる。
だが現時点でそこまで想定するのは無意味であろう。
そして3項である。
この場合、攻撃力が激減するだけでなく、DEXやAGIなどの主要ステータスも軒並み激減するのだ。
基本的に重量のあるものは3項に当てはまるためSTRの問題である可能性が高いが、もしかしたら適性の問題かもしれない。
ということで、恐らく3項に当てはまるだろう『豪天砲』では、銃火器とボウガンが共通スキルなのかどうかを検証することは難しいのである。
それでも、試してみるだけなら損はない。
ただ桔梗が素直に『豪天砲』を触らせてくれるかどうかが問題である。
このクラスの武器は非常に高額であるし、祭と同様に名前まで付けていることから、それを大切にしていることも解る。
ちなみに一刀には、祭の『多幻双弓』を装備させて貰おうと無断で触り、凄い勢いで怒られた経験がある。
レイパー呼ばわりまでしてきた祭の怒りっぷりを思い出し、それでも『豪天砲』に対する好奇心を抑えられない一刀。
出来る限り機嫌を取ってからお願いしてみようと、一刀は桔梗の杯にお酌をするのであった。
「それにしても見事な武器だな、桔梗さん」
「うむ。この大陸中を探しても、儂の『豪天砲』に勝る武器はないであろうよ」
「銃火器自体が、あまり一般的じゃないのか?」
一刀の問いには、桔梗ではなく紫苑が答えた。
「破壊力はあるのですが、装填に時間が掛かること、武器自体の値段が高いこと、弾薬代が高いことから、余り一般的とは言えませんね」
「じゃが、儂の『豪天砲』は6連発出来る! そこらの銃火器と一緒にするでない!」
酒のせいもあり、ムキになる桔梗。
これ幸いと、一刀は『豪天砲』を褒め上げた。
別に御世辞だけで褒めているわけじゃなく、純粋に『豪天砲』が凄いと思っている一刀の言葉に、桔梗の機嫌は一気に良くなった。
今がチャンスと、一刀は肝心の願いを口に出した。
「ところで桔梗さん、実はお願いが……」
「なんと、儂の胸が目当てじゃったのか。まぁよかろう、それでも『豪天砲』の素晴らしさを良く解っているお主ならば、特別に許す。存分に触るがよい」
「違うからっ! 『豪天砲』を触らせて欲しかったんだよ!」
「なんと?! 『巨乳ホイホイ』の異名を持つ一刀殿が、乳よりも武器とは……」
「星はなんか俺に恨みでもあるのか?!」
「むろん、おちょくっているだけですよ。一刀殿はからかい甲斐がありますのでな」
ニコニコと話を聞いていた紫苑も、やはり酔っ払っていたのであろう。
穏やかで常識人の彼女にしては珍しく、星のからかいに乗った。
「あらあら、一刀さんは桔梗のたわわに実る胸の感触より、ゴツゴツとした『豪天砲』の感触に魅力を感じるタイプなのですか?」
「ちょっと待ってよ紫苑さん、そういう話じゃなくってさ」
「む、いくらなんでもお主、それは不健康というものじゃぞ?」
「だーかーらー、違うんだって」
酔っぱらいに正論を吐いても無駄である。
そのまま話は進み、遂に桔梗はこう言い出した。
「ならば、儂の乳を触るのか『豪天砲』を触るのか、二つに一つじゃ! これでお主がどちらにより魅力を感じているのか、一目瞭然であろう」
無茶苦茶である。
常識的には『豪天砲』を選んだ方が無難であることは間違いない。
だが話の流れ的には、それを選んだら自分の称号が『無機物ファッカー』になりかねない。
一刀は悩んだ。
そんな一刀の背中を押したのは、桔梗の着物に浮かび上がっているぽっちりとした2つの小さな粒であった。
透けてこそいないものの、明らかに乳首だとわかるそれは、『私達をプッシュして』と囁きかけているように一刀には感じられた。
実はこの時、一刀自身も桔梗の返杯や紫苑の酌によって脳がアルコールに毒されていたのである。
だが、この時一刀の脳裏を駆け巡っていたのはエロ魂ではなくゲーマー魂であった。
純粋なゲーマー魂であれば、『豪天砲』に天秤が傾いていたであろう。
しかし、その魂までもがアルコールで犯されている今、一刀の中の羅針盤は完全にとち狂っていた。
一刀は、2つのポッチにコントローラーのAボタンBボタンを連想したのだ。
彼の連想ゲームは続いた。
(ボタン……Bダッシュしゃがみジャンプ……選択肢決定・キャンセル……パーティ申請……)
ぽちっ、ぷよんっ。
NAME:一刀(LV14、HP:192/192、MP:0/0)
NAME:桔梗【厳顔】(LV19、HP:283/283、MP:0/0)
視界の片隅に出現したウィンドウに、一刀は飲んでいた酒を噴きだした。
そんなことには構わず、一刀の選択に大盛り上がりの3人。
そして、アルコールのせいでパーティ登録について検証する余裕のない一刀。
(ねぇよ……)
そう思いながら、アルコールのために意識を失う一刀なのであった。
星達が運んでくれたのであろう、ギルドの自室で目覚めた一刀。
まだアルコールが残っていたが、そこから意識を逸らすことによって痛みや疲れと同様に感覚を鈍くした。
そもそも一刀は食事にしても酒にしても、基本的には他人事のような感覚でしか味わえない。
だが痛みに意識を向けるとリアルな感覚になるのと同様、味覚に対しても感覚を使い分けることが出来る。
尤も、だからといって食べなくても平気という訳でもない。
感覚的には意識を向けなければ平気なのだが、HPが減っていくのである。
それと同様に、酒を飲めば身体的には確実に酔いが回る。
そしてまずいことに、酔っ払って鈍くなった脳味噌では、意識の切り替えが上手くいかないのである。
食事や酒の時には、味わうために感覚をリアルにしているのだが、酩酊状態だとそこから意識を逸らすことが出来なくなるのだ。
ここで重要なのは、一刀自身でもどうかと思うような感覚に対するご都合主義ではなく、意識の切り替えについてである。
昨夜、桔梗の乳首をプッシュした一刀。
だが一刀が乳を触るのは、この世界では初めてのことではない。
祭を相手に既に2回のエロス経験があったし、以前に冥琳の乳にも触れている。
その時にはパーティステータスなんて出現しなかった。
そして前者と後者との違いは、一刀がパーティ申請をすると意識していたかどうか、ただそれだけのように思えるのだ。
乳の揉み方の違いだという考え方も出来るが、それならば一刀以前に偶然パーティ登録に成功した人達が出ているはずである。
華琳だって春蘭・秋蘭とは只ならぬ関係に見えたし、紫苑だって璃々を産んでいる以上、吸われたり舐められたり16連打されたりした経験くらいあるだろう。
それら全てについて、偶然パーティ登録されないような揉み方であったとは、さすがに考えにくい。
(いや違う、そうじゃない!)
意識を向ける向けないは、あくまでも一刀自身の特殊性に起因している。
パーティ登録が普遍的なシステムであるのならば、この考え方はおかしい。
考えてみれば、祭の時は2回とも獣と化していたため、その豊満な胸にいたずらをする余裕など一刀にはなかったし、冥琳の時にも正確に指で乳首を押していたか定かではない。
しかし、乳首プッシュ自体がパーティ申請コマンドだったとしたら、なぜ今までそれに誰も気づかなかったのか……。
(ステータス表示だ! これが視認出来なければ、誰もそのことに気づかない!)
しかも昨日パーティ登録を解除した覚えなどないのに、今はパーティウィンドウが消えていた。
恐らく距離か時間によって、勝手にパーティ解散をさせられたのであろう。
つまり偶然パーティ登録が出来たとしても、それを意識して維持しない限り、恒久的にパーティのままで居続けられないということだ。
(これをどうやって利用しろと……)
パーティ登録の検証自体は、祭との逢瀬を利用すれば可能である。
だが、パーティ登録したことによる経験値配分の変化などを検証したり、このシステムを活用して桂花などの攻撃に向いていない魔術師を育てるのは、非常に難易度が高い。
(パーティ登録するから乳首押させてよ、なんて桂花に言った日には、血の雨が降りそうだしなぁ)
効果を検証するにしても、季衣達にだってこんなことは頼めない。
とりあえずパーティ登録のことは保留にして、アルコールを完全に抜くために水を浴びに行く一刀なのであった。
試しに1泊2日のスケジュールで行動してみようと、午前中は皆で泊まりに必要なものを揃え、午後から迷宮探索に出発する予定の一刀達。
必要なものはプール金から出されるので、一刀の手持ちの金が700銭しかなくても安心である。
ちなみに昨日の飲み代も払っていないため、ここから出費することを考えるとほとんど残らない。
ゲームシステム解析のために熱くなり過ぎたと反省する一刀だったが、同じ状況ならばきっとまた同じことをしてしまう自分が嫌いではない。
生活費自体は、今回の迷宮探索が終われば丁度3週間が経つため、5貫前後の収入が得られる。
1日休んだことと桂花が加入したことを考えても、4貫は貰えるであろう。
いくら使わなくなったとはいえ、季衣から貰ったレザーベストを売るのは人としてどうかと思うし、思いっきり使い込んで擦り減っているレザーブーツだけではあまり足しにはならなさそうだ。
それに普段レザーブーツを履くことでダッシュシューズの消耗を抑えられるため、これらを売却するつもりは一刀にはなかった。
一刀に貰った靴を履いてはしゃぐ季衣と、それを嬉しそうに眺める流琉を引き連れて、星達と合流した一刀。
ああでもないこうでもないと、持っていく物を吟味しながら町を歩く。
星に金を払って手持ちが100銭になった一刀は、買い食いも出来ずに荷物を持って彼女達の後についていった。
そして大きいリュック3つに水や簡易食料などを目一杯に詰め込み、一刀達はBF13へと向かったのであった。
**********
NAME:一刀
LV:14
HP:192/192
MP:0/0
WG:55/100
EXP:92/3750
称号:巨乳ホイホイ
STR:14
DEX:21(+3)
VIT:14
AGI:19(+3)
INT:16
MND:11
CHR:15
武器:ポイズンダガー+1、バトルボウガン+1、アイアンボルト(100)
防具:避弾の額当て、ハードレザーベスト、レザーズボン、ダッシュシューズ、レザーグローブ、レザーベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪
近接攻撃力:71
近接命中率:55
遠隔攻撃力:85
遠隔命中率:53(+3)
物理防御力:60
物理回避力:72(+18)
【武器スキル】
デスシザー:格下の獣人系モンスターを1撃で倒せる。
インフィニティペイン:2~4回攻撃で敵にダメージを与える。
ホーミングブラスト:遠隔攻撃が必中になる。
所持金:100銭