単独で敵の行軍を足止めしようと考えていた朱里の作戦とは、次の通りである。
1. 洛陽で工作兵の志願者を募る。
2. いくつかのトラップポイントを作らせる。
3.朱里が単独で敵の軍勢に接近し、そこまで誘い出す。
この策は「言うは易し、行うは難し」の典型的な例であろう。
なにせ敵は既に行軍を始めているのである。
人集めと現地への移動を考えると、洛陽付近しか場所が選べないこと。
朱里自身は指揮を取れないため、トラップが意図通りに設置されたか分からないこと。
数万の軍勢を朱里だけで思い通りに誘導するのは難しいこと。
これらの難関を考えると、例え朱里クラスの智謀を持っていようと、綱渡りの策になることは明らかだ。
それ故に朱里も、恋と一刀が同行している現状で上記の作戦に固執することはなかった。
数万の軍勢に対してこちらは3人なのだから、当然その99.9%は遊兵となる。
前衛の恋、中衛の一刀、後衛の朱里と、パーティのバランスも良い。
敵軍に奇襲を仕掛けることは、十分に可能である。
ヒット&アウェイを繰り返すことで、そのうち行動不能となる部隊も現れ始めるだろう。
後はそれを積み重ねれば、いつかは軍本体の作戦継続能力も自動的に失われるはずである。
「策など必要ありません。全ては私達の奮闘次第です」
「戦う回数を稼ぐためにも、最初は出来るだけ長安側で戦いたいな」
「……セキト、お願い」
恋に首筋を撫でられて鼻息を荒くし、これまで以上にスピードアップするセキト。
その態度に、どこか親近感を覚える一刀なのであった。
行軍で2週間かかる道のりを、セキトはわずか3日で走破した。
無論、進軍速度と単騎駆けのそれを、純粋に比較することは出来ない。
だが3人乗りであることを考えれば、セキトの能力が尋常でないことは言わずと知れよう。
ちょっとした丘のような場所で足を止めた一刀達の眼下には、大勢の兵士が雲霞の如く集まって休息を取っている。
加護により視力の強化された一刀ですら、その切れ目が見えない程だ。
それはそうだろう。
体育館が満杯になってしまうフランチェスカの全校集会でも、総数は1000人に満たないのだ。
その数十倍もの大規模な集まり自体を、初めて目の当たりにした一刀。
さすがにノープランでの突撃は、無茶なように思えてきた。
「せめて何か作戦はないのかよ。ほら、後方の輜重部隊に火を放って逃げるとかさ」
「残念ながら、輜重部隊は別行動なんです。でなければ、2週間で洛陽まで到達するのは不可能ですよ」
もし一刀達に襲撃されたら、いくら堅固に輜重部隊を護衛しても突破されるのは明らかである。
であれば、輜重部隊と軍隊を一緒に行動させるのは無駄以外の何物でもない。
補給線を襲われる対策は、至極単純である。
麗羽達にとって叛乱した洛陽以外は全て味方なのだから、1部隊が襲われても困らぬよう圧倒的な物量を各方面から送れば済む話だ。
そして宮廷の権力を掌握しつつある麗羽には、その物量を揃えることが出来る。
当然、足を引っ張る輜重部隊がいなければ、行軍速度はアップする。
そんな余禄まであるのだから、麗羽が採用しないわけがなかった。
参謀達が算出した敵の行軍速度は、こういった事情を読み切ってのことなのだ。
「強いて言えば、出来るだけ相手を殺さないようにして下さい。傷を負った兵士が多くなるほど、相手の士気や行軍速度に影響が出ますから」
「……そろそろ行く」
「わっ、もう?!」
「ご主人様、遅れないで下さい! 固まって行動しましょう」
セキトを丘に残し、恋が敵陣へと駆け降りた。
一刀と朱里も、その後に続く。
慌てふためく敵兵の目前でふわりと体を宙に舞わせ、『方天画戟』の一凪で複数の敵を頭上から戦闘不能に追い込む恋。
朱里の背後に位置取り、左右から襲い掛かろうとする敵に『新・打神鞭』を振るう一刀。
2人に挟まれて、大魔術のための長い瞑想に入る朱里。
最初は敵の大軍に腰の引けていた一刀だったが、戦いが始まってしまえば、なんてことはなかった。
一般兵達の実力では、一刀に対抗することなど出来るわけがなかったからである。
彼等に足りない物、それは情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ―――
「そしてなによりも、速さが足りない!」
嵐のような攻勢に出る恋を迂回し、術者の朱里を目掛けて左右から同時に襲い掛かって来る敵兵。
その一方をロッド状にした鞭で殴り飛ばして残った敵側の方へ回り込み、攻撃を盾で受け止めた勢いでそのまま相手を弾き飛ばす。
傍目からは残像すら映った一刀の動きだったが、戦闘モードに入った彼自身には、まるで敵兵がスローモーションのように見えていた。
つまり一刀にとっては、例え相手が同時攻撃のつもりだろうと、全く関係なかったのである。
高いLVと加護による身体能力、それに『六花布靴・改』の効果で、一瞬の内にトップスピードへ達することの出来る一刀。
その速度を活かして、一刀は次々と朱里の周囲から敵兵を追い払っていった。
仮に非殺傷設定の武器や盾がなければ、ここまで思い切り良くは戦えなかったであろう。
敵に痛みこそ与えているものの、血飛沫ひとつ飛ばない戦場は、人を殺す覚悟のない一刀でも十分に対応出来るものであった。
ところが、ひとつだけ問題が発生していた。
一刀のWGは戦闘開始前から100%溜まっていたのだが、肝心のカーソルが湧かなかったのだ。
基本的に武器スキルは、戦闘状態だと自分が認識している時、武器の選択に沿った必殺技のカーソルが光る。
例えば『眉目飛刀』を持っている状態だと、片手では鞭が操れない(とシステム的に判定されるらしい)ので、ホーミングブラストの黄色のみが輝くことになる。
そして今は鞭を両手で握っているため、スコーピオンニードルの赤とカラミティバインドの青が点滅するはずなのだ。
だが冷静に振り返ってみると、過去にも同じことを考察した記憶があった。
これまでの迷宮探索で、スコーピオンニードルやカラミティバインドを示すカーソルが仲間達を指したことは一度もない。
それがパーティ登録の問題じゃないということは、複数パーティによる攻略を行って来た経験上、確実に断言出来る。
恐らく一部のスキルには、対モンスター戦のみの制限が掛けられているのだろう。
ホーミングブラストの黄色が味方に対して点滅した事実を考えると、スキルの説明文に対象が『敵』と明記されているものは該当すると思われる。
「と、いけねっ!」
うっかり考え込んでしまった一刀の隙を突き、敵兵達が槍を腰だめに構えて一斉に突進してきた。
実に錬度の高い槍衾ではあったが、一刀にはその肝心な槍が玩具にしか見えない。
桃香りんランドの花を手折るような気楽さで、ペチペチと槍の穂先を折っていく一刀。
と言っても敵兵達にとっては「ペペペペペチチチチチッッッッッ」くらいのスピードではあるのだが。
必殺技が使えない程度のこと、一刀にとっては何のハンデにもならなかった。
恋が攻撃一辺倒だったので、防衛寄りの戦い方でバランスを取る一刀。
だがどれだけ強くても、初陣の一刀は戦場の機微に疎い。
相手があまりにスローモーなため、一刀はつい深追いをしてしまった。
敵方へ踏み込んだ一刀が攻撃モーションに入った瞬間、周囲から朱里に向けて多数の矢が放たれた。
無理やり軌道を修正して鞭を伸ばし、朱里へと降り注ぐ矢を防ぐ一刀。
だが体勢が崩れていたため、その全てを処理することは出来なかった。
「朱里!」
危急を告げる一刀の叫び声に、しかし朱里は慌てず騒がず、即座に魔術を放棄した。
そしてなんと、両腕を開いて左右から飛来する矢を掴み取ったのだ。
更に前方からの矢を右足で蹴り落とした朱里は片足立ちのまま、ここでバチッと決め台詞である。
「はわわ~」
「いや、合ってないから……」
荒ぶる朱里のポーズはともかく、如何に後衛とはいえ彼女のLVは25なのだ。
腕力だけで勝負しても、そこらの雑兵を一捻りにすることは容易い。
逆にそのくらいの身体能力がなければ、単身で敵の足止めなどという発想は出て来ないだろう。
中断した魔術を再び詠唱するための瞑想に入る朱里。
今度こそ守り切ると防備を固める一刀。
だが先程の射撃を契機に、敵の攻撃が飛び道具一辺倒になってきた。
接近しても痛い目をみるだけであることを、これまでの戦いで十分過ぎるほど学んだのであろう。
もちろん防御に徹した一刀が、飛来する矢を朱里まで届かせることはない。
鞭で打ち払い、盾で受け止め、危なげなく遠隔攻撃を防ぎ続ける一刀。
しかし、敵は圧倒的な大軍である。
単体を狙い撃つ方法が通用しないのであれば、面を制圧するような撃ち方に変えればいい。
一刀達を完全に包囲し、360度からの一斉射撃で矢の雨を降らせる敵軍。
如何に一刀が素早くとも、雨の日に頭からつま先まで一滴も濡れずに済ますことは出来ない。
一刀に残された選択肢は、朱里を体で庇うことだけであった。
「くっ……あれ?」
歯を食いしばって痛みに備えた一刀。
しかし、その矢が彼の体を貫くことはなかった。
そう、この戦場にいるのは一刀と朱里だけではない。
いつの間にか一刀達の頭上に来ていた恋が、2人を守ってくれたのである。
飛将軍という名の通り、宙に浮かぶことの出来る恋。
だが彼女の加護スキルの本質は、空を飛ぶことではない。
それはあらゆるものに縛られないという、概念的なものなのだ。
極めれば、ありとあらゆるものから宙に浮き、無敵となるのが恋の加護スキルの真骨頂である。
一刀と初めて迷宮探索した時には、体を浮かすことしか出来なかった恋。
しかし漢帝国クランがピンチに陥った当時、恋は更なる強さを手に入れると一刀に約束した。
その誓い通り、恋は立派に成長を遂げていた。
「……恋に飛び道具は効かない」
そう呟く恋に向かって、更なる矢の嵐が襲い掛かる。
しかし恋に当たる直前で矢は急速に向きを変え、明後日の方向に飛び散ってしまった。
その様子を確認することもなく『方天画戟』を振り上げた恋は、素敵な脇を晒しながら頭上で回転させ始めた。
「……夢想封印」
高速で回転する戟から、光のシャワーが敵兵に降り注ぐ。
すると、それを浴びた敵兵のステータスに劇的な変化が現れた。
敵兵のLVが、その数値を急激に減らし始めたのだ。
一時的なレベルドレインを喰らって動きが鈍り、パニックに陥る敵兵達。
混乱した敵陣に、満を持して朱里が大魔術を解き放った。
≪-孔明の罠-≫
敵陣の布かれた地面が一気に陥没し、敵を奈落の底へと飲み込んだ。
といっても底は当然あるのだが、巻き込まれた数千人がこの深い穴から脱出するのには、それなりの日数が掛かるであろう。
この『孔明の罠』は、天才軍師と名高い全知神・諸葛亮の加護だけのことはあり、実にフレキシブルな特性を持っている。
場の状況に最も相応しい魔術効果が、自動的に選択されて発動するのだ。
そして今回のように長い時間を掛けて集中力を高めることで、魔術の効果範囲を広げることも可能である。
ちなみにこれは、朱里だけが特別なわけではない。
雛里の『連環の計』も同様であるし、詠の『離間の計』は効果範囲こそ広がらないものの、敵のレジスト率を下げることが出来る。
地上最高の魔術師・朱里と、史上最強の武人・恋。
彼女達の規格外な加護スキルの前では、一刀の誇る速さなど微力に過ぎる。
大活躍の2人を交互に、素早く見ることしか出来ない一刀なのであった。
その後も数回ほど敵軍と交戦した結果、足止め作戦は見事に成功を収めた。
結局は親衛隊を萎縮させる必要などなかったし、『封神』や『覆水難収』を使う機会もなかったが、目的は達成出来たのだから一刀にとっても十分に満足のいく結果だった。
洛陽に帰還した一刀達。
今後の行動予定が異なる2人と別れた一刀は、ひとまず宿へと向かった。
既に子供達は、七乃の指揮で呉へと旅立った後である。
尤も美羽と七乃は、そのまま呉へ居つくつもりはないらしい。
「雪蓮の風下に立つことだけは、まっぴら御免なのじゃ!」
「子供達の生活が落ち着いたら、2人きりで大陸中を旅しましょうね、美羽様」
一般人に比べれば高LV者と言える美羽達なら、その選択もありだろう。
不思議なカリスマを持つ美羽に、完全で瀟洒な従者の七乃がついていれば、きっと楽しい人生が送れるに違いない。
(喰い意地の張った美羽には、山中の得体が知れないハチミツなんかを食べないよう、しっかり忠告しとかなきゃ)
そんなことを考えながら、空っぽになった宿屋を見つめる一刀。
だがいつまでも感傷に浸っている暇はない。
人の気配がすっかり減ってしまった冒険者ギルド。
そこで一刀を待っていたのは、殿を務める雪蓮クランの面々であった。
難民を引き連れて呉に向かうのだから、雪蓮クランが民を先導して桃香クランが殿を引き受けた方が良いように思える。
しかし実際には、道中では桃香の存在こそが重要なのだ。
なぜなら桃香は洛陽の民にとって、最も身近な英雄であるからだ。
万単位の旅慣れぬ民を導ける者は、この状況だと桃香以外にはありえない。
逆に雪蓮達の場合は向かう先は一族の本拠地なのだから、到着が遅れても連絡さえきちんと取っておけば、多少のことはどうにでもなる。
それらの事情から、このような役割分担となったのである。
「お疲れ様。首尾はどうだったの? って、聞くまでもないわね」
「ああ。バッチリだよ。そっちこそ、避難状況はどんな感じなんだ?」
「予想外に順調よ。馬鹿みたいに家財道具を持って行こうとする者も、やっぱり洛陽を出たくないって駄々を捏ねる者も、こちらが驚くほど少なかったわ」
このことに対する貢献度が高かったのも、やはり桃香クランであった。
もっとはっきり言えば、全ては愛紗と鈴々のお陰である。
『ねぇ、愛紗ちゃん。このタンスは亡くなったおばあちゃんの嫁入り道具だったんだって。なんとか運んであげられないかなぁ?』
『絶対にダメです。そう、タンスは少し重すぎる!』
『もうっ、愛紗ちゃんの分からず屋! 鈴々ちゃんからも何か言ってやってよ。タンスはおじいちゃんの大切な思い出なんだから!』
『突撃! 粉砕! 勝利なのだー!』
基本的に甘い顔をしてしまう桃香には取り合わず、愛紗と鈴々はビシバシと民達の陳情を捌いていった。
情に流されず、公平かつ厳しめの判決を下す愛紗。
人々に未練が残らぬよう、重量物を処分する鈴々。
非道のようではあるが、積み荷の量は旅団の移動速度に直結するため、民達の命を左右するほどの大事である。
誰かが鬼にならざるを得ないのであれば、それは自分達の役目であると愛紗達は考えていた。
そしてこの場合、愛紗達の行動はそれで正解なのだ。
なぜなら2人には、桃香という義姉がいたからである。
『タンスを粉砕しちゃうなんて酷いよ、鈴々ちゃん! おじいちゃん、本当にごめんなさい! ……でもね、おじいちゃん。おばあちゃんとの思い出が壊れたわけじゃない。それはいつまでだって、おじいちゃんの心の中にあり続けるんだから!』
包み込むような慈愛で、全てを有耶無耶にする桃香。
無論、本人に誤魔化すつもりなど欠片もないのだが、桃香の高いCHRに裏付けられた暴力的なまでの魅力に抗える一般人など存在しない。
こうして民達は、不満どころか桃香に対する感謝の気持ちすら芽生えるという凶悪なシステムの元で、スピーディな荷作りを強いられたのである。
「なんか、随分と意地の悪い表現だな」
「あら、事実をそのまま説明しただけよ」
「桃香の真心と思いやりに胸を打たれてとか、もっと他に言いようはあるだろ?」
「……そうね、少し悪ふざけが過ぎたかしら。ともかく旅団は順調に移動を開始しているわ。街に留まる民達のことも、大神官が引き受けてくれたし」
新しい都市長を追い出した件での管理責任だけならまだしも、万単位の流民を出してしまった以上、月達がこの町に留まることは刑死を意味する。
だが大神官ならば、行政責任を問われることもない。
そもそも身分階級が、武官や文官とは別系統なのである。
「罪ある者は全て逃げた」と麗羽に伝え、居残った民にまで責任が及ばぬよう弁明するには、うってつけの立場であった。
「後は私達が出立するだけよ。疲れているかもしれないけど、早いに越したことはないわ」
「……雪蓮、その前にどうしても頼みたいことがあるんだ! 雪蓮やみんなの命、この俺に預けて欲しい!」
その言葉が切っ掛けとなり、これまで一刀と雪蓮の会話に口を挟まなかったクラン員の面々もざわつき始めた。
さもあろう、一刀が自分達の命を賭けてまで何をしようとしているのか、気にならない方がどうかしている。
雪蓮達に対する一刀の要望、それは最後の迷宮探索への同行であった。
いや、ここは素直に迷宮クリアと言い換えるべきであろう。
一刀はワンチャンスでの迷宮制覇に挑戦するつもりだったのである。
既に幾度となく述べてきたことだが、一刀は自分の失態が今回の件の発端だったことを十分過ぎる程に理解していた。
それ故に戦場へも出陣したのだが、それしきのことで自責の念が消えることはなかった。
故郷を捨て、呉へと逃れる人々。
いつか彼等を洛陽へ戻してやることが、自分に課せられた義務だと一刀は考えていたのだ。
洛陽という街は、戦略的な価値が非常に高い。
漢帝国の元首都だということもあるが、やはり迷宮の存在が大きいだろう。
だが、もしその迷宮がなくなれば?
加護やドロップアイテムを得ることが出来なくなり。
冒険者がいなくなるため、装備屋や宿屋などが減り。
奴隷などの需要も減って、行商人が姿を見せなくなり。
洛陽の価値が激減するのは、火を見るより明らかである。
もちろんクリアしたからといって、迷宮が消えるとは限らない。
しかし迷宮はそのままでもモンスターがいなくなったり、加護を受けられなくなる可能性だってある。
仮にどれかひとつでも実現すれば、それだけ洛陽の重要性は下がるだろう。
いや、クリアそのものだって、十分な意味を持っている。
洛陽に固執する麗羽の、その最も大きな理由が失われるからである。
そうやって洛陽の存在価値を削ることが、目標達成への近道であろうと一刀は考えたのだ。
「ひとつだけ確認させて。なぜ私達を選んだの?」
雪蓮の問い掛けは、一刀を深く悩ませた。
単純にこの状況では雪蓮達に依頼するしかなかったのだが、彼女の言葉には含みがあるように思えたのだ。
もしこの場に桃香や華琳がいたとしたら?
……それでも一刀は、雪蓮に頼んだであろう。
ではこの場に雪蓮だけがいなかったら?
……迷宮クリアの賭けになど、決して出なかったはずだ。
自問自答を終えて顔を上げ、真っ直ぐに雪蓮を見つめる一刀。
己の出した結論に苦笑しながら、それでも一刀はきっぱりと答えた。
「俺は今まで何度もそうしてきたように、女の子のためなら命を賭けられる。でも女の子の命なんて重過ぎて、雪蓮達の分しか背負えそうにないんだ」
「……ぷっ、あははっ! うん、決めたわ。私は協力してあげる。みんなも好きにしなさい」
一刀にとって最後の迷宮探索が、今まさに始まろうとしていた。
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NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:28
HP:527/450(+77)
MP:30/0(+30)
WG:100/100
EXP:556/9500
称号:天の御使い
STR:44(+15)
DEX:60(+26)
VIT:27
AGI:47(+15)
INT:28
MND:21
CHR:54(+17)
武器:新・打神鞭、眉目飛刀
防具:蛮盾、勾玉の額当て、昴星道衣、ハイパワーグラブ、極星下衣、六花布靴・改
アクセサリー:仁徳のペンダント、浄化の腰帯、杏黄のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス、崑崙のピアス
近接攻撃力:309(+42)
近接命中率:139(+22)
遠隔攻撃力:171(+15)
遠隔命中率:128(+29)
物理防御力:245
物理回避力:145(+35)
【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。
カラミティバインド:敵全体を、一定時間だけ行動不能にする。
ホーミングスロー:遠隔攻撃が必中となる。
【魔術スキル】
覆水難収:相手の回復を一定時間だけ阻害する。<消費MP10>
【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。
所持金:696貫