DEVIL WANTS POWER OF FATE ~青い悪魔~
第0話
『序』
眼が覚めたら、目の前に、アイツが居た。
目障りな銀の髪を風になびかせ、鬱陶しい紅蓮の外套が、あふれる魔力に踊っている。
―趣味の悪い
胸中で毒づき、しかし意志と相反するが如く、眼前のアイツに剣を振り上げる自分に、内心では吐き気がした。
―全部貴様の所為だ
父の形見の銀剣を振り回す“弟”に、父の姿が重なる。
―お前等はそうやって、いつでも俺の前に立ちはだかる……鬱陶しい
『理解しなさい』
雨の夜、出て行く父を留めようとした、あの夜。
父が洩らした言葉が脳裏に蘇った。
―吐き気がする
眼前では、今や異形と成り果てた自分とは似ても似つかぬ、双子の弟が、銀剣を振り上げている。
「バァァァジィィィル!!」
己が名を呼ばれた刹那。
力を求め、力に溺れ、力に殺された。
青き悪魔が覚醒した。
「……此処は、そうか」
悪魔は、パラパラと木片が散り、埃が舞っている周囲を見回した。
逆撫でた銀砂の如き美髪が揺れる。
己が立つ場所がどこであるか、それを知るのには暫しの間が必要だった。
“きめ細かい”を通り越し滑らかで美し過ぎる肌は最早、青白いと言える。
古い物置のような其処は、見慣れた物や見慣れぬ物が所狭しと並べられ、しかし其処が、魔術の品を置くための物置きなのだと言う事は、『魔術師』と言う人種とは無縁な悪魔に、理解することなど叶わない。
「!」
晴天の空の様に青い瞳をしまう瞼を引き絞ると、人を象る悪魔は歩を進める。
「どうして此処に」
木材やら何やらがぐちゃぐちゃに散らばる床を、跨ぎながら行き着いたそこには、一振りの刀が在った。
己が生前、愛用した魔刀。
生まれた瞬間より魔を帯びし、悪魔の刀。
ダークブルーの柄に、銀の鍔、そして流れる様な波紋。
「……まあ良い、そんな稀な事もあるだろう」
男はやがて、愛着のある光が頭上から射している事に気づき、足元の影をひと睨みして数十秒、やがて天井を仰いだ。
筈だったが、天井が在るべきそこには夜が在り、己を遮るものは無かった。
キィィィィィィィィ………ン
響く己が牙(カタナ)の音に、悪魔は浸るように目を閉じた。
そして、喧しく崩れていく自分の周囲、工房に興味が失せた様に、ある一点を睨む。
この轟音より騒がしく、階段を駆け下りる少女の様な声。
ソレが聞こえる、大扉を
睨んだ。
FIN