なのはは、仲の良いタクシーの運転手と共に、近くの居酒屋に来ていた。
彼女たちは、こうして飲みに来る事が偶にある。
だが運転手は、遅くまであちらこちらを文字通り走り回っているため、中々こういう機会は巡って来ない。
だからこそ、彼女たちはその巡って来た機会を、存分に楽しんでいた。
もっとも、普段から良く会う彼女たちが、酒を身体に入れて改めて話す事など、愚痴くらいしかないのだが。
ちなみに、子供は早寝早起きは一番という事で、フェイトとユーノは既に寝かし付けてある。
運転手は生中をグイッと一気飲みし、プハァっと酒臭い息を吐き出す。
「まったく! 今日の客は最悪やったわ!!」
運転手は空になったジョッキを、叩きつけるようにドンッと置く。
「どんな人だったの?」
横で話を聞いているなのはが、同じように大ジョッキに入った生ビールを飲み干しながら運転手に尋ねる。
その問いを待ってました、とばかりに運転手は話し始めた。
「あのおっさん、車ん中でタバコ吸おうとしやがったんよ。
今は全車禁煙やってのに、それを分かってへんねん!
おまけに、それを注意したら、『うるさい、黙って運転しろ』やって」
「うわ……それは酷いね……」
「ホンマやっ!
こっちは煙たいわ、イライラさせられるわで踏んだり蹴ったりや。
おまけにあのおっさん、灰落として行きやがったんやで!?
なんやねん! あのハゲチャビンがっ!!」
「それは災難だったね……。あ、店員さん。ビール追加で」
なのはが運転手の愚痴を聞きながら、酒のお代りを頼む。
嫌な事は飲んで忘れるのが一番だ、となのはは思っているから。
再びテーブルに置かれたビールを飲み、やきとりを摘まむ。
運転手は、今度は机に突っ伏して泣きだした。
「それだけやないんよ……」
「どうかしたの?」
なのはが運転手の背中を撫でながら尋ねる。
「ヴィータがな……」
「ヴィータ?」
ヴィータというのは、運転手の家にいる小さな子だったはずだ。
赤毛のおさげが似合っている、可愛らしい子だ。
最初に会った時、いきなりハンマーを向けられて、驚かされた記憶がある。
尤も、すぐに運転手に拳骨を食らい、頭を押さえて涙目になっていたが。
今ではよく運転手に連れられて、なのはの店に来てから、ケーキを頬張っている。
もう常連と言って良い程に、なのはは彼女と仲が良かった。
「ヴィータが、どうかしたの?」
「それがな……」
運転手はグズグズと泣きながら言った。
「学校で何言われたんか知らんけど、わたしと一緒に風呂に入りたくないって……」
「……ああ、それはキツイね……」
運転手を見るなのはの目に、憐れみが籠る。
愛娘からそんな事を言われたら自殺モノだろう。
「家は元々、お風呂は別々だからそんな事は無いけどね。
でも、もしそんな事をフェイトに言われたら、私は立ち直れないかもしれない……」
そろそろ温かくなってきたというのに、なのはの背筋が冷える。
運転手は尚も愚痴る。
「確かに、わたしん家の風呂は狭いわ。
わたしとヴィータの二人で入るのが精一杯や。
せやけど、そんな事を理由に拒絶されたら、わたしは何も言えんやないか。
ヴィータのアホゥ……なんで分かってくれないんや……」
「大丈夫だよ、ヴィータが八神さんの事を嫌いになる事なんて無いって」
なのはは背中をさすりながら、運転手が愚痴を吐き出すのをずっと聞いていた。
そのままポツポツと言葉を続けていた運転手だったが、急に愚痴が止まった。
なのはがどうかしたのか、と運転手の顔を覗き込む。
運転手は、なのはの顔を見ながら言った。
「なあ、店長ぉ……」
「何? 八神さん」
突っ伏したままの運転手は、店長に言った。
「子育てって、難しいなぁ……」
「……そうだね。とても難しいよ」
「でもなぁ……」
「うん?」
「とっても、楽しいんや……」
「……そうだね」
なのはは頷いた。
「子供達の成長を見守る事が、こんなに楽しい事だったなんて、全然思わなかったよ」
初めて会った頃と比べ、今のフェイトは明るく笑うようになった。
今までの時間を取り戻すように、フェイトはよく笑う。
箸が転んでもおかしい年頃、と言って良いのかもしれない。
その隣で、あたふたと慌てるユーノを見るのも良い。
そんな彼女達を見る事が、なのはにとって、これ程楽しいとは思わなかった。
「ねえ、八神さん」
「……」
「八神さん……?」
なのはが再度呼び掛けるものの、運転手が応える事は無かった。
「寝ちゃったか……」
相変わらず運転手は、酒は良く飲む割に、酔い潰れるのが早い。
元々飲める酒量が、なのはに比べて少ないのだろう。
おまけに、二日酔いはあまり経験した事が無い、という事がなのはには羨ましい。
なのはは懐から携帯電話を取り出し、運転手の自宅へと掛ける。
待ちかまえていたのか、ワンコールで相手は出た。
「もしもし。高町ですけど、八神さんのお宅ですか?」
電話を掛ける時の定型文をなのはは言い、相手側の反応を待つ。
『ああ、高町さんですか。どうかされたんですか?』
「うん。八神さんが酔いつぶれちゃったから、良ければ迎えに来てもらえるかな?
私だと、人一人を運ぶのは難しくて……」
『わかりました。シグナムをそちらに送りますね』
「うん。場所は――」
なのはは居酒屋の場所を教える。
そしてなのはは電話を切った。
その時、嘆息したなのはに、横から声を掛ける者がいた。
「すいません、隣よろしいですか?」
なのはが顔を上げて、声の主を見る。
そこに立っていたのは、黒い服に身を包んだやせぎすの男だった。
黒い服の内側に、花柄のシャツを着ており、服と同じ黒い帽子を被っていた。
「構いませんよ」
なのはは隣の椅子に置いておいたジャケットを取って、自分の膝の上に載せる。
「ありがとうございます」
男はなのはに礼を言って、隣に座る。
ここは小さな居酒屋ではあるが、中々人気があり、結構満員気味なのだ。
「店員さん」
男は店員を呼ぶと、メニューを見せた。
そして、そこに書いてある酒の名前を、上から一撫でした。
「ここからここまで、全部持ってきて下さい」
「え?」
なのはは驚く。
一度にそんな頼み方をする人には出会った事が無かったからだ。
男の注文に、店員も目を丸くしていた。
「あの、本当に良いんですか?」
おずおずと店員が聞き返す。
メニューに書かれている物を一種類ずつだとしても、かなりの量となるからだ。
だが男は、店員の予想とは異なり、ニヤリと笑った。。
「ンフフ……大丈夫ですよ。だから、持ってきて下さい」
「は、はあ……」
店員も呆れているのか、はっきりとしない返事を返しながら、酒を取りに戻って行った。
それを見送る男に、なのはは声を掛ける。
「お酒、好きなんですね」
なのはが話しかけて来るとは思っていなかったのか、男が僅かに目を見開く。
だが男は、直ぐに相好を崩すと、なのはの問いに首を縦に振る事で返事をした。
「ええ。三度の食事よりお酒が好きです」
男はまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のように、キラキラと目を輝かせていた。
その様子になのはは感心する。
「それはまた、凄いですね」
だが、指をピッと男の前に立てて、一言注意する。
「でも、食事はきちんと取った方が良いですよ。
健康な身体を保っていないと、長くお酒は楽しめませんから」
窘められた男は面食らったのか、僅かに後ろに身を反らす。
だがそんな男には構わず、なのはは尚も持論を展開する。
「お酒はとても美味しいですけどね。
でもお酒以外にも、美味しいものはたくさんあるんですから。
それらを楽しまない事には、お酒を真に楽しむのは無理なんじゃないかと思ってます」
観ようによっては、なのはが男にくだを巻いているようにも見える光景だった。
だが男は迷惑な顔一つせず、なのはの言葉を聞いていた。
「なるほど。それは道理ですね」
説得が届いたのか頷いた男に、なのはは上機嫌になる。
「でしょう? ですから、色々と美味しい物を食べる事も、お酒を飲むには大切なんですよ」
「それじゃ、僕も何か頼もうかな……」
男はメニューを手に取る。
そこに、なのはが横から口を出した。
「やきとりが美味しいですよ。特に、ネギまとレバーがお薦めですね」
レバーの串を手に持ちながら、なのはが言った。
それを頬張るなのはの姿に影響されたのか、酒を持ってきた店員に、男も同じ物を頼んだ。
そして、テーブルの上にずらりと並べられた酒を手に取り、なのはに差し出す。
「一緒に呑みませんか?」
「え? でも……」
なのはが遠慮しようとする。
この酒を頼んだのは男なのだから、自分が飲む訳にはいかない、と。
だが男は、にこやかな笑みを浮かべて酒を差し出す。
「お酒は共に呑む人がいると、もっと美味しくなるんですよ」
「……そうですね。私なんかでよければ……」
男の言葉に、なのはは酒を受け取った。
そのまま二人で、競うように酒を飲み干し続けていると、運転手の家族が運転手を迎えにきた。
赤みの強い桃色の長髪を、後ろで一纏めのポニーテールにした、凛々しい女性である。
キョロキョロと辺りを窺っている彼女に、なのはは手を振って居場所を教える。
「シグナム、こっちこっち」
手を振るなのはに気付き、、シグナムと呼ばれた女性が近づいて来る。
「久しぶりだね、シグナム」
「お久しぶりです。店長」
運転手は、いつもなのはの事を店長と呼ぶからか、シグナムもなのはの事を店長と呼ぶ。
何度か名乗ったのだが、もう定着してしまったらしく、なのはももう良いかと思っている。
そのシグナムはなのはに尋ねる。
「それで、母はどちらに?」
「こっちだよ。連れて行ってあげて」
なのはの陰に隠れて、テーブルに突っ伏して眠っていた運転手が、ごそごそと動く。
どうやらテーブルの枕は、寝心地があまり良くないようだ。
「お代は幾らですか?」
シグナムが懐から財布を取り出す。
子猫の絵が付いており、以外と可愛らしい財布だった。
それをなのはは手を振って断る。
「良いよ。八神さん、あまり飲まないうちにダウンしちゃったし。今日は私が、代わりに出しとくから」
「しかし……」
シグナムが食い下がる。
こちらが呑んだのに、代金を支払わないのは収まりが悪い、と思っているのだろう。
古風な感じのする女性だからこそ、その考えがなのはには見て取れた。
「それじゃあ、お代は今度、八神さんに払ってもらうから。
私に奢られるのが気に入らないなら、八神さんが自分で払いに来るだろうから大丈夫だよ」
「……分かりました」
シグナムは渋々と財布を懐に戻す。
そして眠っている運転手を背負う。
「それじゃ私はこれで――」
シグナムが最後まで言う前に、その背に乗った運転手が言葉を発する。
「ヴィータ……どうしてや……」
シグナムがその事を聞いて眉をひそめる。
なのはがその事に付け足す。
「八神さん、ヴィータにお風呂一緒に入ってもらえなくて、拗ねてたんだよ」
「ああ、なるほど……」
合点がいったとシグナムは頷いた。
「ヴィータも素直じゃないですから」
「何か知ってるの?」
「ええ……」
シグナムは頷く。
「ヴィータは、いつも遅くまで仕事をしている母が、とても心配なんです。
だからせめて、風呂くらいはゆっくりと入らせてあげたかったみたいです。
自分が一緒だとはしゃいでしまって、母の疲れが取れないから、と言っていました。
それを素直に言えば良いのに、遠回しにさり気なく伝えようとして失敗した、といった所です」
「そうだったんだ」
なのはは運転手の眠っている横顔を見つめる。
「愛されているね、八神さんは」
「ええ。自慢の母ですから」
その時、運転手がもぞもぞと動き、言葉を発した。
「絶対……いつか絶対……でっかい風呂の付いた豪邸を……建てたるからな……待っとれよ、ヴィータ……」
その様子に、なのはは噴き出した。
シグナムも、寝言で宣言した運転手を、微笑んで見ている。
「こんな人だから、皆八神さんの事が好きなんだろうね」
「はい。私達は皆、母の事が大好きです」
シグナムは照れも無く言いきった。
「でも、どうするの? 八神さん、寝言とはいえ、絶対その願いを叶えようとするよ?」
「問題ありません」
シグナムはこともなげに言った。
「私達がそれを、全力で支えれば良いだけの事ですから」
シグナムはなのはを見つめた。
「私達は家族です。家族とは、支えあうモノなのでしょう?」
シグナムの言葉に、なのはは真面目な顔をして頷く。
「そうだよ。どっちが強くてもいけない。
幾ら強くても、一人じゃ人生つまらないしね。
それに、そんな人は、脆くて崩れやすいんだよ。
人一人に出来るような事なんて、たかが知れてる。
そうやって支えあって、人は生きていけるんだから」
なのはの言葉に、シグナムは頬笑みを浮かべて店を出て行った。
その時、なのはの隣にいた男が呟いた。
「良いお話ですね」
「そうですね」
なのはも頷いた。
男は立ち上がると、なのはに声を掛けて来た。
「どうです? どこか近くで呑み直しませんか?」
「いいですね。そうしましょうか」
なのはも立ち上がった。
もうこの店の酒は、二人で粗方呑み尽くしたからだ。
それに、この男に付いて行く事も、吝かではない。
酒を飲みながら話したなのはは、男が悪い人間では無いと気付いていた。
もし男が悪い人間であったとしても、特に問題は無い。
なのはにはレイジングハートが常に傍にいる。
叩きのめしてから、それを肴に酒の続きを飲めば良いだけの事。
恐れる必要など全くないのだ。
会計を済ませ、二人は外へ出た。
「ンフフフ……どこへ行きましょうか?」
「お酒が楽しく呑める場所なら、どこでも良いんじゃないですか?」
変わった含み笑いをする男と、隣を何も考えずに気楽に歩くなのは。
その足取りは、酔っているとは言い難い、しっかりとしたものだった。
二人は足の向くままに目的地も決めずに歩いていく。
そして二人は、さびれた公園に辿り着いた。
「あれは……」
そしてその公園の端に、一本の桜の樹が立っていた。
なぜ桜と分かったのかというと、それが咲いているからだ。
「綺麗ですね」
「ええ」
一本だけが咲いているという神秘性に、なのはは見蕩れた。
「この一本だけが咲いているのは、少し不思議ですけど」
なのは達が近づいて見てみると、桜はまだ七分咲きといったところか、未だ咲いていないつぼみが所々に見える。
この桜の樹だけ、他の桜よりも早起きだったのかもしれない。
他の桜は、未だつぼみも見えず、ただ立ち尽くすのみだから。
「ここで呑みませんか?」
「ここでですか?」
男の提案に、なのはは首を傾げる。
「丁度ベンチもありますし。それに……」
「それに?」
男は桜を見上げる。
「僕達だけが、今この桜を独占しているんです。
ならば、僕達だけで一足早い花見をするのは、中々に乙なものだとは思いませんか?」
「……そうですね」
なのはは頷いた。
だがそこで気が付いた。
花見をするのは良いが、ここには酒が無い事に。
「お酒が無いですね。どこかで買ってきましょうか」
「ああ、それは問題ありませんよ」
男は懐を探ると、蓋の付いた瓢箪を取り出した。
「お酒なら、ここにありますから」
「……どこから取り出したんです?」
なのはが目を丸くする。
その瓢箪は大きく、男の細い身体に隠されていたとは、とてもではないが思えなかった。
男は再び、特徴的な含み笑いを漏らした。
「ンフフフ……手品ですよ。タネはありませんけどね」
「へぇ……手品ですか。それは凄いですね」
なのはは素直に感心した。
男は自慢げに鼻を鳴らす。
だがそこで、男は別の事に気付いた。
「ああ。でも杯がありませんね」
「それなら私が……」
なのはは手荷物を漁り、新聞紙に包まれた平たい物を取りだした。
新聞紙を取り除くと、中から杯が一つ出て来た。
「これで飲みませんか?」
男は杯を受け取り、手に取って見る。
「可杯ですか」
「はい。私、陶芸に嵌まっているんですよ。
あまり大きいと重いので、小ぶりにしたんですけどね」
「長く楽しめそうですね」
「ええ」
こうして、酒と杯、両方が揃った。
花見を邪魔する者は誰もいない。
男は瓢箪を開けると、中からえも言われぬ芳醇な香りが辺りに広がった。
男は、その香りを放つ酒を、トクトクと惜しみなく杯に注ぐ。
そして、それをなのはに差し出した。
「まずは一献」
「承りました」
なのははそれを両手で受け取る。
顔の前まで持ってくると、その香りはますます強さを増した。
なみなみと揺れる琥珀色の表面を見ていると、芸術のような美しさを感じる。
飲んでしまうのが惜しい。
なのはは本当に、心の底からそう思った。
だがいつまでもそうしている訳にも行かず、覚悟を決めてなのはは酒をグイッと飲み干した。
口の中に広がる酒の味に、なのははクラクラとした感覚を覚える。
「美味しい……」
飲み終わったなのはは、それだけしか言えなかった。
今まで飲んだ事のないような極上の酒であった。
過去、なのはが我が子のように可愛がっていた彼らでさえ、これ程では無かっただろう。
なのはは杯を男に渡し、瓢箪を手に取った。
「今度は、此方から……」
なのはは杯を手にしている男へと、酌をする。
男は礼を言い、それを一気に呑み干した。
そのまま二人は、互いに酒を酌み交わし続けた。
しばらく静かに酒を酌み交わしていたが、なのはがある事に気付く。
瓢箪を持ったまま、なのはは男に言った。
「そういえば、私達ってまだ、互いの名前も知りませんでしたね」
「そうでしたね」
男も、そこで初めて気付いたのか、目を丸くした。
何をやっているのかと、なのははおかしくなった。
酒で陽気になったなのはは、自分から名乗る事にした。
「私は高町なのはって言うんですよ」
「そうですか。僕は――」
男も、それに自分の名を名乗る事で返した。
あまり聞いた事の無い、その名前になのはは尋ねる。
「珍しいお名前ですね。外国の人ですか?」
「いや、生粋の日本人ですよ。これは仕事の時の名前だと思って下さい」
「仕事? 何をされてるんですか?」
「ゲームクリエイターです」
「へぇ……それは凄いですね」
なのはは感心した。
ゲームというものは、作るのにとても時間の掛かる物だ。
ストーリーを決めて、キャラクターを作り、システムを考え、音楽を入れる。
とても難しいものだ。
称賛に値する職業だと思う。
なのははがそう思っていると、男は話を続けて来た。
「しかし、高町さんは良い人ですね。
最近は忙しいですから、ここまで酒が楽しく呑めたのは久しぶりです」
「えっと、どういたしまして?」
なのはは少し疑問形で聞き返す。
さらっと良い人と言われても、なのはにはピンと来なかったからだ。
なのははただ、酒が楽しく飲みたかっただけなのだから。
だがなのはの様子は気にも留めず、男は喋り続ける。
「貴女なら、娘たちとも仲良くなれるでしょうね」
「娘? 娘さんがいらっしゃるんですか?」
なのはの問いに、男は頷いた。
「ええ。可愛い子供達がいます。
でも、気難しい子ばかりでしてね。
時々扱いに困ってるんですよ」
「そうなんですか……」
苦労しているんだな、となのはは思った。
「会ってみたいですねぇ」
なのははそう呟いた。
男はなのはを見ると、尋ねて来た。
「会ってみますか?」
「え? ええ、そうですね」
なのはは頷いた。
「では……」
男は立ち上がる。
これでお開きか、となのはも立ち上がろうとした。
だがそれは叶わなかった。
なのはは立ち上がろうとした。
だが、手をついた所が無かったのだ。
正確には、手をついたその瞬間に、その場所が無くなったのだ。
「え?」
なのはは下を見下ろし、呆然と呟く。
そこには、暗い穴のようなものが、空間の裂け目のようなものがあった。
「そういえば、私の名前ですけど……」
男は何事も無いように、なのはに言った。
「呼びにくいなら、『神主』と呼んで頂いても結構ですよ?」
なのはは呆然としたまま男を見ながら、急速に広がった穴の中へと落ちて行った。
その手に、酒の入った瓢箪を握り締めて。
そして……。
「え? ここどこ?」
高町なのはin幻想郷
あとがき
番外編という事ですが、嘘予告だと思って下さい。
続きません。
最初の方で、八神家となのはがどう関わったのか、少しはわかりましたでしょうか?
ほのぼので戦いなんか全く起こらなかった事は確かです。
今回クロスという事だったんですが、東方とのクロス、というよりZUN氏とのクロスでした。
あの人も酒とは切っても切れない縁があるので、想像出来た人はいたかな?
ちなみに、このなのはさんと相性が良いのは、萃香と雛だと思っています。
さて、なのはさんは幻想郷で、いったい何を見るのか。
誰を娘にするのか。
娘ハーレムは完成するのか。
続きはwebで!
……というか、誰か書いて下さい。
東方はやった事無いんで、私は東方キャラを出せないんです。
すいませんが、設定集はまだ書けて無いので、もう少し待って下さい。