『狂気の科学者とその仲間たち奮闘気』 仕事屋稼業…。外伝の2 パソコンかわったよ。その1『さぁ坊ちゃん、今日もがんばっていきましょう!』「うんがんばろう」アンリとそのデバイスであるイージスは、今日も地下の訓練施設で特訓に励んでいた。アンリはプレシアに言われたとおりに、多くの魔法を覚えるのではなく、覚えた魔法を確実に使いこなす特訓をしていた。例えば、シールドの基本魔法であったとしても、その魔力構成が綿密にできていれば、魔力以上の効果を発揮できるが、いくら大きな魔力を使おうとも、魔力構成が甘ければ簡単に破られてしまうのだ。アンリにはそれなりの魔力はあるが、攻撃魔法は使うこともできない。なのでプレシアは、相手を倒すのではく抑える方法を教えたのだった。バインド。それが、プレシアが教えた相手を倒さずに制圧するすべだった。バインドという魔法は、魔力で作った鎖などで相手の動きを拘束して、捕縛するというものだ。『いいですか坊ちゃん? イメージです! イメージが大事なんですよ!』「うん! イージス、あいてをだして!」アンリの言葉に従い、イージスが捕縛対象を出してきた。相手はガジェットドローンというスカリエッティ謹製のロボットで、通常はある特殊装置とミサイルとか銃で武装しているのだが、今日は模擬弾を使っている。『来ますよ坊ちゃん!』「うん!」アンリは相手の攻撃をかわしながら、いくつものことを同時に考えていた。相手の攻撃をかわすこと、魔法の構成など、いくつものことを同時に考えながらも、その行動には一切の澱みはない。「いくよイージス!」『いつでもいけますよ坊ちゃん!』「ネビュラチェーン!」『スタコラサッサー!』イージスの間の抜けた声が響くと同時に、ガジェットの周囲に大量の鎖が現れ、一瞬のうちにその体を拘束した。ガジェットは、必死にバインドから抜け出そうとしていたが、結局そのまま動きを止めてしまった。『これぐらいのAMFでしたら問題ないですね』「うん。でも、もっとがんばらなくっちゃ」『それでこそ私の坊ちゃんです!』「誰がお前のだ」イージスがテンションも高くそういった直後、横から来たチンクがアンリからイージスを奪い、そのまま全力で遥かかなたに投げてしまった。『ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?』ちなみにアンリのバリアジャケットの上半身は黒のボディースーツで、下半身は太ももからフクロハギの部分は膨らんでいて、足首の部分で細くなっており、靴は足首まである安全靴となっている。そしてイージスの形なのだが、その名の示すとおりたての形をしている。真っ白でまん丸の形をしている。『奥様、急に何をされるのですか!?』チンクに全力で投げ飛ばされたイージスは、転がりながらアンリの元に戻ってきた。その光景にチンクは呆れながら、イージスを拾い上げた。「イージス、ひとつ言っておく。あんまりふざけると…、溶かすぞ?」『イエスマム! 自重しますです!』今日もスカリエッティ家は平和そうだ。「アンリ、母にバインドをかけてみないか?」「いいの?」「ああ、アンリがどれくらい使えるかしりたいのだ。思いっきりやってみろ」「うん!」アンリは母にいいところを見せようと、いつもより集中して魔法の構成を組み上げる。プレシアに教えられたことを、自分の中で繰り返し反芻し、忠実に実行する。イメージするのは最強の鎖、絶対に破られない檻、相手を拘束するイメージ、そして細部まで組上げられた魔法構成、そのすべてを持って相手を押さえつける。「ネビュラチェーン!」『お仕置きだベー』またもやイージスの間抜けな声とともに魔法が発動し、様々な太さの鎖がチンクに絡みついた。チンクは自身に絡みついた鎖をちぎろうと軽く力を入れてみるが、鎖はかなりの強度を誇り、簡単に千切れそうにない。ならばと、少し強めに力を入れてみるが、鎖は一向に千切れそうになく、チンクは口元に軽く笑みを浮かべながらさらに力を込める。しかし、それでも鎖は千切れず、チンクは頷きながら一気に全力を出すと、鎖は細いものから順に千切れていき、あっさりと一番太いものまで千切れてしまった。「ふむ、なかなかのものだな。これはかなり難しい魔法なのか?」『一番簡単なバインドですよ奥様』「は?」チンクはイージスの言った言葉にいつにない間抜けな声を出してしまった。今確かにイージスは一番簡単なバインドといったのだろうか? それを簡単に破ることが出来なかったというのだろうか?「叫んでいた名前は?」『私の趣味です』「星になれー!」『おおぉぉぉぉぉぉぉ!?』イージスは今日二回目の強制空中遊泳を楽しむことになった。その2「なのはちゃん、砲撃で大事なのは何?」「相手に当てることです!」「正解ですわ! なのはちゃん賢いですわー!」スカリエッティ家の地下にある訓練室でなのはとクアットロが話をしており、自分の質問に正解したなのはにクアットロは、火が出そうな程の勢いで頬ずりをするクアトロだった。なのははそれを少し困ったような表情で受け入れている。「いい、なのはちゃん? どんなに力いっぱい攻撃しても当たらなかったら意味がないから、今は力いっぱい撃つことより、確実に魔力弾を動かすほうに専念しましょうね?」「はい!」手を上げながら元気に返事をするなのはをみてクアットロはまたしても…。「ああん、かわいすぎますわー!」そういってまたなのはに抱きつき頬ずりを開始してしまった。なのはは困った顔をしながらもそれを受け入れている。クアットロ、なのはが大好きなのだが、なのはもクアットロが大好きだった。クアットロほど表に出さないだけで。その3地下にある訓練室の上空を所狭しと飛び交う影が二つあった。「どうしたフェイト、それが精一杯か?」「まだだよ!」フェイトはトーレについていこうとスピードを最高まで上げる。と、その瞬間何もないはずの空中でフェイトは躓いてしまった。「えぇーーーーーーーーーー!?」そのまま地面に落ちるかと思われたが、その途中にフェイトの服の襟首をかんで、空中で受け止めた人物がいた。「フェイト、大丈夫かい?」「ふぇうー…」フェイトは目を回していた。降りてきたトーレもフェイトが無事なことに安堵したのが。それよりも…。「なんで、なにもない空中でつまずくことが出来るのだ?」「ははは、それがフェイトだからさ」アルフはいかにもそれが当たり前のように言い、トーレもそれで納得してしまいそうな自分が少しだけ悲しかった。フェイト、『どじっこな魔女っ子』の名をほしいままにする、純粋な女の子である。その4スカリエッティの研究室に二つの影があった。一人はこの研究室の主であるスカリエッティ、もう一人はスカリエッティの秘書のようなことをしているウーノだった。二人の目の前には7つのポッドが置かれ、そのポッドには6から12までの数字が書かれていた。「ドクター、この子達は…」「ウーノ、君のいいたことはわかるが、私はこの子達に外の世界を見せてあげたいのだよ」ポッドの中に入っているのは、ナンバーズの後期メンバーであった。本来ならすでにロールアウトしているはずだったのだが、アンリとの出会い、管理外世界への移住、プレシアのコールドスリープ、それらのことが重なり、いまだにポッドの中で調整を受けているのだ。一時期、後期ナンバーは廃棄しようと考えたのだが、スカリエッティには彼女たちを殺すことが出来なかったのだ。「ドクター…」「私はねウーノ、君たちもこの子達も自分の欲望を満たすための駒に使用と考えて作り出したのだ。だが、アンリに出会って…、アンリに出会った君達を見て、自分はなんてつまらないことをしようとしたのかに気がついたんだ。アンリに出会って、君たちは確実に変わってきている。それは、私が君達を作った目的とはまったく違う方向だったがね。でも君たちは私に示してくれたのだよ、君たちの自身の可能性をね」そこまで言ってスカリエッティはいとおしげにポッドをなでる。その姿からは、『狂気の科学者』を想像することは出来ない。「この子達もただ戦うために造られたのではかわいそうだからね。生まれてきたときに不自由がないくらいには、常識を教えておいて上げたいのだよ」「ああ…、ドクター凛々しいですわ・・・」「それにそっちの方が面白そうだからね」幸か不幸かスカリエッティの最後のつぶやきは、ウーノに聞こえることがなかった。その5「「「…」」」「それー!」広大な平原にアンリの嬉しそうな声が響き渡たり、すごいスピードで大地を疾走する。だが、アンリは自分の足で走っているのではなく、大型の獣にまたがっていた。『坊ちゃんもう少しスピードを落としましょーーーーーーーーーーーーー』イージスが何か叫んでいるが、あまりの速さにうまく聞き取れない。だが、アンリはそんなスピードで疾走する生き物の上で、とても楽しそうに笑っている。その光景を見ながらチンクは何故こんなことになったのかを考える。事の発端は、やはりというか当然というか、スカリエッティだった。突然何を思ったか、ピクニックに行くと言い出し、それだけなら問題ない、その場所が他の管理外世界だということをのぞけばだが…。「アンリは行ってみたいかい?」「はい!」「フェイト嬢は?」「行きたい!」スカリエッティは。まず最初に子供たちに意見を聞いた。なぜなら、スカリエッティ家ではアンリとフェイトの意見はまず取り入れるからである。この二人に期待に満ちた目で見られると、誰も嫌とはいえなかった。そういうわけで、管理外世界でのピクニックとなったのだが、来て早々現地の生物と出くわしてしまった。しかも、その生物は何かと争った後なのか、かなりの手傷を追っており、こちらの姿を見るなり飛び掛ってきたのだ。「ドクターとアンリにフェイトは後ろに下がっていろ!」トーレがアンリたちを庇うように前にで、その後ろをクアットロとチンク、ドゥーエが守り、ウーノとアルフはアンリたちを守っている。その生物は黒豹に似た姿をしているが、尻尾が二つに分かれており、その身体能力も地球の黒豹などとは比べ物にならないほどだ。「…」アンリは、トーレに襲い掛かる黒豹を黙ってみていたが、何を思ったいきなり走り出し、トーレと黒豹の間に割って入った。「なっ!?」突然のことにトーレは、相手に殴りかかっている手を引くのが精一杯であり、アンリを庇うことが出来ず、黒豹の爪がアンリめがけてふるわれてしまった。「アンリ!?」チンクが最悪の事態を想像して、悲鳴のような声を上げるが、黒豹の爪はアンリの体を引き裂くことはなく、頬に浅い傷をつけるだけに終わっていた。アンリは小さい体で精一杯手を広げ、通せんぼするように黒豹の前に立ちはだかる。「ごめんね…」アンリは頬から流れる血を気にもせず、涙をこぼしながら黒豹に謝り、ゆっくりと近づいて黒表の首に抱きついた。黒豹は小さくうなっていたが、近寄るアンリに何もせずに、されるがままになっている。「そこにつれてってくれる?」アンリがそう聞くと、黒豹はアンリの襟首を加え、自分の背中にのせそのまま走り出してしまった。それまで、呆然としていたほかの面々も、アンリが連れていかれてことでわれに返り、すぐさま後を追った。チンクたちがアンリに追いつくと、アンリはまた黒豹にだきつき、今度は大声を上げてないており、そのアンリの前には、まったく動かない小さな二匹の黒豹がいた。「あれは、あの黒豹の子か?」黒豹は、アンリが首に抱きついたままの状態で、すでに動かなくなった我が子の体をなめていた。「けんじゅうもった、おとながたくさんやってきて、いきなり撃ってきたんでだって…」「なるほど、密猟者か…、このままではさすがにかわいそうだね、その子たちを埋葬してあげようじゃないか」スカリエッティの言葉に従い、トーレたちが穴を掘り子供たちを埋葬しようとしたのだが、黒豹はこれ以上我が子に手を触れさせないとばかりに、その前に立ちはだかる。「だいじょうぶだよ。みんなやさしいよ」アンリがそういうと、少しの間チンクたちを睨み付けていたが、ゆっくりと道を明け、アンリは子供たちの遺体が埋葬されるまでずっと黒豹に抱きつき泣いていた。「さぁ、アンリ私たちも行くぞ」「でも…」遺体の埋葬が終わり、アンリたちは当初の目標であるピクニックをしようとしたが、アンリは黒豹が気になるのか、なかなかその場から動こうとしなかった。そんなアンリに、黒豹が近づいてきて、自分が傷をつけた頬を優しく舐め始めた。「くすぐったいよ」ある程度なめると、今度は背中にアンリを乗せ小さくうなり始めた。「乗せていってくれるの?」「グルゥ…」「はは、さきにいって、ぼくたちあとからついていきます」アンリの提案にチンクは渋い顔をしたが、うれしそうに黒豹の背に頬ずりをしているアンリを見ると、だめだとは言い出せなかった。チンクたちは持ってきていた車で走り出し、アンリは黒豹にのって、フェイトは大型犬状態になったアルフに乗って、後を追いかけていく。そんな事もあったが、一向はピクニックを開始し、それぞれが思い思いのことをして楽しんでいた。「アルフだいじょうぶ?」「もう駄目…」アルフもフェイトを乗せて一緒に走り回っていたが、とうとう体力が尽きその場に寝転がってしまった。「それー!」一方アンリと黒豹は、いまだに元気に走り、アンリが空中に作った足場を、黒豹が駆け上がって縦横無尽にそこら中を駆け巡っていた。背中に乗っているアンリは大喜びで、いつも以上の笑顔を振りまいていた。「ああ、アンリちゃんその笑顔は犯罪ですわ~」それをいつものように、クアットロがカメラに撮りながら鼻血をはがしているのは、もはやお約束である。そんな楽しい時間も終わりを告げ、アンリと黒豹の別れのときがやってきた。黒豹は何も言わずにアンリを見つめ、アンリは泣くのを必死に我慢している。チンクはその光景を見て、大きなため息をつき、スカリエッティに視線を向ける。スカリエッティは何も言わずM笑顔を浮かべてただ顔を縦に振っており、それは他のメンバーも一緒だった。「アンリ、アンリはもうおにいちゃんか?」「え!?」「アンリは、あの黒豹の世話が出来るか? もし出来るのならうちで一緒に暮らしてもいいぞ?」「はは、ほんと!?」「ああ、アンリがしっかりと世話をするのと、あの黒豹が来たいといったのなら、いいぞ」アンリは、チンクに一度抱きついてから黒豹のところまで行って、身振り手振りも交えてはなしを始めた。「あのね? くろひょうさんがよかったら、おうちに来ない?」「グルゥ…」「ほんと?」「黒豹は答える代わりにアンリの頬を優しくなめる。アンリは黒豹の首に抱きつきながらチンクたちに振り返る。チンクはそんなアンリに多々微笑みながら頷いていた。こうして、スカリエッティ家にまた新しい家族が増えたのであった。※後書きパソコンが変わりました。作者です。これで執筆ペースが上がるような、下がるような…。慣れてないので使いにくいです。そんなこともありながらの、パソコンかわったよ外伝でした。ではまた。おまけ。「トメさんってよんでいい?」「グル」「うん! ありがとうトメさん!」『坊ちゃん、ナイスネーミングセンスです!』こうして黒豹の名前はトメさんに決まった。アンリもうすぐ二年生、壊滅的にネーミングセンスがない子供だった。おわり。