「ん・・・。」
俺は窓から差し込む陽の光に起こされた。
少しだけ体がだるい
昨日はとても、小さいとはいえない大きな事件に巻き込まれた。
人質にとられ、危なく殺されかけたりもしたが、それほど大事には至らなかった。
大変だったのはその後だ。
俺、白銀武を救出するため、ある人物は俺のクラスメイトやその他諸々を救出作戦に参加させ、見事活躍したものに姫初めの権利を俺に無許可で渡すというものだった。
「・・・はぁ・・・」
そして今日はその姫初めを企てた本人に呼び出されていた。
「さすがに姫初め継続中ってことはないだろうけど・・・。」
姫初めの一件は全員お引取り願うことで解決することはできた。
「・・・一人で来いってのは怪しいよな・・・」
・・・まぁ、その人物が教師だから行かないことはできないわけで―――
―コンコン―
「武、入るぞ。」
「あぁ。」
「もう起きていたのか。あれほどのことがあれば体も疲れておろう。」
「そんなこと言ったら俺よりも冥夜や他のみんなも疲れているだろ?」
―冥夜―
御剣冥夜は白稜大付属柊学園の三年生で俺のクラスメイトだ。
ある日突然海外留学から帰ってきたとか何とかで転校してきた帰国子女なのだが、わけもわからないうちに一緒に住むことになってしまっている。
冥夜には双子の姉に悠陽というやつもいるが、冥夜同じように一緒にすんでいる。
「確かにそうかもしれんな」
「あれ?悠陽はどうしたんだ?」
「そうであった。朝食ができたので呼びに来たのだ。姉上は一足先に居間で待っている。」
「そうか。じゃあ俺も着替えたらすぐ行く冥夜は先に行っててくれ。」
「わかった。」
そう言って冥夜は部屋を出て行った。
――俺、白銀武は白稜大付属柊学園三年の普通の高校生だ・・・と思うのだが・・・とある科学者(?)によれば俺は『恋愛原子核』なのだそうだ。
まぁ、実感がないから気にしてはいないのだが・・・
「おはようございます。武様」
居間の戸を開けると冥夜と悠陽の御剣姉妹とその従者である月詠真那が待っていた。
「あれ?純夏は?」
―純夏―
鑑純夏はお隣さんで小さいころからの幼馴染だ。
冥夜たちがきてからは一緒に食卓を囲んでいるのだが今日は見当たらない。
「純夏ならば御剣で発見しこちらに移動中だそうだ。もう少しでつくであろう。」
昨夜の事件のとき俺を助けるために放った一撃で吹き飛びそのまま行方不明になってしまっていた。
一応見つかったみたいなので無事だろう。
「じゃあ先に食べてるか。」
報告を受けてから10分後、玄関の戸が開く音がした。
「ただいま~・・・」と気の抜けた声がすると居間の戸が開けられ、赤い髪と黄色いリボンが目に付く少女が入ってきた。こいつが鑑純夏だ。
疲労のせいか、この世のものとは思えないだった。
「す、純夏?大丈夫か?」
「うぅ~、ふぁんとむなんてもうつかわない~・・・」
純夏はテーブルに倒れこむようにイスに座った。
・・・相当疲れているのでこれ以上は聞かないことにしよう。
「じゃあ、純夏。一応朝飯だけは食っておけ。お前の分も準備してあるから。少しは元気になるぞ。」
「う~ん・・・ってあれ?今何時?」
「8時すぎ。どうせ休みだ。ゆっくり食べても大丈夫だぞ。」
見たところ純夏は相当疲れているようだが・・・まぁ、飯でも食えば元気は出るだろう。
「武様、今日は何か用事がありますか?」
と、悠陽が口を開いた。
「用事・・・という用事ではないと思うけど9時までに物理準備室にこいって夕呼先生に言われてるな。」
夕呼先生こと香月夕呼は柊学園3年A組の担任兼、物理教師である。
前日の武救出作戦と姫初めの計画を考えたのも夕呼先生だ。
はちゃめちゃでマイペースな人だが『因果律量子論』という理論を研究している科学者でもある。
内容はわからないがノーベル賞を取れるほどのすごいものらしい。
「・・・。」
なぜかはわからないが純夏は何かを言いたそうなしぐさをしている。
「どうした?純夏」
「・・・今日、香月先生のところに行かなきゃ駄目?なんかね嫌な感じがする・・・」
確かにあの夕呼先生に呼ばれたのだから嫌な予感がしないわけではないのだが、それほど大袈裟なことではないだろう。
「大丈夫、大丈夫。夕呼先生のいつものたちの悪いいたずらだって。」
「でも・・・。」
―ヒュン―――スパン!―
「あいた~!なにすんのさ!」
「お前がシリアスになっても似合わないっつーの。大体一晩中どっか飛んでいってたんだ。人のことよりまずは自分のことを心配しろってのバカ純夏」
「ムキ~~~!!!!もういいもん!武ちゃんなんて知らない!」
といいながら口に詰めるように飯を食う純夏。
正面では俺たちのやり取りを見ていた冥夜と悠陽も何か深刻なそうな顔をしていた。
「二人ともどうした?」
武の問いに冥夜が口を開く。
「純夏の言っている事、嘘ではないかもしれん。」
「私もそんな気がします・・・今ここにいる武様が明日にはいなくなってしまっているのではないのかと感じるのです。」
冥夜に続いて悠陽が口を開いた。
「大丈夫だって、予感は予感。そんなに気にすることじゃないよ。それに夕呼先生の呼び出しだ。行かなかったら行かなかったでその後に抹消されかねない。」
二人はうなるように俯いていた。恐らく夕子先生のことだから否定ができないのだろう。
「っと、そろそろ行かないとな。時間がなくなる。夕呼先生に何言われるかわかったもんじゃないからな。」
すばやく学校に向かう準備をする。
あまりもたもたしていると今にも引き止められそうだからだ。
かばんを持って玄関に向かう。
「恐らく12時前には帰ってくると思うからそれまで留守番頼むな。じゃあ、いってきます。」
勢いよく玄関の扉を開けて学校に向かった。
周りを見回しながら歩いている。まるで今見ている景色を目に焼き付けるように。
武は意識していた。
純夏、冥夜、悠陽の言葉を。
『嫌な感じがする・・・』『武が明日にはいなくなってしまいます』『嘘ではないかもしれん』・・・。
駄目だ駄目だ!意識していると本当にそんな気がしてくる。うぅ~~忘れろ忘れろ考えていても何にもならないだろうが。
そう自分に言い聞かせながら学校に向かう。と―
「武さ~ん!」「武~!」
道の角を曲がったところで呼び止められた。
クラスメイトの珠瀬壬姫と鎧美琴だ。
こっちに走って近づいてき―――
「ギャフン!」
だいたい、1メートルくらい手前で珠瀬が転んだ。
「痛っ!痛っ!」
少しスライディングするように転んだため、おでこが赤くなっている。
「大丈夫か?たま」
「はぅ~なんとか・・・」
珠瀬、通称たまの手をとり起き上がらせる。
「ありがとうございますぅ~・・・」
たまを立ち上がらせると同時に美琴が質問をしてきた。
「ねぇねぇ何してたの武?」
「ん?あぁ、今から学校に行くところだ。ちょっと夕呼先生に呼ばれててな。そういう美琴たちはどこ行くんだ?」
埃をはらい終えたたまが答えてくれた。
「武さんの家だよ。純夏ちゃんから電話をもらってね『今すぐ来てほしい』ってことだったから今向かうとこ。それにしてもすごく落ち込んでいるようだったけど・・・武さんなんかやらかしちゃいまいた?」
「本当に何やらかしたんだよ~」と美琴が迫ってくる。
「いや、俺は何もしてないぞ。したとするならいつもみたく純夏の頭をひっぱたいたくらいだ。」
二人は「そっか」と返事をした。
「武さん、武さん。なんかね純夏ちゃん、千鶴ちゃんに慧ちゃん呼んだみたいだよ。よほど深刻なんだろうね~」
と、噂をすればなんとやら。向こうから榊千鶴と彩峰慧が来た。
彩峰が「よ」と言ったので俺も「よっ」と返した。
「珍しいな委員長と彩峰が一緒なんて。」
委員長とは千鶴のことだ。クラスの委員長なのでこれで通している。
「そこの角でばったり会っただけよ。そういう白銀君は何してるの?」
「学校に行く途中にたまと美琴に会って話していたところ・・・ってやば!もうこんな時間か!」
時計を見ると走って間に合うかどうかの時間だった。
「俺、香月先生に呼ばれてるんだ。時間がないから先に行く。またな。」
学校に向かう武の耳にたまの「気をつけてね~」という声が聞こえた。
「気をつけてね~」
「なんで『気をつけて』なの?」
「なんかね今日の武さんは危ないというか変な感じがするんだよね~わかんないけど。」
「・・・確かに今日の白銀は危険な匂いがする・・・」
彩峰の言葉をきいて自分たちにもそのような気がするのか他の三人も軽く頷いた。
「それなら早く行かなきゃね。もしかしたら純夏ちゃんが知ってるかもしれないし。」
美琴の言葉にたまがいち早く行動した。
「早くいこ~!純夏ちゃんまってるよ~!」
その声に三人とも足を進めた。
鑑家の一室でうずくまる小さな影があった。
その少女の名は社霞。
彼女はみんなが感じる『嫌な感じ』に自分も気づいていた。
そしてどうしてそのような事が起こっているのかも知っていた。
「また・・・あっちに行ってしまうんですね・・・」
彼女は膝に顔をうずめた。
そのころ白銀武は学校の正門前の坂を駆け上がっていた。
いつもの武なら駆け上がるときに体力を一気に使ってしまい、正門に到着するころにはバテているのだがそのように疲れるような感じはなく、むしろ余裕なくらいだ。
まるで長年鍛えてきた体のような感覚を武は感じていた。
坂でまったく疲れなかったため大幅な時間の短縮はできた。
(少し早いけど物理準備室に向かうか)
物理準備室に向けて歩きだす。
物理準備室に向かう途中で武は違和感を感じていた。
いつもと違うような雰囲気が違うような気がしたが向かわないわけにもいかないので武は足を進めるしかなかった。
準備室と同じ階につき、準備室に向かい歩き始めた。
準備室に着く少し前に異変が起こった。
準備室のドアの窓からものすごい光が飛び出していたのだ。
武は走った。
準備室で何が起こっているかわからないが、まず夕呼先生の状態を確認しなければと思ったからだ。
急いで扉を開けた。
「夕呼先生!」
「!?白銀―――」
武はかすかに夕呼先生の声を聞いた後、光に包まれていった――
「・・・また・・ね・・・」
「ああ・・またな・・・」
光に包まれる武を社霞と香月夕呼は見送った。
「行っちゃったわね・・・」
「はい・・・」
「ほら、元気出しなさい私たちにはまだ残されたことがたくさんあるのよ。そんなんじゃあのガキ臭い救世主に笑われちゃうわよ?」
「・・・はい。」
霞は涙を拭い返事をする。
「それじゃ、戻りましょうか――」
と、夕呼が言い終えたとき
――ザザッ――
視界が揺らぐ
「・・・何!?今の・・・」
頭に何かが流れるような、または繋がるような感覚が夕呼を一瞬襲った。
霞も同じだったらしく頭を抱えていた。
「社、大丈夫?」
と聞いた瞬間だった。
「っ!!社!!」
霞がいきなり走り出したのだ。
続いて夕呼も後を追う。
急ぐ霞はB19フロアまで来た。
ここには夕呼の書斎があるが、霞が向かうのはそこではなく隣の元ODL浄化装置設置室だ。
(いったい何があるっていうの・・・まさか・・・)
霞の後を追う夕呼の頭にありえないことが横切った。
(そんなことはありえないわ・・・絶対にそんなこと・・・)
部屋に入る。入って見たのは床にぴくりとも動かずに倒れている人とそれを呆然と見つめている霞たっだ。
(!!まさかそんなはずは・・・)
倒れている人を見て夕呼は絶句した。今まで思っていたありえないことが現実になったからだ。
(これで確実に間違いじゃなくなった。だけど・・・どうしてあんたがここにいるのよ)
「・・・白銀・・・」