第四話 二日目その2 探知魔法
マルトーは困惑していた。
さっきまでうまいうまいと涙を流して食事をしていた『使い魔』だと言う少年が急に不安気な顔つきをし始め、急にあたりをきょろきょろしだし、ついにはこんなことを言い始めたのだ。
「あれ、えーと、マルトーさん、ルイズ様はどちらに行かれましたか?」
「あの貴族様なら、まだ食事中だろ。それよりこっちのサラダも食べてみな、取れたてのハシバミ草がアクセントだ」
「いえ、ボクはルイズ様のおそばに居ないといけないんです。 申し訳ありません、ご馳走様でした」
そう言ってペコリと頭を下げると、シンジは調理場の裏口から出ていってしまった。
「なんだなんだ、いったい」
そうマルトー料理長はつぶやいた、調理場の見習いやベテランのコック、それにときどき入ってくるメイド達も含めてこの少年に興味津々であった。それは、彼が今学院を駆け巡っている『噂』の人物だからだった。 ルイズは、「私の『使い魔』に食事をお願いしたい」としか言っておらず、詳しい説明は無かった。 別に、そんな必要も無い物ではあるが。
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いまだ不案内の学院内を不安そうに歩き、シンジはひたすらルイズを探していた。 わかっていれば、すぐ近くなのだが。
すると、後ろからいきなり声をかけられた。
「どうしたの?」
振り向くと、大きな銀のトレイを持ち、メイドの格好をした素朴な感じの少女が、心配そうにシンジを見つめている。 カチューシャでまとめた黒髪とそばかすが可愛らしい。
「なんでもありま……ルイズ様を探しています」
「あなたもしかしたら、ミス・ヴァリエールの使い魔になったって言う……」
彼女はシンジの両手に描かれたルーンに気づいたらしい。
「ボクを、知っているんですか?」
「ええ、何でも召還の魔法で、古代の魔獣を呼んでしまって、いきなり人間に化けたとか。召還の魔法がうまくいかなくて、手品をつかって誘拐した子供を使い魔の代わりに仕立て上げたとか。ほかにもスキルニル(魔法人形)だとか……エトセトラ……エトセトラ」
シンジはそれらを聞いて頭を抱えた。
(いい噂がひとつもないじゃないか)
しかし、おかげで急に冷静になった。
(なんで、急に会いたくなったんだろう?)
それはさておき、目の前の女性である。
「あなたもメイジですか?」
「いえ、私は平民です。あなたと…うっうん。貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいているんです」
彼女は「あなたと同じ平民です」という言葉を飲み込んだ。まだ、彼のことが良くわかっていないのに平民と断ずるのは危険と判断したためだ。
「そうですか、ボクはシンジといいます、これからよろしくお願いします」
「まあ、とってもいいお名前ですね、私はシエスタって言います。ところで」
そう言うとシエスタはシンジに顔を近づけ、そっと耳うちするように聞いた。
「さっきの噂はどれが本当なんです?」
シンジは、(本人に聞かないでよ)とは思ったが、先ほどキュルケたちに述べた口上を同じように披露した。
「……まあまあ、ロバ・アル・カリイエから、それはそれは遠いところからようこそシンジ様」
「『様』なんてやめてください、ボクは貴族じゃないし、ここの国民じゃないから平民ですらないんですよ」
「まあ、ごめんなさい、では、なんとお呼びすれば?」
「ただ、シンジでいいです、シエスタさん」
「私も、シエスタでいいですわ、シンジさん」
「ありがとう、シエスタさん……急には無理ですね、女性を呼び捨てにするなんて」
シンジは相変わらずヘタレだった。
「うふふふふふ、私もですわ」
と笑うシエスタにいたたまれなく成なったシンジは、食堂はどこか聞いてみた。
シエスタは笑って「こちらですよ」と、案内をしてくれた。
貴族の食事中に、食堂に入るのはまずいと忠告されたシンジは、入り口で待つことにした。
しばらく待っていると、早々と食事を終えた生徒たちがぞろぞろと出てきた。
すると、先ほどルイズの部屋の前に居た4人のうちのひとりが友人たちと共に出てきた
「なあ、ギーシュ!お前、今は誰と付き合っているんだよ!」
「誰が恋人なんだ?ギーシュ」
彼はすっと、唇の前に指を立てニヤっと笑った。
「付き合う?僕にそのような特定の女性は居ないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
(うわぁー、自分を薔薇に例えてる。ちょっとイタイ人だ)
シンジは、あまりお近づきになりたくないなと思い、そっとその場を離れようとした。 そのとき、ギーシュのポケットから何かが落ちた、ガラスでできた小瓶である。 いくらなんでも放っておく訳にもいかず、シンジはギーシュに言った。
「貴族様、落し物です」
しかし、ギーシュは振り向かない。 仕方なくシンジはギーシュの服の一部を軽く引っ張りながら、再び言った。
「あのー、貴族様」
そこまでされては、ギーシュも振り向かないわけにはいかない、煩わしげな表情でシンジを見つめるとその小瓶を押しやった。
「その小瓶は、ボクのじゃ無い!君はなにを言っているんだね?」
その小瓶の出所に気づいたギーシュの友人たちが、大声で騒ぎ始めた。
「おお、その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ、その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちたって事は、つまりそう言うことですね、わかります」
「違う、いいかい!彼女の名誉のために言っておくが……」
ギーシュが何か言いかけた時、茶色のマントを着た少女が近づいてきた。
栗色の髪をした、可愛い少女だった。
「ギーシュ様……」
そして、ボロボロと泣き始めた。
「やはり、ミス・モンモランシーと……」
「ごっ誤解だよ、ケティ。僕の心にすんでいるのは君だけ……」
しかし、彼女の返事は、
「ふんっ」「ぶおっ」
腰の入った左フックだった。
「その香水があなたのポケットから出てきたのがその証拠ですわ、さよなら」
しかし、ギーシュはクリーンヒットした彼女の右拳のせいで、くるくる回りながら吹っ飛ばされている最中だったため、彼女の別れ言葉が聞こえていたかは定かではない。
その騒ぎを、遠巻きに見ていた見事な巻き毛の女の子が一人食堂に戻り、ワインの壜を片手に戻ってくると、すごい笑顔でギーシュに近寄ってきた。
先ほどの4人のうちの一人、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシである。
「ギィーシューウ、やっぱりあの一年生に手を出していたのね!」
ギーシュは再起動がまだうまくいかず、地面に突っ伏したままである。
そんなことはお構いなしに、モンモラシーは、ワイン壜を両手で握り、腰を低く取りゴルフスイングの態勢中である。 ギリギリと限界までねじられたモンモラシーの体は、次の瞬間バネ仕掛けのように回転し、空気が音を立てた。
“ひゅっ”
“すかっ”
「あ、あれっ」
モンモランシーは、当惑した。 愛の裏切り者に血の制裁をくわえるはずのガラス製棍棒がその手から消えていたのだ。
「うひゃー、ま、間に合った」
そういって、冷や汗を流していたのはシンジだった。手にはモンモランシーの「愛の制裁用ガラス製棍棒」が握られている。
「なにすんのよ!返してよ!」
「いやいやいやいや、さすがにガラス瓶はまずいです。 貴族様、いくらなんでも死にます」
シンジが腕に抱えているそれは、ずっしりと重く、壜の厚みもかなりある。さすがにコレで殴られた日には、よくて頭蓋骨陥没、悪ければ死ぬ。もっと悪ければスプラッタに死ぬ。
まわりの生徒たちは、あまりのことに時間が止まったままのようである。
最も早く再起動したシンジが居なければ、朝食そうそういやなものを見るところであった。
「あら、あんたは!?ふん、まあいいわ。殴らないから壜をよこして」
シンジはさすがに信じられず、壜を抱えたまま首を横に振る。
「ああ、もう頼まないわ」
彼女はそう言うと自らの杖を取り出し、なにやら呪文を唱え始めた。すると、どこからか樽二杯分ほどの水の塊が出現し、それを再稼働率40%ほどのギーシュに頭からぶっかけたのだ。
(これが、魔法!)
シンジは始めて魔法を見た。……肉体言語2連発の後ではあるが。
「ぶわっぷ」
「目が覚めたかしら、ギーシュ!大事なことなので2回言うわよ!あの!一年生に!手を出していたのね!」
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー、その美しい薔薇のような顔を、怒りで歪ませないでくれおくれ。僕まで悲しくなってくるじゃ……」
「やかましい!」
返事は、ある人に言わせると、あらゆる格闘技最高の技のひとつ、
肩口から一直線に最短距離で目標までを一気に貫く、全関節同時加速の右ストレート。
「ばもっ」
シンジは人間が空を飛べることを、言葉ではなく心で理解した。
「うそつき!」
と怒鳴って去っていった。 その場を沈黙が支配した。
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ギーシュを見ると、そろそろと立ち上がっている、どうやら再起動したようである。
ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。 そして、首を振りながら芝居がかった口調で言った。
「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
(うわ、丈夫な人だな。そうは見えなかったけど、ここの人たちはATフィールドを使えるのかもしれない)
ある意味、それはそれほど的外れな想像ではなかったのだが。
「だだだだ、大丈夫ですか?」
あわててシンジはふらつくギーシュに近寄り、手を貸そうとした。しかし、その手は撥ね退けられ、おまけにこんなことまで言われたのだ。
「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げてくれたおかげで、ふたりのレディたちの名誉が傷つけられた。どう責任を取ってくれるつもりかね」
「えっ」
シンジが壜を拾い上げてから、実に3分チョイの間に怒涛の展開があったせいでシンジの頭脳はそれについていくのがやっとだった。
それが、こんなものすごい責任転嫁の台詞を言われても、理解が間に合わない。
「えっ、うっ、はっ<思考停止>…………<思考活動再開>いやいやいや、あのおふたりの名誉といいますかお心を傷つけられたのは、どう考えても二股をかけた、貴族様では?」
ギーシュの友人たちも、やっと思考停止の闇から抜け出し、話に参加し始めた。
「ギーシュ!いくらなんでもそれはちょっと無理がある、ああ君もう行きたまえ、彼は僕らがなだめておくから」
シンジはそう言ってくれたギーシュの友人らしき貴族に軽く会釈をし、その場を急いで離れた。
「ギーシュ、お前が悪いよ」
呆れたように、一人が言うと、ほかの友人たちも同意した。
「そうだ、それにあの使用人の子はお前の頭がワイン壜でかち割られるのを、止めてくれたんだぞ!」
「大体、二股とはどう言う了見だ、われわれモテナイ君に喧嘩を売っているのかね」
「いいかい君たち、僕は彼に壜を渡された時に知らないふりをしたじゃないか!
話をあわせるくらいの機転が在ってもいいじゃないか!おかげで!おかげで!ちっくしょー!」
あくまで彼の中では、悪いのはシンジであり、自分は事故にあったようなものと考えていた。
そんな思考が、手に取るように読めた回りの友人たちは、呆れと怒りと、なんとなく溜飲の下がる思いでギーシュを非難し続けた。
ちなみに、ルイズはシンジのことが心配で、ちょっと早めに食堂を出ており、調理場に戻ってきたシンジと無事、会合することができた。 ついでにルイズに会いに食堂まで行き、そこでどんな騒動があったかを説明した。
「えっ、そんなことがあったの、くぅ~見たかった!」
ルイズも割とゴシップ好きのようだ。
「いいえ、ルイズ様がそんなことに巻き込まれなくてほっとしています。それにしても魔法学校って格闘技なんかも教えているんでしょうか?」
名誉を傷つけられたふたりの女性の、左フックと右ストレートの感想である。
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魔法学院の教室は、大学の講義室のようだった。それが石で出来ていると思えば間違いは無い。講義を行う魔法使いの先生が一番下の段に位置し、階段のように席が続いていた。
シンジとルイズが教室に入っていくと、先に教室に入っていた生徒たちが一斉に振り向いた。
反応は、さまざまである。
くすくす笑うもの、目を合わせないよう下を向くもの、なぜか怒ったように見つめるもの。
そんな中に、先ほどルイズの部屋の前にいたふたりもいた。キュルケとタバサである、周りを男子に取り囲まれ、二人とも女王様然としている。
そして周りを見渡せば、皆が皆、様々な使い魔を連れていた。
シンジは目を見張った。キュルケの使い魔はあの、椅子の下で眠り込んでいる赤く大きなトカゲだろう。肩にふくろうを乗せている生徒も居る。窓から巨大な蛇がこちらを覗いている。カラスも居た、ネコもいた。でも、特に目を引いたのはシンジの常識では架空とされる生き物たちだった。
背中から、蝶の羽を生やした小さな妖精、6本足のトカゲ、巨大な目玉がぷかぷか浮いている。
丸い眼鏡をかけた男子の後ろを歩く、青い色の雪だるまに手足を生やしたような生き物、良く見ると腹にポケットのような器官がある。
厚めの本を片手に歩く男子の周りを泳ぐように飛ぶ真っ白で体長50センチほどの魚、などなど。
「すごいな、みんな生きて動いてる」
シンジは素直に感想を漏らした、それにちょっと泣けてきた。なにせ、眠りに付くまで最後の記憶まで、小さな虫一匹居ないサードインパクト後の世界をただ生きていたシンジである。それが地球大紀行でも見れないような珍しい生き物がわらわら居るのだ。
(ルイズ様、召還してくださって本当にありがとうございます。)
シンジは心の中で、そっとお礼を言った。
さて、彼がきょろきょろしていると、タバサが近づいてきた。
「ミス・ヴァリエール、かまわない?」
ディテクトマジック(探知魔法)の使い魔に対する使用許可を求めた。
「そうね、ちょっと待ってて。シンジ!」
「はっはい、ルイズ様」
呼ばれてあわてて返事をした。シンジは近寄ってきた黒猫の使い魔をなでていたのである。
「こら!ジジ!ダメじゃないの!そばに居ろっていったでしょ、もう」
頭に大きな赤いリボンをつけた女の子がその黒猫をしかると、怒られた黒猫が声をあげた。
「だってキキ、この男の子なでてくれるんだよ」
(ええ、ネコがしゃべってる)
さすがにシンジもびっくりして振り向いた。普通の猫かと思っていたのだ。
(なるほど、これが使い魔か)
シンジはみょーに納得した。 黒猫の使い魔を抱き上げた女の子は、シンジを一瞥すると、
「フンッ」と鼻をならして離れていった。どうも嫌われたようだ。
「シンジ聞いてるの!」
ルイズはシンジが他の女の子に(本当は黒猫だが)気を取られていたのが気に入らないようだ。
いささか、声を荒げている。
「はいっ」
「あなたは、座っていればいい」
そう言って、教壇ちかくに椅子を置きシンジを座らせた。 そして四方を先ほどの4人が囲む。
お、なんだなんだと教室内に居た他の生徒たちも注目を始めた。
ディテクトマジック(探知魔法)に関しては、ある程度はルイズが、調理場から教室に来る際に簡単に説明してくれていた。
異常を示す、パターン・ブルー
正常、または許容値内を示す、パターン・レッド
不明、または解析不能を示すパターン・オレンジ
当たり前だが、「水」は「水」を「風」は「風」を探知しやすい、そして得手不得手の垣根は低い。
そして、それぞれのメイジたちは自分の系統に準じ、鋭敏な感覚があった。
すなわち、体の中の体液の流れを探知する「水」。
肉体を構成する物質を探知し、形状を正確に把握する「土」。
その人間のエネルギー量を量る「火」。
体から出る音を探知する「風」。
ただ、やっていることは単純で、ハルケギニアにおける、魔法の元とされる精神力を、素のまま対象物にあてるのだ。 術者は反射、反発力、浸透具合などを見て、あるいは感じて分析する。
上記のような差が出るのは、各系統の認識能力のためだろうか? 無理やり例えるならば、人間アクティブ・ソナーである。
「急いで、先生が来ちゃうわ」
「わかってる、ではモンモラシーから、お願い」
「わかったわ、“世にあまねく水よ、かの者の水の流れを計れ”……普通ね。血流、血圧共に問題なし」
「次は、火の私、“すべてを燃やし尽くす火よ、かの者の情熱を教えて”……うわっ凄い。なにこれ!」
「キュルケ、結果は?」
「パターン・レッド普通だけど、エネルギー総量がもの凄いの。計ったことはないけど成人したドラゴンクラスってとこかしら?ただの平民じゃ無いわね」
これには、シンジも慌てた。
正直、ATフィールドでも展開でもしなければ、なにが判るものではないだろうと高をくくっていたのだ。 いくらシンジといえども体内にあるS2機関を自由に止めたり動かしたり出来るわけではないのだ。いや、この言い方は正確ではない、激しく動かすか、またはゆっくり動かすかであり、止めることが出来ないだけである。
余談では在るが、召還の際、コルベールが此の事を探知できなかったのは、やはりシンジが長い間眠って居た為と、気絶をしていた事でS2機関が正常に働いていなかった為。そして、ごく弱いATフィールドを展開したままでいた為である。そして、コルベール自身が、何十人もの生徒の使い魔にディテクトマジックをかけており、へとへとに疲れていた事、もうひとつ、コルベールには、そんなことよりも彼の珍しいルーンのほうに目が行ってしまった為である。
「いい加減なことを言わないでよ、キュルケ」
「あら、本当よ。凄いわこの子、俄然興味が湧いてきたわ」
「ルイズ様、ルイズ様」
「なに、シンジ」
「昨日の話を覚えていますか?ボクは『パイロット』だったんです」
謎かけのような、その言葉。
だが人はわからないことがあると脳内補完をしてしまう。
「んん、そうね、みんな良く聞いて、シンジは、かのロバ・アル・カリイエにおいて3人しか居ない『ぱいろっと』だったのよ」
「なに、その『ぱいろっと』って」
ルイズはちょっと胸をそらし、誇らしげに言った。
「身長70メイルを超える、シンジの国のスーパーゴーレム、『エバンゲリョン※』を操る事が出来る兵士の事よ、彼はそのゴーレムを操るために相当な精神力を持っているのよ」
「70メイル、そんなのあたしの国でも、いいえ、たとえハルケギニアの土メイジをすべてかき集めても不可能よ!例え出来ても1歩だって歩けやしないわ!どこの空想魔法読本よ!」
「ミス・ヴァリエール。メイジ・オリンピックでも、世界最高クラスは未だに40メイルを超えない。
たしかゴーレムのハルケギニア・レコードが38メイル、ガリアのグレン候とラガン伯のチームで作り上げた。 しかも戦うことは前提ではなく二百メイルほど歩けばいいだけ。実際、このゴーレムは二百メイル歩った後、足元から崩れ落ち。グレン候とラガン伯は疲労のため一週間、目を覚まさなかった」
何かずれた言い争いが始まり、なかなかシンジの望む展開にならない。
「いやいや3人共、問題はそこじゃないだろう。
要はそのゴーレムを動かせるのが彼だけで、彼はそのために、異常なほどのエネルギーを与えられたか、生まれつきかわからんが持っているということだろう。……急がないともう先生が来てしまうぞ」
(ありがとうギーシュ様、さすが二股をかける男は頭の回転も速い)
とシンジが思ったかどうかは定かでは無いが、とりあえず先に進めそうである。
「というわけで、次は僕だ。“すべての命を育む土よ、かの者の組成を暴け”……」
ギーシュは、それきり黙ってしまい、何かを考え込んでいる。
「どうしたの、ギーシュ。結果を言って頂戴」
「いや、うん、そうだな。パターン・レッド、異常なし。……だよな」
最後のつぶやきは、誰にも聞える事は無かった。タバサを除いては。
「最後は私、“世に偏在する風よ、かの者より漏れ出る音を拾え”……パターン・レッド異常無し……」
どうも、半端な結果ではある。
かの少年はエネルギー総量がものすごい、これだけでもそれなりに異常ではあるが、それを除けば普通の少年である。
だからどうなんだ、といわれてもなんともいえない、タバサが異常無しを告げた時点で危険な幻獣の変化体であることは否定されている。(シルフィードは強力な風の魔法で変化するため、風系統の使い手であるタバサにはそれと判る。そして風魔法以外での変化の常識が、彼らには無い)
タバサは北花壇騎士としての経験から、彼から危険な臭いを感じ取っていた。それはもう、第六感としか言いようが無い。だが……とりあえず、タバサはルイズに謝罪することにした。
一つまみの不安をかかえたまま。
※エヴァファンのみなさま、ごめんなさい。