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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム
Name: エンキドゥ◆37e0189d ID:24fff452 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/16 23:16
彼、平賀才人のこの世界においての最初の記憶は、鬱蒼とした森の中、とんでもないナイスバディのコスプレ美少女(おまけにガイジン)が、泣きそうな顔で木の棒を自分に突き付けているところからだった。

「え、え?」

辺りには獣臭と、それに入り混じった生臭い鉄のにおい、血の香り。
自分の腰ほどにも深く生い茂った草の中、いくつか不自然に穴がある。おそらくはこの生臭い獣臭と関わりのあるものたちが沈んでいるのだろう。確認する気にはとてもなれなかったが。
でたらめに生えている木々には赤い液体が……。

ふと気が付くと、己の手には、薪割に使えそうな巨大なナイフ(マチェット)が握られている。
そして、これが悪夢であるのなら、そうであるのが当然のように、刃筋にはべっとりと血が付いていた。

「うわわわわ!」

慌ててサイトは手にしていたソレを、足元に投げ出す。

「うっう」

崩れ落ちるコスプレ超絶美少女。サイトは慌てて駆け寄った。

「どうしましたオジョウサン。なにかボクにできることは?」(あ、ヤベッ!思いっきり日本語じゃん)
「だ、大丈夫。ちょっと疲れただけ。肩を貸してくれる“サイト”」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?いや、なんで俺の名前を?それに日本語うまいね」


第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム


天幕の外は、まっさらな平原が広がっていた。もっともすぐ真後ろは森だが。
シンジは、夕暮れに近い平原に立ち「ニューカッスル」城を見つめる。今までいた城だが外から眺めるのは始めてである。高く平坦な外壁が見える。あらためて「ぼろぼろだな」と思った。

森の出口付近に、様々な傭兵団のテントが並んでいた。早いものは天幕を解体し馬や馬車にその材料をのせ帰り仕度の真っ最中である。

「おーい、ファイトー!」
「いっぱーつ!ってサイトっすよ。いい加減覚えてくださいよ団長」
「わかりゃいいんだ。わかりゃ。サイトってなあ言いづらいしよ」
「……んで、どうしました?」
「おめえの決めた配分に、文句言うやつがいてよ。まあ、いつものやつを頼むわ」
「いー、また俺っすか。たまには団長お願いしますよ」
「こちとら撤収の準備や何やらで忙しいんだよ。これもまあ会計役の職務ってやつだな」
「ぜってー嘘だ!……まあこっちが終わったら、そっちに行きますよ」
「んん、どうした?」

サイトは親指を立て、ひょいひょいと後ろを指した。傭兵団長はサイトの後ろに立つ小柄な少年を見つける。その恰好は薄汚れた下着姿だ。サイトが天幕を出る際にシンジに投げたものだった。長めの猿股と大きすぎるシャツを腰ひもで止めた簡易なものだ。だがその大きさが幸いしガボガボだがゆったりした部屋着にも見える。いささか汚れているのは仕方がないが。

「ああ、おめえのお稚児さん?」
「ぎゃー!やめてぇ!断っときますが、そっちの趣味は全然ないっすからね!」
「俺もねえから、……あれはお偉いさんに多いらしいぞ。出世したら気をつけな」
「一生出世しません!」
「がっはっはっはっは!……で?」

またサイトは渋い顔をする。

「んー、ちっと。殴りっこ」
「喧嘩か。なんか賭けてんのか?」

サイトは、背中の剣を少し引き出して戻した。
”チッ、チンッ“
鍔が澄んだ音を立てる。

「はーん。ま、あんまし無茶すんなや。相手は?」
「えっ、だからこいつっすよ」

その男は目をむいた。

「おいガキ!こいつは見た目、馬鹿でスケベな野郎に見えるかもしれんがな。……いや、馬鹿でスケベなのは間違いねえが、ただの馬鹿でスケベなわけじゃねえぞ!馬鹿でスケベだがな!」
「だぁんちょぉぉぉ……シドイッすぅぅぅ」

サイトは、情けない目で団長に非難の目を向けた。

「なんだよ。スケベで馬鹿。今コイツにオメエのことを説明してんだよ。わかったか馬鹿のスケベ!」

だが、そんなサイトの情けない声には一顧だにせず、馬鹿でスケベを連呼される。

「……ちゅうわけでな、馬鹿でスケベな割には結構強ええからよ。わりいこたぁ言わねえからやめとけって」
「はあ、はあ、はあ……」
「よし、こいつはあきらめたようだぞ。サイト、オメエも大人の態度でだな……」
「え、いえ、あの……」
「あんだよ、怪我しねえうちにとっとと……」

「……デテクダサイ」

その少年はうつむきかげんに視線を落とし、何かぼそぼそと言っていたが、小さな声で聞こえず、男は聞き返した。

「ん、んん?」

耳に手を当て、腰を落とす。

「関係ない人は、すっこんでてください!って言ったんです!」
「ぬわぁー!」

いきなり大声を出されのけぞった。

「んだぁ、このガキャ!!」

生意気なガキにはお仕置きだ!
武骨で巨大な拳骨を振り上げる。

「ごめんなさい。ナイフを一本だけお借りします」

するりと、振り下ろされた拳骨をよけ、胸元に吊り下げた二十サントほどのナイフを掏り取る。

「うお!」(なんだこの野郎。まるでサイトみてえじゃねえか)

シンジはすでに背中を向け、サイトの待つ平原に向かう。だが、そんなシンジを団長と呼ばれる男が呼び止めた。

「コラ!ちょっと待てコラ!」
「ごめんなさい。すぐ返しますから」
「ちげーよ!馬鹿!おい、みんな集まれ!」

(しまった。やりすぎたか?あんまりゴタゴタしたくないのに)

シンジは青ざめる。彼と、その部下全員に袋叩きにされるのではないかと思ったのだ。

「だんちょ~、なんすか?俺の相手っすよ!」
「うっせえ馬鹿!黙って待ってろスケベ」


☆☆☆


「おめ、ブレイカー持ってたよな?ちっと貸せ」

呼ばれた男たちの内、比較的背の小さいものが腰の剣を差し出す。刃先が五十サントほどの剣だが両刃ではなく、刃の裏はギザギザした棘のようになっている剣を出す。

「なんすか団長?」
「サイトの野郎に、一発くれてやれそうなやつが現れてよ。ちょうどあいつと喧嘩するってんで道具そろえてやってんだよ」
「「「まじっすか!」」」

何人かの男たちが声をそろえて驚いた。

「おう、マジマジ」

団長がそういえば、男たちに疑う理由なぞない。

「ちょっと待った団長。俺のフォルシオン使ってくださいよ」
「いや、カタールのほうが使いやすい」
「フランベルジュのうねうねが、うねうねがぁ!」
「長くて細いエスタック」
「シャムシールの、この曲がってるとこがスキ!」

俺も俺も、と剣がメイスが槍が手斧が集まってくる。シンジはそんな様子をただ茫然と見ていた。
そしてもう一人、その様子を横で見ていた赤毛の男がいた。筋骨隆々、簡易な鎧をつけ、まるで物語の中の戦士そのものだ。そして団長に引けを取らぬ大男だった。

「そんなものは必要ねえ。俺にゃーこれ一本で十分にすぎる」

その男は、背中に下げた長大な杖剣を親指でクイクイと示し、もう用はないとばかりにサイトの待つ平原に向かった。

「なんだアイツ?」 「新人君だな」 「団長、勝てそうなやつってあいつのことか?」
「うんにゃ。そこのガキだ!」
「ど、どうも」

そこ居たのは、ここの連中なら誰でも片手で持ち上げられそうなやせっぽちの少年だった。
さすがに皆、いぶかしい顔を団長に向けた。

「んじゃあいつは?」
「分け前にケチつけやがって、いつも通り“文句は勘定係に言え”って言ってやっただけだ」


☆☆☆


「おい!」
「どうも」

サイトは男に頭を下げる。

「団長から、取り分を増やしたかったら、オメエとナシつけろって言われてよ」
「げー、いつの間にそういうことになってんすか?俺はただ金勘定の神さま“カシオミニ”の御神託に従ってるだけっすよ」

そう言ってポケットから小さな四角い奇妙なものを取りだした。

「そーらーでんちの優れもの、“エーネガイマシテハ”と唱えて打てば、この世はスルリとかたずきもうす」
「よくわかんねえ。そいつをちっと貸してみな」
「パターンに従えば、ぶっ壊されて終わりなんでやめときますよ」
「じゃ、しゃあねえな。……ぶっ壊されんのはオメエの方でいいか」

その赤毛の男は、背中の長く大きな軍用杖剣を抜きだした。柄は五十サント、鍔から先端までは百二十サントほどで、縦にすればシンジの身長を超える。
杖は長ければ、精神力の焦点を自分より遠ざけることで威力ある魔法を紡ぐことが出来る。その為、力のあるメイジなどは好んで長物(スタッフ)を使いたがる。
(その代り、焦点が遠ざかると集中させるのが難しくなり、取り回し(魔法操作)も大雑把になる)
男は呪文を唱え、そのまま恐ろしいほどのスピードで剣を振り回し始める。杖剣の周りが赤く染まり、帯状の軌跡が使い手の体を隠すように広がっていく。そのわずかな時間に新たな呪文を詠唱。男のそばに人型の炎が三体立ち上がる。火メイジの遍在、イフリート(人型の炎獣)だった。
空中を浮遊するように移動するイフリート。サイトを逃がさぬよう布陣する。
イフリートは、それ自体が炎の塊。またそれぞれがファイヤーボールを何発も空中に浮かべていた。

「早めにまいったしとけ、怪我しねえですむからよ」


☆☆☆」


「だーんちょう。まだっすか?」
「ありっ、サイト。さっきの野郎はどうした?」
「へいへい、ちゃーんとお話ししましたよ。傭兵式に」

シンジは、がちゃがちゃと音を立て振り返ってみれば、先ほどの赤毛の男が倒れ伏しているのが見える。

(あれ?よく見てなかった。)

「はえーよ、馬鹿野郎!」「どうだ、使い物になりそうか?」「ちー、少し期待したんだがな」
「ガワだけか」「まーギリトラ(ぎりぎりトライアングルメイジの意味)ってとこか」
「おめぇよか強えぇじゃん」「うっせ。勝負したろか?」

荒くれの男どもが、サイトに次々と声をかけてくる。どうやら単純に嫌われているというわけでもなさそうだった。

「え、えー、いや、強かったっすよ。反応もいいし、魔法も多彩だし。ちぃっと色付けて上げてもいいんじゃないっすか?」
「サイトさん……?」
「おっ……ぶっはっはっはっはっは!なんだそれ―!」

声をかけられ、振り返ったサイトはシンジを見て噴き出した。
がぶがぶの兜、ぶかぶかの鎧、どう見ても手にあっていない小手。そして体中に付けられた剣、ナイフ、手斧、その他、武器武器武器武器……。傭兵たちが面白がって、シンジが拒否する間もなく、次々と勝手に身にまとわせたものだった。
笑われて、シンジは赤くなる。

「もう!!」

これほどの重量では、かえって邪魔である。結局シンジは小さな胸当てと、団長の持ち物であるナイフのみを借りることにした。

「おお!そいつはよ。親父の形見で“純鉄製”なんだ。なるだけ無事に返してくれや」

彼の言う純鉄製とは、製造過程に「錬金」が入っていないという意味である。
ちなみに材料からの「総錬金製」の武器は物にもよるが、彼ら傭兵には評判が悪く、投擲用や弓矢などの使いきりの武器、あるいはある程度の魔法を付加された物以外は、忌避の傾向にある。それでも値段の関係上「錬金」された武器、防具は大勢の者に広く使われているが。

「それは……すみません。他のを」

特に銘などは入っていないが、「材質」から「錬金」の入っていない武器となるとちょっとした値打ちものだろう。シンジは慌てて返そうとした。

「まあ、いいって事よ。……ぜってぇ勝てよ」

だがその男は変に機嫌がよく、押し付けるように掌をシンジに向けた。
シンジはもう一度ペコリと頭を下げると、サイトと共に平原に向かう。

☆☆☆

先ほどの男は、ほかの傭兵たちが二人がかりで担いで退場させた。
みんなで、そいつの顔を覗く。

「あー、またやりやがった」 「まあ、こいつもこれでうちの一員だな」 「これ、洗ってもなかなか落ちねえんだよ」 「あいつの国のルーンだそうだが?」 「サイトに言わせると、友情、努力、勝利のマークだそうだ」 
「それはいいが、みょーにむかつくのはなんでだ?」

☆☆☆

二人は、十メイルほどの距離を取り相対する。
シンジが考えているのは、デルフを奪い、そのまま逃げること。
どうやらよい人らしい傭兵団員達やサイトさんには悪いが、ここにとどまるわけにはいかず。さりとてデルフを置いていくわけにもいかない。おしゃべりのデルフがシンジやルイズたちのことを漏らせば、よく考えずとも国際問題になるだろう。

そして、奇妙な独占欲。

「ガンダールヴ」を発動させ、サイトからデルフを奪い、そのまま高速で逃げ出すのだ。
トリステインには、最悪「歩って」帰れば良い。そんな風に思っていた。

(あっ、海があったのを忘れてた。どうしようかな?)

「おい、初めていいか?!」

サイトが呼びかけてきて、はっと我に返る。シンジにとっては逃げるまでは決定済みの未来。
ナイフをその手に握り、「ガンダールヴ」の発動を感じるまで返事を待った。サイトを見る。いささか待ちくたびれた顔をしている。手の中のナイフをさらに強く握りしめた。
(隙をついて、速攻で……)

「……はい」

目の前に拳(こぶし)。

「ひっ!」

返事をした途端、巨大な拳がシンジの目の前に出現した。反射的に右手を顔の前にだしガード。だが予想した衝撃はこない。
“キュキュキュキュ!”
代わりに撫でられているような、擦られているような感触。慌ててそのままバックする。

「うおっ!」

サイトの驚いた顔。
シンジは何をされたのかと、手の平を見れば奇妙なルーン、シンジには読めないが……「肉」の文字にも見える。
サイトはにやりと笑い言い放つ。

「俺の「筋肉バスター」を防いだのは、お前が初めてだ!」

何を言われているのか、全然わからない。そして、もう一つ不思議なことに彼の声がまともに聞こえる。
「ガンダールヴ」発動中は、周りの時間が遅く感じる為、人の発声もそれに準じる。ひどくゆっくりになり、結果何を言われてもわからなくなってしまうのだ。シンジは慌てて左手のルーンを確認。ある。発光もしている。手を動かせば、ねっとりと絡みつく空気の感触も「ガンダールヴ」の発動を教える。サイトを見れば彼が移動しただろう軌跡にゆっくりと砂塵が巻き上がるのが見える。遠くの砂塵ほど高く高く舞い上がる。
シンジは目を細め、ナイフを握り直した。その手の平に、じんわりと、汗を感じながら。

サイトを見る。まっすぐにこちらに向かってくる。見失うほどではないが、早い。首筋にチリチリとしたいやな感触、寸前で消えるサイト。拒絶。後ろからの衝撃!

“パ―――ン”

「ウグゥッ」

いやな予感と共に、体全体にATフィールドを最大に張る。だが衝撃が完全には殺せない。
おかしい、恐ろしい。ガードしなければ首が落とされていたほどの衝撃だったのだろう。
もう認めよう。彼は……。

「……僕より、早いんだ」

「うわわわわっわっわわぁ!なんだぁ今のはぁ!?」

サイトはサイトで、寸前で威力を落としシンジを気絶させようと思ったのだが、その手前で手刀がはじかれたのを感じた。見れば手の平ほどの八角形の光の波紋。それはやがて消える。前のめりにぶっ倒れようとする寸前シンジは体を丸めゴロゴロと転がった。距離を取りまた立ち上がる。

「恐怖が心を震わせ、その波動を外に発現し空間を歪ませる。言ってみれば恐怖の壁ってとこか」
「バリヤー付きかよ。きったねえなあ。エンガチョ切ぃった!」

指をクロスさせ、顔の前で振りながらそういった。

「なんじゃそりゃ?」
「我が国伝統のバリヤー崩しの呪文である」
「効き目のほどは?」
「神のみぞ知るってとこだな。……俺の国の神様も遠いからあんまり効き目ねえかもっ、てぇデル公!おまい声が聞こえんのか?」
「そういうこと、伊達に“伝説”じゃねえのさ」
「おっしゃ!信じるぜ!」
「頼みがあるんだが」
「なんだよ」
「あいつを殺すな」
「たりめーだ!……やっと出会えた仲間かもしれんやつを殺すかよ!」


☆☆☆


速さで負けるなら、技と経験とATフィールドで対抗する。
シンジは、ATフィールドをランダムに張り巡らせサイトの周りを飛び回り始める。三次元の起動と予測不可能な三角とび、四角とびで彼の死角に入りデルフに手を伸ばす。避けられる。
カウンターでサイトの手刀が沈み込んだシンジの頭上を通り過ぎる。すぐに離れる方向に飛びずさる。ヒット アンド アウエィで隙を探る。

やり辛い、探らなくとも彼はむしろ隙だらけだ。それなのにシンジのほぼ全方向からの攻撃を、よける、避ける、かわす。それも素人目にもひどく無駄な動きで。
ある意味ワルドとは対極の位置にある人だった。彼は洗練された動きと、経験による未来予測でシンジに対抗したが、彼は、ほぼ野生の勘とこちらの動きを見てからの反射速度のみで対応している。しかし、それで十分なほど、早い。
上下左右の動きで攪乱し、目くらましを交え飛び回るが、通用したと思えるのは最初の数回だけ。どれほど動いても彼の視線が自分に追いついてくる。
サイトは今、ほとんど動いていないのだ。


☆☆☆


“キューン!キーン!ギーン!バシバシ!ドカ!バギ!ドカン、ドカン!”

人が戦ってるとは思えない音が響く。それをなしているのが見た目痩せっぽちの少年二人とは思えない。自然と周りの傭兵たちの耳目が集まることになる。

「なんなんなんだアイツら!」 「なんでも東方の技術で、“念”というそうだ」 「心で“小宇宙“(コスモ)を燃やすんだよな」 「俺、”忍法“って聞いたぞ」 
「あいつたまに”神様、“幽波紋“(スタンド)が欲しかったっす。”とか言ってるよな」 「オイ、“一子相伝の暗殺拳の使い手”じゃねえのかよ」 「白昼堂々の正面突破が大好きなんで、伝承者になれなかったんだってよ」 「そりゃもっともだ」 
「えっ!“悪魔の実”を食ったってのは?」 「おお、新ネタだな」 「いや古いから」 
「んん?昔悪い奴らに肉体改造を受けたって聞いてるが」 「そのネタは封印したらしい」 「ドラゴンライダーだっているのにな」 

「あの新人君どうした?」 「まーだ寝てる」 


☆☆☆


速さは向こうが上、力も多分向こうが上だろう。シンジにはサイトの運動能力が信じられない。正直自分には「ガンダールヴ」のルーンの効能を十全に使いこなしているとは思えなかったが、それでも彼の強さ速さは異常だった。
ルーンの効能、仮にプログラムと呼ぼうか、それに対して自分の肉体が反応も対応もしきれていないのだ。
ライオンの脳、タカの目、虫の反射神経。ただし身体はあくまで人のそれ。
対してサイトは、運動能力をそのままに人間大にした猫のようだ。本来であれば一歩走るごとに、足など粉砕してもおかしくないスピードで走り回り。振り回す腕はその先端がもうシンジの目にも止まらないほどだ。こちらも一振りで手が腕がちぎれ飛んでも不思議ではない。彼の肉体の限界点がシンジにはまるで分らなかった。
怖い、恐ろしい。しかしだからと言って……・。

「負けられない、負けるわけにはいかないよデルフ」

シンジは一旦距離を取り、地面に四つん這いになる。サイトはそれを見て立ち止まり、ナイフを腰のホルダーにしまった。

「お、降参か?土下座まですんなよ。そこまで要求しねえよ」
「ちがーう。セカンド・フェイズ(第二段階)移行。へへ、才能あると思ってたけど、やっぱすげえわ」
「あん?」

サイトの目の前で、シンジはふわりと自分の身長の倍ほども浮かび上がる。四つん這いの姿勢はそのままに。いや、もう四つん這いというよりは、乗馬でいうところのギャロップ姿勢だった。
あっけにとられ、思わずサイトは団長に叫ぶ。

「こ、これ。なんて魔法っすか!?」
「バーカ!そりゃレビテーションだっての。高さもハンパで意味がねえ」
(これがレビテーション?うっそでぇー)

彼の目に映るのは、シンジを包み膨れ上がる半透明のオレンジ色の巨人。だが、ほかの者たちには見えないらしい。

「えーと?」

シンジを内包する半透明の巨人は立ち上がった。でかい。先ほど追い掛け回された竜のガーゴイルよりも頭二つ三つほど。サイトはナイフを握り直した。


☆☆☆


動いた。と思った時には、目の前。地面に小さく丸い穴が次々とあく。吹き上がる土砂。それでもサイトは反応し対応し、避け続けていた。
攻撃されたのは、自分がいた場所ではない。避けえる予測の方角でもない。どうやらわざと外したようだった。だが無論それで攻撃が終わったわけではなく、避けた場所には別の手。

「ぬぉお!」

必死に避ける、避ける、かわす。捕まればどうなることか、巨人のモグラ叩きは止むことを知らぬようだった。

「ギャハハハハハハ!!いいねえ、楽しいねえ。大ピーンチってとこだ。どうする相棒」
「ばばばば、バァーロー!!楽しかねえ!」
(バリヤー付きで、動けるってなぁ反則だぜ)
「そうかい、じゃどうする?俺を投げ捨てて逃げるか?」
「検討に値する意見をどうもありがとう」
「え、おい。マジか」
「冗談にしとくから、黙ってろ!」

「サイトさん!」

空中からサイトに呼びかける。

「おう!」
「デルフを返してください!」
「まーだ、喧嘩の途中だ!そういうことは勝ってから言いやがれ!」

二人ともに、目を細め、歯を食いしばる。
ノーモーションで繰り出される巨人の腕。サイトはギリギリで避け返す刀でその腕にナイフを突き立てる。
ガラスをひっかいた様な音が響く。突き立てたナイフの刃先が折れる。
残りの部分で、足元を狙う。弾き返される。

サイトはナイフを捨て、マチェットを抜く。彼の心が震え始める。

半透明の巨人の足の太い円柱に火花が散る。起こしているのはサイトのマチェット。大木を切り落とすのこぎりの様に刃を押し当て、そのまま高速で回ったのだ。結果は当てた刃の部分がきれいに削れただけ。すぐに金属がぶち当たった音が巨人の全身から聞こえた。
マチェットの柄でぶん殴っているのだ。巨人の全身に綺麗な八角の波紋がそこかしこから浮かび上がり消えていく。

「堅ぇ!」
「おうよ、世界中から大砲を持ってきても、キズひとつ付きやしねえよ。へへへ、どうするね」
「うっせぇっての!」
「まあ、そういうな相棒。俺を抜きな。固いは脆いってことを教えてやるよ」
「殺すな、はどうした?」
「死にゃあしねえよ」

サイトは数瞬の迷いの後、マチェットをしまい、デルフに手をかける。その一瞬に巨人の平手がサイトを襲う。

「うごぉ!」

姿は巨人だが、動きは元のシンジの動きのまま。等倍に大きくした人のまがい物はしかし人の動きをも等倍のまま再現していた。
人の知性と虫の反射神経をそのままに、攻撃の通じない巨人がサイトを捕まえる。
手加減はできない。する暇がない。する余裕がない。はるか上方からの目線でなおサイトの動きは目で追うのがやっとだ。
今、一瞬だが動きの鈍ったサイトを必死に捕まえる。

「終わりです。サイトさん。さあデルフを」

巨大で透明な手がサイトの胴を掴む。しかし自由な左手がデルフを抜いて……。

襲いかかる激痛。

「うぎゃああああああああああああああ!」

シンジはサイトを持つ手を放し、巨人の姿のまま転げまわる。はた目には空中で体を回転させてるようにしか見えないシュールな光景だった。

「あちちちちち、なんだなんだぁ?」

宙に放り投げられ、そのまま地面に投げ出されたサイトはそんなシンジの苦しむ様子を見ていた。左手にはデルフリンガー。

「わりいなぁシンジ。勘弁しろよ」
「お前か!何したんだ?」
「したのは、おめえさんだろ」
「ちょっと払っただけだ、それもバリヤーだぜ。手足にすら届いてねえ」
「んんー、おめえさんは手が傷つけられたら手が痛え、足が怪我したら足が痛えって思ってるだろうが、違う。痛みってのは神経を通じた脳への刺激だ。そして脳は心の、魂の手段なのさ」
「し、知ってらあ。馬鹿にすんなよ」
「ほう、知ってたか、すげえな。……あれは心の壁なんだ。本来心を守るためにある壁を無理やり外に引っ張り出して障壁にしてるから頑丈で堅い。だがその裏には脆く弱く一番守るべき心を置いてある。だからちょっとの傷でああなる」
「ちっ」

サイトは舌打ちをした。

「どのくらい痛いんだ?」
「そりゃーおめえ……しらねえ」
「おい!」
「いや知らねえよ。骨折程度なのか、全身を火にあぶられたほどなのかは。それが、それだけがあいつのもんだ」


☆☆☆


痛い痛い痛い痛い。どこが?ワカラナイ。ニャニをされ?ワキャララララララ……。
怖い痛い怖い怖い痛い。敵わない。なにをしても敵わない。
僕の願いはいつもいつも叶わない。敵はいつも強い。強い。強い。怖い。悔しい。悲しい。恐ろしい。

ここには、敵の攻撃を受けた時、ハーモニクスを調整し痛みを緩和するスタッフも、シンクロ率を抑え衝撃を逃がすプラグスーツも、何よりも自分を守り手足となる汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンは存在しない。
彼の身に起こったことは、すべて自分で受け取り、解決するしかないのだ。

もう、デルフなんてどうでもいい。逃げろ逃げろ逃げろ、……。地の果てまで逃げて、そして?
逃げられない。僕よりも早い。恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。

なにが?
(死ぬのが)
なんで?いつ死んでもいいって思ってたじゃない。
(痛いのが)
それも死ぬまでのこと。
(デルフを置いていけない)
死ねばもう関係ないよ。
(君は誰?)
僕は僕、君は僕、僕は君、君は君。どうでもいいよ。何がしたい?
(逃げ……あの人に勝って、デルフを取り戻したい)
まずは彼に勝とうか。
(勝てない)
……でも努力はしてみようか。
(……)
逃げられないよ。
(逃げられない)
逃げちゃだめだよ。
(……)
逃がしてくれないよ。
「……………………そう、……逃げちゃ……駄目……だ」


☆☆☆


「うはっは、超絶痛そうだ」
「どこが痛いのかすら分かってねえだろうな」
「うっせっての」(立てよ立てよ立てよ立てよ立てよ立てよ)
「立てそうにねえな」
「なんでお前は、そんなに冷てえんだよ。前の相棒だろうが!」
(アイツに恐怖を刻むためさ)
「いやいや、俺は常に今の主人に忠誠を誓うものだ。戦場法に従い俺はお前さんのモノになった。したがってお前さんが勝てるよう力を尽くすのが俺の意義ってものだ。それに楽に勝てたろ?」
「うっせ。バーカバーカバーカ。……おっ!立つじゃん」
「んな?」(すげえなぁシンジ。尊敬するぜ。ホントによ)
「……しゃあねえな、もう2,3回突っついてやりゃアイツもあきらめるだろ」


☆☆☆


それは一瞬だったのかもしれない。目から焼け火箸をねじ込まれたような灼熱の時はすぎ、今はもうどこがどう痛かったのかすら思い出せない。だが恐怖の轍(わだち)は確実にシンジの心に刻まれる。
立ち上がり、サイトを探す。目の前がぼやけよく見えない。それはあまりの痛みに流した涙だと思い知る。腕で顔をグイッと擦る。きょろきょろと辺りを見渡す。
いた!先ほどの原っぱから動いていない。なぜすぐに追い打ちを掛けなかったのか?

「イカリィ!」

大声で呼びかけてくる。その手にはデルフ。フラッシュバックされる痛みの記憶。

(そうだ、あれはデルフが……)

恐ろしさに委縮し、ガチガチと歯の根が打ち鳴らされる。ぎりぎりと顎に力を込めて、それを止める。
サイトが片手で大上段にデルフを振りかぶる。今のシンジにとっては、口を開ければ悲鳴が漏れ出そうな恐怖の光景。だが、それはそのまま背中に背負った鞘に吸い込まれる。

「おいおい、何やってんだよ!」

デルフが抗議の声を上げる。
サイトはデルフを鞘に納め。さらに体に括り付けた紐をほどきデルフを体から離した。
そして、デルフを鞘ごとぶん投げた。自分の雇い主の元へと。

「だんちょぉー!預かっててぇー!」
「うひぃー、馬鹿馬鹿馬鹿。どうするつもりだぁー!ありゃ俺じゃなきゃ破れねえんだよ!」
「馬鹿はてめぇーだぁ!あれじゃおめえの力で勝ったみてぇじゃねーか!すっこんでろ馬鹿剣!!」
(やっべぇー。普通の馬鹿でよかったのに、ありゃ特大の馬鹿だ!)

シンジは唖然としてその光景を見ていた。恐怖に打ち鳴らされた歯は今度は悔しさに噛み締められる。
一瞬、放り投げられたデルフの方に向かおうかと思った心を強引に捻じ曲げ、サイトの方を向く。

「サイトさん」
「おう!」
「遠慮しませんよ」
「したらてめえの負けだ!かかってこい!」

サイトの手には、折れたナイフ。そして……、

高速で襲いかかる透明の巨人。サイトを捕まえ……。
衝撃が、背中に、響いた。

“ずうぅぅぅぅぅぅん!”

「がっはぁあ!」

サイトを捕まえる寸前に、その姿が掻き消えたのだけを覚えている。気が付いたら空が目の前に、そして背中からは衝撃が響く。

数瞬後、投げ飛ばされたことを知る。その一瞬後、首に違和感。サイトが頭を抱え再びシンジを持ち上げたのだ。

「かーるーいーぞー!」

ATフィールドの展開中は、重力その他の影響をカットすることが出来る。いやしてしまうというべきか。そのためこの方法で自分を全身ガードすると、非常に軽くなってしまうのだ。
かといって、足元を踏んばらねば高速の移動も、素早い攻撃もできない。
そのため、足元を非常に細くし地面に突き刺しながら移動している。だが、あまりに深く突き刺しても、これまた移動に支障が出る為、あまり深くは突き刺せない。

「リアル大雪山おろーし!伝説の山嵐!伝統の一本背負い!空中二段投げ!」

もしここに柔道家が居たら、思い切り指導が入ったであろう適当な技名を叫びながら、サイトは半透明の巨人を振りまわし続ける。いくらATフィールドが強固な壁といっても内部で発生する遠心力まで消せるわけではない。ときどき思い出したように地面に叩きつけられる。加速をつけてのそれは強力なG(加重力)となりシンジの全身を襲った。

「デル……」

何度目かの投げ落としの後、シンジは気を失った。






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