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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ
Name: エンキドゥ◆197de115 ID:24fff452 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/16 23:58
彼、平賀才人のこの世界においての最初の記憶。
鬱蒼とした森の中、とんでもないナイスバディのコスプレ美少女が、泣きそうな顔で木の棒を、自分に突き付けているところからだった。




「オッス、おらゴクウ!よろしくな!ところでおめえ、強そうだな。いっちょオラと戦ってみねえか?」

奇妙な挨拶をうけ、シンジは五秒ほど固まってしまう。だが彼はそんな奇妙な言葉とは裏腹に、シンジをじっと観察するような眼で見ていた。
さて、シンジの知っているゴクウとは西遊記に出てくる猿の妖怪の孫悟空である。

(ゴクウさんか、本物のロバ・アル・カリイエ(東方)人かな?)

シンジも相手をよく見れば、ジャバジャバの黒髪、低い鼻、丸い顔、黒く垂れた瞳、薄黄色い肌。なるほど懐かしい東洋系の顔立ちだった。

「……え、えっと、ゴクウさん、よろしく。……僕はそんなに強く」「まてまてまて、ちょっと待てぇ!」

また彼は、シンジの言葉を遮り、こめかみを押さえ、何か苦悶しているようだった。

(さすがに、ドラゴンボールは古かったか。これならどうだ!)
「海賊王に、俺は!なる!」

これまた奇妙なイントネーションと共にそういった。……空気が固まり、部屋の気温は三度ほど下がった気がした。

「あの、あの、頑張ってください……ゴクウさん」

その返事を聞き、少年はガックリと肩を落とした。


第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ


サイトは一人「ニューカッスル」城に乗り込んだ。まるで猿(マシラ)のように身軽に城壁を駆け上り、門扉の上に旗を立てた。本来ならここで鬨の声を上げねばならない。そうすることで、城が落ちたことを皆に知らせ、安心させるのだ。もちろんどこの誰が一番乗りかを知らせ傭兵としての名を上げる手段でもある。
だが彼はそうはしなかった

「よっと、旗を立ててりゃ充分だろ。なんか恥ずぃしな」

こんな理由であった。まあ、ある程度は外の兵士や傭兵たちが気が付くまでそれなりに旗を振ってはいたが。

城壁の上には何十体ものゴーレムが倒れていた。手足は崩れすぐにも土にかえりそうな風情だ。敵が来たら落とす予定だったのだろう、無数の投石ともに。
敵はいないだろうと思っていた。なぜそんなことがわかるのかはわからない。
城壁の上から、「ニューカッスル」城と、そこに突き刺さるように立つ奇妙な十字の塔を仰ぎ見る。

「まじかで見ると、でっけえぇなあ!東京タワーみてえ、よくこんな馬鹿なモンが立ってられるなあ」

「ニューカッスル」城に突き刺さる巨大な十字の塔は、いかにもバランスが悪そうだ。少しの風でもすぐに倒れそうである。しばらく見ていると、その色を赤から薄桃色に変化させ、時と共に薄くなっていくようだ。
しばし見惚れていたが、仕事中なのを思い出し、すぐにその城壁から降りた。

「ニューカッスル」城の中庭から城門を見る。でかい。見上げる。超でかい。
彼としては、門そのものを開けたかったが、その巨大な扉を支える鎖は太く、閉開のための機械は、これまた巨大な青銅製らしい巨人像の中にあるようで、どこをどうしたらいいのかわからなかったのだ。





「罠もなけりゃ、人もいないっと。さっきのおっさんは起こしたら一人でどっかに行っちまったしな。……あー、おっさんに扉の開け方を聞けばよかった」

失敗した失敗した、とつぶやきながら、奥へ奥へと進んでいく。次々と城内部の部屋の扉を開けていく。どこもかしこも空っぽだった。

“かつん”

頭の中に響くような音、自分を呼んでいるような気がする。

「あっちか」

本能的な、直観的なものに引き寄せられる。

(罠かな?いや罠はない。みんな死んでる)

常人にはわかるわけがない、そんな直観が頭でひらめくのだ。いくつか落とし穴があったがなぜか寸前でそれがわかる。ひょいひょいと回避してからそこらのこぶし大の石をぶん投げて穴をさらけ出しておく。あとから来るもののために。

「うう、めんどくせえ。おまけに気持ちわる!」

城の内部に入り込み、いくつかの扉を開きちょっと覗いては次の部屋に歩を進める。長い廊下をただ一人進んでいく。そして、とうとうその扉の前に立った。

「お邪魔しまーす」

そーっと扉を押しながら言った。気配がした。何の?それはわからない。危険はない。それも何となくだがわかる。だがいずれにせよ戦争中の敵の城でやるようなことではない。

その部屋は水晶に覆われていた。よく見れば水晶の外側に普通に壁やら家具やらが置いてある。少年には何のためにこんな部屋があるのかはわからない。ただ金持ちの道楽の一種だろうと思うだけだ。

「我の眠りを覚ますものは誰ぞ?」
「うお!!」

奥のほうから、そんな声が聞こえてきた。あわててドアの前から飛びのき身を隠す。

「あーびっくりした。あーびっくりした」

壁際に隠れそーっと様子をうかがう。だが物音ひとつ、気配ひとつ感じない。危険すら。

「えーと、どちらさん?」
「わが名を問われれば、伝説の魔剣デルフリンガー。かの「ガンダールヴ」の左手ぞ」

それを聞き、両手で小さくガッツポーズ。

(やりっ、インテリジェンス・ソードだ。欲しかったんだよ。団長は触らせてもくれなかったしぃ)
「そういうお主は、何者か?」
(きたきた。持ち主を選ぶタイプか。)
「あーあー、我こそはガンダールぶ。お前の新しい主人である」

気負いこんでそう言った。彼には魔剣の言う「ガンダールヴ」が何なのかはわからない。ただ歌に歌われるほどの有名な英雄か何かだと思っているだけだ。この魔剣を手に入れるため話を合わせただけだった。

「……んぶっ!」

笑われた。

「あー!て、て、てめ、笑いやがったな!」
「わりーわりー、あんまりノリがよかったんで、つい」
「きしょー!性格悪そうだなぁ。まあいいや、お宝、お宝っと」

その部屋に入り込み、目を見開いた。

「うおー、やった!人生の勝ち組確定!」
“ちゃーん、ちゃーん、ちゃちゃちゃーん”

彼の頭の中でファンファーレが鳴り響いた。
それは、その部屋にあった、常識外に大きな赤い宝玉を指して言ったものだった。

「運のよき者よ、これはアルビオン王家に代々伝わる世界一の秘宝、「千年竜の瞳」と呼ばれる魔宝珠。これを持つ者は永遠の繁栄を約束されるという代物だ」
「持ち主滅んじまったじゃねえか?」
「重くて持ってられなかった。……というオチだ」
「落語か!?それに、なんでいちいち口調を変える?」
「気分気分、なんなら女の声と口調にしようか」
「んにゃろ……そのまんまでいいよ。痛インテリジェンス・ソードなんていろいろといやだ」
「痛……なんだとぉ?」
「へへ、なんでもねーよっと」

そういいながら、背中の大きな背嚢(リュック)をおろし、間口を広げる。欲張って一番大きな背嚢を借りてきたのだ。件のインテリジェンス・ソードにはなぜか吊り下げるためのベルトまで着いており、こちらはひょいっと背中につるした。そして問題のでっかい宝石を背嚢に入れる。

「意外と軽いな、六十キロぐらいあると思ったけど三十キロぐらいか?」
「なんだぁ“キロ”ってのは?」

背中の魔剣が声を上げる。

「あー、俺の住んでたところの重さの単位。一キロってのはこっちでいうと、だいたい二リーブル……ぐらい?」
「ほー、どっから来た?」

その質問には、ちょっと眉根を寄せる。

「……まあ、言ってもわかんねえよ。超遠いからさ」
「ふーん。……ところでよ」
「ん」
「袋はしっかり担いだな?」
「おう!」
「よし、んじゃあ。俺を抜いて、走れ!」
「へっ!?」

ピシッだの、パシッだの、ガラスの部屋の中にいる身としては、盛大に不吉な音がそこかしこから聞こえてきた。

「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

慌てて、その部屋から、その城から逃げ出した。
背中の魔剣は抜く暇もなく持ってきたナイフを右手に掴んで。




根元が崩れ落ちると、あとは早かった。彼が侵入し見上げていたころは、まだうっすらとピンクがかっていた十字の塔は、彼が脱出を図っている時にはもう青みがかった透明になり。その不自然で巨大な形状を支えていたのであろう「力」が消失したようだった。
とてつもない轟音と共に真下に崩れていく、今は半透明となった十字の塔。
巨大である分その質量はすさまじく、「ニューカッスル」城はそこかしこが押しつぶされていく。

ところで、彼はどうしただろうか?仮にも「六十リーブル」もある宝石を背負い、それほど素早く逃げ出せるとは思えない。欲に負け、宝石を手放せず。崩壊する塔の瓦礫に押しつぶされただろうか。それとも命あっての物種と背嚢を捨て、身ひとつと剣一本だけを携えて早々に逃げ出しただろうか?

「うひー、死ぬかと思った。城壁が広いわ丈夫だわでギリ助かった」
「ご苦労さん、なかなかやるね」
「お、おう!任せとけってんだ!」

……生きていた。しかも背負った背嚢もそのままだ。どうやら彼は身体能力のほうも並ではないらしい。


☆☆☆


「あ~あ、潰れちまいやがんの。取り出せたお宝は剣一本と、その背嚢ひとつ分のお宝だけか」
「団長。そんなこと言わね~でよ。無事でよかった、ぐらいは言っても良いんじゃないっすか?」
「おめえが殺したぐらいで死ぬか。ばーか!」
「しどい!繊細な十代のガラスの心が傷つきました。シャザイとバイショウを要求します」
「時事ネタ禁止だって何回言やぁわかんだ。おめえはよ!」
「はひ~ん、だってだって」
「ああ、おめえと話してっと頭が痛くなってくんな。……それよかよ、なんか城のえらいさんがおめえに話を聞きたいってよ。うまくすりゃ背中のそいつを高く買ってくれるかもな」
「おお、ビジネスチャーンス。こんな飯のまずい国で傭兵すんのは、もういやだお」
「この!」

団長といわれる男が、拳を振り上げると、少年はひょいっと逃げ出した。ついでに振り向きつつ。

「はは、団長。高く売れたらいいっすねえ。戦争も終わりのようだし、みんな無事で国へ帰れそうじゃないっすか?」

振り下ろした拳をよけられつつも、そういわれると思わずにやっとしてしまう。

「おお、“戦は勝ちにてやみにけり、具足をしまって家路旅”ってな」

それを聞き、少年は男っぽい笑顔を見せる。

「団長は詩人だな。かっこいいや」

そういって走り出した。

「ああ、おい下の句を……ちえ、みんな無事なのは、半分ぐらいはおめえのおかげだよ」

走り去っていく少年の背中に、そう小声で投げかけた。


☆☆☆


だだっ広い荒れ地のど真ん中にその女は立っていた。黒いフードを目深にかぶり顔はよくわからない。それでも開いたフードの隙間からわずかに黒い瞳と黒い髪が見えた。どこの風習なのか、顔には黒く、化粧?刺青?わからないが目の下に薄く線が描かれている。そんな奇妙なところを除けばかなりの美人に見えた。ただし、きつめのお姉さんといった印象である。

むくけつき傭兵たちの中に一人、悠然とたたずむ女性メイジ。しかし、侮るもの、からかおうとする者はいない。彼女の周りを十体ほどの竜のガーゴイルが取り囲み、守っているからだ。彼らは生き物のように体をゆすり、また首をせわしげにゴリゴリと動かし辺りに注意を払っている。近づいてくるその少年にも三体ほどが注意を向け、警戒している。

「君が、「ニューカッスル」城の一番乗りで唯一の侵入を果たした者か?」
「ああ、……えっと。はい」

心ここに在らずといった返事を返す。「ニューカッスル」城でもそうだったがでかいものを見すぎて少し呆け気味なのだ。またこの女性を取り囲む竜たちも恐ろしくでかい。思わず見上げてしまう。
(すげえ、かっけええ!一体くんねえかな。どこで売ってんだろ?)

「その際、インテリジェンス・ソードを持ち出したと聞いてな。私の部下の可能性があり、こうして訪ねてきたわけだ」

それを聞き、ちょっとがっかりした。団長の言うとおり背中のお宝を買い取りに来てくれたのかと思ったのだ。

「できれば内部の状況も聞きたい」

貴族のお偉いさんで、しかも女性の身でここまで来るぐらいだから、よっぽど傲慢な対応をされると思っていたが、口調は丁寧で、変に見下すこともしない。へえっと思いながら説明を始めた。

「……そんで、そこにあったのがコイツなんすよ」
「我こそは、魔剣デルフリンガー。六千年の時をへて存在し続ける、生きた伝説ぞ」
「ぷっ」

笑われた。

「おうおうおうおう。ねーちゃん、なに笑ってやんでぇ」
「馬鹿、やめろ!失礼だろ!」
「くっくっくっくっく、……少年、それに魔剣よ。レーヴァティンでもテュルフィングでも構わぬが、デルフリンガーだけは駄目だ」
「えっえっえっ、どういう意味です?」
「簡単に言えば有名すぎるのだ。各王家に数本ずつ、それにちょっと気の利いた貴族や趣味人の金持ちの平民ですら一本ぐらいは持っている代物だ。いくつか真贋もわからずこれぞ本物と言いはっている貴族もいる。それに見たところ鞘も柄も立派だが、ちょっと立派すぎる。それに、こしらえが千年ほど前に流行った型だ。……作りがいろいろとちぐはぐだな。おそらくはここ五百年ほどに作られたものだろう。どれ」

そう言って、その女性はデルフを貸すように手を差し出した。彼も特に勘ぐるところはなく、背中の剣を差し出した。

「よっ、と……抜けんな」
「え、ちょっといいすか」

再度、その女性から剣を受け取り、柄と鞘を引っ張った。

“ジャリ、ジャリ”

砂を噛んでるような音とともに、少しずつ刃筋が見えてくる。五サントほど抜き出した時点で失望した。錆の浮いたぼろぼろの刀身が見えてきたからだ。

「あ~あ、本物かもしんないけど、こりゃ駄目だ」
「まあ研ぎにでも出すんだな。……残念ながら目的のモノとは違うようだ。邪魔をしたな少年」

そういって立ち去ろうと踵を返した。

「あ、あーちょっと待ってください!」
「どうした?まだ何か」
「いや、俺お城の中ですんごいお宝を見つけまして、買い取ってもらえないかなって」

“ドクン”
彼女の目が細められ、思わず唾をのみこみそうになる。

「ほう、だが見ての通り、金なぞ持っていないぞ」

なるべく気のないふりと返事を返した。

「いいっす、いいっす。見るだけ見て欲しいんすよ」

そういって、背中の背嚢を下した。中の宝玉に傷がつかないよう注意しながら。
入り口の口を縛っている紐を外す。そして一気にその口をさげた。

「じゃーん。千年竜の……」

彼の目が点になる。
彼女の目も点になる。
少年は慌てて、引き下げた袋の入り口を再度持ち上げた。
フードの女は、汚いものでも見るように眉根を寄せる。

「……傭兵どもには、その手の趣味のやつらが多いと聞いていたが……」
「アッー!げほげほげほ」

今何か奇妙な発言があったが、それは音速で空の彼方に消える。

「いやいやいやいやいやいや、これはなんかの間違いで」
「これを売るって事がどういうことかわかっているのか?……いや、これをどうこうする様な変態だとでも思ったのか。ごらぁ!」

彼の背嚢から出てきたモノ、……それは、全裸の少年。

「サマネヤ、テスファー、ワーヒド。このガキに少し女性に対する礼儀と、セクハラの対価というものを教えてやれ」

その女性は、自らを守らせていたガーゴイルの竜たちに号令を下した。
のっそりと動き出す金属製の竜たち。ガパリと開いたその火口のような口の中に、炎が氷柱が水球が生成されていた。

「あ、ちょ、ちょ、や、やば」

彼は急いで背嚢を背負い直すと、逃げ出した。


☆☆☆


「いや、なんちゅうか。女を怒らせる天才だな。おめえは」
「どぼちょーん。……もう居なくなりました?」

彼は、敵の魔法兵器の開けた穴に飛び込み難を逃れたようだった。未だにその穴から出てこようとはしない。

「ああ、それどころじゃねえみてぇでよ。竜どもを引き連れて瓦礫だらけの城にいっちまったよ。しっかし……すげえなあ。ガーゴイル竜を十体同時操作か。貴族派にゃあ、あんなのがごろごろしてんのかね?……んで、何がどうしてどうなった?」
「いや、……そういや、なんなんだ、こいつは?」

自分の背嚢の中の少年を見れば、黒髪と自分よりは幼いそして懐かしい東洋系の顔立ち。

(ひょっとしてこいつも?……)


☆☆☆


さて冒頭のシーンに戻ろう。

「……あの、あの、頑張ってください……ゴクウさん」

そういうと、彼はなぜか肩を落としひどく落胆したようだった。

「あの、どうかしましたか?」
「あーわりーわりー、同郷の人間かと思ってさ。俺は尻尾付き宇宙人でもゴム人間でもなんでもねえただの人間で、今言ったのは同郷の人間かどうかを確かめる符丁みたいなもんさ」
「あ、ああ。そうだったんですか?」(しっぽ?ゴム人間?)
「……んでさぁ」
「はい」
「なんなの君、なんで俺のリュックになんか入ってたの?ちゅうか俺のお宝どうしたの?」
「え?え?え?」

そんなことを言われても、今のシンジには答えられないことばかりである。

「へっへっへっへっへっ、新相棒よう。俺が説明しようか」

懐かしい声が、彼の背中から聞こえてきた。

「デルフ!」
「あん?この剣か」

首を縦にぶんぶんと振る。

「たくよ、自分の剣なら少しは……」

そういって、鞘と柄を思いっきり引っ張った。

“スパン!” “バゴン!”

空気が切り落とされたような音とともに鞘がはずれ、輝く刀身が現れた。その際、勢いがあまり鞘が地面にすっ飛んだ。

「ぬわぁあぁぁ!!あーびっくりしたぁ!」

形は変わらない、反りのない片刃の長刀のままだ。だがその刀身は神々しいまでの光を放っている。辺りに光源とおぼしきものはなく、その光が反射ではなく、まさにデルフそのものからの光であるとわかる。

「デ、ルフ?」
「おうよ、どうだい、これが俺の真の姿ってやつよ。どうだ、びっくりして惚れ直したか!」

しばらくシンジは声も出ないようで、その美しい刀身に見惚れているようだった。
そして、

「駄目だ!」

シンジは叫んだ。

「そんなんじゃあ、そんなんじゃあ、ルイズさんが判んなくなっちゃうよ。……戻ってよデルフ、元の錆さびの姿にさあ。ちゃんと僕が磨くから。さあ早く!早くぅぅうぅぅぅ!」
「……」
「わかったよデルフ。すねてるんだね。今後はいつも持ち歩くし、チェロを演奏するときはいっつも一番いい場所で聞かせるよ。……だからぁ!早くぅ!元のぉ姿にぃぃ!!」

奇妙な要求を狂ったように繰り返した。

「ちょ、ちょっとまてや、おい」
「あ、ああ。ゴクウさん。騒いじゃってごめんなさい。それにデルフをありがとう」
「ん~」

その少年は、困ったように頬を掻いた。

「まずは、サイトだ」
「えっ」
「俺の名前だよ、な、ま、え。フルネームは平賀才人。ゴクウってのは俺の国のまん……物語の主人公の名前だ」
「あ、そうだったんですか。すいません。僕はシ……イカリです」
「そっか、よろしくなシイカリ」(変な名前だな)
「……イカリです。僕のほうこそ、よろしくサイトさん」
「そいでなあ、……この剣なんだけど」
「え?ええ」
「今は俺んだ」






その言葉を理解するまで、十秒ほどかかった。そして理解をすると首筋にチリチリとした痛みが走る。手が震え、唇がうまく動かない。

「……違います。デルフは!」

激昂しそうになったシンジの言葉に答えたのは当のデルフだった。

「違わねぇ。俺はこいつのモンだ」
「デルフ!何言って……脅されてるの?それとも何かの対価のために……」
「違う。おりゃあ「ガンダールヴ」の左手だ。それは今も昔も変わることはねえし、交換条件もへったくれもねえ」

シンジは慌てて、自分の左手の甲を見る。有る。まるで木の枝のようなルーン文字がそこに焼き付いている。ついでに右手にも「ヴィンダールヴ」のそれがついている。
左手を上げデルフに示した。

「「ガンダールヴ」は僕だ!ちゃんとついてる」
「……」
「おいこら、ちょっと待て!」

サイトと名乗るその少年は、シンジの左手を見て声を上げた。

「え」
「その火傷跡……」

シンジはきょとんとしてサイトを見た。彼は何か考えに沈んんでいるようだった。
シンジは、思わず左手を隠す。今更ではあるが「ガンダールヴ」は秘密のことだ。

サイトは口をへの字に引き結び、不機嫌そうにしている。

「なーんだかな」
「どうしたい」
「愚痴っただけさ。なんでもねえ。さてっとイカリ、今更隠すなよ。両手と、おまけに額にまでついてるこれは」「ひたい?」

“ちゃき”
サイトは、光度を落としたデルフを横にして、鏡のようにシンジに見せる。そこには新たなるルーン文字が躍っていた。生え際近くのためそう目立たなかったが。

「なんだこれ……?」
「ミョズニトニルン。神の頭脳、知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す」
「え?」

デルフが、奇妙な歌を歌った。

「ついでだ、“神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
……そして最後にもう一人。記すことさえはばかれる……”」
「四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……ってか」

最後を引き取ったのはサイトだった。

「ま、桃太郎さんみたいな歌だろ、童謡だな。その四匹だか四人だかが犬、猿、キジに相当するわけだ。桃太郎さんは始祖ブリミルってやつだな」
「やつって言うな。英雄で、苦労人で??族のために……」
「あーわりぃわりぃ。この世界の神様みたいな人だもんな。気をつけるよ」
「軽いな、でも許す。なんせおめえはおれっちの“相棒”だかんな」

最後のセリフに、シンジが吠えた。

「違うっていってんだろぉぉお!デルフの相棒は僕だ!なんでそんなこと言うんだよ!」
「なあなあ、ちっと説明してくれよ。デルフでもイカリでもいいからよ。二人して何を言い合ってんだよ」

シンジは開いた口を、いったん閉じた。まじまじとサイトを見つめる。考えてみればここがどこなのかあれからどのくらい経っているのかわからない。彼の立場も正体も。

「僕は……」

彼はとつとつと説明を始めた。自分の立場のみをあいまいにして。

「ふーん、アルビオン貴族の下働きね。そいで逃げ遅れて、どうなったかわからんけど目が覚めたらここだったと」
「ちぃっと捕捉させてもらうと、でっけえ塔が立ったろう。あれに巻き込まれて命を落とすところだったんだが、ぎりぎりで「石化」の魔法をかけて難を逃れたんだ」

シンジはその説明に目を丸くしていたが何も言うことはなかった。

「って、ちょっとまて、じゃあ「千年竜の瞳」ってのは……」
「わりい。ま、そういうこった」

「ドチクショー!」





「断っておくけどよ。こいつニセモンらしいぜ」

サイトはデルフを握っていた。

「え」
「考えてみりゃあ、六千年も前の剣なんて存在するわけねえしな。コピーだか何だかなんだろ」
「関係ないです。デルフはデルフで僕の友達なんだ」
「ダチだってんなら、好きにさせてやったらどうだ。こいつは俺のところに来たいっていってるしよ」
「……デルフ。僕じゃなくてサイトさんを選んだのは、……僕が弱いから?」
「……俺は剣、こいつは使い手。俺は魚、こいつは水。俺は鳥、こいつは大空。強い弱いの問題じゃねえ。……だがよ、確かにそれもあるのさ」

シンジは伏せていた目を顔を持ち上げた。

「サイトさん、僕と……勝負してください」




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