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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第三十二話 無実は苛む
Name: エンキドゥ◆37e0189d ID:24fff452 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/17 00:09

「うっぎゃ――――!!!」

少女がその顔を手で覆い、悲鳴を上げた。

「な、な、なに!何が起こったの!」
「考えるのは後だ!壁が消えたぞ!」

使い魔を取り戻したければ、彼に再度の「コントラクト・サーヴァント」をせよ。けして「サモン・サーヴァント」をしてはならない
それが、ケテルとリリスに言われたこと。なぜわざわざ「サモン・サーヴァント」をするなと念を押したのかはわからない。「召喚の鏡」はただ使い魔となる生き物を運ぶだけのゲートのはずなのだが。それに、こんなに近くにいることが分かっている相手に使う呪文でもないだろう
ともかくも壁は消え、シンジとルイズを隔てるものはなくなった。だが、すばやく動こうにも水中のこと、歩くのにも抵抗がある。だが泳ぐようにルイズはシンジに飛びつく。アスカはそれどころではなく苦しみにのた打ち回っている。それにかまわず仰向けのシンジに馬乗りになる。

大急ぎで、呪文を紡ぐ。

「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

途中で、デルフに言われたことが、彼女の胸を苦しめる。

「五つの力をつかさどるペンタゴン」

(どうか、始祖ブリミルよ。この者に苦しみでも悲しみでもなく)

「この者に祝福を与え」

(未来と安寧を与えたまえ)

「わが使い魔となせ!」

そして杖の先端を額の上に、唇を使い魔の唇の上に。


第三十二話 無実は苛む


水中に浮かぶ赤い月。
遠くに浮かぶ無数の光点。
何条もの光源のわからぬ四方からの光の束。
水面そのものの色が、赤から紫に、そして虹のごとく、ゆっくりと変化していく。
なにかざわざわとルイズの耳に聞こえてくる。女性の荒い息や笑い声、言葉にならない悦楽の声。
そして……。

「チッ、先生のところにいるからって、いい気になりやがって!」
「もう、うっとおしい子ね」
「じゃまなのよ」
「何も自分一人で出来ないくせに」
「テストが一番だからって、何も話せないじゃないか」
「バカバカしくって、話さないだけよ」
「ケッ、お高くとまりやがって、何様だよっ!」
「一緒にしないで!」
「あんた見てると、イライラすんのよっ!」

「本当のことは、みんなを傷つけるから」
「それは、とてもとてもつらいから」
「曖昧なものは、僕を追い詰めるだけなのに!」
「その場しのぎね」

「このままじゃ、怖いんだ。いつまた僕がいらなくなるのかも知れないんだ!ザワザワするんだ!落ち着かないんだ!声を聞かせてよ!僕の相手をしてよ!僕にかまってよ!」

「あんた、誰でもいいんでしょ。ミサトもファーストも怖いから、お父さんもお母さんも怖いから、私に逃げてるだけじゃないの」
「それが一番ラクでキズつかないもの」
「ホントに他人を好きになったこと、ないのよ」
「自分しか、ここにいないのよ」
「その自分も好きだって、感じたことないのよ」
「哀れね」

「助けてよ!ねぇ、誰かお願いだから僕を助けてよ!!僕を一人にしないで!僕を見捨てないで!僕を殺……」

なんだ、いったい何が聞こえてきているのか?シンジを罵倒する無数の声、必死になって哀願するシンジの声。

「シンジ、お前がこれに乗るのだ」

うって変わって、中年男性の声。反響しているのか酷く大きく、そして冷たく響いてくる。

「父さん?……なんで僕なの!いままでほったらかしにしてきて、こんなことのために僕を呼んだの」
「そうだ、お前がやらなければ人類すべてが死滅することになる」
「いやだ!なんと言われたって、いやなものはいやだ!」

父?!この酷薄そうな声はシンジの父親の声なのか?およそ肉親に向けていいような、情のある声ではない。

「そうか、……わかった。お前など必要ない。帰れ」
「帰れ!必要ない!お前など必要ない!……」

“ばしゃん”

水中なのに、どこかで水音がする。とたんに周囲は静まり返り、薄桃色の霧の中で静寂が訪れる。

(ルイズ!)

デルフの声だ。どこにいるかはわからない。だが向こうはこちらを認識しているようだ。

「デルフなの?今どこにいるの?何も見えない。シンジはどこ?」

(アイツを呼びな。声が特異点となり世界に輪郭を与え、接点よりその精神を同期させ、二人の姿を固定する。そしたら、その手のものを渡してやんな。あいつも探してるだろうからな)

奇妙に反響する声、まるで頭の中でデルフが喋っているようだ。手を見れば奇妙な文字列がクルクルと回りまるで網で作られた球体のようだ。その内側の青い光を覆い隠して。

「ここはどうなっているの?外のみんなは、あれからどのくらい経ったの?」
(ここはシンジのパス(経絡)の中だ。わかりづれえだろうが、ご主人は今情報になってる。俺もな。ご主人のせいで引っ張られちまったようだな)
「ブリミル様の伝説にある、遠隔念話(テレパシー)のようなもの?」
(んー違うだろうな。一応くっついてるしよ。外は一秒も過ぎてねえ。『始祖のルーン』が必死にコイツを押さえ込んでる……一応“あいつ等”もだな。目的は同じようだ)

デルフが何を言っているのか、いまいち良くわからない。多分時間が止まっているわけではなく酷くゆっくりになっているのだろう。以前シンジが言っていた、ガンダールヴの発動中の現象と同じことが、彼にコントラクト・サーヴァントを行った瞬間より起きているのだろう。

(シンジ、シンジ。目の前にその姿を現して頂戴。)

ルイズは念じる。すると薄桃色の霧は晴れ、目の前には、どこか遠い異国の情景。夕暮れ時。四角と三角の巨大な建物、直線的な町並み。それは子供が始めて描く幼稚で単純な絵の中にのみ存在するような町に見える。その中の小さな公園。そして砂場で一人泣いている子供。

「シン……ジ。なの?」

泣いていた子供は振り返りルイズを見る。

「……」

あどけない幼児の顔立ちに、確かにシンジの面影がある。

「ヒッ!」

一声、息のつまった悲鳴。ルイズは直感的にシンジの恐怖を感じ取る。ギュっと胸がつまる思い。
シンジは逃げ出した。

「あっ、コラッ!」

逃げる、逃げる、逃げる。追いかける、追いかける、追いかける。
姿は子供なのにすばやい。ルイズはあっというまにシンジを見失った。
違う場所に出る。町のコンセプトは変わらない。四角と三角、直線的で単純な、しかしその規模が桁違いに大きな町だ。ふと空を見上げれば、何の冗談か天井がある。まるで、物語にある世界樹の中の町ホッドミミルのようだ。
人影を見つけた。急いで追いかけると階段があった。長い長い地獄まで続くのではと思えるような長い階段だ。道は一本、駆け下りる。

“ガコン”

何かがはずれたような音。それと共に階段が勝手に動き始めた。その手摺りと一緒に。なんという仕掛けだろう。まるで自分が小さくなって、町の時計台の中にでも入り込んだようだ。
ルイズは自動的に動く階段を待たず駆け下りる。
奇妙な町並み、人っ子一人、馬車一台、猫の子一匹見当たらない。
ルイズがそう思ったとたん、四角く巨大な町並みから人が湧いて出てきた。とてつもない喧騒と共に。ルイズは思わず耳を押さえる。そのまま湧いて出た人々を見れば、歩くものすべてに顔が無かった。それらはすべて人形だ。恐怖は無かった。デルフにここはシンジのパス(経絡)の中、要は心の風景を見せられているのだろうと理解していたからだ。

「デルフ!」

(あいよ)

「残り時間は?」

いつまでも、ここにはいられない。敵も迫ってきているだろう。外においてきたギーシュ達も心配だ。時間の流れが違うとはいえ、止まっているわけではないのだ。

「この中で、二分ちょい」


☆☆☆


「あーいたいたぁ!おねーさまぁ!」

その奇矯な声で思わず四人と一体は振り返った。

「「「「ひいっ!!!」」」」

そこに現れたのは、素っ裸の幼女。脇に抱えたモグラのヌイグルミが可愛らしい。
脇を走る子供のグリフォンが近づくにつれ、巨大になっていく。もちろん目の錯覚だ。隣を走る幼女が巨大なのだ。体長三メイルオーバーの巨大な幼女、脇に抱えたヌイグルミに見えたのは、なんとギーシュの使い魔たる『ヴェルダンデ』だったのだ。

「あー来た来た。こっち!こっち!」

ケテルが手を振り、声をかける。その様子にキュルケが問いかける。

「あ、あれもあんたのお仲間なの?」
「え?彼女は……」 “ごん”「痛た!」

シンジの姿をしたスキルニル「ケテル」の後頭部が鈍い音を立てる。タバサの持つ長い杖(スタッフ)が“偶然”あたってしまったのだ。

「失礼」
「……気をつけてくれよ。……全員そろったみたいだし、僕も用事がある。君らにはとりあえずここから離れてもらいたいな」
「何を言って……」

ギーシュが抗議の言葉を言い終える前に、ケテルの右手にあるルーンが光りだす。


☆☆☆


(ほい、三十秒経過。あと一分と半)

このシンジの心象風景であろう町の中は広大だ。果てが見えているとはいえ王宮どころかトリステイン一の町、王都トリスタニアにも匹敵するだろう。こんな中でシンジを見つけるなど一週間あっても足りないかもしれない。
だが……。

(へへ、ヒント欲しいかい?)
「いらない!」

ルイズはどこかの適当な建物の壁に手を付け叫ぶ。

「シンジ!」

その瞬間、世界は崩壊した。ぐるぐると天井が螺旋状にゆがむ。町が人が光となりルイズの掌に集約されていく。まぶしい光は徐々にその輝きをおさめ赤い発光体に変わり、それは人の姿に戻っていく。

(正解!)
「あんたの余裕の態度が、すなわちヒントよ」
(さすがご主人様だ。心が作る内なる世界は敵を倒すにゃ最適だろうが……)
「かくれんぼには、不向きよね」


☆☆☆

「だんちょー!大丈夫っすか?」
「お、おう!いったい何がどうなった?」
「いやぁー、俺もよくわかんないっす。とりあえず敵の砲台はぶっ潰してやりましたけどね」
「なにぃー!」

その男が「ニューカッスル」城の上空を見れば、なるほど先ほどまで猛威を振るっていた風石の塊のような「魔導体」は消え去り、赤く巨大な十字の塔のみになっていた。それも心なしか縮んで見える。

「んで、何してんだおめえ!」
「なにって、……団長の介抱してんすけど……」
「ばっばっば……バカヤロゥ!!!とっとと一番乗りして来い。ほいでおタカラ、おタカラ、おタカラだ!!」

少年は、大男の団長の罵声でのけぞった。

「んでもぉ……」
「いいから、いけって。ちゅうか行ってくれ。おめえが一番乗りなら、うちの団の格が上がんだよ」

そう言われ、腰を浮かせた。

「ああ、ちょとまて。旗もってけ。んで目立つとこにぶっさしとけ。一番乗りー!ってな」

その男の乗馬であるスレイブニルが近寄ってきた。どうやらこいつも無事だったようだ。
鞍脇の物入れに丸めていた旗をその飾り棒とともに渡す。というか押し付けた。

「俺ら、傭兵っしょ。んなことして大丈夫っすか?」
「文句言われたら、はずしゃあいい。ほれいけ、すぐ行け、とっとと行け。他の奴らが気が付かねえうちにな」


☆☆☆


「ルイズさ」「黙れ!目をつぶれ!歯を食いしばれ!」

シンジは言われた通りギュッと目をつぶり、顎を引いて唇をかみしめる。

(いや、何をするつもりだよ)
「プロミス・サーヴァントを行うわ」
(時間が……)
「うっさい!」

使い魔を呼び、おのれに従属させる儀式の手順は本来であれば三段階。
まず、サモン・サーヴァントで召喚の鏡を作り出し、使い魔を呼ぶ。次にプロミス・サーヴァントにて従属させるための条件を提示する。お互いに納得がいった場合にのみコントラクト・サーヴァントが行われるのだ。言葉を理解する幻獣が召喚されなくなりすたれてしまったが。

「私は誓う。この哀れな心の迷い子を、孤独な魂の使い魔を、私の力で必ず幸せにしてみせる!」

シンジはゆっくりと目を開ける。だがどこか怯えた様に怒ったようにルイズの視線からその眼を外す。

「だけど、……だけど僕は、わからないけど、きっとモンスターだ。最低の怪物だ。いつかルイズさんに迷惑が……」
「そうね、怪物よ。でもそれがどうしたの?使い魔はモンスター。当たり前の話……そばにいなさいシンジ。もう一つ誓うわ、決して裏切らないことを」

シンジは、はっとしてルイズを見る。決意に満ちたその薄い茶色の瞳を。
そして、何も言わずただうなずいた。

「では、受け取りなさい。これが契約の証、メイジとのライン、私の心のパス」

ルイズは手を伸ばし、シンジもおずおずとその手を差し出す。
ルイズはその手を翻しシンジの手をつかみ引き寄せる。あっという間もなくその頭をかきいだく。力の限り。

「恐れないで、モンスターなんでしょう」
(御始祖よ、もう“銘付”などと贅沢は言いません。最低源の水とマウラー(人間のルーン)のみで結構です。どうか、どうか……)

一瞬の決断、その手を緩めシンジの目を自分の視線で射る。目を合わせたままその顔を近づけていく。

そして、輝く光の渦。


☆☆☆


「よう、遅かったな」
「してやられたってとこかい?」
「もう一人のやつも中にいたやつも単純で、なかなか笑えたぜ。んでも、おめえさんは駄目だ。なんかやばい感じがビンビンだ。だが、ちっと邪魔しないでくれればそれで済む」
「……」
「早く戻んな。消えっちまうぜ」
「へえ、いいのかい」
「もう俺に何ができる?やることは全部やったしな。あとはなるようになるだろうさ」


☆☆☆


「ニューカッスル」城の地下港、屈強な男たちと縛られた五人の囚人たち。それらを照らす松明の赤い炎。ここはむき出しの風石の屑石が多く松明がなくとも歩く程度なら困ることはないが。

「何か言うべきことはあるか?」

新王ウェールズのブレイドが、囚人の肩や腕、胸、頬、頭に触れる。そのたびブレイドの先端が赤い霧を飛ばした。
だが、どうも様子がおかしい。ブレイドで肉を削られるのはとてつもない苦痛だ。大の大人でも泣きわめく、そうでなくとも呻き声ぐらいは上げるはずだ。いくらなんでも身じろぎもしないというのはおかしすぎる。

「おい」

ウェールズが、軽く顎を捻る。手慣れた部下たちは慎重に囚人たちの様子を見た。

「死んでます」
「ちっ、死霊魔術か。なんでわからなかった?」
「それはじゃな、こういうことじゃないのか」

皆はぎょっとして、声の主を見た。

「父上……?」

倒れていたジェームズ一世が何食わぬ顔で、囚人たちの検分に加わっていたからだ。
その手は、彼の旧友でありアルビオン王国の重鎮でもあった今は囚人の一人パリーの首にかかった。
その首から“聖具”と呼ばれる十字架をさげたネックレスが出てきた。ネックレスとは言っても首にかかる部分は鎖ではなく厚めの金属で出来た棒状のものをひん曲げた形状のものだ。それが首にそって曲げられ目立たないようになっている。
ある程度以上の貴族なら、これがなんなのかを知っている。高度な『フェイス・チェンジ』の魔法が付加された魔導具だった。
それを外されると、パリーではない知らない男の顔が現れた。そしてその者もすでに事切れている。

「入城管理官の長が偽物では、侵入し放題というわけじゃな」
「そんなことより父上!なんで生きているんですか!」
「……知らん。確かにこいつのブレイドで胸を突かれた筈なんじゃが」

知らないふりをしているが、嘘だ。水メイジの「診断」をごまかせるはずはない。
ウェールズは疑いの目で、父を見ている。
“おほん”と空咳を一つ。

「あー何か奇妙な空気が襲ってきてな……うまく説明できんな。パリー……はおらんかったな」
「実は父上……」

ウェールズはこちらに来る途中であったことを皆に説明した。奇妙な空気の境界線のこと、ワルドの裏切りと、襲われた際にもブレイドに突かれたが無事だったことなど。

「ふーやれやれ、神の救いの手は随分と大雑把じゃな。わずかな間とはいえ魔法をお消しになったと」
「い、いや自分の時は壁が……」
「壁?エア・シールドか?」
「わかりません。呪文は詠唱途中でしたし、魔法を消した奇妙な空気はその時にはまだ……」
「まあ、今はそんなことを言っている場合ではない。「イーグル」号はどうじゃ」

鎖で固定されているとはいえ、その鎖の長さいっぱいに天井に張り付くように斜めに張り付いている「イーグル」号は、徐々にだがその高度を下げてきた。
これは甲板員の手柄ではなく、先ほど空気が変わってから空船内の「風石」の暴走が止まったためだった。

皆、「イーグル」号に駆け寄り、点検を開始する。

「右舷砲、異常なし!」「左舷砲、全台固定台よりはずれ、大砲そのものは損傷わずか!戻しに十分!」「横帆異常なし!」「縦帆損傷軽微!」「右舷側帆マスト半壊!しかし修理に十五分もあれば!」「航行舵輪及び航行装置に異常なし!全フラップ起動正常!」

次々と装備の点検状況を報告する。

「……風石、四分の一に減少!予備は……消滅!」

悲鳴のような絶叫で、その報告が入った。

「ちっ、調達班!」

何人かの土の系統を持つメイジが壁に走る。ここはもともと風石の採掘抗の跡でもある。クズのような風石でもかき集め抽出と融合の「錬金」をかければアルビオン大陸の下をぐるりと回り、敵に奇襲をかける程度の風石は手に入るだろう。そう思っていた。

「こちらの壁、風石含有ゼロ」「こちらも!」「こちらもです!」
「な、にぃ!!」

あわてて、地下港の巨大な縦穴を上から見下ろす。常に青白い光をぼんやりと発する縦穴の壁の光がすべて消えている。発光ゴケは風石をその身に取り込み発光する。それがすべて消えてしまっていた。

「なにが起こった、何が起きたのだ!」


☆☆☆


ルイズは扉の外に押し出された。シンジはいない。外で待っているはずのギーシュたちまで。
恐ろしいまでの静寂。戦争中とはとても思えない。

「ルイズさん。行こう。逃げよう」

いつの間にそこにいたのか、シンジが立っていた。服装は先ほどケテルが来ていたものだ。ルイズが何か言おうとするのを少し悲しげな眼で止める。口元は薄い笑みを浮かべている。そして彼女の手を取って走り出す。

「あ、まってデルフが……」
「あります。背中に」

見れば、シンジの背中に魔剣デルフリンガーが結わえられていた。なぜ気が付かなかったのか?

「みんなは……」
「脱出しました。シルフィードとバルバリシアに乗って城の裏手から。あとは僕とルイズさんだけです」

なぜそれがわかるのか?問いを発することも答えを聞くこともない。

「あんた、ケテルじゃないでしょうね?」
「誰ですかそれ?」
「あんたの……」(アガシオンじゃないの?)

なんて馬鹿な質問、妄想の産物、聞くことはできない。

「デルフ、デルフったら」
「今、疲れて眠っています。どうか起こさないであげてください」

二人は走る。どこに向かって?先頭はシンジだ。いくらか走っていきなり止まる。城の一階のなんということもない廊下の途中で。シンジは近くの壁を押し始めた。ここは地下港への秘密の入り口だ。二人とも来た時に見たから知っている。

「うーん、開いたよ。ルイズさん行こう」
「まって、地下港に今から行っても無駄よ。もう船はないわ」
「大丈夫、……大丈夫です」

どこか遠くを見るような眼をしてそういった。


☆☆☆


「こちらのレビテーションは足しにならないか。これなら系統に関係はない」
「ですが、集中力が持ちません。どんなに風がよくとも三時間は見なければ、人員、船体の重量を考えますと、交代でいってもとても」
「それに、現場について戦えなければ意味はありません。敵地についたときに疲労困憊で精神力枯渇では」
「せっかくの“ガンダールヴの杖”が意味なしか」
「こちらも昨日に比べ、力が落ちているような。ざっとですが三日ほどでもとに戻るようですな」
「伝説の魔杖も明日までか、ほおっておいても三日、使えば使っただけ減りが早くなる」
「くそ、チャンスだ。チャンスなんだ。それが風石がないだけでつぶされるのか」

「レキシントン」がつぶされた今、敵の目がすべてこちらに向いている今が最大の反攻のチャンスである。「レコン・キスタ」の主城はわかっている。

“どごんっ!”

いきなりの爆発音で、肝をつぶされる。見ればたった一つの入り口の扉が破壊され穴が開いていた。
色めき立つ兵士たち。

「アッ」
「よかった、まだ出発してなかった」
「あああ、ごめんなさい誰もいないと思って……」

開いた穴から顔をのぞかせたのは、トリステインの大使殿と件の使い魔の少年だった。

「大使殿、まだ逃げていなかったのですか?ミスター・ガンダールヴも」
「はい、すいません。逃げ遅れちゃいまして、……みなさん逃げ出すところですよね。彼女を乗せていただけませんか」

それを聞きウェールズが眉をひそめる。

「ミスター・ガンダールヴ。すまないが王家に逃げるという選択肢は……」“どがっ”

言い切る前にウェールズの頭をドついたのはチャールズ一世だった。

「そう、情けなくもみじめにも、みんな揃って逃げ出すところですじゃ」
「父上ぇー!」

いきなりドつかれて椅子から転げ落ちたウェールズだったがすぐさま立ち上がり怒声を発した。

「なんじゃい。でかい声を出しおって」
「王に逃げはなし、最後まで戦い王の王たる所以を見せる。そう申されたのは父王ではありませんか!」
「状況が変わった、今は耐え未来を見よ。なーんてありがちなことは言わん。それに今の王はお前じゃ。したがってこれは反乱である」

そう、言い切った。

「え、え、え、あの……」
「大使殿、あぶないです。どうぞこちらへ」

兵士の一人が、ルイズとシンジを誘導した。皆が皆、王家の親子から距離を取る。

「砂時計もってこい、十分計のやつ」

どこかでそんな声がした。

「くそ親父、今日こそ引導を渡してやるぜ!ついでに王位をたたき返す」
「ほ、馬鹿息子よ。なんか勘違いしとりゃせんか、王なったからと言っていきなり強くなるわけではないぞ。ついでにそのセリフは矛盾しとる」

二人はにらみ合い、双方が杖を取り出した。チャールズ一世は先祖伝来の銘杖(ケーン)グラムを両手持ちで横に構える。長杖(スタッフ)に珍しく真っ直ぐな六角棒の形状を持つ。その全身にはびっしりとルーンが刻まれている。
対するウェールズは、こちらも先祖伝来の王笏(セプター)フロッティを手にした。こちらは前述のとおり魔法を補佐強化するための魔宝珠がちりばめられている。
そして、両方にシンジの「祝福」を施してある。
ザッと両者が距離をとった、素早い呪文詠唱でその先端に巨大なブレイドを発現させる。
それを合図に砂時計がひっくり返された。

「三分!」「四分!」「二分!」「おーい!こっちから見えねえよ!場所変えてくれ!俺も三分!」「おめえは黙って、修理してろ!五分!」「四分!」「最近の陛下の成長っぷりを知らねえな!五分!」

「あの、あの」
「ん、どうされた?」
「敵が迫ってるのに、こんなことしてる場合じゃないとか、王様が反乱とか、細かいところは置いときまして。なんでみなさん時間を言い合っているんですか?こういう場合王様か皇太子様の名前で声援を送るのでは?」
「ああ、まずは皇太子殿下におきましては、先ほど王位を継承なされた。したがってウェールズ殿下は陛下となったわけです。現王は古の習いにより「国父」とならせられた。おお無論、権力はすべて王に属します。したがって国父殿のやりようは誠に不遜極まりなく不敬のいったり来たりで嘆かわしい。王の怒りも有頂天!怒髪天を突くとはまさにこの事。王みずからこれを誅し、もって鼎の軽重を正す所存ですな」
「はあ、はあ」
「時間については、じきわかります。どうぞ大使殿におかれましては、ゆったりとおくつろぎを」

その兵士はかしこまってそう答えた。

― 三分と四分の一経過 ―

「強く、なったな。ウェールズ」
「ち、父上」
「まさか、わしに傷をつけられるほどになるとはな。いやなかなか」
「父上ぇー!その足をどけろ―!」

突っ伏したウェールズの頭に乗せたその足をぐりぐりと動かす。

「痛い、痛い、痛い、痛い」

ものすごい戦いだったことだけをここに記しておく。結果はウェールズの負け。

「へたれー!」「かすー!」「せめて五分は持たせろよ!」「根性なし―!」

どうやら賭けに負けたらしい兵士たちから、罵声が飛ぶ。

「ちゅうわけで諸君、君らの王の命はわしの一存で決まる。これの命が惜しいものはわしの言うことを聞くように」
「へーい」「はーい」「うーい」「さーいえっさー」

残念ながら、王を人質にとられては言うことを聞くしかない。皆、無念を押し殺し務めて明るくふるまっている。返事も棒読みだった。


☆☆☆


「おお、大使殿、見苦しいところをお見せした。どうか勘弁してほしい」

国父となったチャールズ一世が、気絶したウェールズ王を船倉に閉じこめるよう命令をしたあとルイズに話しかけてきた。

「い、いえ」
「そうそう、勘違いしないでほしいのじゃが、アルビオン王に逃げはありませんぞ、逃げたのはこのわしです。そうご記憶願いたい」

ルイズは小さく「あっ」と小さく声を上げる。

「国父様のご深謀、誠に驚嘆を禁じえません。御尊敬申し上げる」
「なーに、ジジイには他に能がありませんでな」

この時、ルイズの斜め後ろで顔を伏せていたシンジが国父に向かい平伏していった。

「すいません国父様、ルイズさんの乗船を、お願いできますか」
「無論じゃ」

なぜか、チャールズ一世は眉を寄せ不機嫌そうにぶっきらぼうに返事を返した。

「あんたもでしょ。ゴホン!国父様。あのわが使い魔の乗船もお願いを……」
「駄目じゃ!」

その意外な答えにルイズは目を丸くする。

「薄汚い平民をわが栄えある「イーグル」号に乗せるなど先祖に対する裏切りじゃ。王侯たる我に普通に話しかけることすら万死に値するというのに。船に乗せろじゃと、同じ空気を吸っているだけでも身震いしそうじゃ。御免こうむる」
「こ、国父様。そ、そのような……」

ルイズは震える。あまりに意外なその身分差別発言に言葉が出てこない。

「いいんだルイズさん、国父様ありがとうございます」
「口をきくなというのがわからんか、薄汚い異民族のガキめ。とっとと消えんと我が魔法が貴様を吹き飛ばすぞ!先日はなにがしかの役に立つというからわが前に立ち謁見を許したというに!勘違いして増長したか!」

だが、どのように罵倒されても、シンジの表情に変わりはなく薄い笑みを張り付けたままだった。

「いいんです。何も国父様がそのように憎まれることはありません」
「……わが好意を受けられんと?先日の礼のつもりなのじゃがね」

うって変わり口調は穏やかに、怒りに満ちたその顔は悲しげなそれにかわった。

「……すいません一つだけ、僕は下手でしたか?」
「……その歳にしては、うまいほうだといっておこう。だが正確な式と精密なイメージができていないからちぐはぐになる。魔法に大事なのはパワーではなく流れを感じ支配することじゃ。大河に浮かぶ小舟の一片の櫂(かい)であることを自覚することじゃ。振り回しても振り回されても船は進まん」

シンジは黙って平伏する。ルイズには、二人が何の謎かけをしているのかわからない。

「古き伝説の使い魔よ、やはり「ガンダールヴ」はつくべき者につくのじゃな。では後は好きにしなさい」

そういって、離れていった。

「どういうこと……」
「わかりません」

シンジは口元を手で隠しそういった。

「デルフ!起きなさい!デルフ!」
「……」

デルフは何の反応もしない。ただの器物のように使い魔の背中にあるだけだ。
シンジは顔をそむけ、もう何もしゃべらない。おかしい、だが、何がおかしいのかわからない。
乗船の合図があった。シンジは黙ってルイズの手を掴み、船へと引っ張っていく。彼の背中がまるで他人のようだ。デルフの鞘はこんな色だったろうか、長さはこんなに短かったろうか。

船のタラップに足をかける。

「あんたも早く!」
「僕は平民で使い魔ですから、一番後に」

乗り込むものは数多く、ぐずればそれだけ後ろが詰まる。ルイズは走って乗り込み船べりに場所を取った。シンジを見張るためだ。なぜか一瞬たりとも目を離すわけにはいかないような気がするのだ。シンジもルイズを見ている。

そして、人がすべて乗り込むと飛べない使い魔たちが乗り込む。さすがに狭い。翼ある使い魔は空を飛び船についていく予定だ。シンジはまだ乗り込まない。

「大使殿」

国父チャールズ一世が後ろから声をかけてきた。ルイズはさすがに振り返らざるをえない。

「おい、あの少年が消えたぞ!」「なに!見間違いではないのか!」

ルイズはその声に、あわてて視線を戻した。いない、シンジがいない。はっとして再度振り返る。チャールズ一世は困ったような、哀れむような顔をしていた。

「すまんな大使殿、彼はどうやら“偏在”のようじゃったのでな」

その声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。


☆☆☆











☆☆☆



シンジは目覚めた。天井を見れば布製で、どうやらどこぞの天幕のようだった。未だ、覚醒は不十分で夢の世界に片足を突っ込んでいる状態である。手足は、動く、体の異常は特になさそうだった。

「お。おーい!目覚めたみてえだぞ!」

男のガラガラ声が、足元で聞こえた。外の誰かに叫んでいるようだ。体を起こし、その声の主を見た。大柄な体、灰色の髪もじゃもじゃのヒゲ、身に着けた簡易な鎧、腰には太く長い剣が下げられている。どうも傭兵らしい。

どたどたと足音が近づいてくる。布製の入り口が開いた。現れたのは16~7の少年だった。
黒い髪、黒い瞳、濃紺と白の薄汚れた短めのフード付きローブを羽織っている。パッと見、町の作業メイジに見える。

「あ、あの……」
「待て待て、ちょっと待て」

彼は、シンジが何かを言いかけるのを、手で制すると。近くの椅子を引き寄せ座った。
そのあと、空ぜきを二三回。胸をはり、手を握り締め何かを覚悟しているように見えた。
どうやら、なにかの覚悟が決まったようで、彼は言った。

ああ、ああ、どうかアルカディアの聡明なる読者諸兄よ。呆れないでほしい。怒らないでほしい。彼は確かにこう言ったのだから。

「オッス、おらゴクウ!よろしくな!ところでおめえ、強そうだな。いっちょオラと戦ってみねえか?」




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