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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第二十九話 領域
Name: エンキドゥ◆197de115 ID:130becec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/10 05:28


「く、くそ。何がどうなってやがる!」

ワルドは一人毒づいた。
割れたステンドグラスの穴から「フライ」で逃げようとしたのだが、発現したのは「レビテーション」のみ。仕方なく壁をけり、後ろに回り開いた扉から逃げ出したのだ。
精神力が枯渇したわけでもないのに、展開した魔法結界は“風”を掴まなかったのだ。

(魔法が消えただと?!)

そんなはずは無い、現に「フライ」を唱えた時も「風」は自分を運びはしなかったものの、浮かび上がらせてはいる。
また、「ブレイド」の光も杖先に展開中だ。但しこの高圧魔法結界も光っているだけで、その周囲に高速の風を巻き込んではいない。「地下水」に貰った薬のせいかとも思ったが、それならばこのように魔法結界だけが展開することもありえない。
ワルドは経験も実力もある当代一流の「スクエア・メイジ」だ、知識に関してもトリステインにおける魔法学を修めた知識人でもある。その彼にしてこのような現象は始めて見る物だ。それは彼の経験のみではなく、趣味である歴史書にさえ現れたことが無いものである。
興味深い。だが今は後だ。先ずはルイズを探し出し、この城を脱出するのだ。
ワルドは、上着の内ポケットに入れておいた残りの魔法薬のビンをぐいっと傾けた。また少し精神力が湧いてくるのを感じる。

(麻薬の一歩手前だな。これきりにしときたいところだ)

そして杖を手に「デティクト・マジック」を全方向へ展開した。

(くそ、耳さえまともなら、こんな精神力を食う手段に頼らなくともすんだのに)

城の中は薄暗く、明り取りの窓から差し込む光も頼りないものだ。今まで朝日が差し込む大きなステンドグラスのある礼拝堂にいたせいで、目が慣れるまでしばし時間がかかる。
また、風メイジにとって、ある意味視力より重要な感覚である聴力が先ほどから回復しない。普通程度に落ちただけではあるが、重大な欠落であった。

「ジャン!」

怒りの声がすぐ近くから聞こえた。

「何!」

“どん” “ばん” “がりん”

振り向いたワルドの頬に、衝撃と灼熱の痛みが襲った。



第二十九話 領域


「やあ、ご主人様。ちょっと失礼」

そう言って、シンジはルイズの顎をくいっと持ち上げたのだ。そうして、爽やかな笑顔のままその顔を近づけてきた。そんな能天気な笑顔を見て、いいかげん心のテンパリ具合も限界に近いルイズの精神のどこかで、何かが切れる音がした。

「なにを!」

“どん”
床板も割れよ!と踏み込まれる震脚は、彼女の軽い体重を倍化する。

「生意気!」

“ぎゅるん”
振り上げられた腕は、不自然なまでにひねり上げられ、それは通常の倍の回転を生む。

「やって!」

縮めんと欲するならば先ずは伸ばせ。伸ばさんと欲するならば先ずは縮めよ!
肩、肘、手首と限界まですぼめられた様はむしろ滑稽に見えるほどだ。

「んだー!」

“ぶおん”
しかし、一旦運動を開始したソレは、撃ち出された砲弾のように、やや楕円の軌道を描きながら定められた目標地に高速で向かう。

「ゴルァ!」

“ばん”
インパクトの瞬間爪を立て、手首を思い切り捻る。
“がりん”
これにより「レビテーション」での逃げを許さない。

「へぶぁー!」

シンジ(の顔をした何者か)はその場で空中回転をしながら壁に向かいぶっ飛ばされた。
ルイズは驚いた。母から習った『コークスクリュー・ビンタ』の威力にではない。シンジのその軽さにだ。
まるで人形のようだ。





ワルドは痛みに疼く頬を押さえ、ルイズを睨みつける。いくら系統魔法が使えないとはいえワルドは職業軍人として訓練を受けてきた者だ、このくらいで怯むものではない。
おまけに、ルイズの後ろには「地下水」と、多分地下水が諦め切れなかったのだろう、シンジの姿に変化した「スキルニル」がいたのだ。片頬を上げにやっと笑う。

(裏切りの対価としては、まあ安いもんだな。そして君とその手紙があれば手柄としては上々)

「あー悪かったよルイズ。言い訳は後でゆっくりさせてもらうさ。そんなことよりももう時間が無い、一緒に逃げ出すぞ。ああ言っとくがウェールズ皇太子をはじめ君の仲間は全員無事だ」

そう言って、ワルドは「地下水」と目を合わせルイズに向かいアゴをひねる。だが地下水は動かない。
ルイズは無駄の無い、そして迷いの無い動作で杖をすらりと引き抜いた。それを見たワルドは抗議の声を“地下水”にあげた。

「おい、地下水!何をやってる!杖ぐらい取り上げとけ!」

ルイズの杖の先端は、まっすぐにワルドに向かう。
ワルドも反射的に杖(ワンド)を左手で引き抜き「エア・シールド」の呪文を紡いだ。

「ウル・カーノ!」

爆発!

ワルドの魔法結界は盾のように彼の前面に広がった。しかし風を固めることは無く、ルイズの爆発はワルドの杖と共にその左手を破壊した。
肉がそげ骨が露出し血が当たりに飛び散る。あまりの痛みにワルドの息が詰まる。

「―-ッ、地下水、何をしている!ルイズを押さえつけろ!」

後ろで控えていたメイドがついっと前に出る。

「あなたの言っている“地下水”とはコレの事かしら?」

右手でつまむ様に、一振りの短剣を取り出した。ワルドの眉が顰められ目つきが鋭くなった。
卓越した水メイジとばかり思っていた“地下水”がインテリジェンス・ナイフだったのだ。
しかも気絶しているのか何の反応も無い。ではこのメイドは操られていたのか?疼く左手を押さえるフリをして袖からナイフを取り出し、間を置かず投擲。
しかし、投げられたナイフはメイドに届く寸前で小さな光の波紋を作りむなしく床に落ちる。
だが、わずかな隙が出来た。その間に残った右手で軍杖剣をつかむ。抜く必要は無い、「レビテーション」を唱え、後ろに大きくジャンプし得体の知れない相手から距離をとる。
「フライ」ほどの高速移動は望めないが、壁をけり天井を床とするメイジの立体移動だ。
ルイズがあっと言う間も無く逃げ出した。
ルイズも慌てて杖を向けるが、狙いが定まる前にワルドは廊下の角に消える。

「追いかけるかい」
「それどころじゃ無いわ。トリステインの大使がよりにもよって皇太子に暗殺者を近づけたのよ」

ルイズは大慌てで扉から礼拝堂に飛び込んだ。

「みんなー!無事―!」

そこに見たのは同級生とウェールズ皇子の無事な姿、ルイズはとりあえずほっと胸をなでおろす。

「ギーシュ!」
「ルイズ!無事だったか」

ギーシュはルイズの後ろに控えるシンジの姿を見て、ほっと一安心する。

(間に合ったかシンジ)

ルイズは花嫁衣裳のまま、これだけはと手放さなかったアンリエッタの手紙を自分のポーチから取り出した。

「ギーシュ、お願い!これを姫様に」
「なぜ僕が?大使は君だろう」

ルイズはそれに答えることは無く、手紙をギーシュに押し付けた。そしてウェールズに向かい膝をついた。

「皇太子殿下。此度のことはすべて大使たる私の不手際。なにとぞこのわたしめの命一つでご勘弁願えますようお願い申し上げます」

ギーシュはアッと声をあげた。
ウェールズは困ったように頬を掻き、口をへの字に曲げる。

「あー、君を断罪しようにも、後ろに立つ君の使い魔君が黙ってはいまい。こちらもそうそう暇も余裕も無くてね。……ワルドはどうしたね?見た感じすれ違ったはずだが」
「申し訳ありません、左手を吹き飛ばしてやりましたが逃げられました。そして彼には一切手出しをさせないよう約束をいたします」

それを聞き、一瞬きょとんとするが、すぐに堪えられぬように笑い出した。

「もうよい。さっきも言ったとおり謝罪も賠償も不要だ。裏切りも暗殺もよくあることで、ことここにいたっては君の罪を問うなどは害悪にしかならない。……私はもう行かねばならぬ最後の戦いへと」

ウェールズはルイズの肩を叩いた。

「君は正直で真っ直ぐな女の子だな。だが一つ忠告しておくと、そのように真っ直ぐなだけでは大使も宮廷務めも勤まらぬよ。しっかりしたまえ」

ルイズは下唇をかんで俯いている。ギーシュは大きく安堵の息を吐き出した。
ウェールズは爽やかな笑顔を作り、ドアに向かった。出る寸前に後ろを向いて言い放つ。

「諸君らもとっとと逃げたまえ。王国最後の客の安全を保障できなくて、まことに申し訳ないが……」

ドアが勢いよく開かれた。飛び込んできたのは城の歳若い兵士の一人だった。

「皇太子殿下!皇太子殿下はいずこ!」

キュルケ達全員が目を見開いてその兵士の左後方を指差した。

「あっ?」

兵士は恐る恐る、指された指先を追いかける。

「あたー!」
「ででで、殿下まことにご無礼を……」

ドアと壁にはさまれ、頭を酷くぶつけた皇太子がそこにいた。

「あはっ、あははははははははは!ドジねえ」

キュルケが声をあげて笑った。ギーシュとモンモランシーは、歯を食いしばり笑いを堪えている。
一人タバサが眉をひそめウェールズに近づき、耳元でささやいた。

「殿下、もしや耳の調子が……」
「う、うむ。なに少しカスが溜まっておるだけだ。これこの通りなんの問題も無い」

そう言って、元気に跳ね起きる。若い兵士は慌ててウェールズの手を取った。

「も、申し訳ありませんウェールズ殿下。ですが、大変なのです。どうか地下港まで来てください」

その慌てた物言いに、ウェールズは眉をひそめる。

「何事か、もしや先ほどの爆発音が何か関係しているのか?」
「分かりません、敵の攻撃なのか、何か他の要因があるのか。ともかく来てください。私ではうまく説明出来そうにありません」

そう言ってウェールズを引っ張っていった。

「さて、ご主人様。良ければそろそろこちらに付き合ってもらいたいのだが?」

それまで黙っていたシンジが口を開く。

「まてまてシンジ、脱出を考えなくちゃいけない。ここにいてくれ。タバサ、シルフィードを呼んでくれ。僕もヴェルダンデを呼ぶから」

「感覚共有」の応用で「呼び出し」を行う。だがギーシュの感覚は繋がらず、慌ててタバサを見るがこちらも杖を持ち集中しているが頭を振り「繋がらない」とぽつりと言った。

「ミス・ルイズ早くしてくれ。間に合わなくなる!」

みんなはギョっとしてシンジを見る。いつもどこか自信なさげにルイズの後ろを歩き、それでも使い魔のルーンの効能なのか彼女の命令には忠実だった彼がこのような物言いをするなんて。

「どうしちゃったの彼?」

だがルイズはキュルケの疑問には答えず。

「ギーシュ、大使の役目をあなたに譲渡する。モンモランシー。譲渡の承認とその証人になって」

ルイズが杖を取り出し、ギーシュとモンモランシーにもそれを促した。

「なにを言ってるんだルイズ。殿下はお許しくださったじゃ無いか。せめて訳を言ってくれ」
「ごめんなさい。そんな暇は無いの。早く杖を、そして脱出して姫様にその手紙を渡して」

痺れを切らしたルイズは、ギーシュの胸ポケットに刺さっている薔薇の造花に自分の杖の持ち手側を触れさせた。略式で一方的はあるが役目の委譲式はこれで済んだわけである。だが、そんな儀礼で納得出来ようはずも無い。

「待てつってんだ!」

声を荒げルイズに責め寄ろうとするギーシュ。だがすでにルイズは背中を向けシンジと共に歩み去ろうとしていた。その肩に手をかけようとした時、一緒にいたメイドがルイズとの間に割り込んだ。

「どけ!」

かまわずにそのメイドを払おうとするが、見えない壁がギーシュを阻んだ。

「シンジのシールド魔法!……何者だ?!」

ギーシュの疑問にメイドが答えようとする。

「彼のア、アガー……なんだっけ?」

彼女の物忘れにはシンジが答えた。

「アガシオン(霊的な使い魔)、意味を考えると訂正を要求したいところだよ」
「「「アガシオン?」」」

☆☆☆

今日のアルビオンはおおむね晴れといって良い天気であるが、雲が全然無いわけではない。いくつかのはぐれ雲が結集し、不自然にニューカッスル城の上空に集まってきている。あまりにもあからさまなその現象は、城の兵士たちになにか違う罠を警戒させるほどのものだ。だが、敵の空軍船は慎重にこちらの大砲の射程外、そのはるか外を回るようにニューカッスル城の上空を取り囲んでいる。

「敵は行動を開始しました。雲より現れた空軍艦二十、すべてイーグル型で竜母艦なし。現在はニューカッスル城をとり囲み、等間隔で周りを回遊しています。距離はおおよそ二リーグほど。
……第四尖塔より出現した赤い十字の塔は頭頂部より樹の根のようなものを生やし、また十字の中央部では奇妙なふくらみを確認しています。十字の塔から出現したと思われる白い螺旋状の雲も城壁のほぼ真上で回転中です」

幾人かの兵が使い魔の目を、あるいは遠見の鏡を通して城の周囲を警戒している。
敵はほぼ空軍艦のみ二十隻、敵の傭兵、兵士たち五万は城の手前二リーグほどから近づいてすらこない。

☆☆☆

「やはり、もう少し近づかなければ餌に食いついてこないか」
「ここがギリギリですよ。上層部のほうで考えた水メイジ風メイジ合同による水流シールドでも、どこまで持つかはわかりません。おまけに昨日は見えなかった奇妙な塔も立ってるし。アレは彼等の魔法発動のための魔導体(杖)でしょうか?」

ここは、「ニューカッスル」城を取り囲む空軍艦、そのとある一隻の甲板上である。
話をしているのは初老の豊かにヒゲを蓄えた船長と若い甲板長のようだ。

「わからんな。まあ、空軍司令長官殿がどのような判断を下すかだが。いっそのこと……」
「短気はいけませんよ。先日のあの魔法を見たでしょう。確かにすごい魔法でしたけどスキも大きい。準備に時間もかかるだろうし、単発で”おこり“もわかりましたからね。結局は個人の魔法ってことですよ。そして、そんなものでは訓練された軍隊には敵わない。個人の武勇や技量なんてものはあんまり意味を成さない時代ですよ」
「わが「レキシントン」は潰されたが?」

艦長は、このいかにも“わかっています”風な物言いに軽い反発を覚え、これまた軽い反論をした。

「アレは油断しすぎです。『ヘキサゴン・スペル』は『ドット』か、せいぜいが『ライン』の攻撃魔法を拡大、強力にして打ち出す類のものだと思ってましたからね。まさか『ライトニング』なんて高位の魔法を強力にして打ち出すなぞ想像しませんでした」

甲板長は肩をすくめそう言った。

「まあ、アレはちょっと予想外だったな。だがおかげでこの馬鹿みたいな内戦も終わりに出来そうだ」
「あちらの『ブリューナク』に対抗できる。というか、メイジだ魔法だが関係の無い一撃ですからね。ああ、二撃でしたか?」
「だがもしそれを防がれたら?」

それを聞き、甲板長はクスっと笑った。これは反論の為の反論で意味を成さないものだとわかっているのだ。

「王と王党派は、悪魔に魂を売った咎で異端審問にかけられるでしょうね」

これを聞いた艦長は、あごひげを少し持ち上げて笑った。結局、船長もこの男もこれから行われる作戦が、防ぎようのない一撃であるとの認識は変わらないのだ。
これが終われば、王党派そのものはともかくとして、その拠点としての城をすべて失うことになる。

「確かに。『ブリューナク(太陽神の槍)』に対抗できそうなのは、かの『トール・ハンマー(雷神の槌)』ぐらいですね。穴を開けられようが、なんなら真っぷたつにされようが関係のない大槌ですよ」
「しょせんメイジなど……」
「『二本足の豚に過ぎない』……歴史上最後の韻竜。ガリアの“暴君”ウェフダーが残した言葉でしたか?」
「ほう、よく知っているな」
「その暴君も、訓練された人間と大砲をつんだ空軍艦。いや軍隊には敵わなかった。ほぼ最初期のものであるにもかかわらず。
歴史上における最強の生き物は、結局のところ、よく訓練された軍隊。つまりは人間ですよ」
「その最強の生き物も頭しだいだがな」
「こういっちゃなんですが、私はかのサー・ジョンストン空軍指令を信頼しておりますよ」
「ほほう、それはまた。かの人はあまりいい噂は聞こえてこんがね」
「小心で計算高くて小狡いって噂ですね。ですが兵士にとっちゃ多大な犠牲の上に栄光をもぎ取る名将よりも、損得勘定が得意で危険なときには逃げ出してくれる臆病で平凡な凡将のほうがありがたいですからね」

甲板上で操舵輪をつかみ甲板長と会話中の船長を見つけ通信兵が走って近づいてきた。
ふたりの上司の前に立ち、直立、敬礼の後、報告を始めた。

「報告します。状況開始の指令あり。敵、いまだ動きなし。ゴーレム船を盾に徐々に近づけよとの事です」

それを聞き、ふたりは顔を見合わせ口をへの字に曲げた。だがすぐに居を正し同じく敬礼を返す。

「了解した。状況を開始する」

そういうと船長は、船内のメイジ兵に命令を下した。


☆☆☆

ニューカッスル城を睨む傭兵たちの潜む森の中、待機が続き彼等もいささかダレが来ている。
そんな中、とある傭兵団の一角で、

「だんちょー、まあーだ待機っすか」
「うっせーよバイド!今えらいさんが、あのでっけえ壁を壊してくれっからそれまでまってろ」
「バイドじゃなくって、あーもうなんでもいいっすけどね。しっかし、すげーなあ。船がほんとに飛んでら、さっすがファンタジー」
「ふぁんたじー?おめの言うことはときどきわっかんねーな。まっ、やるコトやってくれたらこっちは文句ねえけどよ」
「へへっ、サーセン!」
「それが、おめえの国言葉で感謝と謝罪の言葉ってのは前に聞いたが、なんかむかつくんだよな。出来ればやめろや」
「うぃっす、サー……すいません」
「まあいいけどよ。しかし昨日今日に限ってついてくるなんてどんな風の吹き回しだ。馬鹿っ強ぇーくせに戦場が怖いとかいってぜんぜん来なかったくせによ」
「やー、なんちゅうか。呼ばれた気がしたもんで」
「呼ばれたぁー、誰によ?」
「やー、わかんないっす。んでもおかげですごいもんがみれたっすよ。あれが“王様の魔法”ってやつなんすね」
「あーんなトンデモは俺も始めてだけどよ。まあいいけど、怪我とかしてくれんなよ。おめは他の馬鹿共と違ってうちの大事な金勘定係だがんな」
「……だんちょ―も四則計算ぐらい覚えましょうよ。九九を覚えればスグッすよ」
「んんー、まあやめとくわ。金数えんのは楽しいけどよ、数字見てると頭痛くなるんだわ。他のヤツも似たよーなもんだ。ほんとなら突撃隊長にしてーんだけどな」
「やー、人殺しとか出来そうに無いですし。ま、今までどおり会計役あたりが俺の似合いっすね」
「ちゃー、もったいねえ。ほんと、もったいねえなぁ」
「へへっ、すいません。それよっか、なんか始まったみたいっすよ。二重隊列でちょっとずつ近づいてます」

それを聞き、その傭兵団の長らしき男はやれやれと降ろしていていた腰をガチャリと上げた。それに呼応するように森の一角がざわめき他の傭兵たちも一斉に立ち上がる。さらにはその動きに合わせるように他の傭兵団の男達も、次々にその鎧を鳴らし立ち上がる。森全体がざわめき小さな地震を起こした。
無駄口は誰もきかない、手に手に自慢の武器武器武器。あるものは担ぎ、またあるものは握りを確かめるように、太く恐ろしげな傷だらけの腕でその柄を握ったり開いたりしていた。
また、数は少ないものの傭兵メイジもいた。彼等もまたその手に小杖(ワンド)大杖(スタッフ)を握り締める。
集まった傭兵、実に五万人。冗談のようなその人数がニューカッスル城を睨んでいる。

今までその傭兵団の長と話していた少年らしい顔立ちの黒髪の男は、ニューカッスル城の方角に顔を向け、誰にも言うでもなくつぶやいた。

「イッツ ショウタイム。ってか」

☆☆☆


くるくると城の周りを回遊していた空軍艦は、その半数ほどが回遊の輪を離れ内側を回り始めた。
今まで一重だった艦隊隊列を二重にしたのだ。明らかに先日の「ブリューナク」を警戒したものだった。
その内側を回る空軍艦はすべて無人艦で構成されている。
無人の空軍艦はそのわき腹より、すべての砲台を晒し城に向けた。空軍船に装備された大砲としてはいまだ射程外の距離だが、そのすべてを操るのは土メイジの作り出したゴーレムである。
人と違い、細かい操作は難しく、また遠くはなれた別の船から操っている為、決められた動作を手探り感覚と「偏在」の目で行っている。
ちなみに空軍艦に標準装備されている大砲の射程は、対地で一リーグほど、対空軍艦で三~四百メイルほどである。

「二番と十五番砲身がずれてるぞ。大雑把に城の方に向いてればいいんだ、せめて砲門から砲頭をだせ」
「サー、右ですか左ですか?」
「二番も十五番も約二十サント左だ」
「サー、こんどはどうです?」
「よし!固定位置。隊長、一番から二十二番まで足並み揃いました」
「ご苦労、発射準備に移行」
「発射準備に移行します。火メイジの火炎獣実体化、すべて定位置です」
「了解、無人空軍艦攻撃準備よし何事もなければ、五百メイル位置で発射予定。そのまま待機せよ」

即席ではあるが急遽仕立てられた無人の空軍艦は内部に数十体の土ゴーレム、二体の「偏在」(ライン・メイジ作成の簡易版)そして火メイジの偏在ともいえる『火炎獣』を乗せ航行中だ。
焼き討ち船とし、ぶつけた方が早いという意見も出たが、王の「ブリューナク」の威力がはっきりとわかっていないこと、操作する為の有人船を守る盾とする事の二つの理由で却下となった。

二重隊列で「ニューカッスル城」を取り囲み、包囲の輪が縮まっていく。
それが起きたのは、内側を回る無人艦が城まで一リーグを切った辺りだった。
城の外壁を取りまき、渦を巻くように回転する白い雲、その一部が千切れるように別れ一本の紐となって城の上空に集まってきた。


「何事でしょう?」
「わからん。『ライトニング』では無いのかもな。作戦を変え『トルネード』か特大の『エアハンマー』にでも変更してきたか?」
「空軍艦に『風魔法』など、無意味ですよ。よほどでなければね」
「そのよっぽどな威力かも知れんぞ。まあなんであれ、最初の一撃を受けるのが我々の役目だ。君も対衝撃にそなえよ」

のんびりした会話のようだが、心の中は緊張している。船員たちや船内のメイジ兵にはすでに命令を下したあとだ。
甲板長はすでに船の大きな柱につないだ紐を自分に結び付けている。
船長は舵輪(船の操舵装置・ヘルム)を掴みながら同じく腕に巻きつけてある紐に結びつけた杖(ワンド)を握った。
各空軍艦に乗る水メイジ達は、それぞれ命令を受けて『コンセディション』(空中の水を集める魔法)を紡ぎ空中の水を集めていく。上空の雲は効率を上げる為風メイジが引っ張ってきたものだ。
『ウォーターシールド』を厚めにかけることで『ライトニング』を散らす。さらに風メイジの協力で川のように「ウォーターシールド」を船の周りに高速でめぐらせる。それにより熱、電気(らいき)を遮断するのが上層部の考えた「水流シールド」であった。
一応、計算上では風スクエアの『ライトニング』だろうと、『カッタートルネード』であろうと遮断する」はずである。

城の中央に集まったその白い紐状の雲はパキパキとガラスか薄い氷の割れるような音を立て、自らを形作っていく。
それは縦横十メイルほどのブルークリスタル。巨大なる塊。そして美しき正八面体だった。







「魔法力発現感知!」「一番から十一番まで随時発射、打ち終わったらゴーレム船の陰に隠れろ」

通信兵の報告と同時に、すぐさま命令を下す。
二十隻の砲門から、直径にして十五サントほどの砲弾が雨あられと打ち込まれた。
雷鳴が響き渡り、硝煙が辺りに立ちこめ船の視界をわずかに奪う。だが船の周りを川のように回る大量の水とそれを補佐する風メイジの魔法がそれらを一瞬で切り払う。

「駄目です。魔法力増大、『ヘキサゴン・スペル』実体化!」
「打て!撃て!打て!全弾打ちつくせ!全船上昇離脱急げ!」

次の瞬間、青白く真っ直ぐな光が空軍艦の円周起動上に現れた。真っ直ぐに伸びた真昼の雷(ライトニング)。
一瞬で到達する光の刃は、一隻のゴーレム船に穴を開けそのまま横に蹂躙していった。上下に別れる空軍船、それははまるで空船が紙で出来ているかのような光景だ。光の刃は横なぎにはらわれ、すべての空軍船(ゴーレム船)を蹂躙していく。
だが『ブリューナク』が一本線である以上、その外側を回る船には当てづらい。何隻かの操作船は逃げそこね、その光を受けたが、熱した鉄を水に投げ込んだような音はしたものの、何とか被害らしい被害は受けなかった。

「よし、想定内だ!ゴーレム船に残りの砲弾を発射させつつ前進させよ!操作船はゴーレム船の陰に隠れつつ後退。トール・ハンマー作戦決行!」






雲に隠れた「ニューカッスル」城の遥か上空では、十数隻の「竜母艦」と呼ばれる大きな艦が“それ”を運んできていた。
それは木製ではあるが、巨大なずんぐりとした戦場槌(ウォーハンマー)。
その先端には大きな、いや全体としてみれば冗談のように小さな鏃(やじり)を取り付けてある。
よく見ればそれは鏃(やじり)ではなく、女性の上半身をかたどった彫刻像であることがわかる。
それは、船の航海の安全を祈ってつけられる船首像(フィギュア・ヘッド)。
この空を飛ぶ超巨大な戦場槌(ウォーハンマー)は先日半分にへし折られた「レキシントン」号、その前半分を持ってきたものだ。
その内部には、通常の倍のバラスト石と火薬樽、そして固定をしていない無造作に天井に置かれた風石がある。半分に切り取られた断面は突貫で板を貼り付けてあったがそれも下半分だけで上部はむき出しのままだった。

その巨大な戦場槌を竜母艦に繋がれた何十本ものロープが空中に浮かべていた。それを先端より紐解いていく。一本解くたび、斜めに傾いていく「レキシントン」号。そのたび内部の固定されていない風石の台座は、ずれてずれて船尾へと向かい、開いた船尾より外に投げ出されていく。

急げ、急げ、傾き角は限界だ。早く早く解かなければ、まろび転がり船の外に追い出される風石とは逆に、落ちていく「レキシントン」に引っ張られ、共にに「ニューカッスル」城の瓦礫のひとつになる羽目になる。

そして最後の一本が断ち切られ、「レキシントン」は「ニューカッスル」城に向かう遥か天空よりの一本のナイフと成り果てた。





「くそ」

奇妙に体が重い、ワルドは無人の「ニューカッスル」城を外へと向かいさまよっていた。
左手の傷口には魔法薬をぶっかけてある。メイジの使う魔法薬には大抵「水精霊の涙」が使われている為、物にもよるが大概はキズ薬としての効能がある。そしてそこに引きちぎったマントをまきつけてあるのだ。
出口が見えたところで口笛を吹き『バルバリシア』を呼んだ。望んだことは何一つかなえられず、残された選択肢は脱出する事だけだ。逃げ出すことを優先したためキズを放置した。そのためいささか血を流しすぎたようだ。
ふらつく体を気合で立て直す。

「遅いな」

扉から顔を出し、ふっと上空を見上げる。
そこに降ってくる「絶望」を見つけてしまった。
おそらく内部には火薬が満載しているだろう。ここに墜ちてくるまで5~6秒といったところだろうか?
我知らず、胸に下がるロケットペンダントを握り閉めた。

「ごめんよ……母さん」









そして「夜」が訪れる。




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