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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第二十八話 対決
Name: エンキドゥ◆197de115 ID:130becec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/10 05:26

「ブレイド」は、コモン・マジックではなく系統魔法だ。狭く細く硬く杖の周りや先端に魔法結界を作り出し、最後に心力を注ぎこまないだけだ。メイジの接近戦用魔法としてはポピュラーであり、「ドット」以上であれば、「ブレイド」を維持したまま様々な魔法効果をその杖先に現すことも可能である。
無論、魔法結界を内側に作ることで効率は悪くなるが。


ワルドの杖(ワンド)に発現する「ブレイド」とそこに展開される高速の風が、ウェールズの胸部に延びる。対して、ウェールズは先端に大きな魔宝珠と呼ばれる魔法を補佐する石を付けた杖を、やっと胸元に掲げただけだ。
呪文の詠唱から始まる魔法展開までのスピードは熟練したメイジでも1秒はかかる。
この先端の宝玉はそれ自体には、たいした硬度があるわけではなく、スクエアクラスの「ブレイド」の前にはたやすく砕け散るであろう。もちろんうまく当たったとしてだ。
ウェールズの思考が加速する。

(青い先端) (ブレイド) (敵) (裏切り) (急げ) (魔法を) (どんな?) (防げ) (早い) (間に合わない) (王国) (父) (戦い) (急げ)  (私を) (痛い) (えぐって) (回避) (早い) (無理) (拒絶) (死 ……)

“ぱきん“ 

ガラスが割れたような音と共にウェールズは吹っ飛ばされ、彼のうしろにあった始祖像にぶち当たる。
あまりの展開に、呆然としたのはそこにいる全員だ。 

「「「なっ」」」

ワルドも含めて。

一拍遅れて、ルイズの悲鳴が響き渡った。


第二十八話 対決


「ブレイド」は貫く、あるいは切り裂く魔法であって、このような近距離で突かれた場合、防ぐ手段はほぼ無いといっていい。
ウェールズの着ている服も、固定化のかかった皮製ではあるが、突かれる「ブレイド」を防ぐほどの強度は無い。一秒前のワルドの想像した未来は、何も出来ずに自分の杖先に貫かれるウェールズだった。
一瞬、あせって、魔法詠唱を間違えたのかと思ったが、ワルドのメイジとしての感覚はその手に『ブレイド』の発現を知覚させた。
ウェールズを吹っ飛ばしたといっても、あの程度の衝撃では怪我一つしていないであろう。
事実、彼はすぐに起き上がり怒りでワルドを見据えていた。

「貴様!レコン・キスタ!」

そのような、怒りの声には一切応えることは無く、ワルドは杖(ワンド)を腰の杖剣に持ち替えた。

(クソッ、なんだ今のは!)

手の感覚が彼に教えてきたのは、硬いガラスのような何か。 
常識で考えれば、それはウェールズの魔法だ。「王家のトライアングル」には、まだ隠された何かがあるのだろうか?

(落ち着け)

相手がどんな凄まじい魔法を使おうが、とてつもない精神力を誇ろうが、詠唱の暇も与えなければ良いだけの話だ。また威力の大きな魔法は詠唱の後の展開も時間がかかる。
油断させ、接近しての不意打ち、単純だが効果の高い手段だ。
一撃でしとめられなかったのは痛いが、ウェールズの体勢を崩すのには成功した。
であれば、二撃目、三撃目を叩き込むだけだ。ウェールズが何をしたかなど、死体にしてからゆっくり考察すればいいだけの話だ。

瞬間、ひどい揺れがその部屋を襲う。遠くでの破砕音と共に。だが、軍と魔法衛士隊で鍛えられたワルドの体勢を崩すほどのものではない。
地下水が城の火薬庫に火をつける手はずになっている。少し時間は早いがおそらくはそれだろう。続いて扉が勢い良く開かれ、入ってきたのはワルドの偏在だった。偏在は、ワルドのうしろで杖を構え、ブルブル震えていたルイズを杖ごと弾き飛ばした。

「あうっ!」

魔法ではなく、体当たりで飛ばされ床に転がされるルイズ。落とした杖は偏在に拾われてしまった。ルイズ本人もワルドの偏在に後ろから抱きすくめられ身動きが取れない。

「すまないルイズ!だが、少し大人しくしていてくれ」
「隊長!いや、ワルド!あなたは!」

いきなり、うしろに弾き飛ばされたウェールズとそれに続く爆発であっけに取られていたギーシュだったが、事ここに至りやっと状況を把握する。
杖を構え、腰に下げた皮袋を開き、二サントほどの鉄球をざらりと取り出した。それを体の回りに浮かせる。屋内における土メイジの武器の一つだ。
ルイズを拘束していた偏在が三人に分裂し、内二人がギーシュ達に向かった。
他の皆もそれぞれに水を、火を、氷柱を纏わせワルドの偏在に対抗しようとしていた。

彼等に対し、偏在は「ウインド」を吹き付けただけだ。だがそれはスクエアクラスの「ウインド」だ。
まるで津波のような、猛烈な風が彼等を襲いギーシュはおろか他の女性三人も吹き飛ばした。固定されていない長椅子と共に。
元々が対ガンダールヴ戦用にと、作りこんだ「三つがさね」だ。彼等程度では対抗するのは難しいだろう。

「すまないが、遠慮をしない様に命令してある。こちらの用事が済むまでがんばって逃げ回りたまえ」

後ろも向かずに、ワルド本体がそう告げてきた。実は嘘だ。学生達の相手をしている偏在には殺さぬよう指令を出してある。彼等はみな外国の有力な貴族の子息だ。どうにかして生かして捕えたい。
だが、ギーシュにすれば冗談ではない、スクエアクラスが作り上げた「偏在」から逃げるなどそう簡単に出来るものか。
おまけに逃げ出そうにも、扉には「ロック」の魔法。外に向かう壁の天井に近いところに設えてある派手なステンドグラスには堅固な「固定化」の魔法がかけられ下手な魔法ではビクともしないだろう。壁や床は言わずもがな。
何より、キュルケ、タバサ、モンモランシーはたまたまくっついて来ただけだが、ギーシュはルイズの護衛として名乗りを上げここにいるのだ。王女殿下の使命も果たせず大使も守れずでは仮に生き延びてもハルケギニア大陸のどこにも彼の身の置き場は無いであろう。

(シンジは何をやってるんだ!!)

いまだ、彼の現状を知らず。心の中でそう呻いた。



さて、ワルドはワルドでそう楽ではない。先ほどから杖剣に纏わせた「エアニードル」を何発か打ち込むも、ウェールズに転がるように避けられ「ブレイド」の呪文を唱えられてしまう。
魔法力の発現がその杖先に現れる。その杖自体も何らかの魔法がかかっているのであろうか、柄が延びて両手で掴みやすく変化していた。
ワルドの「ブレイド」をエペ(細剣)とするなら、ウェールズのそれは……うまいたとえが見つからない、見たままなら青白い光で形作られた長さ二メイルほどの丸太だ。太さはその持ち手の二の腕ほどもある。おまけに「ブレイド」には杖以上の重さが存在しない為、それを片手で小枝のように振り回すことも可能なのだ。ちなみに「ブレイド」は魔法の発現のみならば人を傷つけることは無い。そこにまとわせる高速の風や水、そして炎や土が刃となり敵を撃つのだ。
跳ねるように、後ろに下がり体勢を整えるウェールズ。大きく息をつき、今や敵となったワルドを睨みつける。

「さて、子爵殿。よくもやってくれたな。それでは空賊流をお見せしよう」

指先で器用に杖を振り回し、触れるものみな切り刻むウェールズの「ブレイド」さばきは、剣の腕の巧拙を問題にしない。強大な精神力を背景にした、まさしく強引な空賊のそれであった。

「くっ」

対して、ワルドのそれは、人間は正中線のどこかに穴を開けられたら死ぬ、というごく当たり前の理屈で、極力無駄を廃した突きを主体にしたものだ。「ブレイド」そのものの特性を生かし、彼も一メイルほどの杖剣の先端よりさらに五十サントほども青白い光を引き伸ばす。あまりに長くしてもエアニードルの射出がぶれる為、その長さが最良であると信じていた。
体重差も、リーチの違いも問題にならぬ、風を極めたメイジ同士の、そして観客がいれば、喝采間違い無しの戯画の決闘だった。

ワルド本体はウェールズと対峙し、その偏在はギーシュ達を睨む。
状況はけしてワルドに有利ではない。

「ルイズ、聞いてくれ。僕は確かに「レコン・キスタ」の一員だが、君を騙したわけじゃ無い」

白い花嫁衣裳に身を包んだまま、あまりの展開に呆然としていたルイズだった。

「い、今更……」
「君には素晴らしい才能があるんだ。僕にはそれがわかる」
「わ、私は、そんな才能あるメイジじゃ無いわ……」

ウェールズが振り回す強大な「ブレイド」を寸前で見切りながら、ワルドの言葉は止まらない。

「馬鹿だな、君が呼び出した彼を思い出したまえ。偶然や奇跡で呼び出したわけじゃ無い。君の使い魔になるべき人間を君は呼び出したんだ。サモン・サーヴァントによってね」
「それが、どうしたって言うの!」
「まだ気が付かないか?!君の才能が使い魔とその召喚に集約されるなら、君はあと三人の使い魔となるべき人間を呼び出す可能性があるってことだ!っと」

ウェールズが、両手で軽々と振り回す「ブレイド」は数瞬前にワルドのいた空間を凪いでいき、そこにあった長椅子を粉砕する。派手な動きでスキがあるように見えるが、それはほぼ誘いだ。やすやすとつけこめる物ではない。ワルドも必殺の突きを何度も放っているが、ウェールズもそれを必死に回避、あるいは「ブレイド」で受け止めている。

「最強の使い魔が三人、それが君の力だ!空を自由に飛びたいか?『ヴィンダールヴ』が君の為、最速の風竜を操るだろう。『ガンダールヴ』が君の前に立ちふさがるすべての敵を粉砕し、君の前に道をあけるだろう。『ミュズニトニルン』は君にふりかかるすべての難問を解決するだろう。
僕に手を貸せルイズ!僕は君に女王の座を!ハルケギニア最大の王国を!!」
「い、いらない。そんなものは欲しくない。私にはシンジが、シンジだけで!どうか、どうか正気に戻ってワルド様!」

ルイズの必死の懇願にも耳を貸さず。ワルドは言葉を続ける。

「そして、最後の使い魔は僕だ。最後の『記すことさえはばかれる使い魔』こそは、エンキドゥ学派によればメイジであるとしている。
原初の力を持った最強のメイジ、愛によって選ばれるとされる最後の使い魔に僕を選べ、そして、二人で世界を手に入れるんだ!」
「黙れ、この誇大妄想狂が!!」

双方共に、「ブレイド」の光に風を纏わせ、ウェールズは凶悪な「エアカッター」を飛ばし、礼拝堂の精緻な芸術品をざくざくに切り裂いていく。
ワルドは精密な射撃で「エアニードル」を打ち出し、ウェールズのスキを狙う。共に遠慮も配慮も無い、戦闘に特化した風メイジ同士の戦いだった。

戦いは小康状態だ、ワルドとウェールズはまた、始祖ブリミル像のある説教台近くでにらみ合い、ギリギリと杖上の「ブレイド」同士で火花を散らしていた。

「ここまでやるとは思いませんでしたぞ。まさに空賊ですな。殿下!」
「まさに空賊なのだよ。子爵殿!」

数瞬のつばぜり合いの後、二人は、はっとして何も無いはずの壁を睨む。
それは、風メイジというだけでは説明のつかない、実戦を潜り抜けてきた戦闘者としての勘だった。ぞわぞわと背中を這い回るようないやな予感と共に二人はその壁から離れる方向に跳んだ。

二人が離れたその後、壁からは奇妙な乳白色の何かがその壁からにじんでくる。
無理やり例えるならそれは何重にも編んだ巨大な紐の一部だった。それはまるで巨大なローラーのように回転しながら壁から出てきたのだ。

「ああ、あ」

説教台の隅で偏在に拘束されていたルイズが、逃げる暇もなく、その白く巨大なローラーの一部に巻き込まれる。

「ル、ルイーズ!!」

ワルドの叫びも虚しく、ルイズはまるで水に沈むように白いローラーの向こうに消えた。
しかし彼女を心配している暇は、礼拝堂の誰にも無かった。
唯一の扉は説教台の近くで、すでにこの奇妙な白い巨大なローラーの向こうだ。奥へ奥へと逃れるほかは無い。『フライ』で上空に逃れようにも天井との隙間はわずかだ。それなりに大きな礼拝堂だったが天井はそれほど高いわけではない。ワルドとウェールズの戦いに巻き込まれ飛散した長椅子は次々と白いローラーに巻き込まれその向こうに消えていく。

ワルドは偏在を自分の前に立たせ、重ねていた偏在を解除、三体に分裂させ、さらに魔法式を変換『ウインドブレイク』でその白いものを吹っ飛ばそうと試みたが壁にぶち当たる瞬間その魔法体は分解してしまい、固めたはずの空気は空中に虚しく霧散した。
ウェールズも、その巨大な『ブレイド』の先に、これまた巨大な『トルネード』を生み出すがこちらも迫ってくる白いローラーになんの変化も与えない。
そして巨大な炎も、無数の氷柱も、鋭利な水の刃も、その表面を波立たせることさえ出来なかった。
そこにいたワルド、ウェールズ、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシーはすでに部屋の一番奥、ステンドグラスの下の壁に体をぴったり押し付けている。ステンドグラスの方を割ろうにもこちらも薄い鉄板のようなものだ。この中で唯一の土メイジ、ギーシュに余裕と時間と精神力があっても手のひらサイズの穴を開けるのが精一杯だろう。
そして、すでにそんなものは無い。

「ワルドォ!なんだぁ!アレはぁ!」
「知るかァ!!貴様らの魔法兵器じゃ無いのかぁ?!」
「あんな、面白びっくり兵器があったらとっくの昔につかっとるわぁ!!」
「この城の地下に眠っていた伝説のナントカとかじゃないのかー?!」
「伝説のナントカってなんだー?!この城は建ってから二百年も立っとらんわー!!」

「ひぃー!誰か、ナントカしてぇー!まだ死にたくなーい!!」
「ち、父上―!」
「まだ、結婚もしてないのにー!」
「いやー!お母様―!」


☆☆☆


“にゅるり”

実際に音がしたわけでは無い、それは肌の感覚だ。濃厚なクリーム状の何かに体が包まれたと思ったら、今度は体中にくもの巣がまとわりついたような不快感。だがそれもほんの数秒のこと。
別になんということも無く、白い物体はルイズの体を通り過ぎていった。
自分を拘束していた偏在はまだいたが、後ろが見えるほど透けていて、もはや拘束するほどの力は残っていないようだ。事実ルイズがうるさげに体をゆすっただけで、ほぼ魔法結界しか残っていなかったであろう偏在は空中に分解していった。
杖が落ちていた。先ほど偏在に取られたルイズの杖だ。それを拾いぎゅっと握った。特にキズも無く“契約”にも異常は無い。
ルイズにはそれが感覚でわかるのだ。もちろんメイジの誰であろうと。
周りを見渡せば、出てきた壁に穴が開いているわけでもなく、通り過ぎた跡の礼拝堂の長椅子が粉々につぶされているわけでもない。

「なんなのよ、アレは」

移動する白い円柱はすでに礼拝堂の一番奥、見事なステンドグラスのあるところまで差し掛かっており。この部屋にいた六人の様々な悲鳴が上がっていた。

気が付くと、ルイズの肩に手が置かれていた。振り向けば、そこにはどこかの部屋でワルドの偏在に刺され倒れていたはずのシンジがいた。ワルドの偏在が「ロック」したはずの扉は開かれ、その向こうにはメイドの姿が見えた。

「シン!……ジ?」

一瞬喜び、抱きつこうとしたルイズだったが、奇妙な違和感がある。顔のパーツ、背丈、髪の色、目の色、すべてルイズの記憶のままだ。服装はワルドが用意していた上下共に黒のスーツだった。背中には魔剣デルフリンガーを背負っている。いつものように鞘の鯉口をわずかに切っており、金具を元気にかちゃかちゃ動かしていた。なぜか何もしゃべらなかったが……。
シンジは、ニコニコしながらルイズを真正面から見ている。

「やあ、ご主人様。ちょっと失礼」

そう言って、右手でルイズの顎をクイッと持ち上げたのだ。


☆☆☆


「おーい、生きてる、かあ?」
「ひょっと、かららがひびれてるけろ、いきれるわ」(ちょっと、体が痺れてるけど、生きてるわ)
「ちょっと、耳がおかしい」
「なんらったのよぅ、あれはぁ」

巨大な、白いローラーは入ってきた時と同じく、唐突に出て行った。
礼拝堂を見渡せば、特に変わったことは無い。いや、細かく見ればいくつか変化はあったのだが、なにせスクエア・クラスの風メイジ二人が大暴れした後だ、どこがどう違うのか彼等にはわからなかった。
一つには、ウェールズの巨大な『エアカッター』にも、多少傷つきはしたものの、大きくは壊れなかった部屋の柱ごとに置かれた聖人達の立像がすべて消えていたこと。
もう一つは、

「危ない!避けろ!!」

その声は、なんとワルドのものだった。

「え」

強固な『固定化』が掛かってるはずのステンドグラスが粉々になって降り注いできた。何の魔法も唱える暇は無い。這って逃げ出した。降り注ぐガラス片、間一髪のところでみんなに怪我は無かった。

「おいっ!」

今度はウェールズだ。その手の杖は相変わらず巨大な『ブレイド』を纏っている。

「こっちにこい!決着をつけてやる!」

ワルドは片眉を上げる。

「御免をこうむるとしよう。今日はなんだか体調が良くなくてね」

そういって、隠し持った煙玉をウェールズと自分の間に投げた。
爆発音。
たちまちのうちに広がる煙。そして天井近くから声がしてきた。

「どのみちここには我が『レコン・キスタ』の大軍が押し寄せる。すぐに」

どの様に耳を澄ませてもそんな兆候一つ聞こえてはこない。だがおそらくは上空にて空軍艦が待機をしているのであろう。

「ウェールズ殿下、五万の兵と二十の空軍艦を相手に、もしも生き残るようなことがありましたら、“空賊流”とやらを私が粉砕いたしましょう。せいぜい踏ん張って人に言えないような不思議な理由で生き残ってください」

笑声、そして遠ざかる気配。

「く、くそぉ」

ギーシュは、石床を叩いて悔しがった。



「アレは……」

ここは「レコン・キスタ」の居城、対王党派「ニュー・カッスル城」への最前線基地である。
これが王党派との最後の戦いとあって、「レコン・キスタ」の幹部たちは皆「遠見の鏡」を食い入るように見ていた。
城に潜入した工作員との連絡もつかず、城に起こった爆発と、その後に出てきた巨大な十字架の正体もわからず、前線部隊と虎の子の「アルビオン空中艦隊」にどのような指示を出して良いのかわからない。

(まさかね、アレがこんなところに生えているわけがない)

そう考えたのは、レコン・キスタの総司令官オリヴァー・クロムウェルに、常に影のように付き従う女だった。
「遠見の鏡」は「ニュー・カッスル城」を遠景で映し出しているが、なぜか映りが悪くちらちらと映像が途切れがちだ。鏡に映る映像は、爆発の余波だろうか、城から噴出した煙というかリング状の雲を映し出していた。それは幾重にも螺旋を描き、いかにも自然の雲とは思えぬ形状だった。

「やはり、ライトニング・クラウド(雷雲)か!」
「史上最大レベルでしょうな、蓄えられた魔法力は考えるだに恐ろしい」
「精妙、精緻の極みでもある「王家の魔法」を威力のみに突出させるとあそこまでになるのか」
「中央の塔は、避雷針か?よく練りこまれた攻撃魔法だ」
「だが、正体がわかっていれば、対処もしやすい」
「我々の準備が無駄にならず、よかったというべきか」

ライトニングは杖の先から稲妻を飛ばす攻撃魔法である。高位の風呪文だがどこに飛んでいくかわからないので使いづらく撃った自分に飛んでくる場合もあるため、通常はライトニング・クラウド(雷雲)を使い攻撃する。だが、「遠見の鏡」に映るほど大きな「雷雲」では中にいるものも無事では済むまい。

「しかし、さすがアルビオン王家の切り札、もし残っていたら、あの塔を我々「レコン・キスタ」の勝利のモニュメントとして残しておきたいですな」
「それは、あまりに現場の苦労を知らぬセリフですぞ。勝って後、兜の緒を締めるようではないと。先日の二の舞は御免です」
「さよう、我々は、未だ勝ってはいない」

総司令官オリヴァー・クロムウェルは右手を上げ、そう宣言した後、命令を下した。

「その現場より、あらたな報告はなく、また出来るような状況ではないのであろう。敵の「ヘキサゴン・スペル」があのように発現してしまった以上、内部工作は失敗したと見るべきだ。……将軍」

将軍と呼ばれた男は、肩に乗る大きな鷹に聞かせるように命令を下した。

「はっ、……空軍司令長官に告げる。王党派はこちらの降伏勧告を無視し、「ヘキサゴン・スペル」の準備に取り掛かった。もはやぜひもなし、状況を開始したまえ」


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